寝て起きたらデスゲームに巻き込まれていたんだが。   作:リベリオン

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今回はクラウド(ミスト)と《死銃》の片割れブラッキーとの決戦です。

本気を出したクラウド(ミスト)の切り札と、彼が使った驚くべき技は……?

あとこれ書いて投稿した当日はAqoursのライブ当日なんで、多分見終わった後語彙力失うか言葉失ってるかのどっちかだと思います。

……ライブまでに書き上がって本当に良かった……!


第7話 MOON LIGHT

第7話 MOON LIGHT

 

 

 キリトとシノンと別れてからしばらく歩き続けて、次のスキャンが可能になったのを確認すると端末を起動して状況を確認した。

 現在表示されているプレイヤーは俺とキリト、そして闇風の3人……残りは洞窟内に隠れているシノンと、ステルスマントで姿を晦ましている《死銃》だとしてもあと1人足りない……そいつがもう1人の《死銃》って事になる。

 姿が見えないって事は、洞窟に隠れているか……あるいはスカルフェイスと同じようにステルスマントを持っているのか。最悪のパターンを想定して動くなら、後者と見るべきだろう。

 俺を監視している最中もスキャンで表示されなかった。田園地帯には隠れる場所が無かった事を考えると、ステルスマントを持っていると考えて動くべきだ。

 

「こっちの姿は確認しているはずだから、恐らく向かって来ているはず。となると問題は闇風か」

 

 闇風の事なら俺も知っている。と言うか、知らない奴はまだGGOを始めたばかりの新米だろう。

 何しろ闇風は前回の大会……つまり第2回BoBで準優勝した実力を持つ間違いなく最強クラスのプレイヤーだ。

 AGI特化で俺と同じく軽量なSMGをメインアーム(俺はサイドだけど)にし、近距離からの銃弾も避けられる。前回はゼクシードに装備の性能差で敗れたが、プレイヤースキルのみに限って言えばGGO日本サーバーで最強、だろう。俺を除けばの話だけど。

 兎も角闇風の存在は無視できない。もう1人の《死銃》と戦闘中に割り込まれたりするのも面倒だ。

 

「不確定要素だし、上手く行けばこっちに有利に働く事だって十分ありえる……が」

 

 ……今回はキリトに約束したからな。不確定要素は早々に取り除いて、もう1人の《死銃》に集中させてもらおう。

 

「そう言えば……」

 

 闇風を倒そうと思ったが、ふと引っかかっていた事があるのを思い出した。

 《死銃》たちの本名……と言うか、キャラネーム。シノンの話から考えるとそれぞれの名前はスティーブンとブラッキーなんだろう。誰がスティーブンで誰がブラッキーなのかは分からないが。

 

「いや、なんだって良いかそれは」

 

 名前なんて倒してから確認すればいいだけの話だ。

 一度目を閉じ、ゆっくりと目を開く。普段から見えるこの情報が剥き出しにされた世界は不快だが、今この時だけは頼らせてもらおう。

 闇風の位置は確認した。後は駆け抜けるだけ――!

 闇風が居る先へと駆け抜ける。向こうも俺が近くにいる事に気づいていたはずで、そう時間は掛からず、お互いがお互いを認識できる距離まで接近する。

 走りながら、闇風は同時にSMGの銃口を俺へと向けてきた。無数の予測線が俺の身体に当たるが、最小限の動作でフルオートの銃撃を掻い潜りなお接近する。

 

「ぐっ!」

 

 向こうも俺のバトルスタイルは知っている。だからこそ剣の間合いに入らないよう距離を取ろうと試みる。

 だがその瞬間はどうしてもスピードが落ちる。それに合わせてギアを上げてさらに加速。《MURAMASA》を取り、離脱しようとする闇風の胴へと加速を載せた右薙ぎを放った。

 光刃が闇風の胴を抉り、重たい感触が急に軽くなると胴から真っ二つにされた闇風の上半身が宙を舞う。

 唖然とした表情を浮かべる闇風の上半身が音を立てて砂地に落ち、【DEAD】の表示が浮かび上がった。これで不確定要素は排除した。残りは――っ!

 

「ちっ!」

 

 微かに聞こえた風を切る音に反応し、俺は後方へと身体を回転させながら回避する。一瞬視界に入った銀色に光る2つの物体は、そのまま俺の上を通過して彼方へと飛んでいった。

 すぐに着地すると、前方を鋭く睨み付ける。確かにステルスマントで姿を隠しているようだが、それも全てはデータでそういう風に見せているだけのものに過ぎない。だから俺の目には奴の姿がはっきりと捉える事ができた。

 

「かくれんぼのつもりなら無駄だ。そこにいるのは丸分かりなんだよ」

「――あっれー? っかしいなぁ、確かに透明化してたんだけどなぁ」

 

 淡々と言い放つと、人をおちょくるような反応が返ってきた。

 人型のシルエットがフードを取ったような動きをする。ステルスを解除して顔を晒したらしいが、結構若そうな声だった。

 

「確認するまでも無いが、ラフコフの生き残りで《死銃》の1人で間違いないんだよな?」

「あー、そう言うアンタもSAOにいた人間で間違いないんだ。まあ、その質問に関してはそうなんだけどさぁ……オタクはいったい何者なワケ? ザザが追っていたのはキリトで間違いないんだろうけどさぁ、アンタだけはまったく謎なんだよねぇ。あ、やっべー…ザザの名前言っちゃったよ! まぁいっか!」

 

 ……こいつ、相方の名前を平然と言って反省すらしてないのかよ。ただ相方はSAO時代の名前をザザと呼ぶらしい。それでも心当たりは無いが。

 

「昔は“レッドクリフ”……なんて呼ばれていた。これだけで通じるだろ」

「ん~……たーしーか、攻略組にそう呼ばれている剣士が居た気がするけど……けど俺たちって初対面だよな?」

「そうだ。お前がどっちかは知らないが、ブラッキーなんてキリトの2つ名を名乗って挑発しているつもりか?」

「挑発もなにもぉ、“ブラッキー”は俺の立派な名前だしぃ?」

「……そうかよ」

 

 ブラッキー(こいつ自ら認めたよ)の言い分を適当に聞き流し、光剣を構える。これ以上は話すだけ時間の無駄だ。それに向こうのペースに飲まれたく無い。

 

「正直お前が何者だとかなんてどうだって良い。俺にとって重要なのは、お前たちはシノンを本当に殺そうとしている。俺はそれを止めるためにお前を倒す……これで十分だ」

「Foo! オタク、クールに見えて実は熱血なの?」

「好きに言ってろ――フッ!」

 

 話を強引に切り上げ砂地を蹴る。

 一瞬で縮まるブラッキーとの距離。

 《MURAMASA》の刃が届く距離まで詰まった瞬間、瞬時に3連撃を放った。

 俺の得意とするソードスキル『シャープネイル』。目にも留まらぬ速さで繰り出された斬撃を、ブラッキーは余裕で避ける。

 ブラッキーは避けたまま、投擲用ナイフ3本を同時に投擲してきた。

 通常、投擲ナイフは9ミリパラベラム弾を使用する拳銃以下の射程と威力しか無い。代わりに予測線も出ないと言うメリットがある。

 だがあくまでも不意打ち、牽制用途がGGOでの主な使い道だ。だと言うのにこのブラッキーは投擲スキルをかなり上げているのか、その速度はまさに弾丸並みで、俺はステップと光剣による防御でそれを凌ぐ。

 

「はっ――!」

「おぉっと! ひゃははっ! アブねぇアブねぇ!」

 

 迎撃を凌ぎ、さらに追撃するも、斬撃は悉く当たらない。ふざけたようでこいつ……かなり強い。ラフコフのメンバーだったのは伊達じゃないって事か……!

 

「お前だって曲がりなりにもあの世界じゃ剣士だったんだろ? なのにそれがそんな武器使ってなんとも思わないのかなぁ?」

「光剣の良さが分からないなんて、ロマンを分かってない残念な奴だな。さてはお前、ス○ー○ォーズを見てないだろ!」

「しーらねっと!」

 

 突きをステップで避けたブラッキーは、新たな武器を取り出した。どうやら銃器のようだが、左右に張り出しているのは……まさかCマグか? SMGクラスのサイズに?

 銃口が向けられ、無数の予測線が注がれる。やたらと大きい銃声とマズルフラッシュが轟き、予測線に沿って弾丸が撃ち出された。

 だがこの距離でも捌ける……っ! 予測線が触れた順番ごとに光剣を操り、銃弾を弾く……が。

 

「(この手応え……まさかっ!?)」

 

 何百、何千、何万と銃弾を剣で弾いてきた俺は、だからこそ違和感を覚えた。

 口径が違えば弾丸の形状も異なるし、それを斬ってみれば手応えだって異なる。

 だから、今斬ったのが一般的にSMGで使われる9ミリパラベラムや.45ACPのどちらとも異なる感触に気づいた。この軽くて鋭い感触は……5.56ミリNATO弾!? ライフルクラスのサイズで使われるカートリッジだぞ!?

 

「っ!? ぐっ……!」

 

 驚愕する俺にさらに信じられない出来事が起きる。ブラッキーの銃撃は完全に見切り、防いだはずだった。

 そのはずなのに左肩に微かな衝撃が走り、動きが一瞬止まってしまう。

 今、何が起きた? 伏兵……いやそれは無い。残り人数はさっき倒した闇風を除けば残りは俺と目の前にいるブラッキー、そしてシノンとキリトが戦っているであろうスカルフェスだけだ。

 同様と混乱から停止しそうになる思考をどうにか回転させる。落ち着け、ダメージはあるようでほとんど無いんだ。

 だが、今のスタンはなんだったんだ? 予測線からの射撃は全て凌いだのに……っ!?

 

「いや……そういう事か。『横転』だな。そしてその銃は《パトリオット》ハンドライフルか……!」

「へぇ? 中々察しが良いじゃん?」

 

 ぼそりと呟いた俺の答えにブラッキーは興味深そうな反応を示した。やっぱり、俺の予想は的中したらしい。

 《パトリオット》。それはM16E1をベースとしてM4カービンよりもさらに極端な小型化・短銃身化を施し、近接戦闘に特化させた5.56ミリNATO弾を使用する超小型ライフルだ。サブマシンガン並みに切り詰めた銃身にストックオフを行い、さらに100連装のCマグによる圧倒的な弾数を実現しつつ、5.56ミリNATO弾による高火力も兼ね備えている。

 本来5.56ミリNATO弾は小銃クラスの銃身長で使用される弾丸だ。だがパトリオットのようなSMGクラスの銃身長で使用すれば銃弾は十分な加速を得られず、発射後すぐに風の影響などを直接受けて予期せぬ弾道を描く事もある。

 その結果GGOでは本来存在しない弾丸として扱われ、横転した銃弾は予測線に表示されない……文字通り“幻影の魔弾”と化す、って事だ。

 

「横転した弾丸には本来の威力は無い。だが命中さえすればささやかなスタンとダメージを発生させる事ができる……らしいけど?」

「大きなマズルフラッシュのどさくさに紛れて出てきたイレギュラーな弾丸は予測線が出ないために相手に気づかれず、近距離でなら相手にダメージを与えられるって事か……」

「せ~かい♪」

 

 愉快そうに笑っているブラッキーの事は無視して、俺は瞬時に思考を巡らせる。

 銃口の向きから射線を予測……は、マズルフラッシュが激しすぎて不可能。横転する弾丸が出る確率も不明と来てる。

 となると……後は1つしかない。だが、これは……。

 

「(やるのはよっぽどの時だ。ただでさえカメラ中継がされている中で……)」

 

 浮かんだ考えを一旦保留にして、《M10》を取り出す。その姿を見たブラッキーは呆れたように肩を竦めた。

 

「剣で無理なら銃で勝負って? いくらなんでもこっちとの差が分からない訳がないっしょ?」

「知ってるよそれくらい」

 

 確かに《M10》と《パトリオット》は似た性質を持っている。だが火力・装弾数共に《パトリオット》の方が遥かに上だ。

 だが、それがどうした。

 

「武器で劣るなら技量で補えばいいだけの話だろうっ!」

「ヒュゥッ♪ やっぱ熱血じゃんお前っ!」

 

 《M10》を撃ちながら再びブラッキーに攻め込み、《MURAMASA》の斬撃も交えたコンビネーションを繰り出す。

 だがブラッキーも銃撃と斬撃を避けながら、僅かな隙を見ては《パトリオット》で応射し俺も光剣で防ぎ、あるいはかわして凌いでいく。

 それでも混じっていた“存在しない弾丸”には反応が遅れてしまい、直撃はしてもたいしたダメージにならないが、僅かな硬直を狙われてさらに銃撃を浴びせられてしまう。

 どうにか紙一重で本命を回避するが、やはり銃の性能差が大きすぎた。特に装弾数が……!

 

「残弾が…!」

「ははっ! リロードなんかさせねぇっての!」

 

 残弾が少なくなって来た時、ブラッキーは新たに刃渡りが30センチはあるマチェットを抜いて斬り付けて来る。

 こいつ……俺と同じ戦闘スタイルかよ! 瞠目するがとっさに《M10》を盾にしてマチェットを防ぎ、同時に回し蹴りを放って追い払う。

 ……これは、マズイ。冷や汗が頬を伝っていくのを覚えながら思った。

 《M10》の残弾が心許ないタイミングで向こうは格闘戦も仕掛けてくるつもりだ。リロードしようとしてもどの距離からもタイミングが封殺されてしまった。

 

「弾薬の差が命運を別けたみたいだなぁ? “レッドクリフ”サン……いいや、今はジェ○イって言った方がいいのかぁ? けひゃひゃっ!」

「………………」

「まあそんな顔すんなって、あっちの2人も始末したらお前も仲良く殺してやるからさぁ。――あー、思い出すなぁ、確か昔、仲間同士で殺し合わせて生き残った1人だけ助けてやるってゲーム。でも結局生き残った奴も殺しちゃったんだけどなぁ」

「…………ふっ」

「あ?」

 

 1人で勝手に喋り捲っていたブラッキーについ失笑を漏らし、それが聞こえたらしいようでジロリと睨み付けて来た。

 

「なるほど……俺とお前たちは似た者同士なのかも――なんて心の何処かで思っていたが、そんなことは無かったようだな。ブラッキー、お前は……どうしようもないくらい救いようの無い、クズだった……って事だな」

「あー? 何言ってんのオタク?」

「俺が殺そうとしたのは、それが矛盾しているとしても少しでも長くあいつらと同じ時間を過ごしたかったから……だがお前たちは愉しみながら人を殺した。似ているようで全ッ然違っていたわけだ」

「だーかーらー、何を訳の分からない事を言ってんだ、ってーのッ!」

 

 苛立った口調でブラッキーは吼え、振りかざしたマチェットを一直線に振り下ろす。俺はそれを《M10》で受け止めるが、刃がアッパーに食い込んだ。

 

「そして今も、お前たちはあの世界と同じように人を殺している……何が『本物の死を齎す』、だ! お前も奴も、この世界から人を殺す力なんて持っていない! やっているのは卑劣で低俗なただの人殺しだ!」

「違うね! 俺たちは本物だ! この世界から人を殺してるんだよ!」

「だったら俺を殺してみせろよ! 今すぐ! ここで!」

 

 脅すように言い放つとぐっと悔しそうに唇を噛んだ。

 

「そうだ、殺せないだろう! お前は俺の本当の名前も、どこに住んでいるのかすら知らない! 1人暮らしをしている意識の無い人間の家に忍び込んで毒薬を注射? 大口叩いてやっている事は姑息でお粗末な上にPKですらないじゃないか! そんな事しかできない小さい人間が、俺を殺せるものなら殺してみろ!」

「テッメェ……!」

 

 論破していく俺にブラッキーは怒りに肩を震わせ、その隙を見計らって膝蹴りを打ち突き飛ばす。

 《M10》……は、もう使い物にならない。いくら頑丈といっても全力で振り下ろされたマチェットを無傷で受け止めるのは無理だったか。

 なら……奥の手を使うしかない。

 

「俺はお前を認めないし、同情もしない。お前は俺の仲間を殺そうとしている……正直、俺がお前をブッ殺してやりたいが、それは出来ないからな……だから、代わりに――――お前の悉くを全て否定してやる」

「全てを否定、だぁ……? そんな事どうやってやるんだよ」

「簡単な事さ。お前は俺を絶対に殺せない。そして……お前が未だにあの世界に魂を囚われていると言うのなら、それすらも否定してやる。俺たちが囚われていた鉄の城はもうどこにも存在しない。そして《笑う棺桶(ラフィンコフィン)》だって無いんだってな!」

「――――違う」

 

 奴が縋り、そして囚われている全てを俺は否定する。

 するとブラッキーは俯き、小声で呟いた。

 

「違う。違う……違う、違う違う違う違う! 俺は、俺は《笑う棺桶》の! ジョニー・ブラックだぁぁぁ!」

 

 狂ったように叫び、ブラッキー――いや、ジョニー・ブラックは《パトリオット》を乱射しながらマチェットを振り被って迫る。

 考えてみればコイツとは長い付き合いだった。最初は確かにゲームに出ていたって理由で買ったけど、使い続ける内に愛着が沸いてこの世界におけるもう1人の相棒……みたいな感じになっていた。

 だからこそ惜しくもある。多分、同じ物は2度と手に入らないだろう。けど今は……仲間の命がかかっている。だから――

 

「じゃあな、相棒――」

 

 別れの言葉を呟き、《M10》をジョニーへとアンダースローで投擲する。

 急に銃を投げられ不意を衝かれたジョニーは、とっさにマチェットで《M10》を叩き切った。

 その一瞬の隙――その瞬間、空いた左手をコートの内……腰の後ろに回し、『それ』を掴んで引き抜く。

 同時に弾くように入れられる電源スイッチ。出力は最初から最大出力(クライマックス)。その瞬間左手に握った金属棒の先から蒼く光る刃が迸った。

 1歩、いや2歩、踏み込み蒼い光の刃を形成した光剣を振り下ろす。

 《M10》に一瞬気を取られていたジョニーは、回避は間に合わないと判断して《パトリオット》とマチェットを頭上でクロスさせて受け止めようとする。が――

 

 バキャッ――――!

 

「なぁっ……!?」

 

 マチェットを《パトリオット》ごと叩き切られ、ジョニーの目が驚愕に見開かれた。

 そのまま光刃がCマグに詰まっていた弾薬の火薬に引火し、爆発するとジョニーの左腕を吹き飛ばして黒煙を撒き散らす。

 煙でジョニーの姿は見えない……が、存在ははっきりと感じ取れていた。動揺と困惑、驚愕がない交ぜになってジョニーはその場で喚き出す。

 

「なんでだ……なんでだよ!? マチェットが一撃で破壊って!? まだ使っていなかった! 素材だってこの世界で手に入る最高級の金属を使ってる! 宇宙戦艦の装甲板になれる硬度の金属が、なんで簡単に折れるんだよ!?」

「はっ……寝ぼけてるのかお前?」

「んだと……!?」

「大方、あのレアメタルをナイフ製作スキルで加工したんだろう。けどな、逆に考えろよ。そんなものに使うならそれを加工出来るモノがあっても不思議じゃないだろう?」

「そんなものが……っ!」

 

 否定しかけたジョニーが息を呑む。

 そう、確かにそれは存在する。そしてそれらは入手方法が未だに謎に包まれている物だった。

 

「オーバード・ウェポン……まさか、その光剣は《MOON LIGHT》かよ!?」

「そう、光剣カテゴリー唯一にして最強の剣。可変式超高出力光剣《MOON LIGHT》。……そのレアメタルを加工する技術を導入したそうだが、まさに矛と盾か」

 

 この剣……《MOON LIGHT》を手に入れたのが俺とシノンの最初の出会いだった。

 きっかけは俺がまだソロだった頃、シノンが《ヘカート》を手に入れる前。

 1人で潜ったダンジョンで、最奥部に居た巨大なロボットの大型ボスにてこずっていた時にたまたま助けてくれたのがシノンだった。

 なんとかボスを倒してボーナスドロップを見ると、手に入れたのがこの《MOON LIGHT》。まだCMなどで公にされている1つを除いて、他の詳細は一切謎に包まれていた武器。

 これが縁になって、以来シノンとは良くコンビを組むようになり、相棒と言う間柄にまでなった。

 ……この時助けてくれた借りは、シノンが《ヘカート》を入手した件でようやく清算されたが。

 

「《MOON LIGHT》の特性は“《耐久値直接攻撃(フルブレイク)》”。どれだけ耐久特化しようとも、命中すれば耐久ゲージを一撃で全損させる事ができる。お前のマチェットがいくら耐久性が高くても、こいつの前じゃ無意味だったんだよ」

 

 字面だけを見ればバランスブレイカー級の代物だが、それは銃撃戦がメインのGGOでなければ、の話だ。激しい銃撃を掻い潜って超近距離まで近づいて当てなければいけない光剣の性質上、非常にリスクが高い。

 故に、GGOという世界において《MOON LIGHT》の性能は宝の持ち腐れに等しい……それを使いこなせるプレイヤーがいれば、話は別だが。

 だからコイツを手に入れた時、俺は存在を隠す事を選んだ。ただでさえ正体不明のオーバード・ウェポンだ。バレれば大騒ぎになるのは必至だった。

 

「チィッ……!」

 

 舌打ちし、ジョニーは別のナイフを抜く。片腕を失い、メインアームを失っているというのに往生際の悪さに俺は嘆息する。

 

「そんなナイフ1本で勝てると思っているのか? ああ、自殺するなら止めないけどな」

「はンッ……ヨユー扱いてるとイタイ目に遭うんだぜぇ? こんな風によぉッ!」

 

 次の瞬間、ジョニーが握っていたナイフの刀身が丸ごと消失した。

 

「ひっはははは! ナイフはナイフでもスペツナズ・ナイフだったわけだ! しかも麻痺毒を仕込んだ俺の本当の切り札だ……よ……」

 

 秘中の秘策が見事に嵌り、ジョニーは狂ったように笑っていた……が、その笑い声は目の前の光景に一瞬で失われる。

 

「……………」

 

 俺の目前で停止したナイフの刀身。まるで見えない手に捕まれているかのようにぴたりと空中で止まっていた。

 ……視線と意識を、ナイフの刀身から外すと支えを失ったかのようにナイフも砂地に落下する。

 

「なんだよ……なんだよ、それ……」

 

 自身の理解を越えた事象に、ジョニーは愕然と立っていた。

 その無防備へ向けて、俺は文字通り『本気』のラストアタックを掛ける。

 全身全霊、超高速の連撃。蒼と灰の粒子が星屑のように飛び散り、空間を灼いていく。

 

「(まだ…もっと……こんな物じゃない……!)」

 

 2本の光剣を振り回しながら、俺はさらに速度を上げてジョニーの身体へ剣戟のラッシュを叩き込む。

 連撃の数は10を越え、スパートを掛けるべくさらにギアを上げていく。

 システムのアシストも無しに10連撃以上を繰り出すのは不可能ではないが、それに近いほど

困難だ。

 だが、今の俺になら16連撃くらい造作もない。

 16発目――最後の一撃。右回転から二刀を同時に叩き込み、ジョニーの身体を輪切りにしてバラバラに解体した。

 

「……スターバースト・ストリーム(仮)」

 

 両腕を左右に広げ、バラバラになったジョニーに背を向けたまま膝を衝いて砂地に着地する。

 

「なんだよ――それ――――お前、ほんとうに――にんげん、か――よ―――――」

 

 目の前で起きた信じ難い光景を前にした感想を最後に、ジョニー・ブラックの残骸に【DEAD】の表示が浮かんで退場した。

 残心を終えて、俺は立ち上がると光剣の電源をオフにし、ふぅー、と息を吐く。

 

「――さぁな。俺にも良く分からん」




ファントム・バレット編も残り2話。

修羅場が生まれるのも残り2話←
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