悪の組織の新米幹部 死にかけの魔法少女を拾いました! 作:黒月天星
(“この施設にアナタは不要”……か。分かってはいたけど、はっきり言われると少し、堪えるな)
「アナタがこの施設に来るまでの経緯とその後の行動について、多少目を通させていただきました」
ワタシが内心落ち込んでいると、メレンさんは再びぺらぺらと書類を捲り途中の項目で指を止める。
「アナタを保護した事については隊長の判断。アナタの為に規則違反を行った事については……状況故に現場判断が優先される場合もあるでしょうし、特に責を問うという事もありません。問題なのはそれからの事です」
微妙に胸に刺さるような言葉選びの後、メレンさんは一つずつワタシのやった事。やらなかった事を挙げていく。
「安静にと言われながらも施設内の無許可の徘徊。第二次悪心大量発生時の施設外脱走。及び救出に入った隊長の……負傷。そして独断で邪因子の追加投与による変身と戦闘行動。まずこれらがアナタを保護していた職員達、そして隊長にどれだけの負担をかけていたかご存じですか?」
「……はい」
「次にリーチャーの外部協力者に隊長が任命した事。保護までは個人の判断で済ませられましょうが、外部協力者の任命となると本来副隊長の私にも話を通す案件です。そして私個人が見る限り、アナタをわざわざ外部協力者に任命するメリットは特に感じられません」
メレンさんの言葉に、言葉こそ返さずとも内心で頷いてしまう。
そう。ワタシは迷惑をかけた上に成り行きでここに置かせてもらっているだけだ。
外部協力者という耳触りの良い肩書だけど、実際は大して役に立てていない。
悪心用の戦力は元々ここの施設に常駐してるし、襲撃時も出撃はワタシの自由意思に任せると言われている。
対悪心アドバイザーとしてそれなりに話もしたけど、あくまで体験した事だけだしいずれ必要なくなるだろう。
初めて邪因子持ちになった魔法少女という意味では経過観察が必要かもしれないけど、これからもリーチャーがこの町に関わってくるのなら数も増えるかもしれない。ワタシだけが特別なのは今だけだろう。
はっきり言って、ワタシが居なくてもこの施設には何の問題もないんだ。
「そのお顔は自分でも薄々そう思っていたようですね。……結構。説得の手間が省けるのは大変喜ばしい。正式な解任と記憶処理は今少し手続きと準備がかかりましょうが……この際です。邪因子だけはこの場で先に引き剥がしておきましょう」
「えっ!? ちょっと待ってください。ここで邪因子を除去できるんですか?」
あれよあれよと話が進んでいくけれど、一つ無視できない言葉があったのでメレンさんに問いかける。
ピーターさんが言うにはワタシの邪因子は聖石と絡み合っていて、本部で本格的に邪因子除去手術を受けなくてはならないという事だったけれど。
「ああ。その事ですか。それはおそらく私という例外を伏せて話していた為でしょう。……問題ありません」
メレンさんは相変わらず微笑を浮かべたままスッと立ち上がり、ゆらりとその左腕をこちらに向けた。すると、
「うっ!?」
身体の内側から何かが吸い上げられるような感じがあって、ワタシはたまらず呻き声を漏らしながら机に突っ伏した。ガタリと中身を飲み終えた湯呑みが倒れ机の上を転がる。
「あの方達に比べれば拙い技ですが、その身から残らず邪因子を引き剥がして差し上げます」
「あ、ああああっ!?」
身体の中の何か。強いて言えば熱のような物が抜けていく。
寒い。どんどん身体が冷えていく。
最初は指先だけだったのが手首、腕、肩に広がり、もうすぐこの胸の奥の届いてはいけない場所に届く……そんな時、
ガシッ!
「おっと。そこまでにしておく事だね」
「……やはり、止めに来るのですね。隊長」
メレンさんの伸ばした腕を、ピーターさんが見た事のない険しい顔で掴んでいた。
「ピー……ターさ……ん?」
「ああ。無理に体を起こそうとしなくて良い。急激に邪因子を吸われたんだ。そのまま横になっていた方が良い」
いつの間にか呂律が回らなくなっていたワタシに、ピーターさんはにっこりと安心させるように笑いかけて、すぐにメレンさんを険しい顔でじっと見据える。
「どうしたんだメレン。こんな強行に出るなんて君らしくない」
「強行? 滅相もありません。
その言葉にピーターさんの眉が一瞬ピクリと上がり、それに合わせるようにメレンさんはゆっくりと腕を下ろす。すると身体から何かが抜け出るような感覚が薄れ、少しずつ身体に熱が戻ってくる。
「あくまで面談の一環。彼女が外部協力者にふさわしいか見極めていただけの事。そして私がふさわしくないと判断した以上、速やかに彼女には日常にお帰りいただくべきかと思ったまで」
「確かにアズキちゃんが日常に戻るべきというのは僕も同意見だ。しかしメレンのやり方では高確率で後遺症が出る。それこそ邪因子が侵食している聖石にどんな影響が出るか未知数なんだ」
「だから本部の邪因子除去手術が出来るようになるまで待てと? 隊長も分かっている筈です。本格的な手術にはそれなりの費用も時間もかかる事を。確認しますが、彼女に隊長がそこまでする価値はありますか?」
「価値の問題じゃない。
「……だから、アナタという人は」
その瞬間、ずっと微笑みを湛えていたメレンさんの表情が僅かに変わる。どこか苦々しいような、怒っているような、呆れているような、でもそれでいて……本当にほんの僅かだけど、輝かしい物を見るような。そんな複雑な表情に。
でもそれは一瞬の事。すぐさま微笑みの仮面を被り直したメレンさんとピーターさんが向かい合い睨み合う。
それから、どれだけ経っただろう? 十秒くらいかもしれないし、もしかしたら何分も経っていたかもしれない濃厚な圧と時間の中で、
「…………はぁ。仕方ありませんね。どのみち隊長が間に合った時点でこれ以上は無理筋。こちらのプランはいったん保留としましょう」
先に折れたのはメレンさんの方だった。息を吐くと共に入った時から部屋中に満ちていた圧は綺麗に消え去り、ピーターさんも心なしかホッとしたような顔になる。
「では、まだもうしばらくアズキちゃんには経過観察込みで自力で手術代を稼」
「生温いですね」
バッサリとピーターさんの言葉を断ち切り、メレンさんは突っ伏したままのワタシの辺りに膝を曲げて顔を合わせた。
「今の調子でやっていては時間がかかり過ぎます。アナタもそう思うでしょう? 只々甘やかされ子供扱いされ、名ばかりの肩書と小遣い程度の給料を溜め続ける日々は嫌だと」
「メレン。何もそんな言い方」
「お静かに。……どうです? 記録を見た所、アナタには大切な誰かが居る。そしてその人の下に戻る為に動いている。ならばこんな所でぐずぐずしている暇はない。違いますか?」
メレンさんの言葉に、ワタシは一瞬の間の後どうにか動く頭でゆっくりと頷いた。
「結構。なら……この手を取りなさい。永星アズキさん。そろそろ身体も動かせる頃合いでしょう」
そう言って右手を差し出しながら、メレンさんは……嗤った。
今までのような微笑みじゃない。口元は弧を描き、その目から感じるのは穏やかさとは真反対の相手を見定めるための冷徹さ。
「一か月です。アナタに仕事を与えましょう。アナタに課題を与えましょう。アナタに、
「待てメレン。一体何をさせる気……アズキちゃん?」
そうだ。ワタシはいつまでもここに居る訳にはいかない。
ある意味で前よりも穏やかで、自分を見る目も優しい物が多くて、頼れる人も居て、戦わなくて良いと言ってもらえる場所だけど……ここにはワタシの一番の大切が居ない。
なら戻らなきゃ。ワタシがあの子をこちら側に引きずり込みたくなる前に、ワタシがあちら側に戻らなきゃ。
グッ!
「……はい。お願いします」
「契約成立ですね」
ワタシは、心配するピーターさんを横目に……“微笑みの悪鬼”の手を取った。
ギスギス超圧迫面談からの悪の組織仮採用でした。
なお、普段だったらもう少しメレンも新人に対して(壊れない程度に)優しい面談なのですが、アズキに対してはとある事情で最初から好感度マイナススタートです。ピーターや他の面子みたいに優しくはしてくれません。
評価
メレン→アズキ
貴重な邪因子持ちの魔法少女 +10点。
戦闘能力まあまあ +5点。
親が政府高官なので使い道はある +30点。
施設の職員達との関係性は一部を除き良好 +5点
XXXXXXXXXXXXX隊長をXXXX -100点。