寝て起きたらデスゲームに巻き込まれていたんだが。   作:リベリオン

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 蘇生アイテムをゲットする回。キリトの代わりにミストが大暴れ。

 まったく持ってどうでもいいことだが、「SAOキャラで男子高校生の日常」と言う電波を受信してどうしようかと悩み中。ピース……ヒースクリフさんがメガホン握ってるんですけど。


第2話 黒と赤の剣士

第2話 黒と赤の剣士

 

 前回のあらすじ:

 

 寝て起きたらデスゲームの世界にいた。

 

 

 キリトの案内のおかげで、無事に迷いの森を抜けて第35層の主街区「ミーシェ」に無事に戻ってこれた俺とシリカ。白い壁に赤い屋根の建物が並んでいて、時間が時間だからかあちこちの窓から明りが見える。

 

「えっ……じゃあミストさんは、PKされかけたところをキリトさんに助けてもらったんですか?」

「どうにもそうらしいんだよ……俺はまったく気づかなかったんだけど」

 

 驚いて口に手を当てるシリカに俺はそう説明する。

 まあPKの話は嘘なんだけど……キリトにもそう話していたし、これで通すしかない。実際には俺、リアルからいきなりこのSAOの世界に来てしまったんだけど。

 

「睡眠PKにモンスターPKの合わせ技……ってことでいいのかな。誰かに恨みを買うような覚えはあったのか?」

「そう言ってもソロだぞ? あんま人と関わりないのに恨み買うって……」

 

 あんまり追求されるとだんだんボロ出しそうだから、やめてもらえると嬉しい。

 

「お、シリカちゃん発見!」

 

 ネタが切れそうになって困っていたところ、誰かがシリカを呼ぶ声がした。

 足を止めて声のほうへ目を向けると、これまた対照的な太めと細身の男2人がやってくる。

 

「随分遅かったんだね! 心配したよ!」

「あ、あのっ……」

「今度パーティー組もうよ、好きなトコ連れてってあげるから!」

「お話はありがたいんですけど……」

 

 どうやら2人はシリカの熱烈なファンらしい。

 その2人にシリカは困った表情を浮かべて、チラッとこっちを見る。

 

「悪い、シリカは今俺たちとパーティー組んでるんだ」

「「…………んん?」」

 

 俺がフォローに入ると、とたんに2人から嫉妬の目線が。うわー、男の嫉妬って恐ろしい。

 けど俺の援護にシリカは愛想笑いを浮かべ、俺とキリトの手を取る。

 

「そ…そうなんです。少し急ぎの用事があって」

「用事って、なんなの?」

「俺たちじゃ力になれないの?」

「明日47層に行かなきゃ行けないんだが、それでも来るのか?」

「「よ……47層……!?」」

 

 ニヤリと意地悪な笑みを浮かべて切り札のカードを切ると、男2人は驚いて固まる。

 どうやら効果は抜群らしい。ここよりもかなり上の階層を出されては言葉に詰まっている。

 

「と言うわけでだ。またの機会にするんだな。行こうぜキリト、シリカ」

「あ……ああ」

 

 促されてキリトは少し戸惑い気味に頷いて歩き出す。

 シリカを取られた事がよほど悔しいのか、それでも男たちはせめてもと嫉妬の目で俺たちを見続けていた。

 

「ごめんなさい……迷惑をかけて」

「気にしてないよ。人気者なんだな、シリカは」

「そりゃこんな可愛い子だったらな……って言うかキリトよ、お前も少しは何とか言ってやったらどうだよ?」

「いや……どうもこういうのは苦手で」

 

 そう言えばキリトって人付き合いが苦手なんだっけ……。おまけにこの頃は色々と起きて余計に関わる事が減っていたんだよな。

 けど話せば普通に返って来るし、悪い奴じゃないってのは分かるけど。

 

「可愛いなんて……マスコット代わりにされているだけですよ、きっと。それなのに……「竜使いシリカ」なんて呼ばれて……いい気になって……」

「誰だってちやほやされれば嬉しいもんさ。そしてシリカは……まあ、言っちゃ悪いけど報いを受けた。ピナの死っていう大きな報いをな」

「……………」

 

 じわ…とまたシリカの目じりに涙が滲む。

 キリトが「おい……」と何か言おうとしたが、俺は「けどな」と遮ってさらに言葉をつむいだ。

 

「もう2度、同じことは繰り返さないだろ?」

「ミストさん……」

「ピナが生き返ったら、ちゃんと言ってあげないとな。「死なせてごめん。庇ってくれてありがとう、また会えて嬉しい」って」

「……はいっ」

 

 その言葉にシリカはもう泣くのを止めた。浮かぶ涙を指で拭い、しっかりと頷く。

 

「……………」

「なんだよ、キリト?」

「いや……言おうとした事言ってくれるから、俺の出番ないなぁと」

「えっと……なんかごめん」

 

 ちょっと寂しそうなキリトに罪悪感がわいて頭を下げる。俺本当にキリトに謝ってばかりだな。

 

「と、ところでどうする? 当日の移動を考えると現地の宿を使うって方法もあるけど」

「とは言っても夜も遅いからな……今日はここで1泊でいいんじゃないか?」

「そうですよね、ここってチーズケーキが結構いけるんですよ?」

「ははぁ、シリカの目的はそれか」

「い、いえっ。別にそんなんじゃなくて……」

 

 顔を真っ赤にしながら慌てて否定するシリカに俺とキリトは揃って笑った。そこへ――

 

「あらぁ? シリカじゃない」

 

 またも誰かがシリカを呼ぶ。しかしその声を聴いた瞬間、シリカは目を伏せていた。

 見れば、どっかの新機動戦記にいたピエロみたいに前髪で顔半分を隠した赤い髪の女と、その後ろには連れらしい3人の男がいる。

 こいつ……確かロザリアだな。グリーンのカーソルだけど、その実はオレンジギルド「タイタンズハンド」のリーダー。

 他の面子は……いないらしい。そもそもこんな街中に堂々とオレンジがいるはずないか。

 

「へぇ~。じゃあ「思い出の丘」に行くんだ。でもアンタのレベルで行けんの?」

「行けるさ。そんなに難しい難易度じゃない」

 

 俺が周りに警戒をしていると話はぽんぽん進み、シリカを嘲笑するロザリアにキリトが間に立つ。

 

「行こう、シリカ。ミスト」

「はい……」

「……悪い、俺ちょっと雑貨屋でアイテム揃えてくる。遅くなるかもしれないから、2人は先に休んでいてくれてもいい。何か用事あったらメッセージ飛ばしてくれ」

 

 俺たちを促して宿に入ろうとするキリトに、俺は思い出したように言って一旦別行動を取らせてもらった。

 マップを開いて雑貨屋の位置を確認すると、そこで一通りの回復アイテムなどを購入してポーチに詰め込み、今度は転移門広場に向かう。

 今のままじゃダメだ。レベルこそ異様に高いし装備も最高クラスだが、俺自身が完全に素人。この世界に慣れていない。

 早くこの世界に慣れる為には……実戦しかない。

 幸い、明日の目的地は分かっている。下見ついでに腕慣らしと行こう。

 

「転移。フローリア」

 

 転移門で行きたい主街区を言った瞬間、俺は青い光に飲まれる。

 一瞬の浮遊感を経て、俺はどこまでも花が咲き誇る花畑の街にやってきた。

 

「ここが……通称フラワーガーデンか」

 

 初めての転移もそうだが、目の前に広がる風景に心奪われる。

 夢の国……シリカが思わずそう言ったのも頷けるな。

 ……そしてこんな時間なのにカップルが多いこと多いこと。

 

「(お前ら全員圏内で爆発しろっ!)」

 

 口には出さずに心の中で砂糖を吐き出さんが如く吠える。圏外で爆発なんてしたら皆死ぬからな。その辺を配慮した俺の一欠けらの優しさに感謝してもらいたい。

 っつーわけで……目的地の「思い出の丘」に行くのもいいが……迷宮区って言う方法もあるな。幸いにも転移結晶など緊急時に必要なアイテムは揃っている。っつーかストレージ見たときはびっくりした。俺がやっていたMMORPGで入手した素材とか無い代わりにこっちでの素材やアイテムに変換されていたし、金なんて1千万あった時は「0多すぎないか」と疑ったもん。

 とにかく、どっちに行くべきかな……マップを見ると「思い出の丘」は分かりやすい1本道だけど。迷宮区に行けば運よくレアアイテムをドロップできる可能性だってある。

 

「よし……ここは安全を重視して目的地の方に行こう」

 

 及び腰になったわけじゃないぞ。念のため。これは下見だ。

 マップを頼りに主街区を抜け、フィールドに出てくる。しばらく歩いていると早速ポップが起きて、さながらマ○オのパッ○ンフラワーみたいな植物のモンスターが出現する。

 

「早速お出ましか!」

 

 すぐに剣を抜いて身構える俺。足元からモンスターが触手を伸ばして捕まえてこようとするが、その前に俺は横に飛ぶ。

 ここまで来る道すがら、こっちはスキルをある程度は確認していたんだ。何しろ俺の命がかかっているからな。

 構えて軽く力を溜めると、剣がオレンジ色のライトエフェクトに包まれる。ステップインで一気に間合いを詰めた瞬間、俺は力を解放した。

 独楽のように回りながら袈裟懸けに3連撃。ソードスキル【シャープネイル】が炸裂してその名のとおり鋭い爪のような軌跡をモンスターに刻み込む。

 このレベルでしかも連撃技なら、一撃かとも思ったが……狙いが悪かったかはたまた別の要因か、パッ○ンフラワーモドキは意外にも生きていた。

 

「だったらこれで!」

 

 だが何事も保険は重要。だからこそ硬直が少ない【シャープネイル】を使った。

 再び剣が青いライトエフェクトに包まれ、触手を横ステップでやり過ごすと同時に飛び込みながら水平単発ソードスキル【ホリゾンタル】を浴びせる。

 すれ違いざまにモンスターに刃が深く抉り込み、そのまま思いっきり斬り飛ばしてやった。

 

「っし!」

 

 今度はてこずらずに済み、ガッツポーズをする俺。

 そのまま勢いに乗り、出てくるモンスター全てを片っ端から蹴散らす。夜間になれば出現率が上がるのは当然だが、こっちのステータスの高さとバトルヒーリングスキルのおかげでたいしたダメージも受けていない。

 これが前線だったら、また違う結果になるんだろうが……一応俺、攻略組って言った手前この程度じゃまだまだだよな。

 

「実際にはシリカにも劣る素人だからなぁ……」

 

 ポツリと呟きながら道を歩いていく。と、いきなり俺の足元からモンスターがポップした。な、なんだこのイソギンチャク!?

 

「おわっ!?」

 

 抜け出そうと思っても中々抜け出せない。触手が絡みついてきて俺を縛り……って触手プレイとかそんな趣味無いぞ俺!?

 

「ゆ、油断したー!?」

 

 ダメージこそ微々たるレベルで、おまけにすぐ回復するから大した敵じゃないんだが……とにかく動きを封じられてはどうにも出来ない。

 ちょ……待ておい!? だから俺にはそんな趣味はないと……ああっ……ら、らめー!?

 

「ふっ!」

 

 いろんな意味でピンチに陥っていた俺に、さっと誰かが触手プレイしていたモンスターを切り裂く。

 その一撃は1発でモンスターのHPゲージを0にし、ガラスが砕け散るような独特の音と共にポリゴンが崩壊。モンスターの上にいた俺は地面に尻餅をつく。

 

「おいおい、攻略組が情けないだろ」

「キ…キリト? どうしてここに?」

「今パーティー組んでいるから追跡できるだろ。いくらなんでも来るのが遅いと思ったら、こんなところに来てしかも不意打ち食らってるし」

「いや……はは。悪い悪い、足元から来るとは思わなくて油断してた」

「やれやれ……下層だからよかったけど、前線だったら命に関わっていたぞ?」

 

 心配したキリトが俺の後を追ってきて助けてくれたらしい。何はともあれ助かった。

 

「それで、どうしてここに? シリカがいなきゃ復活アイテムは手に入らないのに」

「ちょっと下見にな。ついでにモンスターのチェックと腕慣らしを」

「だからってこんな夜に来なくてもいいだろう……?」

 

 呆れてため息をつきつつ、キリトは手にしていた剣を背中の鞘に収める。

 本当は違うんだけど……まあ、あの場で色々話すのはキリトに譲っておこうと思った。なんかことごとく台詞取っちゃって申し訳なかったし。

 

「シリカはどうしたんだ?」

「もう休んだよ。俺がここの説明したあと」

「そっか。子供は早く休まなきゃ……っと、これを本人に言ったら怒られるな」

「言わない方がいいぞ、それ」

 

 慌てて口に手を当てる俺を、キリトは苦笑いして言う。

 けどすぐに真面目な顔になると、俺の行動を咎めるように言葉を紡いだ。

 

「けどミスト、お前の行動は軽率すぎる。さっきも言ったとおりここは前線じゃないし、大して強くないモンスターと言っても……お前はPKされかけたんだぞ? もうちょっと危機感持たないと」

「あ……ああ、そうだな。すまなかった」

 

 それはただ言葉にする以上の思いが込められているような気がした。

 キリトは前に自分のレベルを偽ってギルドに加入し、そこにいたギルドを壊滅させてしまった過去があったんだっけ。だからなおさらパーティーの生死には過敏になっている。

 けどキリトは俺がそのことを知っているとは思っていないはずだ。……だったら

 

「なあ……キリト。なんかさ、お前のその言葉、重みがあるような気がするんだけど……俺の気のせいか?」

「それは……」

 

 知り合ってしまった以上、やはりその苦悩を少しでも軽くしたい。

 俺の質問にキリトは気まずげに目を逸らす。まだ引きずっているのなら言いたくはないのかもしれないけど……。

 

「一時的とはいえ、今俺たちパーティー組んでるだろ? 俺でよければ話くらい聞いてやるし、もしかしたらアドバイスできるかもしれない。知り合ったばっかりの人間にそう言うの話すのは……やっぱ嫌かもしれないけどさ」

「……ごめん。気持ちだけは受け取っておくけど、今はまだ話せない……」

「そ……っか。図々しい真似して悪かったな」

「良いんだ。気を使ってくれてありがとう」

 

 やっぱり知り合って間もないからすんなり話してくれるわけには行かないか……とはいえこれからちょっとずつでも仲良くなれればいいけど。

 

「そうだキリト、フレンド登録しよう。同じ攻略組なんだし、時々コンビ組めれば安全マージンとか格段にあがるだろ?」

「え? ああ、そうだな……」

 

 とりあえずさっきの話題は明後日に投げ、指を振ってメニューを開くとそのまま操作してフレンド申請。向こうが申請を受けてくれて登録完了……したらキリトは何か見て目を疑っていた。

 

「ミ、ミスト……」

「ん?」

「お前ってレベル80だったのか!?」

「そ、そうだけど?」

「俺より高いじゃないか……どんなレベリングしたらそうなるんだよ」

「えっと……気づいたらこんなに?」

 

 やっべー、俺のアバターってこの時点のキリトより上なのかよ!? 失念してた!

 

「お、おまけになんだこのレアアイテム……エリュシデータと同じ魔剣クラスの剣にステータス高補正の防具とか、90層クラスのボス相手にも通用するんじゃないか?」

「(マジでか)」

 

 つまりこの段階では、俺のアバタースペックはキリト以上ってことになる。中身はそれに追いついていないけど。

 確かにあのMMORPGでも大型レイドボス討伐報酬とか、限定アイテム素材で作った装備だったけど……まさかここまでとは。けどあのゲームじゃ俺よりも凄まじい猛者なんてうじゃうじゃいたし、俺精々中の上か上の中くらいだと思ってたんだけど。

 

「凄いな、ミストって……どうやってこんなの手に入れたんだ?」

「え、えーっと……フィールドボスとかのラストアタックボーナスとか、クエストとかトレジャーやってたら偶然?」

「偶然って……SAOには幸運値無かったけど、あったらお前の幸運値を見てみたいよ」

 

 呆れたような、それでいて感心したようなキリトに俺は内心冷や汗が流れるのを止められない。

 け、けどこれで俺が攻略組って言う信憑性は増したってことだし……結果オーライってことで!

 

 

 その後、キリトと共に「思い出の丘」の下調べを済ませ、徒歩でゆっくりと主街区に戻る俺たち。当然出てくるモンスターはことごとく狩り、だいぶ俺も慣れて来た。

 

「なあキリト。例の「タイタンズハンド」の事だけど……」

「ああ。どうした?」

「いや、そのギルドってどの程度危険な連中なのかって思ってな。オレンジギルドとは聞いたけどさ、結構やばいのか?」

「オレンジって言うだけで十分危険な連中だな。まあ、ラフコフに比べたら小物になるだろうけど」

「ラフコフ?」

「「笑う棺桶(ラフィン・コフィン)」だよ。誰もが知っている殺人を平気で行うレッドギルド」

「あの朝○ックで出て来る……」

「それはマフィンとコーヒーだ。……突っ込んだら結構似てるって思うようになってきたじゃないか」

 

 まあ、冗談はさておいて俺もラフコフは知っている。

 確かリーダーの名前は「PoH(プー)」ってふざけた名前の奴で、この時点じゃまだ健在だったか……。

 

「どっちにしても放置はしておけない。目もつけられたようだしな」

「あのロザリアってオバさんだろ。目を見れば分かるさ。ドス汚く濁ってた。シリカの事を狙っていたみたいだし」

「ああ……だけど、そんな事はさせないさ。絶対に」

「俺だって同じさ。手を貸すよ」

「けど……これは俺の頼まれた事だぞ? ミストには関係ないし……」

「今更他人は勘弁してくれよ? こっちはもう関わってるんだし、シリカまで狙われてるんじゃほっとけるわけないじゃないか。少なくとも、壁役はお前より適任だろ? 盾なし片手剣」

「そう言われたらそうだけどな……」

 

 けどキリトが盾を使わないって言うのはれっきとした理由がある。

 この世界で最高の反応速度を持つものだけが使う事のできるユニークスキル《二刀流》。ラスボスはこのスキルを持つものを勇者ポジションにしたかったらしい。

 そう言えば……ユニークスキルって他にもあるんだよな。鉄壁の防御を誇る《神聖剣》、そして圧倒的手数と攻撃力の《二刀流》と……あと《射撃》もあるらしいけど、残りの7つは結局不明のままだ。

 けどまあ、俺には到底縁のない物だろうな。そんな凄腕じゃないし。

 

「(でも……いつかは)」

 

 今は嘘でも、必ず本物にしたい。キリトたちと肩を並べて戦えるように。

 そのためにももっともっと強くならないといけない……アバターの強さじゃない。それを扱う俺自身が。

 

「ミスト? どうかしたか?」

「ん? いやなんでも。街が見えてきた、もうすぐだな」

「ああ……早く宿に戻って休もう」

 

 とりあえず現時点で危険そうなものはなかったことだし、明日は何の滞りもなく進むはずだ。

 ミーシェの宿屋に戻った俺とキリトは各自の部屋に戻り、俺は装備も脱がずにそのまま横になるのだった。

 

 

 翌朝、宿屋前で2人と合流し、再度フローリアへ。フローリアへ来るのは初めてだったシリカはその景色に目を奪われている。

 

「しかし……まあ」

「どうした?」

「昨日も思ったけどカップルの多いこと……圏内で爆発しやがれ」

「おい、物騒なこと言うなよ……」

「圏内に限定したのはリア充たちに対する俺なりの優しさだ。キリトは思わないのか?」

「別に……そんな風には考えた事なかったかな」

「はっ。ここで彼女できたら誘ってピクニックにでも来たらどうだよ? きっと大喜びするぞ?」

「検討しておくよ……と言うかそもそも、この場合俺たちってなんだ?」

「俺たちは……」

 

 女の子(シリカ)1人に男(俺とキリト)2人……。

 

「妹とピクニックに来た兄2人」

「……的確すぎる」

「何が的確なんですか?」

 

 転移してきたその場から1歩も動かない俺たちに、シリカが下から覗き込むようにしながら訪ねてきた。

 ……うん。どう頑張っても妹だ。この時点でキリトは16歳で俺は17歳。そしてシリカは15歳……だったっけ? イエス・ロリータ・ノータッチ。まだ蕾を取ってはいけません。

 

「い、いやぁ、なんでも。なあミスト?」

「そ、そうそう。いい天気だなって話してただけだ、うん!」

「???」

 

 肩を組んでどうにかごまかす俺たちをシリカは不思議そうに首を傾げてみていた。

 まあ、その後の進みは極めて順調。スイッチの練習も出来たし、シリカもレベルが上がったし問題はない。目的の蘇生アイテム「プネウマの花」も無事ゲットし、さあ帰ろうと街に戻ろうとする。

 ……が、橋の最後に来たあたりでキリトが足を止め、手を出して俺たちを制した。

 

「隠れてないで出てきたらどうだ?」

 

 キリトが言うと同時、俺は剣を抜く。こいつの索敵スキルを甘く見ちゃいけない。あのS級食材「ラグーラビット」を発見するほどの腕だ。

 観念したわけでもない、悠然と槍を持った赤髪の女……ロザリアがその姿を見せる。

 

「ロザリアさん……!?」

「その様子だと首尾よく「プネウマの花」をゲットできたみたいねぇ……おめでとう。じゃ、早速花を渡して頂戴」

「アンタに渡す義理も道理もないね」

 

 明確なまでも拒絶のオーラを放ってロザリアをけん制する。

 そしてその正体をキリトが明かすと、ロザリアは面白そうに目を細め、聞いていたシリカは信じられないようにロザリアを見やる。

 確かにロザリアのカーソルはグリーン。けど簡単な手口だ。グリーンのメンバーが獲物を見繕い、オレンジが待ち伏せているポイントまで誘い出す。PKじゃ比較的メジャーなパターンだな。

 

「こいつは仲間になった振りをして、ずっと獲物の品定めをしていたってことさ」

「何もかもお見通し……ってことみたいね。けど、そこまで分かっててその子に付き合うなんてバカァ? それとも本当にたらし込まれちゃったの?」

「別に? ただ2人には迷惑をかけたからな。俺はその詫びで付き合っていただけだ」

「俺はアンタを探していたのさ。ロザリアさん」

 

 そもそもキリトが前線を離れてここへ来た理由……それはある人物に頼まれたからだ。

 10日前、「シルバーフラグス」と言うギルドが「タイタンズハンド」に襲われてリーダーを除き全滅した。リーダーの男は朝から晩まで、最前線の転移門広場で泣きながら仇討ちをしてくれる奴を探して……それを請け負ったのがキリトだったんだ。

 そいつはこいつらを殺すんじゃなく、牢獄に入れてくれと……このデスゲームで出来た信頼できる仲間を殺された悲しみ、憎しみは俺には想像もつかない。

 これがただのゲームなら、復活して何やってんだよ、と笑われて終わるだろう……けど、ここでの死は現実での死。死者は蘇る事はないんだ。

 こいつは……こいつらはそれを、分かってないのか? 今のこいつらにとっては、ゲームであるはずのこの世界こそが現実だってことに。

 何がこいつらを狂わせた? このデスゲームが人を狂わせたのか……?

 パチン、とロザリアが指を鳴らすのを合図に、隠れていたほかの7人のメンバーが姿を見せる。それぞれのカーソルはオレンジに染まっていて。

 

「合計8人……か。お前の依頼主もどれだけ悔しかっただろうな……本心は殺してくれって言いたいのかもしれないのに」

「ああ……そうだな」

 

 読んでいた限りキリトにとって大した脅威ではなかった。

 なら今の俺にも、大した脅威じゃないはずだ。

 

「キリト……少し、俺に任せてくれないか?」

「ミスト……?」

「こいつら1人残らず生かしたままって言うのは分かる。けどそれじゃあ、俺の腹の虫が納まらない。こいつらのやって来た報いを受けさせないと気が済まないんだ」

「それは俺も同じだが……殺すなって言われているんだぞ?」

「ちゃんと約束は守るさ。万一、俺が頭に血が上りすぎて歯止め利かなくなっていたら……お前が止めてくれ」

「……分かった。少しだけ、だからな」

 

 俺の怒りにキリトは少し被りを振って許可をしてくれた。

 しかし、たった1人であの大人数を相手にしようという無謀にも見える俺の行動に、シリカは悲鳴に近い声を上げて制する。

 

「1人でなんて無茶ですよ! 2人とも逃げましょう!」

「大丈夫。キリトよりは防御力高いし」

「俺は回避型だからいいんだよ……」

 

 からかうようにキリトを引き合いに出すと、そう言われるのは不満なのかキリトはむっと頬を膨らませる。

 それに謝ってから、俺は2人に背を向けて歩き出した。

 

「ミストさん!」

「大丈夫大丈夫、最前線最強のキリトには劣るけど、俺もこれで攻略組の1人だから」

「こ…攻略組!?」

 

 俺の言葉を聴いた何人かがその単語を聞いて表情を変える。

 攻略組……最前線で活躍する、このSAO内での最強クラスの集団。そしてその中でもキリトは「黒の剣士」と呼ばれる最強の男。

 そして俺も、ハリボテだが攻略組を名乗った。あいつらには結構な動揺が走っただろう。

 

「ロザリアさん、攻略組が相手じゃ分が悪いんじゃ……」

「攻略組がこんなところにいるわけないじゃない! どうせハッタリでしょ!」

「ハッタリかどうか……その目で確かめろよ。なあ、お前ら……そんな平然と悪になったんだ。なら報いを受ける覚悟は……当然あるんだろう?」

「報い? あんたが報いを受けさせるって言うの? たった1人で、8人を相手にして?」

「数なんか大した脅威じゃない……どうやら、お前たちは自分の置かれた状況を理解してないみたいだな。俺から言えるのは……そうだな、この言葉を贈らせてもらおう」

 

 かつて、リアルタイムではまったあの半分ライダー。彼らが街を泣かせ続ける悪党どもに、投げかけ続ける「あの言葉」……。キザであるが、今回くらい特別だ。

 

「さあ、お前たちの罪を……数えろ」

「ふん! とっとと始末して、身包み剥いじゃいな!」

 

 ロザリアの命令に男たちは武器を構えなおし、それぞれが様々なカラーのライトエフェクトを発する。誰かが吠えたと同時に、男たちは一斉に俺に襲い掛かった。

 側面からならまだしも、盾持ちの相手に真正面から……馬鹿じゃないのかよ。

 けどこっちも、2人にああいった手前引き下がれるか!

 ぎゅぅっと両腕に力を込めた瞬間、「剣」と「盾」がライトエフェクトの輝きを放つ。これって……!?

 

「――はああああぁっ!!!」

 

 驚きはしたが、そのままにするつもりはない。

 俺は吠えながら1歩踏み出し、同時に両手を前に突き出す。

 赤いライトエフェクトとジェットエンジンのような音と共に俺は集団目掛け突っ込んだ。

 お互いモーション中で回避は間に合わない。かち合いになれば……

 

「おがぁっ!?」

 

 向こうの迎撃よりもさらに早く、片手剣重単発ソードスキル【ヴォーパル・ストライク】が7人の男たちをボーリングのピンのように弾き飛ばし、その勢いのままロザリアの喉元に盾と剣を突きつけた。

 

「……………」

「お前たちの負けだ。武装を解除して投降しろ……」

 

 静かに告げられる言葉。

 だがロザリアは俺との圧倒的な力の差を理解し、手にしていた槍を手放すのだった。

 

 

「凄かったな、ミストのスキル。俺も見たことがないよ」

「いや、俺もはじめて見た」

「「ええっ!?」」

 

 ロザリアたち「タイタンズハンド」のメンバーを監獄エリアに設定した回廊結晶で飛ばし、キリトの方の依頼も無事に終わって一度宿屋に戻った俺たち。

 話題となるのは当然、俺の発動したスキルなんだが……俺だってあの時偶然発動できて驚いた事を伝えると、キリトもシリカも意外そうに俺を見つめてきた。

 

「いや、まさか盾でソードスキルが使えるとは……最初は攻撃をパリィしようかと思ってたのに」

「気づいてなかったのかよ……」

「だって盾でソードスキルだぞ? なんだって……あ」

 

 呆れて突っ込むキリトに言いつつ、俺はスキル画面を呼び出してスクロール……すると、見慣れない文字がスキル一覧にセットされていた。

 

「どうした?」

「いや、これ」

 

 俺の反応を見たキリトに、俺はウインドウを透過させて2人に見せる。2人は顔を寄せてそれを覗き込んだ。

 

「「《盾剣技》……?」」

「盾でソードスキル撃てたのは、こいつのおかげみたいだ」

 

 説明には「一部の盾を使うことでソードスキルの一部が使用可能になります」と書かれている。

 

「どうやって出たんだ……?」

「俺が聞きたいって。エクストラスキルみたいだし、出現条件不明なのはよくあることだろう?」

「ユニークスキル……なんでしょうか?」

「それだとヒースクリフの《神聖剣》と被るし……《神聖剣》が「静」なら、《盾剣技》は「動」……より攻撃型のスキルなんじゃないか? 俺《体術》習得してるし」

「可能性は十分あるな……けどこれ、場合によってはユニークスキルに匹敵するレアものかもしれないぞ。両手でソードスキルが使えるってことは単純に攻撃力が上がるってことだし、スキルの硬直をスキルでキャンセルする事も可能になるわけで、ミストが同時に使ったように同時に使えば効果は単純計算でも倍増。フェイントを仕込む事も可能になって……」

「近い近い近い近い近い。落ち着け、そして離れろ」

「キ、キリトさん……」

 

 興奮気味に語りだすキリトに俺は寄せられた分を離しつつ頭にチョップを入れて大人しくさせ、シリカは苦笑いしながら若干引いていた。

 

「ご、ごめん。ちょっと興奮して……と、とにかく。そのスキルがあれば攻略にも随分貢献できると思うってことなんだ」

 

 自分の行動にキリトは顔を赤くして謝りつつ、とりあえず簡単にまとめる。随分端折ったなぁ……恥ずかしかったのか。

 確かに凄いスキルだと思う。言ってしまえば擬似的な《二刀流》だ。《二刀流》専用のソードスキルは使えないだろうが、似たような事は可能になるはず。

 

「けど、2人とも凄いですよね……前線なんてあたしにはとてもじゃないけど……今だって怖いのに」

「凄くなんかないさ。怖いのだって変わらない。この世界においては最前線だろうと中層だろうと、死ぬ時は死んでしまう」

 

 最初に戦った時は興奮していたが、落ち着いて熱が冷めてくると途端に怖くなった。

 

「これはゲームであっても遊びではない」

 

 このゲームを生み出した茅場晶彦が残した言葉の意味が、その時ようやく理解できた。

 ここでの死は現実での死……急速に現実味を帯びていくこの仮想現実での出来事。もはやここはリアルと言って過言でもない。

 体験したからこそ分かる事がある。この世界で怖くない場所なんて、きっとないんだろう。

 

「……そうだな。ミストの言うとおり……危険な事には変わりない。だけど俺たちは戦わなきゃいけないんだ。この世界から脱出するためにも」

「やっぱり……行くんですね」

「5日も前線を離れていたからな……遅れを取り戻さないと。ミストはどうする?」

「俺は今日ここで1泊してから、かな。このまますぐ前線に行くほど気力はない」

「そうか……俺は今日中に戻るつもりだけど、その前にピナを呼び戻してあげないとな」

「……はいっ」

 

 シリカは頷き、テーブルの前に立つとアイテムストレージから青く光る羽……「ピナの心」を出し、それをそっとテーブルに置くと次に出した「プネウマの花」から1滴の雫を落とす。

 すると羽から黄金の光が部屋を包み込んでいって――




 と言う事で第2話でした。今のところ原作通りなんで若干飛ばし気味に。
 次回は《圏内事件》の話ですが……ぶっちゃけミストは関わらないです。代わりにそのころの行動を描いていきます。その前にミストの設定かなー……。

 それで、今回登場したミストのオリジナルスキル《盾剣技》ですが、詳しい解説は劇中で既にやったり次回やったりします。
 まあ、《神聖剣》と《二刀流》の特徴を併せ持った下位互換ですね。相互互換なら2つ涙目ですし。

 ちなみにミストが所々ライダーの台詞言ってますが、今バトライド・ウォーⅡをやっている影響をもろに受けています(爆
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