ノーステフ・ノーライフ   作:sayutan

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ビーチサイドの暑い余暇(中編)

「いづなさん、パスですわ!」

 

「む、次は負けねぇ、ですっ!!」

 

「ふふ、ゲームで俺達に勝とうだぁ...っ!!」

 

「...ゆめゆめ思わない...でっ!!」

 

 雲一つない炎天下の中、海の浅瀬でビーチバレーを楽しむ空達御一行。1回戦で見事『  』( くうはく )の策略にはまって負けてしまったいづなが、今度は勝つと力加減を考慮しながら器用にボールを返していく。

 

 その様子を遠巻きに見ているのは...

 

「いやー、あんな風に元気に遊んでいる姿を見ると何だか癒されますねぇ...」

 

「そのようですなぁ...いづながあんなに心から楽しそうにしているのを見るのはいつぶりでしょうかなぁ...」

 

 どこか感慨深く孫を見つめるいのは、とても暖かい目であった。

 

「かっかっか。こどもは元気にはしゃぐんが一番やて。」

 

 それに同意を示す巫女。杯をあおいで楽しそうに笑に笑っている姿に、思うところがあったのか、

 

「そういえば巫女様はご結婚されていないので?」

 

 シュウが流れに任せて巫女に質問してみる。

 

「あてか?あては物心ついた頃からずっと東部連合の再興のことしか頭にあらへんかったからなぁ...恋愛とかそういうのは、よーわからへんのよ。」

 

 少し乾いた笑顔でそう答えた巫女。

 

 五十年以上、常に東部連合の再興に心血を絶えず注いできたせいか、そんな余裕は何処にもなかったのだろうと、シュウはそんな事を考えながら、気まずさをジュースを飲んで紛らわす。

 

 だが巫女は何かを思い付いたのか、いたずらな笑みをシュウに向ける。

 

「そや。あんさん、ちょっとあてと付き合うてみんか?」

 

「ぶっ!!」

 

「んなぁぁっ!!?」

 

 唐突な巫女の申し出にシュウは口に含んでいた液体を盛大に吹き出す。同時にいのもあんぐり口を開けて巫女の方を向く。

 

「空や白は恋愛のいろははわからん言うし、そこの吸血種(ダンピール)の魔法で試してもろたんけど、恋愛というよりはただの刷り込みや~っちゅう話やし、あんさんは恋愛のいろは、何かと知っとるんとちゃうん?」

 

 にんまりと笑って問いかける巫女に、シュウは慌てた様子で返す。

 

「あっ、あーいや、多少は心得がありますが自信のほどは...」

 

 何故なら俺の恋愛のいろはは二次元のラブコメでしか知らんからなっ!!リアルで恋愛してたらもっと自信持ててただろうけど、そんなシナリオ何処にもなかったんですぅ!!

 

「ほ~ん?あてより心得ある言うとるのに、手引きもでけへんのか?それとも、あてはあんさんのお眼鏡には合わへんのかえ?」

 

「そそそっ、そんなことはっ!!」

 

 巫女がシュウにぐっと身を寄せ、顔を近づけてくる。

 

 色気すげぇっ!!?じゃなくて近い近い近いっ!!遠くで見るだけでも妖艶さが際立っていて目を奪われそうになるのを必死にそらしていたのに、こうも近いとおっ!?

 

「みみみ、巫女様ぁっ!!?私という男がいながら、何故そのようなヒョロ猿をお選びになるのですか!?恐れながら、私ならば女性の喜びをお教えできる自信が...っ!!」

 

 突如、巫女の男として立候補してきたいの。理由は聞く限りアウトコースギリギリだが...それを聞いて興が覚めたのか、巫女がシュウから身を引いて...

 

「かっかっか!冗談や。なんや?本気にしてもうたんか?ほんならあても、まだまだ女としての余生を楽しめそうやなぁ♪」

 

「み、巫女様ぁ...」

 

 からからと笑う巫女に、何も言及されなかったのがショックだったのか、がっくりと肩を落とすいの。

 

「か、からからうのはほどほどにお願いしますよ?」

 

 何とか息を整えて巫女に懇願するシュウに、巫女は明るい表情で告げる。

 

「ん?あてはまんざらでもなかったんやで?恋愛の『れ』の字も知らんもん同士なら、手探りで何か見つかると思ってなぁ?」

 

「あ、それなりに考えてはいらしたんですね。」

 

 なんだ、そういう考えか。と、シュウが納得しかけたところで、巫女。

 

「でもまぁ、あてはちぃと興味はあるんやけどねぇ♪」

 

「またまた冗談...を...へ?」

 

 そう告げる巫女の顔を見た瞬間、シュウは絶句した。何故なら... 

 

 巫女の顔が、まるで獲物を見て舌なめずりする獣のような、獰猛な笑みをしていたからだ。

 

 意味深な意味ならまだ救いはあったのだろうが、全く違う。シュウは現に全身総毛立ち、冷や汗を流し、口から息をすることを忘れ、動悸がどうしようもなく速くなっているのを感じているからだ。

 

 まさしくこれから命を狩られる者の心理状態に一気に持っていかれた。そしてシュウは確信する。巫女が、自身の胸の中心、心臓部を狙っていることに。

 

(ヤバイっ!!俺何か悪いことしたかなぁ...っ!!)

 

 巫女のありふれんばかりの殺気に、辺りにいた獣人種(ワービースト)は腰を抜かし、いのですら一筋の汗を流してただ黙って様子を伺っている。

 

(あー、なんか走馬灯が見える...俺死ぬのかなぁ?)

 

 死を体が直感してしまったせいか走馬灯まで見える始末。

 

(というかなんで巫女さんが俺を狙うん?ってか俺の心臓ばっか見てない?...ん?心臓?確かあのときも心臓の近くから...あっ!!!)

 

 若干涙が流れ始めたところでとある結論にたどり着き、シュウはその場に立ち上がる。

 

「ちちち、ちょっと失礼しますねっ!!」

 

 そういうやいなや、駆け足で更衣室の方へ走り去るシュウを見て、からからと巫女が笑った。今の笑顔は先ほどの猟奇的な笑顔ではなく、心から遊んでいる子どものように屈託のないものだ。

 

「くくっ、これでええやろ。これで退屈もせんやろて。」

 

「失礼ながら巫女様。なぜシュウ殿にあのような殺気を?」

 

 巫女の意図を図りかねたのか、いのが恭しく尋ねると、

 

「あれか?そうやなぁ...言うなれば、『気ぃつけときや』って意味や♪」

 

 巫女が嘘を言っていないのは確かだった。が、それを理解した上でも、いのには巫女の意図を理解する事はできなかった。

 

 

 

 一方、空たちはというと

 

「ぅん?シュウと巫女様、すげぇちけぇ、です。」ポーン

 

 丁度、砂浜側を向いてボールを空にパスしていたいづながそう言うと、他三人が一斉にその方を向いて、

 

「えっ!?シュウと巫女様ってそんな関係だったの!?なっちゃうの!?そこを代わりやがれぇっ!!」ポーン

 

 視線をそらしながらも、器用に白の方へトスし、巫女の方へ走ろうとする空に対し、

 

「...にぃ、他人の恋路の邪魔は...めっ!」ポンッ

 

 と、白は白で、空の方を見ながら、ステフが取りづらいであろう位置にわざとボールを放りつつ、ジト目で続ける。

 

「...それに、にぃが離れたら、ゲーム続けられなくて負けになる。『  』( くうはく )として、許されないこと...」

 

「くうっ!!どうして海に来てるってのに、リア充イベントがあっちで起きてるんだっ!!」

 

 と、空が天を仰ぎ、嘆く素振りをとろうとした瞬間。

 

 

 

バァン!!

 

 

 

「へ?」

 

「...んぅ?」

 

 ビーチバレーではあり得ないような炸裂音に、耳を疑いながらも発生源の方を見る。するとそこには、

 

「す、ステ公?なにやってんだ、です?」

 

 と、そこには尻餅をついて水浸しのいづなと、

 

「フフフ、ちょっと力んでしまったようですわ。ごめんなさいね、いづなさん。」

 

 そう言っていづなに向けて手を差し伸べているステフは、努めて笑顔を保っているようだったが...

 

「す、ステ公?目が全く笑ってねぇ...です!?」

 

「へ?そんなことないですわよ?さぁ、もう一戦、始めましょう?」

 

 先程いづなに対してスパイクを容赦無く打って、いづなが明後日の方向へ打ったはずのボールが、いつの間にかステフの手に有ることに違和感を感じた三人であったが...

 

「ステフが本気を出したか...気合い入れて行くぞ白っ!!」

 

「...にぃ、鈍感すぎ...」

 

「へ?」

 

 若干あきれた様子の白、その理由を図りかねた空は間抜けな声で返事をする。

 

「お、おぅ、次こそ勝ってやる、ですっ!!」

 

 それはいづなも同様だったのか、ステフが豹変した理由がわからなかったが、次こそは勝つと、三回戦開始ののサーブを受けるのであった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

 

 

 ところ変わって更衣室前。シュウが走って来て、とりあえず動悸が収まるのを待つこと数分。ようやく息をしているという感覚を取り戻す。

 

「はぁっ、はぁっ、し、死ぬかと思ったぁぁぁぁ!!!」

 

 あまりの威圧感に圧倒され、出せなかった思いをこれでもかと叫ぶ。

 

「リアルで死ぬかと思った...ヤ○ザとかにガンとばされたことないから比べようもないけど、ガチで心臓抉られるかと思ったぁ...って、そうだっ!」

 

 と、ここでようやく冷静になったのか、巫女達から離れた理由を思いだす。

 

(おいっ!!おいこら帆楼!!...あっ!違うっ!!巫女様ん中の神霊種(オールドデウス)さん起きろっ!!)

 

 恐らく巫女様がいるであろう方を向いて、思念をとばす。すると、

 

【ん?なんじゃ帆楼とは?何かの個称かの?...まぁよい。して、何の用じゃ?異世界の者よ。】

 

 案の定、帆楼が返事を返してくる。どうやら少し位は離れていても思念は遅れるらしい...じゃなくてっ!!

 

(おい神霊種(オールドデウス)様っ!!なんで巫女さん俺の事狙ってるんだよっ!?)

 

【わ、我は...し、知らぬなぁ...】

 

 シュウの追及に何故か答に戸惑いが現れた帆楼の台詞を聞き取って、シュウの予想は確信へと変わる。

 

(てめぇ俺の事を巫女さんに話しちまいやがったなぁ!?)

 

【わ、我の落ち度ではないっ!!これは...その...あやつの勘が卓越しておったのじゃっ!!】

 

(巫女様を理由にしてんじゃねぇよ!?)

 

 責任を巫女に転嫁させようとする帆楼の言動にシュウはすかさずツッコミをいれる。

 

【あ、あやつがいけないのじゃっ!!異世界の知識を早急に聴取する故に、おぬしにはよう会わせろと要求を提示した刹那、全て明るみに出てもうて...】

 

(やっぱりオメーのせいじゃねぇか!!おかげで死ぬ思いしたんだぞどうしてくれるっ!?)

 

【お、おぬしっ!!人類種(イマニティ)ごときが神霊種(オールドデウス)に向かってなんという口の聞き方を...っ!!】

 

(逆ギレしてんじゃねぇよっ!!これで要注意人物に格上げされちゃってこの世界から抹殺でもされたら異世界の呪術で呪い殺してやるからなっ!!)

 

【か、仮にも神に何と無礼な...っ!!】

 

(先に無礼を働いたのはそっちじゃねぇかっ!!...はぁ......っで、巫女さんは俺をどうするつもりなのさ...?そこは知ってるのか?)

 

 若干の口論の末、怒りにうち震えて激を交わし合うことの意味のなさを悟ったのか、ため息をついてシュウは帆楼に、巫女の自身に対する姿勢の事を聞く。

 

【あ、あぁ、あやつはおぬしに興味はあるようじゃが、それ以上でもそれ以下でもないらしい。ただ目をかけている程度じゃろう。それに、我からも他言無用と伝えておる。】

 

(...そう。ならいいんだけどな。)

 

 厄介なことになっちゃったなぁと頭を抱えつつも、現状を把握し腑に落として落ち着く。

 

【その...なんじゃ、我以外に秘密を知られたら、おぬしとの交渉は破談となるのかの?】

 

 そんなシュウに帆楼が問いかける。その帆楼の声色はどこか寂しげで、シュウは諦めたように返す。

 

(あー、まぁ、これ以上はさすがに不味いけど、不味くなったらもう話せなくなるだろうからな。俺がこの世界にいる間くらいなら、異世界の話をしてやるさ。)

 

【真か!?嘘ではないな!?謀りではないな!?偽証でもないな!?】

 

 さすが孤疑の神髄と言うべきか、嘘とかには過敏なのね。と、シュウが呆れながらも答える。

 

(まぁね、じゃあここで一つ。異世界の知識だ。異世界にいる人類種は空を飛べるんだぜ?)

 

【なんじゃと!?翼や魔法もないおぬしらが飛ぶというのか!?】

 

 やはり帆楼にとっては意外な事なのか、興味津々で聞いてくる。

 

(そうなんだ。しかも飛べない体のまま飛ぶんだぜ?不思議だろ?)

 

【不思議というよりは不可解じゃな。ではどうやって飛ぶと言うのじゃ?】

 

(それはだな...)

 

「おやぁ?更衣室に何のご用なのでしょうか?」

 

「うおぉっ!?」

 

 ...相変わらず最高に(二つの意味で)間の悪い天使、ジブリールのご登場である。

 

(す、すまないがこの話はまた後で。客人...というより押しかけ人が来たからな。)

 

【よ、よく解からぬが承知した。ではまたな。】

 

 聞き分けのいい帆楼に心で感謝しつつ、ジブリールに向かい合う。

 

「けけけ、決して覗こうとしてたり盗もうとなんてしてないぞっ!!」

 

 とっさの嘘の言い訳にしてはかなり聞き苦しいものとなってしまったが、そんなことはどうでもいい様子のジブリール。

 

「そんなことより、元の世界の知識の一つに、このような海の砂浜で頻繁に見られる光景、男女のかけっこや水の掛け合いのシーンがあるのですが、」

 

 うん、空の欲した知識の詰まったタブPCならそんなシーンが大半だろうけどもっ!!

 

「それで、これが本当に楽しいのか検証するため、少々付き合ってもらいます。」

 

「..........へっ!?」

 

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