寝て起きたらデスゲームに巻き込まれていたんだが。   作:リベリオン

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 第2章開幕! 今回は妖精王オベイロンことゲ須郷さんが代わりに見所を紹介してくれるそうです。

須郷「あ、ありのまま、今起こったことを話すよ! 『超強化して手駒にしたと思ったら、いつのまにかボコボコにされていた』

 な、何を言ってるのか分からないと思うが、僕も何をされたのか分からなかった。

 頭がどうにかなりそうだった……ビーターだとかチーターだとか、そんなチャチなものじゃ断じてない。

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったよ……!!!」

 以上、ポルナレフ状態のディ……須郷さんでした。


復活ルート(フェアリィ・ダンス編)第2話 再臨:片翼の天使

フェアリィ・ダンス編

 

第2話 再臨:片翼の天使

 

 

「くっ……ぐ、ぅ……っ」

「キ…キリト……君……」

 

 両腕に力を込めて起き上がろうともがくが、目に見えない力はいっそう強く俺に押しかかってきた。

 

「(ようやく……ようやくここまで来たっていうのに……!)」

 

 目の前では同じように地面に押し付けられてもがくアスナの姿がある。

 多くの人たちの助けを借りて、ようやくこの世界に囚われていたアスナを見つけ出してここまで来れた。

 あと少しで彼女を帰せるのに、こんな所で……!

 

「(けど……この力は……)」

 

 かつて1度だけ、似たような攻撃を受けた事がある。

 俺の考えが正しければ、これは……!

 

「へえ~。重力魔法に耐えるとはやるじゃないか、ゴキブリ君」

 

 聞き覚えのある声が上から降ってきて、俺はどうにか顔を上げた。

 いつの間にそこに居たのか、王冠を頭につけて金髪を肩の辺りにまで伸ばした男の姿がある。

 

「お前……須郷か!」

「この世界でそう呼んでもらっては困るなぁ。妖精王オベイロン陛下と……そう呼べぇッ!」

「あぐっ!」

 

 頭に蹴りを入れられ、鈍い衝撃が走る。

 そのままオベイロンと名乗った須郷は、靴底を押し付けるように俺の頭を踏みしめてきた。

 

「どうだい? ろくに動けないだろう。次のアップデートで導入予定の1つ、重力魔法だ。お気に召したかなぁ?」

「やめなさい……卑怯者!」

 

 アスナの抗議に須郷は耳を貸す気も無く、面白おかしく笑うと1人で勝手に語りだした。

 このアルヴヘイム・オンラインの正体は300人に及ぶ元SAOプレイヤーを実験体として思考・記憶の操作技術を完成させること。

 人の魂の直接制御なんて神の領域に踏み込もうとしていた。

 当然そんな非合法的な人体実験、赦されるはずがない。そのための隠れ蓑がALOと言う世界だった。

 

「あなたのした事は赦されないわよ……絶対に!」

「釣れないなぁそんな事。むしろ僕は君たちにとって感謝される存在なのに」

「どういう……ことだ!」

「思考・記憶の操作技術と平行して、僕はもう1つの実験を行っていたんだよ。もっとも、それはいくつもの偶然が重なった結果なんだけどね。……それが――」

 

 『不老不死』――須郷の言葉に俺もアスナも耳を疑った。

 かつて多くの人間がそれを求め、結局手に入れることができなかったもの。そもそもそんなものが現実に存在するわけがない。

 

「ところがあったんだよ、不老不死と言うものはね! 現実の肉体と言う脆弱な器を捨て、電脳世界で永遠に行き続ける! これが僕の見出した不老不死の技術さ」

「そんなこと……ある、わけがない!」

「あったんだよなぁ、それが。むしろ君たちならよく知っているんじゃなかったかな?」

「なんですって……?」

 

 思わぬ須郷の言葉に俺たちは目を見開く。

 その反応がよほど面白かったのか、須郷は狂ったように笑い出した。

 

「あっひゃひゃひゃ! 案外冷たいんだねぇ君たちは! これじゃあ出てきてもらっても浮かばれないなぁ」

「何を……何を言っているんだ、お前は……」

「せっかちだな桐ヶ谷君……いや、ここではキリト君と呼ぼうか。――じゃあ、彼に出てきてもらおうか。感動の! 衝撃の! 悲劇の!!! 再会だァっ!」

 

 腕を上に突き出し、パチンッと指を鳴らす。

 ……けど何も起きる様子はない、そう思った瞬間。

 

 ――――空から闇のように黒い羽が舞い散った。

 

 思わず上を見上げると、右側の背中から漆黒の翼を生やした人影がゆっくりと降りてくる。

 血のように赤いレザーコートがはためいて、その人影は地上に降り立った。

 

「なっ……」

「うそ……」

 

 降り立った新たな人物の姿に俺もアスナも目を疑う。

 信じられない。信じられるはずがない。

 だって……だってあいつはもう、この世にいないはず。

 けど目の前の人物は紛れも無くあの時の姿のままで立っている。

 膝まで覆うロングブーツ、左腕は銀色に輝く鋭い突起を備えた小手、腰に下げた翼の意匠が施されたハンドガード付きの片手用直剣。

 

「紹介する必要はないかもしれないけど、一応しておこうか。今度のアップデートでグランドクエストに導入される新型エネミー、「片翼の堕天使」だ」

「……違う」

 

 そいつはそんな名前じゃない。

 そいつは……その男の名前は……。

 

「ミスト……」

「本当に……ミスト君なの……?」

「……………」

 

 俺たちの声が聞こえていないのか、コートの男――ミストは無反応のままだった。

 いや、その目は虚ろで、意思と呼べるものをまるで感じられない。

 

「無駄だよ無駄無駄、君たちがどれだけ呼んでも聞こえないから」

「須郷……ミストに何をした……!」

「何って助けてあげたのさ。データになって漂流していた彼を。SAOから多くコピーした影響からか、彼はここに流れ着いた。助けてやった見返りに色々と調べさせてもらったら……驚いたよねぇ。彼、完全な電脳なんだから。あの時の感動が分かるかなぁ……人類の永遠の夢だった不老不死に近づく鍵を! 僕は手に入れたんだから!!!」

「ふざけるな……! そんなことのためにミストを……!」

 

 あいつが……ミストがどれだけ苦しんでいたのか、知らないくせに……!

 ヒースクリフから聞かされたミストの隠された秘密を聞いて、俺はミストの苦悩を、葛藤を気付いてやれなかった。

 もし、もし気付いて声を掛けていれば……あんな結果にならなかったかもしれないのに。

 けれど最後には、ミストは俺に全てを託して……死んだのに!

 

「お……まえ、だけは……!」

「へえ~。重力魔法を受けてなお立ち上がるか。さすが英雄様だ。――けどね」

 

 立ち上がり、背中の大剣を抜いて須郷に詰め寄ろうとする姿を見て、須郷はニヤニヤと笑みを浮かべ、指を鳴らした。

 その瞬間、押し潰されそうな重圧が霧散し、一瞬意表を衝かれた俺はミストの剣戟で壁際まで吹き飛ばされる。

 

「ぐはっ!」

「キリト君! ミスト君なんで!?」

 

 突然ミストから攻撃をされ、アスナは目を疑う。

 

「無駄だよ。彼は今、僕の忠実な騎士。調べるついでに彼も思考・記憶操作技術の実験に使ってね……僕の思いのままさ」

「あなたは……どこまで卑劣なの!」

「卑劣ぅ? 言いがかりはやめてもらいたいな。僕は彼を救い、その見返りとしてほんの少しだけ調査と検証をさせてもらっただけだよ」

「意思を奪っておいてよく言えるわ……!」

 

 今のミストは須郷に操られた状態なんだろう。

 なら……須郷を倒せばミストを正気に戻せる!

 

「須郷ッ!!!」

 

 翅を展開し、壁を蹴る反動も加えて急加速して須郷を狙う。

 だが須郷は避ける素振りも見せず、代わりに割り込んだミストが手にした剣で俺の剣を受け止めた。

 

「ああ、そうそう……言い忘れていたけど、彼……ステータスを弄ったからかなり強いよ?」

「なに……っ!」

 

 意味深な須郷の言葉に追求しようとした瞬間、嫌な予感がして後方に飛ぶ。

 銀色に輝く小手をつけた左腕が俺の頭を掴もうとして空を切った。

 ……今のは、今の動作は……!

 あの装備は75層の時のものとまったく同じ。そして今のモーションは掴んだ相手を爆発させるソードスキル……! なら、ミストは《魔装術》を覚えたままこの世界に居るのか!?

 

「中々苦労したよ、彼の持っていた技を復元するのは。それで試しにグランドクエストの守護騎士と戦わせたら、1人で壊滅寸前まで追い込んだよ! けどエグイよねぇ。使うたびに命を削るなんて。しかもそんなものに手を出す彼もバカなんじゃないの? クククッ」

「お前……!」

 

 ミストのことを何も知らないくせに……そう叫びたかった俺だったが、間合いを詰めたミストが突き出した剣を弾くので気が逸れた。

 どうすればいい……須郷を倒すにはミストをどうにかしないといけない。けど簡単に道を譲ってはくれないだろう。

 考えを巡らせる間にもミストは仕掛けてくる。

 左手を開いたかと思うと、そこへ光の粒子が集まって歪な、それでも「剣」とはっきり認識できる形状へ変化し、ミストはそれを掴んで構えた。

 光の剣……《二刀流》のスキルを再現するためのスキルか! ヒースクリフの言っていた事は本当だったらしい。

 今の俺は取り回しに欠ける大剣1本。それでどうにか二刀流の攻撃速度に食らいつくが……!

 

「くっ……!」

 

 その反応速度はSAO時代の俺を凌駕しうるかもしれない。ステータスを弄られた影響か、あるいはミスト自身に何の躊躇いもないからか。

 

「さぁて、向こうが楽しんでいる間にこっちも楽しいパーティーを始めようか」

 

 俺がミストに翻弄されている間に、須郷はどこかから出した鎖にアスナを繋ぎ、そのまま引っ張り上げて強引に爪先立ちにさせる。

 

「やめろッ! アスナに手を出すなッ!!!」

「ンン~? ああ、ごめんごめん。そっちももっと盛り上げないといけないなぁ。システムコマンド! ペインアブソーバー、レベル10から8に変更!」

「あぐ…っ!」

 

 須郷が何かのパラメータを操作したかと思うと、ミストの一閃が俺の頬を浅く斬った瞬間、今まで以上の激痛が走った。

 

「痛いだろう!? 段階的に強くしてやるよ! もっとも、レベル3以下にすると現実の肉体にも影響があるようだが……ソレは関係ないよねぇ? だって生きてないんだし!」

「ふざけ…があっ!」

 

 どこまでミストを侮辱すれば気が済むのか、怒りと激痛に顔を歪めた俺へミストは更に腹へ膝蹴りを打ち込んでくる。

 

「ミス…ト……! 頼む……! 思い出してくれ!」

「……………」

 

 痛みを堪えながらも必死に呼びかけるが、ミストは虚ろな目で俺を見遣ったかと思うと、無造作に左下から斬り上げる。

 一気に3割近くまでHPが吹き飛び、今まで以上の激痛に意識が刈り取られそうになる。

 だが、ミストはなおも攻撃をやめる気配は無く……俺の頭を掴むと、胸に剣を突き立ててそのまま壁際へ叩きつけた。

 

「――――!」

 

 ――これは、報いなのか。

 

 薄れていく意識の中で、ぼんやりと思った。

 あの時なのも知らないままミストを殺した、その報い。

 大切な人を目の前で辱められる。そしてそれに手を貸すのがこの手で殺したと思っていた、意思を奪われ操り人形にされたミスト。

 ゲームの世界なら俺は最強の勇者で……。

 

「(いや……勇者なんかじゃない)」

 

 少なくともあの時のミストは俺よりも遥かに強かった。

 それはステータス的な強さじゃない。強い覚悟を宿したあの剣は、あの瞬間確かに俺を凌駕していたから。

 

「(俺には何の力も……覚悟もない……)」

 

 だから、この結末は当然の結果なんだ。

 アスナを助け出す事もできず、俺はミストに殺される――――。

 

『――逃げ出すのか?』

 

 遠くで声が聞こえる。

 

『――逃げ出すのか?』

 

 もう1度、今度ははっきりと声が聞こえた。

 それは抑揚が無く、俺の心が語りかけるようだった。

 

「(そうじゃない……現実を認識するんだ)」

『――屈服するのか? かつて否定したシステムの力に』

「(仕方ないじゃないか……。俺はプレイヤーで、奴はゲームマスターなんだ)」

『――それはあの戦いを、ひいては彼の託した物を汚す言葉だ』

 

 更にはっきりと聞こえる声。それは俺の中からじゃない……。

 気付けば、目の前に誰かが立っていた。ミストではなく……。

 

『私にシステムを上回る人間の意志の力を知らしめ、未来の可能性を悟らせた我々の戦いを……』

 

 両手をポケットに突っ込んだ白衣の男……。

 

「お前は……」

『――顔を上げたまえ、キリト君』

 

 白い世界が砕け散る中で、あの男は確かにそう言った。

 

「(――ああ、そうだよな)」

 

 気付けば目の前にミストの顔がある。

 さっきの光景が何なのか、今はどうでもいい事だ。

 

「確かに痛い……でも……!」

 

 所詮こんなものデータ上のもの。

 あの時のミストの剣はもっと重く、魂に響いてきた!

 

「ぐっ!」

「……!?」

 

 ミストの腕を掴み、左手をきつく握り締めて顔を殴りつける。

 衝撃でミストは剣から手を離し、その隙に俺は剣を引き抜いて地面に降り立った。

 

「やれやれ……妙なバグが残ってるなあァ!?」

 

 須郷はアスナを辱めるのを止め、俺に近づいて腕を振り被る。

 殴り飛ばそうとした須郷の腕を、俺は逆に掴んで受け止めた。

 

「んなっ!?」

「システムログイン……ID『ヒースクリフ』」

「な…なに!? なんだ、そのIDは!」

 

 自分よりも高位のIDを前に、須郷は始めて焦ったような表情を見せた。

 

「システムコマンド、管理者権限変更。ID『オベイロン』をレベル1に」

「ぼ、僕より高位のIDだとぉ!? ありえない! 僕は支配者! 創造者だぞ!!! この世界の王!!!」

「なにが王だ……」

 

 未だに事実を認めようとしない須郷に小さく吐き捨て、俺は顔を上げる。

 待ってろ……。今、お前を呪縛から解放してやる!

 

「システムコマンド! エネミー「片翼の堕天使」の拘束を完全解放! 戻って来い! ミスト!!!」

 

 

 

「――戻って来い! ミスト!!!」

「……へあ?」

 

 突然誰かに呼ばれ、思わず変な声を出してしまった。

 な、なんだここ? あれ? んんん???

 右を見ても左を見ても見知らぬ場所で、俺は首を傾げる。

 えっと……なんだ? どうなってんだ? 確か俺って……。

 

「ミスト!」

「はい?」

 

 名を呼ばれて、条件反射的に返事をしてしまった。

 下を見遣れば、黒いコートを着たツンツンヘアーの男と、あと何かわめいているホストみたいな風体の金髪、あと鎖につながれた女の子。なんだこれ?

 

「よかった……正気に戻ったんだな」

「正気? えっと……おたく、誰? なんで俺の名前知ってるの?」

「お、俺だよ、俺! キリト! そこにいるのはアスナ!」

「キリトォ? アスナァ? 冗談も休み休み言えって」

 

 いやいやいや、何この人俺の友人の名前語ってるんだ。新手の詐欺か?

 

「本当だ! 信じてくれ!」

「信じてくれって言われてもなぁ……俺の知ってるキリトはそんなツンツンヘアーじゃないし、何より……」

「……何より?」

「俺の知ってるアスナはそんな趣味ない」

「え……っ!!!」

 

 いったい何をやっていたのかは知らないが、俺は別に特殊な性癖の持ち主ではないのでそういう物に興味はないです。だから常識的に考えて目を逸らすのが普通でしょう。

 俺の指摘にようやくアスナを語る謎の女子も自分の格好に気付いたのか、顔を真っ赤にしてなんとか露出を減らそうとじたばたしている。けど鎖に繋がれているからそんなことできるはずがない。

 

「こっ! これは色々と複雑な事情があるの! っていうか半分ミスト君の責任なんだよ!?」

「いや、そんなこと言われましても……気付いたらこんな場所に居たんですし。そもそもなんで俺空飛んでるの? 何この翼!?」

「……さっきまでの空気見事にぶち壊してくれたよなぁ」

 

 キリトと名乗った男が呆れて苦笑いを浮かべている。と言うか、右も左も分からないんだからそんなこと言われたって仕方がない。

 

「あー。【フォロー・ウインド】を使っていて良かった……っと」

 

 短時間だがユニークスキル《飛行》と同じ状態になれるスキルを使った経験が役に立って、どうにか地面に降り立つ。

 しかし何なんだよ、この状況? だって俺、最後の最後でキリトを殺すの躊躇って刺し貫かれたはずなのに。あとなんだ? 見覚えのないゲージがHPの下にあるんだが。MP? なんで?

 

「で? 改めてお前たち誰だ? なんで俺の名前を知っていて、キリトとアスナの名前を騙るんだ?」

「まだ信じてくれないんだ……」

「何か……証拠になりそうなものがあればいいんだけど」

 

 証拠、か……そうだな。

 もし2人が俺の知っているキリトとアスナなら、俺の出す質問に答えられるはずだけど。

 

「じゃあ質問。俺の彼女の名前は?」

「「シリカ(ちゃん)!」」

「……正解。だったら、シリカのテイムしたフェザーリドラの名前は?」

「「ピナ!」」

「……正解」

 

 見事にハモッて2人は言い当て、さすがの俺も信用せざるを得ない。

 えーっと……つまり……。

 

「……本当に本人?」

「だから! 何度も言ってるだろ!」

「だ、だって俺の知っている2人の容姿と違うし……」

「それはアバターが違うからだ!」

「ああ、なるほど」

 

 キャラクターエディットがSAOと違うのか。そのエルフ耳とかなんなのかなぁと思っていたけど、これで納得した。

 

「おいこらァ! いつまでコントやってるんだよ! 僕を忘れるな!!!」

 

 その時だった。痺れを切らした金髪の男が地団駄を踏みながら俺たちの会話に割り込んできたのは。

 気付いた時からずっと騒いでいたし、最初は別にどうでもいい存在だったんだが、割り込まれると俺は面倒くさそうに目をやる。

 

「……で、なにあれ。歌舞伎町にいるホスト?」

「あいつはアスナや他の元SAOプレイヤーを仮想世界に閉じ込め、非合法な人体実験をやっていた。そしてお前にも同じような実験をやっていたんだ」

「つまりは悪党か」

「あ、悪党だと!? 創造主である僕に向かってなんだその口の聞き方は!」

「知るかよ。何も覚えてないんだし」

 

 けど、この状況から1つだけ俺にもわかることがある。

 それはこの男が2人を苦しめていた、ということだ。

 だったらここは1発やらないといけないよな、うん。

 

「くそっ! くそくそくそくそォッ! なんで僕の言う事を聞かないんだ! 僕は、お前の救い主なんだ! お前は僕に大きな恩があるんだぞ!」

「恩……ねえ」

「そうだ! 分かったら僕の言う事を聞いて、そいつらをぶち殺せ!」

「なるほど、大体分かった。――ところで、こんな言葉を知っているか?」

「な……なに?」

 

 ある程度男の話を聞き流して、俺は問いかけつつ左手をきつく握り締める。

 

「――――“恩を仇で返す”!!!!!」

「あごべっ!?!?」

 

 口角を釣り上げ、左腕を思い切り振り上げて顎を狙ったアッパーカットを放つ。

 完璧な不意打ちに金髪男は反応すら出来ず、強かに顎を打ち抜かれ衝撃で一瞬だけ宙に浮いて、そのまま地面に崩れ落ちた。

 

「見ず知らずの相手の言葉より、知っている相手の言葉の方がよっぽど信頼できるんでな」

「お前ってやつは……」

「……でも、元のミスト君なんだよね」

 

 振り返り、呆れる2人にふっと笑みを浮かべる。

 ……とりあえず、アスナさんのそれはどうにかならないのかね?

 アスナを視界に入れないようにしながら呟くと、アスナは顔を真っ赤にし、キリトは顔を青くして慌てて黒い刀身の大剣を拾い上げて鎖を切り裂いて解放する。

 

「うぅ……ぐぅぅっ! なんでだ、なんでだよ!」

 

 なんとか言い訳を口にしようとしたら、背後でうめき声が聞こえた。

 振り返ればあの金髪男が口元を抑えて蹲りながらわめき散らしている。

 

「僕はこの世界の神なんだ! 僕の言う事を聞けよポンコツがぁっ!」

「違うな! お前は盗んだんだ! 世界を、そこの住人を! 盗み出した玉座の上で、1人踊っていた泥棒の王だ!」

「泥棒……よく分からんが、泥棒って言うよりそれって道化じゃね?」

「ドロ…道化だと……! このガキがあっ!」

 

 今までの経緯から察してそんな感想が漏れたが、逆にそれは向こうの神経を逆撫でするものだったらしい。

 男は顔を歪めて手を前に突き出し、叫ぶ。

 

「システムコマンド! オブジェクトID、「エクスキャリバー」をジェネレート!!!」

「…………?」

 

 何をやるのかと警戒するが、結局何も起きずに肩透かしを食らう。

 けれど男はまだその事実を認められず、辺りに八つ当たりしていた。

 

「ミスト…これ」

「ん? あ……」

 

 キリトから差し出された剣を見て、思わずはっとなる。

 「テラー・オブ・ジェネシス」……俺があの世界で手に入れた最強の力。

 なんでここにあるのか……そもそもなんで俺はあの時のままなのか、なんて今はいいか。

 差し出された剣を受け取り、軽く振るう。何も問題はなさそうだ。

 

「アスナと話さなくて良いのか?」

「後で……現実世界でいくらでも話せるさ」

「……きっちり説明してもらうからな、全部」

「ああ。俺も……お前に話したい事が山ほどあるんだ」

 

 短いやり取りで、最大限の意思疎通を図る。

 なんだか懐かしいな……2人で戦うってのは。最初に出会ったとき以来、かも知れない。

 

「――システムコマンド! オブジェクトID「エクスキャリバー」をジェネレート!」

「ぬぐっ!?」

 

 キリトの高らかな叫びに金髪男はかなり動揺した顔を浮かべた。

 頭上に小さな波紋が広がると、そこから黄金のデータが降り注ぎ1本の剣がオブジェクト化する。

 黄金に輝く長剣。……エクスキャリバーって言ってたよな。ってことはあの聖剣なのか。

 

「コマンド1つで伝説の武器を召喚か……」

 

 それを見て皮肉交じりに呟くと、何を思ったのかキリトは金髪男へ「エクスキャリバー」を投げ渡す。

 突然投げられた「エクスキャリバー」を男はビビリながら受け止めるが、初めて剣を持ったのか腰が引けていてまともに持つ事もできないらしい。

 

「決着をつける時だ。泥棒の王と、鍍金の勇者の!」

「おいおい、しっかり俺の分も残してくれないと困るんだが。コイツ、俺を好き放題使っていたんだろ?」

「ああ……もちろん分かってるさ。システムコマンド、ペインアブソーバーをレベル0にッ!」

 

 またもキリトは管理者権限を利用して何かを変更する。

 

「――これで今から受ける痛みは現実と同じものになった。逃げるなよ……あの男はどんな場面でも臆した事はなかったぞ。あの、茅場晶彦は!」

「か、かやっ、茅場ァッ! そうか……あのIDは茅場の……! なんで、なんで死んでまで僕の邪魔をするんだよォッ!!!」

「茅場が死んだ……?」

 

 初めて知った真実に俺は眉を潜める。

 いや、ここにキリトとアスナがいる時点で悟るべきだったんだ。

 ここは……この世界はSAOじゃない。別の仮想現実なのだと。あの後茅場も倒れ、皆解放された――と思ったらことは簡単に転ばなかったらしい。

 

「……だったら茅場の協力者として、後始末くらいはしておかないとな。大口叩いて真っ先に死んだし、俺」

「ミスト……」

「気にするなよ、キリト。俺はお前のこと恨んでいないし、あの時自分が選んだ選択に後悔もしていない。強いて言えばちょっと恥ずかしいかな? あんな退場したのにのこのこ戻ってきて」

 

 けどまあ、これは俺らしいといえばらしいかもしれない。

 だったら次にどうするか……なんて、考えるまでもない。

 

「来いよ、ホスト被れ。今までの俺たちにやった礼をしてやる。もちろん倍返しだ」

「こ…のデータごときがァァッ!」

 

 怒り狂った男ががむしゃらに剣を振り回す。けどそれは剣に振り回されているだけで脅威になりもしない。

 余裕の笑みを浮かべながら斬撃をかわしていく。

 横薙ぎの一撃を左腕の小手であっさりと受け止めてしまうと、押し返してやってよろけた所を鼻の上辺りを狙って軽く斬りつけた。

 

「イァッ!? い、痛いィィッ!」

「痛いだ……? お前がアスナやミストに与えた苦しみは、こんな物じゃないだろう!!!」

 

 キリトが吠え、振り上げた大剣を男に振り下ろす。

 とっさに両腕で庇おうとした男だが、キリトの剣は剣を握った男の腕を断ち切った。

 

「いぎゃぁぁぁぁっ!? 手がァ! 僕の手がァァッ!」

「飛べ、キリト」

「っ!」

 

 俺がキリトの背中に向けて言ったと同時、キリトは即座にその場から飛び、足元を大量の炎の弾丸が過ぎ去って男に殺到する。

 小手調べにと《魔装術》の基本攻撃スキル、【スピット・ファイア】を使ったんだが……なんだこれは?

 熟練度次第で最大発射数が増加すると言うのは知っていたが、俺の熟練度では精々20発が限界だったはず。けど今のは明らかに40発以上が発射されていた。

 

「なんだこれ? スキルがバグッてるのか?」

 

 炎上する男を放置して、右手を振ってメニューを呼び出す。……が、なぜか出てこない。

 

「左手だ、左手!」

「左? あ、出た」

 

 キリトに教えられるままに左手を振ると、今度こそメニューが表示される。

 スキルを選択して、内容を……ってなんだこれ? 《魔装術》の熟練度がカンストしている。

 《魔装術》だけでなく、《投剣》と言ったほかのスキルも熟練度がカンストしており、おまけにステータスも異常なまでに高く設定されていた。これは明らかにプレイヤーの領域を超えているだろ……。

 

「お前をグランドクエストの新型エネミーに使うつもりだったらしいからな……高いのはそのせいだろう」

「人で遊びやがって……《魔装術》も仕様が変わってMP消費制にされているし」

 

 これじゃあ正真正銘、ただのチートじゃないか。いや……エネミーとして使うつもりだったなら、これくらいが良いのか?

 なんにしても都合のいい手駒にしようとして、逆に自分がピンチになるとか本当に間抜けだ。

 

「システムコマンド。ID「オベイロン」のHPを完全回復。更に自発的ログアウトを不可」

「キリト?」

 

 どう言うわけかキリトは男のHPを完全回復させた上に、ログアウトを不可能にさせてしまう。

 意図が見えずにキリトを見つめていると、俺を見返して不敵な笑みを見せた。

 

「ログアウトして逃げられるのも困るだろ?」

「なるほど、確かに」

 

 納得して男を見遣ると、すぐにでもこの場から逃げ出そうとしている姿が目に入る。

 

「逃がすかよっ!」

「うぐっ!?」

 

 助走をつけて男の頭上を飛び越え、前に立ちふさがる。「テラー・オブ・ジェネシス」の切っ先を突きつけられて、男は踏みとどまった。

 後ずさろうとしてもキリトが大剣を突きつけており、逃げ道は完全に封じられている。

 

「おい」

「ひっ!?」

「動かない方が身のためだ。ちょっとでも動けばザックリだから……な」

 

 脅しと同時に剣を振る。

 男の頬を浅く斬り、間髪いれず肩、上腕、脇腹、太もも、脹脛と……動作の速度を上げて行きながら斬りつけていく。

 それらの全ては浅い。だが、ダメージを与える事よりも恐怖を刻み込む事が目的だった。

 すぐには殺さず、じっくり、ゆっくりと。襲い掛かる超高速の斬撃の嵐は少しでも動けば深く斬りつけるギリギリのラインを保ちながら。

 不思議な感覚だった。以前の俺ならこんな、アスナ並みの正確さと剣速を発揮する事ができなかったと思うのに……。

 

「(まだ……まだだ。もっと上がる)」

 

 なんとなく確信すると更にギアを上げる。

 恐怖に顔を歪ませる男。その背後にいたキリトは俺の剣速と正確さに驚いている様子だったが、今はそんな事どうでもいい。

 やがて、全身が真っ赤なダメージエフェクトで覆われた奇妙なオブジェが出来上がった所で俺は剣を振るのをやめた。

 男は恐怖を顔に貼り付けたまま、その場に崩れ落ちる。

 

「あ……ひ、ぃ……」

 

 仮想現実に失禁なんてないが、もしそんな機能があったなら男は確実に漏らしていただろう。いや、現実世界では漏らしていてもおかしくない。

 

「そろそろ終わらせるか?」

「お前はそれでいいのか?」

「んー……まあ、個人的にはもうちょっとこいつをボコりたい所だが、後がつかえてるからな」

「……悪い」

「気にするな。じゃあ最後にハデな花火を上げるとするか!」

 

 ボロボロと涙を流す男の髪を掴んで強引に立ち上がらせ、そのまま上に投げ飛ばす。

 浅く腰を落とし、剣を構えるとシステムがモーションを読み取り、大量のMPを代価にその技を発動させた。

 

「【スターライト・エクスプロージョン】!!!」

 

 飛び上がり、男を斬りつけると同時に鮮やかな青白い爆発が起きる。

 

「あぼっ!? ぶべっ!? がべっ!?!?」

 

 更に斬り続けて行くとその度に爆発が起き、暗闇の空間を青白い光が染め上げて行った。

 《魔装術》最上位剣技の1つ、【スターライト・エクスプロージョン】。

 爆発属性を付加した剣による超高速の11連撃。爆発は当然独立したダメージ判定を持ち合わせており、実質22連撃を与えるに等しい。

 凶悪な破壊力を持ちながらも、鮮やかな青白い爆発が暗闇の中で咲くのは花火を連想させる。

 

「……ま、消費MP666(固定値)なのは良いことなのか悪い事なのか」

 

 最後の一撃を終えて着地してぼやくと、上から両手両足を失い、更に上半身だけの状態になった男が振ってきて、無造作に左手で掴む。

 

「あ……が……あぁ……」

 

 白目を剥いたもはや意識があるのかすらも怪しいが、このままで終わらせるつもりはない。

 

「正直、お前の事なんか知らないし、お前が具体的に俺に何をやったのかも知らん。けど……お前はキリトやアスナを苦しめた。だから――」

 

 ―――地獄に落ちろ、クソヤロウ。

 

 左腕が真っ赤に光り輝き、男を紅蓮の爆炎が跡形も残さずに焼き尽くした。

 

「……終わったな、これで」

「……みたいだな」

 

 男がこの場から消滅し、辺りが静寂に包まれる。

 改めて俺は、キリトとアスナと面と向かう。

 ……けど、今更どんな顔をして2人を見ればいいんだよ。2人を散々苦しめてきたのに。

 今さっきの事だってそうだし、あの時だってそうだ。俺と戦う事を拒否していたキリトを本気にさせるために、アスナを殺そうとしていたのに。

 

「今更遅いけど……すまなかった、2人とも。俺は――」

「……いいんだ。いいんだよ、ミスト」

 

 謝ろうとした俺を、キリトが優しい声で留めた。

 

「団長が教えてくれたの。どうしてミスト君があんな事をしたのか、その理由を……それと、ミスト君の身体のことも」

「……そっか。全部知ってるのか」

 

 アスナの言葉にそれほど驚きはしなかった。

 別に伝える事を頼んでいたわけでもない。だったら善意から……と言う訳でもないだろう。

 

「……キリトの精神を完膚なきまでに叩きのめしたのか?」

「ああ。立ち直れないくらいにな」

 

 その時のことを思い出し、キリトは苦笑いしながら頷く。

 けどすぐに真顔に戻り、どういうつもりか深々と頭を下げてきた。

 

「謝らないといけないのは、俺のほうだったんだ。何も知らなかったとは言え、俺は……ミストに酷い事を言ってしまった。ヒースクリフにも指摘されたよ。『友人から『死ね』と同然の言葉を言われれば、いくら命を捨てる覚悟を持ったとしても傷つくはずだ』……って」

「キリト……いや、違う。そんなことはない! あれは……あれは俺のわがままだった。現実にあるみんなの身体が限界に近づいているのを知っていながら、俺は自分の命を優先した。だから……」

 

 誰が正しくて、誰が悪いのか……そんな事俺にはわからない。

 

「……多分、あの時の言葉は全てだったんだ。最後のあの一瞬、もう1度自分の命とみんなの……シリカの命を天秤にかけて、悩んで……やっぱり、シリカに生きていてほしいって思った。あの世界でしか生きられない俺よりも、現実の世界で生きられるシリカに」

 

 だから最後の最後で、死んでも後悔しなかった。俺が死んでもキリトがきっと何とかしてくれると信じていたから。

 

「――だってのにこれじゃあカッコ悪いよな。死んだ時のために色々備えたのが馬鹿みたいだ」

「いいや……そんな事はない」

 

 情けなくって笑う俺にキリトは首を振って否定する。そして空いていた俺の左手を掴んで、さらにアスナも上から重ねるように握ってきた。

 

「生きていてくれてよかった……少なくとも、俺はそう思ってるんだから」

「そうだよ。もう1度会えて嬉しいって、私も思ってるんだよ。ミスト君」

「キリト……アスナ……」

 

 目尻をうっすらと潤ませて言ってきた2人に、思わず俺も目の奥が熱くなる。

 あんな酷いことをして、裏切ってしまった俺を、2人は生きていてくれてよかったと……またあえて嬉しいと言ってくれた。

 

「許して……くれるのか?」

「当たり前だろ……ヒースクリフと戦うとき、お前が後押ししてくれたから俺はまた立ち上がれたんだ」

「私もだよ。だって、ミスト君はただ皆と一緒にいたかっただけなんだよね? そんな事知ったら、恨むなんてできないよ」

「お前ら……っとに、夫婦揃ってお人好しだな」

 

 あんな仕打ちをしてなお、2人は俺を許してくれた。

 その優しさが何よりも嬉しく、同時に眩しい。2人を直視できず、俺は手を振り払って顔を背を向けてしまう。

 

「ほ……ほら、俺のことなんて良いだろ、もう。早く現実世界に戻れよ」

「ああ……そうだな。アスナを向こうへ帰してやらないと」

「とうとう……終わるんだね、帰れるんだね」

 

 アスナの言葉にキリトは相槌を打ちながら、メニューを操作してログアウトを選択する。

 

「現実世界は多分もう夜だ……でも、すぐに君の病室に行くから」

「うん、待ってる。最初に会うのはキリト君が良いもの」

 

 待ってる……か。

 アスナの言葉を聞いて、俺はシリカの事を思い浮かべた。

 彼女は今、どうしているだろう。……落ち込んでいるだろうな。ヒースクリフから聞いたとは言え、俺が何も言わなかったんだから。

 

「ミスト君」

「ん……?」

「バイバイ、また会おうね」

 

 にっこりと笑って、全身を光り輝かせたアスナがそう口にしたのと同時に光の粒子となって消えてしまった。

 

「また……か。いいのかよ、またお前たちと一緒にいても」

「当たり前だ。友達だろ?」

「本当、お人好しだよな、お前ら」

「そう言うお前は、少しだけ皮肉れたよな」

「う、うっさいな……」

 

 お前らが素直に喜んでくれるのがただ恥ずかしいだけだ。

 でも、アスナを無事に助け出して……これで全部、終わったんだよな。

 

「ああ。後始末の方はこっちに任せろ。けど、その前に――――そこにいるんだろ、ヒースクリフ」

 

 キリトが突然、何もない虚空へ声を掛けた。すると俺たちの上から何かが実体化し、ゆっくりと地面へ降りてくる。

 

「久しいな、キリト君。そしてこの姿で会うのは初めてになるな、ミスト君」

「ヒースクリフ……?」

 

 俺たちの前に降り立った白衣の男に、俺は眉根を寄せた。

 俺が知っているヒースクリフとは姿や声が違う。『茅場晶彦』本来の姿がこれか。

 でもどうしてキリトはヒースクリフがここに居るって……そもそも死んだって聞いたのに。

 

「生きていたのか」

「そうであるとも言えるし、そうでないとも言える。私は、茅場晶彦という意識のエコー……残像だ」

「相変わらずわかりにくい事を言う人だな」

「なら分かりやすく言うと、今の私は彼……ミスト君という存在に近しい存在だ」

「俺に……?」

 

 例えに俺を引き合いに出され、少し戸惑う。

 

「ミスト君、以前私は、君を電脳に近い状態……と言ったのを覚えているか?」

「……ああ。確か言っていたな」

「私も今はそれと同じ状態だ。君と言う可能性を見て、私もこの姿になる決意が出来た」

「じゃあ、お前も電脳になったってことなのか? けど待てよ、俺はあの時キリトに貫かれて死んだはずだろう? なのにどうして生きているんだ」

 

 そう。あの時、俺は確かに死んだ。

 SAOと言う世界での死は現実での死に直結する。それは俺も例外ではなかったはずだ。

 なのになんで生きている? そもそも俺は生きているといえるのか?

 

「幸か不幸か、君はあの瞬間『死』を迎えたのだろう。だがそれは同時に、君の居た世界との繋がりを断ち切るきっかけにもなった。その結果、半端な電脳状態だった君は真の意味で完全な電脳と化した……と、私は考える」

「……じゃあ、俺の世界にあった俺は死んだのか?」

「それは分からない。元々死ねば元の世界に帰れるという保証すらなかった。運が良ければ君の意識は君の居た世界にある君の肉体へと戻った……という可能性もある。今ここに居る君はその時残された意識の残像か、あるいは否か……そこまでは分からないがね」

 

 つまり今の俺は、死んだ衝撃で帰ったかもしれない意識から残った一部……かもしれない、ってことなのか。

 

「須郷に操られていたお前を助けるのに手を貸してくれたのが、ヒースクリフだったんだ。まあ、なんにしても礼を言っておくよ」

「礼は不要だ」

 

 あっさりと、そし少しだけ困ったような表情を浮かべて拒否したヒースクリフに、キリトは不思議そうに首をかしげた。

 

「君と私は無償の善意が通用する仲ではなかろう。もちろん代償は必要だよ、常に」

「……何をしろというんだ?」

 

 キリトが問い返した直後、頭上に眩い光が差し込んだ。

 黄金に輝くそれはゆっくりと落ちてきて、キリトの両手に収まる。

 見た目は黄金に輝く卵……といえば良いだろうか。

 

「これは……?」

「それは世界の種子、《ザ・シード》だ」

「《ザ・シード》……?」

「芽吹けばどういうものか分かる。その後の判断は君に託そう。消去し、忘れるも良し。しかし、もし君があの世界に憎しみ以外の感情を残しているのなら……」

 

 そこから先をヒースクリフは敢えて口にしなかった。

 けど、『それを世界に広めてほしい』……なんとなくだけど、そう言うんだと俺は感じ取る。

 憎しみ以外の感情、か……。最初は悲観したけど、それでもあの世界で過ごした日々は楽しかったな、俺は。

 

「では…私は行くよ」

「あ……待ってくれ!」

 

 去ろうとしたヒースクリフに、俺はとっさに声を掛けて引き止める。

 俺の今の状態は分かった。それには納得した。けれど……。

 

「俺は……俺はこれから、どうすればいいんだ?」

 

 やるべき事、やりたい事……何も思い浮かばない。

 これではまるで最初にSAOに放り出された時と同じだ。けれどあの時は「生きて、この世界から脱出する」と言う明確な目的があった。

 でも……今の俺には、何もない。

 

「…………それは君自身が見出し、決める事だ。ミスト君」

「俺が……見出す」

「だが、いつの日かまた会うことがあるだろう。それまで暫しの別れだ、キリト君、ミスト君」

 

 最後にそう言い残し、ヒースクリフは地面を蹴って闇の中に紛れる。

 瞬間、目の前に縦に亀裂が走り、そこから黄金の光が差し込むと一気に視界に広がった。

 思わず腕を目の前に掲げてやり過ごすと、いつの間にか見覚えのない、周囲が柵で囲まれた鳥かごのような場所に立っていた。

 

「ここは……?」

「アルヴヘイム・オンラインの中だ。ユイ! 大丈夫か!?」

 

 アルヴヘイム……? どこかで聞いたことがある気がする。

 それを思い出そうとしていたら、突然上から小さな女の子が姿を現したかと思うと、そのままキリトに抱きついてきた。

 

「パパッ!」

「ユイ! 無事だったか!」

「はいっ! パパのナーヴギアのローカルメモリに退避したんです!」

「パ…パパ?」

 

 いや待てキリト。お前俺と大して歳変わらないだろう。それなのに小学生くらいの子供が居るってどういうことだ?

 ……待てよ。ユイって名前にも聞き覚えがあるな。えっと……だめだ、1度に色々な事が起こりすぎてこんがらがってる。

 

「おい、キリト。その子って……」

「あ? ああ、そう言えば紹介してなかったな。この子はユイ。俺とアスナの娘だ」

「初めましてっ! ユイといいます!」

「ああ……これはどうもご丁寧に。キリトのとも……友達のミストです」

「なんで友達って言おうとして口篭るんだよ」

「は、恥ずかしいんだから仕方ないだろっ!?」

 

 不満そうに口を尖らせるキリトに、慌てて答える。

 なんて言うか、あんな事をやった後だからキリトの『友達』とはっきり答えづらかった。

 そんな俺たちのやり取りを見て、ユイと名乗った腰まで伸ばした黒髪が印象的なワンピースを着た女の子はくすくすと笑う。

 

「2人とも、とっても仲良しですよね」

「まあな?」

「でも、1番仲良しなのはママじゃないとダメですよ? パパ」

「ちょっと待て! 変な風に捉えないでくれるか!?」

 

 ミスキリって誰得なんです!? そんなの夏と冬の大イベントくらいでしか需要が……あ っ て た ま る か !

 

「パパとママから聞いていた通りですね、ミストさんって」

「だろ? やっぱりミストはこっちの方が良いって」

「な……なんか納得いかねぇ」

 

 果たして2人がこの子にどんな話を吹き込んでいたかは知らないが、俺の名誉だけは守られているはずだと信じたい。

 

「……でも真面目な話、どうなるんだろうな。この世界も、ミストのことも」

「……正直、色々起こりすぎて整理して考える時間がほしいって言うのが俺の本音だ」

「それでしたら、パパのナーヴギアにしばらく移るのはどうでしょう? 今のパパには管理者権限が残ってますから」

「ユイをカーディナルから切り離したのと同じ要領か……俺は構わないけど、ミストはどうする?」

「良いのかよ、そこまで厄介になっても」

「今更遠慮なんてする必要ないだろ。それに、ユイの話し相手もしてもらえるし」

「はいっ! 私もミストさんの考えを纏めるお手伝いが出来ますよ!」

 

 それは何よりもありがたい話だ。

 ……しばらくの間俺は考え込み、考えを纏めると頷いた。

 

「じゃあ……少しの間、厄介になる」

「ああ。じゃあちょっと待ってくれ、今ミストをシステムから完全に切り離すから。ユイ、ちょっと手伝ってくれ」

「はいっ」

 

 言いつつ管理者用のメニューを呼び出したキリトは、そこから俺をこの世界から切り離そうと試みる。

 それを横目に見つつ、俺は外に広がる景色に目をやった。

 正確な時間は分からないが、茜色の空を考えると夕方なんだろう。

 俺がアインクラッドで死んで、どれだけの時間が経ったんだろう……調べることとか、考える事が沢山ありすぎる。

 

「これでよし……と。完全にシステムから独立されたな。ミスト、終わったぞ」

「……………」

「ミストさん? どうしました?」

「あ? あ、ああ。なんでもない」

 

 ユイちゃんに呼ばれて我に返る。少しだけ感傷に浸ってしまったみたいだ。らしくないよな、こんなの。

 

「じゃあ俺は、ログアウトしたらアスナの病室まで行ってくるから」

「そうだな。早く会ってやれ……」

「…? どうした?」

「いや……杞憂だったら良いけど、あのホスト被れって強制ログアウトされたんだろ?」

「ホスト……須郷の事か。HPが全損したのならそうだろうな」

「だったらキリトに復讐する事だって考えられるし、用心はして置けよ。スタンガンの1つくらいは持ってけ」

「そんな物騒なものはないけど……でもミストの言うとおりだな、用心する」

 

 俺の言葉に頷き、キリトはログアウト画面を呼び出す。

 

「ユイ、ミストの事をよろしくな」

「任せてください!」

「じゃあミスト、またな」

「……ああ、また」

 

 別れの言葉を口にして「本当にログアウトしますか?」の確認に○をタップして、キリトは光に包まれていく。

 その光に俺たちも巻き込まれ、世界は暗転したのだった。




 シリアスと見せかけて正気に戻ったミスト君によってシリアルに強制変換されたの巻。(えー
 シリアスなんて前回ので十分ですよ。1章がダークなら2章はコメディにするしかない。
 今回だけのスーパー特別仕様でミスト君超強化されてました。全部須郷さんが良かれと思ってやったのが丸ごと仇になって須郷さんマジピエロ。


 そして次回、ついにエピローグもラスト。それでもってフェアリィ・ダンスも実質フィナーレ。最後は言わずもがな……?
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