ふと思ったんですが時間加速って特異点では?
私達【楓の木】は洞窟に転移していた。中にはオーブを置く台が設置されている。これが私達のオーブなのだろう。誰からも奪われないように守らねばな。指一本触れさせない心意気だ。
一応、念の為にルールの復唱をしておくか。
今回のイベントはオーブ奪い合い戦だ。他のギルドのオーブを盗って自軍に持ち帰って三時間防衛すれば1ポイント、小規模ギルドの場合は2ポイント。私達【楓の木】は小規模ギルドだから2ポイントだな。逆に盗られたギルドはマイナス1ポイント。また、自軍オーブを六時間防衛するごとに1ポイント。
まあ、要するにオーブ奪い取ってしばらく護ればいいってことだな。なお、奪った他軍オーブは時間経過で元の場所に戻るらしい。自軍オーブが何処にあるのかはマップで確認できるらしい。拠点の位置は容易に割られる上に防衛に失敗すると中々痛い目に遭うと覚えておこう。マップに逐一拠点のある場所をマークして行くのもありかもな。
なお、イベントは五日間らしい。同じく時間加速があった第二回イベントと比べると日数が減ったな。あの時も終盤は余分だった気もするし英断かもしれない。また最終日に皆でトランプするのもそれはそれで悪くないのかもしれないけど、時間加速のイベントの度にそうするのは流石に運営が泣きそうだ。
さて、私は攻撃するチームに編成されている。攻撃するチームは私、サリー、クロム、カスミの四人。防衛はメイプル、エリー、ユイ、マイ、カナデ、イズの六人。まあ、様子を見て編成メンバーは変わる予定だがな。特にメイプルとか。
私も事前に回復が不必要そうなら回復の役目を捨てて攻撃に回ると公言しておいた。初日は様子見するつもりだ。下手に序盤から本気出してバテたら後半持たないしな。体力にはそこそこ自信はあるが、どれだけ激戦になるのかは想像が付かないからな。ここは慎重に行くべきと判断した。フレデリカから聞いた【炎帝の国】の強者の情報もあるしな。
【トラッパー】マルクスに【聖女】ミザリー、【崩剣】のシンだったか。ロウの名前は出てないな。ちょっと調べたが、あいつは第一回イベントには出場していないらしい。だからと言って慢心するつもりはない。一度奴に会った時は装備は良さそうなのだったし、あいつはかなり戦えそうな雰囲気だったし。
全員、普段の私のようにローブを身に付けている。主にメイプルの身バレを防ぐ為だ。有名人になるとそうしなければ警戒されるとは誰の談だったかな。
それにしてもこの洞窟は出入り口が一本道だから非常に防衛しやすい立地だな。メイプル達ならばそんじゃそこらの輩に遅れは取らないだろうし安心して攻めに行けるな。メイプルなら平地でも余裕で守れそうではあるが、もしもの事態……危機参謀の時ってやつがいつやって来るか分からないからな。油断は禁物だ。
私は一応何かあった時の為のヒーラーとして着いている。クロムには必要な場面もあるだろうし場合によってはカスミにも回復が必要になる機会があるかもしれない。サリーに関しては……うん。まあ保険だよ保険。無いよりかはマシだきっと。
それでたった今、小規模ギルドを制圧し終えたところだ。何と言うか……私の出番がまるでなかった。
クロムは盾できっちり受け止めているからダメージ無いし、カスミも寄られる前に切り捨てるし、サリーはそもそも攻撃が当たらないし……やれやれ、本当にヒーラーが不必要に思えるメンバーだな。私も適当に攻撃魔法を撃ったが、正直あってもなくても関係ない気がしてきたぞ。これでも結構威力がある魔法なのにな。
「まずはこれで一つ。カスミ、これ拠点に持って帰ってくれる? 私は周りの偵察をしてくる」
「承知した。気を付けてな」
「……油断はするなよ」
「はーい」
ふむ……サリーなら多分平気か。しっかりしている子だし、何か考えがあるんだろう。
サリーは足早に走り去って行った。持ち帰る成果を楽しみにしておくか。
「メイプルも相当だが、改めてサリーもバケモンだな」
「ああ、味方で良かったと心から思う」
「私はちょっと手合わせしたいが……」
【黄金狂】を覚えた今ならある程度戦いになる気がする。武器を無効化できれば何とか勝てそうとは何度かサリーとの戦闘を脳内シュミレートした私の感想だ。無手での勝負なら親父を除いて誰にも負ける気がしない。《NWO》は別に路上ファイトするゲームじゃないからそんな状況は狙わないと起こらないだろうけど。
「ええ……?」
「自分で言うのも何だが……私も割と戦闘狂だってことだよ」
それも最近知ったがな。
「……ふ。一度拠点に戻るか。ついでに奪えそうなオーブがあれば奪おうか」
「ああ」
「おう」
◆ ◆ ◆
初日の夕方くらいの時刻。丁度攻撃チームが全員拠点に帰還している間に襲撃者がやって来た。カナデの合図で皆が入り口に繋がる道へと身体を向けた。時間的には最初に襲ったギルドだろうか? 案外他ギルドと一時的に手を結んだ連合軍とかかもしれんな。オーブを取り返す為に手を組むとか、有り得ない話ではないだろう。
まあ、その予想はやって来ている人数的には外れたのだが。
「そう言えば、十人で一緒に戦うのって初めてだね!」
「ん、言われてみればそうだな」
全員で集まる機会はあったが戦闘したことはないな。メイプルが化け物を従わせたり化け物になったり機械を身に付けたりはしたが。
「メイプル、いつもの頼む」
「りょうかーい!」
いつものとは【身捧ぐ慈愛】のことだ。天使の羽が生えてくるのはいいが、感覚とか繋がっているのか少し気になるのは秘密だ。
襲撃者達は私達に向けて魔法を雨のように降り注がせてきたが、メイプルのお陰で完全に無傷だ。相変わらず、とてつもない防御力だ。貫通スキルでもそう簡単にはぶち抜ける気がしないな。でも、いつか挑戦してみたいな。
魔法攻撃が全く通らないことに動揺している間にユイとマイがイズが大量に生産してくれていた鉄球を次々と【投擲】していく。
顔面に鉄球がめり込む姿はとても痛そうに見えるしちょっと敵が哀れに思えてきた。これで即死なんだからとんでもない火力だな。私も【投擲】はたまに使うから分かるんだが、普通に武器を払った場合と比べると威力は結構控えめになるんだよな。それでいてこの威力とは……いっそ、【模倣】を使って双子に混ざるか? 拠点の防衛をしている時にはそうしてみるのも一つの手かもな。
逃げ出そうとした奴もいたようだが、カナデが【パラライズレーザー】と言う魔法で動きを止めた。何それ、私も覚えたいぞ。便利そうだな……ああ、動けなくなったプレイヤーはサリーの餌食になった。
せめて一太刀とでも思ったのか、残り一人となったプレイヤーが突っ込んでくる。でも、突っ込んだ先は……
「まさか、何故だ!?」
そのプレイヤーが突き立てた剣は音を立てて弾かれた。何故なら、相手がメイプルだったから。
「メイプルかよ……」
それがそのプレイヤーの最後の言葉だった。
うむ、戦闘を眺めるのもたまには悪くないものだな。正直私も早く戦いたくて身体がうずうずしている。が、もう少しだけ我慢しよう……
「やーん、私達出番がないねぇ」
「何、すぐにやってくるだろうさ」
エリーはつまらなさそうに持っている槍で遊んでいる。なんか、凄い演舞みたいなことをしてる。その動きはかなりスピーディかつ高精度で、素人目にも達人の技なのが分かるんだが……
「うふふ。エリーの性格、私嫌いじゃないわ」
「……うん、そう言ってくれるのは嬉しいな」
エリーは自分のことをイズにも教えたらしい。秘密にしているままなのも心苦しいとかなんとか。でも、イズは意外と容易に受け入れたようだな。
私も少し調べてみたのだが、昔のエリー……カリスマモデル『ユリエ』はまるで別人のように完璧な美女だったな。今の姿を見るとファンが嘆きたくなるような。
イズもユリエの大ファンだったらしく、今でもユリエが雑誌で身に付けていたアクセサリーなんかのデザインを参考にしているらしい。
エリーは昔のファンが今の自分を見たら嫌な顔するだろうし失望されても当然だろうと考えていたようだが、イズは割と受け入れてくれたのが嬉しいらしい。普段のだらしないにへら〜っとした笑顔じゃなくて幸せを噛み締めるような微笑みを浮かべている。昔は結構悩んだらしいが……
……ま、喧嘩にならなかったようで何よりだと思うか。
そんな話をしていると、台の上のオーブが消えた。元のギルドに戻ったのだろう。これで得点が加算された筈だ。
「だが、まだ十七位か……」
私達の目標である十位以内にはまだ達していない。何故十位以内かと言うと貰える報酬が最も良い物になるからだ。それなりに良いペースだと思っていたがやはりもっと頑張らなければ達成できないみたいだな。
私の言葉を聞いてかサリーが立ち上がった。まさかまた出るつもりか? あまり休めていないように見えたが……
「さて、もう一回行ってくるよ」
「え、もう?」
メイプルも意外そうにしているな。やはり、私の思っている通りあまり休めてないのだと思う。
「明るくなったら奇襲とかやり辛くなるからね。ここはお願い」
「……待て」
サリーが出立する前に私はサリーを呼び止めた。
「なんでしょう……っ」
私はサリーに近付いて、無言でわしわし頭を撫でてやった。
私はあまり口数が多い方ではない。だから、口で伝えるのは得意ではないから。
「……身体に気を付けて行ってこい」
「……はい!」
サリーはいい返事をしてから出入り口へと走って行った。まだ少し心配なんだが……うーん。
「集められる内に集めようって考えなんでしょうね。小規模ギルドは早い段階で全滅する可能性が高い。そうなればオーブは消えてしまってポイントが取れなくなる。だから、中小規模ギルドが残っている内にできる限り順位を上げるつもりなのよ。そうしないと人数の多いギルドには敵わないから」
「にしても、ちょっと頑張り過ぎって気がするが」
「サリーのことだ。何か他にも考えがあるのかもしれん」
サリーは長いことゲームやってるらしいからな。それに、考え無しで行動するタイプではないし。
だが、もう少し他人を頼ってくれても良いだろうに……私とか。
「僕も出るよ。オーブを集めてくる」
「え、どうしたの急に?」
唐突にカナデがそう言い放った。メイプルは疑問の声を上げているようだが……
「私も行く。ジッとしているのは性に合わないしな」
私もカナデに便乗することにする。
「お、うちの後衛二人がやる気出してるな」
「二人とも、なんだかんだ言っても本当は少しでもサリーちゃんの負担を減らしてあげたいんでしょ?」
カナデはイズのそのセリフには意味深な微笑で答えたので、私もそれに倣って何も返事をしないことにした。
「何かあったら連絡して。じゃ」
「私が居ない間にサボるなよ? 主にエリー」
「名指しで私!?」
ギョッとしたエリーの反応がちょっと面白かったがそれは口に出さず、私はカナデと二人で拠点を後にした。
「二手に別れよう。オーブ集めは人手が欲しいからね」
カナデがそう提案してきた。ふむ……別にいいか。特に反対する理由もない。
「そうだな。後衛の意地、見せてやろうじゃないか」
私がそう言うとカナデは少し怪訝そうな顔を見せた。はて、何故だろう?
「……ソラノはなんだか前衛だと思っていたから、つい」
「む、私と後衛仲間なのは嫌なのか?」
「……にゅふ、もしかして仲間が欲しかったの?」
「お前もイズやエリーと同類か……!」
知的で物静かな奴だと思っていたのに裏切られた気分だ!
「それじゃ、この辺で。お互い頑張ろうね?」
……けっ、飄々としやがって。まあいい。
「ああ」
カナデは私なんかとは比べ物にならない程賢い。彼ならば心配要らないだろう。
拠点に残っているのはメイプルにユイとマイ、それにエリー。クロムとカスミとイズは迎撃に出るらしい。
守りは万全、後は私達がオーブを取ってくるだけ……と。
さあ、やるか。
◆ ◆ ◆
「んー……暇!」
「あはは……」
「拠点に居るだけなのも立派なお仕事ですから……」
そうは言っても、暇なのよねぇ……ソラノ達は行っちゃったし。
まあ、引き篭もってる方が私らしいし不測の事態に備えて残ると決めたのは私なのに……これじゃ私、拠点に居たくなくなっちまうよ。
「……エリーさんの出番もきっと来ますよ!」
「ワァ……! ありがとうメイプルちゃん。でも、できれば私達の出番は無い方が良いんじゃない?」
「え? あ、その……」
「ごめんごめん、ちょっと揶揄っちゃった♡」
「もう、エリーさんたら……」
ぐへへ、若人をイジるのは気が狂う程気持ち良いんじゃあ〜。
「……あ、サリーからメッセージだ」
「え、何々?」
私もメッセージを確認してみる。
『多分死ぬ。ごめん』
……マジか。
「……親友が心配なら行っていいよ、メイプル」
「はい!」
おお、気持ちが良い即答。本当に仲良しなんだね、メイプルちゃんとサリーちゃん。
「三人には負担をかけちゃうけど……」
「大丈夫です!」
「絶対守り抜きます!」
双子ちゃんもやる気だ。ふふ、こんなに若い子達がやる気出してるのに私がだらだらしてたら情け無いわね。
それに、ソラノもサリーのことを気にかけていた。悪い結果にはさせない筈よ。
だから、私は私の仕事を全うするとしますよ。
「任せて。オーブの面倒は私が見ててあげる」
「はい、行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
……あれ、なんか良い感じの雰囲気で送り出したのは良いもののメイプルちゃんどうやって行く気なんだろう?
まあいいや、あの子なら何とかできそうなオーラを感じられるし。
……って、なんだ今の爆音!?
(——読者さん、聞こえますか……)
(今貴方の脳内に話しかけているわ……)
(拙作を読んでくれてありがとうね……)
(お気に入り登録してくれたり評価してくれると作者のやる気が上がるらしいわ……)
(して頂かないと作者にエンケファリンをキメることになるけどね……)
いや待って?
(それにしてもラオルとロボトミの小説増えないかしらね……)
話聞いて??
(仮に増えたとして、もし人気が出たら作者がねじれて【ノベリスト】になるかもしれないけど)
ならねーよ! ……ならないよね?
Next. < 私が来た。
ぶっちゃけどのお方の登場を期待している?内容によって色々考慮します。
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白夜
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終末鳥
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赤い霧
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調律者
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蒼星様
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盲愛様
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黒い沈黙
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ドンファン