時を少し遡ることクラミーとのゲーム敗北後。
「あ、あなたイカサマしたんじゃないですの!?」
「あら?何か証拠でも?」
「ぐ...な、無いですけど...。」
「なら、もういいかしら?私はこれで。」
そういって去っていく女性に何も言うことができないまま、ステフはそこに佇んでいた。
(負けてしまったんですのね....。)
そう、無慈悲なまでに叩きのめされた結果に落胆し、ため息をこぼす。周りの人間が何か噂をたてているがそんなのは今のステフの耳に入っていなかった。
(こ、これじゃあみんなを助けることができませんわ。それに...。)
(あんなに啖呵切っておいてこれなんて、シュウに顔向けできませんわ!)
そう思って勢い良く立ち上がり、宿のオーナーらしき人に向かって歩く。
「あの二人の部屋はどこですの!?」
「おいおい嬢ちゃん。お客さんのことをペラペラと話しちゃいけないのは知ってるだろ?」
「な、なら今日この宿に泊まりますわ!おいくらですの!?」
「え!?あ、そうだな。突然だし銀貨一枚で...。
「ならこれでいいですわね!お釣りはいりませんわ!」
「き、金貨かよ。わ、わかった落ち着け。ほら、○○号室の鍵だ。とっとと行きな。」
「ありがとうですわ!」
「あんま他の客に迷惑かけんなよ~。」
「わかりましたわ~...!」
「も、もうこの部屋にあの二人がいるに違いないですわ...。」
あれから部屋に泊まるという名目で、あの二人を探してあちこちの部屋を訪問して回ったステフ。訪問したとこは人違いがほとんどで、中には変な文字がかかれた袋を頭に被ったほぼ全裸の人とか、意味不明の言葉を発する宗教団体がいたりしたが、最後に残ったこの部屋があの二人の部屋だとやっと絞ることができたのであった。
(お、お陰でもうすっかり夜ですわね。まったく最後の部屋まであの二人の部屋に行けないなんて、運が悪すぎますわ。)
(もう、シュウは...帰りましたわよね。あの女性もきっと…今日はここに泊まっていくしかありませんわ…)
心でそう呟きながら、部屋の扉をノックした。
「俺に...惚れろっ!!」
ゲームで負けたステフに対し、ささやかな願いと宣言した男の願いを聞いた。
そう言われたステフの心に、甘く熱い感情が湧いてくる。そんな感情に心を支配されて目の前の男を凝視する。先ほどまで国王を愚王と罵り、不遜にたたずんでいた、いかにも不健康そうな目をした青年が、やけに自分の好みの男性を見ているような感覚に切り替わった。本能的に求める感覚をさえ芽生えさせていた。
(こ、これが惚れるという感情ですの?)
少女から何か言われて、男が少女に土下座をかましていたり言い訳をしている姿を見て、ステフはや彼に対してやきもちを焼いてしまう。自分に構ってくれないのかと、こっちを見てほしいと思ってしまう。
(でも、盟約で乙女心を奪うような真似は許せないですわ!)
と、雀の涙程の反抗心を胸に、空に向かって歯を立てるが、男に適当に言いくるめられてしまった。その言葉を耳にしてしまうだけで心が揺らぎ、最終的に自分から折れてしまう。
(で、でも、盟約には継続的に惚れる程の効果はないはずですわ!それさえ肝に命じれば...)
「あ、ステファニーって長いからステフって呼んでいいか?」
「いいですわよ♡」
「じゃあ、俺のことは空って呼んでくれ。」
「わかりましたわ♡」
「あ、ステフって王族の家系だよな?」
「はい♡」
「だったら王城って広いよな?」
「えぇ♡」
「一緒に住まわせてくれないか?」
「もちろんですわ♡」
(無駄でしたわ...。)
空に要求されたら何でも肯定的に強制的に返事をしてしまう。言葉を聞いているだけでとろけそうな感覚に陥るのに、それが、自分の幸せに直結しているから反抗する気すら湧いてこない。あまりの多幸感に酔いしれてこんなことを思ってしまった。
(あぁ、空が私に幸せを与えてくれる人なのかもしれませんわね...。)
こんなに素敵な人とならと、言葉を聞いただけで頭がぽわんとするような人と一緒に入れたらという想像をしてついこぼす。
そう、心から心酔しかけたとき、ふと胸に何かが引っ掛かった。
(あ、あれ?なんですのこの気持ち...。)
一度抱いた小さく湧いた疑念は、幸せだけで彩られた心にゆがみを生じさせ大きくなり、思考を侵食する。その思いはだんだんと広がり自身の今までの考えさえ混沌に陥れる。
(な、なんですの?このモヤモヤした気持ち。)
この言い様のない気持ちに耐えきれず、助けを求めるような思いで空を見る。
だが感じる。違う、と。今まで私を助けてくれたのは、一緒にいてくれたのは彼ではないと。
(そ、そうですわ。私が一緒にいたかったのは空じゃなくて...)
そう思った思考を止めて、その思考を否定する。
(....私は、一緒にいたかった人といれなくて、ぽっと出の男と一緒にいたいと思ってしまったんですのね...。)
暗に、シュウの期待を裏切って自分だけ勝手にいい思いをしようとしていることに気づき、自分を呪った。期待して待っているかもしれない彼の期待を捨てて、惚れさせられた相手と手を取り合おうとしている事実に、それを許容していた自分に無性に腹が立って…あきれて一言、本当に小さく言った。
「最低ですわね。わたくし...。」
そのステフの苦虫を噛み潰したような表情を、いまもなお白に言い訳をかます空は気づかない。
だが、
(....ステフ...悲しそう....?)
白は見逃さなかった。これから兄を使ってどんなイタズラをしようか考えていた矢先に、目に入ったステフの表情に驚いた。さっきまで空にメロメロだった顔のステフにどんなことをしてやろうか。あまり自分を恋愛対象とみてくれない兄への憂さ晴らしも含めてやろうとしたことが一瞬で吹き飛んでしまった。その理由を考えてみる。
(まさか....にぃじゃ、足りない、ってこと?)
絶対の信頼を置く兄が惚れる相手に相応しくないと判断されたのか?そう思うと少し腹が立った。王族の出からしたら兄くらいの人間じゃ足りないと思うのだろうか?
(....でも...それだったら、にぃの要求....のまない....)
だが、冷静に考えれば先程までのろけた顔してホイホイ返事していた人物が突然そう思うのかという疑問が残る。
色々思案している最中に空が割って言った。
「なあ?外で馬車待たせてるんでしょ?あれに乗って王城に行こうぜ?こんな埃だらけの部屋だとちと体が心配だしな。早くいきたいよな白?」
「え?う...うん....。」
「あ、で、でも。もう帰ったかもしれませんわ...。」
「何も言ってないんでしょ?ならいるかもしらんし?さ、荷物まとめて出発だ!!」
こうして宿をあとにした三人だった。
「...ステフ...?」
「な、なんですの?白。」
「....だいじょうぶ...?」
「....。」
「えぇ。大丈夫ですわよ。」
「...そう....」
時をまた遡ること、シュウの謝罪が終わった頃。
頭をゆっくりあげ、空を見上げたシュウの表情は何処か覚悟を決めたような表情をしていた。
「本当に...これで良かったんだよな...。」
自分だけが原作を、この物語を知っていて、その世界線の通りに動かすことに、予想できる未来にした、自分の自信の弱さが垣間見えたような気がした。
「良かったんじゃない?....ププッ....それで。」
「....え?」
(な!?さっきの恥っずかしくてくっそクセェ、誰かが聞いたら不審者通報か消臭剤撒くか動画でとって拡散させるような台詞を聞かれただとぉ!!?)
「だ、誰だ!」
衝撃の事実に脳内回転が爆走するなか、その声の主の方を見る。
そこにいたのは黒い装束服を身にまとった少女。クラミー・ツェルだった。
(えええええええええ!!?なんでいんのクラミー!!?)
あまりの衝撃に絶句した状態のシュウに、追い討ちをかけるようにクラミーが告げる。
「あ、あんた。一体なんで...プゥッ...こんな夜中にあんな告白めいたことを...クハッ...言ってんのよ...アハハ!!」
そう言いながら最終的には本格的に笑い始めたクラミーに、シュウは顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。
「あ...貴女...なんでこんなところに....。」
「え?私?夜に散歩に出掛けるのが何か悪いわけ?」
「え?いえ、そうではなくて...。」
「あぁ。私がこの宿にいること?そこまで教えてあげる義理はないわ。」
「そもそも私ここから出てってないでしょ?ずっと表にいた執事さん?」
(た、確かに出ていくとこ見てなかったな。うわー失態だわ。アニメでエルヴンガルドの湖にいるシーンがあったからてっきりそこにいるとばかり思っていたけど。毎日国外に出てると怪しまれるよな。)
「はぁー。でも今日ここに泊まって良かったわ。こんなに笑ったのは久しぶりだもの。」
(こ、この女ァ...。)
「で?さっきのお嬢様にでも告白する練習でもしてたの?でも内容的に謝ってる感じがしたからごめんなさいの練習かしら?」
(くっ。た、耐えるんだ。ここで余計なフラグを立てるわけにはいかない!)
「あなたには関係のないことですが?」
「あら?答える気無し?ふ~ん。まあいいわ。」
(さ、とっとと散歩にでもエルヴンガルドにでもいってろよ!)
「でも、あんなやつの執事やってるのって大変じゃない?ただの直進バカだったわよ?」
お?
「私が他人と勝負してるとこも見ずに勝負を挑んでくるんだもの。これじゃただ負けに来たようなものね。」
ん?
「あそこまで表情に出してたら、こうしてくださいってもういってるようなものよ?笑いこらえるのに大変だったわ。」
ほー。
「あんな体してて勿体ないわね。頭に栄養行ってないんじゃない?頭伴ってなけりゃただの売女になるわよ?」
ははぁ~ん。もしかしてこいつ、巨乳のステフに男がついている事に嫉妬してんだなそうかそうか。
ここから言う言葉は私怨では決してない。ステフ教第三章第四項『ステフを影でさえ傷つける者には天罰を』に乗っ取った行為である。
さあ、天罰を受けるがいい。今回はちょっと陰湿だがな!
「確かにお嬢様はそのようなお方かもしれません。」
「そうでしょ?だから早く帰っちゃえば?」
「それに引き換えあなたは聡明だ。」
「あら?誉めてくださるの?」
「....え?」
「女性足る象徴的シンボルの胸がない!!あなたは脳があるかもしれないが、そちらにやり過ぎたようだな!!男性がどちらをとるか選択するなら迷わずあなたではなくお嬢様だ!!」
「あ、あなた...人が気にしてることをっ!!」
「だが、安心してほしい。」
「...へ?」
「断言しましょう。貴女は巨乳になる。」
「な...なんでよ!あなたにはこの胸が見えないの!?この胸板が!?夜だから見えないって言うの!?明るいところに出て見せてあげましょうかこのまな板をぉ!!!」
「いえ、私はあなたのように胸に夢も希望も詰まってない人をたくさん見てきました。」
「やかましいわよ!?」
「でも彼女らは運命に導かれたように、五年後十年後には必ず巨乳になっていました。」
「そ、そんなの嘘よ!!」
「ではこちらのメイドの経験談をお聞きください!」
「では是非。」
「え?どっから出てきたのこのメイド?」
「馬車の操縦をやってもらってました。」
「私は20までずっとあなたのようなまな板でした。」
「え!?本当なの!?あんた85以上はあるわよ!?」
「えぇ。今は、です。だからあなたの気持ちが痛いほどわかります。」
「そ、そうなんだ。」
「私はずっと貴女のように胸が大きくなるようにと夢見て日々を過ごしていました。」
「そうして五年後、やっと胸が大きくなりはじめ、26の今、このように。」
「ほ....ホントなの?」
「このメイドがやったのは二つ。胸が大きくなると思い描くこと。そして、毎日サイズを測ること!!」
「え!?それだけ!!?」
「そう。イメージは形となり、実現するようにできてます!遺伝子なぞには負けないのがイメージ!!胸なんて自分のからだの一部です!!あなた自身が変わればなんでもできるのです。」
「な、なるほど。」
「さあ!いますぐ巨乳の自分を思い描いて、バストサイズを測るのです!!」
「わ、わかったわ!!ありがとう執事とメイドさん!!本当に今日はいい日だわ!!」
はい、時限式天罰設置完了。一生救われない体に泣いてろ。
「...ところでメイドさん?失礼ですがいつ頃から?」
「中学二年の頃からこのサイズです。」
「HAHAHA。」
「なあ。あの執事とメイド、なんで巨乳について熱く語ってんの?」
「....しろも...毎日、測るぅ....!!」
(もう嫌ですわぁ~...。)
「シ、シュウ!!あなた何話してるんですの!!?」
「な!?お嬢様、聞かれてたのですか!?」
「あぁ、あんな大声で捲し立ててたからなぁ?白?」
「....しろも、大きく....なる?」
「あ、あれはあの女がお嬢様を馬鹿にしていたから天罰としてついた嘘で...。」
「ふぇ?」
「あ?」
「....そ....そんな....め、メイドさん。う....うそじゃない....よ....ね....?」
「私の胸は中学二年からこうです♪」
「....にぃ....いい....じんせいだった....よ....」ガクッ
「し、しろぉぉぉ!!?だ、大丈夫か!!?目を開けてくれ白ォォ!!!」
「シュウ。こ、こんな遅くまで待たせてしまってごめんなさいですわ。」
「それで、後ろのお二方は?」
「え?あ、あの二人は....その....き、客人ですわ。わ、私の....。」
「そうですか。夜も遅いですが、お嬢様のお望みとあらば今すぐ出発いたしましょう。」
「えぇ。お願いしますわ。」
(....シュウは私の本当のわけを話したらどう思うんですの?)
そう、心の奥で嘘をついたことを後悔するステフ。罪悪感で一杯の心は徐々に顔に出てきて....。
「お嬢様?ご気分が優れませんか?」
「いえ、大丈夫ですわ。」
「そうですか。では、ひとつだけお聞きしていただいても宜しいですか?」
「な、なんですの?」
「良く頑張りましたね。お嬢様。私はその事実だけで嬉しゅうございますよ。」
「...!!」
「では、行きましょうか。」
「は、はいですわ!!」
(やっぱり私は....)
「ねぇクラミー?昨日測ったばかりなのですから、大きくなっているはずないのですよ。」
「いいえ。フィー。昨日は測るだけじゃ足りなかったの!想像してなかったのがいけなかったの!!」
「そうなのですかー?」
「えぇ。そうよ!もっとも大事なことだわ!」
(まぁ。私はクラミーのかわいいお胸が見れるだけで満足なんですけどぉ♪)
そう思いながらメモリの入った紐を巻き付けていく。
「それで!どうなのフィー!?」
「....ねぇクラミー?昨日の結果は何でしたっけー?」
「え?覚えてないのフィー?」
(覚えてないわけないのですよ!で、でもこれは....)
「か、確認なのですよ。」
「そ、そうなの?え、えっと、な、70....。」
「クラミー。驚かないで聞いてほしいのですよ~。」
「う、うん....。」
後日、宿のオーナーは昨日の連続で木霊する大声のクレームをもらったそうな。