寝て起きたらデスゲームに巻き込まれていたんだが。   作:リベリオン

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男にはどうしても譲れない時がある(逆転負けフラグ


第2話 男気を見せる時

第2話 男気を見せる時

 

 

「ぜぇー、ぜぇー、ぜぇー、ぜぇー……」

 

 何故俺はクエスト前から疲労困憊になってるんでしょうか……自業自得なんですよね知ってる。

 シノンとシリカ(そしてピナ)に襲いかかられ、死に物狂いで階段を駆け降りた先で俺は疲れ果てて四つん這いになっていた。

 

「すばしっこい……わね……」

「けどここが……終点です……よ……」

 

 だけど疲れてるのは向こうも同じなようで、言葉とは裏腹に2人とも肩で息をしているのがやっとの状態だった。

 しかし出た先は切り立った崖……ヨツンヘイムは飛行が出来ないから逃げ道が無い……あかん(虚ろ目)。

 

「ま……まあまあ2人とも。今は《エクスキャリバー》を手に入れるって言う大事な目的があるんだから、ここは穏便に……な?」

 

 もはやこれまでと諦めそうになった時、遅れて来たキリトが俺たちの間に割って入りながらシリカたちを宥めようとしてくれる。

 ……ただ、かなりおっかなびっくりしているようで引きつった笑みを浮かべているが。

 

「……仕方ないわね」

「今回はキリトさんに免じて、許してあげます」

 

 キリトの説得に2人は一応引き下がってくれたようだが、まだ文句を言いたそうに半眼で俺を見下ろしていた。

 引いてくれた2人に俺はほっとしながら、同じくほっとしたキリトの手を借りて立ち上がる。

 

「大丈夫か、ミスト?」

「正直このまま崖下に投げられるかと思った……」

「俺も冗談のつもりだったんだけど……なんか、ごめん、ほんとに」

 

 そう言えば事の発端ってシノンからかってたお前から始まって、俺に飛び火したんだよな……しかも最初から全身にガソリン撒かれたような状態で。フレンドリーファイアなんてシャレじゃ済まないっての……。

 

「これがGGOで最強と呼ばれた2人、ねぇ~……」

「キリトはともかく、ミストまでトップレベルって言うんだから、世の中分かんないもんよねぇ~」

 

 くっそう……クラインもリズも好き放題言いやがって。こっちだって好きで情けない格好晒してるわけじゃないのに……。

 なんとか言い返したかったもののこんな状況では何も返せず、俺はぐぬぬ……と唸るしかない。

 

「じゃあ凍結耐性の魔法掛けるね」

 

 こっちの漫才みたいなバカ騒ぎに笑いつつ、アスナが全員に支援バフを掛けてくれた後、リーファが勢いよく指笛を吹いた。

 すると遠くからゾウに似た鳴き声がリーファに応じるように響き、崖の下を覗くと下の方から……なんだ? ゾウ……いやクラゲ? とにかくなんかその2つを足して割ったしたような邪神がやってくる。

 

「トンキーさーん!」

 

 ユイちゃんの反応からするに、あれが噂の『トンキー』なんだろう。けどトンキーってなんだろ。テンキーは数字だし、○ンキーはゴリラだし……。

 

「ってデッカ!」

 

 が、名前の由来よりもトンキーが目の前までやってきてその巨大さに度肝を抜かれた。改めてその姿をよく見てみると足はクラゲみたいで、顔はゾウみたいに長い鼻と耳がある。けどとにかく大きい。邪神だから当然だが、長い鼻の太さが人間よりも太い。

 

「うっひゃぁ……初めて見たけど随分大きいんだな……」

「まあな。これだけ大きいから乗れる人数も……あ゛っ」

 

 大きさに感心していたら突然キリトが変なタイミングで唸った。なんだと思って顔を見ると、「あっちゃー」と失敗したように手で顔を覆っている。

 

「ん? どうしたキリの字よ」

「いや……大事なこと忘れてた。トンキーには人数制限があったんだ」

「――ああっ! そう言えばそうだった!」

「人数制限? 何人乗りなんだ?」

「……7人」

 

 申し訳なさそうに呟いたキリト。

 えっと、ここで今回のメンバーを確認してみよう。

 1、キリト。

 2、アスナ。

 3、リーファ。

 4、シリカ。

 5、リズ。

 6、クライン。

 7、シノン。

 8、俺(ミスト)。

 

「どう考えても人数オーバーです。本当にありがとうございました」

「わ、悪い……完全に失念してた……」

「お、おいおい、どうすんだ? ダンジョンにはトンキーが居ないと行けないんだろ?」

「う~ん……往復してダンジョンに行くしかないかなぁ」

 

 リーファの言う通りそれが無難だが……。

 

「それなら、私にいい考えがあります!」

「ユイちゃん、何かあるの?」

 

 全員で考えていた時、唐突にユイちゃんが自信満々に言った。

 ……けどなんだろう。それは失敗フラグにしか聞こえないのは。……はははいやまさかね。

 

「それは、ミストさんも私と同じようになればいいんです!」

「ファッ!?」

「えっ……それってつまり、どういう事……?」

「つまり、ミストさんもこのナビゲーションピクシーの姿になれば、人数制限もクリアー出来るんですよ! これで万事解決ですっ!」

 

 えっへんと鼻高らかに胸を張るユイちゃん。なるほど……いやちょっと待とうか!?

 

「えっと……本当に出来るのか? ユイ……」

「はいパパ。理論上ですが、ミストさんのような状態ならこの姿になる事も可能です!」

「いやいやいや! なれるとしても俺どうするのか全然知らないし、そもそも本当に出来るのか!?」

「出来ますよ! 実際にはデータを圧縮して小さくなっているように見せればいいわけで……」

「ごめんお兄さん全然分かんないよ!?」

 

 例え分かったとしてもやりたくないです! なんて言うか想像しただけで我ながらキモチワルイんですけど!

 

「キリトッ、クラインッ! お前らも俺の気持ち分かってくれるだろ!?」

「ま…まあな……」

「仮に俺でも出来たとしても……なんつーかよう? そもそもそんな需要ないだろ……」

「「需要はあるわ(あります)!」」

「「「…へ?」」」

 

 男たちの否定的な意見に対して、2つの声が反論した。

 

「えっと……シリカさん、シノンさん? お2人は一体何を仰ってるんでしょうか……?」

「だから、需要はありますよミストさんっ! 大丈夫です、ダンジョンに向かう間は私がちゃんと抱えてあげ――」

「シリカの所にはピナが居るから危ないでしょう? クラウドは私が守ってあげるから気にせず小さくなっていいわよ?」

 

 と、俺のピクシーモードを見たい熱烈な2人の主張。この2人には需要があったのか……。

 

「は? 何言ってるんですか、ピナだって無闇にミストさんに噛みついたりしませんよ。シノンさんこそ、うっかり間違えてミストさんを矢で飛ばしたりするんじゃないですか?」

『きゅいっ!』

「そんなイージーミスを私が犯すわけ無いでしょう?」

「だあっ! 2人とも喧嘩やめいっ! 誰がなんと言おうが俺はピクシーなんて拒否するっ!」

「「えー」」

「ぶーたれてもやりませんっ! そんなんだったらトンキーの足にしがみついてる方がマシだっ!」

「あ、それだったら大丈夫ですよ」

 

 ってあれ? 不満たらたらな2人に断固たる態度で反対していたら、徐にユイちゃんがオカシナコトを言った気がする。

 なんと言うか本能的に嫌な予感しかいないが……恐る恐る俺はもう1度聞き返した。

 

「あのー……ユイちゃんさん? 何が大丈夫なのでしょうか?」

「ですから、トンキーさんの足なら大丈夫ですよ。人数制限はあくまで背中に乗れる人数が、というだけで、それ以外の場所でしたらセーフです」

 

 と言っても裏技に近い方法ですけど……と付け加えるユイちゃんに対し、俺はというと呆然。

 思わず口に出した事とは言っても……本当にフラグ立てちゃったのか俺は!?

 

「……よしっ、お疲れ!」

「――逃がすかっ!」

「は、離せキリト! 俺は触手プレイなんて特殊ジャンルは趣味じゃないッッッ!」

「俺だって趣味じゃないわ! けど今回のクエストにはミストの力も必要なんだ! 大体、自分でトンキーの足にしがみつくって言ったじゃないか!」

 

 瞬時にその場から離脱しようとした俺を、行動を先読みしていたキリトが羽交い絞めにする。

 ええい! こんなの実際にフラグになるなんて分かるわけないだろっ! 誰が触手に掴まるか!

 

「ちょっと、そこのくんずほぐれつしてる2人ー。なんでもいいから早くしなさいよねー」

「くんずほぐれつとか言うなリズ! お前だって触手は嫌だろ!?」

「確かに嫌だけど、関係無いし」

「ハッキリバッサリ言いやがってぇ! それならキリト、お前がトンキーの触手に掴まれ!」

「絶対嫌だしお前が行け!」

 

 ぐぬぬ……なんと言う執念深さめ!

 

「よーしよし、落ち着けお前ら。そこまで言うならいっちょひと勝負で決めようじゃねぇか」

「勝負ぅ…?」

「おうよ。こう言う時は――ジャンケンだろ。勝った奴が()()を見せるんだ」

 

 だからってなんでジャンケンなんだよ……と揉める俺とキリトの仲裁に入ったクラインに突っ込もうと思ったが、ふと思い止まった。

 いや、待てよ……? 今の俺なら超ギリギリまで相手の手を見てから出しても後出しと気づかれないスピードで出す事が出来るんじゃないか? いや、うん。イケる。

 うむ……勝利は既に約束されたも同然じゃないか!

 え?「全力は出さないんじゃなかったのか」だって? 男にはどうしても譲れない物があるんだよ……。

 

「よっしその勝負乗った。泣き見ても知らないからなー」

「ほーう言ったなぁ? 終わってから「今のナシ!」とか言うなよ?」

「誰が言うか! 証人だって大勢いるんだしやんねーよ!」

「よっしゃ、そうこなくっちゃな! ほれキリトも、勝負すんだから離してやれって」

「……仕方ないなぁ」

 

 やれやれと呆れながらキリトは羽交い絞めを解き、それから俺たち男3人は輪になった。

 

「じゃあ、「男気ジャンケン、ジャンケンホイ」でやるからな」

「いつでも来やがれってんだ!」

「よし……」

 

「「「おーとこーぎジャーンケン、ジャンケンホイッ!」」」

 

 腕を振り下ろし、手を出そうとするその刹那。俺の視界が急激なまでにスローモーションとなる。

 ゆっくり振り下ろされる腕。キリトとクラインはパーを出そうとしているようだった。ならば選択はただ1つ――!

 

「で――えりゃああぁっ!」

 

 これが俺の渾身の一手――!

 

「………………」

「………………」

「…………ふっ」

 

 キリトとクラインの2人はやはりパー。そして俺はそれに勝つチョキ……!

 

「ヴィクトリーのV! はっはっは、悪いな2人とも俺は高みの上から見物させてもらう「うし、じゃあミストはトンキーの触手なー」ってなんでそうなんだよ!?」

「いや、だから言っただろ? 「勝った奴が男気を見せる」って。男気ジャンケンってそういうルールだろうがよ」

「男気……ジャンケン……」

 

 それって木曜21時にやっていたあの番組の……確か、勝ったら全員の支払いをするって言う……悪魔の企画……!

 

「は、図ったなクラインー!?」

「人聞き悪ぃ事言うなよなー。大体、「勝った奴が男気見せる」って最初に言っただろーがよ」

「ぬっ、ぐ……ぐぬぬぅ……ッ!」

 

 ええい、確かにその通りだが……! だからと言ってこのままだと触手プレイコース一直線になってしまう! 嫌だ! 俺は……掴まりたくないィイッ!

 

「見苦しいわよーミスト、時間がもったいないんだから観念してトンキーの触手に捕まりなさいよ」

「けどリズ、ミストくんこんなに嫌がってるし……2回に分けてトンキーに運んでもらわない?」

「何言ってんのよ、ミストが自分で言ったんじゃない。「トンキーの足にしがみついている方がマシだ」って。それが嫌ならピクシーモードになりなさいよ」

 

 なんとか場を収めようとするアスナだったが、リズがバッサリ切り捨ててしまった。

 ピクシーかトンキーの触手か……どっちも嫌なんだけど拒否して逃げ出すと言う選択も出来ないらしい。

 散々悩んで、散々唸って……考え抜いた末に、もうヤケになって吠えた。

 

「わーったよ! いーよ、こうなったらトンキーの触手に掴まってやる! うっかり地上に落ちたら化けて出てやるから覚悟しろよ!?」

「化けるも何もアンタ幽霊みたいな物じゃない……じゃ、方針も決まった事だしさっさと乗りましょ」

 

 そんなわけで、キリト達はぞろぞろとトンキーの背中に。直前でクラインが躊躇っていたが、腹いせにその尻を蹴って強引に乗り込ませた。

 そして俺は……クラゲみたいな触手に掴まって、全員が乗り込むとトンキーはすいーっと泳ぐように飛び立っていく。

 

「――ところで、もし人数制限をオーバーして乗り込んだらどうなるんですか?」

「その場合は、移動速度に制限が掛かるペナルティが発生するだけですよ」

「おいなんだそれぇ!? それじゃあ今までの全部茶番じゃないの!? コラー! 今すぐ俺を背中に乗せろォオッ!!!」

 

 

 ――解せぬ。(真顔)

 どうして俺は邪神の触手に掴まって空をフライトしてるんでしょうか。うん、全く意味が分からないネッ!

 トンキーの背中の上では、俺を除いたメンツがわいのわいのとなんだか楽しそうに談笑してる。物理的にも輪に入れないのがおお、俺は悲しい。ボッチがさみしくてあれこれふざけた事を考えたりしてるぜ……うぅぅ。

 

「このフラストレーションはダンジョンで暴れまくって晴らさせてもらぅううぅぅぅぬぉおぉおぉおぉッ!?!?」

 

 ボソッと呟いたその直後、トンキーが突如急降下! 一気に地上近くまで高度を下げてきた!

 上はどうかは知らないが、こっちは触手に掴まってるという極めて危うい状況。手を離せば死ぬ! いや死ぬコレマジで死ぬぅぅぅ!

 

「――っ…………おーい、無事かミストー?」

「もうヤダーおウチかえるー!」

「扱いの酷さに駄々っ子みたいになってる……」

 

 うるへーリズ! こんな風にされれば誰だってこうなるわ! 帰りはお前がやってみろ! お前が泣き叫ぶのを俺はトンキーの背中から腹抱えて笑って見下ろしてやるから!

 などと言い返そうと思ったが、何やら上の様子がおかしい。

 怪訝に思って上を窺おうにも、見上げればあるのはトンキーの顔。位置的に完全な死角になっている……話し声だけは辛うじて聞き取れるけど。

 

「(スリュムが……? 《エクスキャリバー》? うーん、ほとんど内容聞き取れないからさっぱり分からん)」

 

 ただ、上に居るキリトたちはかなり驚いているらしい。クラインが『誰か』に叫んでる声が聞こえる。

 ……あ、なんかクエスト発生した。『氷宮の聖剣』……?

 首を傾げている間にもトンキーは再び動き出してダンジョンへと向かって飛び、上ではなんやかんやあった挙句全員が気合いを入れてすっごい盛り上がってた。

 

「あの、ごめんなさい、話が全く見えないんですけど。俺1人だけ完全にアウトオブ眼中なんですけど。ねえ誰かー、お願いだから説明してよー」

 

 ねえ次回もこんな扱いじゃないよね俺? 次こそは大暴れして大活躍なんだよねぇ?




Q「俺の扱いが雑すぎると思うんですがどういうことですか?」

A「仕様です」(即答

ってことで導入はこの辺で、次回から本格的にバトルも入ります。

あと、次章の予告も含めてキャリバー編全話書き終わったので隔日で投稿していきますね。次回は5日水曜日になります。
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