寝て起きたらデスゲームに巻き込まれていたんだが。 作:リベリオン
それでもって、今回登場するボスとか、ドロップしたアイテムとかで分かる人はなんとなくわかるかも。
それでは本編をどうぞ。
第11話 君臨する神
「――そんな顔するなよ。これじゃあ出かけられないじゃないか」
「行けなくていいですよ」
随分と無茶な事を言ってくれる……が、無理も無いだろうと俺は納得して嘆息する。
2024年 10月24日。キリトはアスナとめでたく結婚し、血盟騎士団を一時退団したと連絡が来た。
これで2人はしばらく前線に出てくる事は無い。その間に起きる出来事は俺には関係ないことだろう。
この2日間、俺とシリカも攻略を休んで思いっきり遊び回ってきた。……最後の思い出作りのために。
「ソロじゃないと受けられないクエストをするって言うのは分かりますけど……いくらなんでも急すぎですよ」
「それに関してはほんとに悪い」
ご機嫌斜めな理由がこれだ。
「ソロでしか受けられない長期のクエストが見つかったからちょっとやって来る」――と言う胡散臭そうな嘘に、シリカは当然と言うべきか疑っている。
――実際にはヒースクリフからの提案で、俺もまだ詳しい話を聞かされていないんだが。
「俺が留守の間は好きにしていていいけど……もし前線に行くならクラインに連絡してくれ。あいつには俺のほうで話を通してあるから」
「……はい」
当然クラインにもシリカと似たような話を伝えて協力してもらっていた。普段目に余る言動が目立つが、あれで頼りになるから大丈夫だろう。
……問題はふくれっ面の彼女をどうやって宥めるか、だ。
「……珪子、ちょっと目を閉じてくれ」
「? どうしてです?」
「いいから」
促されて渋々目を閉じたシリカに、俺は唇を重ねた。
いきなりキスをされてシリカは目を見開いて、顔を真っ赤にして飛び退く。
「か、霞さんっ!? どどどうしたんですかいきなりっ!?」
「いや、なんとなく。大丈夫だって、無茶だけはしないって約束するから。じゃあ行ってくるな」
「え…ちょっ!」
混乱している隙に俺はそそくさと家を出た。
「……ふぅ」
扉に体を預け、大きく息を吐く。
普段通りに振舞えただろうか……一応、大丈夫だと思いたいが。
思えば今までいつも2人一緒だったんだよな……不安に思うこともあるかもしれない。でも、後のことは皆に頼んであるから大丈夫と思いたい。問題は俺のほうだ。
「……行くか」
今までの楽しかった気持ちを胸の内に封じ込め、俺は歩き出す。
転移門でグランザムへ向かい、血盟騎士団の本部へ。既に話は通してあったためすんなりと奥へ通された。
「待っていたよ」
「悪かったな。少し別れを惜しんでいた」
待っていたのは俺が契約を交わした悪魔。これから話す事は2人だけの極秘の内容になっているため、当然人払いはされていた。
俺の言葉にこの男――ヒースクリフはいつもの胡散臭そうな笑みを浮かべている。
「それは仕方ないだろうな。人と人の別れはいつも惜しまれるものだ」
「それよりさっさと本題に入れよ。わざわざ長期間時間を作らせて何をやるんだ?」
「いいだろう。ただ少しばかり長い話になる」
別にいいさ、と答えると、ヒースクリフは少し活き活きとした様子で話しを始めた。
……あまり関わらなかったし、そもそもどういう人間なのかと言うのも分かりづらかったんだが、案外とお喋りで……あと麺類に情熱を注いでいる残念系と言うのがここ最近の付き合いで分かってきた。これがデスゲームの最後に待ち受けているラスボスとか。
「……聞いているのかね?」
「……いや、もう1度頼む」
少しヒースクリフについて考えている内に少し話を聞きそびれてしまっていたらしい。
もう1度最初から話してくれるように頼むと、俺は改めて耳を傾けた。
「まず君の境遇についてその後検証を続けたところ、今の君は電脳と呼べる状態が近いだろう」
「電脳……?」
「要するに記憶や人格をデジタル信号化させてネットワークに遺した物だ。この世界では大出力のスキャンを行う事のだが、その場合脳が焼き切れてしまうが、可能性は低いものの電脳化する事ができる」
「いや……ちょっと待ってくれよ。俺はスキャンなんてしてないし、そもそも俺にとってここは本物の異世界なんだぞ?」
「その通りだ。だから厳密に言えば似て非なる物だろう。あるいは、電子生命体とでも言うべきか……」
電子生命体……○ジモンかよ。いや、案外それに近いかもしれない。そっちの方じゃなくて、デジタルワールドに入り込んだ人間の方。
「まあ、君の境遇については君自身の情報が少なすぎるから、どれも推測の域を出ないだろうがね」
「結局元の世界に戻れる保証だって無いんだろう。いいさ、悲観ならもうとっくに終えている。今は今後の事だ」
「良かろう。では次に……君はユニークスキルについてどの程度の情報を持っているかな?」
「そこまで詳しくは知らないさ。他の奴らが知っている基本的なことだけだな」
「そうか。ではそれに関して話しておこう。ユニークスキルは全部で10種類存在する。今明かされているのは私の《神聖剣》、キリト君の《二刀流》スキルの2つだ。他に《射撃》、《飛行》、《神速》、《絃》、《蛇槍》、《無手》、《斬馬剣》がある」
「へえ……」
それは目から鱗な情報だな。名称からどういうものかはある程度推察できるが、《射撃》に《飛行》って……。
「《射撃》や《飛行》って、そんな凄い物が仕込まれてたのかよ。この世界じゃ魔法や射撃攻撃なんて無いはずだろ? おまけに空まで飛べるなんて……」
「無論どれも習得条件は困難な設定にされてあるよ。《飛行》に関しても自在とまでは行かないが、フライトエンジンを導入しているから空を飛ぶこともできる。でなければ飛行タイプのモンスターが飛べないからね」
「はぁ~……」
これは開発者と知り合いじゃなかったら聞けなかった裏情報だ。けれどアルゴには黙っておこう。
「……ん? ちょっと待てよ。ユニークスキルは10種類あるんだろ? あと1つ足りないだろ」
「ああ。それに付随して関わるのが、今回の話だ」
「まさか……ユニークスキルの獲得に関わる物か?」
ようやく本題に入ったかと思ったが思わぬ展開に目を見開いて尋ねた。
ヒースクリフはそれに頷き、再び語り始める。
「ユニークスキルはどれも強力だ。《二刀流》は魔王を倒す勇者の役割を与えられたように、それぞれのユニークスキルには役割を与えられている。だが、10番目のユニークスキルはどれでもあってどれでもない」
「どれでもあって…どれでもない?」
「例えば、《二刀流》のスキルを持ったプレイヤーが途中で倒されたとしよう。その場合代わりの勇者が必要になる。その時に宛がわれるのが10番目だ。10番目は、他のユニークスキル持ちプレイヤーが死んだ時に、代わりにその役割を果たす……そして究極的には、魔王をいかなる手段を用いても倒す
「いかなる手段を……」
つまり、どうやっても魔王を倒せないプレイヤーたちに残された最後の手段。
……けどユニークスキルはプレイヤーの資質に左右されるんだし、そう簡単に獲得できる物じゃないと思うが。
「だから最終手段なのさ。厳密に言えばあるボスを倒す事で獲得できる……だが口で言えば容易く聞こえるが、実際にはその難易度は非常に高い。ミスト君はゲームで最終ボスを上回るボス……俗に言う隠しボスを倒した事はあるかな?」
「えっと……一応ある。倒した後に最終ボスを倒したら味気なく感じるけど」
「つまり、そういうことだ。手に入れるには最終ボスを上回るボスを倒して手に入れなければならない。ただ倒すだけではない、ラストアタックも決めなければ全ての条件は揃わない」
「えげつない上に回りくどいな……」
「でなければボスとしての面子に関わるのでね」
確かにそうだ。あっさり手に入れたら「ラスボス(笑)」になりかねないし。
「……けどどうしてその話を?」
「理由は簡単さ。今の君ではキリト君に到底及ばない。いくら決意した所でそれを成し遂げるだけの力が無ければ、ハッキリ言って無駄だ」
「ハッキリ言ってくれるな……」
「事実である事には変わらないだろう?」
……確かに、否定できない。
キリトが戦っても、俺が一方的にやられるだけだ。それだけユニークスキルの力は凄まじい。いや、スキル無しにしてもキリトの強さはアインクラッドで最強だろう。
「本来の出現条件は100層に到達して、アインクラッドに生存するプレイヤーが4000人以下にならなければ出現しないんだがね……今回は特別に、君の手向けとして解禁しよう」
「……解禁しても殺されたら意味がないんだろ」
「無論だ。こう言ってはなんだが、どうせ誰も手を出す人はいないだろうと思ってやや強くしすぎてしまってね。さすがに焦って隠しボス扱いにしておいたんだよ。あっはっはっは」
「笑い事じゃすまないだろう、それは……」
つまりは、こういうことか。
100層まで来ても一向にヒースクリフを倒せず、プレイヤーの総数が一定以下になれば秘密兵器として解禁されるが、蓋を開ければ超強い隠しボスだから手に入れようとするなら余計人が死ぬと。中々厭らしい仕掛けになっているじゃないか。
「そんなやばい相手に2人だけで挑むって言うのか?」
「怖気づいたのかな? だがこれをやり遂げねば、君の目的を果たす事など不可能だと思うがね」
「安全マージンを確実に上回るレベルのボスなんて、死にに行くような物だからな……」
けどこれは、ヒースクリフが俺に課した試練の意味もあるのだろう。
この程度の難題を乗り越えられなければ、協力する意味はないと。
「……良いだろう、やってやるさ」
「そう来なくてはな。では、行くとしよう」
俺の答えに頷いたヒースクリフは、アイテムポーチの中から濃紺のクリスタルを取り出した。
「回廊結晶……」
「ああ。何しろまだ未到達の階層まで行かなければいけないのでね。ひとまず上層に向かい装備を整えた後、目的地へ向かう」
「けどどうやってそんな準備を済ませたんだ?」
「忘れたかな? 私はこの世界の創造主だよ」
ああ、なるほど。つまりは管理者権限を使って用意したのか。便利なこって。
「コリドー、オープン」
掲げたクリスタルが砕け、目の前の空間に波紋が広がる。振り返り俺を見遣ったヒーフクリフに頷き、俺は波紋の中へ足を踏み入れた。
「ここは……」
転移した先の光景に、思わず言葉を失う。
記録先は転移門広場だったらしいが、目の前に迷宮区らしき入り口が開いていた。
「99層主街区……おわりの街だ」
「おわりの街……」
続いて転移してきたヒーフクリフの言葉を繰り返しながら、ぐるりと周囲を見回す。
これが原作には登場しなかった街なのか……街並みははじまりの街に似ているように感じる。
「ここから先は少し特殊でね。フィールドは無く、迷宮区に直結している形になっている。ここを越えれば100層の紅玉宮に直接行けるというわけだ」
「だからおわりの街か。なら、クエストは100層に?」
「いや、ここへ来たのは装備を整えるためだよ。付け焼刃程度だが最後の街だけはあって装備品は強力な物が揃っている。マップデータを渡しておこう」
そう言ってヒースクリフはメニューを操作し、俺にこの街のマップを提供してきた。
受け取った俺はすぐにマップを開くと、その広さに思わず舌を巻く。
はじまりの街も広かったが、おわりの街はさらに広い。フィールドは無くこの階層丸々1個が街になっている。
「そうそう、行く前に1つ良いことを教えておこう。この街の防具屋では強力なお守りが売っている。余裕があれば購入しておくといい。1時間後にまたここに集合だ」
「情報どうも。じゃあ早速行ってみるさ」
ヒースクリフとは一旦別行動を取り、俺は勧められた物を確認するために防具屋に行ってみることにした。
マップで位置を確認しながらしばらく歩いていると、目的地の防具屋に行き着く。
お守り……って言っていたが……これか?
「「インフィニットアンク」……なっ!? 全ステータス+25、攻撃力と防御力+250、命中と回避+10!? なんだこの超絶強化――ぶーっ!?」
ダメージカットこそ無いが、全ステータスを強力に強化するとんでもない代物に思わず目を剥き、次いで値段を確認したら思いっきり噴出した。
「え…いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……ぜ、0がいっぱいあるんだけど。きゅ――9千万コルゥゥゥ!?」
能力がぶっ飛んでいるなら、当然値段もぶっ飛んでいて俺は残金を確認する。
2日間遊びで使い込んでいたが、キリトとヒースクリフとのデュエルで賭けにつぎ込んだ金を合わせても到底足りない……俺がここに来た初期金額よりも遥かに高いってどう言うこった。
……いや、待てよ。ヒースクリフの奴は確か――
『余裕があれば購入しておくといい』
『余裕があれば購入しておくといい』
『余 裕 が あ れ ば 購 入 し て お く と い い』
「あ、あのやろぅ……」
絶対に買えるはずが無いことを知っていてあんな事を言ったのか。どこまで捻くれているんだよ。今頃ぷぎゃーでもやって笑ってるのかっ!
「いつか絶対お礼参りしてやる……!」
絶対負けられない理由が1つ増えて改めて胸に誓うと、改めて装備品のラインナップを見た。
……けど俺と相性が良さそうなのが無い。盾も普通の防御型で《盾剣技》に対応しているようには見えない。
諦めて防具屋を後にし、今度は武器屋に行ってみるがそれほど魅力的なものは見当たらず、道具屋でアイテムを大量に買い込んでからヒースクリフと合流した。
「なんだ、もう戻ってきたのかね? まだ30分しか経っていないじゃないか」
「アイテムの補充はした。店を覗いて来たけど特にめぼしい物はなかったからな」
「「インフィニットアンク」はどうしたのかな?」
「あんなクッソ高いお守りなんて買えるか! なんだよ9千万コルって! 桁がおかしいだろ!」
「やはりそうだったか。強力すぎるから高く設定したのだが、やはり高すぎたようだ」
やっぱ確信犯だったのかこいつは。
もはや突っ込む気力も起きず、肩を落とした後メニューから装備を呼び出して準備を整える。ポーチには大量のハイポーションも突っ込んであり、こちらの準備は万端だ。
「では行くとしようか。コリドー、オープン」
再び回廊結晶を取り出してヒースクリフが唱えると、クリスタルは砕けて空間に波紋が広がる。
「地獄への直行便だ。いいかね?」
「……答えなんてもう出ている!」
癪に障る笑みを無視して波紋を潜り抜ける。
転移した先は洞窟のような場所で、辺りには発光するクリスタルがいくつも点在していた。
「ここが……ボスの出る場所なのか?」
剣を抜いて周囲を警戒しつつ、幻想的な風景に思わずそんな感想が漏れた。
続いてやってきたヒースクリフは既に剣を抜いており、真っ直ぐに一点を見つめている。
「来るぞ」
「…っ!」
反射的に緊張感が最高値に達する。
俺たちの前でいくつもの光が1箇所に集まっていき、その輪郭を形作る。
そして――それは姿を現した。
白い衣の上から黄金の鎧を身に纏い、背には翼を彷彿とさせる2枚に分かれたマントを。
手には黄金の装飾が施された盾と長槍を持っていた。
人型……いや、違う。今まで見てきたモンスターで該当するタイプは無い。なんだこいつは!?
ステータスは……ダメだ。レベルが高すぎて識別できない。けど名前だけは表示されている。名前は――
「『The Minerva』……ミネルヴァ!?」
確かローマ神話の女神で、ギリシャ神話のアテナに対応する女神の名前じゃないか!
今までのボスはなんらかをモチーフにしたとは言え、ストレートにモチーフの名前を採用したモンスターは居なかったはず。
これがプレイヤーたちにとって最後の希望になるはずだった……最強の敵なのか。
「……………」
こんな化け物に勝てるのか、と言う疑念が心の中で沸き上がる。
俺のレベルは現在88……当然ここでは安全マージン圏外の上に相手は100層で待ち構える最終ボスよりも上のステータスと考えていい。
「攻撃は基本的に私が止めよう。君はその隙に臨機応変に攻撃を繰り返すんだ」
「頼りにしてるからな……!」
むしろ盾のダメージカット率が低い俺では一撃で半分以下までHPが削られる可能性がある。
ヒースクリフの防御力ならあるいは、この女神に対抗できるだろうか……どちらにしてももはや退路は無いんだ。だったら――
「手に入れてやる……絶対に!」
その一言を皮切りに戦いは始まった。
『ミネルヴァ』は一瞬にして間合いを詰め、手にした槍を突き出す。その速度に俺は反応し切れなかったが、割って入ったヒースクリフが盾で弾く。
その隙に背後へ回り込んで斬りかかるが、『ミネルヴァ』は瞬時に振り向いて盾で防いだ。
そこへ、ヒースクリフが剣を突き出すがこれも盾で防がれてしまう。
「っ……?」
なんだ、今の感覚。
ヒースクリフの剣が防がれた瞬間を見て、何か違和感を覚えた。
それでも戦闘の最中にそんな事を気にしている暇は当然無く、俺はヒースクリフが攻撃をひきつけている間に攻めるが、悉く盾で受け止められる。
「(なんて防御性能だ! まるで――)」
まるで《神聖剣》のようだ――そう考えて、俺は最初に抱いた違和感の正体に気づいた。
巨大な盾による圧倒的防御力と正確無比な突き……まるで《神聖剣》の特徴に近いじゃないか。
「ヒースクリフ! お前……『ミネルヴァ』に《神聖剣》の一部を組み込んだな!」
「気付いたか! なにも『ミネルヴァ』だけではないさ! 君の《盾剣技》も《神聖剣》の下位互換と呼べる劣化品だ! しかし『ミネルヴァ』は一部の性能はオリジナルと遜色ないんだよ!」
いくら隠しボスだからってユニークスキルの一部を組み込むとか、どれだけ遊び心を加えたんだこいつは!
「って言うか、やっぱり《盾剣技》って《神聖剣》の劣化品だったのかよッ!」
「そうだとも! でなければ盾にダメージ判定もつかないし、ソードスキルを使えるわけもないじゃないか! その代わりにダメージカット率は気休め程度、対応する盾は5種類とマニアックな人向けにしたんだがね!」
「俺はそのマニアックの1人かよ!」
つまりはこいつの遊び心を身に着けていた俺は、キワモノスキルを必死に使っている姿に笑われていたって事か! マジで腹立つ!
「ぜっっっったいこの女神殺してユニークスキル獲得して、100層でお前殺してやる!」
「その意気だミスト君! 君がどこまで足掻けるか楽しみにしているとしよう!」
「減らず口をォォ!」
剣戟は『ミネルヴァ』の盾に防がれてしまうが、俺は内から沸き上がる怒りを力に換えて弾き飛ばし、「デモンズ・クロー」を装備した左手で横っ面を思いっきり殴りつけた。
一瞬だがよろける『ミネルヴァ』。すかさずヒースクリフが【バーチカル・スクエア】に似た垂直4連撃ソードスキル【ゴスペル・スクエア】を叩き込んで追撃をかける。
「スイッチ!」
ソードスキルを叩き込んだヒースクリフと瞬時に入れ替わり、【シャープネイル】から《剣技連携》で【ホリゾンタル・スクエア】へ繋ぐ。
かなりのダメージを与えたはずだが……ステータスが見えない以上実際には分からない。むしろそんなことに意識を割いている余裕はない。
『ミネルヴァ』の槍がライトエフェクトに包まれて、超高速の2撃が襲い掛かる。辛うじて「デモンズ・クロー」で受けるがその威力は凄まじく、俺は壁際まで吹き飛ばされてしまった。
「がふっ!!」
一瞬意識が持っていかれそうになるが、気力で繋ぎ止める。HPは8割も残っていたのに一気に2割以下まで奪い取られていた。
ポーチのハイポーションを一気に飲んで空になった瓶を捨て、再び『ミネルヴァ』に立ち向かう。途中、【クイック・チェンジ】のスキルで盾を「プロテクションエッジ」に変更した。毛の生えた程度の違いだが防御性能はまだこっちに分がある。
俺は復帰する間にもヒースクリフは『ミネルヴァ』と激しい攻防を繰り広げていた。
レベル差はあるはずだが、《神聖剣》の防御性能がそれを埋めている。だが敵も同じく《神聖剣》をベースにした能力を持っている。
故にその空間は余人が付け入る隙などないほどに壮絶な攻防の応酬だった。
ヒースクリフならあるいは、単独でも『ミネルヴァ』に対抗できるかもしれない……だが、
「寄生なんて趣味じゃないんだよ!」
吠え、横から槍を持つ腕を斬りつける。
ヒースクリフに全部任せて勝っても意味がない……これは、俺が力を得るための戦いなんだ!
『ミネルヴァ』の正面ではヒースクリフが、俺は背後から息つく暇もないほどの連撃を掛ける。的確に攻撃を受け、逸らし、かわす『ミネルヴァ』だったが、少しずつではあるが押されて来ている。
「(攻撃を受けようとしてもダメだ! 流して隙を作り出す!)」
突き出された超高速の刺突を、盾で受けるのではなく滑らせるようにして受け流す。すかさず【スター・Q・プロミネンス】を叩き込みながら離れ、『ミネルヴァ』の反撃をヒースクリフが受け止めた。
まだ……。
まだだ……!
「こいつなら――どうだァァァッ!!!」
左右でソードスキルを発動し、突撃。ジェットエンジンのような効果音と共に【ヴォーパル・ストライク】を繰り出す。
それを受け流そうとする『ミネルヴァ』。しかしそこへ、もう一方の【ヴォーパル・ストライク】が貫いた。
――【ダブル・サーキュラー】。
《二刀流》の突撃ソードスキルで、右の剣が阻まれてもコンマ1秒の差で左の剣が敵内部へ襲い掛かるという、《二刀流》特有の二段構えの剣技。
当然、《二刀流》スキルを持たない俺には使えない。けど真似事は出来る。
微妙に発動タイミングをずらした【ヴォーパル・ストライク】2連続発動。別々にソードスキルを発動できる《盾剣技》の特徴を活かした方法でなら、再現する事自体は可能だ。
もっとも、再現できるのは極々一部のみになるが――それでも十分アドバンテージになる。
「ぬああああッ!」
吠えながらさらに盾を押し込み、柄頭で『ミネルヴァ』の頭を何度も打ち付ける。
『ミネルヴァ』は強引に俺を引き剥がし、そのまま後方へ飛んだ。
次の瞬間、俺は驚くべき光景を目撃する。
背中のマントが翼のように変化し、着地することなくそのまま上昇する。
「飛行能力持ち……!?」
「ああ。しかしそれは、同時にHPが残り7割になった証拠でもある」
人型のモンスターが飛行能力を持っていたことに驚きを隠せない俺に、ヒースクリフが『ミネルヴァ』を見上げながら冷静に答えた。
「パターンの変化はもう1つある。HPが残り2割になった時、槍と盾を捨て《二刀流》になる」
「鉄壁の防御を捨てた背水の陣かよ……って言うか《神聖剣》に《飛行》、《二刀流》の3種類のユニークスキル積み込むなんてどんな神経してるんだ」
「ふっ。そう簡単にユニークスキルを取らせたくはなかったのでね」
ああ、そうかい。言葉には出さず、俺はハイポーションを口にして減ったHPを回復する。
第1ラウンドが終わり、第2ラウンドの始まりってわけか……。
空に浮かぶ『ミネルヴァ』を睨みつける。女神は斜め後方に一瞬移動したかと思うと、反動をつけて地上に飛び込んだ。
――一体どれほど長い時間戦い続けただろう。
《二刀流》に装備を変えた『ミネルヴァ』の圧倒的攻撃速度を前に俺は押されそうになったが、ヒースクリフが防御に徹して防ぐ合間に俺が攻撃すると言う作戦に切り替えてから、かなり長い時間が経過した気がする。
もはやポーションは底を尽きつつあり、気力・体力もとっくに限界を超えていた。いくらHPを回復させると言っても、疲労まで回復させるわけではない。
それでも――まだ戦える。戦い続ける事ができる。
《二刀流》になったと言う事は、体力が2割を切った証拠。そこからかなりの時間が経過しているはずだ。
「(決める……決めてやる!)」
ヒースクリフの影に隠れて攻撃をやり過ごす。『ミネルヴァ』は両手の剣に闇色のライトエフェクトを纏い、防御ごと打ち砕こうと16連撃ソードスキル【ナイトメア・レイン】を繰り出す。
だが、《神聖剣》の防御を崩すことが出来ない。どの道崩したところでシステム的不死になっているヒースクリフを倒す事はできない。
「これで決めるぞ、ミスト君!」
攻撃が終わる寸前、ヒースクリフが叫んだ。つまり、もう一息と言う事か。
16連撃を耐え切り、硬直する『ミネルヴァ』へ十字斬り【ディバイン・クロス】が叩き込まれる。
「スイッチ!」
「――――ッ!」
合図と共に俺は前に出た。
俺の持ち得る中で最高の火力が出せる組み合わせの一つ――【スター・Q・プロミネンス】と【ファントム・レイブ】による合計12連撃!
「どうだ――ッ!」
文字通り切り札を切った俺は『ミネルヴァ』を伺う。
だが、ヒースクリフの攻撃を含めた14回攻撃を食らっても、『ミネルヴァ』はしぶとく耐え抜いていた。
手にした2本の剣が、青い輝きを放つ。こっちはスキルの発動硬直で動けない。
無理なのか……? あと少し……ほんの少しで手が届くのに……!
――もう1度……もう1度、俺にチャンスを!
「ッ……あああァァッ!!!」
あらん限りの力を込めて吠え、再び盾でソードスキルを発動する。
初期に使える基本的な突進技【レイジスパイク】。『ミネルヴァ』の剣が触れるよりも速く先端が胸を抉った。
『ミネルヴァ』のソードスキルが発動するよりも速く俺のソードスキルが命中したことでキャンセルされた。だがそんな事を一々確認する余裕はもう無く、全神経を『ミネルヴァ』を倒す事だけに注ぎ込む。
【レイジスパイク】の硬直を【バーチカル・スクエア】で、その硬直を【スター・Q・プロミネンス】で、さらにその硬直を【ヴォーパル・ストライク】でキャンセルし続け、再び【ヴォーパル・ストライク】で追撃しようとしたら不発した。
だが……それ以上の連携は必要なかったらしい。
合計26連撃……単独では24連続攻撃を全て受けた『ミネルヴァ』は、全身を光り輝かせて――次の瞬間砕け散った。
不発したソードスキルの慣性に逆らえず、俺は地面に倒れてそのまま2メートルほど滑る。
……HPはレッドゾーンに差し掛かっていた。
空中にはCongratulations!! の文字が浮かんでいるが、そんな余韻に浸る余裕も無い。
無我夢中だった。最後の最後で《剣技連携》の連続成功が無かったら、俺は殺されただろう。
むしろ、あれほどのボスを相手にたったの2人で勝つことが出来たのが奇跡に近い。
「おめでとう。素晴らしい戦いを見させてもらったよ」
ヒースクリフが拍手と共に賛辞している。
「《剣技連携》か。システム外スキルとは言え、凄まじい物だな。ユニークスキルを持たない君が単独で24連撃を成し遂げるとは、開発者としても非常に驚かされた」
「……………」
その言葉に返すだけの体力は、今の俺には無い。
そもそも俺の《剣技連携》は1コンボが今までの限界だった。6コンボなんて今まで出した事すらない。きっとこの先もこの記録を超えることは不可能だろう。
リザルト画面が表示され、大量の経験値とコル、そしてドロップしたアイテムが表示される。トドメを刺したのは俺だから、当然ラストアタックボーナスは俺の物だ。
「これで君もめでたくユニークスキル持ちになったな。喜ぶといい、最強にして最悪の力を君は手に出来た」
「…大層……な、フレーズだな……」
芝居がかったヒーフクリフに俺はどうにかそれだけは言い返し、体を起こした。
地面に座り、霧が掛かったような思考の中で改めてリザルトを確認する。
「これが……ユニークスキルに必要なアイテムなのか」
「ああ。それで無ければ10番目は使えない。無論それ単体でも強力な魔剣だ。しかし、それだけでは真の力を引き出せない。2つが揃う事で、真の力を発揮できる」
リザルト画面には、しっかりとラストアタックボーナスであるボーナスアイテムが表記されている。
魔剣……レア中のレア武器。有名どころと言えばラフコフのリーダーが持っていると言われる「友切包丁」か。
「「魔創剣 テラー・オブ・ジェネシス」……」
和訳すれば「創世の恐怖」……って所か。スペックを確認するが……当然と言えば当然だが、剣の要求値に対して俺のステータスが圧倒的に足りない。まず要求レベルが110とか。
「次は地獄のレベリングになりそうだね」
「……当然協力するんだろ?」
「無論だ。ここで放り出すのは中途半端だからね。私としても、その力を使う人間を間近で見たいとも思っている」
自分を殺す力を間近で見たいなんて、随分変わった趣味の持ち主だ。声には出さずに俺はそんな感想を抱いた。
リザルト画面を閉じ、今度はスキルリストを確認する。
……あった。確かに。獲得した記憶の無いスキルが最後のほうに表示されている。
「これが……俺の、力」
この力があれば……俺は戦える。誰であっても。
それが――キリトであったとしても。
如何でしたでしょうか?
ぶっちゃけてボスとか武器のイメージはクライシスコアから引っ張ってきてます(爆
じゃあユニークスキルはそれ繋がり……というわけでもありません(えー
いや、最初はそのつもりだったけど気付いたら原形留めてなくて、慌てて直したらこっちもこっちで原型なくて……気付いたら2パターンが出来ていた不思議。
ってことで活動報告でアンケートやります! どっちのユニークスキルが良いか!