寝て起きたらデスゲームに巻き込まれていたんだが。 作:リベリオン
一応2話構成のつもりなんで《圏内事件》の前編に相当しますが、ミストは関わらないためスルーしてます。時系列的には事件前の話になりますね。
そしてミストとシリカ(とピナ)のコンビ(トリオ?)結成。前線に行くためレベリング中です。
第3話 赤と赤のデュオ
前回のあらすじ:
サイクロン! ジョーカー!
第50層迷宮区。
バトルアックスを両手に持ったミノタウロスの振り下ろした攻撃を、俺は盾で受け流しつつ、受け流した反動を利用したステップ移動と共にその横っ腹に剣を叩き込む。
血飛沫代わりの赤いポリゴンエフェクトと共にミノタウロスは怯み、続けて俺はソードスキル【ホリゾンタル】を使ってその左足――の、正確には膝関節を狙って――を斬り飛ばした。
「スイッチ!」
「はいっ!」
俺の合図と共にシリカが倒れこんだミノタウロスの上に飛び乗り、その喉元にダガーを突き立てる。
急所を突かれたミノタウロス。シリカはダメ押しとばかりに4連撃ソードスキル【ファッド・エッジ】を発動し、今度こそミノタウロスへ止めを刺した。
戦闘が終了してリザルト画面が表示され、経験値とコル、あと素材の《牛人の角》が手に入る。
「よーし、いっちょあがりっと。中々良かったんじゃないか? シリカ」
「本当ですか? ありがとうございますっ!」
剣を収めながらそう言うと、シリカは嬉しそうに頭を下げる。もちろんその頭の上には使い魔兼友達のフェザーリドラ「ピナ」も一緒だ。
え? なんでシリカと一緒にいるのかって? それはおおよそ1週間ほど前に遡るんだが……。
無事にピナの復活を見届けて、キリトは一足先に前線へ帰ってしまった。転移門までシリカと一緒にキリトを見送って、さて宿に戻って飯でも食おうかと思っていたところ……。
「あの、よかったらご一緒しませんか? ピナを呼び戻してくれたお礼がしたいんです」
「え? いいって、お礼なんて。そんな大したことはしてないし」
事実、ただ2人に付き添って復活アイテムを取りに行っただけの俺にそんな事をする必要はない。むしろお詫びに俺が食事に誘ってもいいくらいだと思う。
「そんな事ないですよ。ミストさん、昨日の夜に思い出の丘に行って、危険がないか確認してきてくれたんですよね? 私のために」
「そ、それってキリトが喋ったのか?」
「はい……それに、私のためにロザリアさんたちと戦ってくれて……その、凄くかっこよかったですし」
「か……カッコいいってそんな」
生まれて初めて女の子にそんな褒められた。彼女いない暦=年齢と同じ、趣味はネトゲとアニメに特撮鑑賞だったインドア系の俺が、こんな可愛い子にカッコいいって言ってもらえた……。
「奇跡も、魔法もあるんだな……」
「はい?」
『きゅいー!』
「いたっ、イタイイタイ! なにごと!?」
「ピ、ピナ!? どうしたの? ダメだよ、突いたら!」
感動のあまり某有名なセリフを言ったらなぜかピナに突かれる。そのことに飼い主のシリカも驚いて慌てて胸の中に抱いて押さえつけた。
「ごめんなさい、ピナは普段こんな事しないはずなんですけど……もう、ダメだよピナ? この人はあたしたちを助けてくれた恩人なんだから」
『きゅー……』
「お、俺に対する突っ込みか……?」
大人しくなったピナはそれを肯定……と受け取っていいのだろうか? とにかく頷くような仕草をする。どうやら突っ込みは厳しいらしい。
「あの……それで、お礼なんですけど」
「え? ああ、そうだな……じゃあ、シリカの気の済むようにしてくれ」
「本当ですかっ!?」
こりゃ俺が折れる以外ないだろう。そう思って口にすると、シリカはぱぁっと嬉しそうな顔を浮かべて俺を見上げてくる。
ちょ、ちょっとシリカさん……近いですよ。悪い気はしないけど、けど蕾を取っちゃいけません! ダメ! ゼッタイ!
『きゅっ(ガプッ)』
「ふごぉっ!?」
「ミ、ミストさん!? もう、ピナったらダメだってばぁ!」
俺のやましい下心を感知したのか、シリカの頭の上に乗ったピナが思いっきり鼻の頭に噛み付いてきた。圏内だから痛くないけど、どうやらピナはシリカの事を守っているらしい。こりゃ上層のフロアボスよりも下手したら手ごわいかもしれない。
宿に戻ってシリカにご馳走してもらったあと、俺は宛がわれた部屋で横になった。
「なんとか、ピナを生き返らせることは出来たなぁ……」
おまけにキリトと友達になれたし、もう幸先がいいとしかいえない。いやあ、よかったよかった……
「――っじゃねえって!」
がばっとは寝起きつつ自分で自分に突っ込む。
そうだよ! 俺なんでこんな物騒な場所にいるの!? なんで!?
やっぱり夢って……いや昨日寝て覚めてもここだったし! 夢オチでオチないし!
立て続けに色々あってまったく持って考える余裕はなかったが、今度こそ自分の境遇について考えなければいけない。
なぜ、フィクションである「ソードアート・オンライン」に俺は来てしまったのか。
原因は? どうすれば戻れる? 手がかりはあるのか?
「ざ……材料が微塵たりともなさ過ぎる」
即座に挫折して「orz」する俺。
だって、寝て起きたらここなんだよ? 原因とか、わかるはずないじゃん!
「手がかり……手がかりかぁ」
必死にそこまでよくない知恵をフル活用して考え込む。やっぱり、キーマンは……。
「ヒースクリフ……だよな」
最強ギルド「血盟騎士団」のリーダーにして最強剣士の1人、ユニークスキル《神聖剣》を持つ鉄壁の男……そしてこのデスゲーム「ソードアート・オンライン」の生みの親である黒幕……ヒースクリフこと茅場晶彦。鍵を握るのはこいつしかいない。
幸い、ボス攻略会議に出れば顔を合わせることだってあるはず。こうなったら何が何でも最前線に出なければいけない……。
「よし……まずは明日、前線に行こう」
基本動作はこの2日でミッチリ覚えこんだ。パーティー戦のやり方も今日で覚えた。当分ソロは厳しいかもしれないが、それでもやるしかないんだ。
幸い、幸運にも俺にはエクストラスキル《盾剣技》がある。これを使えば1人でもどうにかいける……はず。さらに生存率を上げるために索敵と隠蔽、後は生存能力に堅牢鉄壁を強化しよう。特に戦闘面では《シールドコーティング》と《バトルヒーリング》でかなり打たれ強くなるはずだ。
「こんなところかな……」
状態異常耐性のトライレジストやフィジカルビートも場面によっては有効に働くだろう。状態異常をしてくるボス相手には特に有効なはず。
こうして見るとガッチガチの防御型だよなぁ。けど不慣れな俺にはこれがちょうどいい。
「ミストさん、シリカです。起きてますか?」
「シリカ……? ああ、起きてるよ。ちょっと待ってな」
スキルの設定を終えた頃になって、ノックと共にシリカが呼ぶ声がする。
何の用だろう……? 思い当たる節がなくて首を傾げながら、俺はドアを開けた。
「ごめんなさい、こんな時間に……お休みしてましたよね?」
「いや、もう少ししたら寝るところだったから。立ち話もなんだし、入ってくれよ」
俺に促されてシリカは部屋に入ってきて、勧められた椅子に腰掛け、俺はベッドに腰を下ろした。
「それでどうしたんだ? お礼ならもう十分すぎるくらいしてもらったぞ」
「いえ……そうじゃなくて」
シリカはどこか恥ずかしそうに、それでいて言いづらそうにもじもじしている。
なんだろう。シリカは一体なにがしたいんだ? 皆目見当がつかない俺はただ首を傾げるだけだ。
「助けていただいた上に、こんな事を言うのは図々しいかもしれないですけど……」
「んー、まあ話聞くだけでも聞くけど? と言うか、聞かなきゃ判断つかないし」
「……じゃあ」
その時の俺は、この時シリカが何を言うか分からなかった。分かっていたら聞こうとしなかっただろう。
なぜなら、シリカの頼みは――
「――あたしを、前線に連れて行ってくれませんか!?」
「……はい?」
俺の想像の斜め上を行ったものだったのだから。
「ぜ、前線に連れて行けって? シリカを?」
「はい……」
「なんでそんな事……シリカのレベルじゃ前線は厳しいし、何よりこことは比べ物にならない危険だ。分かってるのか?」
「分かってます……けれど、ミストさんは言いましたよね。「最前線だろうと中層であろうと、死ぬ時は死ぬ」って」
「言ったけどさ……」
だからと言って俺の場合とシリカの場合では状況が違いすぎる。俺は幸いステータスに恵まれていて攻略組の誰かと組んで前線に挑めるが、シリカはレベルも装備も低い。特にレベルは俺と半分近い差がある。
そんな状態で前線に挑んでも……死んでしまうのがオチだ。無謀すぎる。
「理由はあるんだよな?」
「……このまま、誰かがゲームクリアしてくれるのを待っていたらダメだなって思ったんです。ミストさんとキリトさんの2人が攻略組だって聞いて、戦っているのを見て……凄いって思いました。攻略組なんて私のレベルじゃとてもじゃないけど無理だろうなって、そんな所で活躍している2人が凄いと思って……でも、ミストさんの言葉で気づいたんです。前線にいる人たちも私と変わらない。それどころか、もっとたくさん怖い思いをしているんだって」
「……………」
確かにシリカの言うとおり、前線のほうが危険度ははるかに高く、死ぬ可能性も高くなってくる。どれだけ万全を期そうとも、結局は想定外のことが起きれば死ぬ可能性があるはず。
それでも、この世界から解放される事を望んで彼らは今も戦い続けている。自分たちが手のひらで踊らされているのを分かっていながらも。
「だから、あたしも……そんな人たちの力になりたい。もう「竜使いのシリカ」なんてもてはやされる自分と、決別したいんです!」
「……死ぬ可能性は格段にあがるぞ」
「分かってます」
「俺がお前を守れる保証だってない」
「承知の上です」
「…………はぁ」
シリカの固い決意の前に俺はため息をついた。何をどう言っても、折れるつもりはないらしい。
まさかこんな形でストーリーを外れる展開になってしまうとは……やらかしたな俺。
どうする……問題はシリカのスペックだ。このまま挑んでも無駄死にする可能性のほうが大きい。特に装備は現状どうにかなるにしても、HPが最大の問題だ。
俺のHPは15,890……キリトと違ってVITを優先的に振っているからやや高い。スタイル的にも盾持ちの片手剣だから、このくらいはあってもいいだろう。むしろこのゲームならHPがいくらあっても困る事はない。
対してシリカは10,000にも満たない……元々敏捷重視の短剣使いだからその辺りが低いのは当然だが、このままじゃ低すぎる。せめて10,000以上は欲しい。
そのためにはレベルを上げないと……最低限安全マージンを超える程度には。この時期だと56層くらい……シリカのレベルが45だから……21も上げなきゃいけないのか。これは相当骨が折れる上にハードなレベリングが必要になるぞ。
まずは経験値効率のいい狩場と、所得経験値のブースト……何かいい方法はないか?
「ちょっと待っててくれ」
一旦シリカに断ってから、アイテムストレージに収納していたガイドブックを取り出して情報を読み漁る。
えーっと、スキルスキル……そしてバトルスキルでと……お、いいのがあった。これを俺は……覚えてる、と。
ブック片手にスキル画面を確認して頷く俺に、シリカはどうしたのだろうと首を傾げる。俺はブックを閉じてまたストレージに収納すると、咳払いをして口を開いた。
「そこまで言うなら、分かった。シリカを前線に連れて行く」
「本当ですか!?」
「だけど今のままじゃレベルが低すぎる。先を見越して、57層の安全マージンまでレベルを上げていく」
「57層……22もレベルを上げなきゃいけないですね。でも……」
「そこで、経験値をブーストできる良い方法がある。バトルスキルに《ゲインエクスペリメンス》と《クライムサーバント》ってものがある。前者は得られる経験値を増加し、後者は所得経験値を全部パートナーに献上する。つまり俺が得た増加経験値を、シリカに全て渡して強引にてこ入れするってことだ」
「ぜ、全部の経験値をですか!? けど、そうしたらミストさんの経験値が……」
「俺は今80だし、安全マージン限界までは当分余裕がある。クォーターポイントも過ぎているし、マージン以上のレベルを上げる必要性は当分ないだろう。けど、俺もいつまでも前線を離れるつもりはないからな。結構ハードな道のりでシリカのレベリングを行う。それでいいか?」
「ミストさんは……あたしが前線に行くのを許してくれるんですか?」
「許したわけはないけど……決めたのはシリカだ。説得こそすれ、却下する権利は俺にない。けれど俺の言う事はちゃんと聞く事。危ない事はしない事。単独行動はしない事。これを守れるなら、最前線に連れて行く」
「……ありがとうございます、ミストさんっ!」
ぱっと明るい表情を浮かべたシリカ。そして感極まってそのまま俺に抱きついてくる。
初めて女の子に抱き突かれた俺はそりゃもうロケット花火みたいに飛ぶとか、目玉飛び出てビーム出たとか、まあそんな感じで内心では小躍りしたいほどヒャッホーウ! な気持ち……ではあったが、最終ボスピナと俺の理性が総動員して押し留めた。
諸君、イエス・ロリータ・ノータッチだ。蕾は取ってはいけない。紳士に、紳士に行こうじゃないか。でもシリカって俺と大体3つ違いなんだよな……いやいやいや、中学生ならいいのかってわけじゃないだろ!
……とまあ、そんな事があって現在レベリング中。俺も得られた経験値は全てシリカに譲渡され、しかも所得経験値増加スキルによってここ数日でえらい勢いでレベルが上がっている。何しろ50台を突破してるんだから。
最初こそ不安に思ったが、シリカのレベリング作業は俺にとっても都合が良かった。《盾剣技》に対応するソードスキルが何なのか、実際に使って確かめられたから。
とりあえずまとめると、キリトの言うとおりスキルの同時使用や連携は可能だが、盾によって対応するソードスキルとしないソードスキルがあり、例えば現在装備している盾は突属性に対応し、【シャープネイル】や【ホリゾンタル】などの斬撃系には対応していないと言う事だ。
そしてこの場所を選んだわけは、情報屋のアルゴに幾つか条件(パーティー人数とスタイル、レベルなどなど)を設定し、代金としてコルに加えて《盾剣技》の情報を無償で提供した結果でもある。ここなら俺がいればシリカの安全は十分確保できるし、おまけに俺は堅いしシリカはピナの回復スキルのおかげで見た目よりは耐久力もある。まあ、俺が注意をこっちにひきつける盾持ち専用スキル《シールドバッシング》とかパーティーメンバーの防御力を上げる《ディフェンスコール》で防御力の低いシリカを補うし、今のところはうまく行っている。
うまく行っていると言えば、シリカとの関係もだな。元々懐かれていたほうとは思ったが、兄みたいに慕ってくれるのはやっぱり嬉しい。ピナさんとは……ちょっとは距離も縮められただろうか。噛まれたり突かれたりする事も少なくなったし。
……「お兄ちゃんって呼んでもいいですか?」と上目遣いで言われた時にはくらっと来たが、ピナさんが怖かったので丁重にお断りした。
「今日はここまでにしておくか……一旦安全エリアまで戻って休んだら、街に戻ろう」
「そう……ですね」
少し疲れた表情を見せたシリカの状態を考慮し、俺は今日のレベリングを切り上げる事にした。
一度安全エリアまで後退した俺たちは、岩の傍に腰を下ろして休憩を取る。
「1週間で51か……このペースだと1ヶ月で24かそこらまで上がるって計算になるな」
「ミストさんの言っていた目標レベルは超えられそうですね」
「そうだな。多少強引ではあるけど、結構効率はいい。1日中ダンジョン潜っているんだし」
コルや装備品、素材も手に入るし、不要なものは売って金にすればまた今後の活動資金になる。最初は厳しいと思ったが、これならどうにかなりそうだ。
けどシリカも女の子。こんな毎日ダンジョンに潜っていたら退屈だろう。……よし。
「シリカ。明日と明後日はダンジョンに潜るのは止めて休みにしよう」
「え?」
「休息も大事だ。潜ってばっかじゃモチベーションにも影響がでてくる」
「そう……ですか?」
「ああ。けど、休み明けにはまたダンジョンに潜ってレベリングだ。これをローテーションで繰り返そう。予定よりは少し遅れるけど、急いて事を仕損じるって言葉もあるし、急ぎすぎるのも良くない」
「わかりました。ミストさんがそう言うなら、そうしますね」
『きゅいー!』
ピナも休みには賛成なのか、同意するように鳴き声を上げた。
休憩を終えた俺たちはダンジョンの出口を目指し、当然ポップするモンスターは全て倒して主街区の「アルゲード」に戻ってくる。
雑多な町並みは迷路のような構造で、マップを頼りにしないと迷ってしまいそうな場所だ。
「シリカは先に宿に戻っててくれ。俺はダンジョンで手に入れたの売って、アイテム補充してくるから」
「はい。じゃあミストさん、またあとで!」
手を振りながらシリカはピナと共に雑踏の中に消えた。こっちに来てから1週間、宿屋など主要どころの場所はしっかりと覚えている。
さて、俺は……あいつのところに行くとしますか。
脳裏にバリトンボイスのタフガイの姿を思い浮かべながら、シリカとは別方向に歩き出した。
「ちーっす。エギルいるか?」
「お、ミストか。また来たのか?」
「客に向かってまたってなんだよ、またって」
もはや馴染みになったやり取りをしつつ、カウンターにいるどう見ても日本人じゃない浅黒い肌に長身のタフガイの前にやって来た。
こいつの名はエギル。アフリカ系アメリカ人にして生粋の江戸っ子と言うまあ、外見どおり怖そうな奴なんだが面倒見もいい出来た大人でもある。
こっちに来てダンジョン帰りによく顔を出し、トレジャードロップとかその辺を売っていた。
「で? 今日の稼ぎはどんなだ?」
「ボチボチってところだな。っつーわけで買ってくれ」
言いつつアイテムストレージから使いそうにない武器や防具、指輪やら何やらを全てエギルの前に出す。素材に関しては武器の強化に使うから、今のところはキープしていた。
「しかしお前も苦労するよなぁ。攻略組希望の中層プレイヤーの育成なんて、すぐ根を上げると思ったのに」
「可愛い女の子の頼みを断るわけに行かないだろ? ああ、俺紳士だから変な意味はないぞ」
「どの口が言うんだ、どの口が。えー、なになに……まあ、こいつらならこんな所かな」
離しつつもエギルは売るアイテムの鑑定を怠らず、少しして買取価格を出す。
「こんなものか? 安くはないと思うけど」
「まあ、普通の相場だな。前線ででたアイテムじゃないしこんな所だ」
「金に困っている事はないからいいけどな……けどその内シリカの装備を新調しなくちゃいけないし、無駄遣いはあんまり出来ないし」
「お前本当主夫みたい「まだ17だ」いや、わーってるって」
ったく、こいつは……どう見たらこんな青少年が主夫に見えるんだ。
「そう言えば明日、フィールドボスの討伐があるんだが……お前も参加するか?」
「そうだな……シリカには明日と明後日休みって伝えたし、予定は空いている」
そう言えばそんなイベントがあったなと今思い出した。確か、どっかの村だったよな……パニの村、だっけ。
「ラストアタックボーナスを狙えば、労せずシリカの装備をゲットできるんじゃないか?」
「そうだな……そのボス戦、キリトも参加するのか?」
「ああ。俺も出るつもりだ」
エギルがキリトのことを知っているのは知っていたが、エギルが俺とキリトが知り合いって知ったのはちょっとした偶然だ。
あれはここに来て3日目のこと。ダンジョン帰りにここに立ち寄った時に、たまたま来ていたキリトと遭遇したんだ。あれには驚いた。
で、奇遇だな、どうしたんだと話していたら、当然シリカの事を話さないわけには行かなくて……キリトも最初の俺同様に難色を示していたが、俺のレベリングの説明と一応俺の腕を理解して納得してくれた。
「シリカの装備ってキリトが上げたものだしな……キリトが使いそうになかったら、シリカに譲ってもらうよう頼むか」
「おいおい、キリトがラストアタックボーナス達成する前提で進めるなよな? 俺だって参加するのに」
「その時は安く売ってくれるんだろう? 何しろ健気にレベリングをしている可愛い女の子のためだから」
「ぐ……」
さすがにエギルもシリカくらいの年の子にぼったするような真似はできないらしい。それに、エギルがこの店をやっている目的を考えればしないはずだ。
「……お前が出世払いでやれよ」
「なして!?」
「大体、お前はずるいんだよ。ふらりとでてきたかと思えば中層クラスのアイドルと専属パーティー組んでレベリングの手伝いと来た。知ってるか? お前下じゃシリカを攫っていったってファン連中に眼の敵にされてるんだぞ?」
「なっ! 完全に濡れ衣だろ! 俺はシリカに頼まれてレベリングの手伝いしてるだけで……」
「そ・れ・が、あいつらにとって羨ましいんだろ。攻略組の上に最初に確認された《盾剣技》使い。無名の攻略組が一転して超有名人と来たら嫉妬しない方が無理ってもんだ」
「えぇー……」
なにその理不尽な理由。いや、気持ちは分からなくもないけど。俺が下のプレイヤーでシリカのファンなら怒り来るって上層に殴りこみに行くし。
「と、言うわけでだ。無自覚で美味しい思いをしているお前は、報いを受けて奴らの怒りを静めるべきだ」
「なんで生贄にされなきゃならないんだ!」
「……店の中で騒いでいたら、ただでさえ少ない客も来なくなるぞ?」
エギルとの話がヒートアップしていると、水をぶっ掛けるように静かな声が店内に届く。
俺は振り返り、エギルはちょっと顔を上げる。店の前には黒いコートを来た剣士が呆れた顔で突っ立っていた。
「キリト……」
「2人して何を話していたんだ? エギル…まさかミストからぼったくるつもりだったんじゃないだろうな?」
「そんなわけないだろう。安く仕入れて安く提供するのがうちのモットーだからな。なに、ミストが自分の境遇が恵まれているか分かっていないらしいから、教えてやっていただけさ」
「それってシリカのことか……? エギルだって知ってるだろ、ミストはシリカが前線に行きたいって言う願いを叶えるために付き合ってるって。それも、自分の得た経験値全部譲ってまでレベリング手伝っているんだからさ」
「そうだそうだ! もっと言ってやってくれキリト!」
よっし、さすがキリト! 分かってくれてる! そこに痺れる! 憧れるぅ!
「へいへい……ああ、そうだミスト。ちょうどキリトが来たんだし、さっきの件を話すだけ話してみたらどうだ?」
「さっきの?」
「ああ。キリトも明日、フィールドボス討伐に参加するんだろ?」
「そのつもりだけど……ミストも参加するのか?」
「マージンは十分だしな。シリカも明日明後日は休むように伝えてある。それでなんだけど、もしラストアタックボーナスしてシリカに使えそうな装備だったら、シリカに譲ってやってくれないか? もしくは売ってくれてもいいけど」
「確かに……あの装備で最前線って言うのは、少し厳しいかもな。目標レベルも安全マージン越えだし」
「オーダーメイドって言う手段もあるけど、レアドロップで使える武器が出たならそれを使うに越した事はないだろ? 頼む、考えるだけでもしてくれないか?」
両手を合わせてキリトに拝み倒す。
キリトは顎に当てていた手を下ろし、苦笑しながら口を開いた。
「分かったよ。けど、俺が倒してシリカに使えそうな装備だったら、だからな?」
「ほんとか? 助かる。俺も明日は頑張らなきゃな」
「おいお前ら……俺も参加するって事忘れてるだろ」
いやいや、忘れてないともエギル。
けどこの戦い、シリカのためにも負けられないっての。
と言う事で3話でした。次回はボス攻略……ですが、ボスの方は捏造……もとい、勝手に作りましたが、カットの方向で。6話! 6話でボス攻略や戦闘シーンをはっきりと書きますので!
その代わりに《盾剣技》のメリットとデメリットとかを言及してます。使うには色々と条件が必要だったり、使えても全部が使えるわけじゃないと言う習得難易度の割りにやや残念なものですが。まあ、緊急脱出とか吶喊に使うのが主な用途になるでしょうか。斬属性対応になると連撃技も使えるようになって火力は上がりますが……結局のところとしてやっぱり使いづらい印象が残る感じで。
次回はキリトの親友の登場と、あまり出番はないけど未来の嫁が登場です。
誤字・脱字などがありましたら報告していただけるとありがたいです。それでは。