2回目である その7(完結)
ホグワーツ特急の揺れに、リリーはびくりと身体を揺らして目覚めた。長い夢を見ていたような、けれど妙に現実味のあるそれが夢ではないと本能が伝えてくれる。
リリーは一つ深呼吸した。
今の私は2回目だ。なぜなら、1回目の記憶があるから。
リリーは顔をしかめた。
1回目の最後ハロウィーンの夜、私はヴォルデモートからハリーを庇って、そして死んだ。
コンパートメントを見回す。ここにはリリーしかいなかった。2回目のリリーに幼馴染セブルス・スネイプは存在していない。でも、とリリーは思う。セブは闇の魔法使いで純血主義だ。親しくしない方が良い。ハリーをジェームズを守るために。
1回目の自分は人を見る目がなかったのだ。2回目はそんな真似はしない。1回目の記憶があるのだから上手く立ち回れる筈である。
そして、リリーは1回目の記憶をさらって、そして気付く。気付いてしまう。小さなほころびを。
2回目のリリーはペチュニアと喧嘩別れしていなかった。ペチュニアは今にして思うとリリーを避けているような節があった。ホグワーツ特急に乗るホームの見送りにも来なかった。いや、ペチュニアは学校の入学式を優先しただけだ。1回目とは違う学校で、だから仕方がなくて。
ホームで別れを告げた両親もどこか様子がおかしくなかっただろうか?名残惜しいというよりは安堵しているような気が、いや、そんな筈はない。
1回目の記憶が戻って混乱しているだけだ。リリーは頭を振った。両親の表情に浮かんだ―――厄介払いをしたという色を打ち消すように。
ガラッ
唐突にコンパートメントが開けられ、くしゃくしゃの黒髪に眼鏡の少年が飛び込んできた。ジェームズ・ポッターだ。
「あれ、君、可愛いね」
1回目と変わらぬジェームズにリリーは満面の笑みを浮かべた。
幼馴染セブルスがいないだけでホグワーツはリリーの知っているホグワーツと思った。そして、安堵した。それが一時のことだとも知らずに。
ジェームズとシリウスの悪戯が大問題になったのだ。1回目はそんなことはなかったのに、日刊預言者新聞が書き立てて二人は停学処分となった。それだけではなく、ホグワーツの教授陣も世論の非難にさらされた。
リリーは1回目とのあまりの違いにルームメイトへ零す。
「いくら何でも酷くないかしら?あんな程度で」
ルームメイトは信じられないという顔でリリーを見つめた。
「正気?あんなことやってただじゃすまないのは当然だわ。相手はスリザリン生よ。貴族や有力者の子息相手で保護者が黙っているわけないでしょ」
「親の権力を使うなんてフェアじゃないわ」
「ポッターやブラックも親の力がなきゃ即退学か潰されているわ。ホグワーツがポッター家やブラック家に忖度していると言われても無理ないのよ」
「そんな、たかだか子供同士のことじゃないの」
ルームメイトは呆れ切っていた。
「リリーは貴族の怖さを知らないのね。そんな能天気な考えなら貴族には近づかない方が良いわよ。ポッターやブラックが好き放題やれるのも実家の力が大きいからよ。本人たちは気付いていないんだから、つくづく傲慢よね」
「傲慢って。ジェームズやシリウスは気さくだし、血筋で人を判断したりしないわ」
「そう。リリーにはそう見えるのね」
ルームメイトの言葉は突き放すように冷たかった。
リリーの学力は1回目と違ってパッとしなかった。実技でかなり躓いているのだ。なぜなのかリリーには分からない。得意だった筈の魔法薬学も上手くいかなかった。1回目は優秀なマグル出身の魔女だったのに、2回目の今は平凡なマグル出身の魔女だ。
スラグホーン教授が辞めてしまったのでスラグ・クラブは存在しないが、仮に存在してもリリーに誘いの声はかからなかっただろう。あのクラブは純粋に実力主義だから。
ホグワーツはどんどんリリーの知るソレとかけ離れて行った。生徒は年々減少していく。シリウスの弟レギュラスはアメリカへ留学した。それから加速して名門貴族はホグワーツから転校、入学拒否していく。
ジェームズとシリウスは相変わらず問題行動と停学を繰り返している。当初、スリザリン生が減ることを歓迎していた二人だが、グリフィンドールですら貴族や有力者の子息子女が転校すると何も言えなくなってしまった。レイブンクローやハッフルパフも同様である。大広間の大食堂は広い分だけ少なくなっていく生徒数が明白になっていく。当然、優秀な教授はスラグホーン教授を筆頭に辞めていった。ホグワーツのレベルが下がっていることをリリーも肌で感じていた。ルームメイトも留学して既に居ない。一人部屋を喜ぶ以前にリリーは寂しかった。
リリーはホグワーツを卒業した。卒業生も在校生も少ない寂しい卒業式だった。結局、リリーは凡庸な魔女どまりで、そのためがジェームズとの結婚はポッター分家から不満が噴出した。ジェームズが強行したので結婚はしたけれど、ポッター家はマグル生まれに理解があると思っただけにリリーはショックだった。ショックと言えば実の両親とペチュニアの対応にも傷ついた。冷ややかな態度だったからだ。しかし、魔法使いの自分とマグルの両親、ペチュニアでは理解できないし住む世界が違うのだと自分に言い聞かせる。それは、リリーが自身を守る詭弁に過ぎなかった。リリーは自分こそが家族に対して線引きしていることに最後まで気付かなかった。
―――そして、結局。1回目と同じハロウィーンの夜を迎えることになる。
ちょっと解説
人との出会いはバタフライエフェクト以上の大きな影響を与えてしまう―――それが反映してしまった世界として描きました。
この世界において、リリーはセブルスを闇の魔法使いで純血主義と認識しています。故に、セブルスを切り捨てているのですが、はたしてセブルスはリリーに悪影響だけ与えていたのでしょうか?
この世界でリリーが実技に躓いているのは、ホグワーツ前の制御ならびにホグワーツ以降にセブルスという個人教授がなかったからということにしています。ホグワーツ前にセブルスに出会っていないので魔法の力を隠すことなく、それ故に家族との溝を作ってしまいました。ホグワーツ以降にセブルスとの個人授業がなかったので成績が伸び悩みました。ジェームズは一緒に勉強するタイプではないと私は思いましたので。
リリーの成績不振についてはこのような事情があったのですが(優秀な魔法使いの教師もホグワーツを去っていますし)、リリー視点では描きようがなかったので解説を追加させて頂きます。