嫌々ながら魔法少女になりました   作:紙吹雪

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それが脱走して両足で立っていることが確認された場合、あなたができることは1つだけです。
姿勢を正しくして、両手を組み、あなたが信じている神に祈ってください。






Hello?




魔法少女と決着

 

 赤い繭が弾ける。そして、化け物は……またもや姿を変えた。

 

 今度は打って変わって、赤い巨人のような姿だ。比較的人間に近い形態で、ちゃんと二本足で立っている。

 

 但し、頭部は変わらず巨大な眼球と腕が飛び出ていて、顔は不揃いな程大きな口と眼で構成されている。右腕は棘が付いたでかい棍棒のようで、左腕は鋭利な爪が生え揃っていて手のひらの真ん中には口が備わっている。腹からは腸と思わしき何かが大きな穴から垂れ下がっていて、見ているだけで吐き気を催す狂気を孕んでいる。

 

 勇気の無い者なら、見ただけで発狂しても何らおかしくない化け物。正直、今すぐにでも逃げ出したいと心が叫んでいるが、生憎扉はいつの間にか閉まっているので逃げ道は何処にもない。つまり、今戦うことをやめれば……出来ることは神に祈るのみって訳だ。

 

 心が折れそうな事に、化け物のHPがまた回復していた。全回復はしていないものの、この膨大なHPを削らなければならないのは気が遠くなりそうだ。

 

 

 

 だが……諦める理由には、まだ程遠いよなぁ?

 

 

 

「……行くぞ!」

 

「……うんっ!」

 

 私は己の心を奮い立たせて化け物と対峙し、エリーもそれに続く。私の身長が一般的な成人女性と比べてもやや低いのを鑑みまいがこの化け物とは見上げる形になってしまう。あのエリーですら比較すると小さく見えてしまう程の巨体。

 

 だが、私にとっては相手の体格差による不利なんていつもの事だしその程度じゃあ怯まないぞ。寧ろ、撃ち倒してやろうと言う気概すら湧いてくる。

 

「(何をして来るか分からないから、先ずは一旦距離を取って……)」

 

 

 

 ——そう考えていた矢先だった。化け物はその巨体を屈ませた後、驚くべき事に言葉を発した。

 

 

 ……心を無理やり掻き乱そうとしてくるような、老若男女の声を混ぜ合わせたかのような声だった。

 

 

Hello?

 

 

「んな!?」

 

 私はNWOを始めてから一番だろう驚愕を隠し切ることができなかった。

 

 私が驚いた理由は化け物が喋ったからではない。いや、理由の一端ではあるのだが。

 

 化け物はしゃがむと同時に左腕を私に向けられていて……手に生えていた爪が私に向けて発射されたからだ。

 

「かはっ……」

 

 彼我の距離が近かったこともあるが、それ以上に高速で撃たれた爪に反応すら出来ずにまともに食らってしまった。最近HPにステータスポイントを割り振ってなかったら最悪即死だっかもしれない。

 

 ……少し反省しないとな。後衛が迂闊に敵に近づくと痛い目に遭うなんて常識だろうに。だが、少し悔しくもあるな。もっと注意していれば躱せたと思う。って、反省会は後だ後!

 

「ソラノっ! 大丈夫?」

 

 エリーは射線上から外れていた為当たらずに済んでいたようだ。攻撃範囲自体は然程広い訳じゃないようだ。

 

 エリーは化け物に槍を突き刺しながら叫ぶ。しかし、あまり効いているようには見えない。先程私が付与したVITを下げる効果はまだ生きている筈なのに効き目が薄いのは、おそらく形態が変わってまたVITが上昇したからだろう。

 

「なんとかなっ……これくらいなら継戦可能な範疇だ」

 

 私はエリーにそう返事をして最初とはかなり様変わりした化け物と真っ向から向き合う。何せ私にはダメージを与える事でHPとMPを回復できるのだから、極論死ななければ何も問題はない。

 

 しかし遠距離攻撃持ちとは厄介な。一発くらいならなんとか耐えられるし、なんなら避けられると思うが……それでも常に爪を飛ばす攻撃を意識していないと下手したらエリーごと刺し貫かれかねない。どうもあの攻撃は貫通するみたいだからな。最初と比べてやり難いったらない。

 

「来るよっ!」

 

「ぐっ、デカくなった癖にスピードが速くなってやがる!」

 

 私に狙いを定めた化け物は棍棒のような右腕を振り下ろす。化け物の速さはもはや私達とほぼ同等レベルにまでなっていた。硬くてデカくて速いとか、ふざけやがって……!

 

「【フレアアクセル】!」

 

 AGIを上げるスキルを使って、振り下ろしを躱す。先程の爪を撃ち出すやつよりかは避けやすくて良心的な攻撃だが、あの巨大で殴られたらひとたまりもないだろうな。

 

 仕方ない、一旦様子見して隙を見つけてちまちま削って行くしかないか。あまり趣味ではないが……現状、それ以外方法が思いつかん。

 

「エリー、一度距離を取って——」

 

「ソらノっ! だイジョウぶ?」

 

「……え?」

 

 先程のエリーと同じセリフなのに、発音や声質は似ても似つかないその声は……化け物が発していた。

 

「ソラのっ! ダいじょウブ? そラノっ! だいジョうぶ? ソラノっ! ダいじょうぶ?」

 

 そのセリフは、段々とエリーの綺麗な声質やイントネーションに近づいていた。本物と間違えしまう程のクオリティで。

 

 ……このボスを考えた奴は性根がねじれているに違いない。きっと良心を地獄にでも置いてきたのだろう。そうでなければこんな化け物を作りはしないだろう。

 

「気にするなエリー! 戦闘に集中しろっ!」

 

「うん……このっ、ビビらせやがってこの赤い全裸の巨人がよォ! 絶対やっつけてやる!」

 

 いや全裸って……まあいいか。

 

「とにかく、一旦距離を取るぞ!」

 

「うん……いや待って! あいつのHPを見て!」

 

 エリーの言葉に化け物のHPを確認すると、僅かだがHPバーの残量が増えていた。

 

「あれって多分……リジェネ持ちだこいつ!」

 

「リジェネってなんだ……っ、【星弾】!」

 

 私は化け物の攻撃を避けながら【星弾】で牽制をしつつエリーに問い返す。

 

「要するに、あいつは持続的にHPが回復するってこと!」

 

「なん、だと?」

 

 それはつまり、長引けば長引く程不利になるってことかよ!?

 

「だけど……今は回復していない。これはウチの予想だけど、しばらくダメージを与えられないとHPが回復するんじゃないかっ、な!」

 

 エリーが化け物の右腕を受け流しつつ、そう叫ぶ。

 

「なるほど……なら、やってやれなくはないかな! 【星弾】!」

 

 エリーごと巻き込んだ星の弾は無事に命中したが、ダメージは小さいようだ。現状、この化け物に効果的なダメージを与えられる方法は……一つしかない。

 

「【挑発】! 【疾風突き】! ソラノ、ウチが時間を稼ぐから!」

 

 どうやら、エリーも同じ結論に至ったようだ。なるべく早く詠唱を終わらせなければ……

 

「ほら、こっちだこの怪物!」

 

 エリーが作ってくれる時間を無駄にはしないっ!

 

 

 

 私が【アルカナスレイブ】の詠唱を始めようとしたその時。

 

 エリーと相対していた化け物の右腕が巨大な斧のような形に変化する。圧倒的な質量を誇っていそうな凶器を、化け物はエリーの脳天目掛けて振り下ろした。

 

 

Good bye

 

 

「っ、まずっ」

 

 

 

 

 

「【フレアアクセル】ッッッ!!」

 

 エリーの動きに、油断はなかった。しかし、付き合いの長い私には後ろ姿でも分かる程に化け物の突発的な攻撃に対応しきれていなかった。

 

 私は、半ば反射的にエリーの元へと駆けていた。

 

「(間ーにーあーえーッ!!)」

 

 視界がスローモーションに見える中、重心を低くしエリーに突進する。

 

「っぎゃあ!?」

 

 全力でなりふり構わずに走ったお陰か、化け物が斧を振り下ろす前に私はエリーを突き飛ばして私もまた慣性の法則に従ってエリーが突き飛ばされた方向へ。

 

 不思議にも、化け物が右腕を振り下ろした風切り音はしなかった。間違いなく振り下ろされた筈なのだが、そう言った音は私の耳には入ってこなかった。

 

 必死だった所為なのか、はたまたあの巨大な斧が空間すら引き裂いたのかは一先ず置いといて……

 

「……油断すんなこの馬鹿っ!」

 

「いやあれは初見は無理だってば! ソラノだってさっき爪当たってたでしょ!?」

 

「ぐぬぬ……いや、言い争いは後だ! 時間稼ぎ、頼むぞ!」

 

 私は化け物を見据えて杖を構える。今度こそ、絶対に唱え切ってみせる。

 

「当たり前田のクラッカーってね! 【挑発】!」

 

 前田とやらが誰なのかは分からないが、エリーならもう問題はない。

 

 仕留めるぞ、必ず。

 

 

 

「——正義よりも碧き者よ、 愛よりも紅き者よ!」

 

 

「さあ、ほんのちょっとの間だけウチに付き合って貰うわよ!」

 

 エリーが化け物の攻撃を打ち払い、時々突きを入れる。ダメージ目的ではなく、回復を阻止する為だ。

 

 

「——運命の飲み込まれし その名の下に 我、ここで光に誓う!」

 

 

Hello?

 

「させるかっ!」

 

 再び放たれようとした爪の弾はエリーが槍で左手に攻撃したことで射角は微かにだがズレた。

 

 私の顔の横を通り過ぎる爪弾の風切音を努めて無視して詠唱を続ける。

 

 

「——我が眼前に立ちはだかる 憎悪すべき存在達に……」

 

 

 詠唱している私の方を、化け物は歪な瞳で見やる。

 

 ……化け物がどう思っていようがもう遅い。

 

 

「——我とそなたの力をもって、 偉大な愛の力をみせしめん事を!」

 

 

 ……チェックメイトだ。

 

 

「——【アルカナスレイブ】ッ!!」

 

 

 気合いを入れて放った【アルカナスレイブ】だ。絶対に削り切ってやる!

 

 これで倒せなかったらもはや打つ手無し。やるしかないのだ。

 

 しかし……

 

Ah......

 

「何っ!?」

 

 化け物は【アルカナスレイブ】のビームから逃れようと足掻いている。通常時よりも明らかに緩慢な動きだが、このままではHPを削り切る前に化け物が脱出してしまう。

 

 私は【アルカナスレイブ】を使っている間は動くことができない。もはや私にできることは全部やった。

 

 ……頼むぜ?

 

「——任せとけっ!!」

 

 私の心の声でも聞いたのか、エリーが頼もしくそう返事をしてくれた。

 

「知らなかったのかよ化け物、必殺技はなぁ……逃げちゃあいけないんだぜぇぇ!!」

 

 そう叫び、エリーは化け物の足を槍で思い切り払った。【アルカナスレイブ】を受けてボロボロになっていた化け物は、平常時では大したことのないだろう攻撃でバランスを崩した。

 

 もはや抵抗すら許されず、化け物は光の粒子へと化した。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「……倒したん、だよな?」

 

「そう、みたいだね……ほら、帰りの魔法陣も出てるし」

 

 エリーの言葉に視線を空間の奥へと向けると、たしかに魔法陣が光っているし宝箱も出現している。本当にやったん、だな。

 

「はあぁぁぁ〜……」

 

 今までの緊張がようやく解けて、思わず腰を下ろす。しばらくはもう何もしたくない気分だ。

 

「疲れたね……」

 

「ああ、本当にな……」

 

 負けるかと思った……ああ、もうこんな辛い戦闘は流石にご遠慮願いたい。忘れそうだが、まだイベント二日目なのだ。これ以上厳しい戦闘が発生する可能性が決して否定できんのが悲しいところだ。

 

「……ほら、宝箱開けに行こう」

 

「ソラノー肩貸してー……あー、肩の位置が違いすぎるから無理かぁ」

 

「うっせ。おら、とっとと足を動かせ」

 

「あーい……」

 

 愚痴を溢すエリーを叱咤しながら宝箱へと向かう。さて、激闘に見合う報酬じゃなければもうイベントの残り日数を全て寝て過ごしたくなりそうな気分だが……

 

 私は疲れからか若干震えた手で宝箱を開ける。中には……おお、メダルが六枚も入っているぞ!

 

「これな、何とか苦労に見合うかなぁ……で、それだけ?」

 

「いや、あとスキルの巻き物が二つ分……それぞれ別々のスキルっぽいな。あ、あと剣も入ってる」

 

「へー……どんなの?」

 

「今確認する……どれどれ」

 

 

【模倣】

触れた相手の姿をコピーする。

装備やステータスもコピーした対象のものに置き換わるが、スキルは使用できない。

ダメージを受けると即座に解除される。

使用可能回数は一日二回。

 

【堅牢】

常にHPの20%以下のダメージを無視できる。

 

 

 むむ……前者はよく分からんが後者は普通に使えるんじゃないか? これはVITの高いエリーが取得すべきだろう。

 

 で、武器の方はっと……

 

 

【ミミクリー】

【STR+30】 【VIT+30】

【再生】

 

【再生】

常に与えたダメージの25%を回復。

 

 

 おぉ、流石に強いなこれ! 私では装備出来なさそうだが。しかし、この武器にも眼が付いてやがる……まあ私が使う機会は無さそうだしいいか。

 

「エリー、お前にはこっちのスキルの方が……」

 

「ウチ、この【模倣】ってスキルが欲しい!」

 

 ……ふむ。ちょっと嫌な予感がするな。もしかしたら未来の私から危険信号でも受け取ったのかもしれない。

 

「一応聞くが何故だ?」

 

「いや、これを使えば悪さできそ……ごほん! あー実は最近ねーちょっと悩みがあってねー」

 

「えいっ」

 

「あーっ!」

 

 エリーがSTRに任せてスキルの巻き物を奪い取る前に私は【模倣】の方のスキルの巻き物を使用した。

 

 未来の私よ、運命は変えられたぞ……疲れているからか思考がちょっとおかしい気がするな。

 

「ぶー……まあいいけど」

 

「そうむくれるな。ほら、武器はやるから」

 

 

「は? ウチに槍以外の武器を? は?」

 

 

「……私が持っとくよ」

 

 悪意に満ちた笑みを浮かべたと思ったら真顔でキレて……長い付き合いだがイマイチ掴みきれない奴だな。

 

「まあいい。早く魔法陣に乗ろう」

 

「あ、それは賛成」

 

 忘れかけていたが、壁を見渡せば未だに沢山の眼がピクピクしている。このままでは疲れた精神にトドメを刺されてしまう。

 

 精神がまだ無事なうちに私達は魔法陣の上に乗り込んだ。やっとこさこの空間から解放されるよ……

 

 






I love you......






今更ですが二日に一話投稿がお気に召したのでこのまま継続しようと思います。

今回手に入れたスキルは後程修正が入るかも。
【堅牢】はともかく【模倣】は色々と悪さ出来そうなので……


Next. < 来いよ青マフラー、短剣なんか捨てて掛かってこい!

ぶっちゃけどのお方の登場を期待している?内容によって色々考慮します。

  • 白夜
  • 終末鳥
  • 赤い霧
  • 調律者
  • 蒼星様
  • 盲愛様
  • 黒い沈黙
  • ドンファン
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