武装神姫 -RESET-   作:信楽原鐵

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・この作品は「武装神姫」というコンテンツの二次創作作品です。

・筆者による独自の設定や設定の解釈が見られます。苦手な方は閲覧をご遠慮ください。


プロローグ
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 武装神姫。心と感情を備えた、全長十五センチのAI搭載式女性型アンドロイド。彼女たちは人間の補佐をするために生み出され、マスターである人間に仕える。マスターの為ならば、時には炊事洗濯をこなし、時には強固な武装を身にまとい戦場を駆ける。

 

 そんな彼女たちには、「リセット」という機能が存在する。

 

 神姫が現在に至るまで活動し蓄えた記憶や、積み重ねてきた経験値などを全て消去し、初期化する。それがリセットという機能の詳細だ。

 

 持ち主である人間……マスターの指一本で、神姫のメモリーは簡単に消去できる。感情を備え、自分で思考し、様々な経験を通して思い出を形作る。そんな存在が積み重ねてきた大切な記憶を、いともたやすく簡単に。

 

 記憶とは何か?その答えは人によって千差万別だろう。詩的な人間であれば「人の心」と答え、科学的な人間であれば「脳の神経細胞達によって行われる情報伝達活動」と答えるだろう。そして、私はこう考えている。

 

 記憶とは、すなわち「魂」であると。

 

 私の考える魂、それは「その人」が「その人」であることを証明する、個性、人格、経験を内包したもの。「魂」が消えてしまえば「その人」の存在は永遠に失われ、外見は同じでも全く別の「誰か」になる。

 

 私にとって「魂を消す」ことは、殺人に匹敵する行為であった。

 

 

 

 

                 ○

 

 

 

 

 厳冬の一月。夕方の五時。わたし、「種型ジュビジー」のメブキは、学校を終えて帰ってくるマスターのためにお夕飯の準備をしていた。その日の献立はぶりの照り焼きを主菜に、なめこの味噌汁、ほうれん草のお浸しなど、マスターの大好きな料理で占められていた。

 

「メブキー、ほうれん草の盛り付け終わったわよー」

 

 ぶりの煮えるフライパンを裏返したコップの上から睨みつけていると、武装状態のイブキちゃんが飛んできた。彼女はわたしと同じPlants Planet社製の「花型ジルダリア」という神姫である。

 

「ありがと、イブキちゃん!」

「どーいたしましてっと……で、後はぶりだっけ」

「うーんと……あともうちょっとで出来るから、イブキちゃんは休んでてください!」

「そう?そんじゃ遠慮なく……あーだる、やっぱ神姫が料理とかするもんじゃないわ~……」

 

 イブキちゃんは大きくため息をつくと、おじさんのように腰をぼりぼり掻きながら、居間に置いてある神姫用ソファーへと飛んでいった。彼女はちょっとマイペースな神姫だけど、何だかんだで料理を手伝ってくれたり、根はとっても優しい子なのです。

 

「さてと、そろそろかな~」

 

 イブキちゃんを見送ったわたしは、ぶりの煮え具合を再度確認する。いい感じに味も染みたはずなので、火を消してもよい頃合いだろう。

 

 わたしも武装を展開し、片足を軽く蹴り上げて空中へ飛び立つ。空を飛ぶだけなら背部武装の展開のみでも十分だけど「神姫にとって料理は魔物」という格言があるように、全長十五センチぽっちしかない神姫が料理をするには、様々な障害が立ちふさがるのだ。装備は万全でなくてはならない。

 

 燃え盛る炎、煮えたぎるお湯、重たい茶碗……それらを扱うには、細心の注意を払わなくてはいけないのである。下手をすれば、大事故にも繋がりかねない。

 

 故に、普段であれば調味料を取ってきたり、神姫にデフォルトで内蔵されたタイマー機能を使って湯で時間を測ったりと、料理のお手伝いという役割の範疇を逸脱することはない。マスターの「神姫だけで料理をするのは危ない」という心遣いを無視したくないからだ。

 

 でも、今日だけは特別だった。どうしてもわたし達だけで料理を準備したかった。だからマスターへ念入りにお願いをしてまで、料理へ挑んだのだ。

 

「よし……っと」

 

 ガスコンロの火を止め、忘れずにガスの元栓も閉じる。後はマスターが帰って来るのを待つばかりである。しかし、最後に「アレ」の確認もすることにした。

 

 元栓を後にして、今度は冷蔵庫へと飛んで行く。のっぺりとした白い巨壁の端っこを、両手でつかんで思い切り引っ張る。扉が開いた反動で吹っ飛びそうになるのをなんとかこらえ、冷気が漏れないように少しだけ隙間をあけて覗きこむ。

 

 缶ジュースや調味料等が雑多に詰められた棚の中で、ひときわ目立つ白くて大きい箱。その中には、この日のために用意した「アレ」が入っている。

 

 滑らかな生クリームに全身を包まれた純白の土台に、色とりどりのフルーツたちが登り、その瑞々しさを遺憾なくアピールしている。センターを飾る板チョコには「おたんじょうびおめでとう」とチョコペンで書かれた文字の下に、マスターの名前が入っている。

 

 わたしはこの「ケーキ」を眺める度に、頬が緩んで仕方なかった。

 

 そう、今日はマスターの誕生日。一年でたった一日だけの、特別な日。そんな大切な日をかけがえのない大切な人達と一緒にお祝いできる。わたしにとって、これ以上の幸せはなかった。

 

 神姫にとって危険な料理をわざわざ許可まで取ってまで決行したのは、そういう事情があったからだ。

 

 人間からすれば、なぜ神姫が身を挺して料理やバトルに挑むのか、なぜそこまでするのか、不思議がるかもしれない。でも、その動機は至ってシンプル。

 

「マスター、喜んでくれたらいいな……ふふっ」

 

 マスターの喜ぶ顔がみたい、神姫にはたったそれだけの理由で十分なのだ。

 

 

 

 一仕事終えてソファーに寝ころび、くつろぐ時間。これ以上に大事なことなどこの世に存在するのだろうかと、あたし……「花型ジルダリア」のイブキは思う。それも「料理」という大仕事を終えた後ならなおさらである。

 

 今回の「料理」では、あたしはほうれん草の煮浸しとなめこの味噌汁を担当した。青臭いホウレンソウや、ぬめつくなめこと格闘し続け、切り刻んだ奴らを鍋にぶち込む。そしたら次は暑苦しいお鍋とのにらめっこが始まるのだ。

 

 グラグラ煮える鬱陶しい鍋に絶妙に汚い色合いの合わせ味噌を溶かしこみ、ただひたすらなめこ共に火が通るのを待つ。あたしは神姫だから味噌汁なんて飲めやしないのに、一体なぜこんなことをしなければならないのか。

 

 ふざけんじゃねーっつの、やってられっかこんなこと。と普段なら速攻で投げ出しているところだが、今回はそういう訳にもいかなかった。

 

 何故なら今日はアイツ、マスターの誕生日。年に一度の大切な日ってやつだからだ。おかげでメブキは普段以上に張り切っていて……張り切るだけなら別にいいんだけど、所々危なっかしいから、あたしが付いてやらないと心配なのである。

 

 なんせ、あの子の努力は空回りしがちなのだ。マスターのために料理をすればほぼ確実に作り過ぎて、一週間毎晩カレーライスなんてこともしょっちゅう。一度掃除を始めれば、中々落ちない汚れに対して武装を持ち出して「これで削っちゃえば問題ないですよね!!!」とか目をグルグルさせながら言い出す始末。

 

 まあ、料理に関してはいっぱい食べて欲しいって気持ちも分かるけどさ、限度ってもんがあると思うのよ。それでもメブキの純粋なキラキラスマイルに心打たれ、週の後半には半泣きになりながらもカレーを消費しきったアイツの愉快な面を思い出す。

 

 いやー、はちきれそうな腹でほんとよく頑張ってたわ。あたしがアイツに始めて敬意を払った瞬間だったね、うん。

 

 まあそんなこんなで、現在は居間に設置された神姫用1/12ソファーにて、怠惰な時間を堪能しているという訳である。クソつまんないバラエティー番組を垂れ流しつつ、お気にのヂェリカンを流し込むという生産性皆無なこの瞬間こそ、あたしの幸福な余暇の過ごし方である。そもそも、プライベートな時間に生産性の追求なんてクソくらえよ。

 

 と、大好きなバニラ味ヂェリカンをグビグビやっていると、とうとう中身が切れてしまった。今夜はマスターが帰ってくるまでとことん楽しんでやろうと思ってたのに。

 

「しゃーない、取りに行きますか」

 

 重い腰を上げ、ヂェリカンの格納スペースに赴こうとしたその時、まるで示し合わせたかのように、突如1/12黒電話のけたたましいベルが大声でがなりたて始めた。

 

「ったく、何なのよもう……」

 

 うんざりした気分を一切隠さずに、不機嫌度マックスで受話器を乱暴に取る。電話の主は、どこか精悍な顔つきの女性を思わせる、若干高めではきはきした声をしていた。

 

「あ、もしもし。唐草さんのお宅でしょうか?」

「そうですけど、何か御用ですか?」

 

 まさかとは思うが、詐欺の電話という可能性も否定できない。最近物騒だしね。詐欺も多種多様化する時代なんだから。

 

「ええっ……と、唐草さんのご親族の方ですか?」

「いえ、あたしは唐草ほまれの神姫です」

「ああ、神姫の方でしたか。大変失礼いたしました」

 

 何なのコイツ……人に名前を尋ねるときは、まず自分から自己紹介するのが筋だと思うんだけど?一方的に質問されて、仕方なく答えたら勝手に納得されるとか、無性にイライラしてくるんですけど。

 

「唐突な話になりますが、落ち着いて聞いて下さい。申し遅れましたが、私は栄生病院で看護師を務めております、田井中と言う者です。貴女のマスターである唐草ほまれさんは、意識不明の状態で倒れているところを救助され、この栄生病院へ搬送されました」

 

「は?」

 

 いやあ、ここまで攻めた詐欺は流石のあたしでも初めてだわ。まさか栄生病院の名前を持ち出してくるなんてね。一体どこで調べて来たのやら、いい加減ちょっとストーカーじみてきて気色悪いなあ。

 

 ――というように、あたしはある種の「現実逃避」に入っていた。何故なら「栄生病院」はマスターが事あるごとに通い詰めていた行きつけの市民病院である。そして田井中という看護師の姿や声も、マスターの付き添いで病院へ訪れた際に確認していた。あたしの記憶が正しければ、確か受付業務をしていたはずである。

 

 田井中の名札を胸に付け、丸顔で、声が他の看護師より少し高い。電話越しで姿かたちが見えずとも、声や話し方が特徴的だったので、何となく思い出せた。

 

 つまり、この田井中という看護師の話は、全て事実である可能性が高い。あたしの胸中にじわじわと緊張感が広がってくる。しかし、ここで慌ててしまっては元も子もない。冷静に対処しなければ。

 

「……マスターの容体は?」

「特にこれといった外傷も見当たらず、いたって正常ですね。強いて挙げるとすれば、倒れた時についたであろうかすり傷や打撲でしょうか」

「そう、ですか」

 

 あーよかったよかった、ひとまず無事そうだ。あたしはほっと胸をなでおろし、大きく深呼吸をする。

 

 さて、マスターが無事だったのは幸いだが、問題なのはなぜ道端で倒れていたのかである。外傷がないなら、不審者に襲われたという可能性は低くなる。かといってアイツには突然気を失ってしまうような持病なんてないし、貧血気味でもなかった。何か引っかかる。もしや何か事件に巻き込まれたんじゃないでしょうね……。

 

 ……ま、いっか。そんなことウダウダ考えたって、なんの意味もない。第一、あたしは刑事でも探偵でもないんだから。餅は餅屋って言うし、そういうのは専門の人に任せよう。

 

 それに、あたしたちはマスターの様子を見にいかなければならない。病院のお世話になってしまったからには色々と手続きもしなきゃだし、マスターの親御さん達にも連絡を入れねばならない。

 

 とりあえず田井中って看護師にお願いして、一応あたしたちの面会許可を取っておいた。栄生市民病院の面会時間は確か午後八時までだったはずだから、武装状態でひとっ飛びすれば十分間に合うだろう。

 

「誕生会どころじゃないね、こりゃ」

 

 看護師との通話を切り、深いため息をつく。

 

 まいったなあ、メブキには何て説明すればいいんだろう。いきなり全部話しちゃうとパニックを起こすだろうし。特に事件性があるってとこは伏せた方がいい。もしかすると怒って、居るかどうかも分からない犯人捜しに乗り出すかもしれない。

 

「でも誤魔化しようがないよな~……」

 

 これから積み重なるであろう面倒事の数々に頭を抱えながら、まずは第一の関門、メブキへの状況説明に重い足取りで向かう。でもまあ、多分何とかなるでしょ。別にアイツが死んだ訳じゃないんだし。

 

「さてはて、どうなることやら」

 

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