ノーステフ・ノーライフ   作:sayutan

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4巻
お茶会はゲームの後で


「んぁーーーもうっ!!あのバカ王達は何やってるんですのーーーっ!!!」

 

 エルキア王城のとある一室で、一人の少女が絶叫をあげる。その声の主は、先王の孫にあたり、今では東部連合に残ってモフりの限りを尽くしている現王『  』( くうはく )の代理として、エルキア王国の実権を握っている、赤い髪とアクアマリンの瞳を持った少女、ステファニー・ドーラである。

 

「まったくですなぁ...あれから二週間、何の音沙汰もないとは...本当に人類種(イマニティ)の王である自覚があんのかあのクソ猿どもぉ...」

 

 そう、ステフの絶叫に応えるも、セリフの後半はもはや紳士の欠片もなくなってしまっているのは、白髪で筋肉モリモリマッチョマンの獣人種(ワービースト)、初瀬いの。

 

「まぁ、まだ捌かねばならない仕事がまだまだありますから、下手に動かれて仕事を増やされるよりはいいのですけど...」

 

「これまで無駄に貴族が余力を残しているがために、ここぞとばかりに餌に寄ってきておりますからなぁ...」

 

「それは今までの人類種(イマニティ)の政治が悪かったとおっしゃりたいんですの?」

 

「いえいえ、それはこちら側の政治でも起きたこと故、どこの国の政治も代り映えしないことを謳ったまでです。」

 

 と、二人が皮肉を込めた会話をしていると、向かい側に座っている貴族たちがイラついた態度で話しかけてくる。

 

「私たちを嘲笑するとはいい度胸ですね!!愚王の孫と負け犬種族の分際でっ!!」

 

「我らを侮るなど笑止千万。今点数で勝っているのはこちらなのですぞ!!最後のターンで貴様らが勝つことなど不可能!!後でお前たちを地に伏せさせてくれよう!!」

 

 貴族たちが皮肉に返すように、二人に罵声を与える。貴族たちの言う通り、今、土地の利権をかけて行われているゲームでは、点差は貴族のほうが上である。

 

...が、ステフといのは煽られたにもかかわらず、冷静な態度を崩すことはない。

 

「はぁ、もうそのセリフ、五十回くらい聞きましたわ。もっと他に言うことはありませんの?」

 

「貴族とはいえ、今となっては七光りの者が多いようで、嘆かわしいことでございますなぁ...。」

 

「なっ!!口が過ぎるぞ!!慎めっ!!」

 

「早く札を明かすのだっ!!勝利した後でその口を二度と開けぬようにしてくれるっ!!」

 

「...はぁ、ここまで同じだと、脳髄まで一緒のようですわね。」

 

「権力に洗脳されたものの末路がこれほどとは、嘆かわしい限りにございますなぁ...。それではお二方、札を提示してください。」

 

 いのの采配によって開かれた札を見て貴族たちは戦慄する。

 

「なっ...ファイブオブアカインド!!?」

 

「そんな...そんなはず!!?」

 

 貴族たちが狼狽するのも無理はない。これにより自身の持ち点は完全に喪失し、ステフの勝利へと終ってしまったからだ。

 

「あなたたちを有利な側に仕立て上げて、慢心せずにどこまで慎重に事を運ぶのか見させてもらってましたけど...案の定でしたわね。」

 

 そう、ステフが冷たく言い放ったと同時に、いのが無慈悲に告げる。

 

「それでは盟約に基づき、ゲーム内容の記憶消去と掛け金をいただきますのであしからず...。」

 

 

 

■■■

 

 

 

「ふぅ、これで今日の分は終わりですの?」

 

「ええ、おそらくは。」

 

 先ほどまで貴族たちが出入りしていた部屋は一変。ステフといのだけの静かな空間に変わり、用意したお茶を数杯飲み干して落ち着く。 

 

「しかし朝から夕刻を過ぎるまで休みなしで働いております故、早くおやすみになられたほうがよろしいかと。」

 

 そう、溢れ返るほどに湧いて出る貴族たちの要求に、『愚王の孫娘が王の代理をしている。』という、いのが提案した罠を張った以上、空達がいないうちにできるだけ多く応え、狩り潰さねばならない為、連日休む暇が無く疲労はたまる一方であった。付き添いであるいのは持ち前の体力があるものの、ステフはそうではない。そのことを案じていたのだが...

 

「確かにそうですけどまだ...」

 

 と、何かを待つように扉を眺めていると...

 

 

 

コンコン

 

 

 

「...っ!!いいですわよ!!」

 

 待ちに待った扉のノック音に、少し声色を挙げて返事をする。

 

「はっ、失礼いたします。」

 

 丁寧な口調で入ってきたのはエルキア王城専属執事、異世界からの転生者で原作知識持ちの人類種(イマニティ)、シュウである。

 

「今日もお勤めご苦労様です。お嬢様、いの様。」

 

「そんなことはないですわ。もっと大変なのはシュウの方ですもの。シュウこそお疲れ様ですわ。」

 

「まったくですな。あの愚者どもの罵詈雑言を一身に受け続けるのは、流石に身に応えましょうぞ。」

 

「ええ、ですがお嬢様の疲労を考慮すれば、このことなど軽いものです。」

 

「ーーーっ!!!ととと、とにかく、今は座ってお茶でも飲んでくださいな!!今日はリラックス効果のある茶葉をご用意いたしましたの!!」

 

「ありがとうございます。ではいただきますね。」

 

「ほう、どおりで血流の流れがよいのですな。いやはや御見それいたしましたぞ。」

 

「そんなことまでわかるんですのね...」

 

 若干のあきれを零すステフに、いのがいたずらな笑みで話題を提供する。

 

「しかし、あのときシュウ殿が言って下さらねば、このように休息を挟むことなく今もゲームをしておったでしょうなぁ...」

 

「そ、それはもういいじゃありませんの!!?」

 

「あー、確かにお嬢様はやれるだけの体力があれば無理を平気でしますからねぇ...」

 

「あーもうっ!!今は私をいじめる時間じゃありませんのよぉ!!?」

 

 だが断る。というわけでステフの黒歴史の回想どぞ。

 

 

 

□□□

 

 

 

 ご無沙汰しております。過去にご住まいのシュウです。

 

 空の命令によってエルキアに戻った我々は、エルキア王城内に転移されたのですが、その時は王城周りはお祭り騒ぎで、なけなしの食料すら投げうって酒が飛び交っている状態でした。かくいう王城内でも執事やメイドが来訪してきた貴族たちの相手をしていおり、王城内もパーティ状態。

 

 そんな状態を見た私たち三人は初日こそそれを見逃して休んだものの、流石にいつまで経ってもやめそうにないため、東部連合との連邦構成の話を公に流すとあら不思議、貴族たちが過去に先王に巻き上げられたことを理由にこぞって意見してくるではありませんか。それに乗じて先ほどの罠を張って狩りつぶしを開始したのですが...

 

「あんな貴族たちにおじいさまが舐められていたのが許せませんわっ!!こうなったら貴族やギルドから何でもかんでも奪いに奪ってこちらで全部決めてしまったほうがいいですわ!!あんなクズどもの意見なんてこれっぽっちも聞く必要ありませんもの!!」

 

「おおお、お気を確かに!!それではもはや粛清!!恐怖政治ですぞっ!!?」

 

「そうはいっても、あんな『甘い水を吸いに来ました~♪』って顔して寄ってくる人たちに何の同情を寄せればいいって言うんですの!?回りくどいことをやるくらいならいっそ...っ!!」

 

「ステファニー殿!!休みましょう、一旦落ち着いて...。」

 

「冷静ですわ落ち着いてますわっ!!だからこそこんな激情に駆られてるんじゃないんですのっ!!」

 

「矛盾しておられるのがわかっていないではありませんか!!?」

 

 あ~はい、やっぱりこうなったというべきか、原作同様一週間ほど寝る間も無いまま貴族その他有権者との面談→ゲームが続いております。上記の通り罠にあっさりかかったはいいものの、貴族たちの愚態っぷりに呆れを通り越して、一人でも多くの貴族を焼き殺さんとばかりにゲームに応対し続けるバーサーカー状態のステフに、いのも気圧されている様子。

 

 というわけで一週間お茶汲みをしていたんですが、なにやら空に期待されちゃったようですし?少し頑張ってみますか...。

 

 

 

 

 

 

 

 

全て得るか全て失うか(オールオアナッシング)!!破滅する覚悟くらい決めてからおいでなさいな!?」

 

 という、貴族たちにとってあまりに無慈悲な言動を告げると同時に、

 

「次の方、早く入って来なさいな!!」

 

 もはや次から次へと粛清する暴君のように、乱暴な言動で次の罪人を招き入れようとしていた。

 

「...?」

 

 だが、いくら待っても貴族たちは入ってこない。いつもなら間抜け面をさらし、大股で歩み寄ってくるはずなのだが...

 

 と、その時、

 

 

 

 コンコン

 

 

 

「ようやく来たようですわね。さぁ、さっさと身包みを剥がせてもらおうじゃありませんの。」

 

 もはや悪役令嬢も真っ青の女帝っぷりに、いのも

 

(女性とは恐ろしいものですな...)

 

 と、冷や汗をかくほどにまでに戦慄し、その場にたたずむことしかできなかった。そんな二人の前に現れたのは...

 

「お嬢様、今日はここまでにございます。」

 

「え?シュウ?終わりって、どういうことなんですの!?」

 

「終わりは終わりです。さ、お茶会にでもいたしましょう。」

 

 そういうシュウの右手には銀のトレイの上にティーセットが載せられ、後ろ手にはアフタヌーンティーに使われるケーキスタンドなどが載せられたサービスワゴンをメイドが押してきていた。

 

 シュウが丁寧にティーカップを並べていると、急なことで回ってなかった頭がようやく覚醒しはじめ、ステフが机をたたいて立ち上がる。

 

「ま、まだですわ!!まだ鉄槌を下してないやつらが沢山...」

 

「お待ちください。」ガシッ

 

「のっひょおおおお!!?」

 

 廊下へ向かってずかずかと、淑女の気品の欠片もなく、まるで残兵を狩りつぶしに行く軍人のように行進するステフの手首を掴んで制止する。

 

「お嬢様。どうか今晩はお休みください。お願いでございます。」

 

 その言葉に、ステフは少しの動揺を見せるも、

 

「いえ、一刻も早くおじいさまをなめ腐ったあの連中をっ!!」

 

 シュウの言葉すら届かなくなりつつあったステフに、シュウは怖気づくことなく言葉を紡ぐ。

 

「先王様は、今のお嬢様を見てお喜びになるでしょうか?」

 

「へ?おじいさま...が...?」

 

 シュウの言葉に、明らかに動揺するステフ。

 

「あの貴族たちが先王様を愚弄した事実は確かですし、許しがたい気持ちもよくわかります。ですが、その報復を目的として狂乱しているお嬢様を見て、果たして先王様はお喜びにはなるのでしょうか?」

 

「あっ...そ、それは...」

 

「やっとの思いで成し遂げた先王の遺志の果てに狂乱した孫娘が誕生してしまっては、先王もさぞ悲しみに暮れることでしょう。」

 

「...うぅ...」

 

 シュウの言葉を聞き、だんだんとしおれていくステフ、どうやら先ほどまでの狂勢は消えたようだ。

 

「ごめんなさい。シュウ...おじいさ...ま...」フラッ

 

「おっと」

 

 気が抜けてしまったのか、倒れそうになるステフをシュウは抱き支える。

 

「あ~、ひどい熱ですね。やれるところまで無理するから...」

 

 そう言って事前に用意しておいた担架にステフを載せて、他のメイドにベッドで寝かせるように頼んで、シュウは椅子に腰かけてお茶をすする。

 

「...見事ですな。」

 

 男二人のお茶会で、称賛の言葉で口火を切ったのは初瀬いのであった。

 

「それほどでも。ま、こうでもしないとお嬢様は休んでくれないでしょうから。」

 

「ステファニー殿のことを良く知っているようですな。流石は専属執事といったところですかな?」

 

「空様たちの面倒を押し付けられてるだけのように思いますがね。」

 

「私もその気持ちを今しかと噛み締めております。」

 

「でしょう?」

 

 けらけらと笑いながら、皮肉を言い合う。そしていのが少し多めにお茶を飲むと同時に、話題を切り替えてくる。

 

「さて、ところで今日はいったい何をしていたのですかな?いつもは私とシュウの二人でステファニー殿のサポートを行っていたというのに、同席なさらなかった理由とは?」

 

「それは、貴族たちの言い分を粗方聞いて、話させるだけで気が済む者たちはその場でいったん帰ってもらったり、順番を遅らせたりして、よほど聞き分けの無いものはそちらに回させていただいてもらったんです。ま、あとは一日の人数制限を盟約で決めさせただけでしょうか。」

 

「ほう、そんなことをやっていたのですか。いやはや、助かりましたな。こちらは連邦構成の片棒を担ぐ獣人種(ワービースト)として、この場にいなければなりませんからな。ステファニー殿の状態を近くで知りながら、何もできなかった非礼、お詫びしますぞ。」

 

「いえ、まさかここまでお嬢様が無理なさるとは予想もできなかったものですから、お互い様ですよ。」

 

 そう言い終わると同時に、部屋の扉が開いてステフが入ってくる。

 

「も、申し訳ありませんわ。シュウ...あんな姿を見せてしまって...」

 

 まるで叱られた子供のようにしょんぼり顔で謝るステフ。よく見ると目の下のクマがやけに目立って悲壮感がより際立っている。

 

「いえ、わたしは一週間もお嬢様に無理をさせてしまったのです。行動が遅くなった私にも責任がありますから、そう謝らないでください。さ、一緒にお茶、いかがですか?」

 

「あ...ありがとうございますわ!!」

 

 

 

□□□

 

 

 

 と、こんなことがございましたとさっと。え?やけに俺がキザっぽく見えるって?こんな時にしかかっこつけられないからな!!存分にキラッ☆としてやったぜ!!

 

「しかし、あの時のステフ殿もステフ殿でしたが、シュウ殿も相当に緊張しておられましたぞ。」

 

「ふぇ?」

 

「ブッ!!」

 

「あの時のシュウ殿の心音といったら、それはもう早いこと早いこと。よほど緊張なさってたんでしょうなぁ。あの時セリフを噛まなかったのが不思議なほどに。」

 

「そ、それは本当ですの!!?」

 

「へ!?あ、いやその、そそそ、そうなんですよ実は!!本当はお嬢様をちゃんと休ませることができるかどうか気が気でなくてですね...」

 

 いや、本当はステフの手首を咄嗟に握ったはいいものの、ステフの手首めっちゃ柔いわ脈が伝わってくるわで理性がヤバかっただけなんですけどね!!?

 

「...おや?シュウ殿、先ほどのセリフは嘘のようですな。もしや...」

 

 あっ!!そうだった!!この筋肉変態嘘見抜けるんだったぁっ!!!

 

「やっ、やめろぉぉぉぉぉ!!!それ以上言ったら...っ!!」

 

「ステフ殿の手首を握っていることに緊張したのを、悟られないようにするためだったのですかな?」

 

「かっ!!?」

 

「へっ!!?」

 

 言ったあああああああああ!!!

 

「いや~、シュウ殿はかなり初心(うぶ)のようで...まだ青いですなぁ...」

 

 こ、このジジイいいいいいいいい!!!

 

バン!!!

 

「ほ、ほほほ、本当なんですの!!」

 

「へっ!!?」

 

 ち、近い近い近いっ!!?ステフさん顔近いっ!!?つーかジジイぜってー言ったこと後悔させてやる!!!そのにんまりした顔やめろやぁあああああああああ!!!

 

「嘘...なんですの?」

 

「はひ!?」

 

「さっきのいのさんのセリフ...嘘なんですの?」

 

 なんだ...これはまるで原作七巻で空が白に追い詰められた時のような感覚...いや、別にステフは俺を追い詰めてるわけではないんだが、今、ここで「イエス」と答えたら己のうちにある何かが壊れてしまいそうな気が...気が...気ががががががが!!!

 

「へ...」

 

「へ?」

 

「Help me!!えーr...」

 

 

 

 

「ジジィィイ話は聞かせて貰ったァ貴様は死ぬ運命(さだめ)にあるッ!!」

 

 

 

 

 

 救世主キタコレェェェェェ!!!

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