(短編版)内閣総理大臣秋津悠斗   作:松コンテンツ製作委員会

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第七章•英雄篇

十八

 

畑一面のさとうきび、その上空を軍用ドローンが通過し、葉が突風で吹かれる。

「キャッスル解放作戦開始。以降本作戦の指揮はキャンプフテンマより行う」

 琉球の地に、熾烈な地上戦が蘇るのか。

「グローバルホーク、作戦展開空域進出まで五分」

 管制室制御卓のオペレーターが目をこすった。

「イレギュラー発生。陸上自衛隊チヌークが進路妨害しています」

陸自輸送ヘリが沖縄首里城上空に現れたのだ。何故?

「空自ナハ基地より飛来の模様」

「威嚇射撃1回。無誘導でロケット弾発射」

 南国の青空と夕焼けのグラデーションを背景に白煙をたなびかせながらロケット弾が噴進し、爆発。丘の椰子の木を業火が舐め回す。

「東邦新聞の磯月望子です。視聴者の皆様、この光景が見えますか!? 沖縄首里城に群がる米中の無人戦闘機を、陸上自衛隊輸送機が身を呈して守っています! 一体誰が乗っているのでしょうか? 戦争で本土に複雑な感情を抱く沖縄県民にこの光景はどう映るのでしょうか?」

 ドカン! 米軍無人機が爆発する。

「こちらヤタガラスワン、遅くなった。アーミーワンを援護する」

 チヌークの前に躍り出たのは、日の丸の翼。F35戦闘機だ。しかも乗っているのは、

「荒垣官房長官!」 

 コックピットの荒垣は親指を上げて意気軒昂だ。

「官房長官ではない。ただのエースパイロットだっ」

 荒垣機のトリッキーな空中機動が米軍グローバルホークを翻弄する。

「今だ、俺を下ろせえ!」

 秋津悠斗は叫んだ。

撃墜されるグローバルホークを背景に、地上すれすれでホバリンングするチヌーク。後部カーゴドアから秋津首相が飛び降り、しなやかな受け身で着地した。

たったひとりで戦場に飛び降りた。

「カメラズームして!」

磯月が目を凝らすと、秋津はヘッドセットを頭に着けているではないか。口元のマイクから呼び掛けようというのか。

「アメリカ軍も中国軍も軍を引け!」

「なぜプライムミニスターがいる!? 攻撃中止!」

「射撃待て! 射撃待て!」

 ヘリコプターが旋回し、機体をひるがえして高度を上げる。

「沖縄県民斯く戦えり、後世格別のご高配を賜らんことを! 今こそその約束を果たす」

 米軍も負けてはいなかった。

「データリンク全面カットしろ」

西側陣営の戦闘情報指揮システムが寸断され、電子画面がブラックアウトした。

その隙にグローバルホークは荒垣機をロックオン。

「荒垣官房長官、こちらからは絶対に仕掛けないでください」

 荒垣は意図を了解した。

 今度は、本土が沖縄の盾となる!

命中する間際、ボタンを押し射出座席が作動した。

荒垣を脱出させたF35戦闘機が黒煙を噴き崖に墜落した。

「俺は逃げない、だから、お前たちも話し合え!」

 秋津悠斗は初心を忘れていない。演説妨害された時の台詞を繰り返した。

オスプレイが轟音を立てて頭上をかすめた。

着陸すると、後部カーゴドアが開く。攻撃の意思はないようだ。

ジョーカー前大統領とオーバー元大統領が姿を現したではないか。

「悠斗君、君こそプライムミニスターモノノベが生み出した息子だ!」

「君たちジャパンは身を挺してオキナワを守った。今度は合衆国が証を立てる番だ」

 

十九

 

秋津はチビチリガマの前に来ていた。

「ひとつ、思い出した事があるんだ」

 そこは秋津が沖縄修学旅行で訪れた遺跡だった。

「物部保守党の熱狂的な信者だった俺は、握手の順番が回ってきた時、島のお婆を無言で睨みつけ立ち去ってしまった」

 基地問題では旧日本軍ではなく米軍に文句を言え。そうして自分の感性に蓋をして目を逸らしてきたのではなかったか? アメリカに追随するどころかCIAによって結党したのが保守党だと言うのに。

「やっと、皆さんに沖縄をお返しできました」

悠斗はスーツの裾が汚れるのもいとわず、跪く。

物部がかつて硫黄島滑走路下に眠る遺骨に捧げた祈りと同じように……

真摯な物腰の青年の瞳は、物部政権の光も影も是々非々で見据え、今日の自分を育て上げた。握手して喜んでいた少年期とは大違いだ。

首元に優しいものが触れる。

花輪だった。嗚咽で視界が曇る。

「あの時私忘れてたものさー」

 10年越しの沖縄土産だ。

差し出されたサーターアンダギーがやけにしょっぱかった。

「南興もいいけど、沖縄も忘れんな」

「約束する。沖縄を国家宗教民族に凝り固まらない国際都市にしよう」

「総理。世界中からマスコミが押しかけてきています」

 総理大臣は忙しい。その一挙手一投足に全世界が注目している。

 悠斗は膝の土を払うと、踵を揃え、左手を腰に回し、ファーストレディに右手を恭しく差し出す。

「香子さん。ついてきてくれますね」

「もちろんです。悠斗君」

 野党選挙カーからマイクを延長コードで引っ張ってきて、司会の磯月望子に手渡す。海外の報道陣がカメラのフラッシュを眩しく焚く。

「政権の光も、その先に伸びる影も、総理大臣経験者は歴史の法廷に立ち続けなければならないさだめです。桜香子さん。ファーストレディとして秋津首相を側で見ていて、どんな人物に映りますか」

 磯月がマイクを向ける。

「秋津悠斗が何者であったのか、何を成したのか、言葉の限りを尽くして、問い続けたい。問い続けなければならない。なぜなら、私に突きつけられた恐ろしい銃口に打ち勝つ力は、沖縄を焼く狂気の軍隊に打ち勝つ力は、秋津総理の言葉にのみ宿っていたからです」

 読書好きの彼女らしい表現だった。

 悠斗が一歩前に出て、磯月からマイクを受けとる。

「政治家の握るマイクには人々の暮らしが懸かっています。暴力に恐れず、ひるまず。マイクを握って演説に立つ勇気を持ち続けようではありませんか!」

 秋津悠斗の瞳はきらきらと輝いていてまるで子供のようだった。

 香子は総理大臣ではなくこの子供のように真っ直ぐな悠斗が好きだ。

 少年のように素直で、権力を持ち合わせている。それは理想的な政治家といえるのではないか。

対話を諦めないピュアな心が世界を動かしたのだ。内閣総理大臣秋津悠斗は、その謙虚な姿勢がある限りマイク一本で世界を変えてゆけるだろう。

 万雷の拍手は国際都市那覇の津々浦々に響き渡り、いつまでも鳴り止むことはなかった。

 

 

 

 

 

 

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