寝て起きたらデスゲームに巻き込まれていたんだが。 作:リベリオン
と、言う事で7話が出来たので投稿します。黒幕、ってことはラスボスか!? って考えるかも知れませんが、なんてことはありません。団長が顔見せに来ただけです。
全体を整理してみたら全15話で完結になりそうですね。13話で纏めたかったけど無理だったか……。
あと今回はそーどあーと・おふらいんのネタを使ってるのでミストの知らない情報が出てきて不意打ち食らってます。
第7話 黒幕登場
前回のあらすじ:
レア金属ゲット!
「えーっと……ベッドはここに置いて、と」
日当たりの良い場所にベッドをオブジェクト化させ、これで家具の配置は全部終わりと。
「ミストさん、そっちは終わりました?」
「今終わったところ。いやー……なんと言うか……」
「? なんです?」
「一国一城の主になったって感じ」
「………ぷっ」
俺の感想にシリカは一瞬呆然として……何がおかしいのか突然噴出した。
「な、なんで笑うんだ?」
「だ…だって……ミストさんがお父さんみたいで」
「お…とぅ」
よほどツボったのかシリカは笑いを堪えられていないが、俺は少なからずショックを受けていた。
いや確かに、世の中のお父さんはマイホーム買った時にそんな事思うかもしれないけど……俺もそれと同類なのか!?
「そ、そう言うのは俺よりクラインやエギルの方が合ってるだろ!? 俺まだ学生なのに!」
「ご…ごめんなさ……ふふっ…!」
謝ろうとしたシリカだったが、まだ引きずっているのか最後まで言葉に出来ていない。
俺……老けて見えるんだろうか。アバター弄ろうかな。
「ち、ちがっ……! 別にミストさんが年寄りみたいとか、全っ然、そう言う事じゃなくてですね!」
「アスナから色々意見聞いてアバター弄ろうかなぁ……この際だから戦闘スタイルも一新して……」
「ち、違いますよミストさん! 話聞いてくださいよ~っ!」
どんどんブルーに沈んでいく俺に、シリカは必死になって釈明する。
この間、キリトたちと火山に潜むフィールドボスを討伐して発見した金属をシリカの武器に加工し、余った資金で俺はマイホームを購入した。
場所は第59層主街区ダナクの端にある、レンガ造りの白い壁と赤い屋根の2階建て。
やや外れの方にあるため中心部に比べて若干安く、すぐに購入を決めた。
けど今までで1番高額な買い物だったな……何しろ家だから。しかも2階建ては1人暮らしには少々広すぎたかもしれなかったんだけど。
「……けどなあシリカ。良かったのか? ここに住むって」
「良いんですよ。最近はホームにも殆ど戻りませんでしたし」
……つまり、そう言う事だ。
シリカも第5層にホームを持っていたが、俺とコンビを組んで以来ずっと戻っていなかったし、俺がここに拠点を置いて距離が空いたから、ならいっそ一緒に住むと。
そのため実際の購入費用は俺7、シリカ3で、さらにお得になったんだが……。
いや、別にシリカも負担しなくても俺だけで買えたからな? けど一緒に住むならこれくらい当然ですって頑として譲らなかったんだ。シリカの武器をオーダーメイドしてそこそこの額はしたが、要らないアイテムを売ったりそれまで大きな買い物はしていなかったから貯蓄には十分な余裕を持っていたし。
まあ……少し負担してくれて俺としてはありがたかったけど。
「(けど女の子と同棲なんて……どうせいって――いかんいかん)」
まだダメージが残っているのか、つまらない親父ギャグが出そうになった。これは重症だな……。
ピンポーン。
精神ダメージを寸前で回避した時、下からチャイムの音が聞こえてきた。
「キリトたちか?」
ホームを購入した事は既にキリトたちに伝えてある。そしたらクラインが「じゃあホーム購入祝いってことでパーっとやるか!」なんて言っていたんだが、話じゃ夕方からじゃなかったっけ?
アスナは今日は無理そうって言っていたから、違うと思うし……。
首を傾げながら俺は1回に降り、そのまま玄関に向かう。
「はい。どちらさまで――」
鍵を開けて扉を開けた瞬間、俺は思わず固まってしまった。
血のように赤いジャケットに走る白いライン。長身で灰色の髪を後ろに撫でつけた厳格そうな顔立ち。……そしてその後ろで申し訳なさそうに小さくなっている見覚えのある某最強ギルドの副団長。
「失礼。ミスト君で良かったかな。血盟騎士団団長、ヒースクリフだ」
「え……あ、はい……」
凍結した思考でどうにかそれだけを口にする。
な……なんでヒースクリフが俺の家に? ラスボスがなんだってここへ?
思考する事を拒絶した脳で必死に考えを巡らせる。おかしい、俺とヒースクリフは面識なんてなかったはず。アスナと言う接点があるが、それでもこうして出張ってくる意味が分からない。
「そう緊張しないでくれたまえ。今日は君のホーム購入のお祝いと、お詫びに来たのだよ」
「お……お祝い? お詫び?」
「ああ。先日はアスナ君が軍とひと悶着を起こそうとしたのを、君が止めてくれたそうだね。おかげで大した騒ぎにならなかった、礼を言わせてくれ」
言いつつ頭を下げたヒースクリフ。その後ろではアスナが両手を合わせていた。
……つまり、部下の起こしたトラブルで迷惑をかけてしまったお詫び、と言う事か。ビックリした……。
「い、いや……別に謝らないでくれ。アスナも友達が心配で我を見失っていただけなんだし」
「そう言ってもらえると助かる。それと、アスナ君から君がホームを購入したと聞いてね。つまらない物だが、これはその祝いの品だ」
頭を上げて言ったヒースクリフは、アイテムストレージからその祝いの品とやらを取り出した。……え。なにこれ。
「あの……これは?」
「蕎麦……のような物だ。引越し蕎麦という風習があるだろう?」
「いや……ええ」
確かにそんな風習が日本にはあると聞くけど。けど、「蕎麦のような物」ってなんだ?
「見た目は蕎麦だが、めんつゆがないとやはりね……鰹出汁や昆布出汁もいい、合わせ出汁でも構わない。しかしっ……やはり醤油がなければそれは『蕎麦のような物』にしかならないんだよっ!」
え。何これ。なんなのこれ。急に熱く語りだしたヒースクリフに俺も後ろのアスナも完全に面食らっている。
「この間はラーメンのようでラーメンでない微妙な料理を食べたが、あれはひどかった……もし、醤油があればと思わずには……くっ」
拳を握り締めて歯を噛み締めるヒースクリフ。顔を背けた際に、一瞬きらりと光る雫が見えたのは気のせいだと思いたい。
「そう言う訳で、めんつゆがなければこの蕎麦も微妙な物にしかならないが……許してくれ、伝統と言う物は大事なのだと伝えたいのだよ」
「えっと……これはどうもご丁寧に」
内心ヒースクリフのキャラに引きつつ、ザルにこんもりと盛られた蕎麦を受け取る。
「ミストさん、どうし……ってアスナさん!?」
「あ、シリカ。悪いけどこれキッチンに置いておいてくれ」
「え? はい……あの、なんですこれ?」
「詳しく話すとまたスイッチが入りそうだから後にしてくれ」
またラーメンに並々ならないこだわりを持つヒースクリフが語りだすから。
……ちなみに俺は醤油より味噌ラーメンだ。けどうっかり口に出せばどうなるか分かったもんじゃないから黙っておこう。
しかし……これがあのヒースクリフかよ。最強ギルドの団長にして攻略組最強プレイヤー、その真の姿はSAOと言うデスゲームを開発してプレイヤーを閉じ込めた張本人、茅場晶彦が。
……あれ? つまりヒースクリフ=茅場ってことは、茅場はラーメンが大す……いや考えるのはよそう。
「……失礼。少し熱くなり過ぎた様だ」
「「(まったくその通りだよ)」」
熱弁した自分を省みて、ヒースクリフは恥じた様子は見せずに頭を下げる。
奇しくも俺とアスナはまったく同じタイミングで同じことを思っていた。
「あ、あの……立ち話もなんだし、良かったら中にどうぞ」
「いや……。アスナ君、君は厄介になりたまえ。私は少々用がある。ミスト君、すまないが付き合ってくれるかな?」
「俺……?」
「ああ。少し話があるのだよ」
っ……嫌な予感しかしないのは気のせいか。けどここで断っても変に思われるし……。
……まあ、アスナの知り合いと言う手前、妙な事は起こさないだろうと思いたい。
「……分かった。パートナーに伝えるので少し待ってくれ。アスナ、上がってけよ」
「う、うん……お邪魔します」
来た時からずっと申し訳なさそうにしているアスナを中に通す。
廊下を真っ直ぐ行くと2階へ、すぐ右手のドアを開けるとリビングとダイニングキッチンがあり、シリカはテーブルの上に置いたザル蕎麦をどうしようかと首を捻っていた。
「あ、ミストさん。アスナさんも」
「悪いシリカ。少し外に出てくるから、アスナにお茶出してやってくれないか?」
「構いませんけど……あの人、血盟騎士団団長のヒースクリフさんですよね? どうしてあの人がここに?」
「えっと……それは私から説明するね。ミスト君、気をつけてね」
「……ああ」
何か良からぬ予感でも抱いているのか、アスナは心配そうに俺に声を掛けるとシリカの元へ。
俺は小さく頷いて、玄関で待っているヒースクリフの元へ向かった。
道中は一言も言葉を交わさず、たどり着いたのはちょうど石垣で仕切られたそこそこ広い草原。
「……人をここまで連れてきて、わざわざ何の用なんだ? 家主としては、客人をもてなす責任があるんだが」
「いや失礼。ただ、君と2人きりで話をしてみたくなってだね」
……胡散臭い。なんで接点の薄い俺にいきなり興味を抱くのかなんて、すぐに分かる。
多分GMのヒースクリフからしてみれば、俺はイレギュラー。言ってしまえば1万飛んで1人目のプレイヤーみたいな物だ。しかも正規の方法ではない。
結局俺がどうしてここに来てしまったのか、どうやれば帰れるのかなんて分からないから、ずっとプレイヤーとしてゲームに参加していた。
……こうして考えると逆に接触が遅いのかもな。あるいは急に知名度を上げてきた俺だから目をつけられたのか。
「アスナ君から時折話を聞いているよ。ボス攻略でも遠目だが君の活躍は見させてもらっていた。珍しい《盾剣技》を使う変則型の剣士とね」
「……前置きはいいから、要件だけ言ってもらえるか? 一応人を待たせているんだから」
「これは失礼。なら単刀直入に言わせて貰おう。――君に、少しばかり興味が沸いた」
そう言ったヒースクリフは右手を振ってメニュー画面を呼び出し、そのまま操作すると俺の視界にウィンドウがポップした。
『デュエル申請を受諾しますか?
対戦者 : ヒースクリフ
対戦形式 : 1vs1』
「言葉より剣を交える方がよっぽど伝わると思うのだが……どうかね?」
「光栄だな。まさか攻略組最強の男に勝負を挑まれるなんて。負けたらギルドに入団しろとでも?」
「いやいや。これはあくまで非公式だよ。君を誘うならしかるべき時に、正式な場で勧誘させてもらおう」
「こんな雑魚に目を掛けてもらえるなんて、光栄ですねっと……」
逃げるのは難しい。半分諦めて俺は受諾し、初撃決着モードを選ぶ。
やるならせめて、度肝を抜かせてやりたいが……生憎と俺にはキリトほどスピードがあるわけでもない。おまけにこいつはシステムで保護されてイエローゾーンまでHPバーが減る事はない。
スペックで無理なら、小技で度肝抜かせてやるか……!
素早くメニューから装備画面に入り、装備を身に纏う。使う盾は斬撃に対応する「デモンズ・クロー」を。
ヒースクリフも血のように赤いフルプレートアーマーを纏い、左腕にはその象徴とも呼べる十字型の盾を装備し、盾には細身の剣「リベレイター」がセットされている。
残り10秒……全ての装備を終えて互いに剣を抜き、ゆっくりと回り込むように歩き出した。
2…1…0!
「はぁっ!!」
先手必勝でソードスキル【ソニック・リープ】を発動。ダッシュからの斬り下ろしをヒースクリフは盾であっさり受け止める。返しの一撃を俺も盾で受け止めた。
一瞬の拮抗。だが俺は瞬時にヒースクリフを引き離し、距離を取って再び突撃する。
盾を突き出せば受け流されるが、振り向きざまに剣を叩き込んで弾き、よろけた所へ強引に立て直して追撃。互いの剣と盾が何度も火花を散らせる。
ソードスキルは迂闊に使えない。相手はこのゲームの生みの親。なら全てを知っていると考えるべきだ。
キリトのように反応速度が高いわけじゃないが……この《盾剣技》を駆使してどうにかやってやる!
時折ヒースクリフの反撃が入るが、手数はこっちが勝るため勢いでは押している。それでも繰り出す攻撃の全てはあの盾に阻まれる。
初撃決着モードのデュエルでは最初の一撃を相手にヒットさせた方が勝者となる。だが当たらなかった場合は相手のHPを先に半減させた者が勝者となるモードだ。
俺たちの初撃は互いにヒットしなかった。この場合は先に相手のHPを半減させることになる。
「くっ…そッ!」
これだけラッシュをかけているのにヒースクリフに致命的な一撃を与えられない。
焦るあまり攻撃が単調になった隙を突かれ、ヒースクリフが盾でボディブローを叩き込んでくる。
「ぐっ……!」
衝撃に顔をゆがめた俺は容赦なく吹き飛ばされた。そこへ襲い掛かる容赦ない追撃――!
「くっ!」
辛うじて盾を掲げて防ぐ。荒く息をつく俺とは対照的に、ヒースクリフは「ふむ…」と興味深そうに唸った。
「中々面白い戦い方をするな、君は。荒さも目立つが筋がいい」
「それは……どうも。褒められて光栄、だ!」
隙を見て脚を狙ったローキック。ヒースクリフは後方へジャンプして距離を取って避けた隙に立ち上がる。
結論。どうあっても勝てる気がしない。今はどうにか俺がやや押しているが、こんなのあっという間にひっくり返されるだろう。
「これほどの才能を持つ人間が埋もれていたとは驚きだよ」
「ふ……っ!」
意味ありげに笑みを浮かべるヒースクリフを無視し、こっちから攻め込む。
唐竹、袈裟斬り、薙ぎと斬撃だけでなく盾の殴打や蹴りも入り混ぜて攻めてもヒースクリフが応える様子はない。
「(本当、なんだよこのチート野郎め! お前のほうがチーターじゃないか!)」
このままでは埒が明かない。こうなったら一か八かの賭けに出るしかない……!
盾が青いライトエフェクトを放ち、左から打ち下ろすように叩き込む。当然ヒースクリフの盾がそれを防ぐが、これが狙いだ。
垂直2連撃ソードスキル【バーチカル・アーク】。発動中に俺は右手の剣を構えて、赤いライトエフェクトの輝きを放っている。
逆袈裟…と言うよりはアッパー気味なモーションでカチ上げ、強引にヒースクリフの盾を押し上げた。
「貰……ったァァッ!!!」
すかさず剣で【ヴォーパル・ストライク】を放つ。こんな至近距離からこの技を放たれれば回避も防御も出来ない……っ!?
必中を確信した渾身の一撃。しかし目の前でありえない現象が起きてそれを覆す。
弾いたはずのヒースクリフの盾がありえない速度で引き戻されていき、剣先を受け流す。
「(やっぱり……無理か)」
ぼんやりと、まるで他人事のように思う。
せめて破壊不能オブジェクトでも引きずり出してやろうとも思っていたが、そう簡単に行く筈がなかった。
受け流された俺はそのままヒースクリフの横を通り過ぎ、返しの一撃を食らって吹き飛ぶ。
一気にHPが半分に減り、イエローゾーンに。その瞬間デュエルは決着した。
草の上に倒れ伏したまま、この結果に驚きはしなかった。だがシステムのオーバーアシストだけは引きずり出せたんだし、一矢報いた方だろう。
「……いやはや、中々冷やりとさせられた。まさか別々の武器で連続でソードスキルを使えるとは」
「……一応奥の手なんだけどな」
感心したように声を掛けるヒースクリフにむっつりと答えて起き上がる。
元々同時に発動できていたならタイミングをずらして使うこともできるんじゃないかと言う発想で編み出したのが《
「なるほど、発想力が戦闘能力を補っていると言うわけだな。中々興味深い」
「あんたの《神聖剣》には劣るさ。想像以上に鉄壁なんだな。俺の不名誉なあだ名はあんたこそ相応しいじゃないか」
「「レッドクリフ」だったかね? いやいや、私はビームを出す事はできないよ」
「俺だって出来ないっての」
そんな必殺技、ランドセル背負った小学生がリコーダー吹きつつ下校する片手間に戦車をひっくり返せるような物だ。つまり、ありえない。じゃああの軍師はどうやってあんなビームを出しているんだろう……。それ以前にヒースクリフも知ってたのかあれ。
「さて、手間を取らせてしまったな。ありがとうミスト君、君のことはよく分かったよ。君になら私も背中を預ける事ができそうだ」
「あんたの背後に回りこめる奴なんてそう居ないと思うけどな」
「いやいや、わからないさ。案外後ろからさっくり刺されて死ぬかもしれない」
その破壊不能オブジェクト解除して言えよ、そんな台詞。
嘆息した俺にヒースクリフがハイポーションを差し出してくる。
「受けてくれたお詫び……と言うほどではないが、使ってくれ」
「ありがたく」
蓋を開けてくっと煽ると、、甘酸っぱい不思議な味がして半分だったHPが一気に全快する。
「さて、では私は失礼しよう。付き合わせて済まなかったね」
「アスナはいいのか? 今日は何か用事があったんじゃないか?」
「ああ。それに関しては問題ない。軍と問題を起こした事に関しての事情聴取と注意をしたのだが、もう終わったよ」
ああ、それであんな小さくなっていたのか。
普段のアスナからは想像もつかないほど暴走していたけど……多少お咎めがあったってていどなのかな。
「罰として明日からは迷宮区攻略の陣頭指揮をさせることになった。何しろ大した理由でもないのに攻略をサボっていたのでね」
「あー……」
虫が嫌いだからあれこれ理由をつけて逃げていたのもバレバレだったわけですか。哀れ、せめてコックローチとかに遭遇しない事を祈るしか俺には出来ない。
ヒースクリフとはその場で別れ、俺は1人帰路につく。
面倒な奴に目をつけられたな……率直な感想はそれだった。
そこまで派手に動いていないとは言え、茅場からすれば俺は立派な不確定要素。警戒するのも当然だろう。
……けれどゲームマスター権限で強制的にログアウトとか、そんなことも出来たんじゃないか?
「(いや、あれでフェアを通しているし、そんな真似はしないのか)」
こっちが妙な行動を取らなければ強硬手段をとる事はないと思いたい。
慎重になりすぎる必要はないけど、心に留めておこう。
家が近づくにつれて、ふと「あ、なんて言おう」と今更気づいた。
「(デュエルしてたなんて正直に言えるわけないからなぁ……)」
……仕方ない。ここは責任取ってもらうぞ、ヒースクリフ。
「ただいま。はー…疲れた」
玄関に上がると、すぐにいい匂いが奥の方から漂ってきた。
キッチンの方かな? と予想をつけて覗くと、シリカとアスナが台所で料理をしているらしい。
「あ、お帰りなさいミストさん」
「お帰り……団長と何の話してたの?」
俺が帰ってきたことに気づいたアスナが心配そうに聞いてくる。
「いや、「ラーメンで最強なのはなんだ」って熱く議論を……」
「団長……もっとお堅いイメージがあったのにラーメンにそんな拘りがあるなんて」
ああ、やっぱりアスナも衝撃受けていたか。きっとヒースクリフがラーメン好きなんて、俺とアスナ以外知らないんだろうなぁ……。下手したら団員の士気にまで影響するんじゃないだろうか。
「ラーメン…ですか?」
あ、しまった。シリカも知ってしまったじゃないか。まあ俺たちは血盟騎士団の人間じゃないし、言いふらすつもりもないから別にいいよな。
「味噌対醤油で一触即発になりそうで……」
「いや、そんなことでならないでよ! 血盟騎士団団長がラーメンで乱闘騒ぎなんて、他のギルドに大笑いされるよ!」
「???」
唯一ヒースクリフの意外な一面を知らないシリカだけ、その場で首をかしげていた。
本当は実際に戦っていたんだが……まあ、わざわざ話して心配させる必要もない。
「まあそんなことよりも、聞いたぞアスナ。ヒースクリフに大目玉食らったそうじゃないか」
「うっ……」
「何の話ですか?」
「この間アスナ大暴走してただろ? それでヒースクリフに説教食らって、明日から迷宮区攻略の陣頭指揮を執ることになったんだってさ」
「あー……そうだったんですか」
「同情が身に染みるよ……」
苦笑いして同情するシリカにさめざめとアスナは涙を流す。けどこれって完全に自業自得だよな。
「キリトに付き合ってもらったらどうだ? 虫は平気みたいだし」
「……ミスト君たちは?」
「あたしは…虫はちょっと」
「コックローチの相手はごめんだ」
「コッ――」
ボソッと呟く俺の一言にアスナは表情を引きつらせる。
コックローチ――いわゆる人類共通の大敵G。断じて黒くて口から光線を吐く日本を代表する怪獣ではない。というか本当にそれなら勝てるわけがない。
「……今日、キリト君は来るんだよね」
「そうですよ。皆さん夕方になると思いますけど」
「……よしっ」
何か決意して、ぐっと拳を握り締めるアスナ。俺たちにできるのはキリトが引き受けてくれるように祈るだけだ。
けど俺たちは絶対参加しない。絶対に。虫だけはやっぱりダメなんだよ……。
「ようミスト! 来てやったぜ、ホーム購入おめでとう!」
「人違いです」
バタン。バンダナを巻いた無精ひげ面の男が尋ねてきたように見えたが、恐らく気のせいだろう。
「ってうおぉい! 門前払いってどう言うこったー!?」
突っ込みと共にドンドンと激しくノックされる。
「冗談だクライン。本気になるなよ」
「目がマジだったぞ、マジ」
気のせいだろ、ととぼけて野武士面の男、クラインを家に通した。
既にリビングにはエギル、リズ、キリトも来ており、アスナは必死にキリトを説得してコンビを組んでくれるよう頼んでいる真っ最中だったりする。
「おっそーい! 何してたのよ、クライン!」
「いやいやすまん! ちょっと祝いの品手に入れるのに時間かかってな」
「そんな気を使わなくてもいいのにさ、皆」
いや、嬉しいけどさ。
それぞれインテリアだったり食料だったりと様々だけど、やっぱりインパクト強かったのは……
「ん…? なんだよ、この山盛りの蕎麦は」
「ヒースクリフの引っ越し祝い」
「…………え?」
「ああ、やっぱり同じ反応したな」
「あたしたちも最初聞いたときは耳疑ったわよ。あの聖騎士ヒースクリフが引越し蕎麦って1週どころか3週くらい回っても分けわかんなかったわ」
「俺だってわかんないって」
「……ま、まあ人それぞれ、色々あるよな。ってことで俺の持ってきたものは……コレよっ!」
威勢よく取り出すクライン。出したのはコルクの栓がされた瓶だった。
「酒かよ」
「へへっ。いい酒が手に入るって言うクエストがあったから祝いの品にはちょうどいいと思ってな」
「そうは言っても、あたしたち大半未成年なんだけど」
だよな。
リズの指摘するとおり、ここで成人しているのはエギルとクラインの2人だけだ。本物の酒じゃないといっても未成年が飲んでいいのか……? 酒飲んで状態異常に陥ることがあったっけ?
「まあまあ、堅いのは抜きにしようぜ」
「……まあ良いかな。俺は」
「え。ミストさんはお酒大丈夫なんですか?」
「いや、分からないけど。親戚とかが集まって無理やり飲まされた程度」
確かお盆で集まった時だったっけなぁ……。叔父に日本酒勧められて飲んだら辛すぎて飲めた物じゃなかったっけ。
「バーのマスターとしては未成年に飲ませるのは感心しないんだがな」
「そうよそうよ。それにほら、ご馳走だってたくさんあるんだから。飲むなら大人の2人で飲んでなさいってば」
「そうですよ。ミストさんも飲んじゃダメです。お酒は二十歳になってからって法律で決まってるんですから」
「うぐっ……ごめんなさい」
「良かれと思って持ってきたのに……」
シリカとリズに咎められて、俺とクラインは小さくなる。
まあ……他に飲める奴がいないならまだしも、飲める大人が2人もいるんだし大丈夫……だよ、な。
「けど6本くらい調達したんだよな」
「おい……」
いくらなんでも多すぎだろ、と思わず突っ込んだ。
結局酒は飲みたい奴の自己責任と言う事で、パーティーと言う名のどんちゃん騒ぎが始まったんだが……。
「ズズ~ッ」
黙々と蕎麦の山を崩しに掛かる俺。
幸いと言うか、蕎麦が好きだったから食べる事に苦を感じない。さすがに7人と人数が多いためリビングとダイニングの2つに別れて料理や飲み物が置かれ、皆好き勝手飲んで食って騒いでいる。
ああ、そう言えば皆集まるってことは今まで無かったからな。ちょっと新鮮だ。
あと蕎麦を食べているんだけど、つゆが物足りなくて蕎麦のような物を食べているとしか思えなかったり。まだアスナ醤油を開発していなかったのか。
「……隣の芝生は青く見えるって言葉あるよな」
「言うなよ……」
ボソッと、向かいにいるキリトが蕎麦を啜って呟いた事に俺は突っ込んだ。
皆リビングの方に集中しており、ふと見ればなんだか楽しそうに見える。……なんだろう、胸にこみ上げてくるものが……。
「こらぁミスト~! 何黙々と蕎麦食べてるのよ~!」
「結局リズは酒に手を出したのかよっ!」
若干頬が赤いリズに思わず突っ込む。その手にはしっかりグラスが握られていた。
「や~ねぇ、ちょっとだけよ、ちょっとだけ…ひっく」
「酒弱いんじゃないかお前……」
酒臭いというわけではないが、アルコールに弱い体質なんだろうか。とりあえずリズからグラスを没収し、代わりに水を渡す。
「水でも飲んでちょっと落ち着けって」
「ん~……あ、キリトォ、楽しんでる~!?」
「リ、リズ? 酔ってるのか……?」
ああ、制御不能のリズは止める手段が無い。
次に目を付けられたキリトは酔っ払ったリズとエンカウントしてたじろいでいる。
……ちなみに皆の配置はと言うと、
ダイニング:俺、キリト(あとリズ)
リビング:クライン、エギル、アスナ、シリカ
ちなみにダイニングには蕎麦しか置かれていない。ある意味忘れ去られているそれを俺たち有志が片付けに掛かっている。
……リビングにはアスナと作るのを手伝ったシリカの料理が並んでいるんだよなぁ。
蕎麦の山ももうほぼ崩してあと少しだし、キリトに任せても良いかな……酔っ払いも一緒に。
こっそりと抜け出そうとしたのだが、索敵スキルを鍛えているキリトがそれを見逃すはずも無かった。
「おっ、おいミスト! 置いてくなよ!」
「後は任せたキリト。リズの酔いが醒めるまで相手してくれ」
酔っ払いに絡まれて助けを求めるキリトを、俺は無常に切り捨てた。
すまないキリト……でも圏内だから死ぬような事はないし大丈夫さ。
キリトに合掌して、ダイニングを出て行く。さて……あっちはどうなってるのか。
「おっ、お前も来たかミスト!」
「クライン……リズになに飲ませてるんだよ」
絡み上戸になっていたぞ、とグラスを赤い液体で満たしているクラインに半眼で突っ込んだ。
「いや、女は度胸よって飲みだしてよ。すぐ酔いが回ったみたいなんだよ」
「なにやってんだよリズの奴……」
勢いをつけて自滅したなら意味が……いや、キリトに絡んでるし計画通り……なのか?
「いいのかアスナ。キリトが危ないけど」
「分かってて見捨てたミスト君が言う?」
「絡み上戸の相手だけは絶対するなと祖母の遺言が……」
「思いっきりうそ臭いよ。もう……私別に2人の保護者じゃないのに」
言いつつも救援に向かおうとするアスナ。やっぱり面倒見が良いじゃないか。
「アスナも苦労性だなぁ」
「ミストさんがけしかけたんじゃないですか。いいんですか?」
「大丈夫……じゃないか? それよりシリカは飲んでないよな?」
「あたしはアスナさんやエギルさんに止められたから、大丈夫ですよ」
「なら良かった」
もしクラインが勧めていたら【ヴォーパル・ストライク】で突っ込んで行くところだった。
「お前はよぉ、ちょっと過保護すぎないか?」
「そうか?」
「自覚してなかったのか。いや、していたらそこまで過保護にならないよな」
エギルまでそんな事言うのか……。俺は全然意識した事がなかったんだけど。
「シリカもそう思うか?」
「ええっ? えっと……なんと言うか、嬉しいですけどちょっと過保護じゃないかなぁ……とは、思いますけど。本当にちょっとだけですよ?」
「ぬぅ……」
そうか……俺って過保護だったのか。でも線引きがよく分からないからどの程度が過保護なのか分からないんだよなぁ。
「じゃあ中層に行ったらシリカちゃんに見知らぬファンが集まってきた。お前はこの場合どう行動する?」
「即座に蹴散らす」
「そ れ だ」
ズビシッと指差すエギル。え、これくらい当然じゃないか? 俺はシリカの相棒だし、いくらファンとは言え知らない奴が群がってきたら怖がるじゃないか。
「はぁ……ミスト、ちょっと座れ」
「? ああ……」
蕎麦ばっかり食べていて別の物が食べたかったから、ちょうどカナッペがあったので摘んでいたら突然エギルに言われて正座(なんとなくそうしなきゃいけない雰囲気だった)する。
「お前がシリカを大事に思っているのは分かる。けどそう言う過激な行動に走るのが過保護だってことなんだよ。お前はシリカの保護者か?」
「えっと……一応年上の立場だし、そうしたほうが良いのかなとは思ってるけど」
「別にそれは構わないかもしれないけどよ、限度ってのがあるだろ。お前、シリカちゃんに彼氏が出来たなんて言われたらどうするんだ?」
「か、かれっ!?」
クラインの例えに、シリカは何故だか過剰に反応して、俺は不思議そうにシリカを見やる。
彼氏……彼氏か。でもシリカが好きになった相手だからなぁ。
「色々と思うことがあるけど、やっぱり知らない奴にシリカを持っていかれるのはなんか腹立つかなぁ」
「……もうお前がつ「やぁぁっ!」あぷろっ!?」
クラインが何かを口走ろうとしたまさにそのタイミングで、俺の頭上を電光石火の如く飛んだシリカが手にした短剣で【ラピッド・エッジ】を繰り出し、見事クラインの胸部を強打。圏内だからダメージこそないけど思いっきり吹っ飛んでいった。
「あ、ああっ! すみませんクラインさんっ! 思わず手が滑っちゃいました!」
なんでか顔を真っ赤にしたシリカは慌てて謝っている。あまりの速さに俺は状況がつかめずただ混乱していた。
ただエギルだけは「自業自得だろ」とクラインを呆れて見ている。
ちなみに……クラインを貫いた(厳密には本当に貫いていないが)のはシリカの新武器であるダガー「ブラッド・オン・ファイア」だ。その名の通りベースにしたのが赤い金属だったためそれ自体も真っ赤であり、柄や鍔などは黒くなっている。刀身は両刃で、中心に行くほど細く、先端に行くほど膨らむ形状をしており、見た目に反し耐久値は高く設定されている。
「えっと……生きてるよな?」
「理不尽だ……」
いや、分からないけどクラインに原因があると思う。なんとなく。さめざめと涙を流すクラインに、俺はそう思った。
「じゃ…俺たちも帰るよ」
「ああ。……大丈夫なのか、リズは」
キリトとアスナに肩を貸されて酔い潰れているリズを見て、俺は少し心配になる。
3時間くらい騒いで、9時過ぎになるとお開きになり皆家路に着こうとしていた。
「大丈夫だよ。私たちで送っていくから」
「リズは今後酒飲ませたらダメだな、絶対」
「弱い上に暴走してましたからね……」
ややげんなりした表情でシリカが呟く。
俺たちに気づかれないようにこっそりと燃料補給したリズはさらに暴走。さながら暴走トラックと化した彼女を俺とキリト、アスナの3人がかりで抑え込み、怒ったアスナに説教されたリズは震え上がっていた。
無論、全ての元凶であるクラインも折檻されたのは言うまでもない。
「つかクラインもエギルもまだ飲めるとか。さすがに大人はアルコールに強いよな」
「エギルさんは見た目からして強そうだったけどね」
「ああ。バーボンのロックを静かに傾けるとか、絵になりそうだよな」
言ってイメージしてみると……ヤバイ、めちゃくちゃ絵になる。ハードボイルドって奴かな。黙っていれば、だけど。
エギルとクラインは「これじゃあ飲み足りない」と言ってお暇するついでにハシゴしに行った。今頃がっぱがっぱと飲んで馬鹿笑いしているんじゃないだろうか。
「本人は江戸っ子だからなぁ」
「黒いスーツよりは法被か」
「法被って……ぶふっ」
なんとなく言ってみると、想像したのかキリトは突然噴出す。俺も同じ物を想像しそうだからやめておこう。
「もう……ほら、そろそろ行くよキリト君。じゃあミスト君、シリカちゃん、またね。今日は本当に迷惑かけちゃってごめんね」
「そんな、あたしは気にしてませんよ。むしろ、お料理のお手伝い……と言うか、あたしが手伝う側でしたけど、とにかく助けてくれて助かりましたから」
「俺も別に気にしてないって。ヒースクリフとのあれは人類が決して相容れない問題の1つだからな……」
「いや、そんな大げさな……」
「きのことたけのこと言う前例があるだろう。ちなみに俺はたけのこな」
「……確かに相容れないみたいだね」
なるほど。アスナはきのこ派なのか。たけのこ派の俺とは相容れない宿命らしい。
ヒースクリフとの顛末を聞いていたキリトも、その例えに置き換えられれば納得といったように頷いている。
「あのヒースクリフがラーメン好きって言うのは、ちょっと意外と言うかシュールと言うか……」
「俺だってそう思ったさ……1番衝撃受けたのはアスナだったけど」
「だって……団長って結構堅物と言うか、攻略以外に関心事無いイメージがあったから」
俺だってそんなイメージだったさ。読んでいる限りそんな描写見た記憶なんてなかったし。
これをアスナが広めたら、さらなるペナルティが課せられるかもしれないから黙っておこう。キリトにはついうっかり洩らしてしまったが。
「と、とにかく! もう帰るよ! じゃあね2人とも!」
「わっ、待てよアスナ! じゃ、じゃあなミスト、シリカ!」
「おーう」
「おやすみなさーい」
遠ざかっていく2人(+酔い潰れた1人)に手を振って見送ってから、俺たちも家の中に戻る。
さて……まずは部屋片付けないとな。
「あいつらやりたい放題して行ったからなー……」
主に酔っ払い×2が。せっかくの新居が早速散らかってしまった。
さっさと片付けて……まあ10時までには済むだろ。
「さっさと片付けて休むとするか」
「そうですね。それに、2人で片付ければすぐに綺麗になりますよ」
うん、確かに。
1人だとこの散らかり具合で片付けるのには少し絶望するが、2人ならもっと早く終わるだろう。
「けどシリカは休んでもいいんだぞ? 料理だってたくさん作ってもらったし、疲れてないか?」
「大丈夫ですよ、このくらい。ミストさんに鍛えてもらいましたから」
とは言えシリカはもう十分働いてもらったし……何とか言いくるめる方法が思い浮かばず、その間にシリカは行動を始める。
「まあ、シリカがやりたいならやってもらうかな」
独りごちて、俺も片づけを始めた。
あんなに大騒ぎした後だからか、人がいなくなると急に静かになって落ち着かないな。
しかもシリカと2人きり。いや、ピナは既にソファの上で丸くなっているけど、そうでなくても2人で居る機会はこれまでも数多くあったし気にする必要は無いはずなんだけど。
「(クラインがあんなこと言ったからかな)」
シリカに彼氏……まあ、好きな人が出来たら、か。
実際、シリカは原作じゃキリトに憧れみたいな好意を持っていたけど……今も持ってるみたいだが尊敬とかその辺りみたいだし。
と言うか、大分原作剥離しちゃっているんだよな。これまでの行動を振り返れば。大筋こそ間違っていないし、所々不明な箇所もあったけどキリトの交友関係とか、何よりシリカが攻略組に加わっているって言うのが最大の相違点か。
まあ、あの場で怖くて蹲っているよりは全然良かったけど。目の前の事に必死すぎて全体のことなんか微塵たりとも考えてなかったな。
「(えーっと……確か、今が2024年の6月29日……いや、実質30日でいいか。ゲームのクリアが11月の初めだったはずだし……残り5ヶ月……ないし4ヶ月ちょっとで良いよな)」
細かい日付までは忘れたが、大体こんな感じで大丈夫だろう。このまま順調に進めばヒースクリフが75層のボス攻略後に正体を明かし、キリトと戦って結果的にキリトの勝利となるはずだ。
まあそれはまだ先のことだし、当面は目の前のことに集中して片付けていこうか。そう、シリカに好きな人が出来たら。
いまいちしっくり来ない。こうなったら身近の知り合いでイメージしてみよう。
まずは……そうだな、キリトから。
『ミストさん、あたしたちお付き合いする事になりました!』
『そう言う訳だからシリカの事は俺が守ってみせる。安心してくれミスト』
「お前アスナはどうしたんだよッ!」
「!?」
パリーンッ、と思わず手に力を入れたら持っていた皿が割れてしまうほどの力を込めてイメージ上のキリトに吠えた。
「ど、どうしたんですか……?」
「い……いや、なんでもない」
突然叫んだ俺におっかなびっくりしてシリカが尋ねてくる。
もしそんな事態になれば俺とアスナで延々と殴り続けているだろう。……おい誰だ『負け組』とか言った奴出て来い!
ええいっ、とにかくキリトはダメだ。そもそもアスナに妄想とは言え知られれば俺が怒られる。
そうなると他……エギル……って結婚してるとか言っていたよな。そうなると……ヒースクリ……いやこれもありえないだろ。
そうなると残るのは1人……クライン。
「(いや、そうなったら延々と【ソニック・リープ】を連打しているな)」
むしろキリトから《二刀流》借りて【ジ・イクリプス】叩き込んでやる。ユニークスキルだから借りるとか無理だけど。
「(そもそも、なんで俺はこんなやきもきしているのだろうか?)」
ふと自分の心境に気づき、これは妙だと首を傾げた。
確かに俺はシリカのパートナーだけど、恋愛まで束縛する権利はないだろう。俺だって親とかにそんな事をされれば嫌だし怒る。
だから、それは本当に何気なく口から出ていた。
「シリカって好きな人とかいたのか?」
「ひえっ!?」
突然そんなことを聞かれてシリカは声が裏返り、ついでに洗っていた皿が手からすっぽ抜ける。俺はぎょっとしながらもとっさに落ちようとした皿を受け止めていた。
「ああっ、ごめんなさいっ!」
「いや、ごめん。何言ってるんだろうな、俺。クラインが変なこと言ったからそれが頭から離れなくて」
危ない危ない……食器ブレイカーなんて俺だけで十分だ。
謝るシリカにごまかすように笑い、積み重ねた残りの皿を隣に置く。ちらっと横顔を伺うと、頬が紅潮していて明らかにさっきの質問に困っているようだ。
「えっとだな、別に変な意味で言ったわけじゃなくて……そう、シリカが誰かを好きになっても俺は祝福するとかそんな事を……いや、ちょっと違うな。えーっと、えーっと」
何とか俺の気持ちを言葉にしようと思うのだが、いい言葉が浮かばない。俺が伝えたいのはなんと言うかアレだよ、アレ。わかるだろ? アレってことだから。
「……ミストさん」
「えー……ん? なんだ?」
ふと、シリカの様子がおかしい事に気づく。
俺に体を向けているが視線は下を向いており、明らかにいつものシリカとは様子が違った。
「ミストさんはあたしが嫌いなんですか?」
「え? な、なんでだ?」
「――だったら! どうして気づいてくれないんですかっ! 鈍いにもほどがありますよ! 鈍感です、キリトさんより鈍すぎです!」
え? えええ? なんで? なに? どうして俺シリカに怒られてるの?
「あ…あの、シリカ? 話が見えないんだけど」
「じゃあ、どうしてあたしが無理を言って強くしてもらったり、ここに住まわせてもらったと思いますか!?」
「それは……1人でレベリングは危険だし、俺たちコンビだから近くにいられるほうがいいんじゃ……」
「そうですけど……それもありますけどっ! もっと大事な事があるんですっ!」
どちらかと言えば大人しい部類に入るシリカがかなり……いや、本気で怒っている様子に俺は面食らっていた。
なんでここまでシリカが怒っているのか、さっぱり分からない。
怒っているシリカに圧倒されて何も言えないでいると、シリカは密着するほど近づいてきて精一杯背伸びをして俺に目線を合わせようとする。
「好きな人の傍にいたい……力になりたいって思ったら、いけないんですか!?」
「…………………………え?」
シリカが、俺を好き? え? それって……
「お兄ちゃんとかそういう意味じゃなくて、異性として、男性として好きって意味ですよ!」
考えようとしていた事を真っ先に否定された。
そ、そうだよな、うん。それ以外考えられな…………
「うぇぇぇぇぇいっ!?!?」
全てを理解した瞬間、自分でもよく分からない奇声を大声で発してしまった。
あそこまで鈍ければそりゃ怒る(確信
と言う事で告白シーンで次回に続くと言うパターンになってしまいました。いや、詰め込んだらいったい何ページまで続くのか想像つかないし……。
それでもって今回シリカの新武器がなんだか残念な形で初登場しました。実際に戦闘で使われるのは9話からですね。
ヒースクリフのお約束ラーメンネタはここで出しました。ただ、ラーメンは醤油だけじゃないだろうと判断して麺類全般好きと設定して蕎麦も好きにしています。特典の話を知らないミストからすればヒースクリフのイメージを崩壊させるには十分です。
次回はシリカから告白されたミストの出した答え……はたして2人はどうなるのか? クラインの人生相談が出てくるのか、出てこないのか(え