高校卒業式を控えた女子生徒2人が、屋上で星空を眺める。

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卒業式前夜。屋上にて

「ねぇ、もう最後なんだから、学校の屋上で星でも見ようよ」

 

優里は私にそう言った。

 

私たち2人は同級生で、明日は卒業式だ。

 

だから、思い出作りとして最後に天体観測をする事にした。

 

私達2人は晩ごはんを食べて、家を出てこっそりと学校に侵入してその屋上へとたどり着いた。

 

 

もう、バレたっていい。

 

だって明日になったら、全部終わってしまうから。

 

 

中山千斗(なかやまちと)。それが私の名前。

 

そして陽気な私の友達の名前は澪田優里(みおだゆうり)

 

 

私達2人は青春を絵に描いたような友達だった。

 

カラオケで覇権アニメのオープニングを歌って、裏原宿で毎日のように2人で自撮りをしていた。

 

”アオハル”と小馬鹿にされるような事でも、私達には素晴らしい時間だった。

 

振り返ってみるとある意味それは、今の青春が永遠じゃないことの恐怖心から来るものだったのかもしれないけれども。

 

 

 

空には満天の星空が見えていた。

 

その中には美しい線を描く流れ星も含まれていた。

 

月明りは信じられないほど光り輝いていて、ライトを付けなくても優里の顔が見える程だった。

 

ふと寂しい気持ちになって、スマホを見る。

 

写真のアルバムをただただ指でスクロールしていく。

 

こうやって優里との思い出を振り返らないと、なぜか寂しい気持ちになって。

 

優里の方を見ると彼女は空の美しさに見とれていて。その姿がただただ美しかった。

 

 

 

 

「ねぇ」

 

私はふいにつぶやく

 

「ん?」と楽しそうにこちらを見る優里。

 

私はこの顔が見たかった。

 

この顔が見たくて、ただねぇと口にしただけで。

 

「なんでもないよ」

 

と、私が口にすると「なんだぁ~」とまた優里は笑う。

 

 

 

そういう所なんだよ。

 

だから私は、優里の事が・・・

 

 

 

 

 

1時間。ずっと星空を見ていた。

 

優里が少し寂しそうな口調で喋る。

 

「もう、終わっちゃうんだね」

 

「うん。もうすぐだよ」

 

「・・・無かった事に、なっちゃうんだね。」

 

 

そう、無かった事になってしまう。

 

もう残り15分。

 

 

 

私のこの思いは、消えてしまうんだろうか。

 

ただ、存在しない事になってしまうのか。

 

 

もう、最後なんだから。

 

だから、この言葉を。

 

 

 

 

「ねぇ」

 

「何?また何でもないって言うの?」

 

からかう態度でこちらを見る優里

 

 

「・・・違うの」

 

 

私は揺れる思いで言葉を紡ぐ。

 

「優里が美味しそうにパンを食べる姿が好きだった」

 

言葉を続ける。

 

「優里がカラオケで、アニメの主題歌を楽しそうに歌う姿が好きだった。弁当を忘れた時、自分のサンドイッチを持ってクラスメートにコロッケを貰うために必死に手を拝んでお願いして、私のためにコロッケのサンドイッチを作ってくれたの。本当に嬉しかった。」

 

「図書館に行った時、朝井リョウのエッセイを棚から引き出して、楽しそうに読んでる貴方の笑顔が好きだった。」

 

「だからね・・・」

 

一瞬の空白。

 

息を吸って、その一言を口にする。

 

「優里の事が好きなの」

 

「考えただけで、心がふわふわするぐらい、貴方の事が大好き」

 

 

 

月の光がただ2人の姿を照らしている。

 

優里は、一瞬の沈黙の後に笑顔になって、こちらを向いて私を抱きしめる。

 

「いいよ。一緒にいよう。これで最後だから」

 

優里に抱きしめられた瞬間。全てが赦されたような気がして、私は涙で彼女の制服を濡らしてしまった。

 

 

良かった。

 

 

最後にこんな事が言えて。

 

こんな会話が出来て。

 

なんて私達は幸せなんだろう。

 

 

 

学校の屋上で、私達はずっと手を繋いでいた。

 

 

もうすぐ、終わるから。

 

 

 

 

 

 

地球に隕石が落ちるという話は、3ヶ月前にテレビのニュースで聴いた事だった。

 

あれから、色んな国家が努力をして孤軍奮闘はしたけれど、全ての作戦は失敗してしまった。

 

隕石の圧倒的で強大な質量は、もはや人間の力ではどれだけの最善の策を尽くしても対処できなかった。と手を震わせながら大統領が泣き崩れる会見をしてから1週間。

 

5分後に、その時が来る。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ」

 

もう一度、優里の方を向く。

 

「幸せだったね」

 

「そうだね。本当に。最高の人生だったと思う。もう自撮りもカラオケもできないけど、私は楽しかったよ」

 

 

聴いたことも無いほどの轟音が徐々に大きくなっていく。

 

もう、すぐに・・・

 

お互いの手を握る力が強くなる。

 

 

 

巨大地震のような地響きの中で、手を握りながら優里が言葉を口にする。

 

 

 

「良かったね」

 

 

短い言葉。

 

 

 

短いけれど、全ての意味が込められたその言葉に、2人でうなずく。

 

 

 

 

 

 

 

そして、耳をつんざくような強大な轟音の中で、私達の視界はホワイトアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当の事が言えたなら

 

 

悔いなんか無いでしょう?

 

 

いずれ来る終焉に

 

 

好きってひとことさえ伝えられたなら

 

 

わたしたちは死んだっていいの。

 

 

だから、この脳のシグナルの断絶をもってして。

 

 

私の物語は、ハッピーエンドで終わったの。

 

 

 

 

 

 

 

そうでしょ?優里?

 

 

うん。そうだよ。千斗。

 

 

愛してるよ。

 

 

私もだよ。

 

 

また会おうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

約束だよ。




In the next world, we'll meet again

I promise


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