えー、ご無沙汰しております。シュウです。
今目の前で起きたことを簡潔に話すと、完全密室で絶対追いかけてくると思っていたジブリールも来れないくらいの防衛空間部屋をライラがあっさり破ってきて、私に放った言葉が「こんばんは。突然で悪いけど、あなたをいただきに来たわ。」である。ワケガワカラナイヨ。
「…っ!!?」
そんなあらすじを説明しているうちに、脳内にジャミングがかけられたように思考が鈍る。
「さて、このくらい水精を当てればもう私の奴隷になってるわね。」
(奴隷?どういうことだ?)
脳全体の機能が混乱を生じているのか、まともに体を動かすことができないままライラのことを見上げる。特に感慨もないのか、ライラは無表情のまま言葉を続けた。
「ふふふ、明日が楽しみだわ♪」
そう言ってライラは机の上に便箋のようなものを置いたかと思うと、颯爽と部屋から去っていった。
「んー?なんだったんだ?今の…?」
朦朧とする意識の中、なんとか意識が晴れるのを待って活動を再開する。
「なんだろう、女の子が部屋に入ってくるっていう貴重な体験をした気がするのにこのモヤモヤ感は?」
意識が少しばかり回復したのを確認してゆっくり辺りを見渡すと、荒れ果てた部屋が見て取れるばかり。
「あー、きれいだったお部屋が一瞬で汚部屋に…ハァ。」
持ち物整理の次は部屋の整理かいぃ…と、物思いにふけっていた矢先、先程置かれたライラの手紙が目にとまる。
「あっ、そういえばなんでライラはこの部屋にやってきたんだ?奴隷だなんだと言ってたけど…って、あれ?」
ここでふと気づく。ライラがやってきた?会いに?わざわざここまで?なんで?
混濁していた意識が明瞭になるや、あまりの不思議体験に思考停止していた脳が再起動し、状況の不可解さを疑問として浮かび上がらせてくる。とりあえず音声記録という、日常生活でこんなんあったら犯罪なんて迂闊にできないだろうバックログを開く。
『こんばんは。突然で悪いけど、あなたをいただきに来たわ。』
『さて、このくらい水精を当てればもう私の奴隷になってるわね。』
『ふふふ、明日が楽しみだわ♪』
ライラが部屋を訪れて放った台詞はたった3つ。しかもこちらのことなどほとんどお構いなしの発言だけである。
「一体何がしたかったんだ?ライラは?って、それよりも気になったのは…」
「俺、なんでライラに惚れてないんだ?」
そう、全くライラに惚れていないのである。見ずとも心惹かれ、近づかれれば理性を殺されと、抵抗しようとも散々な結果だったはずなのに、全くと言っていいほど惚れていない。しかもライラの台詞通りなら、水精を意図的に直接ぶち当てられた状態なのだ。もはや脳内ライラ一色で、家抜け出してライラの部屋へゴーイングマイウェイなんだろうが、そんな気はさらさら無い。
「うーん。なんか変なことしたっけなぁ?」
と、明らかな変化に困惑しつつ、とりあえずUI画面を開いて持ち物欄やステータスを確認してみると…
「あれ?なにこれ?特殊スキル…水精耐性【中】!!?なにこれモン○ンですか!?」
あからさまにモン○ンを意識して作られたのであろうスキルがそこには表示されていた。というかそもそも、ギャルゲーに自分のステータス画面があること自体おかしかったんだが…あれか?RPGが土台のギャルゲーだったのかな?そういえば『あぶない水着』を見かけたときも数値になんかしらの数値が書いてあったし、もしかして…
「あ!?やっぱり『水精耐性+5』とかいう数値があるぅ!?」
ライラが来る前まで学生服を探すので必死だ為か、服装が空たちに笑われた格好のままだった。その下着や肌着、アクセサリーの殆どは
「えーっと、字面からなんとなく想像できるけど、どんなスキルなのこれ?」
ギアの形をした設定アイコンから用語説明欄を開いて『水精耐性』の欄を開いてみる。
『水精耐性』・・・
「…まさか
用語解説欄に載せられた文言通りなら、
「んー、原作には書いてなかったけど、どうなんだろうなぁこれ...。まぁ、何はともあれ、これに正気を救われたのは確かか...。」
とりあえず、 ライラの水精を防いだ原因がわかったことに一安心。
「んで、そのライラさんは一体何がしたかったんだ?」
そう、もう1つの疑問点はライラの行動の目的である。
「わざわざ個室に押しかけてまで水精を当てて惚れさせて、ただ手紙を置いていく?...ダメだ。全然わからん。」
なんだろう。もし、ライラが俺に惚れたのだとしたら、その時点でゲームはクリアするはずだし、そもそも惚れない相手を探しているのであって、 惚れさせて俺を手にいれる理由って何だ?
「うーん。やっぱりわからない。こう、原作と違うと予想がつかなくなるのがいけないなぁ...。 とりあえず手紙見てみるか...。」
ライラが机上に残した 手紙の封を開いてみると、そこには一行だけの文字が書かれていた。
「...えっ?一緒に登校すんの!?ますますわかんねぇ...。」
ライラが俺と一緒に校門を潜りたいとのご所望である。恋人ごっこをするにしてはいささか先の行動の強引さが目立つ。
「あっるぇ...ライラってどんなやつだったっけ?マゾな
ライラの行動を不可解に思っていると、UIに『1日の時間期限が近づきました。明日の朝へ移行しますか?』と表示が出てきた 。
「 げっ!? もうこんな時間か... 仕方ない。良くわからないけど、ライラの考えに泳がされてみるとしますか...。」
ライラの目的がわからない以上、下手に動くわけにも行かない。幸い、原作知識があるおかげでライラの攻略法自体はわかっているため、そこを押さえれば大事にはならないだろう。
「今日は色々あったな…。おやすみなさい…。」
■■■2日目■■■
おはようございます。いやー、眠るというものはいいものです。脳がスッキリ爽やかになって、昨日起きた出来事がきっちり脳内で整理整頓されている。これで今日もなんとか過ごせそう…
と、思っていた矢先に、データを纏めた結論がハッと脳内に浮かぶ。
「あれ?ちょっと待てよ?今の俺の状況、詰んでないか?」
よーしよし、朝っぱらから嫌な予感がよぎったがひとまず整理しよう。今の俺のライラとの関係の終着点は2つのパターンに分けられる。
パターンA 今日恋人のフリしてライラと過ごし本当に恋仲になったら?→ライラが恋に目覚めてエクストラEND
パターンB ライラの誘いを振っていつもどおりステフと一緒にいたら、水精が効かないってことがバレて原作の攻略基準を満たす→ライラがマゾになって原作END
…おやぁ?どっちにしてもライラENDになちゃうぞぉ?俺はステフ√を目指していたのにどうしてこうなった!?
…もしかして空たちは水精が効かないことを最初の夢介入時にライラにバラさないために接触を極力避けていたというのかっ!!?やはり策士だぜ…。
まぁ、エクストラEDはさほど可能性はないとはいえ、そもそも起きる条件が固定されているようなゲームじゃない。そもそもライラはゲームのつもりで寝こけてないからな。普通の恋愛で起きてしまう可能性もあるだろう。
「ととと、とはいえ、今日は少なくとも接触しないことには話は始まらんな…。」
ライラの目的がどうであれ、手紙に書いてあった通りにしなければ、パターンB直行なのである。それはできるだけ避けなければならない。なぜなら、
「パターンBは完全に攻略法を知ってるからこそやる方法だからなぁ…。」
そう、パターンBはライラに惚れない、かつ好きにならない人物、まぁ、言ってしまえばぶん殴ればそれでOKなんだが、空たちのように最初から水精の影響を受けない人物だからこそやれる方法であって、今回のような場合だと、原作知識持ちだとあっさりバレてしまう。せっかくこの世界に来たんだから、空たちには気持ちよくゲームプレイしてほしいし?原作知識持ちなんて知られたら…ねぇ?
「ま、俺が加わってる時点で原作崩壊は始まってんだ。締まっていきますかねぇっ!!」
そうしてクローゼットから水精耐性が付与された装備を大量に身につけ、その上から学生服をピッシリ来てごまかしつつ、ライラのもとへ向かった。
□□□
キーンコーンカーンコーン・・・
(と、言う感じで校門からお手々繋いじゃってリア充感パないことになっておりますが、内心相当やばいシュウです。)
いや、うん。いのが土下座してるのはわかってたから何の動揺もなかったけど、今はライラに惚れているという設定上、ステフを置いていこうとしたときの罪悪感と、去り際に見たステフの寂しそうな顔が脳裏に焼き付いて離れない。
(うーん!今すぐライラの恋人役止めてステフを笑わせたいのにぃ~…。)
そんなことを思っていると、教室の扉が勢いよく開かれる。
「はぁーい☆昨日ぶりのアミラちゃんだよ~♪みんな元気してた~?って、なんかイケメン増えてる!?いやーん♪そこのイケメン、早速自己紹介ドゾ☆」
授業開始とほぼ同時に意気揚々と入ってきたアミラは瞬時に新たな異性である空を感知し、その存在を
「はっ、ハイッ!エルキア王国出身のソ、空ですっ!みみみ、皆さんどうか仲良くしちぇ...してくださいっ!」
「わっかりましたぁ♪空クンの言う通り、皆仲良くしてあげてね~♪もちろんアミラもとことこん仲良くするつもりだから、よろしくね~♪」
「「はーーーいっ!!」」
「ぜぇ...ぜぇ...。」
元気良く答える
「し、白、やったぞ!学校で一度も達成できなかった『自己紹介を最後まで言う』がようやく達成できた!もう学園生活クリアで良いですかねぇ!?」
「...にぃ、おめでと♪」
「いや、学園生活クリアしてないで、ライラ様を
「何を言ってるんだねプラムくん!?学園事情を制覇した上での攻略が、学園恋愛ゲームにおいて重要な
「自己紹介とか初歩の初歩で喜んでるようなら、わざわざ学園生活上で攻略する必要ありましたぁ!?もっと簡単なシチュエーションありましたよねぇ!?」
「ハァ...全く恋愛の王道を知らないようだねぇ...。学園生活という、毎日が人生の強制&矯正イベント発生地帯において、その地獄すらも天国に感じるようになるのが異性との恋愛なのだよ。現実では有り得なさすぎるシチュエーションを体験することで、学園という現実を幸せ薔薇色に染め上げるのが、このシチュエーションの醍醐味だというのに。」
「なんか力説してますけど、要するに今空様は地獄を味わってるんですよねぇ!?」
「正解だ!今すぐ部屋に引き籠りたいっ!周りの
「...にぃ、しろも頑張るから、耐えて...っ!」
こんなふうに騒ぐ声が後ろの席の方から聞こえる。それと同時に、
「………。」ジーッ
「はて?ドラちゃんはなぜ
「そ、それは...昨日と席が変わってて...その、シュウとライラさんが隣の席に座ってるからですわ!」
そう、さっきから会話が後ろから聞こえていた原因は、昨日はステフと隣同士の席だったが、今日はステフ、ジブリール、空&白、プラムの席順で、その前列に俺とライラが隣同士で席に着いているのだ。どうやらそのことにステフは不満を持っているようで…。
「あっれー?なんか昨日と席が変わっているのは何でかな?」
アミラもその事実に気付いたようで、一瞬真剣な
「あっ、すみませんアミラ先生。どうやらシュウは視力が落ちてしまったので、前の席に移動したんですよ。」
「たった1日で視力が下がるわけないでしょう!?」
「そっかぁ~、それなら仕方ないネ☆」
「えぇ...。」
ライラの勝手な行動を特に注意することなく話題を済ませたアミラに、ステフは困惑するしかなかったようだ。
「さって!今日の授業をはっじめまぁ~すっ!!で、そのためにまずは…『二人組み』を作ってくださぁい☆」
「待ってくださいアミラ先生!?そんなことしたら世の中のボッチが死んでしまいます!!?」
「…ガクガクブルブル…。」
『二人組』というを耳にした瞬間、学生時代のトラウマの一部がフラッシュバックしたのか、見事な過剰反応を示した空。その膝の上にいる白はどうやら震えているようだ。うん。気持ちは超わかる。俺も少し発狂しそうだから。
「え?ダイジョーブダイジョーブ☆空クンには白ちゃんがいるじゃない♪」
その言葉になにか感銘を受けたのか、空は少しの間黙った後、
「はっ!!?今まで学校では年齢の違いで気づかなかったが…」
「…今は、にぃがいる…っ!!?」
当たり前過ぎて気づかなかった事実に気づき、
「白、俺達は二人で一人だ。」
「…うん。しろ、にぃと一緒で、よかった…。」
と、両手を恋人繋ぎして向かい合い、組作りのトラウマから解放された二人を見て、
「いや、そのために『
プラムはジト目で二人を見つめながら突っ込んでいた。そんな感じで後ろの席の様子を伺っていると、袖口が引っ張られて意識がそちらへ向かった。
「シュウ?シュウはもちろん私と組むわよね?」
ライラが傍目ぼーっとしている俺の意識をこちらに向け、意思疎通を図ろうとしていたようだ。
「ああ、もちろんだ。」
とりあえず笑顔とふたつ返事で返しておく。しかし、水精の影響がかかっていないライラをそっと見つめてみるが、なんとも…うん。いい感じのモブキャラって感じだろうか?そのくらいにしか見えない。
「うぅ…。」
「さて、では私はドラちゃんと組みましょうか。」
「え、えぇ。わかりましたわ…。」
どこか残念そうな声でジブリールの要求を承諾する。
「よーっし!!二人組はできたかな?そしたら今日の授業内容をはっじめまぁっす!!」
「アミラ先生!!その気になる内容はなんですかもうなんでもかかってこいやぁ!!」
『二人組』というトラウマを克服した空が躍起になっている。…えっと、もしかして空、昨日の俺の報告書読んでなかったのかなぁ…?アミラさんの授業は空の倫理規定にガッツリはまってる気がしたんだけど…。
「さて、昨日は男を落とすためのテクニック集を解説したけど、今日はその実践をしてみようと思いまぁす☆」
「ファッ!!?」
「それじゃあ手始めにキスしてみよー!!」
「ああっ!!?」
「え?空クン何か不満?」
「不満というか、そんな授業で大丈夫なんスカ!?」
「え?何言ってるの空クン?この学園、保健体育専攻だよ?全時間保健体育に決まってるじゃん☆」
「何その男の夢しか詰まってなくて速攻で廃校しそうな学園スタイル!?」
「まーまーいいじゃんいいじゃん☆ほら、キッス、キッス♪」
「『一気!一気!』みたいにいてんじゃねぇよ!?酒場じゃないんだからな!?」
「え~?でも、他のみんなは割と乗り気だよ?」
「んぁ?」
そうして辺りに空が視線を向けると、
「あっ、んーっ!!」
「ふぅ、ふぅ…はむっ!!」
「んぁ…ん…」
「なんか周りで
「というか、空クンの目の前でもおっ始めようとしてんだけどネ?」
「あっ!!?シュウ…は…」
と、そんな空の目に私達の姿が映る。もうライラの腕が俺の首に巻かれるように抱きつかれ、その様子は恋人同士が今目の前で愛のあるキスをしようとしていた。
「り、リア充が目の前に…」
「「「………。」」」
空は何やら白目をむいて上の空状態に、白は何やら疑念を抱くように、ジブリールはただただ見入って、ステフは悲しげな目で見ていた。
(ま、マジでやんの!?)
そしていよいよ、互いの唇が合わさりそうになるとき、ライラが口ずさんだ。
「さぁ、あの女に見せつけるように、たっぷりしましょうか♪」
その言葉を耳にした瞬間、思考が…いや、自分の世界が凍りついた。
(…あの女?今、ライラは『あの女』と言ったのか?それって一体…)
ライラが恍惚とした表情を一瞬だけ止めて放ったその一言が思考回路を埋め尽くす。が、その答えは嫌に簡単に出た。
(…いや、考えるまでもなかった。今ライラが気にしている女とやらで、見せつけたい人物の候補は後ろの席にいる三人。そしてその中でライラと接点を持ち、なおかつライラの行動の目的の矛先となっている人物は…)
(お嬢様ただ一人。)
その事実に気づいた途端、思考回路が急速に回りだす。その思考回路はもはや冷静さなど程遠い、暴走にも似た怒りの兆候。
(へー?ふーん?ほー?あの時ステフに邪魔されたのがそんなに悔しかったんだぁ~?そっかそっかふぅ~ん♪)
目を閉じて迫ってくるライラを無視し、UIからコマンド『スキップ』を則座に選択。それと同時に、景色が食堂へと変換する。
「さ、ライラ、昼食時間だぞ?何食べる?」
「え?あ、あれ?なんで食堂に?」
「なんでって言われても、もうその時間だし。さ、何か食べようぜ?」
そう言って困惑した表情のライラの腕を引いていく。もちろん演技上、優しく、しかし力強く…だが、その腹の中は煮えくり返っていた。…例えばこんな風に。
(我が愛しき人への凶行、誠に遺憾である。一国の女王だか真実の愛を求めるお姫様だかなんだか知らないが、ステフが傷つく行為を横暴にも我がステフ教徒を利用してまで行おうとしたことは万死に値する。して、貴殿、ライラに告ぐ。)
さぁ、断罪を始めよう。