寝て起きたらデスゲームに巻き込まれていたんだが。 作:リベリオン
第14話 ぶつかり合う想い
誰も勝利した事を喜ぶ奴はいない。
当然だ。いくらクォーターポイントとは言え、異常な強さを誇った『スカル・リーパー』との戦いで多くのプレイヤーが死んだから。
「……何人やられた?」
いつもは明るいクラインの沈んだ声に、俺はマップを呼び出して、この場から消えた人数を確認する。
「……10人死んだ」
「……嘘だろ」
エギルだけではなく、それを聞いたほぼ全員の顔に絶望の色が浮かび上がる。
当然だ。今まで大なり小なりの被害は出たが、ここまで大規模な被害を出したのは久しぶりだったはずだ。
「あと25層もあるんだぜ……」
「本当に俺たちは……てっぺんまでたどり着けんのか……」
諦めるような空気が漂い始めて、俺も後ろにいたアスナも辺りを見回した。
……そんな中、ただ1人ヒースクリフだけが立っている姿を見て、俺は違和感を覚える。
あれだけ激しい戦いだってと言うのに疲労した様子もなく、HPゲージは相変わらずイエローゾーンに落ちていない。
――その光景を見て、ふとデュエルした時のあの一瞬が……最後の瞬間、異常な速度で引き戻された盾が脳裏をフラッシュバックした。
……まさか、けど……だとしたら……。
確かめる必要がある。俺は傍らに置いた「エリュシデータ」を拾い上げた。
「――キリト君?」
俺の動く気配に気づいたアスナが振り返る。
けれど、悟られるわけにはいかなかった俺は無言を保ち――ヒースクリフ目掛け飛び出した。
同時に片手剣の基本突進技【レイジスパイク】を繰り出し、気付いたヒースクリフが驚愕の表情を浮かべてとっさに盾で防ごうとする。
だがもう遅い。俺の突き出した「エリュシデータ」の切っ先は確実に捉え――
――捉えたはずの切っ先は、横から飛び出した赤い剣閃によって弾き飛ばされた。
「っ!?」
読まれていた? けどヒースクリフじゃない。あのタイミングでは防御も迎撃も間に合わない。
だが、迎撃したのは当のヒースクリフではなく、予想外の人物だった。
「ミス……ト……ぐっ!?」
赤いコートを翻し、青い光を纏った剣を振り下ろして「エリュシデータ」を弾いた人物に俺は意表を衝かれ、続けて繰り出された蹴りに反応が遅れて直撃を貰い吹き飛ばされる。
「――言っただろうヒースクリフ。ここで感づかれると」
淡々と、静かに語りながらミストは俺の前に立ちはだかっている。
俺を見下ろすその目はまるで氷のように冷ややかな物だった。
「ふむ……確かに君の言うとおりになったな」
「分かっていたなら対策ぐらい取っておけばよかっただろう」
「君ならきっと、こうしてくれると信頼していたのだよ」
「よく言う……」
2人にしか分からない会話に俺たちは完全に取り残されていた。
どうしてミストが……ヒースクリフを庇うのか、ショックが大きかった俺は言葉を失っていた。
「さてキリト……なんでヒースクリフに不意打ちしたかの理由だが、当ててやろうか? お前はずっと考えていた。この世界の創造主は今どこで俺たちを観察し、世界を調整しているのか、って」
「なんで……それを」
誰にも言った事のない事を言い当てられ、さらなる衝撃を受けてしまう。
「けど、今の今まで単純な心理を忘れていたんだろう。他人やってるゲームを隣で見ていることほど、つまらない物はない……ってな」
「……ああ」
得体の知れない恐怖を抱きながらも、俺は立ち上がって肯定する。
「なら、その答えを見せてやる」
言うが否や、ミストはその場で左に半回転し、同時に剣をヒースクリフに叩きつける。
狙い澄ました首を狙った刃は、しかし紫の障壁によって阻まれてしまった。
〈Immortal Object〉
ユイが攻撃を防いだ時と同じ……システム的不死……!
「……いきなり危ないではないか」
「どうせキリトに見破られたんだ。隠し通すのは無理だろう」
「それもそうか……いや、素晴らしいよキリト君。君ならいつか私の正体に気づくとは思っていたが、本当にここで気付くとは思わなかった」
「……それは、自分の正体を認めるということか。――茅場晶彦」
誰もが息を呑む。そして、その男は口角を釣り上げて笑った。
「その通りだ。君の読みどおり、私が茅場晶彦であり、このゲームの最終ボスとなる男だった。だが残念だったね、君よりも早く私の正体に気づいた人間が、1人だけいる」
「それがお前なのか……ミスト」
「そうだ。とは言ってもカンニングに近いが――。付け加えれば、俺はこの男の仲間さ」
「…………!」
あっさりと認めた挙句、この場に居る全ての人間を敵に回す発言に全員に衝撃が走る。
どうやってミストはヒースクリフの正体を……? いや、それよりどうしてそいつの仲間になったんだ……!
「どうして……! どうしてだミストッ!」
信じたくない。けれど現実に、ミストはヒースクリフを守った。
チラ、と後ろを伺うと、シリカがショックのあまり倒れそうになってアスナがとっさに支えている。
「利害の一致だ」
「利害……だって?」
「ああ」
それ以上答える気はないのか、ミストはそれっきり口を閉ざしてしまう。
どうしてヒースクリフの仲間になる事で、2人にメリットが生まれるんだ……? 茅場から何かを優遇される? いや、あれでフェアを心がけているあいつが肩入れするとは思えない。
「そんなこと……どうでもいいっ!」
その時、《血盟騎士団》のプレイヤーの1人がゆらりと起き上がった。
「俺たちの忠誠……希望を、よくも……よくもっ……よくもォォッ!」
叫び、剣を振り上げてヒースクリフに飛び掛る。
だがその間に割って入ったミストがあっけなく剣をいなし、そのまま顔を殴りつけて弾き飛ばした。
「ミスト……!」
「悪いな、外野は少し黙っていてくれるか? 今ここは大事なイベントの最中なんだ。ゲーマーならそれくらい分かるだろ?」
小バカにするように先ほど殴りつけた《血盟騎士団》のプレイヤーを見下して笑う。
未だに信じられなかった。ミストがこんな事をするなんて。
以前のあいつなら、理由もなくあんな風に人を見下す事はしなかったのに……。
「ヒースクリフ、こいつらを任せる」
「……まあいいだろう」
肩を竦めたヒースクリフは、素早くウィンドウを開いて操作する。
次の瞬間、1人…また1人と状態異常が発生して動けなくなっていった。
マヒのアイコン……ゲームマスターの権限を使えば他人のプレイヤーの状態異常すら操作できるのか。
気付けば俺とミスト、ヒースクリフの3人を除いて全員がマヒ状態に陥っている。こうなったら自力で解除する事は出来ない。
「ここで全員を殺して……隠蔽するのか」
「そんな理不尽な真似はしないさ。こうなっては仕方ないが、これもネットワークRPGの醍醐味と言えるか……私は最上層の紅玉宮で君たちが訪れるのを待つことにしよう。ここまで育ててきた《血盟騎士団》、攻略組プレイヤーを途中で放り出すのは不本意だが……なあに、君たちの力なら、きっとたどり着けるさ――と、言いたいところだが」
そこで区切り、ヒースクリフは笑う。
「キリト君には私の正体を看破した報酬を与えなくては。だが、ただ与えるのはつまらない。そこで、彼と――ミスト君と戦ってもらおう」
「なん……だと……」
戦う……? 俺が、ミストと?
「これは2人に対する試練だよ。お互いの目的のため、どちらかを殺してどちらかが生き残る。キリト君が勝てば私に挑む権利を、ミスト君が勝てば私は最上層で君たちを待とう」
「ふざけるなっ! そんなことできるわけ……!?」
拒絶しようとした俺だが、前に進み出たミストを見て最後まで言えなかった。
「良いだろう。俺の目的のためにも……キリト、お前は最大にして最後の障害だ」
「なんでだ……なんでなんだミストッ! 俺たち仲間じゃ……友達じゃなかったのか!」
最初に出会った時は変な奴だと思った。
攻略組という割には動きが素人で、かと思えば珍しいスキルを持っていて。
話してみればからかわれたりするけど悪い奴じゃなくて、なんとなく気が合って。
ビーターと呼ばれて差別されていた俺に対してもなんにも疑問に思わずに声を掛けてくれて……。
数少ない歳の近い知り合いで、一方的でも友達だと思っていたのに……!
「……お前も、そう思ってくれていたんだな」
「え……?」
その言葉と共に、哀しげな笑みを浮かべたミストに意表を衝かれる。
なんでそんな顔をするんだ。俺を障害だと言っておきながら。
「なあキリト。最後に1つだけ聞きたい。お前は向こうへ……現実世界へ帰りたいと思うか」
「そんなこと……帰りたいに決まってる!」
攻略前にアスナと話していた。
今、現実にある俺たちの身体は病院のベッドの上でどうにか生かされている状態で、何年も無事に続くとは思えないと。
ゲームをクリアできるできないに関係なく、タイムリミットは存在する。
残り25層……あとどれだけかかるか分からないのに、このチャンスを逃せば……100層に行く前に俺たちは死んでしまうかもしれない。
「お前だってシリカと向こうで会いたいだろう!!!」
「……そうか」
俺の想いが届いたのか、ミストは剣を下ろして俯く。
……分かって、くれたのか。
「……そうだよな。お前ならきっと、そう言うだろうな」
「ミスト……!」
通じてくれたと思った俺はほっとして安堵の表情を浮かべる。
けれど――顔を上げたミストの瞳には、冷徹な色がはっきりと宿っていた。
「なら、ここでヒースクリフを殺させるわけにはいかない」
「え……?」
はっきりと拒絶の言葉を告げられ、俺は一瞬その意味が分からず呆ける。
「どう……どう言うことだ。なんでそんな……」
「お前の言葉が全てだ。俺とお前の願いは、絶対に相容れることはない」
「相容れないって……なんだよ、なんなんだよ! どうしてそこまでヒースクリフに肩入れする! お前の願いって何なんだ!!!」
「言ったところで理解されないし、何も変わらない。――構えろキリト。俺は……お前の、敵だ」
「ミスト!」
もう……俺の言葉はミストに届かなかった。
赤い長剣を構えたミストは振り被りながら俺に迫る。動揺と混乱から立ち直れなかった俺は回避が間に合わず、「エリュシデータ」で剣を受け止める。
「やめて! ミスト君! こんなの……こんなのおかしいよ! なんで2人が戦わなきゃいけないの!」
「やめてください! ミストさん! ミストさんっ!!」
「ミストやめるんだ!」
「やめろぉー!」
アスナが、シリカが、エギルが、クラインがミストに叫ぶが、全てミストに届かない。俺はといえばミストの猛攻に防戦になるばかりだった。
「(強い……っ!)」
パワー、スピード共に俺が知っているミストとは比べ物にもならない。
ただステータスが優れていると言うだけではない。凄まじいまでの意思の力と呼ぶべき物がミストにさらなる力を与えている。
何度も打ち合うが俺はミストに手を出せず、突き出された剣を受け流して左腕で殴ろうとすると、それを読んでいたミストはバックステップで距離を取りつつピックを数本投げつけてくる。
4本のピックを弾き落としている間に2度バックステップで距離を取ったミストは、ようやく立ち止まった。
「何故反撃してこない」
「出来ない……俺にはお前と戦う理由はない」
「理由……か。俺にはある。ここでお前にヒースクリフを殺されるのは困ると言うな」
「だから! どうしてなんだ! 理由を言ってくれ!」
「言った所で意味はない……早く《二刀流》を使え。本気で来ないとお前が死ぬぞ?」
「……嫌だ」
俺にはミストと戦う理由も、殺す理由だってない。
もし殺してしまったら……シリカになんて言えばいいんだ。
「嫌……か。甘いなお前は。それでヒースクリフに勝てると思うのか」
「仲間を殺したくないと思っちゃいけないのかよ!?」
「言っただろう、俺はお前の敵だ。――少し、面白い話をしてやる」
構えを解き、剣を肩に担いだミスト。だがその姿には一切の隙は見当たらなかった。
不意を衝こうとしても、間合いに入り込めば即座に斬られる……そんな予感を俺は抱く。
「キリト、お前はこの世界で間違いなく最強の剣士だ。その《二刀流》は最大の反応速度を持つプレイヤーに与えられるユニークスキルで、そしてヒースクリフの《神聖剣》は不死属性を偽装するための物……ヒースクリフ曰く、ユニークスキルは他にも8種類存在し、中でも《二刀流》は魔王を倒す勇者の役割を期待していたらしい」
「……何が言いたいんだ」
「
「1人のプレイヤーって……まさか」
その言葉に、俺は1つの可能性にたどり着く。
ミストは静かに剣を眼前に持って行き……刀身の根元に左手を沿え、目を閉じた。
「キリトが『最強』で、ヒースクリフが『最高』なら――魔王に魂を売ってでも俺はなろう。『最凶』にして『最悪』の剣士に……!」
次の瞬間、剣先に向かって沿えた左手を動かすと刀身に何かの文字が浮かび上がると共に赤い光を纏っていく。
その異様な光景を目にして、俺は息を呑んでいた。
「ミストも……ユニークスキルを……」
詳細不明のユニークスキルに俺は最大限警戒する。
いったいどんなスキルなのか……皆目見当もつかない。
ミストは左手を握り締め、右肩に持っていくように動かす。
――と、手に赤い輝きが宿り、次の瞬間腕を振るったと同時に無数の炎が弾き出された。
「なっ……!?」
なんだよこれ!? 予想の斜め上を行く現象に俺は目を向き、迫る大量の炎を「エリュシデータ」でどうにか弾き落とす。
だが炎に意識を向けていた隙を狙ったミストが、間合いを詰めて左腕全体を赤く輝かせて突き出した。
とっさに身体を後ろに引かせるが、目の前でミストの腕の先から強烈な爆発が起きて吹き飛ばされてしまう。
「がっ……!」
どうにか致命傷は避けたが……あれが直撃していたら危なかった。もしかしたらあの一撃でHPが全損していたかもしれない。
地面に倒れこむ俺を見下ろしながら、ミストはゆっくりと突き出した腕を下ろしていく。
俺だけじゃない。一部始終を見ていた全員がその光景に目を疑っていた。
「なんだよ……そのスキルは……!?」
「《魔装術》。いかなる犠牲を払ってでも目の前の敵を滅ぼす、最強にして最悪の力さ。そうだな……SAOにはないはずの『魔法』に近い力を使える、って言えば、分かりやすいか?」
魔法……確かに、炎の弾丸や爆発するソードスキルはSAOにはないから、それを簡単に説明するなら魔法と言えば分かりやすいかもしれない。
けど、なんだ……? ミストの説明にはまだ裏があるような気がする。
……と、意識を逸らしていると突然身体が重くなって身動きが取れなくなった。
「ぐっ……!」
「便利だよなぁ? 範囲内の対象物の動きを抑え込める超重力って言うのは。鍛えれば『スカル・リーパー』みたいに巨大なモンスターすらも押し潰せるらしい。今の俺には中型を抑えるのが精一杯だが」
説明しつつ、俺がもがく様を楽しげに見下ろすミスト。
……気のせいか、さっきよりもHPゲージが減っている気が……。
――いかなる犠牲を払ってでも目の前の敵を滅ぼす、最強にして最悪の力さ。
さっきミストが言っていた言葉の、本当の意味はまさか……!
「ミスト……まさか、そのスキルは……!」
「気付いたか。察しの通りだ」
「まさか……なんで、そんな物を……!」
信じられない。けどミストが肯定したと言う事は俺の推測は事実だと言う事だ。
ユニークスキル《魔装術》……その力は確かに圧倒的だが、力を使うには対価がいる。それは――。
「自分のHPを……消費する……!」
どうにか重力に対抗しようとしながらそれを口にすると、全員に衝撃が走った。
誰だって信じられないだろう。この世界でHPが0になれば本当に死ぬ。いくら入手法が判明し、強力無比であろうとそんな致命的な欠陥があるなら誰も手に入れようとは思わない。
「例え自分の命を犠牲にしてでも、成し遂げなければ行けない目的がある。これはその『覚悟』を試される力だ。自分の命1つで魔王を倒せるなら、安い物だろう?」
「違う……! そんな力は……邪道、だ……!」
「邪道、か。確かにそうだな、お前の《二刀流》と俺の《魔装術》はいわば光と影。本来いくつもの条件をクリアしなければ解禁されない力を、俺はヒースクリフから与えられた。《魔装術》本来の役目は、他のユニークスキル持ちが倒された時の代わりになる物だったからな」
「どうして……そこまでして力を……求めるん、だ。ミスト……!」
「こうまでやらないとお前を倒せないからだ。その甲斐あって、腑抜けた臆病のお前をこうして圧倒できるんだから……けど拍子抜けだ」
落胆したように肩を落としたミスト。
戦えるわけがない。俺たちが戦う理由なんて……見つからないじゃないか。
ふと、今まで俺を見ていたミストが、俺から視線を外した。
「戦えないなら、戦う理由を作ってやろうか」
「なに……?」
意味深な言葉と共にミストは真っ直ぐ――マヒで動けないアスナとシリカのところに歩いていく。
――まさか。
――――まさか。
「戦う気のない奴を殺しても虚しいだけだからな。アスナ、悪いが俺に殺されてくれ」
「ミスト君……嘘、でしょ? 嘘だよね……?」
「や……やめてください! ミストさん! なんでキリトさんを……アスナさんを殺そうとするんですか! こんなの……絶対おかしいですよ!」
シリカの懇願をミストは一切無視して、目を見開くアスナの前までやって来ると見下ろし、剣を振り上げた。
本気だ。本気でミストは……アスナを――――!
「ぐっ…うぅっ――――うおおおおおぉぉっ!!!!」
その瞬間、俺の中で何かが音を立てて切れ、重力による束縛を振り切って跳ね起きて走り出す。
そして背中の「ダークリパルサー」も抜き、ミストに【ダブル・サーキュラー】を放った。
「ミストオオオオオッ!!!!」
吠え、2本の剣を微妙な時間差で突き出す。
気付いたミストは振り返り、ニヤリと嗤いながら2本とも見事に受け流した。
「やっとその気になったか……!」
「殺す……! お前に、アスナを殺させはしない!」
今の俺に躊躇いはない。
ミストを完全に『敵』と見なし、間合いを詰めて上下左右から高速の斬撃を繰り出す。
片手剣1本だけのミストは2本の剣を受け、弾き、逸らしていくが、俺の攻撃速度のほうが速い。
けれど、ミストの左腕に装備した小手は盾の性質も持っているのか、かなり硬いそれを巧く使って防いでいる。
「足元が留守だぞ!」
「ぐっ!?」
そう言い放った瞬間、俺は足元に何かが引っかかってバランスを崩した。
一瞬足元に目を向けると、柔道の内刈りをするようにミストの右足が俺の左足を刈って俺のバランスを崩したらしい。
後ろに倒れこみそうになる俺に、左腕を赤く輝かせながら突き出してくるミスト。とっさに「ダークリパルサー」を掲げると構わずそれを掴み、次の瞬間爆発が起きた。
弾き飛ばされる俺。「ダークリパルサー」も中ほどから折れてしまっている。
『スカル・リーパー』との戦いでかなり耐久値が減っていたが……それでもあのスキルは異常な破壊力を持っているらしい。
けど《二刀流》が使えなくても負けるわけにはいかない! 俺が負ければアスナだって殺される!
「ふっ……」
嘲笑を浮かべ、ミストは別のソードスキルを発動させる。けれどシステムが不発したのか、何も起きた様子はない。
チャンスだ……今なら硬直を狙える!
「はっ!!!」
片手剣の上段突進技【ソニック・リープ】を放つ。硬直も短いこれで、さらに追撃を――!?
「なっ!?」
だが俺の目論見は予想外の結果に終わった。
硬直で動けないと思っていたミストがまさか動き、間合いの外から剣が振り上げたかと思うと、俺の肩口から腰にまで赤いダメージエフェクトが発生してHPが削られる。
発動中に攻撃を受けて【ソニック・リープ】は当然キャンセルされ、俺は勢いを急速に失っていき、硬直を狙ったミストの回し蹴りで吹き飛ばされた。
「甘いなキリト。少なくとも《魔装術》を相手に常識的に考えないほうが身のためだ。こいつは他のユニークスキルの代わりになる役目を与えられたんだから、何かしらの特徴を持っていても不思議じゃないだろう?」
「な……じゃあ、1つのスキルで他のユニークスキルを使えるって事か……!?」
「大体そんな感じだろう。相応の
つまり俺は……俺やヒースクリフを含めた、他にも存在するであろう9種類のユニークスキルを相手にしているってことなのか……!
これが、最終兵器……自分の命を差し出して力を手に入れる《魔装術》……。
けど……だからって負けられない! ミストが言ったとおり、少なくとも反応速度は俺が勝っているなら……!
起き上がり、再びミストに斬りかかる。だがミストは剣の間合いの外から振るい、どうにか剣の軌道から見えない攻撃を防いでいく。
射程距離拡張系の能力……しかも拡張したリーチは目視できない。他に使われたスキルといい滅茶苦茶だ!
だがその分対価となるHP量もかなり多いらしく、イエローゾーンを大きく切っていた。
使えば使うほど、死に近づいていくスキル……こんな物を使ってミストは怖くないのか。
「(なんで……なんでそんな哀しい目をしてるんだよ)」
最初はアスナを殺されそうになって頭に血が上っていたが、徐々に落ち着いてくると時折哀しげな色を宿すミストの目やけに気になった。
もしかして……ミストはわざと俺を挑発させて戦う気にさせたんじゃないだろうか。
……でも何のために? もう、どれが本当のお前の顔なのか、俺には分からないんだ。
「くうぅっ!」
「ああっ!」
ぶつかり合う赤と黒の剣。あれだけ多くのソードスキルを使ったためか、ミストはそれっきりソードスキルを使ってくる気配はない。
いや、あくまで振りかもしれない。強力無比で未知数なスキルを相手にこっちがソードスキルを使うわけにはいかない。それを狙って何かを仕掛けてくる可能性もある。
剣の腕はほぼ互角。最初に出会った頃は頼りなく感じていたのに、今じゃ俺と渡り合えていた。
いや、ただ剣の腕だけを比べればまだ俺に分がある。互角に渡り合えているのはミストが蹴りや拳打も交ぜているからだろう。
剣がぶつかり合い、ミストは滑るように回り込みながら肘鉄を繰り出してきて、俺は前に屈むようにして避け、その勢いを利用して右足を蹴り上げる。ミストはそれを左腕の小手で受け止め、サイドステップで距離を取って体勢を立て直すと、また炎の弾丸を飛ばしてきた。
回避は難しいそれらを、1つ1つの弾道を見極めて「エリュシデータ」で叩き落していく。
だがこれは囮だ。弾幕に紛れて接近してくる……そう思っていたら、今度は銀色に光る物体が飛んできた。
「(ピック!?)」
さらに囮を入れられて俺は意表を衝かれるが、ピックの威力は大きくない。それに炎の弾丸よりも軌道が直線だったから迎撃は容易だった。
「――そこか!」
そして今度こそ本命が姿を見せた。
姿勢を低くし、地面を這うように駆けて、ミストが左側から姿を現す。
「こっのおおおぉぉ!」
突き出された剣の切っ先を払い、カウンターで蹴り上げる。辛うじて左腕で防いだミストだったが、衝撃で弾き飛ばされた。
行ける。空中に浮いたミストに【ソニック・リープ】を放とうと剣を背負うように構え、発動する。
だが……ミストはニヤリと嗤うと、突然空中で静止し、体勢を立て直した。
「甘いって言っただろう!」
振り下ろされた「エリュシデータ」を自身の剣で弾き、そのまま俺の胸倉を掴み上げ、ヘッドバットが炸裂する。
鼻に鈍い痛みを感じ、そのまま数回回転したミストは地表へ投げ飛ばした。
叩きつけられて地面をバウンドし、それでもどうにか受身を取って起き上がる。
残りのHPは少ない……いや、ミストのHPがグリーンゾーンまで回復してる!? あの弾幕の最中にポーションを使ったのか!
「避けないほうが身のためだぞ!」
「何を!!」
言うが否や、青白い光を剣に纏い急降下突撃するミスト。どうにかステップで回避したが、ミストは振り返ると共に剣から衝撃波を2発連続で放ってくる。
目を剥き、さっきの言葉の意味を理解するとともに回避しようとするが、横のリーチが広い上に背後にいるプレイヤーが巻き添えを食らう。
歯噛みしながら俺は【バーチカル・スクエア】で衝撃波を相殺するが、致命的な隙を晒してしまった。
しまった、と思った時にはもう遅い。口角を釣り上げたミストは助走をつけ、空中に飛び上がると、落下しながら左腕を振り被る。
またあの爆発が来る。あれを受ければ今度こそ俺は――!!!
「キリト君!」
「ミストさん!」
アスナとシリカが叫ぶ。
もうミストの間合いに入った。突き出されようとする左腕。ようやくスキルの硬直が解け、俺は迎え撃とうとするが……もう遅い。
けど――。
「え……?」
腕が伸びる寸前、ミストが躊躇うような表情を浮かべ、一瞬腕が止まる。
その僅かな差で苦し紛れに突き出した「エリュシデータ」の切っ先は、ミストの身体を深く貫いていた。
何が起こったのか、その状況を理解できなかった俺は、折り重なるように寄りかかってきたミストに呆然とする。
「ああ……」
耳元で呟かれるミストの声。俺が良く知る声音で、それはどこか穏やかな物だった。
「やっぱ……キリトは強い……な」
「ミスト……お前……」
最後の一瞬、わざと手を止めただろう。
あの一瞬がなければ、俺はあの爆発を受けて確実に死んでいた。なのに……。
「なんで……なんでだよっ!? どうして……お前、こんな……!」
そもそも俺が戦う事を拒絶していた間に殺すチャンスはいくらでもあった。
なのにわざと俺を怒らせ、本気にさせて、そして最後は……自分から刺されるなんて。
急速に減っていくミストのHPゲージを見て、俺は反射的に「エリュシデータ」を引き抜こうとするがミストに止められる。
「最後の最後……迷ったんだ。俺のわがままを貫けば……シリカ、が……帰れな……」
「止めろ! もう喋るな! 早く手を離せ!」
「いい……これは、俺の罰だ……皆を……裏切った……」
レッドゾーンに入るHPゲージに俺は何とかミストを引き離そうともがくが、それでもミストは離れようとしなかった。
苦しそうに顔を歪めながらも、それでもミストは笑みを浮かべる。
「シリカ……を…………向こう、へ……帰してやって……く…れ…………。俺の……最後の……ねが…い………」
「ミスト……ッ!」
そして――ミストのHPが無くなり、ゲージが消滅すると身体が白く輝きだした。
パァンッ、とガラスが砕けるような音が目の前で響き、ミストだったポリゴンは砕け散る。
寄りかかっていたミストの重さは一瞬で消え、キラキラと光るポリゴンの結晶が周囲に拡がって行った。
目の前の出来事が受け入れられなくて、俺はその場に立ち尽くす。
「い――――」
「いやあああああああああああああっ!!!!!」
シリカの悲鳴が……空間に響き渡った――――。
はい、ついに激突したミスト君対キリト君の全力全開最終決戦。
結果はこんな感じになっちゃいました……まあ、皆にトラウマ刻み付けちゃってます。
以前から宣言していた通り、この展開は比較的初期段階から決めていました。元々ミスト君が置かれている状況を考えたら、こうなるしかないよなぁと。
さて、この状態から果たしてどうなるのか……それは、皆さんの投票結果次第になります(爆
と言うわけで、「寝て起きたらデスゲームに巻き込まれていたんだが。」のエピローグと言うか、最終回はアンケートの結果で展開します! 他にも面白そうな案件があるよ!
詳細は活動報告を確認してください!