寝て起きたらデスゲームに巻き込まれていたんだが。 作:リベリオン
だいぶ時間が跳んでいますが……その間に何が起きたのかは、隠れヘタレなミスト君から察してやってください(えー
ちなみに今回、原作よりもちょっとボスを強化してます。どのあたりが強化されたのかはミスト君が実証してくれます。背後攻撃が常に有効とは限らないというお手本に。今回ロクな目にあっていないような気がする……気のせいか。
第9話 最奥に潜む者
前回のあらすじ:
俺たち、付き合うことになりました。
2024年 10月18日 第74層カームデット。
「知り合いに合流するために最前線に来たら、なんかそわそわ落ち着かなさそうにしている怪しい集団を見かけたんだが」
「それって俺たちのことかよ!?」
お前ら以外誰がいる。見ろ、他のプレイヤー引いてるぞ。
「待ち合わせ相手じゃなかったら、例え知り合いでも見なかったことにしていた所だぞクライン」
「そう言うなよ……全員今日と言う日がどれだけ嬉しい事かっ……。まさか、女の子と一緒にパーティーが組めるなんてよぉ」
「ほ・ほーう。その彼氏の前で良くぞそんな台詞が言えたなオイ」
無表情のまま、クラインの腹を何度も盾の先で突く。圏内だから当然ダメージは無いが、静かな威圧は十分伝わっているらしい。
「じょじょじょ冗談だ冗談! ちょっと浮ついていただけだ。さあお前ら気合入れ直せ!」
「「「「「おーう!」」」」」
「……邪念が混じっているような気がしなくもないが、まあいいだろう」
女日照りしているこいつら風林火山には仕方ないか……と半分納得、半分同情の意味を込めて俺は嘆息する。
そもそも何故、風林火山の連中と待ち合わせていたのかというと、この頃2人で最前線に挑み続けるのはいささか厳しくなってきたと感じていて、クラインたちと組んで挑もうと言う話になったのだ。
「えっと、今日は皆さん、よろしくお願いします」
「はあ~……ひとまずよろしく頼む。あと、シリカに妙な事をしてみろ。俺が目を離していても最終防衛ラインのピナが容赦なく攻撃するからな」
『きゅいーっ!』
「へっ。隠れヘタレもちったぁマシになったみたいだな」
「誰が隠れヘタレだ誰が!」
「今更隠す事はないだろぉ? もうお前の知り合いには知れ渡ってるっつの」
「だ、誰が広めた……!」
「リズベット」
あいつかァーッ! 人が真面目に相談したのをからかうネタにしやがって!
バ、バカにするなよ……あれから俺だって少しは成長したんだ。具体的にはキスだってあれから何度か(片手で数えられる程度だけど)したし、同じベッドで寝たり(何もしてないからな!)、膝の上に座らせた(冗談で言ってみたんだけど)ことだってあるぞ! 参ったか!
「いや、適任っちゃ適任かもしれないけどよ、相手が悪かっただろ」
「仕方ないだろ……女友達って言えば2人しかいないんだから」
その女友達の片割れは忙しかった時期だから、必然的に危険度の高い方へ相談するしかなかったわけで。とは言え迂闊だったか……!
「リズめ……今度とっちめてやらねばなるまい……!」
「基本的にお前とリズベットは相性悪いと思うがなぁ。手を上げれば「ミストに傷物にされたー!」ってアスナさんに言って、【フラッシング・ペネトレイター】で突撃してくるとか」
ぐっ……その可能性もありえるから手を出しづらい。屈服するしかないのかよ……。
「こうなったら出てきた敵を片っ端から残らず殲滅撃滅撲滅してやる!」
「意気込むのはいいけど役割分担忘れるなよな。お前が最前衛で、シリカちゃんは側面からヒットアンドアウェイでHPの少ない敵のトドメを頼むわ」
「はいっ、がんばります!」
「まあ……何はともあれ、足手まといになるような真似はしないさ」
気を取り直して、真面目な態度で応じる。ここから先はふざけている余地なんてないだろう。
ある意味ここが正念場……今までで一番辛い戦いになるかもしれない。
「オオォッラァッ!!」
左腕の盾で3度殴りつけ、ガードを固めさせたところへ剣による水平4連撃ソードスキル【ホリゾンタル・スクエア】を繰り出す。
対峙する敵は《デモニッシュ・サーバント》と呼ばれる骸骨型モンスターだ。高い筋力値が特徴で、片手剣とバックラーで武装している。
残ったHPを削り取るため、槍を持ったカゲマツとシリカがトドメを刺す。
「(やっぱり役割分担できる人間が増えると安定するなぁ)」
いつもは俺が最前衛でシリカがアシストのスタイルを取っていたが、こうやって人が増えるだけでも負担が随分減って安定してくると実感できる。
「さすが風林火山だな。皆良く鍛えられてる」
「そういうお前こそ、シリカちゃんと2人でここまでやって来ただけはあるじゃねえか」
「限界を感じてはいたけどな」
この層に着てから、モンスターのAIに変化が起きている。本当にごく小さな変化だが、それに不意を衝かれたことがあった。
だから2人で挑むのは限界と感じ、クラインの手を借りようという話になったのだ。シリカもそれには異論がなく、段取りはあっさり纏まった。
「この層は人型が主みたいだな。ソードスキルも撃ってくるし、油断は出来ない」
種類こそ少ないが武装しているとなれば厄介の度合いはだいぶ違ってくる。自分たちも使える技を、敵も使えるならそれだけでも十分手強くなる。やっぱり2人で来なくて正解だった。
「まだボスは発見されてないんですよね?」
「ああ。出てくる敵も厄介だし、なにより停滞気味だからな、前線の空気も」
俺はまだ半年だが、2年もここに閉じ込められていた人々はある意味諦めてこの世界に馴染んできている。そんな空気もあってか、この頃躍起になって攻略しようとしている人間も減りつつあるように見えた。
……かく言う俺もその1人だった。当初は悲観して一刻も早く抜け出したいと思っていたが……最近はそう思うことも少なくなりつつある。
自分なりに原因を考えてみたが……ネットの世界なのにリア充ライフ満喫してればそりゃこっちのほうが良いよな。
けど原作知識も薄れつつあって、ここでのイベントはうっすらと記憶しているけど、どんなボスが出てきたのかまでは思い出せない。こんな事なら忘れないように資料でも作成しておくんだった……。
「あと26層だが……数字で言えばすぐだが、実際には先が長すぎるからなぁ……」
「みんなの気持ち、あたしも分からなくもないです。いつクリアできるかなんて分からないなら、いっその事ずっとこの世界に……って」
「おっ…おいおいシリカちゃん……」
「でもやっぱり、あたしは帰りたい。向こうでミストさんと会いたいですから」
「……………」
心配から一転、明らかに嫉妬を込めてクライン以下、風林火山のメンバーの視線が俺に注がれる。
ここで何か言えば弄られるのは確実だから、絶対に、口が裂けても何も言わない。ただシリカの言葉には「そうだな」と心の中で同意する。
「爆発しやがれリア充……」
すれ違った瞬間、ボソッと囁いたクライン。……かつてリア充たちに吐いたセリフが自分に向けられるとは思わなかった……。思ったより精神的ダメージ大きいんだな。
「ミストさん? どうかしました?」
「え…い、いや。なんでもない」
放心していたらシリカに声を掛けられ、ふと我に返る。
慌てて答え、先を行くクラインたちの後を追いかけた。
「おっ、キリトじゃねーか!」
「クライン。それにシリカにミストも?」
迷宮区に入ってから随分な時間が経ち、疲労感も漂いだしていた頃になって入った安全エリアには既に先客が2人も居た。
「キリトさん、アスナさんも。お久しぶりですね」
「うん、久しぶりだねシリカちゃん」
「珍しい組み合わせだな……2人とも《風林火山》に入ったのか?」
「俺だけならまだしも、シリカもここに入れるのは不安を覚えるっての」
「ど、どういう意味だよミスト!?」
「特にギルマスが女なら誰でもいいような人間だからなぁ~……」
動揺するクラインに疑いの目を向ける。きっとNPCにも声を掛けていた事があるに違いない。クラインならありえる。
「えっとですね、ここを2人で攻略するのは危ないだろうって、ミストさんがクラインさんたちに声を掛けてくれたんです」
「そっか。確かに2人で挑むよりずっと安全だもんね。以前なら血盟騎士団も歓迎したけど……」
そう言って表情に影が差すアスナ。
どの道、俺が断っていたところだ。団長的には監視の目が届きやすいのが丸分かりだし。
「アスナ、きのことたけのこ、そして味噌と醤油は相容れない存在なんだ」
「……ぷふっ」
「それまだ引っ張るのかよ……」
「相容れないって言う割には、2人は仲いいじゃないですか」
至極真剣にアスナへ言うと、突然小さく噴出して笑うアスナ。この意味を知っているキリトとシリカがそれぞれに突っ込みを入れる。
「? きのこだとか醤油だとか、何の話だよ」
「前にちょっとあってな。それ以来この件では対立が続いてるんだ」
「聞くと実際にはどうってこと無いんですけど……」
「深く聞いたら消される可能性があるな」
「大した事無いのか重要なのかどっちだよ!?」
……どっちだろう? 血盟騎士団の団長が実は麺食いで、副団長はきのこの山派って言う、対外的には恥ずかしいから公にしたくない秘密は。
『きゅ?』
機密の度合いに首を傾げていたその時、不意にピナが俺たちが来た方へ目を向けた。
一瞬遅れて俺たちも近づいてくる複数の人影に気づく。
「あれは……軍の奴らか?」
見覚えのあるプレイヤーの格好を見てキリトが呟いた。
確かにあの装備は見覚えがある。けど……
「随分疲労してるみたいだな……」
リーダーらしき赤い肩掛けを身に着けた男の後に続く連中は、顔の上半分を覆う兜を被って入るが明らかに疲労の色が濃く見える。
確かにここまで来る道のりは長かったし、モンスターとの戦闘もあって疲労は俺たちもあるが、さすがにあそこまで疲れ果ててはいない。
安全エリアまで来た所で、リーダーの「休め」という一言で全員がその場に座り込んだ。男は部下たちを置いて、真っ直ぐに俺たちの元まで歩いてくる。
「私はアインクラッド解放軍のコーバッツ中佐だ」
「……キリト。ソロだ」
「君らはもうこの先を攻略しているのか?」
「ああ。ボス部屋の前まではマッピングしてある」
「ふむ。ではそのマッピングデータを提供してもらいたい」
コーバッツと名乗った男の言葉に俺たちは耳を疑った。
いきなりやって来た挙句、マップデータを渡せだと? ふざけるのも大概にしろっての。
当然納得するはずもなく、クラインが食って掛かる。
「タダで提供しろだと!? テメエ、マッピングする苦労が分かって言ってんのか!」
「我々は一般プレイヤーに情報や資源を平等に分配し秩序を維持すると共に! 一刻も早くこの世界から、プレイヤー全員を解放するために戦っているのだ! 故に! 諸君が我々に協力するのは当然の義務である!」
「平等に分配……? 秩序を維持? 寝言は寝て言えよ」
ご大層な発言に思わず口に出してしまった。
「なんだ、貴様は」
「俺はミスト。キリトと同じくソロだ」
「我々の行動方針に何か文句があるのかね?」
「文句がない奴なんて居ないと思うけどな? 狩場を独占し、恐喝まがいの徴税なんてしている組織が秩序を維持するだって? 頭沸いてるのかよ」
「な、なんだと……っ!」
「おまけに女性プレイヤーへのセクハラ行為もしていたよな。これのどこが秩序を維持するのか、生憎と俺は物分りが悪いんで教えてもらえないですかねえ?」
小馬鹿にするように鼻で笑いながら言うと、案の定コーバッツは怒りに顔を歪めている。
「プレイヤー全員の解放のために戦っている、って言ったよな、お前。ならなんでずっと前線に来なかった? 言ってる事と矛盾してる事に気づいてないのかよ?」
「そ、それは組織強化と下層の治安維持に時間が……」
「時間が掛かって最前線に出れなくなった? 確かに、25層のボス攻略では壊滅的被害がでたみたいだからな。けどな、今更最前線に戻ってきたところで手遅れだって気づいてるだろ? どう見ても足手まといだ」
「わ……我々を侮辱するのか!」
激昂したコーバッツの剣が突きつけられる。だが俺は微塵も動揺していない。こんな事をしたのは図星を突かれて焦っているからだ。
「そこの連中を見ていれば分かるさ。ここに来るまででそのザマなら、ボスに挑んでも勝てるわけがない」
「キ…サマァッ!!!」
ついに限界を超えたコーバッツが剣を振り上げ、そのまま振り下ろす。即座に反応して盾で防ごうとした直前、間に割って入ったキリトがコーバッツの剣を自分の剣で受け止めた。
「落ち着け、2人とも。ミストも……いくらなんでもあの言い方をすれば、誰だって怒るだろ」
「……悪い。ちょっと頭に血が上った」
前にリズを探してアスナとシリカと1層へ降りた時に、軍の連中に絡まれたことを自分自身でも気づかない内に根に持っていたらしい。
口で言うのは簡単だが、こいつらは口だけだ。どっかで拗れたんだっていうのは分かっているが……自分たちが正しいと思っているその態度に腹が立ってしまった。
「マップデータは渡す。アンタもそれでいいだろう」
「おいキリトよ! そりゃ人が良すぎるだろ!」
「どうせ街に戻ったら公開するつもりだったんだ。マップデータで儲けるつもりはない」
クラインに言いつつ、キリトはメニューを開いてコーバッツにデータを渡してしまった。
元々そのつもりだったのかもしれないが、俺のせいで引き下がったように思えてしまい申し訳なくなってしまう。
「悪いなキリト……俺のせいで」
「別に気にしてないさ。クラインに言ったとおり、マップデータはあとで公開するつもりだったんだから。それと、ボスにちょっかい出すならやめておいた方がいいぜ」
「……それは私が判断する」
データを受け取ったコーバッツはそのまま背を向け、部下たちの所へ戻ろうとする。
その背中に向けてキリトは忠告をしたが、返って来た返答にまたも耳を疑った。
「さっきボスの部屋を覗いて来たけど、生半可な人数で敵う相手じゃない! 初めて見る悪魔型のモンスターだった! データもないのにそんな消耗した状態で挑むなんて無茶だ!」
「私の部下たちはこの程度で根を上げるような軟弱者ではないッ!」
あのキリトが本気で言っているというのにコーバッツは耳を貸そうともせず、部下たちを立ち上がらせてダンジョンの奥へと進んでいった。
「……今回のボス、かなりやばいのか?」
「ああ……武装は両手剣だけだったけど、特殊攻撃もあると思う」
「攻撃力も防御力も、かなり高そうだったから……情報を集めてしっかり対策を立てた方がいいと思う」
それが攻略組最強の2人の意見だ。
いやそもそも、それがセオリーだろう。初見のボスに何の準備もせずに挑むなんて無謀でしかない。
それを聞いたクラインが、不安そうに呟いた。
「……大丈夫なのかよ、あの連中」
「ぶっつけ本番でボスに挑んだりは……」
「しそう……ですよね。リーダーの人、頭に血が上っていたみたいですし」
「――っとに、世話の焼ける連中だよな」
呆れて嘆息し、俺は皆を見た。
どうするのか……なんて、既に決まっている。
「どっちがお人好しなんだか」
「ここにいる全員、だろ?」
あんなことになりはしたが、それでもできれば無茶な真似はしないでほしい。
キリトが呆れるのに俺はニッと笑い、皆も頷いてコーバッツたちの後を追いかけた。
コーバッツの後を道中出現したモンスターを倒しながら追いかけていく。
今の所、軍の連中に追いついた様子は見えない。俺にタゲを取った《リザードマンロード》を、背後からクラインが斬り付けて倒したところで、楽観的に口を開いた。
「この先はもう、ボスの部屋だけなんだろう? ひょっとしてもうアイテムで帰っちまったんじゃね?」
「だといいんだけどな……念のためボス部屋の前まで進んで――」
出来ればそうあってほしいと言う願いは、しかし遠くから響いた悲鳴によって打ち砕かれた。
「アスナッ!」
「うん!」
悲鳴に即座に反応したキリトがアスナに声を掛け、2人はすぐに全力で走り出す。
「シリカッ、お前も先に行け!」
「はいッ!」
この中では最も敏捷値が高いシリカに向けて言うと、すぐに頷いてピナと共にキリトたちの後を追いかけた。
出来れば後を追いかけたいが……タイミング悪くモンスターがリポップし、俺たちは《デモニッシュ・サーバント》と《リザードマンロード》の計4体に囲まれてしまう。
「俺が原因で焚きつけてしまったのかもしれないが、だからってバカな真似しやがって……!」
「話は後だ! さっさとこいつら片付けるぞ!」
刀を構えたクラインとコンビを組み、《リザードマンロード》に挑む。
薙いだ曲刀を盾で受け、カウンターで【ホリゾンタル】を放ち防御ごと吹き飛ばす。すかさずクラインが3連撃ソードスキル【緋桜】で追い討ちを掛けてトドメを刺した。
この場を他の連中に任せ、クラインと共に先を行ったキリトたちの後を追う。
だがたどり着いた先に広がっていた光景は……悪夢だった。
「おい、どうなってるんだ!?」
「ここでは転移結晶が使えない……俺たちが切り込めば退路を切り拓けるかもしれないが……!」
目の前に広がるのは一方的な蹂躙。
羊のような頭に、尾は蛇。手には両手剣を持っているが、よほど筋力値が高いのか軽々と片手で振り回している青い巨体。
名前は《グリーム・アイズ》。キリトの言ったとおり初めて見る悪魔型のモンスター。
もはや軍の連中はボロボロで、その上会った時よりも2人少ない。結晶無効化エリアで転移結晶が使えないなら、つまり……死んだのか。
「ミストさん……!」
「ッ……」
シリカが手を引いて俺を見上げる。
助けに行きたいのは俺だって同じだ。けど迂闊に飛び込めば俺たちも……どうすればいいんだよっ!
「全員! 突撃ー!」
「!? やめろ!」
コーバッツの命令に全員が《グリーム・アイズ》に真正面から突撃する。
違う、まずは体勢を立て直して、攻撃のリスクを分散させるために囲んで攻撃するんだ。全員で突撃したらスイッチも出来ないじゃないか!
キリトが思わず止めようとしたが、もう遅い。
《グリーム・アイズ》が口から紫色のブレスを吐き出して怯ませ、ソードスキルで吹き飛ばす。
散り散りになったになったところへ、《グリーム・アイズ》は振り返りながら無造作に剣を逆袈裟に振り上げた。
――コーバッツの体が宙を舞い、俺たちの所へ落ちてくる。耐久値が0になった兜が砕けてポリゴンの欠片となり、その素顔が露になった。
「あ……ありえない」
それは、何に対しての言葉だったのか分からない。
けれど涙を流しながら呟いたその言葉を最後に、コーバッツはこの世界から文字通り『消滅』した。
「……………」
俺の……せい、なのか。
俺があんな言葉を言わなければ、あるいはコーバッツたちはボスの部屋まで来る事はなかったのか。
どう……だったっけ。原作だと実際にはどんな流れだったんだっけ。
分からない……分からない、分からない分からない分からない分からない分からない!
「――――ろ」
頭の中がぐちゃぐちゃになる。そんな中、悲鳴が聞こえて顔を上げると、生き残ったプレイヤーに《グリーム・アイズ》が真っ直ぐ剣を振り上げるのが目に入った。
「――やめろォォッ!!!」
頭の中で何かが弾け飛び、俺は叫びながら剣を抜き、踏み込むと同時に【ヴォーパル・ストライク】を発動して《グリーム・アイズ》の背中に剣を突き立てる。
少なくとも貫通力にかけては自信があるその一撃を、《グリーム・アイズ》は微塵にも答えた様子を見せずに振り向いた。
「…………!」
その目に射抜かれて脊髄に氷柱が突っ込まれたような錯覚を覚えた。
まずいと本能が警鐘を鳴らすが、まだ硬直が解けていない。
《グリーム・アイズ》の両手剣がオレンジの光を放ち、技を放とうとした直前、
「ダメーッ!」
横からシリカが俺に体当たりをかけて諸共吹っ飛び、さらに跳んだアスナが落下しながら【リニアー】を連発して《グリーム・アイズ》の顔を刺し貫く。
「大丈夫ですか!?」
「シリカ……! 危ない!」
俺に覆いかぶさる格好で尋ねるシリカに何か言おうとするが、《グリーム・アイズ》のパンチを受けて吹き飛ぶアスナが視界に飛び込んだ。
《グリーム・アイズ》が倒れて動けないアスナに剣を振り下ろした瞬間、「エリュシデータ」を逆手に持ち替えたキリトがギリギリで軌道をズラし、アスナを守る。
「下がれ! ミスト、行くぞ!」
「っ…ああ! クラインたちは動けない奴らを運んでくれ! シリカ、アスナ!」
「はいっ!」
「うんっ!」
さっきは理性が吹き飛んだが、シリカが庇ってくれたおかげで頭が冷えた。
立ち上がり、体勢を建て直したアスナと合流して、俺たちは《グリーム・アイズ》に挑む。
クラインたちがけが人を運び出す時間を稼ぐだけでいい……けど、たった4人でそれが出来るのか!?
「ぐぅっ!!」
盾で剣を受け止めるが、その圧倒的な力に俺は奥歯をかみ締めて耐える。
俺が攻撃を受けている間にキリトが、アスナが、シリカが《グリーム・アイズ》にダメージを与えるが、ようやくHPバーが3本目まで減った程度だ。
「何なんですかこのフロアボスは!?」
その異常なまでの耐久力に圧倒的な攻撃力を前にシリカが叫ぶ。
「この巨体の割りに…ッ! 動きも機敏か――っ!?」
背後に回りこんだ瞬間、尻尾の蛇が牙を剥いて襲い掛かり、それに反応できなかった俺は直撃を貰って吹き飛んでしまった。
「がっ……!」
「ミストさん! きゃッ!!」
「シリカッ!」
壁際まで吹き飛んだ俺を見てシリカは目を見開き、しかし《グリーム・アイズ》の発動した範囲攻撃ソードスキル【ブラスト】に間一髪で気づいて間合いを取ろうとするが、2撃目の衝撃波に煽られて吹き飛ばされた。
「ぐ……っ」
すぐにシリカを助けに行きたい……が、あの蛇の攻撃は毒の状態異常を持っていたらしく、アイコンと共にHPが徐々に減っていく。
早く解毒を……いや、ここだと解毒結晶も使えないのか。一度部屋から出ないと……!
どうにか体を起こそうとするが、思うように体が動かない。クリーンヒットが思った以上に響いているか……!
「アスナ! クライン! 頼む! 10秒だけ持ちこたえてくれ!」
「わ、分かった!」
「ミスト君はシリカちゃんを連れて一度外に出て!」
どうにか立ち上がったその時、辛うじて《グリーム・アイズ》の剣を受け流したキリトの頼みに2人は答え、下がったキリトに代わって前に出る。
俺はアスナに言われたとおりシリカを担ぎ、その足でボス部屋から抜け出した。
「シリカ、大丈夫か!?」
「あたしより……ミストさんが……」
「俺より自分の心配をしろ…! 解毒!」
ポーチから出した緑色のクリスタルを掲げて唱えると、クリスタルが砕けて緑の光が俺に降り注いだ。
HPバーの下にあった毒のアイコンが消え、続けてシリカにハイポーションを飲ませてやる。
その頃には戦闘はもう決着が迫っており、アスナとスイッチしたキリトが前に出て、背中に出現した新たな片手剣を左手で抜き放った。
リズが鍛え上げた最高傑作、「ダークリパルサー」を。
「ダークリパルサー」で繰り出した一撃が《グリーム・アイズ》に直撃し、衝撃で大きく仰け反る。
普通両手にそれぞれ異なる武器を装備した場合は、イレギュラー扱いでソードスキルが使えない。
そう、普通ならば。だが俺が覚えていたここでのシーンは、その常識を覆す。
持ち直した《グリーム・アイズ》が両手剣を振り下ろすが、キリトは2本の剣を頭上で交差させて受け止め、そのまま弾き返した。
「【スターバースト…ストリーム】!!!」
手にした2本の剣が光り輝き、無数の剣戟を《グリーム・アイズ》の体に叩き込む。
「……凄い」
その圧倒的な光景を目撃し、シリカは目を見開いて呟いた。
攻撃の合間に反撃を受けても、キリトは攻撃の手を緩めない。それどころかますます速度を上げて行き、ライトエフェクトが星屑のように煌いて飛び散り、白光が空間を染めていく。
その連撃回数は脅威の16回。最後の一撃が《グリーム・アイズ》の胸を貫き、一瞬の静寂の後に《グリーム・アイズ》がポリゴンとなって砕け散る。
Congratulations!!
フロアボスの討伐に成功したことを讃える文字が空中に踊り――直後にキリトはその場に倒れた。
クラインや軍の連中が集まり、その中心でアスナが意識を失ったキリトの名を呼び続けている。
すぐに意識を取り戻したキリトは、泣きながら心配していたアスナに抱きしめられると冗談交じりに「あんまり締め付けると、俺のHPが無くなるぞ」と言っていた。
ボスも倒したし、めでたしめでたし……と言う訳には、やはり行かないだろう。
「コーバッツと、あと2人死んだ」
「……ボス攻略で犠牲者がでたのは、67層以来だな」
「こんなのが攻略って言えるかよ……コーバッツのバカヤロウが……。死んじまっちゃなんにもならねぇだろうが……!」
そう言って、クラインは唇を噛み締める。
確かにコーバッツは愚考を犯した。勝てないならすぐに撤退すればよかったのに、意固地になって挑んだ結果死んでしまった。
「……責任は俺にもあるのかもしれないな」
あの時俺がコーバッツと口論にならなければ、あるいはまだ冷静な判断が出来ていたのかもしれない。
沈痛な面持ちで目を伏せる俺に、シリカは何も言わずに手を握ってくる。
「いや……君のせいじゃない。俺たちは上の命令で最前線に来たんだ。「可能ならばボスを討伐しろ」なんて無茶な命令を受けて」
「命令? 誰がそんな……」
そんな俺に軍のプレイヤーの1人が声を掛けてくれた。
驚いて顔を上げる俺に、彼は目を反らしてその名を口にする。
「……キバオウだ」
「キバオウ……?」
「知ってるのか、キリト」
「ああ……少しだけな」
俺もキバオウと言う名は聞き覚えがある。どういった人物かまでは覚えていないが。
「君の言うとおり、軍……正確にはキバオウのグループは狩場の独占や恐喝が横行していた。だが、ゲーム攻略をないがしろにするキバオウを批判する声が大きくなって、あいつは俺たちを最前線に送り出したんだ」
「体裁のために……その結果がこれかよ」
「ああ……君たちが助けてくれなかったら、俺たちは全滅していた……」
そう言って深く頭を下げられたが、俺は内心憤っていた。
つまりキバオウが無茶なオーダーをしなければ、ここにいない3人は生きていたし、こんな無茶な形でボス攻略をする事もなかったんじゃないか。
「浮かばれないだろう……コーバッツたちも」
「そうだな……今回の件でよく分かった。キバオウのやり方は間違っていると。どこまで出来るかわからないが、俺たちは軍を本来あるべき形に戻せるよう動いてみる。死んだ仲間のためにも」
「ああ……頑張ってくれ。影ながら応援している」
俺の言葉に残った軍の全員が頷いた。
これで、少しは変わればいいんだが……そんな事を考えていると、話題を変えるようにクラインがこの場にいる全員が気になっていたことをキリトに問いただした。
「そりゃそうとキリト! おめぇなんだよさっきのは!?」
「……言わなきゃ、ダメか?」
「ったりめぇだ! 見た事ねぇぞあんなの!」
確かにあの光景を見て、知りたくないという奴はこの場に居ないだろう。
圧倒的だったフロアボスを破った圧倒的な力。隠し通す事は出来ない。
観念したようにため息を吐き、キリトは全て話す事にした。
「……エクストラスキルだよ。《二刀流》」
「しゅ、出現条件は!?」
「分かってるよ、もう公開してる」
そう言われてクラインはスキルリストを確認するが、いくら探しても記載されていない。
つまりそれは、キリト専用のエクストラスキル……ユニークスキルと言う事だ。
「水臭ぇじゃねーか。そんなスゲー裏技黙ってるなんてよ」
「半年くらい前、スキルウィンドウ見たら《二刀流》の名前があったんだ。でも、こんなスキル持ってるなんて知られたら……」
「羨望と嫉妬が向けられるだろうな。俺もよく分かる」
《盾剣技》の情報が公開されたとき、最初に発見されたプレイヤーとして奇異や羨望、嫉妬の目が注がれてなんとも居心地が悪かった事を思い出してそれに同調した。
「俺は人間が出来ているからともかく、妬みとか色々あるだろうなぁ」
「人間が出来てる……ねぇ」
「……なんだよ、その目は」
べっつにー、と文句ありげなクラインから顔を背ける。一応人間は出来てるだろう。女性が絡まなければ、がつくけど。
「まあともかく……苦労も修行の内と思って、頑張りたまえ若者よ」
「――勝手なことを……」
意味ありげにキリトを、そしてまだ抱きついたままのアスナを見て意味ありげに言ったクラインへ、キリトは僅かに顔を背けて呟いた。
「功労者をそんなに苛めるなよ、クライン。キリト、転移門のアクティベートはどうする?」
「皆に任せるよ。見ての通りへとへとだ」
「そうか。気をつけて帰れよ。クライン、行こうぜ」
「お? おお、そうだな」
クラインに声を掛けて、俺はシリカと共に次の層へ続く門を開けに行く。
「凄かったですよね、キリトさん」
「ああ。実際目にすると圧巻だった」
上層に向かう途中、シリカの言葉に俺は同意する。
読んでいた時に印象に残っていただけに、実際目にすると言葉では語りつくせない。あんなに苦戦していたボスを実質キリト1人で圧倒していたのだから。
「しかしまあ、アスナも大胆なこって」
「もう、からかっちゃ悪いですよ。あたしだってミストさんがやられた時、すっごく怖かったんですから」
「いや、それ言ったら俺だってシリカが吹っ飛ばされた時頭の中真っ白になったんだからな? 俺のほうが怖かったって」
「いーえ! あたしのほうがもっと怖かったです!」
「いやいや、俺の方が――」
もっと心配していた事を口にしようとしたら、誰かに肩を叩かれる。
……恐る恐る振り返ると、クラインがわなわな震えて俺を睨んでいた。
「ク…クライン?」
「爆 発 し や が れ リ ア 充」
ごめんなさい、無意識にバカップルの会話をしていたみたいです。
翌日の事。
ホームで新聞を読みながら朝食を食べていた俺は、大々的に新聞の見出しに書かれている記事を読んで思わず噴出した。
「? どうしたんですか?」
「くっくく……いや、凄いわこれ。『軍の大部隊を全滅させた青い悪魔。それを単独撃破した二刀流使いの50連撃!』だってさ。ぷっくく……」
「あ、あれぇ……? 事実と大きく異なってるような……」
どこをどうやったらここまで大げさに出来るのか、壮大なまでにスケールアップした内容にシリカは若干引きつった笑みを浮かべている。
今頃キリトの家には人が大勢押しかけていることだろう。慌てふためいてる顔が目に浮かぶ。
「ついでに『血盟騎士団副団長と逢瀬が!』って垂れ込みしてやるか?」
「ミストさん……」
「冗談だって、冗談。そんなことしたらあの2人に殺される」
「実際そうなっても文句言えませんよ……ねえピナ?」
『きゅー』
シリカに言われ、同意するように頷くピナ。もっとも、俺が言わなくても近いうちに周知の事実になるはずだが。
さて……明日の勝負はどうなる事やら。いや、結果は分かってるけど。
次回はキリトVSヒースクリフのデュエルがありますが、それと同時にもう1個重大イベントを行います。
と言うか、ここから先の中心人物はミストとヒースクリフの2人に。結末は前々から考えていた通りに運びますが、どう足掻いてもハッピーエンドにはならないのでご了承ください。
ちなみに友人に明かしたら、「どんだけ主人公不幸にさせたいんだよ」との事でした。