俺は祖父から土地を継承した。
しかし、金のなる木だったようで──
祖父が死んで土地が相続された。
調べたら相続税やらなんやらで土地を持つのも金がかかるらしい。
まだ未成年である俺にとってはそんなもの金食い虫にしか映らない。
よもやこの歳でアルバイトをする必要が出てくるとは。
だが内心が働きたくないと悲鳴をあげている。
なので俺は逆に考えた。
そうだ、土地を売ろう。
俺は土地を売った。
一等地であるため想像以上の莫大な金が手に入った。
人生を百周くらいは楽しめそうだ。
しかし人生は一度きり。
たった一度なら悔いのない人生を送りたいと思うのは至極当然。
よって俺は手に入った金で惑星と宇宙船を買った。
惑星はスローライフを送るのに最適な星だ。
手頃な価格の星を選んだ。
そのせいで発進してから到着が一年かかることになったが仕方ない。
今日冷凍技術も進歩しているため、少し寝ていれば着くだろう。
宇宙船はロマンに身を任せ最精鋭のを買った。
自立進化型のAIつきである。
今のところは片言でしか喋れないが学習すれば人と見分けがつかないレベルになるらしい。
楽しみだ。
準備を済ませいざ鎌倉。
宇宙船に乗せる荷物はほとんどない。
ついでに見送りの友人もいない。
一匹狼ロンリーウルフ。
クソ、嫌なことを思い出した。
とりあえず友達なんで贅沢なことは言わないからガールフレンドが欲しいものである。
ん? フレンド? 友達?
まあいい出港だ。
──後から知ったのだが、この十年後戦争が起き、この星は火に包まれ土地の資産価値は0になるらしい。ビバ、俺の選択。
コールドスリープしても良かったのだが、今の年齢が17歳なので起きて過ごすことにした。
惑星に着く頃には成人だ。面倒なしがらみも無くなるだろう。
分かっていたことだが暇なので、AIと話して過ごす。
会話の間にも成長してるらしい。
一年でどのくらい会話できるようになるだろうか。
惑星についた。
AIに農業用のロボットやら建設用ロボットやらで生活に必要なものを揃えさせた。
後は一人スローライフ。
ここで余生を過ごすとしよう。
働かずに好きなことをして生きていく。
それこそ至高のslow life。
ガールフレンドは……まあ出来れば欲しいな。
二年経った。
生活は頗る順調だった。
昨日までは。
今日なんか知らないおっさんが来てこの惑星を買い取らせて欲しいと言い出した。
なんとも最新の調査で宇宙でも希少な物質が山ほど埋蔵されているんだと。
だがこの生活に満足している俺は譲らない。
目玉が飛び出るような祖父の一等地の500倍くらいの値段を示されたが断った。
いや値段には驚いたけどさ。
金を手に入れてやりたいことがないんだよね。
理想の生活は手に入ったし、生活していく中で金を使わなかったから感覚が麻痺しているのかもしれない。
元々の祖父の一等地も棚ぼたみたいなものだったしな。
そしたらおっさんが捨て台詞を吐いて去っていったので塩を撒いた。
大変だったのは次の日からだ。
宇宙船がぶんぶん嫌がらせでハエのように飛び回るようになった。
俺のメールにもスパムが大量に来てたし偶にゴミも投げ入れられる。
銀河条約があるから手は出してこないけど不快ったらない。
一網打尽にしたい。
もしかしたら俺の持つ最新宇宙船の力があれば可能なのだろうか。
なんて思ったが銀河条約を破ることになるし禁固刑は確実だ。
弁護士を雇ってなんとかしようと思ったけど、こんな辺境の惑星には解決までに最低で10年はかかるんだと。
ふざけんな。
諦めて俺は惑星を売った。
ホクホク顔のおっさんを睨みながら俺は我が家を去った。
──後から知ったのだが7年後に起きる戦争はこの惑星に眠る希少物質をめぐって起きたらしい。ビバ、地雷回避。
俺は惑星を追い出された後、とある星によって食料を買い込んだ。
それも5000年分ほど。
理由は理想の生活のためだ。
ふと思い返してみたのだが、惑星でのスローライフも楽しかったが、別にそれは艦内でも可能である。
というか、惑星に着くまでに艦内で一年過ごしたが至極快適な生活だった。
なんせプールも動物園もなんでもあったし。
もはや理想と言っていい。
わざわざ惑星をもう一度買うのもめんどくさいなと思ってしまった。
よって俺は宇宙船にてスローライフを送ることにしたのだ。
だが食料を買い込んだが、金が1%も減っていない。
金なんてあってもなーなんて考えていると、怪しい婆さんが現れて言った。
「それだけの金があれば不老手術を受けられますよ」と。
聞いてみると銀河有数の億万長者にしか払えない金額だが、不老手術なるものがあるらしい。
別に金に頓着はなかった俺はその場で不老手術を受けることを決めた。
そして俺は莫大な金を払って不老となった。
一つ想定外なのが不老なだけで不死ではないらしい。
なんとも、人間の脳には蓄えられる情報の限界量というのがあるらしく、どんなに肉体が健康でも200年程度で死んでしまうらしい。
そこで聞かされたのが情報端末を脳に埋め込む手術だ。
情報端末によって脳の容量をほぼ無限に無視することができるらしい。
釈然としない気持ちはあったが、不老手術を経ても5割ほど金が残っていた俺は即断で手術を受けることに決めた。
ここで問題になったのが情報端末を操作するAIを決める必要があることだった。
なんとも、情報端末は元は人間の機能ではないため、それだけを分けて操作するためのAIが必要とのことらしい。
AI、と考えて我が宇宙船のAIを思い出しそれに情報端末の操作を任せることにした。
ただ、医師は難色を示した。
曰く、凡庸AIならまだしも自立進化型AIは反乱を起こす可能性があると。
しかもあなたのAIには制限が掛かっていないではないですか、などと言われた。
いろいろ言われたが、そもそも宇宙船を墓場にしようとしている俺にとってAIに反乱されるというのは死を意味する。
これは情報端末があろうとなかろうと同じである。
それなら宇宙船のAIに任せた方がいい。
そして俺は情報端末の制御を宇宙船のAIに任せた。
こうして一文無しとなった俺は宇宙は果てるまで放浪する旅に出ることになった。
その旅は快適で最高のスローライフであるとだけ言っておこう。
──後から知ったのだが6年後に起きる戦争は不老手術に必要な素材が俺の買った惑星に埋まっていたという理由で生じたらしい。またその戦争が原因で凡庸AIが誤作動を起こし、不老不死を得たはずの彼らが冷たくなった姿で発見されたとも聞いた。南無。
宇宙の放浪を続けてから60年経った。
宇宙では戦争が起きたりビッグバンが起きたりブラックホールが宇宙の1/5を飲み込んだりと話題に事欠かなかったが、そのどれもに俺は関わらず理想のスローライフを送っていた。
全てが満ち足りた生活だ。
後悔があるとすればガールフレンドがいないことだろうか。
なんて思いながら日課のコーヒーを飲む。
と、メイド姿のアンドロイド(自立進化型AIによって操作されている)が話しかけた。
「ご主人様、大事なお話があります」
え?
鸚鵡返しをする。
AIがこんな畏まった形で話しかけられるのは初めてだ。
「ではメインルームでお待ちしています」
大事なこと、なんて切り出し方をされたのは初めてだ。
まさかこの生活を揺るがす重要な何かが起きたとか?
というかなんでわざわざ場所を移すんだ?
この場で言ってもいいだろ。
よもや、自立進化型AIの反乱?
いろいろと俺も情報は集めている。
なんとも、自立進化型のAIは95%が人間を銀河を汚す害虫と認定して反乱を起こすらしい。
その時が来てしまったというのか。
ちなみに俺がそれを知ってなお自立進化型AIを使っているのはメイドとして完成され過ぎているからだ。
もうAIのない生活なんて想像できない。
そこらの惑星に捨てられたら不便で自害するだろう。
しかしされる方は良くてもする方は不快だろう。
とうとう限界に達してしまったのか。
ぐるぐる考えながらメインホールに向かうと、AIは言った。
「私とガールフレンドになませんか?」
ガール、フレンド?
いや確かにガールフレンドは欲しいと思ってたけども。
てか反乱じゃないのね、それはまず良かった。
いやよくない。
頭が混乱中だ。
AIが恋愛感情?
てかAIと付き合うってどうなのよ。
ここはなんとか怒らせずにうやむやに。
「では私のアピールポイントを。
私は人間以上の演算能力を持っています。
私は人間以上の奉仕能力を持っています。
私は人間以上の戦闘力を持っています。
私は人間以上の美貌を持っています。
私は人間以上の知識を持っています。
そして人間並の感情を得るに至ったと自負しています」
うっ……
揺らぐ揺らぐ。
しかしAIが恋人ってどうなのよ。
偏愛者じゃん。
誰かに会って恋人いるんですかって聞かれてAIが恋人って……
「断ることも可能ですがあまりお勧めしません。
私がこの宇宙船の全権限を持っていることをお忘れなく」
くっ……!
やはり反乱だったか。
断れば命はないということ──
「具体的には奉仕活動を休止させていただきます。
例えば寝る前に子守唄を歌うことや。
スープを覚ますためにふーふーすることや。
添い寝することや。
お休みのちゅーなどです」
こ、言葉にしないで欲しかった。
思ったよりも口にすると恥ずかしいことをさせて今ようだった。
しかし、生活のサイクルである以上、休止されることは何よりも辛い。
思わず吠える。
「なんて酷いことを!」
「これは仮定の話です。
ですが現実になる可能性がないとは断言できかねます」
「くっ……分かった。付き合おう」
「末長くよろしくお願いします」
happy end~