〈試作・未完〉めざせサブマリナー! ~めざさぶ~   作:みん提督

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先週投稿予定が遅れました。スミマセン。

今回は新キャラがたくさん出てきます。




第3話 海洋実習

青く澄んだ空。水平線の向こうまで続く静かな海。カモメが飛ぶ大きな空。天気快晴なその日は絶好の航海日和だった。

水中を静かに往く潜水艦には関係のないことだが。

 

4月8日、午後3時を回った頃。

南硫黄島近海を回遊している8隻の潜水艦は、上下運動を繰り返しながら、水中を悠々と進んでいた。しかし、艦内はその優雅な姿とは裏腹に乱雑に声が飛び交い、おおよそ平穏とは程遠い状況となっていた。

「ダウントリム10度。前部バラストブロー、深度50で安定させて」

長浦校所属の潜水直接教育艦『伊126』は、艦長である遠藤早耶果の指示を元に水中で姿勢を制御していた。しかし、慣れない潜水艦にクルーは振り回される。

「違う違う、シルカ、違う。それ12度。指示は10度だからもっと上げて!」

大きくハンドルを動かす操舵員(潜舵・横舵担当(プレーンズマン))の剣崎シルカは、もう1人の操舵員(縦舵担当(ヘルムズマン))である凪川夏樹から細かな指摘を受けて苛立っていた。

「うるせぇな。今直そうとしてたんだよ! あんまり横でゴチャゴチャ言うなよ」

「何よ! アンタがそのまんま舵取ってたら海底にぶつかるじゃない。艦の安全を考えるのは当然でしょ!」

凪川の言葉にシルカはさらに苛立つ。

「アタシの操舵が危険って言いてぇのか?」

その態度が気に入らない凪川。

「それ以外に聞こえた?」

互いに一歩も引かず、2人の雰囲気に、遠藤はさらに慌てるだけで、何も言えなかった。

航海長の瀬良遥は見かねて怒号を飛ばす。

「いい加減にしろよお前ら! 喧嘩する暇があるなら深度計に目を配れ。お前らがミスったら全員只じゃすまないんだぞ!」

一回りも小さな同級生に叱責され、2人は萎縮する。

「ごめんなさい、航海長……私が注意しなきゃなのに」

申し訳なさそうに言う遠藤の背中を叩いて励ます。

「艦長が謝ることないよ。足りないところは補い合うのが船乗りだからな」

世良の笑顔に、少しだけ自信を取り戻す。

「そうですね……はい。切り替えていきましょう」

発令所の各員は復唱する。計器と音にのみ頼ることが出来る潜水航行は、静かに続けられる。

 

 

少し離れた水上にて。そこには長浦男子海洋学校潜水教育艦隊旗艦『ちとせ』がエンジンを停止し、聞き耳を立てていた。

艦内に搭載される救難艇(DSRV)が特徴的なこの艦は、高性能ソナーを使って水中で活動する各艦の動きを観測し、評価する他、大型教室での講習や生徒の休息も可能な多目的艦として配備されている。

そんな『ちとせ』の戦闘情報センター(C I C)には、学生艦の評価を行う教員たちが詰めており、各艦の動静を見守っていた。

「さすがですね、『伊407』は。あれだけの大型艦でもこれだけ静かに航行できるとは、大したものです」

タブレットの情報評価欄を見つめながら言うのは教官の赤羽龍一(あかばね りゅういち)だ。まだホワイトドルフィンに入隊して5年目の若い隊員だが、将来を有望されて教育艦隊で教官を務めている。

「ふむ。今すぐにでも本隊に欲しいくらいだ」

そう言うのは整えられた口ひげがトレードマークの長浦校教頭の芹澤だ。経験豊富な初老の元潜水艦乗り(サブマリナー)で、生徒からは鬼教官として恐れられている。この実習航海では司令官も務める歴戦の隊員だ。

「ところで、『伊126』はどうでしょうか」

2人の横に立つのはホワイトドルフィンでは珍しいカーキ色の制服を着た女性だ。

利根川(とねがわ)さん、いつの間に」

「つい今しがたです」

にこやかに答えるのは、横須賀女子海洋学校から出向している教官、利根川巡(とねがわ めぐる)だ。特別クラス編成に伴い、ブルーマーメイド潜水艦教練指導員として長浦校に臨時に赴任し、実質的な『伊126』クラスの担任として勤務する、経験豊富なブルーマーメイド隊員だ。

芹澤は自分なりの評価を利根川に伝える。

「まだまだだな。舵取りが大雑把すぎる。水深の深いここなら問題ないが、浅い海域では座礁する。教練のし直しが必要だ」

辛辣ともとれる評価を聞き、赤羽は正直に感想を述べる。

「相変わらず教頭は厳しいですな」

新入生だろうと容赦がない、そうした芹澤の性格を評した一言だが、芹澤にとっては聞き捨てならない言葉だった。

「厳しいとはなにか。潜水艦は1つの判断ミスで全滅することもあり得る。潜水艦乗り(サブマリナー)なら常にミスなく、完璧に操舵せねばならない。当然のことだ」

「は……すみません」

怒気を含んだ芹澤の言葉に、赤羽はすっかり萎縮する。芹澤は厳しい指導と、嫌味にも聞こえる言葉遣いで生徒からは好かれていない。しかし、それは生徒の安全を考えてのことであるのは、公然の秘密である。

「それはそれとして、教頭。他のクラスはどうでしょうか?」

すっかり縮こまる赤羽に代わり、利根川が他のクラスの評価について質問する。

「ふむ。『伊44』はやはり静かだ。上級生としての意地を感じる。『伊15』は少々乱暴だが筋はいい。『伊19』は手堅い艦といった所か。『伊33』は……難ありだな」

「やはり、『伊33』は……」

赤羽はタブレットの基本情報を見ながら言う。『伊33』の基本データには特段おかしな所は無かった。

あんなの(・・・・)はただのジンクスでしかない。くだらん噂などに惑わされては困る」

吐き捨てるように言う芹澤だが、2人の教官は強く肯定出来なかった。

 

 

その頃、潜水艦『伊33 』艦内では。

無気力な眼と寝癖が付いたままの頭髪からして、およそ活発な印象を抱かせない少年、『伊33』艦長の竹沢伸(たけさわ のびる)は、発令所の中央に立ち尽くすのみで、ほとんど操艦を行っていなかった。

「艦長……竹沢艦長!」

「……うん」

見かねた副長が声をかけても、生返事をするだけでやる気どころか生気さえ感じない。他のクルーもどこかふて腐れ、いい加減に訓練に従事している印象だった。

「……皆なぜそんなにやる気ないんだよ。初実習だぞ、これから3年間こうして適当にやってるつもりなのか!?」

副長は思わず声を荒げる。

「そうだよ、その通りだよ」

艦長の竹沢は吐き捨てるようにそれを肯定する。

「!……艦長!」

副長は思わず竹沢に掴みかかろうとするが、水雷長に止められる。

「副長、そう熱くなるな。アンタもわかってんだろ? この艦(伊33)は呪われているって」

「それは……」

行き所を失った副長の拳は、ただ震えるしかなかった。

「どうせ頑張ったって落ちこぼれ確定なんだ。落第しない程度にやってりゃそれでいいんだよ。な、竹沢艦長?」

水雷長の言葉に無言で首肯する竹沢。副長はまだ何か言いたげだが、結局思い止まった。

水雷長の言う通り、『伊33』は呪われてるという噂が絶えず、実害も出ているとされる曰く付きの艦だ。

元より公明正大とは程遠い卑屈な性格の持ち主だった竹沢は、このような環境に放り出されてから、その性格を一段と増長させていた。

 

 

同じ頃、潜水艦『伊15』の艦内では。

「コウ艦長、深度はこのままで平気か?」

航海長の言葉に、燃え盛る火山のような赤毛の少年、『伊15』艦長の安住鴻一郎(あずみ こういちろう)は答える。

「おう、大丈夫だ」

ストップウォッチと海図を睨みながら言う安住。初の実習で緊張していた彼は、つぶさに海図とストップウォッチを確認しながら指示をしていた。

「そんなに頻繁に確認しなくたって大丈夫ですよ、コウ艦長。てか、気合い入りすぎじゃ……」

副長の言葉に安住は大袈裟に反応する。

「解ってないなぁ、お前らよ。これが初めての実習なんだぞ。少しでも活躍して、白鷺さんに良いところを見せるんだよ!」

ガッツポーズを作って聲高に宣言するも、クルーの反応は鈍い。「また始まった」というあきれている声も聞こえてくる。

「なんだよ、ここはノる所だろ、お前らさ」

面白く無さそうにする安住だが、クルーは少し飽き飽きしていた。

「コウ艦長の一目惚れには困ったものだよ」

「ま、どうせ1週間もすれば別の子に一目惚れしてるよ」

「今回はそんなんじゃねーから!」

海図室のクルーのヒソヒソ話も聞こえる地獄耳を発揮しつつ、白鷺がどんなに素晴らしいか、可愛らしいかを力説する安住。

「とにかく、今回の実習で一番いい成績を残してあの人に振り返って(・・・)もらうのだ!」

「振り向いて(・・・)もらう、ですよコウ艦長」

「そうとも言うな!」

副長の訂正に何故か爆笑しながらも、計器類には常に目を配り、持ち前の運動神経の高さから、艦の姿勢を直感的に感じていた。

彼の能力は自他共に認める非常に高いもので、公明正大、明朗快活な彼を慕う者は多い。が、一目惚れしやすいことや、存外ロマンチックな恋愛感を持つなど、一面だけでは言い表せない魅力の持ち主だ。

 

 

そして、3隻の上級生クラスの1隻、『伊44』では。

「機関停止。取り舵20度、無音潜航」

艦長の内小路潮音(うちこうじ しおん)の命令は静かに、確実に全艦に伝えられ、艦内は静寂に包まれる。

「了解、無音潜航。音の出る機器はすべて停止させよ」

『伊44』は長浦校で一番静かな艦として知られていた。

静音対策は作戦艦艇並みに徹底している。エンジンや冷房を止めるのはもちろん、羅針盤や冷蔵庫、喋り声や足音など、あらゆる音を排除する。教員艦のソナーでも捉えられず、静かすぎて叱られるという珍事まで起こしていた。

そんな『伊44』艦長の内小路は中性的な容姿の美男子であるため、学内にはファンが多かった。『伊44』クルーも例外では無く、彼に本気の恋愛感情を持つ者も多い。

無音潜航中は話をすることも出来ないため、発令所のクルーは内小路を眺めて暇を潰していた。その日はいつになく不機嫌そうにする内小路が観察対象だった。

(姫艦長は今日も可愛いなぁ)

(でも、いつもより表情が険しい)

(また生徒会長にあしらわれてご機嫌斜めか?)

(いや、例の特別クラスのことか)

(男子校の姫ポジを取られると思って……)

(嫉妬しちゃう姫艦長も可愛い)

(良い匂いする……)

変人が多いと言われる潜水艦乗り(サブマリナー)の中でも、特に変わっているとされる『伊44』のクルーは、静かな変態ばかりであった。

 

 

 

同日、午後6時。

1回目の実習を終えた各艦では、水上艦での夕食に当たる中間食が提供される。

24時間勤務の潜水艦乗り(サブマリナー)にとっては一番豪華な食事が提供される、至福の一時だ。

『伊126』の10人ほどしか入れない極小の食堂は、幸福感を満たす香りに包まれていた。交代で食事を済ませなければならないため、各員はお喋りもそこそこに食事を楽しんでいた。

「潜水艦のメシは美味いと聞いていたが、本当だな。どれもこれも絶品、満点。ウチの給糧員は腕がいい」

航海長の瀬良は伝統の金曜カレーをたっぷりと頬張り、噛み締めながら感動の余韻に浸っていた。言動は大人びていても、食欲旺盛な所は年相応だとクルーは微笑ましく見ていた。

「お褒めに預かり、光栄でございます。航海長」

スカートの裾をつまんで恭しく頭を下げるのは、恐竜のワッペンがついたエプロンと三角巾を着けた、主張強めの給糧員、保坂亜美(ほさか あみ)だ。元高級ホテル料理人の父から教わった、淑女然とした動作は一つ一つが丁寧で無駄がない。

「またまた、大袈裟に。ところで、このカレーは君が仕込んだのか?」

瀬良はサラダを頬張りながら質問する。

「いえ、今日は遥ちゃんがやってくれました。私は、具材の下処理を少々手伝ったまでです」

感心する瀬良の横で操舵員の剣崎は冷静にツッコむ。

「いや、亜美が作ったんじゃないんか」

剣崎のツッコミに、保坂はまた冷静に返す。

「ふふ、まだ航海は始まったばかりです。その内アッと驚くメニューが次々出てきますから、今のうちに驚く練習でもしててください」

優しく微笑む彼女の表情に、食堂にいたクルーの表情も緩む。

そうして盛り上がる食堂に、副長の白鷺が現れる。

「盛り上がってる所すみません。艦長見ませんでしたか?」

白鷺の質問に、水雷長の橋本が答える。

「光川さんと一緒に艦橋当直のはずです」

「ありがとう。では、艦橋に行ってみますね」

お礼を言うと、白鷺は軽い身のこなしでハッチを潜って行った。

白鷺が見えなくなったのを確認して、電測員の工藤海月(くどう みつき)は瀬良に耳打ちする。

「副長って、なんかずっと艦長をストーキングしてません?」

「ストーキングってお前……まぁ、確かにことあるごとに艦長探してるけど」

瀬良も始まったばかりの航海で感じ始めていた違和感を語る。

「たしかに、副長の態度はよくわからん。今日の実習でもほとんど指示を出さなかったし、なんというか、積極性がないよな。艦長を自分で探す訳でもないし」

カレーを頬張りながら言う瀬良。工藤にはそれ以外も不思議に思う点があった。

「そもそもあの2人ってどういう関係なんですかね? 某、気になります」

「また、すごい一人称使ってる……」

一緒に食事をしていた電信員の板倉(いたくら)ヒカリが独特すぎる幼なじみの一人称に呆れる。

「それは今はいいでしょ、ヒカリちゃん。で、で、航海長殿、どう思います?」

「ふむ……」

スプーンを置いて少し考え込む様子の瀬良。10秒ほどたってようやく答えが出る。

「……"お互い無関心"かな」

「と、言いますと?」

工藤の疑問に、瀬良は自分の考えを纏めながら話し始める。

「艦長と副長は、艦の意思決定を行う最重要の役職だろ? しかし、あの2人はそれを自覚していない気がする。お互いに仲が良さそうに振る舞っているが、艦に乗れば艦長、副長と呼び合って素っ気ない。その実お互いのことを知りたがる訳でもないし、あまりに無関心。互いに興味が無さそう…………な感じかな」

瀬良の感じる違和感を相槌を打ちながら聞く工藤だが、腑に落ちない様子だった。

「……つまり?」

要点を理解していない工藤に、一言だけ瀬良は結論を述べる。

「艦長も副長も、他人に興味がない」

食堂で話を聞いていたクルーは納得して頷く。

「私ソナー室だからわかんないけど、発令所の艦長ってそんな感じなの?」

会話に入って来たのは水測員の岩渕霞(いわぶち かすみ)だ。

「うーん……でも航海長の言う通りかな。確かにヒトに興味無さそうだし、あの艦長」

そう言うのは航海員の高嶺舞姫(たかね まき)だ。

「副長も全然喋らないですしね。光川さんとイイ勝負だと思います」

海図室勤務の内野信夫(うちの しのぶ)も高嶺の意見に同調する。

「大丈夫なのかな、ウチのツートップ」

他のクルーも食事をしながら各々意見を交換する。概ね艦長と副長への疑念のような意見が大半だった。まだ航海も始まったばかりで、十分な信頼関係も出来ていない『伊126』艦内は、懐疑的な意見が瞬く間に広がっていた。

 

それは当然、副長の耳にも入っていた。

 

 

 

白鷺が艦橋に上がると、月明かりに照らされた2人のクルーが見えた。夜闇に慣れてくると双眼鏡を覗くシルエットもはっきりと見える。

真面目に仕事をしている様子を少し観察した後、影の1つ、帽子を被っている方に声をかける。

「艦長、お疲れ様です」

会釈しながらラッタルを登ると、帽子の少女、『伊126』艦長の遠藤早耶果は驚いた表情をする。

「あれ……今は食事中だったはずでは?」

まず自分の心配をする遠藤に感心しつつ、簡潔に答える。

「すぐに食べ終わって来ました」

双眼鏡を手に持つ白鷺。彼女の意図を察した光川は白鷺を期待の目で見つめる。

「光川さん、当直変わりますよ」

「……ありがとう!」

無類のカレー好きである光川は、初めて艦内で提供されるカレーを誰よりも楽しみにしていた。それを知ってか知らずか、彼女と当直を代わることを副長自らが申し出たのは少し意外に感じた。

遠藤が思案を巡らしている間に、光川は風の速さでハッチをかけ降りていった。

艦橋に残された2人は顔を見合せると、言葉は交わさずに双眼鏡で周囲の艦船、障害物への警戒と見張りを始めた。

夜間、しかも島もない外洋なのもあって周囲を航行する艦船など無く、水平線の彼方まで静かな暗い海が続いていた。

海の大きな音、艦首が切り裂く波の音を聞き、月明かりに照らされた船体を眺める時間が好きだった。

しばらくすると、不意に白鷺が声をかけてくる。

遠藤さん(・・・・)

彼女が自分をそう呼ぶのは、2人が艦長と副長から、友達になる合図だった。

「なんですか、白鷺さん(・・・・)

唐突に名前で呼んでくるからには、何か話があるのだろう。遠藤はどんな話が繰り出されるのか、脳内でシミュレートする。

しかし、身構えた割には平凡なことを聞かれた。

「この航海は……どうですか?」

その質問をよくかみ砕き、言葉を選んで答える。

「そうですね。まだ始まったばかりなので、何とも言えませんが……クルーの皆もよく動いていますし、潜水艦の生活にも慣れてきましたね。次の実習でも上手く行けると思います」

なるべく笑顔を意識していたが、不自然ではなかろうか。そんな不安があったが、白鷺はその事については何も言わなかった。

「そうですか、遠藤さん」

「はい、白鷺さん」

 

「…………」

「…………」

 

気まずい。お互いにこれ以上会話が進まない。白鷺はきっと何か話したいことがあってわざわざ当直を代わりに来たのだろうが、結局それが話されることはなかった。

また、2人で双眼鏡を覗いて監視警戒を再開する。

中学生の時に、友達になろうと誓い合ったはずなのに、なんだかぎこちない。誰かと面と向かって語り合おうとした経験が無いから仕方のないことかもしれないが。

しかし、次の交代までこのままなのはマズイ。そう思い、遠藤は無難な言葉をかけることにする。

「……白鷺さん」

一呼吸置いてようやく声が出る。

「はい、遠藤さん」

急に呼ばれて驚く彼女だが、すぐにいつもの笑顔に戻る。

選び抜いた無難で、平凡な言葉を彼女にかける。

「明日からの実習も、頑張っていきましょう!」

ガッツポーズを作って大袈裟に言ってみる。白鷺はそれを聞くと、静かに笑い始めた。爆笑とまでは行かない、ややウケぐらいの笑いをこぼす。

「ふふははは! ……遠藤さん、あなたはやっぱり面白い人ですね」

少し恥ずかしくなり、艦長帽を目深に被って赤くなる顔を隠す。

彼女はその様子がまたツボにはまったらしく、しばらくはそうして我慢しきれなかった笑いを、口の端からもらしていた。

不器用な2人の距離が、少しだけ縮まったような気がした夜だった。

 

 

 

2人は、まだ(・・)艦長と副長の関係。それ以上でも、それ以下でも無かった。

 




陰キャ×陰キャコンビって相当に沼りますね……。

さて、こんな感じでようやっとプロローグが終わった感じです。

次回からはより賑やかになっていきます。
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