あの日から走ると決めた。
あの日差しこそが私の始まりだった。
寝ぼけていたが朝の冷たい空気で起きるとただ驚愕をするしかなかった。それの原因は気が付いた時には体が小さくなっていることよりもあるものが増えていたのが大きかった。
体を動かそうとした時に走った痛み、そちらを見ると筆のような見た目ではあるがツヤツヤな毛があったかなり細い。立ち上がってみる。そいつは、なんとも言えない感覚でブンブンと動かせる。取り敢えず、夢ではないのだろう。少しの間、驚愕と尻尾を露わにして放心していた。
触ると感覚がある。これは何なんだろう?尻尾だとはわかるがなんでついているんだ?そして、ピクピクと耳も動かせる。そして、いつもよりもかなり聞こえがいい。忘れてもいたが女にもなっている。なんで?
体を動かしてみる。かなり軽い上に靭やかだと思う。あとプラスしてあまり体で摘める部分が少ないつまり、脂肪が少ないということだ。
「本当かよこれ。動くし。意外とふさふさしてるのか?」
ここは正直にいきなりウマ娘になっていたと言えないのがおかしいのだろうが、スライドを上手くさせたようにスッとそうなっていたのだからこうなっても仕方がないよね。何より、なぜウマ娘と断定できたのかは、この部屋に姿見があったからだ。そして、さっきから存在を確認している大きい意外とふさふさの尻尾もあるぶるんぶるんと回してみる。意外とこいつは柔軟だ。それしてから触るとかなり人間の髪の毛の質とは違う毛質でそして偶に無意識に動く。黒めのブラウンな髪の毛は天然のものなのだろうか?しっとりとした光沢がある。
まずは混乱の原因である、この記憶を整理するためにノートを引っ張り出して、広げてウマ娘とはなにかを考える。ウマ娘プリティーダービーのゲームなどの記憶にあるが、残念ながらそれを視聴していた人間だった時の自分の名前は記憶にはない。
その人間だった頃のウマ娘を知っていたあちら側の俺の名前は何なのだろう?ついでに、今浮かんだきた自分の名前は往年の名馬の名前にはその名はない。もしかしたら、前人間だった頃の俺が知らないだけなのかもしれないが。そう、自分の名前は‥‥確かガレオン、そうガレオンだ。もう一度考えてみるがガレオンなどという名前は歴史もののゲームや大航海時代のゲーム、教科書でしか聞いたことがあまり無い名前だ。
こんな状況になってしまったが為に、一体全体どうすればいいのかや今の自分は本当はどちらが本物の自分なのだろうかと唸るところかもしれない普通は。が、それよりも先に逼迫した問題がある。その問題とはまだまだ自分の体は子供の体。身体の燃費が悪いのか、今、たかが起きてから時計で確認している限り3時間たっただけなのに、これまでに体験したことがない程に訳がわからない程の、とんでもなく腹が減っている。同時に自分は何者になるべきかという思いが生まれた。
とりあえずはいきなりこうなったらひとしきり、狼狽や驚愕をするのが普通だろうがなぜかスッと受け入れてしまった。ストンと落ちてしまったのだから仕方がない。
その上でも今の自分は以前の自分なのか、今は私なのだろうか?自分がウマ娘で生きてきて前世の記憶を思い出したのか、この体に憑依したのか、逆に単なる妄想なのか?胡蝶の夢という話があるがなかなか深く考えたが訳がわからない。それより腹が減った。
ウンウンやっていると呼ぶ声が聞こえる。気が付いたらこの世界の母がいて、もう夕食の時間だった。ウマ娘としての記憶もあるから母は母という感覚でしかない。意外と口うるさい。
食卓につくと成人男性が腹をすかした時ぐらいのその食事を前に食べようとしたが母がじっと見ている。
「いただきます。」
というと「今日は言えて偉いわ。」と返ってくる。
そこからは無言の自分に母はいつも通りだなと思っているに違いない。ガレオンというウマ娘は無口な子供で、何の気もなしに空を眺めていて、呼ばれたらよく食べるそれが私の評価だろう。母は優しいなと。しかし、そこで思った。前世なのか、なんなのかは知らないが、ウマ娘で警戒すべき馬の名前はわかっている。ならば勝てないだろうウマ娘の名前を見て避けれるのだ。入着を狙っていく。それにせっかくウマ娘になったのならレースに出たいじゃないかと。
そして、母の顔を見て今回ぐらいはしっかりと親孝行をすべきだろうと思った。そして食べてる途中だが決意を固めて立ち上がった。一瞬、目の前に光が走り、脳裏に稲妻のようなものが見え、足元が水にな‥‥。
「褒めたらすぐにそうやってあなたは!行儀悪い!座って食べなさい!」
もう、優しいな思った母にめちゃくちゃに怒られた。唐突に立ったのがいけないのだろう。そこから、テストの成績が悪いから東京に単身赴任の父親のところに夏休みに遊びに行く話はなしやら、無意識にやっている尻尾をホウキ代わりに畳を掃く遊びはホコリが立つからやめなさいやら、なんやら色々と言われた。
だが、その間もピンときた!まだここの価値観は昭和に近いのではなかろうか!名前もわからないあの世界の俺がやっていたことを考えてみよう。ならここにあるかはわからないが、サプリメントやEAA、BCAAやプロテインの摂取、味噌汁も必要だ。つまり、これは多分私はモブウマ娘として生まれたのだろうから、確実に勝てるまたは入着をするところに出て、なんとか勝って親に恩返しをする。その為に未来的な視点から体を作り上げることができる時間的な余地があるのだ!
食べたあとに片付けもせずに一人で納得して腕を組んでるとまた母親に「片付けなさい。」と怒られた。考えに没頭していたために自分の耳と尻尾が反射的に動いた。
こってりと怒られたあとにワクワクとする自分の気持ちを抑えて練習プランを布団の中で考える。まずこの体はどのくらいのポテンシャルがあるのだろうか?例えば走るとしても中央がいいのか地方がいいのか?なども考えなければならない。そのためにもまずは走るしかないのだろう。百聞は一見に如かず、百見は一験に如かず。それこそが必要なのかもしれない。実際どうなるかはわからないがあのアグネスタキオンに会ったらなにかわかるかもしれないから、やはり中央に行くべきなのか?
取り敢えず、レース周りがどんな感じなのか調べてみよう。わからないことが多すぎて、わからないことがわからない状態なのだ。走り続ければ道は見えるだろう。それにこの尻尾、高性能だ。これは鍛えないという道はない!モブとしてなら速さで負けるかもしれないが巧さは別だ。ステップやどちらの足を前に出すかや腕の位置に至るまでイメージトレーニングで試行錯誤をする。そして、相手の背後をついて走るようにする。これだけでも違うだろう。
仕掛ける位置さえ、予想できれば追い込みでも問題ないだろうか?速さがあるかわからないのだから化け物じみたスタミナで逃げ続ければいいのだろうか?追い込みか逃げでスタミナをつける。その際は足に負担をかけないように使い減りせずに上手くやる。これが今の目標だ。疾く早く、速くなりたいのだ。
この感覚はウマ娘の本能からくるものなのか、よくわからないがとにかく速くなりたいと思う。それだけはわかることだ。速さはスピードではなく巧さやカーブでの立ち回りもなるはずだ。直線だけではないのだ。
そうレースは直線だけではない、だからこそコースの下見も重要だ。簡単に見えるかもしれないが走るのと見るとでは違う。そうなのだ。なら、知っているのはアドバンテージになるはずだ。
さらに、足に負担をかけないようにしないといけない。関節などは摩耗するのだ。それを考えたときに導き出したのは子供であるからプールで毎日、トレーニングをし、冬場は砂浜ダッシュだ。とにかくそれの繰り返しだ。などと走ることにワクワクしている。これがウマ娘なのだろうか?
あれから一ヶ月、新聞配達のバイトを始めることにした。走る練習にもなって、金も稼げるうえにコースを覚えるのにも役に立つ、さらに言えば新聞の新規開拓も順調なようで、ウマ娘が届ける新聞として話題になってるらしい。これの途中に左右にぶれてもあまり疲れない体幹と曲がるときに疲れない重心を意識して走る。重心に鍛えている尻尾を下げてアンカーのように走れば多少、体が傾斜してもよろけはしない。そう今、私は地を走る虎のごとしなのだ。急ターンも細い道を駆け抜ける左右の小回りも完全にモノにした。
体を傾斜させ前のめりに細かく足を動かしたりしてみる。お遊びで上半身を動かさずに前傾姿勢で足だけ動かして走ってみたりもする。尻尾はすごく便利で役に立つ。
そんな生活を繰り返していると流れる時間は早い。数年ほど経過した。応募していたトレセンからの通知書が来た。内容は一次審査は終わったので、面接や実際の走りが見たいということである。その後に東京まで出ていくがなんとか親の同意をもらい、地元から送り出される形で出ていた。上京というのはいつも物悲しい。離れる街の姿を背にして自分は進む。目的地まで。都会という名の砂漠まで。
ホテルに入ったりなんなりをして、手続きに向かう。そこからはトントン拍子に決まっていき、何故か理事長に気に入られた。なぜだろうか?流星が羨ましいですとかいったからだろうか?妙に理事長に親近感が湧いた。向こうも気に入ってくれたのか妙に話しかけられた気がした。わからないが。
学校生活もそこそこにトレーニングに励む。勉強は昔からそこそこはできたので、困らなかったのが幸いだ。追試も何もない。歴史は少し変わっていたのが印象的で、ウマ娘によるステップの支配やヨーロッパにおいても少し違うようだ。だが、大きく話は変わることなく物事は推移したようだが、父親を跳ね除けたメアリー1世が反乱を起こし、更には海外に認めさせる形でアイルランド独立による王国の建国とイギリス内のジェントリや貴族のカトリック派による支援を受けて海洋国家として基礎を築くなどなかなかエキセントリックな歴史があるようだ。
そんな些細なことは置いておいても自分はトレーナーらしいトレーナーを見つけられずにただ走り続けた。それでもそれなりにも色々と渡りをつけては有名なウマ娘のトレーニングについて一緒にやっていた。とりあえず、休みを挟みながらトレーニング中もサプリなどは忘れない。ターフとダートを走り回る。インターバルを入れながら走った。
あっという間に数カ月。そろそろデビューが近づいてきた。
デビュー戦、一緒に走るウマ娘は誰なのだろうか?確認を取る。
見つけた!なになに。
1枠 ラスカルスズカ
2枠 ダイワテキサス
3枠 トウケイヘイロー
4枠 私、ガレオン
5枠 オースミハルカ
6枠 プリサイスマシーン
7枠 ダイタクリーヴァ
8枠 トゥザグローリー
9枠 カンパニー
前世の記憶なのか、よくわからない記憶があるが、相手はよくわからない名前ばかりだ。多分、スズカとダイワとヘイローと付くのは強いのだろう。気をつけないとならない。多分、3着以内には入れると思う。作ったばかりのマウスピースを口に入れ、噛みしめる。ただ何も考えず前に進めばいいんだ。
ガチャンと開かれるゲートただ前に進む足に纏わりつくのは不安なのか?中団に控えて様子をうかがう。周りが見えすぎているのかいつもよりも早く感じてしまう。いや、これは実際に早いんだ。そこに気づいた私はスピードを落とし後方で他のウマ娘の背中に張り付き体力を温存する。ハイペースに無理につく必要はない。相手の出方を見ればいい。まだレースは序盤、残り1400mもある。カーブにこそ加速と夢がある。直線よりも曲道と坂にこそこちらの起死回生がある。死を拾い、命を生かす。
『何だこのレースは!見たことがないハイペース!どれもレコードクラスで進んでいきます!一体今日はどうしたのか?重賞クラスの走り出し、レースの歩みは更に早まる!』
実況を聞くにやはり、更に前はハイペースになっていく。まるで短距離のようだ。ついていかなくて良かった。体力を温存だ。最後に進めるものだけが栄冠を掴むのだ。
最後のコーナで前のめりに走り続けるターフにめり込むほどに狂ったように追いすがる。
『ラスカルスズカ先頭、次にダイワテキサスが仕掛けます。外からカンパニーがやってきた。カンパニーかスズカかテキサスか!テキサスなのか!いや、大外から追いすがるガレオンが来た!レースはまだわかりません!』
前がわからないほどに走る。地面から水が吹き出すように感じた。そして、背中に追い風を受けた気がした。
「はぁはぁ、はぁ。」
届かなかった。私の初レースは四位で終わってしまった。しかし、それでも周りにはそれを見せずに笑顔を向ける。それがウマ娘のあり方だろうから。軽く見ていたかもしれないがそれでも、ものすごく悔しいただただ口惜し。空は青いのに晴れているのに悔しさで曇って見える。そうか。ただウマ娘に生まれたから走ろうじゃなくてガレオンとして走らなかったからかもしれない。
そうか、これが生きるということなのかもしれない、ただ非生産的に毎日を過ごし、ただ怒られないように暮らし、目立たないように息を潜める。それがここにはない。ターフの上は残酷なまでに平等だ。実力しか現れない。
ライブも終わったところ、新人ウマ娘に取材が始まる。
「ガレオンさんは一体どんなウマ娘になりたいですか?」
やっと初めて生まれてきたのに、答えなんか持ち合わせていない。レース後の酸欠も手伝ってとりあえず教科書で学んだウマ娘名前しか浮かばない。
「あっ、え、うーん。そうですねネイティヴダンサーかえー、マンノウォーとかキンチェム、クリフジ‥‥。」
記者が困惑した顔で去っていった。
レース場から出ていく帰りに後ろから声をかけられた。
「君は面白い走り方をするね。あっ、不審者じゃないよ。久保村、久保村輝彦っていうんだ。一緒に走ってみないか?」
私にもトレーナーができた。
でも、インタビューの件で尋常じゃないほどその後炎上した。こんなはずじゃなかったのに!
初めて書いてみたのでどうなのか。