これは人理修復を目指すカルデアスで行われた、ある一日の出来事。
あったかも知れないし、なかったかもしれない小さな小話。

人類最後のマスターとそのファーストサーヴァントが互いの絆を深めたお話。

2年以上前に考えて途中まで書いたものの供養です。

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絆クエスト<先輩と後輩>

人理継続保障機関「カルデア」に起きた不思議な出来事。人類最後のマスター藤丸立香は目を覚ましてから自身の部屋と様子が違うことに気がつく。

部屋を軽く見渡してもいつものようにマイルームに忍び込んでいるサーヴァント達を見かけないし、どことなく女の子らしい部屋な気がした。

 

 

『━━━━━寝ぼけたのかな?』

 

 

ふと漏らした声はよく聞きなれた可愛い後輩の声に似ていた。いや、ここまで来て現実から逃れようとするのはやめよう。そうだ、今まで意図して下げなかった目線を少し下げるだけで現実逃避から戻るだろう。

なに、(現実を)見てしまってもかまわんのだろう?

エミヤ…。

 

 

視線を自身に向ける。そこにはマシュマロがあった。

 

 

『うーそーだーぁー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら自分はマシュの身体に憑依?してるようだった。女の子もののパジャマに身を包んだ体はどう考えてもマシュの身体でつまり、恐らく今マシュは俺の身体と入れ変わっていて…。

 

人類最後のマスターといえどもまさか、自身のサーヴァントである後輩と身体が入れ替わることが予想できようか。いや自分じゃできない。

 

『このままだと、マシュも俺も不味い。』

 

 

マシュの部屋の中でどうしたものかとウロウロと思考を続ける。このことをマシュはもう気がついてるのか?誰に相談すべきだ?ダ・ヴィンチちゃん?ドクター?キャスター達?分からないことだらけで、時間が無為に過ぎていく。

事態を解決するには部屋の外を出て、少なくとも自分と同じ状況のマシュ(藤丸)の元へと向かわないと。

 

 

しかし、この格好で?いや不味いだろう。以下にカルデアがいい人だらけだとしても女の子が寝巻きのまま外を彷徨くのは不味い。となると着替える必要が出てくるわけだが…。

出来るのか?俺に?いや、無理だ。絶対に無理だ。カルデアのサーヴァントの中には露出が激しいサーヴァントがいるにはいる。でもダメなものはダメなのだ。

 

 

 

そうしてあーでもないこーでもないと悩んでいるうちに部屋の扉にノックが聞こえた。

 

「…先輩…いますか?」

 

 

まさか自分の声でマシュのセリフを聞く日が来るとは…。部屋の扉を開けるとそこには、どことなくマシュの雰囲気を感じさせる自分が居た。

寝巻きのままここまで来たんだろう、マシュも混乱している筈なのにここまで急いできてくれたんだろう。廊下に居させてはいつ誰かに見つかるか分からない。それは良くないと思いマシュ(藤丸)を部屋の中に連れ込む。

 

 

 

『マシュ…だよね?』

 

「はい、先輩こそ先輩ですよね?」

 

 

お互いに入れ替わったのだと状況を理解して少し落ち着いたのかほっとする。

 

 

「先輩はいつ頃この事態に気が付きましたか?」

 

 

『ついさっきだよ、ふと目が覚めて気がついたらマシュになってた。』

 

 

 

「私もです。気がついたら先輩の部屋にいて、ここまで来たのですが。」

 

 

『これが偶然なのか、それとも誰かの意図したことなのか。分からないからドクターとダ・ヴィンチちゃんに相談しよう』

 

 

 

 

マシュも考えは同じなのか、頷いた。自分が目の前にいるというのはどこかおかしくて、ふと笑いを零す。その様子をマシュは怪訝そうな顔をしてこちらを伺うけど、その様子が更に笑いを零させた。

 

 

 

 

「先輩?」

 

 

『自分が目の前で自分のしない行動をしてるのがおかしくて』

 

 

 

「な、先輩こそ、私の身体で先輩が普段行う仕草をしている姿だって充分おかしいと断固抗議します!」

 

 

 

『なにを〜生意気な後輩にはこうだ!』

 

 

 

悪戯心が湧いてきたのか、魔が差したのか、理由はともかく俺はマシュに擽りの系を仕掛けた。自分の身体なのだ、擽りに弱いところなんて知っている。身体が入れ替わったことで変化がなければの話ではあるものの。その予想は違うようで、擽りは効果覿面擽りは十分に効いた。

 

 

「先輩、いつまでも先輩のターンだと思わないことです!」

 

 

えい、という掛け声とともに今度はマシュに軽く押さえられた。マシュも興奮しているのか、簡単に押さえられた事に違和感を抱かないようだった。ただ押さえられた俺はその事に驚いて、同時に理解をした。マシュの身体は自分なのだから英霊としての力を解放すらしていないマシュ(自分)が力で叶うわけないと。

その事に一瞬よくない事が頭を過ぎるも、直ぐにマシュによる擽り攻撃を受け頭の隅にと消え去る。

 

 

そこから数分後お互いに落ち着いたのか、少し距離を取りながら互いに反省をしていた。

 

 

『その、マシュごめんね。ちょっと悪ふざけが過ぎたかもしれない』

 

 

「い、いえ!こちらこそついつい夢中になってしまい…」

 

 

 

『そろそろダ・ヴィンチちゃん達の所に行こうか…』

 

 

「はい…」

 

 

 

 

お互いに正気を取り戻して落ち着いたものの今度は最大の問題が出てきた。この格好のまま外を彷徨くのは不味いということだ。それも2人で要らぬ誤解を招くこと待ったナシである。

 

 

『マシュ今の格好の事だけどさ、このまま外を彷徨くのは主にサーヴァント達からのあれこれで不味いと思うんだ。』

 

 

「…はい、確かに一部のサーヴァントの方に見つかったら不味いかと。」

 

 

『とりあえず、着替える必要があるんだけど…』

 

 

「は、はい。少なくとも先輩は服をそのままでは不味いかと…」

 

 

『いや、むしろマシュが寝巻きのままというのは危険だからマシュが…』

 

 

あーでもないこーでもないと、話し合いの末、互いにシーツなりを羽織る事にした。着替え?当然ありえない話だ。

 

 

 

 

 

 

 

ダ・ヴィンチちゃんの工房に訪れる。ダ・ヴィンチちゃんはこんなに早い時間から起きているのか部屋の明かりは着いていた。

 

『ダ・ヴィンチちゃん、ちょっといいかな?』

 

 

 

「はいはーい、こんな朝方になんの用かなマシュ…?」

 

 

ダ・ヴィンチちゃんは俺達を見て固まった。そして、マシュ(藤丸)の

肩に手を置くと、責任は持つんだよ、と小声で言うものの普通に聞こえていて、ダ・ヴィンチちゃんが何を勘違いしてるのか理解した俺は慌てて否定の言葉を言った。

 

 

『ダ・ヴィンチちゃん誤解だって!決してそういうことで相談に来たんじゃないから!』

 

 

「おや?どうしてマシュが藤丸くんみたいな反応を…」

 

 

 

『実は…』

 

 

 

 

 

 

 

ふじ〜ふじ〜ほわわ〜ん(藤丸説明中)

 

 

 

 

 

 

 

「ッあはは…お腹が、痛い。」

 

 

 

『笑い事じゃないってば!』

 

 

 

「いやいや、ごめんごめん、この通りさ許しておくれよ」

 

 

『マシュもいってやってくれよ』

 

 

 

 

ふと、先程から静かなマシュを見るとブツブツと顔を真っ赤にしながら悶えていた。その姿を見たダ・ヴィンチちゃんはまた笑いだし、俺は何故マシュがそうなったのか、考えた。

 

と、その時マシュは意を決したような顔つきをしたかと思うと急に俺の両手を握り、言葉を続ける。

 

 

 

「先輩!マシュ・キリエライトは先輩にどのようなことがあろうとも先輩のサーヴァントですからね!」

 

 

 

マシュはそれだけ言うと満足したのか、手を離しダ・ヴィンチちゃんにどうしてこうなったか何か知らないかと聞いている。

 

 

一方の俺はマシュが何を勘違いしていたのか、何故あんな台詞を言ったのか思考に耽る。

ダ・ヴィンチちゃんは責任は持つんだよと言った。それは朝早くに2人でシーツを羽織るようにしてここに来たからであって…あ。

あー。つまり、ダ・ヴィンチちゃんの勘違い発言にマシュも俺と同じように年若い男女が朝方に寝巻きのままシーツに身を包み人の部屋に訪問したという、傍からみたら何かがあったのは確実とも言える状況を理解したからあんなに赤くなって…。

 

つまり、マシュは意識していた?いやいや、勘違いするな藤丸立香、そうして何度勘違いをしてきた?マシュが寄せている好意はそういうものじゃない。おーけ。大丈夫。クールになるんだ。

そうだ!素数を数えろ。

 

 

「…い…輩?…先輩!」

 

 

『はい!なんでしょうか!』

 

 

 

素数を数えようとして素数が何なのかド忘れをするという事態に陥っていた俺は置いてけぼりになっていたようで、マシュ(藤丸)から声をかけられていることに気が付かず驚いてしまった。

 

「どうかしましたか?突然ボーッとし始めたので、はっ!もしかしていつものレムレム睡眠の時間ですか?」

 

 

『大丈夫大丈夫。そんな事よりもこの問題を解決しなきゃ』

 

 

「そんな君達にレッスンだ。今の君達は中身が入れ替わっている。つまり、マシュがマスターで藤丸くんがサーヴァントって訳。それぞれの体の動かし方確認しておいた方がいいんじゃないかい?」

 

 

安心したまえ、普段よりも弱いものを用意したさ、簡単な特訓はしておくべきだろう。そういうとダ・ヴィンチちゃんは俺達にそれぞれの魔術礼装と戦闘服を渡してきた。

 

 

 

「マシュはマスターとしてのカリキュラムも受けていたから大丈夫だとは思うけど、藤丸くんは今まで一般人だったから戦う術を知らないどの程度この事象が続くのか分からないが備えておかない訳にはいかないだろう?」

 

 

 

だから、その訓練というわけさ。そうダ・ヴィンチちゃんは告げると話は終わりと言わんばかりの勢いで訓練の準備を始める。

きっとダ・ヴィンチちゃんも慌てているのだろう。分からない様にしているだけで、いつもならこんなに慌てた雰囲気は感じさせない。そんなイメージがあっただけに今回の事は余程の出来事なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

マシュとは更衣室に向かう途中で別れ、足早に更衣室に入る。

ここは元々48人のマスター達が訓練をする際に着替える為に作られた更衣室だ。今ではそのマスターもたった一人になってしまったけど。

だからか現在はもっぱら倉庫替わりに利用されてたりする。レフによる爆破の影響か倉庫だった場所が破壊され部屋が足りないそうだ。

 

 

 

棚に戦闘服を置いて服をいざ脱がんと手にかけふと止まる。まて、俺は今誰だ?その事実を再認識した為顔は茹で上がり、マシュの身体が自分に全て委ねられている謎の感覚に感じたことも無い感情が湧き上がる。

 

 

 

しばらくの間、悶々とした感情に悩まされ、今の身体がマシュならば着替えるのではなく英霊としての服装を呼び出せばいいのではということに気がつくまで続けることになる。

 

 

 

シミュレーションルームに集まったのは、顔を真っ赤にした人類最後のマスター(in後輩)と同じく耳まで赤くした人類最後のマスターのファーストサーヴァント(in先輩)と愉快そうに微笑む天才だけだ。

 

 

「一応仮眠をとっているロマニがもう少ししたら起きてくるはずだから、そしたら精密検査とか諸々の事をやって何が原因なのか探ろうじゃないか!」

 

 

とは、ダヴィンチちゃんの言葉だ。

そんな悠長にしていていいのだろうか?そう思っていると。

 

「…そんな悠長にしていていいのでしょうか?」

 

どうもマシュも同じように考えたみたいで、ダヴィンチちゃんを問い詰める。

 

「人間とデミ・サーヴァントの意識を入れ替えるなんてのは、簡単にできることじゃない。それにそういった複雑そうなものはすぐにどうこうなる、なんてのは無いと思っているよ」

 

 

『そうかなぁ』

 

 

いいからいいからと、ダヴィンチちゃんはシミュレーションを起動させてしまう。

今回相手になるのは、狼型のエネミーだ。素早い動きと、群れで行動するため一体一体は弱くても侮れない相手だ。

 

 

『マ…スター、元Aチーム主席の実力見せてもらうからね!』

 

 

「先輩は無茶をせず、しっかりと指示に従ってくださいね。おそらくある程度は体が勝手にやってくれるとは思いますが、念には念をです。」

 

 

『もちろん!!』

 

 

僅かに震える両足を奮い立たせ、今この時だけはサーヴァントとしてマスターの指示通りの実力を発揮してやる!

 

『デミ・サーヴァント、マシュ・キリエライト行きます!!』

 

 

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シミュレーション後の更衣室を出て、俺はベンチに腰掛けながらうなだれていた。

マシュの采配と支援は完璧といって差し支えなかった。ほんとに同じ体を使っているのかと疑うほどに。

俺とマスターを交代しても十分やっていける、そう思わせる手腕だった。俺のしたことといえばビビりながらも、マシュの指示通りのことをどうにかやってのけただけ。

 

正直いってかなり落ち込んでいた。

 

 

「先輩…その…。」

 

 

『大丈夫、マシュはきちんとマスターをやれてたよ。すごいじゃないか!むしろ俺の方が迷惑かけちゃったかな?』

 

 

「い、いえ!そんなことはありません!」

 

 

そっか、マシュは優しいな。ただ今は少しその優しさが苦しかった。どうしてだろう、普段ならこんなこと気にしないのに、今はとても些細なことなはずなのに気にしてしまう自分が嫌になる。

 

 

人類最後のマスターとして、多くの特異点を旅してきた者として少なからず自負のようなものを抱いていたのかもしれない。偶々生き残っただけなのに、偶々選ばれただけなのに。

 

上には上がいる、それを再認識させられた気がした。

 

「先輩、私はこれまでの旅の中で様々なことを知ることができました。それは偏にあの時、先輩が最後まで手を繋いで私を励ましてくれていたからだと、そう思っているんです。」

 

『大したことをしてあげれてないさ』

 

「いえ、先輩。先輩は私の世界に最初の色を与えてくれました。それは先輩だからこそできたことなのです。このカルデアスの中で、先輩だけが最初に与えてくれたのです。」

 

そうマシュは、とても穏やかな表情をしていた。むろんそれは俺の身体だけど、自分ながらこんなにも穏やかな表情ができたんだと驚くほどに。

 

「それに今日先輩として、マスターとして指示を出しているときも、先輩は無力な身でありながら危険を問わず今まで頑張っていてくださったのだと、改めて実感しました。」

 

 

『それは俺だってそうだよ、マシュはあんなにも怖い思いをしながら戦っていてくれたんだって、改めて実感することができた。そうさ、マシュ、君が俺を守っていてくれるから、どんな危険でも安心していられたんだ。』

 

 

そうだ、だから俺がマシュに、この頼れる相棒にかけるべき言葉は決まってる。

 

 

『いつもありがとう。俺を守ってくれて』

 

「いつもありがとうございます。私と共に戦ってくれて」

 

 

 

しばらくの間、そこは静寂に包まれていた。まるで世界には二人しかいないようで、互いに頼れる相棒だった二人が今回の小さな事件を経て絆を深めたことを知っているのは、ごくわずかの英霊と、ハッピーエンド厨の夢魔だけだった。

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

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