リンゴが王女と王の庭に落ちた日、
魔女の心は崩壊しました。
イズっちの言っていたダンジョンについて、一応ウチもちょっと調べていたのだが。
「ううむ……」
掲示板によると、そのダンジョンのモンスターを倒しても入る経験値がフィールドで普通に湧くモンスターよりも効率が圧倒的に悪いようだ。うん、そりゃあ不人気な訳ですわ。でも、代わりに特別な何かがある可能性もなくはないんじゃなかろうか。
「と言うか、そうじゃないと困る」
これから行く予定なんだから、何かしらを期待したいところだね。何もないのはちょびっとばかし困る。まあつべこべ言っても始まらないし、とっとと行ってみますか!
で、今そのダンジョンの入り口に到着したけれども……
「……なんか嫌な雰囲気ぃ」
まず、森とは言えども木が枯れてる。落ち葉すら朽ちてるしなんだか不気味って感じ。でもまあ入ってみるけど……チョイスミスったかなぁと少し後悔。
ちょっとだけ躊躇いながらも、ウチは足を踏み入れて進む。
「……せいやっ!」
出現モンスターの対処に関しては今のところ問題ない。槍は範囲攻撃も出来てDPSも良いし攻防優れた最強武器ですわ〜っと。
でも、幾ら範囲攻撃出来るとは言え数に囲まれると流石の私も被弾が増える。狭い場所だとクソ雑魚ナメクジになるし一応立ち回りや地形、モンスターの数には常に気を配るのは忘れない。あ、もしかして一敗したから注意してると思った?
残念、二敗しているんだなぁこれが。まあ、他のゲームだけどね。
「よいしょっとぉ!」
しかし、本当に経験値の入りが悪いな……一層の初心者向けフィールドのモンスターと同等くらいじゃないかなこれ? なんか見た目も枯れている感じだし、何かに吸い取られたみたいな印象を受けるな。
もしくはあれだ、この森全体に除草剤撒いたんじゃないかって感じだ。その説だとどれだけ除草剤が必要なんだか……っていけね、これゲーム内だった。考えるだけ無駄ですわ。もっと他に考える事ありますわ。
例えば、この天然の森の迷路の事とか。
「ふーむ……」
ウチの方向感覚によれば、今は入り口とは真反対側に来ている。このダンジョン、意外と道なりになっているところが多いようで、脇道が思っていたよりも少ない。
つまり、ウチが通って来た道以外に先に行ける道はない。
それで、現在向かっている方向は……
「入り口側の方ってか。うーん、多分この先はこの枯れた森の中心部になっている筈……」
……森の真ん中、か。もしかすると、森が枯れている原因みたいなのがあるのだろうか?
「……行ってみれば分かる、か」
丁度、この先にボスが待っていそうな魔法陣を見つけた。なるほど、そう言う形式か……いざとなれば扉の隙間からボスをひたすら投げ槍でちくちくする予定だったが、そう狙い通りには行かないようだ。
ボスの前に一度、ステータス確認しておくか。
エリー
Lv15
HP 636/636
MP 20/20
【STR 40〈+18〉】
【VIT 40】
【AGI 30〈+5〉】
【DEX 0】
【INT 0】
装備
頭 【空欄】
体 【空欄】
右手 【鋼の槍】
左手 【鋼の槍】
足 【空欄】
靴 【初心者の魔法靴】
装飾品 【空欄】
【空欄】
【空欄】
スキル
【筋力強化小】【HP強化中】
【疾風突き】【パワーアタック】【ディフェンスブレイク】
【体術Ⅱ】
【挑発】
【槍の心得IⅢ】
【気配察知II】【跳躍】【投擲】
【毒耐性中】
うん、こんなところかな。因みに武器はイズっちから格安で買わせてくれたものだ。
スキルの数がかなり少ない気がするけど……ま、何とかなるっしょ!
「よし……行くか」
ウチは準備万端なのを確認して、魔法陣の上に乗った。目の前の景色が一瞬で変わり、森の中でもそこそこのスペースのある広場にウチは立っていた。
そして……広場の中心には、赤い何かが落ちていた。
「何あれ……!?」
すると、その赤いもの下から何かが突き出して……恐らくこのダンジョンのボスらしき存在の全貌が明らかになった。
そいつは信じられないほど背が高く、首や腕は茨でできており、身体は成長した蔓で固定されている。植物由来っぽい白いパフスリーブやウェストエプロン、萎れた葉でできた大きなドレスカラーのようなものが付いた赤くて長いドレスを着ていて、頭部の林檎にはがらんどうの眼窩や鼻孔があり、それらはまるで虫や鳥に食べられてできたかのようだ。
辺りには腐ったような嫌に甘ったるい空気が漂っている。まるで、腐ったリンゴのような匂いだ。
なるほど、あの赤い頭部はリンゴか……それも飛びっきり腐った。もし、腐敗する前ならば思わず齧り付きたくなるような美しい真紅のリンゴだったに違いないだろうね。
ボスは、そのがらんどうの眼をウチの方に向けた。空っぽな眼だが、明らかな敵意を感じる。
「……やってやろうじゃんか!」
ウチは槍を構え、ボスに向かって肉薄しようとする。が、ボスの周りに腐った蔓で出来た壁が出現した。
「くっ……邪魔だ!」
ウチが槍で一突きすると、蔓の壁はあっさりと消えた。どうやら耐久力自体は無いようだ。しかしそこそこ大きめかつ数も多く、本体を守るように配置されていて脅威ではないがかなり面倒だ……【跳躍】で飛び越えられない高さの壁なのが非常にいやらしい。
「っ、危なっ!」
蔓の壁に気を取られていると本体が攻撃を仕掛けてくるようで、足元の地面から蔓が飛び出てくる。それなりに正確で範囲のある攻撃なので、槍を使って弾き返す。
本体を守るバリケードの対処と本体からの攻撃の対処、この二つを同時にやれって事か! 本体からの攻撃はなるべく躱して蔓の壁への対処を優先するべきか。とっとと蔓の壁を壊さないと
幸い、壁の耐久力は高くない。さっさと片付けて本体を狙う!
「とぅ! とぅ! へやー!」
難なく蔓の壁を片付けて、見えなかったボス本体の姿を視認する。ボス自体には何も変化はない……が、ボスの周辺にはウチの膝くらいの丈がある蔓で覆われていた。
試しに少し足を踏み入れてみると動きが鈍くなった。恐らくAGIを下げる効果があるのだろう。中々に厄介だが……この程度なら跳躍して無視しできなくはないか。幸い範囲もそこまで広くはない。
「ふっ!」
蔓の壁を全て壊したからか攻撃がより激しくなってきた。足元から突き出す蔓以外にも、本体の脇から2本の太めな蔓がウチを狙ってくる。
太めの蔓の攻撃を躱した先で足元から蔓が突き出して襲ってくるコンボがどうにもやり過ごしにくい。回避狩りやめろ。それは効く。
「くっ……ならば、やはりとっとと終わらせるが吉!」
一度距離を取り、ボス本体に向かって全力で真っ直ぐ走る。もはや足元からの攻撃は無視だ、目の前の太い蔓にだけ集中する。
「よいしょっとぉ! 【跳躍】!」
太い蔓を槍でホームランして打ち返し、地面を思い切り蹴って跳躍する。はっはっはぁ! 脳天に槍をぶっ刺してやらぁよ!
「……うぇぇ!?」
などと目論んでいたウチを嘲笑うかのように、ボスの傍から蔓が何本も伸びて空中のウチに向かって迫り来る。そこまで太くない蔓だが数が多い。おのれぇ……
「こなくそぉ!」
幾つかは槍で弾けたが、少し掠ってしまった。だが、ここまで接近出来れば後は流れでなんとかしてやる!
「ふんっ!」
蔓の一本に着地して再び跳躍する。スキルの方はまだクールタイム中だが、何も問題はない。何故なら、もうウチはボスのほぼ真上に居るのだから。
「くたばれぇぇぇぇぇ!!」
ウチは渾身の力でボスに向かって槍を投擲する。放たれた槍は狙い通り、見事にボスの頭……リンゴに命中した。
「……!」
ボスは苦悶の声……は、あげないが苦しんでいるようだ。HPバーがガクンと削れた。
「これで、トドメ!」
ボスの目の前に着地したウチは刺さったままの槍を掴み、思い切り横に動かして切り抜いた。するとボスのHPバーは0になった。
この時、ウチはボスが何処か安らかな感情を抱いてるような気がした。何故かは、分からないけど。
そしてボスが消えると、魔法陣と宝箱が現れた……どうやら、無事に倒せたようだ。
『スキル【スロージャベリン】を取得しました。レベルが15に上がりました』
「……疲れた」
最後、空中で集中砲火された時は焦ったね。でも、案外勢いで何とかなって良かった良かった。
「んでもって、何が入ってるかなぁ〜?」
ウチはルンルン気分でスキップしながら宝箱の中身を確認した……おっと、取得したスキルの確認も忘れないようにっと。
宝箱の中身は装備一式とスキルの巻物だった。武器は倒したボスが使ってきた蔓みたいな素材でできた槍だった。軽そうに見えてまあまあ重くかなり頑丈みたい。装備の方は豪華絢爛な赤色を基調としたドレスだった。ドレスの所々に例の蔓が散見できる。何これ可愛い。
どうやらこの装備はソラノが言っていたユニークシリーズらしい。よっし、狙い通りだ。
「さぁて、性能はどうなってるのかなぁっと」
『緑枝のドレス』
【VIT+20】【HP+200】
スキル【棘の壁】
【破壊不可】
『緑幹の槍』
【STR+20】【HP+200】
スキル【蔓】
【破壊不可】
「ふむふむ……」
良き性能だ……スキルの方も確認しよう。
【スロージャベリン】
槍を投擲する強力な攻撃。
所得条件
モンスター一体に槍の投擲で一定以上のダメージを与える。
【棘の壁】
直接攻撃を受けた場合、常に相手に少量のダメージを与えて自分のHPを少量回復する。
【蔓】
ダメージを与える度に対象のAGIが10%減少する。
ふむふむ、最後にスキルの巻物はっと……
【緑の枝】
地面から枯れた植物を出現させて攻撃する。
この攻撃に命中した対象はAGIが30%減少する。
使用可能回数は一日三回。効果時間は十五秒。
うん、結論から言おう。
強い(確信)。
「早速着てみよっと……おおー」
鏡はないけど、ウチは別嬪さんなのできっと似合ってるだろう。いやぁ、明日のソラノの反応楽しみだなぐへへ。
「うん……槍も悪くないね」
軽く振るってみるが、然程違和感がない。この分ならすぐに慣れると思う。ふっふっふ、第二回イベントが楽しみ!
「今日はこの位にしとくか。ログアウトして寝よっと。さぁて明日が楽しみだなぁ……むひひ!」
◆ ◆ ◆
「——それでね、でね! ウチは見事にユニーク装備を入手したのだー!」
「ああそう……」
「褒めて褒めてー!」
「あのなぁ……」
こいつは朝から元気だな。自慢ばっかりでよくもまあ疲れないものだ。その活力を是非仕事に向けて欲しいものなんだがな。
「その話もう何回目だと思うよ? 5回目だぞ?」
「ん? それがどうかしたの?」
どうかしたの? じゃねーよ。酔っ払いみたいな会話を素でするなよ……しかし、このままではゆりえは止まらない。ここは話を逸らして話題を変えるか。
「そうだ、今日は何処のエリア行こうか考えてたんだが」
「え、何処何処? 何処行くの?」
よし、食い付いた。
「ああ、どうもネットの掲示板を見たんだが、つい昨日枯れた森のダンジョン周辺が緑を取り戻してるみたいでな。経験値の入りがかなり良くなってるらしい。アプデでも入ったのかな?」
「ん? ……ふーん?」
……なんか妙な反応な気がするが、まあいいか。
「だから、今日はそこらでレベル上げしないか?」
「うん、勿論いいよ!」
「よし。じゃあとっとと仕事終わらせるぞ」
「それまそうだね! よぉし、今日も一日頑張るゾイ!」
ふう、何とかなったな……完全に不必要な労力を使ってしまった感があるが、まあいいか……
私の席にまで来ていたゆりえは自分の席に戻る時何やら一人言を言っていたが、既に仕事モードに入っていた私の耳には届かなかった。
「あのリンゴ……多分、森が枯れてた原因はあいつだったって事かな。あいつ、悪意はあったような気がするけど、倒した時は……本当は悲しい存在だったのかな? ……だとしたら、今度生まれた時は報われますように。って、ゲーム内のモンスターに何言ってるんだか。ふふ……」
白雪姫が一口食べたまま、地べたに捨てられた林檎だけは幸せになれませんでした。林檎は姫に対する憎しみと寂しさだけを感じながら、腐って肥やしになる日だけを待ち望んでいました。
貴女に感謝を。
《NWO》の鋼の槍は攻速落ちしません。羨ましい。
Next. < まもなく第二回イベントのカウントダウンが始まるドラ!
ぶっちゃけどのお方の登場を期待している?内容によって色々考慮します。
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白夜
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終末鳥
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赤い霧
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調律者
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蒼星様
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盲愛様
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黒い沈黙
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ドンファン