寝て起きたらデスゲームに巻き込まれていたんだが。 作:リベリオン
という事で今回はキリトがダークリパルサーを手に入れようとしている間に起きていた話を。ちょっとしたハーレ……あの、アスナさん? 徐にレイピアを抜いたりして何をry
とりあえずシリカとイチャイチャしたり、アスナの暴走に振り回されたりする話です。
第5話 振り回されて東奔西走
前回のあらすじ:
初ボス戦。
「うぉらっしゃあ!」
飛び上がりつつ青いライトエフェクトに包まれた『左腕』を逆袈裟懸けに振り上げ、その軌跡が空を飛ぶ大型のハチに炸裂する。爪で切り裂いたかのような軌跡を残す【シャープネイル】で使ったのは、同じように鋭い爪を先端に備えた盾だ。
さらに発生した硬直を右手に持った剣によるソードスキル《ヴォーパル・ストライク》でキャンセルしつつ着地。背後のハチはガラスが砕け散るような独特の音と共にポリゴンが砕け散る。
「慣れて来たみたいだな、そっちにも」
「まあな。ボス戦向きってのが今のところの感想」
やって来たキリトの言葉に、俺は左手の盾「デモンズ・クロー」を掲げながら答える。
盾と呼ぶには随分と小型で防御範囲も狭く、おまけに3つの鋭いブレードを備えたそれは籠手に近い。防御性能よりも敏捷と筋力重視のステータスを持っている。
「しかし……61層に到着した瞬間に目に見えて攻略の速度落ちたよな」
「まあ……場所が場所だからな」
キリトの感想に俺は首肯で同意した。
第61層……通称「むしむしランド」。フィールド全体で見れば湖が広がる美しい場所だが、その実態は昆虫モンスターが多くはびこっている。その手のものが苦手なプレイヤーにはとことんダメで、女性プレイヤー以外にも虫が苦手な男性プレイヤーが結構いたため参加人数は結構減っている。
かく言う俺も、アリとかテントウムシとかそういうのは平気だけど、クモやカマキリ、ハチとかああいうのはダメなんだよなぁ……。ああ、早く帰りたい。
「ポップするのは虫ばかり……ボスはムカデみたいな奴だな、きっと」
「やめれ。そうなるとマジでシリカと一緒に参加しないぞ」
名前を聞くだけでも身の毛がよだつ! さっきも「コックローチ」なんて名称のモンスターが出てきた瞬間俺はキリトにスイッチして隠れたし。
え? お前たちは攻略に来たんじゃないのかって? いやいや、俺は新装備の慣らしさ。
以前戦ったフィールドボス《ヴェアヴォルフ・ブルート》。キリトとエギルと連携して見事ラストアタックボーナスを達成し、ドロップした奴がこの「デモンズ・クロー」だった。まさかの《盾剣技》対応盾。しかも斬撃対応という棚から牡丹餅? 的な幸運。本来の目的とは違ったものだったけど。
で、ただでさえ有名だった《盾剣技》使いっていうのがさらに広まって、「レッドクリフ」なんて誰かが言い出したから困った。なんで赤壁の戦い? ビーム出せばいいの?
「っと……今日はここまでにするか。アスナとの待ち合わせに遅れる」
「あーはいはい。デートですねご馳走様です」
「デッ!? 違うって! ただ一緒に食事するだけだし!」
「ディナーデートですね、分かります」
「ミ…ミストー!」
からかう俺に顔を紅くしたキリトは、その手に「エリュシデータ」を持って振り回しながら追っかけてきた。やめれって! お前のそれ威力高いんだから!
第59層ダナク。
迷宮区から帰ってきた俺とキリトは、それぞれ行く場所が違ったため転移門で別れた。
拠点としている宿屋が近づくと、そわそわした様子の女の子が1人、俺を見つけた瞬間に走ってくる。
「ミストさん!」
「お、シリカ。ただいま」
『きゅい!』
「ああ。ピナもただいま」
今では攻略組に名を連ねるシリカと、その使い魔にして友達のピナだ。俺がレベリングに付き合ったおかげでギリギリ安全マージンをクリアし、結構前に前線デビューしていた。
そして俺も、今もシリカとコンビを組んでいる。互いによく知る仲だし、今更解消するのもなんだろうということでずっとコンビを組み続けていた。
……まあ、現在は攻略サボってますが。
「キリトさんは一緒じゃなかったんですか?」
「アスナとデートだと」
「ああ……」
もう何度かアスナとも顔を合わせたことがあるシリカはそれだけで納得する。
《圏内事件》が終わってからのアスナはすっかり本来の性格を取り戻し、面倒見のよさもあってシリカにとっては姉のような存在となっていた。そんな風に4人が仲良くなった事もあってか、今では時々ボス攻略でパーティーを組む事もある。
「このあとどうする? 宿で飯食うには早いし」
「じゃあ、散歩しませんか? このまま戻るのはもったいないですし」
「そうだな……時間もあるしそうするか」
「はいっ!」
嬉しそうに頷き、そのまま俺の手を握ってくるシリカ。もはやこうしてくるのも慣れた。誰かに見られていても「仲のいい兄と妹の図」、にしか見えないだろう。これがアスナだったら……いえ冗談です。冗談だからキリトさんもアスナさんも剣を収めてください。
「このままじゃ1人や2人抜けても変化無いだろうし……明日は息抜きするかねぇ」
「じゃあ……明日、フローリアに行きませんか!?」
「んー……そうだな。気分転換にはいいか」
正直今の階層は出来れば潜りたくなかったし、別に誰かに咎められるわけでもないしいいだろう。
俺がオーケーを出すと、シリカは本当に嬉しそうにして腕に抱きついてきた。
最初のころの俺なら一々ドキドキしていたが、知り合ってもう4ヶ月ほども経てばすっかり慣れて動揺もしない。ピナが噛み付いてこないのが成長の証だろう。
1人っ子だから分からないけど、慕ってくれる妹がいたらこんな感じなのかねぇ……。
それはそうと、そろそろキリトが「ダークリパルサー」を手に入れようとする時期じゃないだろうか。リズに会ってレア金属取りに行くはずだけど……。
「(ああ、明日か)」
だから今日アスナに会うって言っていたのか。これでキリトも本領発揮できそうで何よりだ。
しかし《二刀流》……って言うか、強い武器かぁ。
「シリカもいい加減新調しなきゃならないよなぁ、武器」
「そうですね……でも、中々いいのが無くて」
今までキリトから貰った装備でどうにか頑張ってきたが、いい加減に限界のころだろう。俺の方はまだ余裕があるが……。
「アスナに良い鍛冶師知ってるか聞いてみるか。どうせ攻略に参加しないんだろうし」
「アスナさんも虫が苦手でしたからね……」
61層のモンスターが虫オンリーと知った瞬間のアスナの顔は、それはもう一気に青ざめていたは強烈に焼きついている。
以来、「ギルドの運営とかで忙しいんだよねー」と色々と理由をつけては攻略をかまけているのは、まあ仕方ないかもしれない。もしも攻略の鬼のまま挑んでいたらどうなっていたか、ちょっと興味がある……あの、ごめんなさい。レイピア突きつけないで。
で、翌日。47層フローリア。
「こう言うのもアリ……だなぁ」
木陰に寝転んでいた俺は、ゆったりと時間が過ぎるのを感じながらそう呟いた。
シリカと約束したとおり、今日は攻略を休んでシリカとフローリアに来ている。当然戦いに来たわけじゃないし、俺もシリカも軽装姿だ。
そう言えばこの世界に投げ込まれてからずっと、こんな風に羽を伸ばす事はしていなかったはず。シリカのレベリングに付き合って、シリカを休ませている間は俺自身の戦闘経験を積むために戦って。
……しかし、なぁ。
「すぅ……すぅ……」
「うーん……」
俺の横ですっかり熟睡しているシリカとピナに、俺はどうにも居心地の悪さを覚える。
いや、嫌じゃない。嫌じゃないんだよ? こういう風にされるって事はそれだけ頼られている、慕われているって事だし。けどこれは距離が近すぎると違うのだろうか?
まあ嫌いになられるよりいいんだけど……けど初めてのシチュエーションに身持ちが硬くなってしまう。
いやいや、待て待て! これも「お兄ちゃんに甘えてくる妹の図」の1つに過ぎない! うん、そうだとも! ちょっとでも純真な心を失えばピナが襲ってくる!
「よ、よーし……ちょっとアスナにメッセ飛ばすかな」
うん、ナイスアイデアだ俺。ただし寝ているシリカを起こすと悪いから静かにな!
俺は右手を振ってメニューを呼び出し、フレンドリストを選択してアスナをクリック。さらにメッセージもクリックして、文字を打ち込んでいく。
form ミスト
シリカの武器を新調したいんだけど、いい鍛冶師知らないか?
これでよし……と。
「ん……ミストさん……」
「寝言か……」
僅かに身じろぎして呼んだから何かと思えば、単なる寝言らしい。
こうなるなんて前までは想像も出来なかったよなぁ……あ、そうだ。シリカが新しい武器買ったら余った金でホームを買ってみるかな。いつまでも根無し草はいかんだろうし。
ホームかぁ……どこがいいかな。今拠点にしているダナクは良い所だし、あそこがいいかもしれないな。
「お…早速返信が」
視界の右側にメッセージアイコンが表示され、それをクリックすると予想通りアスナからの返信だった。
form アスナ
昨日キリト君にも教えたんだけど、私の友達にマスタースミスをしてる子がいるよ。今日はギルドの仕事で動けないけど……明日なら紹介できると思うよ。2人とも予定は空いてる?
知り合いのマスタースミスって事は、リズベットの事だよな。明日か……予定は入れてないし、シリカも大丈夫だし入れてもいいよな。
form ミスト
俺たちなら大丈夫。集合場所は……忙しそうだし、時間が空いたらそっちで指定してくれ。
これでよし……と。
送信確認の表示に「はい」とクリックすると、入力したメールはアスナに送られる。あとでシリカにも教えてあげないとな。
「んん……」
と、メールを送信し終えたタイミングでまたもシリカの方から声が聞こえる。
顔だけを向ければ今まさに起きたところのようで、寝ぼけ眼のシリカはぼーっと俺の事を見ていた。
「よっ。よく眠れたか?」
「……………」
俺がそう声を掛けるものの、シリカはまだ寝ぼけているのかぼーっとしている。
……が、徐々にその顔に赤みが差し込み、ついには完熟トマトのように真っ赤になった。
「ミ――ミストさっ!?」
自分の状況をようやく理解したシリカは跳ね起き、そのまま横にずれて少し距離をとる。
え……俺何かしたか?「眠くなったら寝てても良い」って言ったら、シリカは「じゃあ、ちょっとだけ……」って言って寝ちゃっただけなのに。
「ど、どうしたんだ? 俺何かしたか?」
「いいいいえいえ! なんでもないんですなんでも!」
「なんか慌ててるみたいだけど……」
「だっ、大丈夫です! そうですよね、夢だったんですよね!」
「夢?……そう言えば寝言で俺のこと呼んでいたけど」
「ッッッ!」
さっきの事を思い出して指摘すると、ひゅっと鋭く息を呑む。
「そ、そうなんですかっ!? あたし全然、これっぽっちも記憶になくて……ほ、ほら! 夢の内容って起きたら忘れてるじゃないですか!? ああそうだミストさん! ミストさんもお休みしてくださいよ、あたしもお休みさせてもらいましたし! 膝枕しますからどうぞ遠慮なく!」
「は…はいっ」
割り込む余地もないシリカのマシンガントークに思わず生返事で答えてしまった……え? あれ? つまりどういうこと?
え、えーっと……まとめると、「今度はミストさんがお昼寝してください。あたし、膝枕しますから」……膝枕!?
「シ、シリカ? 膝枕って……」
その……いわゆる仲のいい男女が相手の膝に頭を乗せて寝るって言う、よくあるあるなシチュの事でしょうか。
シリカも自分が何を口走っているのか気づいたようで、「ど、どうしよう!」見たいな感じで視線が泳いでいる。
「い……いや、ですか?」
「嫌じゃないけど……シリカはいいのか?」
「あたしは……ミストさんだったら。ミストさんにだけなら……」
最後が小さすぎて何を言ったのか聞き取れなかったが……えっと、シリカの方はOK……なのだろうか?
けど守護神のピナさんは?
『きゅるる?』
俺の視線に気づいたピナは首を傾げ、ひょいとシリカの頭に乗っかる。どうやら「特別に許そう」と言う事になるらしい。
ピナも許してくれるのなら……じゃあ、いいのかな。
「えっと……じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」
「は…はい……」
俺が言うとシリカは緊張気味に頷いて正座をする。どうやらここに頭を乗せろと言う事らしい。
初めての体験に勝手が分からないが、これでいい……の、かな?
「ど、どうですか?」
「大丈夫……だと思う」
後頭部をシリカの膝に預けて、仰向けになって寝そべる。
周りに咲く花の香り以外にも、石鹸の香りだろうか……シリカからいい匂いがしてドキドキしていた。
「「(き……気まずいかも)」」
初めての体験にどうにもお互いに落ちつかなそうにそわそわする。
おまけにここには俺たち以外にも人がいるわけで、通りかかる人(ほぼカップル)がこっちを見るのも非常に気になる。
や、やっぱあれか? 人から見ると怪しいのか? やっぱり年齢差からか?
「えっと……シリカ? 嫌だったらすぐに退くから」
「い、いやだなんてそんな事ないですよ! ミストさんの気が済むまでいくらでもこうしていてください!」
そんなに力強く言われたら退きづらい。ちょっと時間を置いたほうが良さそうだな……。
「えっと……じゃあ、30分くらい眠らせてもらうな?」
「ど…どうぞどうぞ!」
それじゃあ、お言葉に甘えて……ちょっとだけ寝させてもらおうかな。
「(うぅ……ビックリしたぁ……)」
まだ顔が火照っているのを自覚しながら、あたしはようやくミストさんの顔をまともに見る事ができた。
起きたら本物のミストさんが目の前に……そのことにあたしは動揺して、つい挙動不審になった挙句に……ひ、膝枕なんてして……!
「(だ、だって仕方ないよ! 夢でも……ミストさんにしていたんだし)」
つい、驚いてしまった理由……それは夢の内容。久しぶりに見た現実世界の夢。
以前までは向こうのことを思い出して1人で泣いていたし、ピナと出会ってからはそんな事もなくなった。
けどさっき見たのは、SAOがクリアされた後の夢……。向こうでミストさんと再会して、一緒に色んな所に行って……。あたしの家に招待して、向こうの「ピナ」も紹介していた。
「(ミストさんも……あたしの事、意識してくれてるのかな?)」
ちょっと外にはねているくせっ毛の髪をそっと撫でる。
勢いでした事だけど、こうして眠っているミストさんを見ていてもドキドキする。ここは仮想現実で、今のあたしたちは全部データだとしても……この気持ちは本物なんだよね。
「ピナ……あたし、どうしたらいいのかな?」
『きゅる?』
あたしの呟きにピナは首を傾げる。
アスナさんもこんな気持ちなのかな……キリトさんって、ちょっとボーっとしてるところがあるし、やきもきしてるかも。ならあたしはまだいい方なのかな? いつも一緒にいるし、ちょっと意識してくれてるみたいだし。
今度アスナさんに会ったら相談してみようかな……そう思っていたら、あたしの頭の上にいたピナがミストさんのお腹の上に降りて、そのまま丸くなると目をつぶっちゃった。
2人も仲良くなったよね。最初の頃はピナがよく噛みついたり、突いたりしてたけど……あ、でも今もたまにしてミストさん逃げ回ったりするけど。
「これからも……ミストさんと一緒にいたいな……」
それは単にパートナーと言う意味じゃなくて……でもミストさん、あたしの事基本的に妹みたいにしか思ってないからなぁ……実際年下だけど、意識してくれてるのならミストさんもあたしのこと……す、好きなのかな……。
「……………」
好きって意識したらまた顔が熱くなって来た。
そ、そう言えば夢だとあたし、ミストさんからキスされたけど……!
「(キ、キスはまだ早いよ! 告白だってして……こ、こくはっ!?)」
自分で自分が何を言っているのか分からなくなってきて、頭の中がぐるぐるしてくる。
よ、よかった。ミストさんが眠ってて……起きてたら絶対変って思われちゃうし。
「でも、ミストさんにも少しは責任があるよね……」
「俺がなんだって?」
「ミ……ミストさん!?」
目を開けるとシリカはかなり動揺している様子だった。
うとうとしていたから何の話かは分からないけど……うん? なんか妙に重いな。あ、ピナが腹の上で寝てる。これじゃあ身動きとれん。
「お、お、起きてたんですか……?」
「ちょーっとだけ寝ていたんだけど……これじゃあ起きれそうにないな。もう少しこのままでいいか?」
上で気持ち良さそうに寝ているピナを指差しながら苦笑する。するとシリカはぶんぶん勢いよく首を振った。
「いえっ! ミストさんの気が済むまでこうしてていいですよ! あたしも嫌じゃないですから!」
「そ…そうか? シリカがそう言うなら……もうちょっとだけこのままで」
ピナを起こしてと言う事もできるが、それじゃあピナに悪いしな。
しかし、ピナはなんでまた俺の上で寝てるんだろう? 今までこういうことは1度もなかったのに。
「「……………」」
何か話題があると言うわけでもないから、自然とお互いに口を閉ざす。な、何か話の種ってないものか……えーっと、すべらない話とか……した所でどうなるんだよ。
「ミストさん……その、リアルの事を聞くのってマナー違反ですけど……聞いてもいいですか?」
「どうしたんだ? 急に」
「えっと……ここでキリトさんが妹さんの話をしてくれたのを思い出して。ミストさんはどうなのかなって。家族の事とか」
「うーん……別に普通かな。母親はパートしてて、父親はサラリーマン。俺も普通の学生だったし。1人っ子だから兄弟はいなかったけど」
そう言えば……この世界に投げ込まれてもう結構経つんだよな。
けど不思議と、帰りたいとか家族に会いたいとか思う事は今までなかった。こんなに会わなかったことなんて今までなかったのに。
どうしてだろう……と考えると、ここで生きるために必死になって戦った事や、ずっとシリカと一緒にいたことを思い出す。
いつの間にか、俺たち一緒にいるのが当たり前になっていたんだな……おかげで寂しいとか、帰りたいとか思う事はなかったんだ。こうして振り返ってみると、俺シリカに随分救われていたんだな。
無理に前線に飛び込もうとしなくて、今はよかったと思う。きっと挑んでも隅っこでがたがた震えていたのがオチだ。けれどシリカと強くなっていくことで、俺は1人でも戦える自信を持てたんだ。
「付き合っている人もいなかったんですか?」
「まっさかー。居るはずないだろ。ずっと灰色の人生だ」
あっはっはっはっは……は、はは。自分で言っていて虚しくなってきた。
「理想のタイプが高い……とか、そういう理由みたいなのがあるんですか?」
「別にこれといって要望はないけど……ああけど、料理出来る子ってちょっといいなって思う…かな? 家庭的なイメージだし」
「料理……ですか」
呟くと、シリカは真剣な表情で考え込む。……? 俺、変なこと言っただろうか。
内心首を傾げていたら、視界にメッセージ受信アイコンが点灯した。もしかしてアスナか?
「あ、アスナからメッセージ来た」
「アスナさんから?」
「ああ。知り合いに鍛冶師いたら紹介してくれって頼んだんだけど……」
シリカに返しながらメッセージを開く。えーなになに……
form アスナ
大変!
…………大変?
form ミスト
どうしたんだ?
なにやら切羽詰っている様子だが、その言葉だけで何をどう判断しろと言うのだろうか。
とりあえず返事を送ると、1分も経たないうちに返事が来る。
form アスナ
リズが居ないの!!!
あー……やっぱりと言うか、分かってはいたが……。今頃ダンジョンで足止め食らっているはずなんだよな、リズとキリト。
form ミスト
リズ? それって例の鍛冶師している友達か?
form アスナ
そう! マップ追跡も出来ないし、メッセージも返事が来ないの!!
かなり慌てている様子のアスナに「落ち着け。ひとまずグランザムの転移門広場で合流しよう」とメッセージを飛ばして、俺はピナを起こすと体を起こした。
「ミストさん?」
『きゅる?』
「悪い2人とも。急なんだけど今からアスナに会って来る」
「アスナさんに何かあったんですか?」
「よく分からないが、アスナの友達で鍛冶師やっている子にトラブルらしい。詳しい話を聞いてくる」
「だったらあたしも行きますよ。3人なら、何かあったときにも対応できるかもしれないですし」
「悪いな……じゃ、休憩は一旦終わりだ。グランザムの転移門広場で合流する手はずだから、すぐに行こう」
第55層主街区グランゼル。
「ミスト君! シリカちゃん!」
グランゼルに転移してくると、現れた俺たちにアスナは顔を真っ青にしてやって来た。
「アスナ、メッセージの事だけどどういうことなんだ?」
「2人を連れて行くからって、リズ……鍛冶師の友達の名前ね? そのリズにメッセージ打ったんだけど、いつまで経っても返事が来なくて……何度かメッセージを送っても返事がなかったから、変だと思ってマップ追跡かけたの。そうしたら追跡不能って表示されて……」
「けど、フレンドリストにあるってことは死んだわけじゃないんですよね?」
「そのはずだけど……ああもう、いったいどこ行ったのよあの子……」
焦っているのか、今のアスナは普段の落ち着きがまったくない。親友が行方不明というなら当然か。
「落ち着けって。フレンドリストに残っているなら生きているのは確かだ。ひとまずそのリズって奴が普段居る場所に行って、聞き込みしてみよう?」
「う、うん……ごめんね? 私気が動転して」
「友達がそんな目にあったら仕方ないだろう? で、ホームは?」
「48層のリンダース……」
「48層だな。それじゃあ早速行こう」
アスナも加えた3人で、また転移門を使い今度は48層のリンダースへ転移する。
主街区は水車があちこちに見られ、職人系のプレイヤーたちの多くがここにいるようだ。
「まずは行って不在か確かめてみよう。どこかに行ったなら転移門を使っているはずだし、ここでの聞き込みは後だな」
「うん……ついて来て」
アスナに案内されて「リズベット武具店」と書かれた看板の店に来るが、やはり店には鍵がかかっていて人のいる気配はない。
転移門広場でも聞き込みをしてみるが、生憎と有力な情報は出てこなかった。
確か2人は55層に居るんだよな……俺たちもさっき居たんだから完全にニアミスしてるし。けどここで「2人とも55層の西の山に居る」って言えば怪しまれる事確実だからな……ジレンマだなぁ。
「どうしよう……私、どうしたらいいの……!」
「泣かないでくださいよアスナさん……。ミストさん、何かいい方法ありませんか?」
「そうだな……」
手で顔を覆ったアスナに良心が痛むんだが、かといって話すわけにも行かない。そうなると……時間を潰せる事も考えれば、「アレ」が有効かもな。
「ローラー作戦と行くか」
「ロー…」
「ラー…?」
俺の提案にシリカとアスナは揃って首をかしげた。
「要するにしらみつぶしに聞き込みするって事だ。もちろん、全階層やっていたらキリがないから、転移門が設置されている主街区のみ、さらに転移門広場での聞き込みを中心にする。これだったら効率よく情報を探れるはずだ」
「今のところそれしか方法がなさそうですね……」
「そうだね……じゃあ早速リズを探そう! まずは第1層から! 行くよミスト君! シリカちゃん!」
「あ、ああ。わか「早く行くよ!」お、おい待て、引っ張るなって!」
「ミ、ミストさん!? アスナさんも待ってくださいよ!」
やる気を出したアスナに腕を捕まれ、俺は止める間もなく引きずられてしまう。慌てたシリカがピナと共に後を追い、俺たちは第1層の主街区に向かった。
第1層主街区はじまりの街。
「アスナ、あのなあ……俺とシリカはともかく、お前は血盟騎士団の副団長なんだからここでの行動は慎重にしないと……」
「すみません、人を探してるんですけど――」
「って聞いてないし」
来るや否や道行く人に片っ端から声を掛けるアスナに俺は肩を落とす。
初めて来たけど、ここがはじまりの街か……上に比べるとはるかに大きいな、やっぱり。
いやそれはともかく、武装していない俺とシリカはともかくとして、血盟騎士団の団服着てるアスナがここで動いていたら確実に目立つ。一応は軍のテリトリーなんだから。
……なんて危惧をしていたんだが、やはり目立っていたため軍の連中に捕まった。
「血盟騎士団の人間が、こんな所で何をしている?」
「別に……人を探しているだけですけど」
鉄色の鎧に緑のマントを纏った3人組に囲まれながらも、アスナは嫌悪を隠そうともせずにそう返す。
完全に「ボックス」されてるな……身動き取れない。
「小柄で童顔の、ピンクの髪の女の子を探してるんです。心当たりはありませんか?」
「知らんな、そんな奴」
……まあ、こいつらが知っているとは到底思えないけど。
用が済んだとばかりにアスナは立ち去ろうとするが、ニヤけ面を隠そうともせずに軍の連中は立ちふさがってきた。
「……退いてくれませんか? 邪魔なんで」
「通りたければ税金を払え。血盟騎士団であろうと、ここに来たからにはここのルールに従ってもらわんとな」
「急いでいるんですが……」
「だったらさっさと金を置いていけばいいだけだ。ついでだ、お前たちの装備も置いていってもらおう」
「………っ」
あ、やばい。今アスナから「ピキ…ッ」ってヤな音が聞こえた。
「落ち着けアスナ。お前が騒動を起こせば血盟騎士団の方に抗議が行くだろ」
「だ…だけど……」
「まあここは、無所属の俺がどうにかするから……なっと」
言いつつアスナの前に出て、同時に無造作にライトエフェクトに包まれた右腕を突き出す。
《体術》ソードスキル【エンブレイサー】が発動し、真ん中にいた男に直撃。当然《アンチクリミナルコード有効圏内》のためダメージは発生しないが、ノックバックは発生する。
同時にストレージに収納していた「マーヴェルエッジ」を呼び出し、無造作に抜き放つと右側面の男には蹴りを、左側面にいた男にはソードスキル【スラント】を浴びせて吹っ飛ばした。
「うっし逃げるぞ!」
「ええ!?」
「は、はいっ!」
これ以上揉め事はゴメンこうむりたかったから、硬直が解けると同時にその場から逃げ出した。
シリカは予想していたようですぐに追いかけてきたが、アスナは驚いたせいで一瞬で送れる。
「どうせ《圏内》だし、ギルド同士の面倒ごとに発展させるわけにも行かないだろ! さっさと上のそうに逃げるぞ!」
「そ、それもそうだね……」
走りながら適当に理由をつけると、アスナも一応納得して走る事に専念する。
そして俺たちは転移門にたどり着くと、すぐに上の層を行って1層から脱出した。
「ったく……アスナ、お前な……イライラしてるからって軍のテリトリーで騒ぎ起こすのはまずいっての」
「ご……ごめんなさい」
「ミストさん……アスナさんはお友達が心配だったんですから、そこまで言わなくても」
「けど血盟騎士団副団長がアインクラッド解放軍といざこざ起こしたってなれば騒ぎになるだろ。あいつらならイチャモンつけてくることは十分ありえる」
何しろ今の軍は一般プレイヤーから徴税したり、狩場の独占をしたりとやりたい放題やっていて内部は相当腐っている。
そんな中で血盟騎士団の団員……しかも副団長がいさかいを起こしたと言う話が偉い連中の耳に届けば、徹底的に糾弾しかねない。賠償だけならまだしも、アスナの引抜だって想定できる。
「焦ってる気持ちは分からなくもないけど、少しは落ち着け。他人に八つ当たりとかしても何の意味もないだろ?」
「うん……うん、そうだよね。ごめんね2人とも。私どうかしてたみたい」
「仕方ないですよアスナさん。気持ちは分かりますけど、少し落ち着いた方がいいですよ」
「そうだね……ミスト君のおかげでちょっと頭が冷えたよ。ありがとう、ミスト君」
「大したことはしてないって。さて、こっちでも聞き込みしてみよう。手がかりがないんじゃ足を使うしかないからな」
俺の言葉に2人は頷き、改めて俺たちは聞き込みを始めた。
しかし当然手がかりはなく、上の層に移っては聞き込みをするものの有力な情報はなに1つ得られない。
そして、時間だけが過ぎて35層に来たときのこと。
「ああ、シリカちゃんだ!」
「そして憎き攻略組だ!」
「血盟騎士団のアスナ様もいるぞ!」
「あのやろう! 俺たちのシリカちゃんだけじゃなくアスナ様までもとは許さん!」
『下せ人誅!』
そう言えば……ここってシリカのファンが大勢いたんだよなぁ!
「や、ヤバイ! 逃げるぞアスナ、シリカ!」
「ええっ!? でもリズのこと……」
「聞いてる暇があるか! 転移! えーと…ダナク!」
大勢のプレイヤーたちが大挙して押し寄せてきて、俺たちは泡を食って街から逃げ出す。
結局その後も手がかりは得られず、夜になってしまったためアスナは家に帰ることになり、探すのはまた明日という事にして俺たちもダナクの宿に戻るのだった。
そして翌日もリズに関する情報がないか聞き込みをしていたんだが……
「メッセージ……リズから!?」
突然アスナは驚いたかと思うと、届けられたメッセージに目を丸くする。
どうやらキリトたちは無事に戻って来れたみたいだな。まあキリトなら楽勝だったろうけど。
「アスナ、どうした?」
「リズから返事が来たの! 今お店に戻ってきてるって!」
「本当ですか!? じゃあ急いで行かないと!」
「うん! 2人とも行こう!」
言うが否や、アスナは俺の首根っこを掴むとそのまま俺を引っ張って転移門へ。おいこら! 人を猫みたいに扱うな! っていうかアスナの筋力パラメーターで俺を引っ張れるのかぁぁ!?
バタバタ足掻きを試みるが、今のアスナにはどんな補正がかかっているのだろうか……アスナよりも確実に重いはずの俺を引きずって転移門を使いリンダースへ。転移してすぐにリズベット武具店に向かうと、ノックもなしに入る。
おい、来る途中皆こっち見てたぞ。昨日あれほど言ったのにもう忘れ「リズ!!!」
「おごっ!?」
工房に入った瞬間ピンク髪の女の子を見るやいなや、掴んでいた俺から手を放して柵を飛び越え、そのまま抱きつくアスナ。いきなり支えられていたものがなくなった俺は頭から床に落ちる。
「ミストさん!? し、しっかり!」
「ミスト…? え? シリカまで?」
その声に、工房に居たもう1人の黒いコートを着た男――キリトは俺たちを見て目を丸くし、次いでアスナを見て驚く。
「え…キ、キリト君!?」
「や、やあアスナ。久しぶり……でもないか。2日ぶり?」
「皆……もしかして知り合い?」
「あ、あぁ……攻略組なんだ俺たち。あそこにいる2人も」
「おい、アスナ……友達が心配なのは分かっていたが、この扱いはぞんざいじゃないのか……」
「あ…あはは……ごめんねミスト君。なんだか色々振り回して。シリカちゃんも、今度お詫びにご飯おごるから」
「高くつくからな、これ……」
申し訳なさそうに両手を合わせて謝るアスナに、シリカに起きるのを手伝ってもらいながら、俺は口を尖らせてそう言った。
で、キリトがここに来たのは今使っている「エリュシデータ」に匹敵する強力な剣が欲しかったからで、それでアスナが紹介したという事らしい。
アスナが親友に変なことしなかったのかとキリトに問い詰めると、慌てながらもキリトは否定して夫婦喧嘩に発展したのを見て、俺とシリカはまたかと呆れた。
このバカップルちょっと自重しろ……と内心突っ込んでいると、隣に居たシリカがリズを見ているのに気がつく。
「そっか……そういうことね……」
「……リズ?」
ひとしきり夫婦喧嘩をしたアスナがリズに声を掛けようとしたら、明らかに沈んだ表情のリズに心配そうに声を掛けた。
……しばしの沈黙。
「失礼も何も、あたしの店1番の剣をいきなりへし折ってくれたわよー!」
「うわっ…ごめん……」
「別に…アスナが謝ることないよ」
そう言いながらリズはアスナに何か耳打ちすると、明らかに動揺しながらそんなんじゃないと否定する。
しかしリズはそのままアスナの横を通って、仕入れの約束があるからと俺たちに店番を頼んでそのまま出て行ってしまった。
「あの人……キリトさんのこと」
「……だ、ろうな」
シリカの独白に俺は同意しつつ、キリトの事を見る。
「行ってやれよ」
「……悪い」
その一言だけでキリトは全て理解すると、リズの後を追って外に飛び出した。
「キ、キリト君!?」
「やーれやれ……あいつも大変だなぁ」
「…ミストさんもキリトさんのこと、言えないですよ」
「え?」
「……なんでもないです」
シリカの言葉の意味が分からず聞き返すと、その反応が嫌なのかそっぽを向かれてしまう。
……俺、シリカの機嫌を損ねるようなこといっただろうか。
「2人とも、何の話?」
「いえ、別になんでもないです。ミストさん、お客さんが来たら大変ですから、お店の方にいてくださいね」
「お、俺が?……しゃーないなぁ」
まあ、この中で男1人でいるよりはいいけど……けどなんでシリカはご機嫌斜めなのだろうか。理由を考えるものの思い当たらず、首をかしげながらカウンターに立つ。
そしたら後ろでバタンと音がして、振り返ると工房の扉が閉じられてしまっていた。
「……………」
何だろう、このボッチ感。俺は別に訓練されたボッチという訳じゃないんだけど。だからと言って工房に戻ったら、シリカだけじゃなくてアスナにも怒られそうな予感がひしひしとする。
次回はキリト、アスナを含めた5人でアイテム探しに行きます。……なにこのドリームチーム。
フィールドボスも含めてようやく戦闘を多く入れる予定です。いや、多くしないとなぁ……その前にまだ前半しかできてないからいつ更新になるか。