寝て起きたらデスゲームに巻き込まれていたんだが。 作:リベリオン
第3話 GGOでのある1日
スコープ越しに見える光景は、ある意味人間離れした光景だろう。
いくら予測線が教えてくれるとは言っても、飛んできたレーザーを剣で撃ち落すなんて人間技じゃない。
けどそれを成してしまうのが私の相棒であり、最強の光剣使いとして『ラストフェンサー』の名で轟かせるクラウドだ。――親しい人は冗談の意味で『ジェダイ』と呼ぶ事もあったりする。
防護フィールドを所持しているといっても万能じゃない。距離が近ければ近いほどその効果が弱くなってしまい、白兵戦を行うクラウドには実質意味の薄い物だ。
「……………」
それでもクラウドは口元にかすかな余裕の笑みを浮かべてレーザーを悉く斬り裂いている。
あんな風に強くなりたい――しばらくその光景に見入っていた私だったが、思考を切り替えて狙撃に集中した。
トリガーに指をかけるとスコープに予測円が現れ、不規則に大きさを変えながら揺れ動く。
けどこの程度の狙撃なんて……造作もない。
トリガーを引き絞ると弾丸が撃ち出され、銃口から噴煙が噴出す。
――ビンゴ。
発射された弾丸は寸分違わずクラウドにレーザーを撃っていたプレイヤーの1人に命中。身体を真っ二つに吹っ飛ばした。
予想外の攻撃を受けて敵スコードロンに動揺が走る。そんな風に慌てていたらクラウドの餌食になるのに。
攻撃が止んだ一瞬の隙を突いてクラウドは敵スコードロンとの距離を縮めて行き、《MURAMASA》の間合いに入った瞬間、3つの剣閃が煌いた。
クラウドの得意技、『シャープネイル』。斬撃の跡が獣の爪痕を思わせる高速3連撃。
3つの剣戟でプレイヤーの1人がバラバラにされると、不利と判断した残りの3人は離脱を試みる。けれど私の《ヘカート》による狙撃がそれを許さない。
「ツーダウン!」
背中を向けた大口径レーザーライフル持ちのプレイヤーを狙撃で撃ち抜く。
その間にもクラウドは次のターゲットに《M10》を撃ちながら接近し、ブラスターで応射したプレイヤーのブラスターを腕ごと斬り裂き、首を刎ねる。最後の1人も私の狙撃であっけなく吹き飛んだ。
「……スリーダウン」
「さすがシノン」
「あの程度の狙撃なんてことないわ。それに、クラウドの方がよっぽど神業じみている思うけど」
「そうかぁ?」と大したことなさそうに言ったクラウドに、「そうよ」と私は答えた。
距離1500メートル先の動くターゲットを狙撃するのと、4方向からランダムに撃たれた銃弾を全て剣で撃ち落すのとどちらが難易度が高いか、と聞かれれば、私は間違いなく後者だと答える。
逆にクラウドは前者だと答えるのは分かっている。それは互いの戦闘スタイルの違いや経験など、複数の要素を踏まえた上での答えだ。
でも……クラウドの戦い方は余人には到底真似できる芸当じゃないと私は思う。あの反応速度は人間の域を超えていると思うから。
実際、クラウドの戦い方は注目度が高いから、大勢がこぞって真似ようとしてすぐに挫折している。
「それほどの腕ならBoBに出場すればいいのに……。クラウドなら確実に上位に入賞できると思うし、何より私が戦える口実になるから」
「別に名声に興味なんてないんだよ。毎月稼げればそれで十分」
こんな風にクラウドはあれほどの力を持ちながら、自身の力を証明したがらない。それでもそれなりに有名なのはGGOでも数少ないスナイパーの私がコンビに選んでいる(実際遠距離狙撃の私と近接白兵戦闘のクラウドとは相性が良かった)のと、その常識外れの腕前を持っていたからだ。
クラウドはPvE、PvPどちらも行う。本人としては「稼げるか否か」が大事らしく、強い拘りは持っていない。稼ぎはプロの連中には及ばないが、それでもリアルマネー換算で10万前後は稼いでいるらしいけど。
BoB――正式名称は「バレット・オブ・バレッツ」。GGOで行われる最大規模の大会だ――だけじゃなくても大小幾つもの大会がある。上位入賞すればレアな武器が手に入るし、そこで稼ぐ方がより早くて確実だ。
でもクラウドは「これ以上目立ちたくない」と言ってそう言った大会に参加する気は皆無で、こうしてPKしたりモンスターを狩っている。
「そもそも、俺なんて大した事ないさ」
――少しだけ哀しげな色を含んだ声で呟いたクラウドが、妙に印象に残った。
/
首都のグロッケンに戻ってきて、俺はシノンと今回の稼ぎを分配した。
さすがに2人でやると格段に楽だ。モンスターならまだしもプレイヤー相手だと1人で挑むのは遠慮したい。
理想を言えば戦力と稼ぎのバランスを考慮すると、3人でPKするのがちょうどいいくらいなんだがな……度々シュピーゲルを誘ってみるんだが、「2人の実力が違いすぎて追いつけない」って遠慮しているし。
別に遠慮する事はないんだが、どうにも卑屈な所があるのがあいつの悪い所だよなぁ。
「――ねえ、聞いてる?」
「あ? 悪い、ちょっとボーっとしてた。もう1度言ってくれるか?」
「だから、クラウドもBoBに出場してくれないかって言ったのよ」
他の事を考えていたら少し拗ねた口調のシノンの声に我に返った。
謝りつつ聞き返すと、口を尖らせたシノンから出てきたのはいつもの勧誘で、俺はまたですか、と溜め息をつく。
「良いってそんなの。俺別に最強の称号とか興味ないし」
「けど上位入賞すればレアな武器や賞金も出るんだから、出ても損はないでしょ?」
「別に今の稼ぎでも十分満足してる」
あれやこれやと手を変え品を変え、しつこく勧誘してくるシノンをのらりくらりとかわし続ける。
実際問題、最強なんてどうだっていいし、今のやり方で10万前後は稼げているから満足もしている。
別にPKが嫌いと言うわけではない。でなければPvPメインのGGOでやって行くことなんて無理だろう。当然最初は抵抗があったが、今はもう慣れた。
それにあれこれ理由をつけて参加させようとしているシノンだが、本音は別の所だろう。
「なあ……なんでそこまでして俺と戦いたがるんだよ?」
あえて今まで避けてきた話を、俺は切り出すことにした。
どうにもシノンは俺と――と言うより、GGOのトッププレイヤーと戦いたがっている。
誰だってトップを目指すのは当然……とも思うが、シノンの場合は別の意味があるように思える。
そもそもただ倒すだけと言うのなら、バディを組んでいる時にいくらでも狙う機会はあった。背後から闇討ちするとかされれば、俺も警戒していなかったらやられるだろうから。
けどシノンはそんな卑怯なマネはしなかった。真っ向から戦って勝たないと意味がないと言って。
「……………」
俺の問いにシノンは口を閉ざす。余り踏み入ってほしくない話と言う事か、と解釈した俺は肩を竦めた。
「別に話したくないって言うのなら、無理に聞き出したりはしないけどな。事情聞いてもそれでBoBに出る、って事にはなりにくいだろうし」
「……ごめんなさい」
「別に謝らなくても良いって。誰だって人に話したくない事の1つや2つ、抱えているものだろ?――俺だってあるから、さ」
「クラウドにも何か悩みがあるの?」
「そんな意外そうな顔されると逆に傷つくんですが……」
心底意外そうに目を丸くしたシノンに俺は若干頬を引き攣らせる。
シノンさん、あなたは普段俺のことをどんな目で見ているんですか? 年中お気楽極楽れっつごーごーな能天気だとでも?
「ううん、そうじゃなくて……クラウドってあまり悩んでるとか顔に出さないタイプだから、少し意外で……」
「あっそ……ま、俺の悩みなんて俺自身にもどうにも出来ないし、他人にもどうにも出来ない問題だからずっと棚上げにされてるんだけどな」
「そう……なんだ」
「別にシノンが責任を感じる事はないからな?」
自分のせいだと思い込もうとしたシノンにあらかじめ釘を刺す。
彼女に言ったとおり俺の抱えている悩みは自分にも他人にもどうにも出来ない問題だからどうしようもない。
それに『問題』なんて言っているが、客観的に見ればこれはメリットみたいなものだろう。かと言って使うのはよっぽど切羽詰った状況になった場合に限るが。
……まあ、仲間内には見せられないよなー、と思いつつ、ソフトドリンクのメニューを呼び出すとジンジャーエールをタップし、すぐに注文したドリンクがテーブル中央からせり出してきた。
それを飲みつつ、若干沈んだ空気を切り替えるように俺は別の話を切り出す。
「BoB、使うのは当然《ヘカート》なのか?」
「ええ。そのつもり」
「別にそれでも問題ないと思うけど……やっぱサイドアーム考え直すべきじゃね? 《グロック18C》はまともに当たらなければ牽制にもならないだろ」
「そうかしら……取り回しを優先して選んだのだけど」
「確かに大容量マガジンの割りに超小型軽量なのは認めるが……反動がキツ過ぎて使いづらいだろ」
「普段《M10》を撃ちまくってるクラウドが言うと余り説得力が無いけど……そこまで言うならどの銃を選ぶ?」
「そうだなぁ……」
腕を組み、脳内データベースでシノンのスタイルに合致しそうな銃を検索する。
あれこれ浮かんでは消えるが、最終的にはシノンの好みということに落ち着きそうだった。
「いくつか候補はあるけど、実際にマーケット覗いてみるのがいいかもな」
「それもそうね。もちろん付き合ってくれるんでしょう?」
「ご所望とあらば喜んで」
胸に手を当てて恭しく一礼してみせると、シノンは小さく笑いながら「あんまり似合わない」とツッコミを入れる。けどシノンの気は紛れたみたいだし、何はともあれ良かったかな。
/
シノンと共にマーケットにブロッケンで1番大きいマーケットまで来ると、俺たちはスクリーンに表示される銃器を見てあれこれ話し合っていた。
ある程度絞り込む事が出来たが、あとはシノンとの相性と好みって所になるな。
「やっぱりハンドガンなら《M93R》、SMGだと命中精度重視なら《MP5K》系列、取り回し重視なら《Vz61》系列って所に落ち着くよな。それぞれにメリットもあるし、デメリットもある」
「そうね……」
簡単な説明と共に3つの銃をピックアップしてみたが、やっぱりシノンは難しそうに眉根を寄せて考えているようだった。何しろ優勝を目指すんだったらいい加減な選択は出来ないだろう。
「……やっぱり《MP5KA4》かしら。機能的にも他を補えるし」
「確かになぁ」
シノンが選んだ《MP5A4》と言うのは高い命中精度を誇る《H&K MP5》の小型モデルの1つだ。中でも《MP5KA4》は《MP5A4》をベースに製作されており、セミ、3バースト、フルオートを切り替えて撃つ事ができる。
ピックアップした中だと大型だが、シノンの求める能力は満たしているしこれなら問題ないかもしれない。
「けどたっかいよなぁ。さすが高性能なだけある」
「いっその事クラウドのそれとお揃いにしてみる?」
「やめとけって。振り回されるのがオチだ」
「冗談よ。それじゃあ早速買うわ」
悪戯っぽくシノンは笑ってから、コンソールを操作して購入ボタンをタップすると、すぐにロボットがやって来て最終確認画面が表示され、これをタッチすると購入した銃がオブジェクト化された。
浮いているそれをシノンが手に取るとやって来たロボットは帰っていき、試しにとばかりに構えてみる。
「どんな感じだ?」
「当然と言えば当然だけど、《グロック18C》よりは重いわね。でもこっちの方が断然扱いやすそう」
「そりゃあんなじゃじゃ馬と比較すればなぁ」
「同じじゃじゃ馬使っているクラウドが言っても、説得力無いわよ」
「俺のはバラ撒きがメインだからいいんだよ」
口を尖らせ、俺は拗ねたようにシノンの突っ込みに言い返した。
そもそも命中精度を重視する《MP5》系と速射による瞬発的な面制圧を重視する《M10》とでは同じカテゴリーでも土俵が違う。
「それよりこの後試射するんだろ?」
「当たり前じゃない。すぐ実戦に使うわけにも行かないわ」
それもそうだよな、と俺も同意しつつ、俺たちは屋外射撃場にやってくる。
相変わらずここは買った銃を試射しに来た連中がやかましく銃を撃ちまくっていて、会話してもまともに聞こえやしない。
空いている射撃スペースに到着すると、早速シノンは《MP4KA4》の試射をした。最初は単射による精密射撃、さらに3点バースト、フルオートと順に撃ってターゲットに命中させる。
さすが、高精度を謳っているだけのことはあって弾はシノンの狙った所に高確率で命中しており、間近でそれを見て俺は改めてその精度の高さに唸らされた。
「俺のじゃここまで狙って当てられないよなぁ」
俺の《M10》であそこまで狙い通りに当てるには、よっぽど接近しなきゃ当たらない。その頃にはすでに剣の間合いだからなおさら意味がない。
ちょっとだけ羨む様に見ていると、その視線にシノンは困ったように見返してきた。
「そんな風に見られても困るんだけど……」
「悪い…いいなと思ってつい」
「だったら改造するなり買い換えるなりすればいいじゃない。《M10》だって改造すれば《MP5》クラスの命中精度まで引き上げられるでしょう? クラウドのそれって――」
「グリップ変更してストック外したし、あとはセレクターやセーフティーの配置を左用に変更したけど、それ以外はほぼノーマルだな」
「……それでよくやって来れたわね。サイドアームだからいいのかもしれないけど」
「あくまでメインは剣だからな。それにコレには思い入れがあるし」
「漫画とかゲームの影響って言ってたわね。○イオとか、なんとかって……でもそれって何十年も昔のゲームでしょう? よく知ってたわね」
「不朽の名作なんだよ、不朽の!」
とは言え俺もやったのがゲーム○ューブのリメイク版だったけど。それでも当時からしたらかなり古かったからなぁ。
最初に《M10》を使う理由を聞かれて答えたら目を点にされ、「いつの時代の人?」と突っ込まれた時のショックは大きかった。これが世に言うジェネレーション・ギャップと言うものか……!
「確かにあのシリーズが人気作なのは認めるけど」
私は普通かな。と感想を口にしたシノンにそりゃそうだよな、と内心納得する。こんなゲームをやっているとは言えシノンも立派な女の子なんだから、ああいうサバイバルホラーは好みじゃないだろう。
「やっぱホラーとかは苦手なクチか?」
「苦手……ってほどでもないけど、かと言って好んで見たりはしないわね」
確かに……シノンが1人でそう言う物を好んで見ている、と言うのは余りイメージしがたいものがある。どっちかって言えば図書館の窓側の席で1人静かに読書している方がしっくりしそうだ。
「……なに? そんなじーっと見て」
「いや。シノンって文学少女なのかなぁって」
「それは……あながち間違ってない、けど」
あれ。どうやらイメージ通りだったらしい。
シノンの方は若干頬を染めつつ、もごもご口の中で何か言い訳しているがまったく聞き取れない。当てられて恥ずかしかったのかな。
「いや、悪い。詮索するつもりはないから。リアルの事を聞くのはマナー違反なんだし」
「ううん。別に気にしてないから」
謝るとシノンは本当に気にしてないようだったが、なんだか微妙に気まずい空気になってしまった。
試射もそこそこに俺たちは射撃場を後にして、気まずい空気のまま街を歩いていく。気にしてないと言いながらもシノンは少し気にしているようで、一言も話さないのはかなり居心地が悪い。
「ん…? やあ、クライドにシノンじゃないか!」
「げっ……」
何かきっかけがないものかと考えをめぐらせていた所に、妙に親しげな声が掛けられる。
声のしたほうへ目を向けると、つい唸ってしまった。いや、本当に相手に聞こえない程度だけど。
長身に白いコートを纏い、サングラスを掛けた青い髪の男性プレイヤーが俺たちに近づいてくる。
「こんな所で会えるなんて奇遇じゃないですか、GGOでも最強と言われるほどのコンビと会えるなんてツイてるなぁ」
「……こんにちは、ゼクシード」
シノンも男の姿を一瞬だけ見ると、余り関わりたくなさそうな雰囲気を出しながら一応挨拶をする。
この男、ゼクシードはGGOでもトップクラスのプレイヤーの1人で、実際に第2回BoBでも優勝していて第3回の優勝候補として名が上がっている。
確かに、プロ連中の1人というだけあって腕は一流。おまけに頭もキレる……んだが、同時に狡賢い。そのおかげで第2回BoBにおいて優勝できたと言っても過言じゃない。
と言うのも、ゼクシードは初期にアジリティ万能論を提唱していて、それに多くのプレイヤーが追随。ところが当の本人はアジ万能論をあっさり非難し、多くのプレイヤーを騙してかなり恨みを買っている。
まあ、騙された方も騙された方で悪いとは思うけど、知り合いにこいつに騙された奴がいるからなんとも複雑なんだよなぁ。
「ちょうど良かった。あの話を考えてもらえたかな?」
「あー、パス。スコードロンは興味ない」
「ごめんなさい、私も今のところ入るつもりはないわ」
シノンと共にあっさり断ってしまった。
ゼクシードはトッププレイヤーであると同時に、最大規模のスコードロンのリーダーでもある。で、前々から俺たちをスカウトしているんだがごらんの通り。
「どうしてです? いつまでもコンビやソロで動くよりもずっと効率的なのに。2人ならすぐにナンバー2とナンバー3に迎えられますよ」
「……地位とかそんなものに興味ないんだよ、俺は。それに目的は俺たちの情報収集だろう? BoBに向けての」
「っ……何のことです?」
「惚けるならそれでいいけどな……あと親切心からの忠告だ。お前は結構恨まれているんだからそれなりに気をつけとけよ」
頬を引き攣らせるゼクシードに一方的に告げて、シノンの肩を叩き歩こうとする。
が、背後から誰かが肩を掴んできて、振り返ると怒りを抑えているが頬がひくひくと痙攣しているゼクシードの手が俺の肩を掴んでいる。
「まだ何か用か?」
「こっちの話はまだ終わってないんですけど……!」
「クラウ……」
冷ややかに問う俺とは対照的に、ゼクシードは声に怒りを含んでいて今にも爆発しそうな様子だった。
思わずシノンが割って入ろうとするのを手を上げて制す。
「用件なら終わっただろ? これ以上何があるんだ」
「どうして僕のスコードロンに入ろうとしないんだ! これだけ好条件をつけているのにどこが不満なんだ!?」
「なんだ……理由なんて簡単。1つ、そんな条件出されても興味はないから。2つ、正直お前が好きじゃない」
「なっ……!?」
はっきりと言葉にすると、ゼクシードは絶句した。
別に狡猾な所とかはまあ、目を瞑る事もできる。他人のことは言えないからな。ただこのキザな態度が一々鼻につくのが鬱陶しい。
それにスカウトする本当の理由も、BoBに出た際に要注意人物になるであろう事から監視しておきたい、って言うのが実際のところだろう。俺は出る気なんてサラサラないけど。
「安心しろよ。シノンはともかく、俺はBoBに出るつもり無いからお前に当たる事もない。良かったな」
「ふざけ……っ! 僕をバカにしてるのか? 例え君が出場した所で僕が勝つ、間違いなく!」
「いや、俺が勝つね」
歯に衣着せない物言いにゼクシードの眉間に皺が寄る。
別にブラフではなく、客観的に判断した結果から口にしただけだ。
確かにゼクシードはBoBで優勝できるだけの実力を持っていて、間違いなくトップレベルといって過言ではないだろう。
だが、それでも――。
俺より上とは到底思えなかった。どれだけプレイ時間をつぎ込んでも、ただの人間には。
「なんだったら決闘スタイルでハッキリさせてみるか?」
「ああ、望む所だ。君たちが勝てば今後一切勧誘はしない。だが僕が勝てば2人ともスコードロンに入ってもらう。それだけじゃない、今後ずっと所属して活動に参加してもらうぞ」
「ああ、それでいい」
「ちょっ……! 私まで巻き込まないでくれる!?」
話を進めていると、勝手に巻き込まれたシノンは慌てて俺の袖を引っ張りながら抗議する。
けどシノンだってゼクシードの勧誘には辟易していたからいい機会じゃないか。有力候補のプレイヤーの情報を集めるつもりだった彼女的には少々問題かもしれないが。あとで改めて謝るとしよう。
「方法は簡単。互いに背を向けて10歩歩いて距離を取ったあと、破壊不能エフェクトを早く相手に発生させた方の勝ち。立会人はシノン……異論はあるか?」
「こっちはそれで問題ない」
「はあ……分かったわよ」
提案した決闘の方法にゼクシードは同意し、シノンは諦めたように肩を落とす。
そんな事をしていると、なんだなんだと野次馬が遠巻きに見物するようになってきたけど、別にいいだろ。危険はないんだから。
ゼクシードと背中合わせになり、腰の光剣の存在を確かめる。向こうはサイドアームの拳銃を使うはずだが、俺はこっちで問題ない。
「良いわね?……1!」
確認するシノンに頷き、カウントダウンと共に1歩踏み出す。
2歩、3歩、4歩…………8歩、9歩――――。
「――――10!」
「……!」
10歩目を踏んだ瞬間、ゼクシードは振り向きながらホルスターから銃を取り出した。
H&K USP……その中でも先端がネジが切られたバレルが特徴なそれはタクティカルモデルと呼ばれ、サプレッサーの装着を可能としてより大口径の.45ACP弾を用いている。
だが――どちらにしてもこっちのアタックが圧倒的に速い!
「うっ……!」
照準を向けようとして、ゼクシードは眼前に浮かび上がる紫の壁に呻いた。
その壁はブォン…と駆動音を唸らせる光の刃の先端からゼクシードを守るかのように表示されている。
光刃の元を辿れば……カラビナを腰に引っ掛けたままで光剣を起動させている俺の姿があった。
「後学のために1つ、良いことを教えてやる。接近戦なら銃より
淡々と、動きを止めたゼクシードに説く。
確かに光剣は接近しなければ真価を発揮できない。逆に言えば剣の間合いの中でなら銃よりも圧倒的なアドバンテージを持つということだ。
GGOは銃火器が主流だ。それは認めよう。けど、万能と言うわけではない。
「さて、勝敗はこの通りだが……不服ならまだやるか?」
「くっ……い、いや。僕の負けだ……」
苦虫を噛み潰したような顔を浮かべながらも、ゼクシードはすんなり負けを認めて銃をホルスターに戻した。
それを見届けてから俺も光剣の電源をオフにし、光の刃が消えると手を離す。
「約束どおり、今度一切俺たちをスコードロンに勧誘するなよ? もし反故にすれば……そうだな、お前がフィールドに出る度にPKしに行くから、覚悟しろよ?」
「わ、分かってる……僕も君たちを敵に回してずっと付きまとわれたくはない」
にっこりと笑みを浮かべてゼクシードを脅してやると、奴は冷や汗を掻きながら後ろに下がった。
ハッタリではなく本当にやることを理解しているだろうし、これでしつこい勧誘とはおさらばできるだろう。
「ならよかった。それじゃあこの話は終わり。俺たちは失礼するから」
最後にもう一度笑みを浮かべ、ゼクシードに背を向けて歩き出す。
それに一瞬遅れてシノンも駆け出し、隣に来るとジロッと睨みつけてきた。
「勝手な事して……」
「はは……悪い悪い。いい加減うんざりしてたから、つい」
「まったく……。けどさすがクラウドって言うべきかしら。あのゼクシードを相手に圧倒した上に瞬殺なんて」
「まあ、対等なようで条件的には俺が若干有利だったからなぁ」
悪戯っぽく笑みを浮かべ、シノンにだけはタネを明かす。
まず今回の決闘のポイントは、攻撃に移るまでの時間だろう。
銃火器の場合、構え・狙い・撃つという手順を経るが、格闘武器の場合は構え・打つ(斬る)だけで済む。この動作の差は結構大きい。近接戦闘は一瞬の駆け引きが勝負を決めるのだからなおさらだ。
最初の距離こそまだ銃が有利だが、それでも大股で詰めれば間に合わない距離じゃない。特に俺の場合、圧倒的に長いリーチを持つMURAMASAなら2、3歩歩いただけで間合いに入り込める。おまけに普通の剣と違って、所謂抜刀に掛かる時間も若干短い。
――と、このように蓋を開ければ若干天秤が俺に傾いている内容だったわけだ。後は反応速度とかも影響するが、ポイントさえ押さえておけば俺以外の人も出来る。
「あと、ゼクシードの奴は若干俺のこと見くびっていたからな。その油断が勝機を逃した」
「クラウドもクラウドで、そう言った小技が好きよね……。普通に戦っても強いのに」
「確かに小技を多用するけど、ゼクシードほどえげつなくはないと思うけどなぁ」
あいつが詐欺師なら、俺のはいたずら小僧の範疇だろう。
……まあ、多少同属嫌悪的なものを抱いていたから嫌いでもあったんだけど。
「……一応ありがとうは言っておくわ。ゼクシードの勧誘には正直うんざりしていた所だから。データを手に入れるのは難しくなったけど、あいつのことだから直前で裏を掻く可能性もあったし」
「ない、とは言い切れないなぁ」
アジ万能論で多くのプレイヤーを釣って、結果的にそれがBoBでは有利に働いたから。ただそれをやるには相当な情報操作も必要になるし、ゼクシードには前例があるから参加者は警戒しているだろう。
「もし手を貸してほしいって時には声掛けてくれ。今回はシノンに迷惑かけたし」
「別にあなたがそこまで責任を感じる必要はないけど……いいわ、もし手伝いが必要になったら声掛けるから――あ」
言いかけたシノンは、俺の背後を見て少し驚きながら言葉を止める。
なんだと振り返ってシノンの視線を辿ると、空中に表示されている時計の時刻――18時40分を過ぎていた――に目が留まっていたようだった。
「もうこんな時間……夕飯の支度しないと」
「そっか。それなら今日はお開きだな」
「ええ。じゃあクラウド、また明日」
「ああ、またな」
話しながら右手でメニューを呼び出し、ログアウトの操作をするシノンに別れを告げると、その後にシノンは光に包まれてゲームからログアウトしていく。
その場には俺だけがポツンと残されたんだが……このあとどうするか。
「……もうひと稼ぎしに行きますかね」
今から地下ダンジョンに長時間潜れば結構稼げるだろうと判断すると、俺は装備を整えるためにマーケットに赴き、1人でグロッケン地下ダンジョンに潜って行った。
今回の話、2話より前の出来事です。ゼクシードがまだ生きている事からわかるとおり。
ここから先は完全に小話ですので、暇つぶしや興味のある方だけ目を通して貰って結構です。
この回ではシノンのサイドアームズを変更したい理由でBoB開始前に挟みました。
小説ではMP7A1、アニメではグロック18Cを使用していましたが、まとめを見ていた時にアニメの監督と武器監修をした時雨沢先生のツイッターでの呟きに目を留めて、「いや、お尻見えないのは共感できるけど(←)、グロックの方がよっぽどキツイだろ!?」って疑問を抱いたのが理由です。
けどアニメ版ベースだし、MP7はレア武器らしいからどうしよう……って事で本編でも語られたようにいくつか候補挙げながら、最終的にMP5Kを選びました。見えないけど毎分1200発の変態速度よりはシノンに優しい仕様ってことで。MP7は後々出てくるかも……しれません。←
では、長々とお待たせして申し訳ありませんでした。次回からBoBが始まります。
次の更新がいつになるかは未定ですが、必ず更新はするのでお待ちください。