(短編版)内閣総理大臣秋津悠斗   作:松コンテンツ製作委員会

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第二章•邂逅篇

 

 秋津父子が演説場所を押さえに行くと護憲民衆党陣営が先に駅前ロータリーにいた。

「偵察行ってきます」

 幸い悠斗はそこまで顔が知られていない。そもそも顔が文彦と似ていないので気づかれないのだ。

「そんな大げさに構えなくていいが、まあついてきなさい」

 野党第一党護憲民衆党幹事長にして前内閣総理大臣の船橋喜彦がそこにはいた。

 演説場所の交渉に向かう最中、悠斗は文彦とはぐれてしまい、握手を待つ聴衆の列に阻まれる。そうこうしているうちに握手の順番が回ってきた。

「若い力を貸して下さい」

 船橋は片目を瞑ってみせた。

「どうぞ聞いていって下さいね」

 敵陣営だとばれたが、なんと船橋は演説を聞かせる度量を見せたのだ。

 船橋の演説は堂々と、それでいて言い含める落ち着きがあった。

「北朝鮮からミサイルが撃たれた時、物部首相は何をしていましたか?」

 花見! 聴衆が怒りを込めて投げられたボールを返す。桜を見る会のことだ。

 双方向の声が野党と市民を熱い塊に練り上げていく。

 正義感に満ちた演説に体に流れる血潮は熱くなるものの、すんでのところで保守党党員としての党派性が働き、悠斗は葛藤していた。自衛隊の強化を謳う物部が危機管理の立場から野党に批判されるのも情けない話だ。筋は通っているが今は素直に頷けない。

 演説を終えると、船橋陣営はロータリーから潔く引き揚げた。

「政治というのは、まあ単純な右左だったり与党野党の図式じゃないというこっちゃ」

 文彦は煙草を吹かしながら語る。

例えばとある市議会の候補には保守党から公認を得るにあたって二十人の党員勧誘ノルマが課せられる。結果公認を得た保守党市議会議員は2、3人。公認を得られなかった党員は隠れ保守党員となるのだ。

むしろ市町村議員には党派性を超えての仕事が求められるから保守党の色が邪魔になるのかもしれない。公民党や労働党は所属を明らかにするが。

これが都道府県議会、国会議員となるにつれて党のカラーが濃くなるのだ。

色は、派閥という形で党内でも分かれている。

 物部泰三総理大臣率いる最大派閥の静和会。

 青梅一郎副総理兼財務大臣率いる保守本流の志功会。

 岸本勇雄外務大臣率いる官僚出身の公池会。

 茂手木敏正経済産業大臣率いる叩き上げの平成塾。

 因幡守元幹事長率いる少数派閥の月光会。

 石井伸之元幹事長率いる少数派閥の未来政治研究会。

 そして御屋敷芳弘幹事長が率いる師範会に秋津文彦はいた。

 秋津文彦国土交通副大臣は保守党御屋敷派のニューリーダーであった。その彼は選挙カーの助手席から愛想よく手を振る。

 今日の主役は衆議院議員候補の秋津文彦と、応援弁士は自派の御屋敷幹事長と岸本派の森田正好農林水産大臣だ。

「マイクテストマイクテスト。駅前ご通行中の皆様、お騒がせしております」

 丁度その時、御屋敷幹事長を乗せた黒塗りのワンボックスカーが駅前ロータリーになめらかに滑り込んだ。

「やっば御屋敷さんはいけすかないなあ。都会と選挙区にばかり道路を通しているんだもんなあ」

 国土交通副大臣の秋津文彦の持論は地方分権であった。土木建設に関して、自治体の頭越しに国に陳情が上がることで撒き餌となり、それが中央の官僚の権限を強めている現状を憂いていた。

「オヤジ、そのマイク入ってます」 

サクラとして聴衆に混じった悠斗に言われ慌てる文彦。

「おっと!」

 保守党国交族として国土交通大臣、経済産業大臣、党総務会長、党幹事長を歴任してきた御屋敷芳弘は車の中で皺だらけの顔を歪めた。

 

 

 床の間に置かれた刀から、ここが武家屋敷であることはわかる。

「秋津君、この雰囲気を見て、かなり異様に感じているだろう」

 船橋喜彦の出身校でもある世良田大学への進学を控えた悠斗は美咲に連れられ、政治結社自由芸能同盟のアジトに足を踏み入れた。

 それから玉川は、美咲がかつて桜を見る会で不満を漏らしたように、クールジャパン機構を通じて如何に血税が春本アイドルグループ事務所、パーソナルリクルートサービスに流れているかを話した。

 秘密結社に誇らしく掲げられた家紋は、丸に二つ引き。

 政府だの幕府だのに詳しい秋津悠斗は閃いた。

「もしかして、斯波家の末裔の方ですか?」

「そうだ。わしは管領斯波家の末裔に当たる」

 密かに政権に反旗を翻すことを企てている玉川芳彦は、室町時代栄えた武家の末裔であったのだ!

「わしはな、武家の名門としての誇りにかけて、アイドルたちを救いたい。そのためにはやはり、春本を放逐する必要があると考えている」

 秋津は即答できなかった。

それからの一年、特に大きな選挙もなく、秋津悠斗は勉学に勤しむこととなる。

 秋津は、大学の助手を務め戦史の論文で学会の注目を集めた国枝晴敏、秋津の高校の後輩でギフテッドの柏木神璽と勉強会をしばしば開く。意見を戦わせ、将来の登用を約束した。   

両名は国枝防衛大臣、柏木外務大臣としてのちに秋津政権の双璧を成すこととなる。

 御屋敷芳弘の国交行政

 財務省の緊縮財政。

 竹内蔵之介による地域振興予算の割り振り。

 春本健一による女性の性的搾取。

 それが物部政権を取り囲む一連の闇であると気づいたとき、秋津悠斗は得心した。

保守党を内側から変えなければならない!

 そして政府だの総理大臣だの権威ばかり見るのではなく、問題点にも目を向けなければだめなのだ! と。

 悠斗より2歳年上の玉川は一足早く政権に斬り込んだ。

「次のニュースです。斯波家の子孫にあたる玉川芳彦氏がUENグループ、坂グループらアイドルグループの事実上の買収を発表しました」

記者会見場では、西村美咲が冷静に、だが熱を帯びて物部政権を糾弾する。

 女性への性的搾取は世論に火をつけた。まさに炎上だ。野党四党はこの機に乗じ内閣不信任決議案を提出。当時のゆ党である国政民衆党も女性弁護士にして代議士である矢本シオリが政権を追及。報復として官邸は矢本シオリの不倫スキャンダルを週刊誌にリークした。

 国政民衆党と自由芸能同盟は連帯し人事交流を重ねる。のちに玉川は斯波高義と改名し26歳で出馬した。

 政権へのダメージで物部の退陣は秒読みと思われたが……

 

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