ノーステフ・ノーライフ   作:sayutan

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ビーチサイドの暑い余暇(後編)

 暑い砂浜。カンカンと照りつける太陽。吹き抜ける潮風。そんな中、海の沿岸沿いを走り抜ける二つの影があった。

 

「ふふっ♪捕まえてごらんなさぁ~い♪」

 

 一つは、光を乱反射し色を変える長い髪を優雅になびかせ、見るものを虜にするような造形美を放つ体を、思うがままに動かし、天真爛漫に砂浜を駆ける女性。何よりも、彼に向けた、はにかんでいる表情はどんな美術家や写真家も、形に残して後世に残さずにはいられないほど、愛らしい表情であった。

 

「はははっ♪待て待てぇ~♪」

 

 一つは黒髪を綺麗にまとめあげ、日々の勤務によって鍛えられた肉体を悠々と使い、彼女に追い付かないよう速度に加減をしつつ、明るく笑いながら追いかける...

 

「待て~♪...ま、待て~、ん?待てっ、待ってっ!?」

 

 男があわてて走る速度をあげるも、なかなか追い付かない。というか、恐ろしい勢いで突き放される。

 

「ふふふ~♪捕まえてごらんなさ~い♪」

 

「ちょっと待ってジブリールさん!?走るの早すぎてもう点にしか見えないっ!!」

 

 ジブリールは例えるなら、重力が地球より弱い月でスキップして移動する宇宙飛行士のように軽やかに地面を蹴っていく。宇宙飛行士と違う点をあげるとするならば、

 

「1スキップの距離が100m単位なんて追い付ける訳ねぇよっ!!」

 

 比べるのすらおこがましい程の速度で離されるので、シュウは諦めて立ち止まって息を整える。

 

「おや?もう捕まえてはくださらないので?」

 

 空間に開いた穴からひょこっと顔を出すジブリールに、

 

「は、走る?というか、速度が桁違い過ぎて追い付けねぇよっ!?」

 

 息も絶え絶えに言い訳するシュウに、少し考える素振りを見せるジブリール。

 

「そうですね、では速度を合わせてみましょうか?」

 

「へ?」

 

(なんだ?こいつ本当にジブリールかっ!?)

 

 普段の口からは決して、断じて出ない台詞に違和感を覚えたシュウは、

 

「ね、熱とかないよな?」

 

 と、ジブリールの額と自分の額に手を当て、熱を測る仕草を取る。

 

「はいぃ?私はそこらの人類種(イマニティ)とは違って、脆弱ではございませんので。というか、病気などという状態になることは有り得ません。」

 

 と、特にシュウの行動に関心を示すこともなく、ジト目でシュウを見つめてくる。

 

「そ、そうか、それならいいんたが。」

 

「では、もう一度やってみましょうか♪」

 

 

 

 暑い砂浜。カンカンと照りつける太陽。吹き抜ける潮風。そんな中、海の沿岸沿いを走り抜ける二つの影があった。

 

「ふふふ♪捕まえてごらんなさぁい♪」

 

 砂浜を駆けるのは、天使を体現したような美しさと神々しさを放つ天翼種(フリューゲル)、ジブリール。心の底から楽しそうに笑う表情は、見た人全てを救えるほどであった。そしてそれを追いかけるのは...

 

「ちょっ、とまっ、止まってジブリールさん!!とまっ、止まってくださいぃぃぃぃぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 腰を曲げ、イナバウアーのように華麗な姿を見せているのは、エルキア王城専属執事、シュウ。

 

「地の文さん!そんなポジティブな情景じゃないよ!?つかジブリール止まれぇぇぇ!!」

 

 え?なんでさっきから止まれって言ってるのかだって?

 

 

 

 俺がジブリールに引っ張られてF1並みの速度で砂浜駆けてるからだよぉっ!!

 

 

 

「さっきの言葉の意味ってジブリールの速度に合わせるって意味だったのかよぉ!?」

 

 お互いの腰に巻き付けられた太い蔓によりジブリールになされるがままの状態で、かろうじて動く口で必死に訴える。

 

「はぁ、では逆に問わせて貰いますが、わざわざあなたの速度に合わせる必要がどこにあるので?」

 

 心底理解できないといった様子で、シュウを引っ張ることをやめないジブリール。

 

「お願い!!お願いしますジブリールさん!!止まってくださいぃ!!死んじゃう!!このままだと死んじゃうぅ!!」

 

 もはや懇願というべき訴えに、ようやく聞き入れてくれたのか、

 

「はぁ、仕方ありませんね。」

 

 ジブリールが跳躍したままふわりと飛び上がると、先ほどまで腰にかかっていた負担は幾分か楽になり、ようやく原始的イナバウアーをやめることができた。

 

「な、なぁ、ジブリール。もしかして俺をいじめたかっただけなんじゃないのか?」

 

 ふと思い付いた予想、というか確信を告げるシュウに、ジブリールは、これ迄に見せたことは無いだろう笑顔で告げる。

 

「はい♡とても満足いたしました♡」

 

「...まったく...」

 

 あまりの笑顔に、反抗する気も失せてしまったシュウは、そのまま空中散歩を楽しむことにした。

 

 

 

 一方、空たちはというと

 

「おいっ!?今度はジブリールとリア充イベント発生してんぞ!?」ポーン

 

 端から見ても目立ちまくっているジブリールとシュウの行動に、ゲーム中にも関わらず釘付けになっている空たち。

 

「...あんなおいかけっこは、経験したくない....かなっ!?」ポーン

 

「...........。」スッ

 

パァン!!

 

「へぁ!?」

 

「...んぅ!?」

 

「な、何が起こった、です!?」

 

 またも起こった炸裂音に、意識を強制的に向けさせられる空たち、そこにはトスを受け取る姿勢を取ったままのステフと、海面に散らばるボールの残骸しかなかった。

 

「ま、まさかステフの覇気がボールを触れることなく破裂させたというのかっ!?」

 

「...ステフ...。」

 

 どこか思い当たるのだろう、恋する乙女同士として、白はステフの今の気持ちを容易に想像できていた。

 

「ステフなんか怖ぇ、です!?」

 

 どうやらそんなことに気づいてない二人は、ただただステフを眺めるだけにとどまっていた。

 

(なんだかとても負けている気分ですわっ!?)

 

 そんなステフの心中は、もちろん荒れていた。

 

(こ、このままではシュウとの関係が深まるどころか浅くなってく気がしてならないですわっ!?)

 

 最初の水着御披露目イベントから特に進展もなく、懸命にボールを跳ねさせ続けてきた結果、周りがリア充イベントを起こしまくっている(ように見えて)仕方がないステフは大いに焦っていた。

 

 そんなステフの様子を見かねたのか、

 

「...ジブリール。」

 

「はい、お呼びでしょうか白様♪」

 

 空間の穴から即座に現れた、事の一端を担っている元凶を呼び出すと、

 

「ジブリール、仕事...」

 

「ハッ!?この猿をいじめる事にすっかり夢中になっておりましたっ!!申し訳ございません!!」

 

 と、全身を穴から出して頭を下げるジブリール。それと同時にシュウも出てくるのだが、不安定な姿勢で空を飛んでいたためか、それとも無理やり蔓を引っ張られて穴に通されたためか、海に自然な流れでダイブする。

 

「ぶぼっ!?なんで海っ!?鼻に海水がぁっ!?」

 

「へ?し、シュウ!?だだだ、大丈夫ですの!?」

 

 海で悶絶するシュウの声に正気を取り戻したのか、シュウの元へ駆け寄るステフ。

 

「...仕事の前にしてほしいことがある。耳をこっちに...」

 

「あ、はい...ふむふむ....あんっ♪くすぐっとうございます♪...はい、かしこまりました。それでしたら...」

 

 と、ジブリールが空間の穴に手を突っ込んで取り出したのは、壺。それを白に手渡すと、波に逆らいながらゆっくりとステフに近づき、

 

「...ステフ、ちょっといい?」

 

「え?ど、どうしたんですの?」

 

 キョトンとした様子で、白の方を見るステフ。傍らにいるシュウとある程度距離を離して、

 

「...ちょっとこっち、耳をかして」

 

「は、はい....。」

 

 

 

◼️◼️◼️

 

 

 

「ぐおぉ、まだ痛い...。」

 

 突き抜ける塩の刺激にまだ悶えているシュウ。砂浜に上がり、回復まで休憩を取るようだ。

 

「災難でしたね...」

 

 そんなシュウに同情を示したのは、これまでのイベントに関わりたくても関われない、木箱というなのブラックボックスに匿われた吸血種(ダンピール)、プラム。

 

「あぁ、プラムさん。お気遣いありがとうございます。」

 

 鼻を押さえつつ感謝の意を示すシュウ。

 

「お気遣いというなら、こっちに日除けを寄越してもらえませんかぁ?さっきから直射日光が激しくて、もう魔力カツカツで死にそうなんですぅ~...。」

 

 どうやらずっと魔法の展開をしていたようで、息づかいからも体力がドンドン削られてるのがわかる。が、

 

(これ、空の策略なんだよなぁ...プラムの体力を削っておくってのは...でも確かにこう、悲壮感を演出されると助けたくなる欲求にかられるなぁ...)

 

 と、思うところがあったのか、自身が持ってきていた予備の日傘を時間が経てば日の傾きで日光が当たるように調整して置く。

 

「あ、あ~っ...シュウさん...でしたっけ?お優しいんですねぇ~...」

 

 魔法の威力を弱めて、休憩が出来るようになったのか、ため息をついて感嘆の声を漏らす。

 

(まぁこれがプラムの処世術なんだろうけど、ホント上手く立ち回ってんなぁ...)

 

 利用できるところは利用する。盤上の世界で弱者となってしまい、そんな立場に理不尽になった今でも、吸血種(ダンピール)再興のために戦っている。

 

「すげぇなぁ...」

 

 意志の強さ、吸血種(ダンピール)としての誇り、利用し尽くす覚悟、そういう空や白にもある誇りが、元の世界に居たときの自分と比べて出た称賛に、

 

「はぃ?どうしたんですぅ~?」

 

 素朴に、もしくは感づかれたと思って探りを入れにきたのかわからないが、プラムの言葉に、

 

「あっ、申し訳ありません。声に出ていましたか。」

 

「えぇ。それはもうはっきりと。それで、ボクのどこがすごいんですぅ~?それとも、目の前で起こっている惨状のことですかぁ~?」

 

 と、プラムの言葉につられて海の水平線の方を眺めてみると、どうやら巫女が手ブラをしながら血壊状態で海の上を走り、そうなる原因を作ったのであろうジブリールが、巫女のブラジャーを垂らしながら優雅に空を滑っていく。その余波か津波っぽい大波が砂浜を覆っていくのが見てとれた。

 

「あっ、いや、あれもあれですごいですけど、プラムさんの行動から感じる自分の種族に誇りをもって、どんな手段も使い尽くす。その覚悟の片鱗を見たというか。そんな感じですね。」

 

(まぁ、すごいと思ったのは正直なことだし、言ってもいいか。)

 

 そんな心情で語った言葉に、プラムは意外な反応を示す。

 

「そんな面見せましたっけ?今がほぼ初対面ですよね?」

 

 原作知識があるせいか、プラムとの関係から得る知識量が釣り合ってないことに違和感を持ったプラムが、聞き込んでくる。

 

「あはは。じゃあさっきの私を『優しい』と言ったのは本心からですか?」

 

「...どういう意味ですぅ~?」

 

 シュウの言葉に、プラムは警戒を込めて話を続ける。

 

「プラムさんはおそらく、『人類種(下等種族)を利用してやった』と、思っているんじゃないかなぁと、思っただけですよ。」

 

「............。」

 

 どうやら図星だったのか、特に言い訳をしないプラム。少しの間荒波をBGMに待っていると、

 

「あんまり勘がいいと、最初に食べられちゃうかも知れませんよぉ~?」

 

 顔が見えなくてもわかる獰猛な笑みを感じとり、シュウも内心怯えるが、取り繕って答える。

 

「私をあまり高く評価しても意味はないですよ?私はただの執事です。ですがこれだけ...」

 

人類種(下等種族)をなめてると、最後に痛い目を見ますよ?」

 

「へぇ~?言うじゃないですかぁ~?」

 

「ま、最初に食べられたくはないので、私の無能さを証明すべく、汗の味を感じてみては?」

 

 と、腕を木箱の隙間の前に差し出すと、一切の躊躇もなく舐め始めたプラム。

 

(男の汗でもお構いなしとは、それほど危なかったのか...)

 

 そんなことを悠長に思っていると...

 

「うんまぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!?」

 

「えぇっ!?」

 

 突然の叫び声に腕を引っ込め数歩下がってプラムの様子を見つめると...

 

「なんですかこれぇ!?汗の大部分はそこらの人類種(イマニティ)と同じなのに極僅かに感じられる舌を刺すような旨味とコクっ!!微かな隠し味が汗の味全体の調律をとっていて...まさに中毒になる味っ!!さぁもっと汗をくださいっ!!何なら血液でもいいですよっ!?」

 

 と、木箱から身を乗り出す勢いで腕を狙ってくるプラム。

 

「えっ、ダメダメっ!!なんか皮膚まで舐めとられそうで嫌だっ!!」

 

 なんだこのがっつき様。まさか心臓にかかってるフォルメリアの力の残留が血液に巡っちゃってるのか?それだとすると...多分、本当にプラムの舌溶けてるんじゃなかろうか?天翼種(フリューゲル)のジブリールの体液だとプラムが蒸発するっていってたし、神霊種(オールドデウス)ならなおのことだろう。

 

...ほんと、変なところで活躍するなぁフォルメリアの加護...

 

「くっ、断られたら盟約でどうしようもないですぅ~。でもかなり回復させてもらったのでよしとします。また舐めさせてくださいねぇ~♪」

 

「そ、そりゃどうも...」

 

 う~ん、どうやら回復させてしまったらしい。これはちょっと不味いかもなぁ...

 

 と、頭を抱えたその時、

 

「その...シュウ?今、大丈夫ですの?」

 

 と、ステフが近寄ってきた。

 

「あっ、はい。大丈夫ですが...」

 

 ステフは後ろに腕を回し、少しかがんでシュウを見つめている。

 

(綺麗だ...)

 

 素直な感想を脳に巡らせながらも、ステフの表情を読み取るのを忘れない。そして少し顔を赤らめ、シュウの視線から目をそらしつつ、ステフが告げる。

 

「その...シュウにサンオイルを塗ってほしいんですの...」

 

 

 

(............)

 

 

 

 

「そ、その、白が日焼けに効く油だっていって、その、男性が女性に塗るのが元の世界の習慣だって言うから...そ、その...シュウに...」

 

 

 

「行きましょう!!」

 

 

 

「へ?あ、は、はいですわっ!!」

 

 白様、超グッジョブ!!この前のだいしゅきホールド(健全)のお礼かもしれないが、これはお釣りが出すぎるレベルだっ!!これはまた白にきっかけを提供するとしますか!!

 

 と、暗に白とシュウの恋愛協定が結ばれたのを感じとり、意気揚々と立ち上がるシュウ。

 

「あっ、でも日傘がもうないですわね...」

 

 ふと空たちのいる方を見てみると、荒波のせいか砂浜に上がってみんな休んでおり、日傘のあまりが無いようだが、

 

「行きましょう!!」

 

 そう言うシュウの手には日傘が一つ握られていた。

 

「よ、よかったですわね...それじゃあ、お願いいたしますわ。」

 

 そうして歩き出すシュウとステフの後ろで、何かしら白煙が上がっている。

 

「ああああ!?焼けるぅ!?燃えますぅ!?魔法出力全快ぃ!!!」

 

 いきなり日傘を取られてしまったため、日光が強くなってしまい、弱くしていたものの張っていた魔法で辛うじて致命傷は避けたものの、大ダメージを受けたことに代わりはなく、シュウから得たエネルギーもほとんどを消費してしまった。

 

「く、くっそぉ~...シュウは必ず殺してやりますぅ!!!」

 

 ...盤上の世界(ディス・ボード)でも、上げて落とすの効果は顕在のようであった。

 

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