ノーステフ・ノーライフ   作:sayutan

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終巻
さあ、終戦(ゲーム)を始めよう


「にゃー?どうしてうちの名前を知ってるにゃー?人類種(イマニティ)?」

 

「そりゃーもーあなたの愛しの妹様から散々聞きましたからねぇ…。」

 

「にゃにぃっ!?ジブちゃんがうちの話を…っ!?ほ、本当かにゃっ!?」

 

「えぇそれはもう饒舌に語っておられましたよー。こちらの耳が痛くなる程です。」

 

「にゃははぁ〜照れるにゃ〜♪で、どんなこと言ってたにゃ?」

 

「『先輩マジないわー。』とか『《書籍共有法》とかマジチョベリバなんですけど~?』とか…。」

 

「ジブちゃんがそんな口調で言うはずないにゃ!今すぐ訂正するにゃ!!」

 

「口調が問題なのかよ!?」

 

「そうにゃ!ジブちゃんをそんなふうに育てた覚えはないにゃ!」

 

「…"そんなふうに育てた妹"に悪態をつかれてる現状に一言。」

 

「どうして"お姉ちゃん大好き妹"に育ってくれなかったのにゃああああ!!!」

 

「いやー、そんな事言われましても…ん?」

 

 

 

ガボッ!!ゴボボボッ!!

 

(ああっ♥いいっ♥いいっ♥今まで素手や木の棒でしかいじめてくれなかったのに、いきなり足蹴にされるだなんて♥)

 

ゴボボッボボッ!!

 

(あんっ♥水瓶の底に顔面押し付けられながら、踵で後頭部を局所的に踏み抜かれる…気持ちいいっ♥)

 

ゴボババッババッ!!

 

(ああー♥もっとぐりぐりしてぇっ♥もっと突き抜いてぇっ♥あっ、イk…)

 

 

 

「あの…アズリールさん?」

 

「なんにゃー?人類種(イマニティ)?」

 

「さっきから踏んでる水棲種なんだけど、もしかしたら今とんでもない勘違いしてて、俺の今後の日課に支障をきたしそうな予感がするからさ、そろそろやめてくれません?」

 

「あ、忘れてたにゃ。コイツなんにも抵抗しないから感覚が無かったにゃー。ほいにゃ。」ポチャン

 

「ぷはぁっ!!だ、ダーリン?その、普段からそんなに虐めたかったのなら、木の棒なんかじゃなくてもっと硬いナニかで殴って虐めてくれても…イ・イ・の・よ♥」

 

「やっぱり勘違いしてるじゃねぇか!!おいライラ!お前を踏んでくれてたのはこの天翼種(フリューゲル)だ!俺じゃねぇ!!」

 

「え?そうなの?」

 

「そうにゃー。でも、踏まれて興奮するだにゃんて…やっぱり魚の頭のネジは飛んでるのかにゃ?」

 

「ライラは頭のネジしか無さそうだけどな。」

 

「ふっ、そうだったのね…。ダーリン以外の奴に踏まれて興奮するなんて、私もまだまだダーリンに染まりきってないってこと…。」

 

「いや染まらなくていいから。永久に自分色に染まってていいから。」

 

「それでなんだけど、あなたにお願いがあるの。」

 

「ん?うちかにゃー?」

 

「そう。あなたの踏みの技術…嫌いじゃないわ!その踏みをダーリンに1から10まで教え込んで欲し…!!」

 

「よーしアズリールさん!ジブリールを助けに行くぞっ!!今すぐ!!ハリアップ!!ライラは水瓶の底で大人しくしてろやぁっ!!」ガシッ!!

 

「えっ!?ダボボバッ!!?」

 

(ああーーー♥ダーリンにアイアンクローで頭鷲掴みにされて、私…絶頂()んじゃうぅぅぅぅぅぅ♥)

 

 

 

□□□

 

 

 

「で、ジブリールの様子ってどんな感じなんだ?」

 

 取り敢えずライラを気絶(絶頂)させ、アズリールに事の状況を聞き出す。

 

「にゃー?とぼけるのかにゃー?人類種(イマニティ)風情が?」

 

「え?俺のせいなの?」

 

「そうにゃっ!うちからジブちゃんを盗って10年間も同棲しておいてよく言うにゃ!!どーせお前がなにかしたに決まってるにゃ!!さあ吐くにゃ!!この泥棒猫ぉ!!」

 

「まぁ確かに”しでかした”のは認めるが、今回はジブリールに関しちゃなんにもしてないぞ?」

 

「にゃー?まーだとぼける気にゃぁ?よーくわかったにゃ!!なら論より結果にゃ!!これを見るにゃ!!」

 

 アズリールが手を突きつけて、壁に時空の穴を出現させた。

 

「んー?」

 

 その先に見えたのは…。

 

 

 

■■■

 

 

 

「あ"ー。どうしてこうなったぁぁぁぁ…。」

 

「にぃがシュウを解雇した…から?」

 

「そうなんだろうなぁ…でもさぁ…ここまでシュウがフラグ乱立してるとは思わなくってなぁ…ハァ…。」

 

「にぃ、それより書類終わらせないと…。」

 

「うがぁーっ!!政治ゲームは一番面倒なジャンルなんだよ!!やったらやった分仕事が増えるゲームってなんだよ!?楽にしてくださいお願いしますからぁっ!!」

 

「…電源ボタン、ポチッとな。」ムニッ

 

「あのな妹よ?俺の左乳首は電源ボタンじゃありません。いや、"動力源"という意味なら一番近い場所ではあるんだがな?」

 

 そんな兄妹がじゃれ合いながらこなしているのは無論、『政治活動』である。目の前に大量に置かれた書類の山を、『めんどくさい』と言わんばかりの顔…いや、実際口にしながら処理をしている。こなすスピードこそ破格なものの、大臣たちとの知識のすり合わせ、政策に対する貴族たちの反発等、ゲームのように思い通りにならない事に苛立ちを覚え始めていた。

 

…だが、本来この仕事は兄妹の仕事ではない。元はステフが担っていた仕事だったが…。

 

「当のステフは部屋に引きこもって出てこないし、ジブリールは呼び出しても生返事するだけで上の空。いづなたんは泣いて怒るしクラミーは絶望して寝たきりだもんなぁ…。」

 

「…フィーは、狂喜乱舞してたけどね…。」

 

 そう、今まで空白を支えてきた人材が、揃いも揃って『  (くうはく)』に協力しようとしなくなったのである。唯一中立の立場にいる巫女といのが、エルキア王国と東部連合の両国をつなぐ政策を勧めているが、それに手を取られて他の国へ手を出せないでいる。

 

 それもこれも、空がシュウを王城から追い出した直後からであった。

 

「まっさかここまでフラグ建てまくってるとは思わねぇよ!?乱立して回収する気あんのかってくらいですよ!?」

 

「でも多分…シュウの世界で描かれてるにぃは、もっとフラグ立ててると思う。」

 

「ハァ!?どこにそんな建造物建ってんスカ!?指差し確認ヨォーイッ!!」

 

「…。」

 

「…あ、あのー、ここ白が乗ってくれないと兄ちゃんの立つ瀬が…。」

 

「…ふぅ。」

 

 ため息をつく。兄が鈍感だということは知っていたが、ここまでとは思っていなかった。でも、

 

(シュウがここに来てくれたことで、多分、白は救われてる。)

 

 原作知識というチートを使って、本来にぃに向けて建てられる筈のフラグを、シュウが今請け負っている。

 

 もしシュウがここに居なかったら、今のようににぃの視線を独り占めにできては居なかっただろう。

 

 おそらくシュウの言う原作ステフやジブリールは、にぃに好意を抱いていたに違いない。それを、シュウは意図的でなくとも、にぃからその好意を逸してくれた。その上、シュウは私達の関係を陰ながら応援してくれていた。

 

 …もしかしたら、にぃとステフをくっつけないためかもしれないけど、二人を邪魔するようなことはシュウはしてない。多分、にぃと白に、幸せになってほしいのだろう。

 

 でも、にぃはきっと気づいていない。白はきっとまだ、"妹"のまま…。

 

 

 

 なら…?

 

 

 

「にぃ?」

 

「な、何だ妹よ?にぃちゃん今ご傷心中なんだが…。」

 

「…にぃは、しろの事、どう思ってる?」

 

「ん?白は白だろ?どうしたんだ急に?」

 

「…。」

 

「?」

 

(…あぁ、言葉が出ない、よ。)

 

 勇気が出ない。その先を、言ってしまえばたどりつはずの結末に、だけど、今感じているぬくもりが消えてしまいそうで…居心地が変わりそうで…。望んでいるはずなのに、目の前に映るにぃの顔が、とても優しくて…。

 

(…ねぇ、シュウ。あなたならこの足りない勇気、見せてくれる?)

 

 いま置かれている状況から、シュウがもしステフに会いに行こうと藻掻いて、足掻いて、何かを伝えようとする勇気があるのなら。

 

(…しろもきっと、できるかな?)

 

 

 

■■■

 

 

 

「何だ、いつものジブリールじゃないか。」

 

 穴の先に見えた光景は、白紙の本に何やら書きなぐっているジブリールの頭が見えた。

 

「にゃー?あれが普段のジブにゃんに見えるんだったら、眼球くり抜いて捨てたほうがマシにゃ。」

 

「こえぇよアズにゃん…。」

 

「だぁれがアズにゃんにゃぁ!!」

 

「ジブリールにそう呼んでほしい?」

 

「呼んでほしいです!!」

 

「語尾が無くなる程か…。」

 

(んー、しかし何も変わった所なんて…ん?)

 

 しばらくの間、ジブリールの様子を見ていると、ある事に気づいた。

 

「なぁ、アズにゃん。」

 

「…もうそれでいいにゃ。で、なにかわかったかにゃ?」

 

「…もしかして、本を読まずに書き殴ってるのか?」

 

「そうにゃー。ここ数日、一冊も手を付けずに書き続けてるにゃ。」

 

…たしかにそれはおかしい。普段、ジブリールは読んだ本の中から様々な疑問を引き抜いて質問集に書き留めていく。そして実際にその本のページを俺に見せながら質問を言ってくるのだ。まして、『読み返す』を重視しているはずのジブリールが、本を読まずに質問を書くことはない。ならば、

 

「…何を書いてるんだ?」

 

「それは…お前を取り戻す方法にゃ。」

 

「お、俺をか?」

 

「そうにゃ。ジブちゃんが得てきた知識を総動員して、解決策を練ってるにゃ。…果ては今の主に反逆する手まで考える程に、にゃ。」

 

「そ、そこまで!?」

 

「…ジブちゃんは今は亡き天翼種(フリューゲル)の主、アルトシュ様が居なくなった時すら、存在意義の根底が無くなったことで失意に暮れる私達を尻目に、いち早く知識の収集に向かってたにゃ。『神霊種(オールドデウス)がどうして敗れたのか』…その疑問を解き明かすっていう、好奇心に基づいて…にゃ。」

 

「…。」

 

「そんなジブちゃんがこうまでして取り戻そうとしている人類種(イマニティ)がいる…まして、我が主にすべき行為を、お前に向けている。正直、わけがわからないにゃ。お前はそうまでされて取り戻そうとされるほど、利用価値のある人類種(イマニティ)なのかにゃ?」

 

「…いや、そんな事は無い筈…。」

 

 なんだが、確かに引っかかる。今まで見たこともないジブリールの姿からは、明らかな変化がジブリールの中で起こっているということに。

 

(…前にジブリールは言った。『たとえどこかへ逃げようとも地の果てまで追いかけ、死んだとしてもありとあらゆる手段を尽くして復活させるのでご心配なく♪』と。今、それを実行しているのだとしたら?)

 

 何故か背筋が凍る思いがしたが、それも一瞬。次の疑問がそれを氷解させた。

 

(例えそうだったとしても、普通は主である『  (くうはく)』への反逆を(くわだ)てるなんてことは…しない…はず。というか盟約によってできない行為だ。でも、そんな行為すら天秤にかけた…俺という重りに対して。)

 

 思考がジブリールの事を中心に回りだす。原作と現状で違う点はただ一つ。俺という存在の介入のみ。

 

 互いに利用し合う、利害関係のみの盟約で構築されたその関係が、ジブリールを変えた。

 

(だけどジブリールは言った。俺と10年間過ごしても、『特に変わったことはない』と。)

 

…でも、俺がステフだけを見ていたせいで、ジブリールの変化を見過ごしていたら?

 

「…。」

 

 その気づきを発端に、今までのジブリールとの思い出が脳裏をよぎっていく。

 

 

 

 質問に対する俺の返答を聞いて、『脳みそにカビでも生えているので?』と蔑むジブリール。

 

 俺の作った料理を食べて、『何も感じません』とジト目で言うジブリール。

 

 俺を吹き飛ばす為に5%天撃を放って無邪気に笑うジブリール。

 

 

 

…。

 

 

 

(うーん、碌なことされてない…けど、)

 

 原作で『  (くうはく)』にしなかった行動ばかりである。崇拝の対象である彼らにせず、俺という存在にのみ取った行動の数々。それらを思い起こした末に、たどり着く一つの仮定。

 

 

 

 

 

『...なあ?ジブリール。』

 

 

『そこで...はい?なんでしょうか?』

 

 

『俺らってさ、10年以上ここでこんなことやって来たんだよな?』

 

 

『...えぇ。そうでございますね。』

 

 

『...ジブリールってここ10年でなにか変わったか?』

 

 

 

『...そうですね...質問を集めて答えを編み出し、それを考察する。その行為が定着したことくらいでしょうか?』

 

 

 

『...そ。んじゃ、続きやっていきましょうか。さっさと家に帰って、仕事しなきゃならんからな。』

 

 

 

『...そう、で...ございますね。続けましょうか。』

 

 

 

 

 

…あの時抱いていた違和感。最後のセリフの妙な間。そして、その後『  (くうはく)』という識者を主に持ったジブリールから見たら、俺という存在は盟約上『利』には到底ならない。それでも、ジブリールは盟約解除を頑なに断った。

 

(もし、感情というものにひどく疎いジブリールなりの行動だったとしたら…?) 

 

 

 

 

 

…。

 

 

 

 

 

 

「…ふぅ。」

 

 自惚れだろうか?この結論は?でも、もしそうだとするなら、この暴走とも言えるジブリールの行動が、俺がステフに対して取り続ける理由と同じ感情に基づいているのなら…辻褄があってしまう。

 

「…そうか。」

 

 利害関係。そんな関係は、それ以上の関係に発展するなんて…しかもジブリール相手にそうなるなどあの時から全く考慮に入れてなかったが…。

 

「そういう、ことなのか。」

 

 ジブリールに自覚があるかはわからない。でももし…。

 

 

 

 ジブリールが、俺のことをただの人類種(イマニティ)じゃなく、『掛け替えのない存在』だと思っているのなら…失うことを恐れてるんだとしたら…。

 

 

 

「…よし。わかった。」

 

「ん~?何がわかったのかにゃー?」

 

「俺のやるべきことがわかったんだよ。んじゃ、早速で悪いけど、手伝ってくれない?アズにゃん?」

 

「にゃ~?お前一人でなんとかするにゃ。これ以上うちが人類種(イマニティ)を手助けするなんてこと…」

 

「ジブリールの口から『お姉ちゃんありがとう』って言葉を言わせてやる。」

 

「のったにゃぁ!!」

 

 あっけなくドデカイ餌に食いついて、大はしゃぎするアズリール。そんな彼女に申し訳無さを抱きながら、アズリールとの利害関係を結んだところで、この先にあるエンディングにたどり着くための覚悟を決めて、心のなかで唱える。

 

 

 

 

 

 

 

 

さぁ、終戦(ゲーム)を始めよう。

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