寝て起きたらデスゲームに巻き込まれていたんだが。   作:リベリオン

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 ついにここまで来た……この小説で1番書きたかった話がついにやって来てテンションアップ、ノンストップで書き上げました(後半何度か書き直したけど)。
 今回の見所は、要約するとこうです。

ミスト「俺は人間をやめるぞ! キリトーーッ!」

キリト「ブフォッ!?」

※厳密には違います。


第10話 突きつけられる結末

第10話 突きつけられる結末

 

 

 74層のボス攻略から2日が経ち、75層の主街区「コリニア」は異様な熱気に包まれていた。

 正確に言えば、転移門の前にあるコロシアムの入り口前に多くの人が集まっている。

 露店のような物が入り口の近くに設置されており、看板には「生ける伝説ヒースクリフ VS 二刀流の悪魔キリト」と書かれていた。

 

「『二刀流の悪魔』、か。完璧悪者の名前だな」

「うっさいな……他人が勝手につけたんだよ」

 

 通路のベンチに座っていたキリトが不服そうな表情を浮かべている。

 何故こうなったかと言えば、キリトがアスナを引き抜こうとしていると言う話がヒースクリフの耳に入り、デュエルに勝てば認めようという話になったそうだ。

 負ければ逆に、キリトが血盟騎士団に入る。そこで一部の人間がお祭り騒ぎにして、こんな事になったと言う訳だ。

 

「実際問題、どうなんだよ。あのヒースクリフに勝つ見込みあるのか?」

「さあな。けど、簡単に負けるつもりはないさ」

 

 それ敗北フラグな。あえて言葉にせず、俺は「そうか」と頷いた。

 どうするかなぁ……結局どう足掻いてもヒースクリフには勝てないんだし、アドバイスした所で意味ないと思うが。

 いや、できれば負けて欲しい。個人的に。

 

「そう言えばミストさん……ここに来る前に、露店の前で何かしていましたよね?」

「露店で? 確かタイゼンさんがチケットとオッズを……まさかミスト君、賭けたの!?」

「お、おいおい……勘弁してくれよ。ますますプレッシャー掛かるじゃないか」

「いやまあ、賭けたのは事実だけど……あんまり気にするなって。小遣い程度だから」

 

 ここに来る前、シリカに黙って賭けに参加していたのだが、しっかり見られていたらしい。

 アスナとキリトに弁解すると、一応納得してくれたんだが……実際は100万コルくらいヒースクリフの勝ちに突っ込んだのは秘密だ。バレたら折檻される。

 

 

「攻略組最強の2人のデュエルってのは、やっぱり見応えあるよなぁ」

 

 コロシアムの中央にキリトとヒースクリフが揃い、デュエルが始まると観客は歓声の声を上げた。

 攻略組最強の防御力の剣士と、攻略組最強の攻撃力を持つ剣士。《二刀流》の圧倒的な手数を前にしても《神聖剣》の防御は簡単に崩せない。

 ちら、と目をやると、アスナは不安そうに2人の戦いを見つめていた。

 

「……実は以前、俺もヒースクリフとデュエルした事があるんだ」

「え……っ!?」

「ミストさんも……!?」

「ああ。俺がホームを買って、アスナもヒースクリフと一緒に来た時にな。実はあの時、2人には黙っていたけど戦ったんだ」

「……結果は?」

「もちろん俺の完敗」

 

 恐る恐る尋ねてきたアスナへ、俺はあっさりと答える。

 元々勝てる見込みはない勝負だったから、負けるのは想定内だった。

 

「でも……どうして血盟騎士団の団長さんが、ソロのミストさんとデュエルしたんですか?」

「さあな? 興味本位じゃないか? 俺はアスナやキリトほど目立ちはしてないけど、ヒースクリフには注目されてたんだろ」

「ギルドに入れとか、そう言う事は言われなかったの?」

「あくまでも非公式のデュエルだったからな。勧誘する時は正式な場で、だそうだ。……キリトが決めに入ったぞ」

 

 デュエルも佳境に入り、俺は観戦に注視する。

 キリトの持つ2本の剣が光り輝き、高速の連続攻撃を繰り出す。

 【スターバースト・ストリーム】……《二刀流》の最上位剣技。16回と言う他のソードスキルを凌駕するほどの手数を叩き込む最強技。

 どうにか盾で防ぐヒースクリフだったが、その攻撃に押されて盾が大きく弾かれる。

 決まった――キリトが確信したであろうその瞬間、奇妙な現象が起こった。

 ありえない速度で盾が引き戻され、技を受け流すと同時に無防備なキリトを剣で突く。

 その一撃がHPをイエローゾーンまで減らし、デュエルはヒースクリフの勝利に終わった。

 

「(やっぱり無理だったか)」

 

 俺の時も同じような状況で負けたから、アスナたちほど驚いていない。

 やはりシステムのオーバーアシストを使ってでも防ぎに来た……もしクリーンヒットすれば自分の正体が露見してしまうから。

 何はともあれ、これでキリトにヒントを与えてしまって、次のボス攻略で正体を看破。見事キリトはヒースクリフを倒してゲームクリア――

 

「(……あれ?)」

 

 ふと、違和感を覚える。何だろう、このゾワッとした嫌な感じ。

 ゲームがクリアされれば現実世界に戻れる……これは、正しい……いや――。

 

 ――――その時俺はどうなる?――――

 

「……………」

「ミストさん……? どうかしましたか?」

「いや……」

 

 様子がおかしい事に気づいたのか、ふと俺を見たシリカが心配そうに声を掛けてきた。

 シリカは……大丈夫だ。問題なく現実世界に戻れる。

 けど、俺の場合は?

 シリカにとっての現実世界と俺にとっての現実世界は違う。そもそもここは架空の世界……「ソードアート・オンライン」と言うゲームではなく、「ソードアート・オンライン」と言うタイトルの作品が俺にとっての架空の世界だ。

 突如この世界に迷い込み、目の前に多くのやるべき事が山積みになって忘れていた。

 ……どうすれば俺は、元の世界へ帰れるんだ?

 

「(ゲームがクリアされれば……いや、そんな安易な結果になるのか? 来た原因すらも分からないのに、終われば帰れる保証がどこにある。HPが0になれば現実世界でも死ぬ世界だぞ?)」

 

 仮にHPが0になって元の世界に帰れるのなら、喜んでやってやる。しかしここでは0になれば現実世界でも頭に被ったナーヴギアと呼ばれる機械によって脳が焼き尽くされる。確証もないのに試す事はできない。

 だったらゲームがクリアされれば? 当然プレイヤーはログアウトされ、現実世界へ戻る事ができるだろう。だが俺はナーヴギアを被ってこの世界にやって来たわけではない。俺もログアウトされる保証はない。

 なら……俺は、どうなるんだ。

 

「くっそ……。なんだよ最後のは――? どうしたんだよミスト、怖い顔して」

「……なんでもない、大丈夫だ」

 

 戻ってきたキリトも俺の様子に気づいて声を掛けるが、首を振って答えると背を向けた。

 なんだろう。この嫌な違和感。何か……何か掴みかけている気がするのに。

 だけどそれを知ってしまえば……何かが壊れてしまいそうな気がする。

 思い切って相談してみようか。……でも誰に? シリカたちに話したところで信じてもらえるはずが……いや、信じてくれるかもしれないがそうなれば全て話す事になる。

 

「……………」

「本当に大丈夫ですか……?」

「――ああ、大丈夫だ。俺ちょっとぶらついてくる。夕方には家に帰るから、心配しないでくれ」

 

 気遣うシリカへ無理に笑みを浮かべ、俺はその場を後にした。

 知らなければいけない。このままではどうなるのかを。

 だがこんな話をして、そして確実に答えを貰える人間がこの世界にいるのか……?

 

「……いや、1人いる」

 

 ふと、先ほどまで見ていた男の姿を思い浮かべる。

 あの男なら俺の求める答えを知っているかもしれない。だがそれは同時に、危険な賭けになる。

 

「虎穴に入らずんば虎児を得ず……だっけか」

 

 だがあの男に頼るしか手はないのも事実だ。

 ……よし、行こう。まだ近くにいるはずだ。

 俺は危険を承知の上で、あの男に会うべく走り出した。

 

 

「意外だな、君の方から声を掛けてくるとは」

 

 広い室内で、中央の席に座るヒースクリフが俺に対してそう言った。

 どうにか戻る直前だったヒースクリフに声を掛け、大事な話があるから時間を貰いたいと言ったところ、こうして血盟騎士団の本部に招かれて対峙している。

 

「人払いはしてある。重要な話と聞いたが……ギルドに加入してくれるという事かな?」

「生憎だが外れだ。話というのは……」

 

 いざ話そうとしてみると、すぐに口に出せない。……まだ心のどこかで迷っているのかもしれない。

 ヒースクリフは先を促そうとせず、俺が自分で言うのを待っている。

 

「……正直、こんな話をしても信じてもらえないかもしれない。だが俺がこれから語るのは全て事実だ。だから、正直に答えてほしい……。ヒースクリフ――いや、茅場晶彦」

「――ほう」

 

 興味深そうにヒースクリフが目を細める。

 奥底から湧き出そうとする恐怖心を抑え込むようにぐっと拳を握り締め、ヒースクリフの言葉を待った。

 

「参考までに教えてもらいたい。何故私が茅場晶彦だと思うのかね?」

「きっかけはデュエルの時……最後の瞬間、明らかに異常なほどの速度で盾が引き戻された。いくら《神聖剣》でも、あんな状態から立て直すのは不可能だろう。あの時あんたはシステムのオーバーアシストを使い強引に持ち直したんだ」

「――なるほど。面白い推理だ」

「――――なーんて、な。実際のところはカンニングと言えばいいかな。そんな回りくどい手を使う以前から、俺はあんたの正体を知っていた」

「……ならば聞かせてもらえないかね? どうして私が茅場晶彦と断定するのか」

「荒唐無稽な話だとは思う……けれど、これから語ることは全て事実だ」

 

 そして俺は、ゆっくりと、順を追って全てを話した。

 俺の世界の事……この世界が架空の世界である事……そして、次のボス攻略でキリトが正体を看破する事。俺が知っている、覚えている限りの話を全て。

 

「……なるほど。つまり君はこの世界――言ってしまえば平行世界の住人で、我々も我々にとっての現実世界もすべて想像上の存在、と言うわけか。ふむ……信じよう」

「……少しは疑ったりしないのか? 俺の話が全て嘘かもしれないだろう」

「君が言っただろう。「これから語ることは全て事実だ」と。確かに到底信じられないだが、嘘と呼ぶには事実である点が多い」

 

 意外にもあっさりとヒースクリフは俺の話を信じ、どうせ信じてもらえないだろうと心の隅では思っていた俺は思わず拍子抜けしてしまう。

 

「君の言うとおり、確かに私は茅場晶彦だ」

「随分あっさり認めるんだな」

「今更隠した所で意味がないだろう。さて……では茅場晶彦として、君の問いに答えよう。「どうすれば元の世界へ戻れるのか」……だったね」

「……………」

 

 無言で頷く。

 ついに……この時が来た。拳に入る力が無意識に強くなっていく。

 ヒースクリフ……茅場はテーブルの上で手を組み、何か考えるようにしばらくの間口を閉ざした。

 

「――――ハッキリ言おう。君が元のいた世界に帰る方法は、残念ながら私にも分からない」

「ッ……」

 

 告げられた宣告。考えられる答えとして想定しただけに驚きはしなかったが、それでも衝撃は相当のものだった。

 だがこれは、まだ序の口だった。

 

「そしてゲームがクリアされたとしても、君が元の世界に戻れる保証はない。無論、この世界で死んだとして、元の世界に戻れると言う保証も、当然ない」

「……………」

 

 分かっている……分かっていた。それも最初に考えていた可能性だ。だけど……っ。

 

「――そして君には、もっと悪い知らせがある。ゲームがクリアされた場合、プレイヤーは全員ログアウトされるが……最悪の場合、君はこの世界諸共消滅するだろう」

「なっ……!」

 

 消滅? それはつまり死ぬって事か? HPが0になっても死ぬのに、ゲームクリアでも死ぬって言うのか?

 

「……君にも分かるように例えて話そう」

 

 予想以上の事実を突きつけられてその場で固まる俺に、茅場は言ってから水差しとグラスをオブジェクト化した。

 

「この水差しが今この世界に囚われているプレイヤーの精神。そしてこちらのグラスが肉体としよう。ゲームがクリアされた場合……」

 

 一度そこで区切ると、茅場は水差しから水をグラスへと注いでいく。

 

「このように精神は肉体へ戻る。それが本来の形だ。だが君の場合……」

 

 今度は水差しをグラスではなく、テーブルの上に注いでいく。

 

「このような結果になる。他のプレイヤーと違い、君は(たましい)が還るべき(にくたい)がこの世界――つまり我々にとっての現実世界に存在しないのだよ」

「じゃあ……俺は」

「どう転んでも、待っているのは(ゲームオーバー)だけだ」

「そんな……」

 

 ……嘘だろ……? なんでこんな……。

 足元から全てが崩れていくような感覚と共に、俺はその場に座り込んだ。

 どうしてこんな事になったんだ……俺が何をしたって言うんだよ。

 発狂してもおかしくないくらい狂いそうなのに、全身を無気力感が襲ってそんな気力も沸き上がらない。

 

「……君の話の通りに事態が進むのならば、次の75層ボス攻略でキリト君が私の正体を看破するそうだね。そして私と戦い、キリト君が勝ちゲームがクリアされる……つまりその時が、君の最期というわけだ」

 

 そうだ……。

 つまり俺が生きられる時間は、あと2週間と数日。

 その時になれば、俺は死ぬ……。

 

「察しの通り、私は以前から君の事を注視していた。突然現れた居るはずの無い1万1人目のプレイヤーだったからね。しかしカーディナルシステムは君を正規のプレイヤーと判断していたし、大きな問題を起こす事も無かったから放置していたんだよ。もっとも、システムに原因不明の負荷が掛かっているのだが……君の出現よりもずっと後だし、別の原因だろうがね」

「本当ならもっと早く接触しようと思っていたんだ……でもやるべき事が重なって後回しにして……」

「今になってしまったと。君はこの世界に迷い込んでから間もなく、パートナーのシリカ君と行動するようになったんだったね」

「ああ……」

 

 もはや言い返すだけの力もなく、短く答える。

 何もないのか……? どうする事もできないのか……? 俺はこのまま消えてしまうのか……?

 

「……生きたいか、ミスト君」

「……当たり前だ」

「そうか……

 

 死ぬために今までを過ごしてきたわけじゃない。生きるために今まで必死になって戦ってきた。

 なのにそれを全て否定されて……どうしろって言うんだよ。たった2週間でどう足掻けって言うんだよ!

 

「俺は……俺はどうしたらいいんだ……」

「……残念だが、その問いに私が答えることは出来ない。見出すのは君自身だ」

 

 

 気づけばいつの間にかダナクに戻ってきていた。

 陽も傾いてあかね色になりつつあり、どうやら今までずっと夢遊病者みたいに彷徨っていたらしい。

 

『――また何かあればきたまえ。相談くらいには乗ろう』

 

 耳の奥で茅場が最後に語った言葉が蘇る。

 そんなこと言われても……どうすればいいか分からない。このまま生きていても死、ここで死んでも死、道は全て塞がれて孤立しているじゃないか。

 陽は沈んでいなくても、俺の目に映る物全ては黒に塗り潰されたかのように暗い。それでも足はしっかりと家への道を辿っていき、やがて辿りつくと半ば自動化された動きで扉を開けて中に入る。

 シリカに声も掛けないで部屋に戻り、倒れるようにベッドへ飛び込む。

 考える気力もない……。根こそぎ失ってしまった。

 ……このまま、自分と言う存在は消えていくのか……。

 

『……ミス…霞さん? 戻ったんですか?』

 

 ノックがして、扉の向こうからくぐもったシリカ……いや、珪子の声がする。

 俺が帰ったことに気づいたんだろう。……けど俺は何も答える気力が起きなかった。

 

『霞さん? 開けますよ?』

 

 再びノックがして珪子の声がすると、扉が静かに開かれて、微かな音を立てて閉じられた。

 ……人の気配が近づいてくる。誰か、と考えるまでもない。

 

「どうかしたんですか? あの後からずっと変ですよ?」

「……………」

 

 心から心配してくれる気持ちが伝わってくる。けどそれに言葉を返す気力も起きない。

 

「その……あたしはまだ子供だし、霞さんに悩みがあっても力になれないと思いますけど……キリトさんとアスナさんも心配してましたし、1人で考えないほうがいいと思います。ほら、1人だけで悩むと延々と悩みそうじゃないですか! だから、その……」

「……珪子。珪子は……現実世界に帰りたいか?」

「え?」

 

 必死に励ましてくれる彼女に、俺はただ静かに尋ねた。

 意外な質問をされて珪子は一瞬驚いた表情を浮かべる。

 

「……そうですね。帰りたいです」

「……そうか」

「だって、向こうに……現実世界に帰って、向こうの霞さんに会いたいですから。向こうの『ピナ』も紹介するって、約束したじゃないですか!」

「……そうだったな」

 

 分かりきっていた答えだ。

 ここにいる人間全員、叶うならば現実に戻りたいと願っている。

 その中で俺は唯一の異端だ。今の俺にとってここが現実であり、この世界が終わる事を望んでいない。

 珪子が向こうへ帰れば、俺たちはきっと二度と出会うことはない。茅場が死ねばこの世界も崩壊する。そのときには俺も死ぬ。

 全てを話すべきだろうか……俺たちは向こうで会うことが出来ないんだと。

 いいや……珪子を悲しませるような事はしたくない。

 でも時間がない。あと2週間程度が俺に残された猶予だ。たったそれだけの時間で何が出来る? 75層のボスが倒されればこのゲームは――――?

 

「(75層のボス……?)」

 

 ふと、暗闇の中で一瞬光が見えた気がした。

 そもそもこのゲームは本来、100層で茅場を倒さないとクリアにならない。それがルールだ。

 けどキリトの想定外の働きによって茅場の正体が露見し、あそこで勝てば全員をログアウトさせる……という約束だったはず。

 ……つまり、本来のゲームクリアではない……?

 だったらキリトが茅場の正体を看破するのを防げたら……いや、既にデュエルは終わっている。もうヒントを与えてしまった。

 なら……いや、だがそれは……。

 

「……………」

「霞さん?」

 

 急に黙り込んだ俺に不思議がり、ベッドの縁に腰掛けた珪子が顔を覗き込む。

 だが俺はそれに答えるほど余裕がなく、必死に頭を回転させた。

 要は、75層で茅場を殺させなければいい。正体が露見するのは防げないだろうが、茅場を逃がして100層で……本来の最終決戦の場で戦って勝てばいい。

 だがそれは同時に、珪子たちが現実世界へ戻る事を遅らせる事に繋がる。

 珪子の命と、俺の命……どちらも天秤にかけて量れる物じゃない。

 

「……珪子は、俺が死ねば悲しむか?」

「な、なに言ってるんですかそんなの! 当たり前ですよっ! と言うか、不吉な事言わないでください!」

 

 俺の問いに驚き、慌てる珪子。

 ……それが、お前の答えなんだよな。なら、俺が取るべき道は――

 

「ひゃっ!?」

 

 突然俺に手を掴まれて引っ張られた珪子はバランスを崩し、そのまま俺の胸に飛び込んでくる。俺はそのまま空いた手を珪子の腰に回し、強く抱きしめた。

 

「か、かかかか霞さん!? どどっ、どうしたんですか一体! あ、あのあの、さすがにそう言うのはまだ早いんじゃないかなって……」

「……珪子、聞いてくれ」

「心の準備が……はい?」

 

 顔を真っ赤にして早口で何か言っていた珪子は、何か盛大に勘違いしていたのだろう。俺の真剣な声に口を開けて見上げていた。

 

「……この先何があっても、お前のことは俺が必ず守る。絶対、絶対に守ってみせるから……」

「霞……さん?」

 

 その言葉の本当の意味を、当然珪子は気付いてくれるはずもない。

 でも……それでいい。

 これから俺が行う事は非難されるだろう。けど、思いついたのがこの道だけだ。

 俺はきっと、ここにいる住人全てに恨まれるだろう……それでもいい。

 これが俺に残された唯一の道だ。人の道を外れ、死んでもきっと地獄に落とされるだろう。6千あまりの人間から希望を奪った大罪人として。

 それでもいい。珪子の言葉で決意は固まった。

 どう足掻いても消える運命にあると言うのなら、俺は……俺が選ぶ道は――

 

 

 2024年 10月21日 第55層グランザム。

 

「意外に早い再会だったな。もう数日は悩み続けるかと思ったが……その目を見ると、何かを決意したようだね」

「……ああ」

 

 俺は再びヒースクリフ……いや、茅場の下を訪れていた。

 迷いも、後悔も、全て振り切った。俺の持ってきた答えに興味があるのだろう、茅場は薄く笑みを浮かべて俺の言葉を待っている。

 

「まず先に確認がしたい。このまま行けば、この世界は75層で終わる。その事に関しては本意ではないと考えているのか?」

「無論だ。そんな途中でゲームがクリアされるなど、面白くないではないか。いや、それらの想定外もネットワークRPGの醍醐味と言えばそうだがね」

「そうか……なら、俺たちは共通する点を持っているな」

「……ほう。聞かせてもらえるかね?」

「ああ。あれから色々考えた。でも結局、茅場……お前の言ったとおり俺は元の世界に帰る方法も分からないし、このままだと死ぬ運命だろう……そんなの嫌だ。俺はまだ生きていたい」

「それで?」

「でも、その運命を変えられないなら……どうせ死ぬと言うのなら、この世界の最後まで……本当の意味でゲームがクリアされるまで生き抜いてから死んでやる」

「……………」

 

 それは茅場にとって想定外の答えだったのだろう。その顔は珍しく驚きの表情が浮かび上がっており、見開いた目は俺をじっと見つめていた。

 

「茅場、あんたは言ったな。途中でゲームがクリアされるなんて面白くないと。あんたは100層まできっちり進んでほしいと思っていて、俺もどの道死ぬならこのゲームを最後まで進めて死んでやる」

 

 もう、ここまで言えば後戻りは出来ない。強い覚悟を胸に抱き、茅場に向けて手を差し出す。

 

「取引だっ! 俺が望むのは100層での本当のゲームクリア! この望みを叶えてくれるなら、俺はお前に手を貸してやる!」

「……だが、キリト君が気付くのだろう? それについてはどうするのかね?」

「キリトは……キリトの事は――」

 

 当然の疑問に、俺はすぐに答えようとするが躊躇いが間を差した。

 どう動いても、結局はキリトが前に立ちふさがってしまう。

 この世界に囚われていたプレイヤーを解放した英雄。黒の剣士キリト。最強の敵を倒した最強の剣士。

 思えばこの世界に来て最初に世話になったのがキリトだった。

 以来何かと付き合い続け……時にふざけ合ったり、時に相談に乗ったり、時には共に戦ったり……きっと『親友』として付き合えたんじゃないかと思う。

 その親友を……その親友を俺は……俺は――。

 

「――どうしても立ちふさがると言うのなら……俺が、この手で殺す」

「……………」

 

 暗い決意を込め、俺ははっきりと口にした。

 勝てる見込みは、はっきり言ってない。それでも俺は、立ちふさがるのならキリトを倒す。

 きっとアスナには強く恨まれるだろう……もし、俺を殺しに来たなら、アスナも殺す。

 どんな犠牲を払ってでも、俺は100層までたどり着く。

 珪子を……珪子だけでも生き残ってくれたのなら、それでいい。

 

「……良い目だ。実に良い目をしている」

 

 じっと俺の目を見つめていた茅場は静かに呟いて……ゆっくりと席を立つ。

 

「今……君は目的のためになら形振り構わず、他者の命すら犠牲にする覚悟をしている。さながら人の魂を食らう悪魔のように」

「俺が悪魔なら、あんたは魔王だろう。悪魔との取引って言うのは自覚している」

「そうするだけの覚悟と決意は既に持っているというわけか」

 

 神妙に頷きながら、茅場はテーブルを回って俺の前に立った。

 

「いくつか確認したいのだが、構わないかな」

「俺に答えられることでなら」

「君のいた世界に……この城は存在したかね?」

「……いいや。そもそも俺のいた世界の年代が、ここよりも10年近く前の世界だった。フルダイブ環境もまだ普及していないところだったよ」

「そうか……どこか別の世界には、存在すると思うか?」

「……断言は出来ない。でも、俺にとって架空の世界だった「ソードアート・オンライン」と言う作品自体がこうして実在したんだ。このアインクラッドも……どこかの世界にあると思う」

 

 否定するだけなら誰にだって出来る。

 けど俺は、こうして異世界に渡って実証している。全てを肯定する事はできないが、信じていたいと……そう思っている。

 

「……なら次に、君はこの世界に憎しみ以外の感情を抱いていたのか?」

「憎しみ……? そう、だな」

 

 俺は憎んでいるだろうか? 確かにちょっとした出来事で憎いと思ったことは何度かある。けれどそこまで大げさな事ではない。

 今は……とても悲しいと思っている。この世界でしか生きられない自分の運命に。でも――。

 

「そうだな……一言で言えば、楽しかった。この運命を知る前はたくさん嬉しい事や楽しい事もあったし……何より、俺が心から好きな人を、俺を心から好きでいてくれる人と出会えた」

 

 だからこそ、消える最後の瞬間まであの子と共に居たいと思う。

 俺の全てを賭けて――って古臭い台詞かもしれないが、守りたい。

 未練はある……でも、珪子が現実世界へ帰れたならばそれで良い。

 

「その笑みを見れば……聞くまでもなかったようだな」

「えっ……?」

 

 指摘されて、初めて自分が笑みを浮かべている事に気がついた。

 ……ああ、そうだな。やっぱり楽しかった――それが俺の本心だ。だから――

 

「――心から笑うのは、これが最後だ」

 

 これから多くの人々のから望みを奪う奴にそんな資格はない。

 だからこれは、俺に対しての罰であると同時に、目の前の男への覚悟の証明だ。

 

「俺の望み…決意…覚悟…代償は全て示した。――お前の答えを聞かせてもらおうか」

「……良いだろう、その取引に応じようではないか。危険を冒し、他者を裏切り、それでもなお悪魔と取引を行おうとする君に私も応えよう」

 

 そう言って茅場が差し出した手を、俺は握り返す。

 これで取引は成立し……この男と同じ悪魔の仲間入りを果たした。皆が知ったらどんな顔をするだろう。

 ……きっと恨むだろうな。でも、だとしても俺にはこの道しかないんだ。

 許されないのは分かっている。だからせめて、この先俺1人だけしか戦う奴がいなくなっても戦い続けていこう。

 

 そして――死ぬ時はこの男も道連れにしてやるのがせめてもの償いだ。




 と言う事で、ミスト君は消滅不可避判明回でした。なお前書きのジョジョはふと浮かんだから書いてみました。
 そもそもどうしてそのような結果になるのかは次回にも若干触れますが、今のミストは簡単に言えば電子生命体と言うか電脳と言うか、そんな状態です。分かりやすく言うとデジモンシリーズで人がデジタルワールドに入り込んだ状態でしょうか。
 でもミスト君の場合はナーヴギアはおろかデジヴァイスも持ってないですし、当然シリカたちの現実世界に行く事はできないし、元の世界に帰る手段も無い。ならこの場合どうなるのか……という結果がアインクラッドと共に消滅と言う答えです。
 ただ劇中でもヒースクリフ(茅場)が触れたとおり、あくまでも消滅は最悪のケース。もしかしたら元の世界へ帰れるかもしれない可能性も不確定ながら残っているわけです。
 ……どの道シリカと会えなくなるのは変わりませんが……現時点では。最後の最後でどうなるのかは、直前で決めます。

 さてさて、次回はオリジナル展開でキリトとアスナが攻略を休んでいる間にミストがヒースクリフと共に力を求めて行動します。そして、禁断とされるユニークスキルを獲得……!?
 ――するのはいいけど、どんな物になるかは緊急アンケートで判断しましょうかね。詳細は次回の更新後に活動報告で上げようと思います。初活動報告だー。
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