ノーステフ・ノーライフ   作:sayutan

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3巻
記憶の操作説明書


『....うぅっ....にぃ....会いたい....会いたいよぉ....。』

 

『....白様....。』

 

『....うぅっ、うぅー....っ、ぐすっ....うぇぇ....ん....』

 

『....白様、空に会いたいですか?』

 

『....!?し、知ってるのっ!?空を....にぃを、知ってるのっ!?』

 

『えぇ。存じております。何故なら私は、あなた方『  (くうはく)』をよく知る転生者ですから。』

 

『....ならっ!どうすればにぃに会えるのっ!?』

 

『....神に勝つんです。白様。あなた方をこんな運命に陥れた、このゲームですべてが決まる盤上の世界(ディス・ボード)で。そうすれば、願いは叶えることができます。』

 

『....でも....『  (くうはく)』は、にぃと白....二人で一人のゲーマーなの....わたしひとりじゃ....何も....』

 

『....ならば私が....』

 

『....ぅっ....ぐすっ....』

 

『俺がっ....空になって、白を神の元まで飛ばしてやるっ!!!』

 

 

 

□□□

 

 

 

 エルキア王城。最後の人類種(イマニティ)の国であるエルキアの中心に立つ城には、大勢の人々で囲まれていた。それは王を称えるものではなく、罵声を城に浴びせかけるものであったが....

 

 そんな城の異変は、外だけでなく、内部でも起こっていた。

 

 

 

「し、白っ!?どうしたんだっ!?お、俺ならここにいるぞ!?」

 

 そういって白の前に出て、自分の存在を示すシュウに対し、白は困惑した表情で、

 

「....なに....言ってるの?シュウは....にぃじゃないっ!」

 

「え!?あ、あれっ!?なに言ってるんだ白っ!?」

 

「....そっち....こそ、なに言ってるのっ!!にぃは空でっ....」

 

「え?おかしいだろ?だって....」

 

 

 

()()()()()()()?」

 

 

 

 その時、頭の中が真っ白になった。

 

「....。」

 

「し....白?」

 

「....っ!!出てってっ!!シュウはにぃじゃないっ!出てってっ....出てってっ!!!」

 

「うわっ!?お、おい白っ!!どうしたんだっ....のわっ!?」

 

 

 

バタン!!

 

 

 

「....なにが....どうなってんだ....?」

 

 

 

◼️◼️◼️

 

 

 

「....と、いうわけなんだ....」

 

「....そうなんですのね....。」

 

 そう言いながら、王の部屋の前で暗い顔をしている二人に対して、ジブリールが切り出す。

 

「あの....何が起こっているのでしょうか?」

 

「あ~。端的に言うと、白が部屋から出ようとしないんだ。」

 

「白様がですか?お言葉ですが、()()()()と白様が部屋に籠ることなど不思議なことでは....」

 

「まぁ、そう思うだろ?でも今回は俺を外に追い出したんだ。」

 

「....どこにも問題が見当たりませんが?」

 

「あー....ジブリールは知らないかもしれないけど、白は俺から、正確に言うと空って言う兄と一緒にいないと、マトモに会話できないくらいまで病むらしいんだ。」

 

「正確に....というと、マスターが『俺はこれから()って名前で過ごすから。』と言ったことの理由になるのですか?」

 

「そうだな。俺が()()()()()()()()()色々やってきたんだが....」

 

 そう言うシュウは、紫の下着に、『I♥️人類』と、ロゴの入ったシャツを来て、ジーンズ、リストバンドまで揃えて、髪型や目の隈まで再現し、空になりきった服装をしていた。

 

「....どうやら、元の世界の兄に会えてないストレスが限界に達したんじゃないのかな....」

 

 シュウがそう言ったとき、扉のしたからすーっとタブPCが差し出される。

 

「ん?白?どうしたんだ?」

 

「....。」

 

 シュウの呼び掛けに白はなにも答えなかったが、代わりに液晶画面が変化した。

 

「おや?『質問』と書かれてございますね。」

 

「続きはなんて書いてあるんですの?」

 

「えーっと....『1:ジブリールと対戦した人物の名は?』か....」

 

「それは....空と白....正確には、シュウと白ですけど....」

 

「んー。俺が返信を入力する....って、どうやら聞こえてるみたいだな。」

 

 そう言ったときには、追加の質問が液晶画面に載せられていた。

 

「さようでございますね....『2:ジブリールとのゲームの詳細提示要求。』」

 

「それは、シュウがどこか無理しながらふざけてジブリールを油断させて、白が練った作戦で勝ったはずですわ。」

 

「最後の言葉は『クーロン力』でございましたね。おかげでこの猿をマスターと呼ぶようになってしまいましたが....」

 

「いや、自分から言い出しといてそれはないだろ....。」

 

「あのときは感極まっただけにございます。本当はご主人様などと粉微塵にも思っていないので悪しからず。」

 

「そう言うなら呼ばなきゃいいじゃん....っと、次か、『3:ステフに惚れろと要求した人物は』?」

 

「....え?そんなこと、されてないはずですわよ?」

 

「だよな....特にそんなことなかったと思うが....」

 

「....次の質問にございますね。『4:東部連合のゲーム内容を暴いたのは誰か』ですか。」

 

「それはお爺様の遺品と、シュウと白ですわ。」

 

「まぁ、俺はほとんど活躍できなかったけどな。」

 

 その言葉を最後に、液晶画面から変化がなくなる。次の質問が来るまで待っていたが、白が何か考えているのではないかと言う一同の思いが、彼らの口を閉ざしていた。

 

....そして、最後の質問が投げ掛けられた。

 

 

 

『5:どうしてシュウは、白の"にぃ"になっているの?』

 

 

 

 その質問は、するなら最初にすべきものであっただろうが....質問を通しても、いまだに一番不可解で、謎となっている部分を、ようやく聞く気になった白に、シュウが答える。

 

「....それは....私が東部連合に書簡を届けたときなのですが、ちょうどその帰りに白様がいて....その、会話ができる様子じゃなかったので、ひとまず城にお連れしました。」

 

「そして話しているうちに、白様の兄、空なる人物が白様がもといた世界に取り残され、白様だけが、この世界に来てしまったのだと言うことがわかりました。」

 

「そこで、私が代わりに兄、空になって取り敢えず正気に戻ってもらおうと姿形を似せたり、色々励ましたりして、なんとか意志疎通が普通にとれるくらいにまで回復した白様が、唯一神テトに挑んで、この世界に空を連れてくると、そう言う目的で私と白様は今までやって来ましたが....」

 

 と、空を取り繕っていた口調を、執事であったときのものに戻して、恭しく告げた。

 

 ....それから、液晶画面に告げられた言葉は....

 

 

 

『みんなの記憶から、にぃの存在、消されてる。』

 

 

 

 ....それはもはや、根拠の無い、懇願に近い結論であった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

 

 

 ご無沙汰してます。シュウです。

 

 率直に言うと。私は完全に空の記憶を忘れています。

 

 ま、正確に言うと原作知識の中の空を覚えてるってだけで、この世界に来た空の存在はからっきしなだけですが。

 

 ....多分、原作知識なかったら、なにも疑うことなく白が壊れたと思ってますね....。

 

 あ、読者の皆さん!私は好きで空の格好をしてる訳じゃないからね!?し、白のためにやってるんだからね!!

 

 というわけで、私はこれから白を空の存在に気付かせなきゃいけないわけだ。今あるのはゲームによって植え付けられた架空の記憶と、原作知識。

 

....しっかし、架空の記憶とはいえ、リアルだな~。白の頭を撫でたときとか、膝の上に乗っけたときとか、一緒に寝たときの記憶まで、自分が体験したかのように再生できる。

 

....うおっ!?白の太ももやわr....

 

「マスター、いかがなさいましょうか。」

 

「ふぇっ!?あ、うん。そうだね!何とかしなきゃね!」

 

「....なに考えてたんですの?」

 

「いやっ!これからどうするかをねっ!しーっかり考えていたんだよっ!!」

 

「いや、鼻の下伸び....」

 

「さぁってっ!!白っ!!俺とゲームしよう!!」

 

 これ以上指摘を受けないように、盛大に声をあげて宣言したシュウの目には、ステフのジト目は映らなかった。

 

「....。」

 

 その声に白からの反応はないが、勝手に肯定だと決めつけて続ける。

 

「そう、ゲーム。俺が勝てば、俺のことを今まで通りに空と思い込んでもらう。いいな?」

 

 そういったシュウの始めるゲームの結果がどうなるか、その意図を汲みとったのだろう、液晶画面には『盟約に誓って(アッシェンテ)』と打たれていた。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

 

 

(まるで幽霊だな。白。)

 

 そう思いながら、次々とチェスの駒を移動させていく。シュウは空の真似事をしているだけなので、そのコマは悪手にばかりなってしまう。が、まるでそれを利用して自殺でも目論むかのように、白の駒がやられていく。

 

(これじゃ接待ゲームだな....。)

 

 そう思って顔をあげると、涙や鼻水で顔がぐしゃぐしゃになりながらも、絶望の色をした瞳を浮かべ、無表情のまま駒を動かす白の姿があった。

 

 時折、ヘラっと笑う場面があったが、おそらく自分のことを嘲笑でもしているのだろう。自分が狂っているのだと。

 

 それからも同じペースでゲームが進む。このままいけばシュウが勝つのが濃厚である。

 

(でも、このまま勝ってはいけない。)

 

 そう、白が空に関する何かに気づかなきゃいけない。

 

 そうなることを望みながらチェスを打っていく....

 

 

 

 しかし、気づかない。

 

 

 

(チッ....原作では途中で気づいたのに....どうしちまったんだ!白っ!!)

 

 もう、誰の目から見ても、二、三手でシュウの勝利となる盤面を見ながら、ただシュウ一人だけが焦っていた。

 

 白はもう諦めたのか、死人のような、でもどこかこのままでもいいと言うような顔をして....

 

(そんな....そんなもんなのかよっ!?てめぇらの関係は、この程度で諦めきれるもんなのかよっ!?)

 

 そう、心の中の怒りを押さえ、気を引き締める。

 

(これでなにも思わなかったらっ!兄妹(きょうだい)失格だぜっ!)

 

 手元のポーンを動かして、切り札を放つ。

 

 

 

「....白様が空と最後に別れるとき、空はなんといっていたか....覚えていますか?」

 

「な、なにいってるんですの!?」

 

「マスター....それは....」

 

 そう、端から聞けば、ゲームの主旨を鑑みない発言....だが....

 

(....にぃが、最後に言った....言葉....?)

 

 そう、白には....白にだけは、違う意味になる!!

 

(....最後に....言ったこと....なんだっけ....?)

 

 そう思って、シュウの顔を見た白の目が....見開く

 

 そこには....

 

 

 

『覚えてるよな。白。』

 

 

 

 白をしっかり見てはにかむ、空の姿が見えた

 

 

 

(....そうだ....そうだそうだそうだそうだそうだっ!!!)

 

 そうして急速に脳の歯車が回り出す。その脳裏に浮かぶのは

 

 

 

『白、俺らは、いつでも二人で一人だ』

 

『白、俺らは、約束で結ばれてる』

 

『白、俺らは、少年漫画の主人公じゃない』

 

『白、俺らは、常にゲームを始める前に勝ってる』

 

 

 

『東部連合を飲み込む為の、最後のピースを手にいれて来ようぜ』

 

 

 

 そして....白の目に光が戻る。溢れだす涙をぐしぐしと拭いて、息を整えて....。シュウの方をじっと見る。そして、

 

「....ありがと....シュウ....」

 

 そういって置いた白のコマは、今までの劣勢を覆し、勝利を掴む一手となった。

 

(....まったく、遅いですよ。)

 

 驚く演技をしながらも、心のなかでそう思うシュウの瞳には、可能性を表す白い翼を大きく広げた少女が映っていた。

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