寝て起きたらデスゲームに巻き込まれていたんだが。 作:リベリオン
えー、この間のアンケートの結果ミストのユニークスキルも無事に決定し、さらには今回着々と不穏なフラグを積み重ねてってますねー。
今回は時系列で言うとキリトたちがシンカーを救出に行った辺りからになります。
第12話 決別の扉
2024年 10月31日。
「……………」
1人その場に置いてけぼりにされ、俺はしばらく沈黙した後……。
「……はあ」
大きくため息をついた。
『ミネルヴァ』を倒してから1週間。ほぼ不眠不休でレベリングを続けた結果、現在のレベル101。「テラー・オブ・ジェネシス」を始めとして、クエストで入手した高性能の装備の要求レベルまで目前に迫った所で、突然ヒースクリフに今日は1日休みを言い渡されてしまった。
理由は単純明快、1週間もギルドを留守にしていたら運営に支障が出るし、何より無茶なレベリングは体に良くないと言われ、半ば強制的にグランザムに飛ばされてしまったと言うわけだ。
こっちとしては一刻も早く要求レベルまで到達して、ユニークスキルの熟練度を上げたいって言うのに……。いきなりの暇を押し付けられて完全に手持ち無沙汰になっている。
ヒースクリフはと言えば、知らん。向こうは直接ギルド本部にでも行ったんだろう。明日の朝、ダナクの転移門前で合流するとだけ言い残していたが。
……で、それまでの間どうしよう。
「……まずは武器のメンテナンスから、か」
街に戻る時間が少しでも惜しくて、あちこちの階層で武器を複数購入しておいてローテーションで使っていた。メインの「マーヴェルエッジ」を含めて合計4本も。さすがに上層の武器だけのことはあって性能は中々良い。
もっとも全部繋ぎであって、強化していく予定は今後もないが。かと言って壊して買いなおすわけにも行かない。
……となると、行くべきところは1つだけだな。
「――転移、リンダース」
転移門で行き先を唱えると、俺は目的地へ向かうのだった。
「リズベット武具店へようこ――ってなんだ、ミストじゃない」
「なんだとはなんだよ、客に向かって」
リズの店にやって来たとたん、出迎えたリズのぞんざいな扱いに即座に突っ込む。せめて最後まで営業スマイルを維持してから掌を返せ。
「別にいいじゃない、赤の他人ってわけでもないんだから」
「人の弱みを握った奴は余裕な事で……」
「なんか言った?」
いや、なんでもない。一瞬危ない光を目に宿らせたリズに全力で否定する。
シリカと付き合う上でどうしたらいいのか、色々と相談をしている内に頭が上がらなくなってしまった……これも全部アスナが悪いんだ。
「へくちっ!」
「? ママ、カゼですか?」
「う、うん……? なんだろう、誰かが噂して――ってコラキリト君っ! 意気揚々とさっきのカエルの肉を見せないで!!」
閑話休題。
「――と、とにかくだ。武器のメンテを頼みたいんだが」
「いいけど――って4本?! いつの間にこんなに手に入れたのよ」
メンテをする武器を受け取ろうとしたリズは、その数に目を剥いた。
メインで使う「マーヴェルエッジ」は当然として、他には現在未到達の層で購入した武器――「クリスタルスパイン」、「テア・フリューゲル」、「ウルティムスウェーリタース」。
どれもAGIやDEXに影響を与える片手剣だ。そして全部耐久値が半分以下で。
「しかも結構良い装備だし……なにやったらこんなのが手に入るのよ?」
「モンスター狩り続けていたらドロップして使ってた」
ステータスをチェックして、その性能の高さに当然気がついたリズに適当な嘘を並べて答える。
訝しむリズだったが、マナー違反だろうと思ってそれ以上追求はしないでくれた。
「けど4本ともなると、結構時間掛かるけど」
「いい。待ってる」
「……わかった。じゃあ適当に時間潰してて」
そう言ってリズは工房に潜って行った。
1人残されて、……どうしようか、と腕組みをして考え込む。
とりあえず店に飾られている武器を見て回る――すぐ見終わった。
「はあ……」
さすがに突然暇を出されたら、どうしようか悩まされる。
考えてみればヒースクリフ以外の人間と話したことだってかなり久しぶりだ。
……シリカは今、何をしてるだろう。今会いに行けば半端な迷いを生んでしまいそうで出来れば避けたい。
店の隅に腰を下ろし、雑念を振り払おうとする。
……それと同時に睡魔も忍び寄ってきて、うつらうつらとし始めた。
「(そう……いえば、『ミネルヴァ』を倒した後に……宿で休んで…以来、まともに……寝た…こと……)」
さすがに限界以上に疲労を溜めてしまっていた今の俺に睡魔に抗う気力はなく、そのまま意識を手放してしまった。
「(――にしても、やっぱり妙よね)」
回転砥石で刃を研磨しながら、どうにも腑に落ちない違和感に内心首を傾げた。
違和感の理由はミストの武器だ。確かに性能はいい。現時点で出回っている武器と比較すれば優れている事には違いない。ミストが命中率重視の武器を好んでいるから、その希望と合致している武器だと言うのも問題ない。
「(強化可能回数が10回。当然全部未強化。なのに図ったように全部同じ回数……)」
基本的にドロップしたと言うなら、強化可能回数にある程度のバラつきが出来るはず。名称もステータスも何もかも違うのに、強化可能回数だけは全部同じと言うのが引っかかっていた。
「……まるで店売りの武器じゃない」
1番納得できる可能性は、これよね。
砥石から離し、耐久値が完全回復したのを確認してから、あたしは別の武器を手に取る。
「テア・フリューゲル」と呼ばれるそれは、敏捷値と命中をそれぞれ+10加算する片手用直剣だ。
別に奇妙な点はない。ごくごく普通の剣だけど……。
「なーんか怪しいのよねえ……」
怪しい。と言うか怪しさ満点だ。
つい先日、シリカが迷宮区の帰りに寄って、ミストが今ソロでクエストを受けているとは聞いていた。
けどソロでしか受けられないクエストなんて聞かないし、パートナーであるシリカにも全て明かさないのもおかしいでしょ。
で、ふらりと戻ってきて、妙な武器を引っさげてメンテナンスの依頼……ねえ。
あと、久しぶりに会ったけど……なんかちょっと、様子がおかしかった。
なんて言うか……妙に影があると言うか。普段賑やかしなミストからは想像も出来ないくらい暗かったように見える。
何かあったのは間違いないと思うけど……あたしが聞くのもねえ。
「けど見ない振りをするってのも……う~ん」
……いいや、ひとまず全部研いでしまおう。話はそれからでも遅くないでしょ。
考えるのはひとまず後にして、あたしは剣を研ぐ事に集中する。
残りの剣も研ぎ終えて、全部抱えて店に出るとミストの姿はなかった。
「あれ?」
終わるまで待ってるって言ってたはずだけど……改めて店内を見渡すと、隅の方で蹲っている人影に気付いた。
「なに寝てんのよこいつは……」
人の店で堂々と眠れる神経の図太さに少し呆れつつ、あたしはミストの肩を叩く。
「ミスト。終わったわよ」
「……………」
声を掛けても返事はない。よっぽど深い眠りらしい。
……かなり疲れてたのかしら。いったいどんなクエストやってたのよ。
「あんまり無理はしない方が……って、無理した結果がこれじゃない」
心配したあたしだったが、ふと思い直して突っ込みを入れる。
とにかく、ここで寝られても困るのよ。かと言って起こすわけにも行かないし……。
「はあ~……仕方ないわね」
ため息をついてミストの方に腕を回して、そのまま工房へ運んでいく。
さすがにあたしの部屋に連れて行くのは無理だし、かと言ってお店の中も……なら工房に運ぶしかない。案外騒音で起きるかも。それはそれで好都合だ。
「よっこいしょ……」
ひとまず石畳の床にミストを降ろし、一旦部屋に戻って毛布を持ってくると上からかけてやる。枕? そこまで贅沢させる必要なんてあるの? 欲しかったらシリカにお願いしなさいっての。
さーて、お仕事お仕事。メンテナンスやオーダーメイドの依頼が多いのよあたしは。
カンカンカンカンッ!
チュィィィ…ン。
「(――ん、だ……?)」
なにやらやたらとうるさい騒音の音によって、泥沼に沈み込んでいた意識が僅かに浮かんでくる。
俺……寝てたのか。よほど疲れが溜まっていたのか……眠ったときの記憶が全く無い。どれくらい眠ったんだ。
……って言うかやけに硬い床だな。床って言うかなんかごつごつしてるし。それとさっきから聞こえる工事現場の作業音みたいな音は何なんだ?
「ん……んん……」
ゆっくりと起き上がると、掛けられていた毛布が滑り落ちた。……毛布?
寝ぼけ眼で周囲を見ると、ここは工事現場じゃなくて工房らしい。熱した金属をハンマーで叩いている人物の後姿には見覚えがある。
「リズ……?」
えっと……寝起きのせいか記憶があやふやだ。
確か俺はメンテナンスを頼みにリズの店に来て、時間がかかると言われて暇をもてあまして……ああ、座ってそのまま寝たんだったか。
それで作業が終わったリズが店に戻ったら、俺が寝ていてここまで運んできたと。夢遊病は患っていないはずだから。
状況を把握していくと、停滞していた思考が再起動する。
掛けられていた毛布を取って綺麗に畳み、リズを驚かせないように声を掛けた。
「リズ」
「……? あ、ミスト。ようやく起きたわね」
「悪い…。すっかり熟睡してたみたいだな」
「本当よ。もう夕方よ」
うわ、ほんとだ。視界の隅に表示される時間は既に16時を回っている。5時間以上眠ってたのか。
でもぐっすり寝たおかげか、疲れもだいぶ抜けたような気がする。長くても1時間程度しか休憩しなかったからな……レベリング中は。
「武器の全回復って、もう終わってるのか?」
「そんなのとっくに終わってるわよ……ほら、そこにかけてあるの」
リズが指差した先には、確かに俺が使っていた武器が立てかけられてある。ステータスを確認すると、確かに耐久値はマックスまで回復してあった。
「悪いな、面倒掛けて」
「良いわよ、別に。お詫びは……そうねぇ、今度素材の調達行くのに付き合いなさいよ」
「分かったよ。いくらでも付き合ってやるさ。あ、毛布ありがとな」
畳んであった毛布をリズに渡し、武器をストレージに納めていく。
と、収納が終わったところで振り返ると怪訝そうな顔つきでリズが俺を見つめていた。
「な、なんだよ?」
「いやさぁ、ちょっと気になることがあったんだけど……」
「気になること?」
「あの武器、全部ドロップしたって言ってたでしょ」
「ああ……それが?」
「その割には強化回数が一律で同じだし、なんか引っかかるなぁって」
っ……まずった。迂闊だったか。
基本的に店売りの武器はプレイヤーメイドで無い限り強化回数は概ね統一されている。
そして俺の武器は、その殆どが店売りの品……ドロップ品と言う割りに揃えたかのように統一された強化回数は、確かにおかしい。
どうする……シラを切り続けるしかない。
「偶然じゃないか? こいつら全部繋ぎで考えていたから、そんな所まで気が付かなかったし」
「そう……? それなら、別に良いんだけど」
深く突っ込んでくる事にはリズも抵抗があるのか、それ以上の追及は躊躇っている。
……大丈夫だ。俺が普通に振舞っていればリズも諦めるはずだ。
「それより代金、払わなくて良いのかよ?」
「えっ? あ……ああ、当然払ってもらわなきゃ困るわよ!」
「逆ギレすんなよ……ほら、確かに渡したぞ」
呆れつつリズに代金を払い、まだ納得してないような顔を浮かべながらもリズは受け取る。
「ん……まいど」
「じゃ、色々世話になった。忙しいところ邪魔して悪かったな」
「別に構わなかったけど……何してるのかは詮索しないけど、無茶は程ほどにしなさいよ」
「……善処する」
俺がしていることを知らないはずなんだが、様子から何か感じ取られたのかもな。
心配するリズに少し堅い口調で答えて、店を出た。
この後はどうするか……今の階層でレベリングが出来そうな場所は思いつかないし。それにヒースクリフに強制転移されそうな気もして迂闊に外に出れない。
となると……やっぱり。
「……帰るか」
もう1週間も戻っていない我が家に行くべく、俺は転移門へ足を向けた。
見慣れた景色のはずなのに、懐かしさを覚える。
……そう言えば、何の連絡もしてなかったが大丈夫か?
いや、自分の家なんだしわざわざ連絡するのも……でも心配を掛けたくはないし。
きっと俺を見たらシリカは驚くと……。
「……サプライズだよな」
うんそうだ。これはサプライズ。驚いた顔を見てみたい。
よって連絡は無しだ。1人勝手に頷いて、少し懐かしさを感じる見慣れた道を歩いていく。
案外クラインたちと攻略に出かけてるかもしれない。けど時間を考えれば帰ってきていてもおかしくはないか。
どんな反応をするかな……楽しみの反面、少しだけ怖くもある。
1週間も行方をくらましておいて、シリカはどう思っているだろう。嫌われていたっておかしくはない。
家の前までやって来たところで、臆病風に吹かれてきた。いっその事別の層で1泊していこうかとすら考えてしまう。
でも会いたいという思いが勝り、思い切って俺はドアに手を掛けた。
「ただいま――」
「……………」
家に入ると、驚いた顔で振り返るシリカ――いや、珪子の姿がある。上に上がろうとしていたんだろうか。
えっと……こういう時なんて言えば良いんだろう。全然思い浮かばん。けどこのなんともいいがたい微妙な沈黙を破りたくて、俺は何とか言葉を紡ごうと口を開いた。
「た、ただいま珪子。1週間も留守にしてごめ「霞さぁーんっ!!」んのあっ!?」
言葉を遮り、涙目で飛びついてきた珪子に驚いて少しだけよろめく。
「今までどこにいたんですか! メッセージを飛ばしても返事が無いし、位置情報も不明なままだったし! すっごく、すっごく心配したんですよ!」
「ご、ごめんな。ちょっとてこずってて……」
ああ、そうか。
今まで俺は未到達の層にいたから当然マップ追跡も機能しないし、メッセージも届かなかったのか。
俺が思っている以上にシリカのことを心配させていたみたいで、少し申し訳なくなる。
嘘をついて出て行って、何の連絡も寄越さず、そしてふらりと戻ってきた……泣かせてしまうのも当然だよな。
「大丈夫だって珪子。珪子に黙って死ぬとかは絶対にしないから」
「当たり前ですよっ!」
……怒られてしまった。
これは、このお姫様を宥めるのはかなり時間が掛かりそうだな……と、思っていたその時。
『きゅー!』
「おごっ!?」
聞き覚えのある鳴き声と共に何かが顔面に激突。そして鼻に思いっきり噛み付いてくる。
こ、こんなことをしてくるのは1人……もとい、1匹しかいない。
「ピ、ピナ! ピナさん! 静まってくださいませ、お怒りをお静めくださいー!」
『きゅきゅい!』
誰が静めるものか、と言わんばかりにピナは引っぺがそうとしても抵抗してきて離れない。
結局、2人(1人と1匹?)はその後も離れてくれずベッタリしていて、寝るのも一緒になっていた。
別にべったりなのはいい。それだけ甘えたかったし、心配していたと言う証拠なんだから。
だが、しかし……。
「(俺の理性はボロボロだ)」
どこぞのダディヤナザンを髣髴とさせる台詞を脳内で反芻し、隣で眠る珪子を伺う。
すっかり寝入っているが、その手は俺の服を掴んでいて離してくれそうに無い。
明日早く出かけるって話してもこれだからな……そして、それをきっぱりと断れない俺は半熟がお似合いだ。
「(そういう弱い心は捨てなくちゃいけないのに……)」
自嘲するように笑みを漏らして、自由に動く方の手で珪子の頭を撫でる。
明日は早く出ないと行けないってのに、もう少しだけ寝顔を見ていたい、と思った。
きっと最初で最後の休みで、珪子とこうして寝られるのはもう来ないと思うから。
甘ちゃんなのは分かってる。けれど、甘ちゃんにだって譲れない物が1つだけある。
それは、何があっても彼女を――珪子を向こうへ帰す事。そのためなら、俺は鬼に……いいや、この場合悪魔と取引したんだから悪魔になれる、か。
「お休み、良い夢を」
しっかりとその顔を目に焼き付けて、俺は目を閉じる。
昼間にかなり寝ていたはずだが、まだ完全に疲れは取れていなかったらしく、すぐに意識が闇に沈んでいった。
――早朝。まだ日も昇りきっておらず、朝もやが街に立ち込める中を転移門広場へ向かう。
まだ誰も外に出ていない時間の中、転移門の前に人影が立っていた。
「おはよう。ゆっくり休めたかね?」
「おかげさまでな……一応、感謝はしておく」
「なに、大したことはしていないさ。私もたまたま用があったし、ついでという奴だ」
「そういう事にしておく。けど、もうそんな気遣いは要らないからな」
「それは失礼した」
先に来ていたヒースクリフは、悪びれた様子もなく肩を竦める。
そんなヒースクリフに俺は軽く鼻を鳴らし、そのまま隣に立った。
「予定がずれた。あと3日でレベリングを片付ける」
「よかろう。とことん付き合うとも。――管理者権限発動、未到達層への移動制限を解除」
管理者権限によって本来まだ到達できていない上層への通行が許可され、続けてヒースクリフは転移先を口にする。
すると、青白い光に包まれて俺たちは別の層へ転移していった。
行き先は98層……主街区名は「ハインシュト」。99層はその構造上、迷宮区はボス部屋に直行する形になっているため、レベルを上げるなら98層で行う事になる。
装備を身に着け、さらにヒースクリフから飲めば一時的に経験値が25%増加する「経験値ポットEX」を受け取り、俺たちは迷宮区に向かう。
ここに出てくるモンスターのレベルは概ね110以上で、骸骨系や幽霊系が主だ。多少厄介だがヒースクリフも居れば問題ない。
あとはとにかく所得経験値+補正が入る装備で固めて、出てくる敵を片っ端から片付ける。
《二刀流》のスキルなら2本分の効果を得られてさらに増強できるんだが、残念ながら俺は《二刀流》になれない。
うじゃうじゃと出てくる骸骨を、幽霊を斬って、斬って、斬り刻む。
とにかくポットの効果がある内に多くの敵を倒さなきゃならないという忙しさはあるが、経験値倍率も高いうえに、俺と同じくポットを使ったヒースクリフが全ての経験値を譲渡してくれるから、目に見えてゲージが上昇していくのが分かる。
お互い言葉を交わすのは最小限、街に戻るのもアイテムを切らしたときのみだけと徹底的に戦い抜く事三日三晩――。
「弾け……飛べぇッ!」
クモの吐き出した糸を頭上に飛んで避け、上下逆さになって落下しながら左腕を突き出す。
赤く輝く左腕が人を軽々と食らえるだろう大グモの背に触れた瞬間、閃光と爆発が炸裂してクモを木っ端微塵に吹き飛ばした。
反動でまた浮き、逆さの体勢を入れ替える。
着地した瞬間、再び左腕が赤く輝き、腕を振るうと何発もの炎の弾丸を弾き出した。
それらは全て、タゲを取っていない先ほどと同じ名称の大グモに殺到し、ダメージを受けたクモは俺に向き直る。
迫るクモに俺は手にした剣を牙突のように構え、モーションを感知したシステムが剣をライトエフェクトで発光させる。
――踏み込む。あらゆる障害をなぎ倒すほどの突進力を持って剣を突き出し、その切っ先がクモを真ん中から貫き、衝撃で上に打ち上げた。
まだだ。振り向きつつ、剣を逆袈裟で2度振り上げる。
Xを描く真紅の衝撃波が落下したクモを切り裂き、既に息絶えていたクモにダメ押しの一撃を叩き込んだ。
「……………」
あらかた狩り尽くし、俺は一息つく。そして、HPゲージに目をやった。
「3回のソードスキルで半分近くか……」
半分近くまで減少したHPを見てそう呟き、なんともイカれた代物じゃないか、と自虐するように笑みを浮かべる。
ユニークスキル《魔装術》。『ミネルヴァ』を打ち倒した者に与えられる神の力……とでも言うべきか。
その内容は、本来SAOに存在しないはずの《魔法》と呼べるものを限定的に使用可能にするというもの。そして、他のユニークスキルの何らかの特徴を持つということ。
つまり、このスキル1つでゲームバランスを崩しかねない他のユニークスキルの代わりになる事ができる。文字通りプレイヤーに残された最終兵器だ。
……とまあ、ここまでなら聞こえが良いが、その実態は最悪の代物だろう。
《魔装術》最大の特徴……それは、ソードスキルを使うためには自身のHPを対価に支払わなければならない。
この世界で死ねば現実世界でも死ぬという特徴を考えれば、いくら強力であってもそんなデメリットがあるなら誰も欲しがらないだろう。そういう意味でもこれは最終兵器と言うべきか。
まったく……もとことんエグイ仕様にしていやがる。ここにいないヒースクリフに対し、俺は内心吐き捨てる。
《魔装術》において真に求められるのは、力ではない。
それは……自らの命を引き換えにしてでもこのゲームをクリアするという覚悟。1を殺して99を救うという自己犠牲精神だろう。
……ある意味、俺に相応しいか。
「解禁されてから2日……熟練度はまだ半分にも届いていない……」
レベリングの用は済み、今俺は76層で熟練度上げをしている。上の層でリスクを犯して細々と上げるより、下で安全に上げるほうが効率的という判断からだ。
だが、思うように熟練度は上がっていない。《魔装術》の性質からソードスキルの乱発が出来ず、頻繁にポーションを補充しに街に戻らなければいけないのが足を引っ張っている。
さらにそれと平行し、戦闘スタイルの一新もやらなければいけなかった。
その理由は《魔装術》がその仕様上、盾を持てない事にある。持てないことも無いが、その場合スキルの1つが潰れるという弊害がある。そのため《神聖剣》だけは代わりになれないらしい。……もっとも、ラスボスと同じ能力を持っているというのも妙な話だからな。
だから今現在、盾持ち片手剣士だった俺は盾無し片手剣士へ移行途中。二刀流公表前のキリトの動きを参考にアレンジ中だ。
「やることが多すぎて目が回りそうだな……」
《魔装術》の性能把握、熟練度上げ、戦闘スタイルの一新……どれも平行してやらなければならない。
モンスターがリポップまでまだ余裕があるか……ポーション飲んでおこう。
「HPリジェネを入れていても……消費が激しすぎる」
回復していくHPゲージを見つめながら、俺はしかめっ面で呟く。
このあたりに出る敵のパターンは全て把握し、その上装備も一新したおかげもあってノーダメージでやれるぐらいにはなった。
当然さっきもノーダメージ。だが《魔装術》でHPを半分近く失っている。
もちろん《バトルヒーリング》も入っているし、HPリジェネの効果を持つお守りもつけている……が、消費に対して回復量が圧倒的に追いつかない……その消費に見合うだけの効果はあると言ってもいいんだが。
考えているうちにモンスターのポップが始まり、俺は休憩を終える。
「確か1度使えば一定時間効果が維持されるソードスキルがあったな……」
スキルリストを確認してみると、確かにそのスキルはあった。HP消費量は……リポップ前に使ったスキル3回分。一定時間維持されるなら、こっちのほうがコストパフォーマンスは良いかもしれない。
別に火力を求める必要は無いだろう。未強化とはいえ「テラー・オブ・ジェネシス」の攻撃力はこの層で不足に感じるほど低くはないのだから。
スキルが発動し、増えたばかりのHPを消費して能力が発動する。その特異な性質は他と比較しても明らかに異質だった。
感覚としては普段通り……で、良さそうだな。いや、考える前に行動だ。少なくとも4体は倒さなきゃ釣り合わない。
ポップしたばかりのイノシシ目掛け、俺は助走をつけて飛び掛る。そのまま上段から振り下ろした刃が、イノシシを斬り裂いた――。
――75層ボス攻略まで、あと2日。
と言うことで顔見せ程度ですが本作オリジナルユニークスキル、《魔装術》登場回でした。
いやもう、アンケートでブッチギリでこれに票が集まった時は思わず笑ってしまいましたね。
ちなみに今回登場したソードスキル、最初の3つと最後に使った1つのHP消費量は44%です。うん、凄まじく燃費悪い(爆
可能な限りHPを伸ばして、こまめなHP回復をしないとすぐ自滅するけど、一応コスパは釣り合っているはず……。
次回はついに75層ボス攻略! 果たして前座にされてしまいそうなスカル・リーパーの運命やいかに!?(何
それにしても感想でやたらとシノのんヒロイン化希望って強く推されるけど、理由がまったく分からない。いや、シノのん好きだけどね!(爆
ただ自分がやるよりも他にシノのんヒロインの素晴らしい作品が探せば多くあるんじゃないだろうか、と疑問に感じたり。
いや、リクエストしてくれるのは嬉しいしありがたいんですけどね。
GGOのシナリオ、おぼろげだけど浮かんでいるが、正直そこまで考え中。元々アインクラッドまでで完結って予定だったし、ズルズル引きずるのもアレだよなぁと。
っていうか、最近色々新作の案が浮かんでは構想に留めている段階のが多くて。ハイスクールD×Dとか、リリカルなのはとか、俺、ツインテールになります。とか、クロスアンジュとか。個人的に3と4がノリそう。
……アレ? 何についての意見書いてたんだっけ(ぉ
まー、ひとまずこれを終えてから考えよう。