悪の組織の新米幹部 死にかけの魔法少女を拾いました!   作:黒月天星

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閑話 ある魔法少女の一日 その三

 

「すみませ~ん! 永星チサちゃんに会いに来たんですけど」

 

 スズラン寮の入口に居た寮監に一声かけ、チサが部屋に居る事を確認するとコムギは寮の中に入る。

 

 寮ごとに多少内装の差はあれど、それでも基本となる設計は同じであり、ましてや今のチサの部屋はかつてアズキが居た部屋。

 

 勝手知ったる道のりであると、コムギは迷うことなく歩みを進めていく。道中コムギを見たスズラン寮生の何人かがひそひそと噂しているが、そんな事よりも重要な事がコムギの中にはあった。それは、

 

(どうしよう。チサちゃんにアズキちゃんの事打ち明けるべきかなぁ? でもアズキちゃんには黙っててって言われちゃったしなぁ)

 

 コムギは知っていた。チサがアズキの事を表面上は嫌っていても、本当は自分の超えるべき目標としてずっと気にかけていた事を。

 

 何度勝負を挑んでは負けたり引き分けになったりして、最後は捨て台詞を吐いて去って行っても、決して勝つ事を諦めず努力してまた挑もうという彼女なりの姉へのコミュニケーションだったのだと。アズキ本人は微妙に勘違いしていた節があったが。

 

 だが、アズキが行方不明になってからチサは変わった。目標を失い、一言でいえば荒れた。やりきれない感情を悪心にぶつける様は、まるで悪心のようだったという噂すら流れた。

 

 そしてそんな状態のチサと、コムギはしばらく距離を置いていた。コムギもまた、アズキが居なくなった当初はチサの事を心配出来る余裕はなかった。

 

 しかしアズキの生存を知り、他のチームに編入してある程度自分にも余裕が戻ったコムギは、こうしてチサの様子を見に行く事にしたのだ。

 

 あれこれ考え事をしながら歩いていけば、いつの間にかコムギはチサの部屋の前に辿り着いていた。あと数歩。たった数歩歩いて扉をノックすればもう引き返す余裕はなくなる。その瞬間コムギの脳細胞はとんでもない勢いで活性化し、

 

(…………よし。決めた。出たとこ勝負で行こう)

 

 すぐ考える事を止めた。

 

 うじうじ考える事よりもまず会って話さなきゃと。しばらく会えなくてごめんと伝えなくてはと、コムギはコンコンと軽く扉をノックし、

 

「あれ? ど~したんですかコムギ先輩」

「あわわっ!?」

 

 すぐ後ろから聞こえた声に飛び上がって驚いた。慌てて振り向いたコムギが見たのは、

 

「こ、こんばんはチサちゃん」

「はいこんばんは。珍しいですねこんな時間に。ウチの寮監さんに止められませんでした?」

 

 ()()()()。荒れた様子などまるで感じられず、ちょっと部屋を出ていただけという感じのチサの姿だった。

 

「うん……すっごく苦い顔してた。ここの寮監さん門限に厳しいもんね。でもちょっとだけって言ったら渋々通してくれたから」

「そうですか。まあこんな所でなんですから中にどうぞどうぞ!」

 

 カードキーを扉に差し込み、鍵を開けてさっさと中に入るチサ。

 

(あれ? あれぇ?)

 

 予想とは大分違う姿に戸惑いながらも、コムギはお邪魔しますと一声かけて後に続こうとし……部屋の中を一目見て足を止めた。何故なら、

 

「うんっ!? あ~……これはお見苦しい所を。一人部屋だからつい派手に。気になるようでしたら布でも掛けますけど?」

「いや良いの。なんかこう、知らないんだけどすっごく覚えがあるなぁって思っただけだから」

 

 ちらりと見えた部屋の一角。壁一面に張りつけられた大量の新聞や雑誌の切り抜き。そしてどの記事も同じ人物の事を書いた物……そう。

 

『謎の魔法少女現るっ!』『悪心殺しの英雄』『リーチャーなる組織、政府が目下捜索中』『自称雑用係見習い。ネル・プロティの正体とはっ!?』

 

「はあ……一体どこに居るんでしょうね()()()。是非もう一度お会いして、あの時は碌なお礼も出来なかったから何かご馳走でもして、出来れば……出来ればその、一度お手合わせとか、こうわたしが全力で向かって行っても簡単にあしらわれたりして…………きゃああっ!」

 

 自分のコレクションを片手にそう言って顔を赤らめながら身悶えするチサの様子は、どこからどう見ても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 

 

 

「はい。チサちゃんこれ。好きだったでしょ?」

「おおっ! これは購買で期間限定コラボしてる朝四堂のみたらし団子じゃないですかっ! これは早速頂かなきゃ。お茶淹れますからちょっとお待ちを。ほうじ茶で良かったですかね?」

「あっ……急がなくて良いからね。ここを出るまでもう少し時間あるし」

 

 ルンルン気分で席を立つチサに声を掛けながら、コムギはそっと部屋を見渡す。

 

 部屋の間取りは以前アズキが住んでいた時と同じ。しかし内装が少しずつ違うのはチサの個性によるもの。その中でもやはり一際目を引くのは、巷で噂のネルという謎の人物の記事が貼られた壁だろう。ここがあまりにも濃すぎるという話でもあるが。

 

(う~ん。やっぱり姉妹なんだなぁ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っけ。同じ寮になってからはめっきり減ったけど)

 

 ちょっぴり恥ずかしくも、親友が顔を赤らめた可愛いエピソードを思い出してコムギはふふっと笑う。

 

(でも、実際このネルって人何者なんだろう? 平岡さんが言うには政府も動いているみたいだけど正体不明のままだっていうし)

 

 ネル・プロティ。第二次悪心大量発生時に突如として現れ、多くの悪心を単身苦も無く撃破し消えていったという謎の人物。政府でも登録されていない謎の魔法少女(?)とあって、世間では大きな話題になっている。

 

 チサが助けられたというのは記事としての情報だけはコムギも知っていた。流石にここまでの熱狂ぶりまでは予想していなかったけれど。

 

 そしてこの謎の人物に対し、コムギにも思い当たる節がない訳ではなかった。時を同じくして自分を助けに現れたアズキ。そのアズキが言うには自分を助けてくれた人達が居るという。ネルという人物はもしかしたらそちらの関係者なのかもしれないと。

 

「お待たせしました~! お茶が入りましたよ」

「わあ! ありがとう」

 

 そこへ湯気を立てる湯呑みとみたらし団子を乗せたお盆を持ってチサが帰ってきたので、コムギは考えを中断して顔を綻ばせる。

 

「じゃあ早速食べましょうか。いただきます!」

「いただきま~す!」

 

 そうして始まる二人だけの小さなお茶会。一口ごとに口内をねっとりとした蜜が甘みと共に蹂躙し、しっかりと弾力のある団子が躍る。そして時折温かいほうじ茶で全てをリセットし、再び甘味が暴力的な美味さとして顕現する。

 

 しかし育ち盛りの少女が二人。あっという間に団子は一つ減り二つ減り、遂には満足げに茶を啜る少女達の至福の代償として、からんと残った串だけが皿に横たわるだけとなった頃、

 

「それで、今日は本当にどうしたんですか先輩?」

「うん? うんとねぇ…………何でもない。ただ何となくこの所忙しくて会えてなかったなぁって」

「もしかして……お姉ちゃんが居なくなったわたしの事を心配して、ですか?」

 

 突然の静かだが鋭い言葉にコムギは一瞬だけ沈黙し、その後すぐうんと小さく返した。

 

「はぁ……まったく。それを言うなら先輩の方こそでしょ? この前会った時なんかひっどい顔してましたよ。……何があったか知らないけど、今は大分マシな顔になっているようでホッとしました」

「そう……かな?」

 

(それは、自分だけアズキちゃんが生きている事が分かったからだよ。そうじゃなかったら多分……わたしはもっと)

 

 そう言いたいのをぐっと堪えていると、チサは軽く姿勢を正して少し真剣な色を瞳に映す。

 

「これ、先輩だから言うんですけどね。わたし、お姉ちゃんに一回で良いから勝ちたかったんです。最初は母様に可愛がられてるお姉ちゃんが憎たらしかったなんて理由でしたけど、それがだんだん勝つ事自体が目標になってきて、いつかは勝ってみせるってずっと思ってました。だから居なくなってしまって……今でもガックリ来てるのは事実です。でも」

 

 その瞬間、チサの表情にどこか穏やかな色が混ざった。

 

「わたし、これでも現金で切り替えの早い方なんですよ? このネル様に助けられた時、一瞬お姉ちゃんと姿がダブって見えたんです。それでこう思っちゃったんですよ。『ああ。()()()()()()()()()この人にもし勝てたなら、もしかしたら……わたしも変われるかも。天国のお姉ちゃんに、胸を張って自慢できるかも』なんて。あっ!? でもでも、ネル様にお礼を言いたいのとかも混じりけなくホントですからね。まあネル様からしたら迷惑な話かもですけど」

「ふふっ。そうかもね。……でも、それが立ち上がるきっかけになったならそれで良いんじゃないかな?」

 

 もし最悪チサが荒れたままだったなら、それこそ命に関わるかもしれないと判断したのなら、嫌われる事を覚悟の上でコムギはチサにアズキの生存を知らせるつもりだった。だが、

 

(チサちゃんは……うん。これなら大丈夫)

 

 その目はきちんと輝きを取り戻していた。仄暗くやり場のない怒りや憎悪が無くなった訳ではない。でもそれに負けないくらいの光が今のチサから感じられたので、コムギはいったん全てを白状するのを取りやめた。

 

 

 

 

 

 その後、次は町へ一緒に食べ歩きに行く約束をしてアズキはチサと別れ、スズラン寮を後にした。そして自寮であるヒマワリ寮に帰りつき……門限を破って寮監にこっぴどく叱られたのは余談である。そして、

 

 

 プルルルル。プルルルル。ガチャ!

 

 

「もしもし。……あっ! アズキちゃんっ!」

 

 その夜も友からの電話を受け、コムギはその顔に笑みを浮かべる。他愛ない話の中で、いずれ親友が戻るであろう日常を語りながら。

 




 しれっとネルのファンになっていたチサでした。目標を失っていた所に命を救われ技に脳を焼かれ言動に姉をダブらせるというコンボでしたからね。普通に姉が生きてる事を知ったら……ま、まあ推しも目標も何人居ても良いですし。




 なお余談ですが、永星姉妹ではなく永星家全員が割とこんな感じです。一定以上の好感度を持つ相手に対して良くも悪くも拗らせまくります。
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