寝て起きたらデスゲームに巻き込まれていたんだが。   作:リベリオン

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 スカル・リーパーさんは犠牲になったんや……(ぉ


第13話 最後の戦い

第13話 最後の戦い

 

 ――――2024年、11月7日。

 

「さぁーて、今日も張り切って仕事しますかねぇ」

 

 いつも通りに店を開け、大きく伸びをしたタイミングで来客を告げるベルの音が鳴った。

 ちょっとちょっと、まだ開店して10分も経ってないんだけど。最短記録に軽く驚きつつ、あたしは店内を伺う。

 

「リズベット武具店にようこ――」

 

 いつも通りに笑顔で迎えようとしたあたしは、その人物を見て固まった。

 血のように赤い、レザー系のロングコート。肩はさらに黒皮で補強され、さらにリベットで固定されている。

 他にも膝まで保護する黒のロングブーツ、左腕を覆う銀色に輝く鋭い爪状の突起を備えた小手、腰に下げた長剣……。

 そして、頭上に表示されるキャラネーム――「Mist」の文字に、あたしは言葉を失ってしまった。

 

「ミスト……よ、ね」

「……ああ」

 

 半信半疑のあたしに、ミストは簡潔に頷く。

 いや……だって、なに? どうしたのよその格好。

 あたしが知っているミストは、どちらかと言うと重装備系で……軽装備系のイメージが思い浮かばない。

 それに、身に纏う空気が以前とは明らかに違う。

 どちらかと言えば陽気で、騒がしかった印象があるのに……今は氷のように冷たくて、近づきがたい。

 

「朝早くから悪いが、急ぎで武器のメンテナンスをしてもらいたいんだ。3時間後に75層のボス攻略がある」

「え……いい、けど」

 

 ミストの変わりように理解が追いつかないが、辛うじて頷く事はできた。

 ボス攻略……だからあんなピリピリした雰囲気になってるの?

 75層って事はクォーターポイントだから、殺伐としそうなのは分からなくもないけど……でも、そうじゃない気がする。

 歩み寄ってきたミストが、提げていた剣を差し出し、受け取ろうとして――外見からは想像もつかないほどの重さに思わず取り落としてしまう。

 カラーンッ、と音を立てて床に落ちた剣に、あたしはまたも目を疑った。

 

「(何よ、この剣? 「エリュシデータ」や「ダークリパルサー」よりも、ずっと重かった……!?)」

 

 キリトの愛剣2本も重たいとは言え、持てない重さではなかった。

 でも、これは違う……あまりにも重過ぎて、あたしの筋力値では持てるかどうかも怪しい。

 

「ご、ごめん!」

「……いや、いい。他の奴には重過ぎるみたいだな。失念していた」

 

 謝るあたしにミストは特に怒りもせず、むしろ当然見たいな反応をして剣を拾い上げる。

 あたしには重過ぎるそれも、ミストは大したことが無いらしくあっさりとホルダーに差した。

 

「俺が持っていく」

「そ、そうね……じゃあちょっとお願いしようかしら」

 

 なんでそんな物を軽々持てるのか……いや、聞きたいことは山ほどあるのに、どうしても聞き出せない。

 工房に入り、そのまま回転式の砥石の前に座ると、あたしの前にミストが鞘から抜いた長剣を差し出してくる。

 立ったままだったらまた取り落としそうになったかもしれないが、あれはあの剣が予想以上に重かったこともあった。

 受け取ると、改めてそのずっしりとした重さに思わず顔を歪める。

 見たこと無い……サイズやデザインは一般的な片手用直剣に通じる。けど、その刀身は内側が真っ赤で、翼の意匠がデザインされた鍔と拳を保護する護拳が備えられてあった。

 剣のステータスを呼び出すと、情報がウィンドウに表示され、思わず息を呑んでしまう。

 「魔創剣 テラー・オブ・ジェネシス」……プレイヤーメイドや並みのモンスタードロップとは比較にならないレベルの、正真正銘の魔剣じゃない。

 そもそも魔剣自体、めったにどころか一生拝めるか拝めないかってくらいレアだし。あたしも当然見るのは初めてよ……。

 ……? なんか最後の方に「《魔装術》対応」ってあるけど……《魔装術》ってなに?

 

「どうかしたか?」

「へっ!? い、いやなんでもないっ! じゃあちゃっちゃとやっちゃうわね!」

 

 突然声を掛けられ、あたしは思わずドキリとして上擦った声を出してしまう物の、普通を装って砥石を稼動させた。

 回転を始めた砥石にゆっくりと剣を当て、火花を飛び散らせて剣を研いでいく。

 

「リズ」

「なぁに? 今集中したいんだけど」

「悪いが、1時間くらい仮眠させてくれないか。ここ最近殆ど寝てなかったんだ」

「別に構わないけど。今回は毛布とか出さないわよ」

「いい。隅で座ってるから」

 

 ……あいつ、また寝ないで何かやってたの。

 ちら、と横目で伺うと、本当に隅――売り場に出る階段の陰――に座り込んだミストは、そのまま目を閉じてしまう。

 色々聞きたいことが山ほどある。この剣やあの装備、そして明らかに違う様子。

 兆候は……あった。1週間前にもふらりとやって来て、武器のメンテを頼みたいと4本の剣を渡してきた時。

 

「(いったい何をやってたのよ……)」

 

 あの時の出来事も、きっと今のミストに深く関わっているに違いない。

 でもそれは、聞いていいことなの? あの時も結局聞けなかったのに。もしあの時聞いていれば、こうなっていなかったかもしれないのに。

 砥石に当てていた剣を少しだけ離した。

 ……やっぱり聞くべきだと思う。ミストに何があったのか、何をしていたのか。仲間として。

 

「……………」

 

 声を掛けようとして、けれど迷ってしまう。

 このあとボス攻略があるのに、今までろくに寝ていない状態のミストを起こしていいの? もし十分疲れが取れずに挑んで、致命的なミスをしてボスに殺されてしまったら……。

 あたしが原因、というわけじゃないかもしれない。けれど、ミストが死んだって知ったら責任を感じずにはいられない。

 ……万全とまではいかなくても、少しでも疲れを取ってもらいたいという気持ちが、起こすのを躊躇わせる。

 

「(いや……今無理に起こす必要はないはずよね。起きてからでも、ボス攻略が終わってからでも……タイミングはいくらでもあるはずでしょ)」

 

 ……うん、そのほうが良いわよ。どうせ攻略終われば、また砥いでくれってやって来るはずだし。

 ああ、けど……シリカはどうするんだろう。あたしでさえ気付いたんだから、一番近くにいるシリカが気付かないはずないと思うけど……。

 意外とシリカが先に問い詰めて、あっさり白状するかもしれないし。さすがにシリカに対しても冷たく接したりはしないはず。

 ――よし、そうと決まればこの剣をちゃっちゃと砥いでしまおう。ひとまずこの問題は棚上げしておいて、あたしは剣の砥ぎを再開する。

 ……しっかし重たすぎるわよ、この魔剣。他もこんな感じなの? 持ち運べる程度には筋力値上げておかないとダメよね。それこそ、両手剣や両手斧になれば怪しいし。

 

 

「こらー、いい加減に起きなさいよ」

「ぅ……?」

 

 言いながら軽く頭を叩くと、ミストは小さく呻いて目を開ける。

 

「終わったのか……随分長かったんだな」

「とっくに終わってるわよ。あんたに気を使って、1時間どころか2時間も寝かせてたわけ」

「2時間……?」

 

 起きたばかりなのか、ミストはあの時みたいな冷たい雰囲気を纏っていない。

 寝ぼけ眼で状況を確認していって……徐々にその顔が青ざめてくる。

 

「しまっ――! 寝過ごした!」

「いや、確かにそうだけど……まだ時間あるしそんな慌てなくても――」

「このあとポーションの補充とかもしておかなきゃ行けないんだよっ。リズ、剣は!?」

 

 いや、だからってそんな慌てなくても良いでしょ、と言うあたしの突っ込みはミストには聞こえてないみたいだ。

 ため息をついて鉄板の上に置かれた剣を指差す。きちんと黒皮の鞘に収めてある。

 飛び上がるように立ち上がったミストは急いで剣を腰のホルダーに差して、代金を払うと飛び出そうと階段を駆け上がる。

 

「ミスト!」

「っ、なん、なんだよ!?」

「やっぱそっちの方があんたらしいわよ! 何あったのか知らないけど、頑張んなさいよ!」

 

 振り返ったミストに腕を振り上げてエールを送る。

 その言葉にミストは驚いたような、それでいて何か躊躇うような顔を一瞬見せ、慌てて顔を逸らした。

 

「……からかうなよ」

 

 ただ一言、それだけを呟いて工房を出て行く。それから間を置かずにミストは外に出たらしく、くぐもったベルの音が響いた。

 

「からかうな……か」

 

 あの時、起きてからほんの僅かな間だけど、ミストは本当の顔を見せていた。

 ……やっぱりあれって表面上そう装っているだけで、根っこは何も変わってなかったんだ。

 なんでそんな事をするのか、考えたところであたしには分からない。

 出来る事は皆無事に帰ってきてくれるように祈る事だけ……歯痒くも思うが、あたしの戦場はあそこじゃなくてここだから。

 だから……帰っていた時はボロボロになってるだろうあいつを、精一杯弄ってやろうと思う。

 

 

 

 

 

 ――だけど、これがあいつとの最後の会話になるなんて……この時は考えてもいなかった。

 

 

 

 

 エギルさんやクラインさんと合流して、あたしは75層の転移門広場までやって来た。

 来て真っ先に感じたのが、皆が皆ある一点に目を向けていることと、いつも以上に空気がピリピリしているという事。

 視線を辿ればキリトさんとアスナさんの姿があって、エギルさんやクラインさんと談笑している。

 あたしはそれよりもまず、探し人がいないか周囲を見たけど……その人はまだ来ていないみたいだった。

 

「シリカちゃん」

「アスナさん……ちょっとだけお久しぶりですね、キリトさんも」

「ああ。……ミストは一緒じゃないのか?」

「それが……」

 

 2人にはミストさんのことはまだ話していなかった。前線から離れていたし、余計な心配を掛けたくなかったからだったけど。

 けど、あたしがミストさんから聞いた話を聞いて、2人は少し険しい顔つきになる。

 

「ミストの奴……1人で何をやってるんだ?」

「まったくだよなぁ! シリカちゃんを1人にして、自分はどっかに隠れやがってよ! 頼まれた時は俺も一言言ってやったんだが、頭まで下げられたら流石にな……」

「ミスト君、今日のことは知ってるの?」

「はい……時間までには来るって、メッセージが来たんですけど」

「2週間近くも1人で何をやってたんだか……」

 

 エギルさんがそう呟いたのを聞いて、あたしはふと気付く。

 キリトさんとアスナさんが前線を離れたのが、今からおよそ2週間前。

 そしてミストさんが1人で行動を始めたのも、ちょうど2週間前。

 ……2人が休んでいた事と、何か関係があるのかな? でもなんだろう……。

 

「……? あ――」

 

 ふと、あたしの後ろで転移の音がして、それに気づいたキリトさんが目を向け、意外な物を見たかのように驚いた表情を浮かべる。

 なんだろう、とあたしたちも振り返って――飛び込んできた光景に目を見開いた。

 

「……………」

 

 無言でゆっくりと、けれどしっかりとした足取りでこっちに来る人物。

 特徴的だった赤い鎧ではなく、赤いコートを翻して……腰に下げた黒皮の鞘に収められた長剣が、動きに合わせて微かに音を立てる。

 いつもの明るい顔はそこにはなく、人が変わったかのように冷たい気配を纏ったその人は、間違いなく……。

 

「ミスト……さん?」

「すまない……少し、遅くなった」

 

 大きく変貌した姿にあたしは一瞬息をするのも忘れてしまった。

 半信半疑であの人の名前を呼ぶと、一瞬あたしに目をやってから皆に軽く頭を下げる。

 言葉が出ない。それは他の皆も同じで、何を言えばいいのか迷っている。

 あたしたちの反応にミストさんは特に気にする風でもなく、怪訝そうな顔を浮かべた。

 

「……どうかしたか?」

「あ、いや……」

「どうかしたかって言われると……」

「なんと言えばいいのやら……」

「そう、だな……」

 

 聞かれ、しどろもどろになるキリトさんたち。

 無言でミストさんのことを見つめていると、視線に気づいたミストさんがあたしを見る。

 

「どうした、シリカ」

「ミストさん……ですよ、ね?」

「ああ。長い間1人にさせて、悪かったな」

 

 どことなく哀しげな笑みを見せて、ミストさんはあたしの頭に手を置く。

 なんでだろう。今のミストさんは……どう見たってなにかある。けれどそれが何なのか、どうしても分からない。

 

「……ミスト、シリカから聞いたぞ。2週間もどこにいたんだ」

 

 少しキツイ口調で、キリトさんがみんなの気になっていたことをついに聞きだす。

 ミストさんはキリトさんを一瞥し、自身の装備に目をやってコートの裾を少し広げた。

 

「この通り、新装備のドロップに精を出していた。今後戦っていくには厳しいと感じていたんでな」

「けどお前……思いっきり変わってるじゃないか。《盾剣技》とかはどうしたんだ?」

「ああ、少しスピード重視にスタイルを変えたんだ。盾持ってると色々と不都合だから」

 

 「不都合だから」と言うミストさんの答えに、あたしだけじゃなくキリトさんたちも驚く。

 ミストさんが今まで絶大な信頼を寄せてきた《盾剣技》が、不都合だからとあっさり切り捨てた事に。

 盾でも限定的にソードスキルを使えるというアドバンテージがあったからこそ、ミストさんは今まで戦ってこれたのに。

 今更盾なしの片手剣士なんて……どうして?

 何もかも変わり果てたミストさんに戸惑っていたら……また転移門から転移する音が聞こえ、ミストさんは振り返る。

 

「来たらしいな」

 

 物々しい集団が歩いてくるのを見ながら、ミストさんは呟いた。

 幹部の人たちを従え、先頭を立って歩く赤い鎧を来た人――《血盟騎士団》団長のヒースクリフさんが姿を見せ、他の人たちも緊張感に包まれるように感じる。

 ヒースクリフさんはポーチから回廊結晶を取り出して掲げ、キーワードを唱えると目の前の空間に波紋が広がり、結晶は砕け散った。

 

「さあ、行こうか」

 

 ヒースクリフさんがその場にいた全員に声を掛け、波紋を通り抜ける。他の人たちもそれに続いて続々と波紋を潜っていった。

 キリトさんとアスナさんが潜っていくのにあたしたちも続いていく。

 転移先のボス部屋前は静かだったけど、それが逆に嫌な感じだった。静かすぎて耳が痛くなりそう。

 先に転移してきた人たちは最後の準備をしている。

 ……聞くところによると、ここのボス部屋も結晶無効化エリアで、それに1度入ったら扉が閉じられて出られない……つまり、逃げられないってことだよね。

 不安に駆られるあたしがミストさんを見ると、ただ1人、ミストさんだけは無表情を保っていた。

 ……やっぱりおかしいよ。ミストさんに何があったの?

 聞きたいけど、今は聞いている時間がないのがもどかしく感じる。

 と、視線に気づいたミストさんがあたしに顔を向け、また少し哀しそうな笑みを浮かべた。

 

 ――なんで、そんな哀しそうに笑うんですか。

 

 言葉にしたくても出来ない。

 呆れたり、楽しそうだったり、色々な顔を見せてくれたミストさんだったけど、そんな哀しそうに笑うことは1度だってなかったのに。

 

「準備は良いかな」

 

 やがて他の人たちの準備が終わり、ヒースクリフさんが全員を一瞥して声を掛けた。

 

「基本的には《血盟騎士団》が前衛で攻撃を食い止めるので、その間に可能な限り攻撃パターンを見切り、柔軟に反撃して欲しい。厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。――解放の日のために!!!」

 

 他の人たちが威勢よく吠える中、ミストさんが「――――くせに」と何か呟いたような気がした。

 扉が押し開き、ゆっくりと開いていく。各々武器を構え、いつでも踏み込める状態になっていた。

 あたしもダガーを構えるが、不意に抱き寄せられて目を丸くする。

 

「ミストさん……?」

「……ごめんな」

 

 突然抱きしめられて戸惑うあたしの耳に、そんな言葉が届いた。

 なんでいきなり謝るのか、いきなりの事に戸惑うあたしは分からなかったが、きっと2週間も放っておいての意味だろうと解釈する。

 

 ――そのごめんの本当の意味に……気づかないまま。

 

「だったら、終わったらまた思う存分遊んでくださいよ」

「……ああ、そうだな」

 

 名残惜しそうにミストさんは手を離し、あたしから離れて剣を抜く。

 翼のように広がる鍔に、赤い刀身の剣。装備が変わっても『赤』がメインカラーなのは、やっぱりミストさんだ。

 

「戦闘開始!」

 

 ヒースクリフさんの号令と共にあたしたちはボス部屋に流れ込んでいく。

 丸く円状に切り取られた平坦なフィールド。暗いけれどボスの姿は見えない。

 と、あたしたちが入ってきた扉が勝手に閉じ、そのまま透けるように消えていった。

 

「……何も、起きないぞ」

 

 誰かが上擦った口調で呟いている。

 でも、確かにいるはず……どこに?

 

「――! 上よ!!」

 

 突然アスナさんが上を見上げながら叫んだ。

 遥か遠い天井。そこに張り付いていたのは――

 骨で出来たムカデのように長い体に鎌のように鋭い腕を1対持った、遠目からでも分かる巨大なモンスターだった。

 名前は『スカル・リーパー』……。

 張り付いていた『スカル・リーパー』が離れ、地上に落下してくる。

 

「固まるな! 距離を取れ!」

 

 素早く皆に注意を促したヒースクリフさんに従い、皆落下地点から遠ざかろうとする。

 けど、恐怖に足が竦んで動けない人たちがいた。

 

「こっちだ! 走れ!!!」

 

 とっさにキリトさんが叫び、我に返って離れようと動き出す。

 その直後に『スカル・リーパー』が降りて、着地の振動で足元を掬われた。

 ダメ――間に合わない!

 

 ギィインッ!!!

 

 反射的に目を逸らしたあたしだったけど、鋭い金属音に思わず目を向ける。

 

「ミスト……!」

 

 キリトさんも思わず驚いていた。

 

「っ……!」

 

 いつの間にか『スカル・リーパー』の正面まで接近していたミストさんは、手にした剣を両手で支えるような形で鎌の様な腕を受け止めている。

 

「早く……下がれ!」

「ひっ!」

 

 その眼光か、それとも目の前の光景に怯えたプレイヤーの2人は脱兎の如く『スカル・リーパー』から離れた。

 ミストさんはそのまま刃を下から掬い上げるように跳ね上げ、自身も飛び上がる。

 

『カカカカカカッ』

「煩いんだよ!」

 

 『スカル・リーパー』に向けて言い放ち、握り締めた左手が顔を殴りつける。

 一瞬後ろのめりに怯む『スカル・リーパー』にさらに2度蹴りつけ、【バーチカル・スクエア】を高速で叩きつけた。

 

「……すごい」

 

 その圧倒的な光景にあたしだけじゃなくてキリトさんも呆然とさせられている。

 けど、スキルの発動硬直と着地の隙を狙って『スカル・リーパー』が鎌を薙ぎ払った。

 その瞬間、鎌とミストさんの間にヒースクリフさんが割り込み、盾で鎌の一撃を受け止める。

 完璧なタイミングだった。ミストさんの動きを読んで、隙を完全にカバーしている。

 

「ぼさっとするな! キリト、アスナは2人で鎌を食い止めろ! 2人がかりなら防げるはずだ!」

 

 立ち尽くしていたあたしたちにミストさんが振り返って一喝する。

 我に返ったあたしたちも、ようやく攻撃に参加した。

 

「残りは側面から攻撃しろ! 盾を持たない奴は深追いしないで一撃離脱に専念、盾持ちは攻撃を防げるからって油断するな! 足でもこいつの一撃は重い!」

 

 まるで攻撃パターンを知っているかのような口ぶりで皆に指示を出し、ミストさんは正面から『スカル・リーパー』に挑む。

 防御は一切せず、攻撃一辺倒。けれどヒースクリフさんが的確に防御する事でその欠点を埋めている。

 

「シリカ、あいつの下に潜り込めるか!?」

「や、やってみます!」

 

 ミストさんの指示にあたしは応えようと動く。

 スライディングして『スカル・リーパー』の懐に潜り込み、【トライ・ピアース】で下から突き上げた。

 さらに足の間を潜り抜けたクラインさんも下から斬り上げる。

 それを煩わしく感じた『スカル・リーパー』が足を内側に向け、あたしとクラインさんを攻撃しようとした刹那、【ヴォーパル・ストライク】の音と共に飛んできたミストさんがあたしたちを攫いつつ突き抜けた。

 

「ミスト……おめぇ」

「……油断するな」

 

 降ろされたクラインさんはミストさんを見上げながら呆然としている。

 けれどミストさんはクラインさんに目もくれず、すぐに背を向けて走り出した。

 ただただ凄いとしか言いようがない。あたしたちの攻撃だと『スカル・リーパー』のHPバーは動いてないのに、ミストさんの攻撃は僅かだけど確実に減っているのが見て取れる。

 けれど、『スカル・リーパー』はそれまで戦ったどのボスよりも圧倒的に強すぎて、悲鳴と共に1人、また1人とガラスの砕けるような音と共に砕けて消えた。

 ミストさん、ヒースクリフさん、キリトさん、アスナさんの4人が必死に食い止めているけど、暴れる『スカル・リーパー』を食い止めるのは厳しい。

 それでも皆、必死になって『スカル・リーパー』に挑んでいく。座り込んでいたあたしとクラインさんも立ち上がって攻撃を再開した。

 それから先のことは……あまり覚えていない。

 覚えているのは誰かの悲鳴と、ガラスが砕け散るような音の2つ。

 ただ生き残る事と倒す事に必死になって、気付いた時には『スカル・リーパー』の5つあったHPバーも1本になっていて、残り数ミリ単位まで削られていた。

 

「全員突撃!」

 

 気付いたヒースクリフさんの号令で、弱りきった『スカル・リーパー』に全員で畳み掛ける。

 抵抗する力もない『スカル・リーパー』へ、全員必死の形相で武器を叩き込んでいった。

 そして――

 最後のHPゲージが削り取られ、最後の悲鳴と共に『スカル・リーパー』はガラスが砕ける音と共にポリゴンを崩壊させて消滅した。

 終わった……勝った、けど……誰も勝利の余韻に浸る人はいなくて、地面に座り込んだりしている。

 あたしももう、疲れ果ててミストさんの隣で座り込んでいた。

 ミストさんも疲れているはずなのに……何故かポーションを飲んでHPを回復している。

 そして――

 

 赤と黒の剣がぶつかり合い、火花を散らせた。




 さあ、最終決戦第1ラウンド。スカル・リーパーさんはあっさり退場しました。
 この回からはミスト君の視点ではなく、他からの視点で進んでいきます。今回はリズとシリカの2人ですね。
 んでもってミスト君無双。強さの指数的にはヒースクリフと同レベルって所でしょうか。《魔装術》は次回のとっておき……と言うか、集団戦じゃ味方への被害も大きいから向かない。かと言ってソロだとHP管理をより一層気をつけなきゃ死ぬし、使いどころ難しっ!
 次回はある意味本作のクライマックスにしてラストバトル。最終回でヒースクリフとのバトル、入れたほうがいいかなぁ。結果は結局同じだから蛇足になりそうな気がしなくもない。って所でバトル突入直後で考え中です。
 さてさて、果たしてミストはどうなるのか……って、あれだけフラグ立てまくってれば皆さん察しますよねー。
 寝て起きたらデスゲームに巻き込まれていたこの作品も、残すところあと2話! それでは次の土曜日に!
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