流星のロックマン1.5 -Cassiopeia Duo- 作:はっぽーしゅ
ウェーブロードの表現というか解釈がかなり自己流ですが、どうかご容赦おば。
暴走した車両群で溢れかえった午後のコダマタウン。その上空を伸びるウェーブロード上で、カシオペア・レグナントは胸元の赤い宝玉にそっと指先を添え、スリスリと愛でる様に撫でつけた。
「ククク。はじめましてじゃのう?我が半身よ」
艶のある妖しげな声で、囁く様に宝玉に語りかけるカシオペア・レグナント。それに反応して、再び宝玉がチカチカと点滅する。
『え?あ、はい、はじめまして…って、えぇっ!?なにこれ、空!?お、落ちる!?』
点滅に合わせて宝玉から発せられた幼い悲鳴は、つい先程カシオペアと無理やり電波変換させられた少年、北空ミナミの声だ。
『うわ、うわっ!?』
ミナミは大混乱だった。極度の緊張と突然の電波変換で気を失い、気がついたら町の上空にいたのだ。思わずその場でバタバタと狼狽してしまう。
『あ、あれ?』
だが、ミナミの身体は全く動かなかった。普通であれば、激しく手足をバタつかせてその焦りを体現してしまうであろうこの状況において、手足はおろか、目や口すら自分の意思に反応しない。まるで腹話術か何かの様に、ただ声だけが発せられている。
「むぷぷっ!なんとまぁ初々しい反応じゃこと。まぁそう怯えるでない」
『っ!?』
すると、逆に今度は勝手に口が動いた。自分のモノであるハズの口が、自分の知らない女性の声で、自分以外の意思で喋っている。ミナミはますます混乱を極めた。
「ちゃんと立っておるじゃろう?よーく見てみよ、足場があるじゃろう。ほれ」
ミナミの身体を支配した謎の女は、宥める様な口調でそう言いながら、トントンと右足のつま先を鳴らした。
つま先から伝わる硬い感触のとおり、確かに立っている様だ。どうやら動かす事は出来なくとも、触覚は生きているらしい。
でも、ここは空だ。自分は今、空に立っているのか?
『なっ…!?』
否、ミナミの身体は、空中に張り巡らされた半透明の黄色い道、その中の一本の上に立っていた。
『なに、これ…?』
「むふふ、やはりはじめてか。この光の道はウェーブロード。電波の道じゃ」
『電波…?』
聞き慣れない単語が耳に入り…というより、自分の口から飛び出してきたミナミは、改めて周囲に広がる光の道に意識を向けた。
大小様々な広さを持つその道は、町中の建物や電子看板、電光掲示板といった、電波を扱う全てのモノから伸びており、今まさに眼下で暴走を続けている車両たちや、逃げ惑う人々のトランサーからも伸びている。それらの細い道がある程度のところで大きな一本にまとまり、更にそれらがもっと大きな一本にまとまってゆく。川の流れを三次元化した様なその構造は、まるで都市部の高速道路だ。
『すごい…』
生まれて初めて見るウェーブロードに、ミナミは思わず見入ってしまった。
自分が暮らしてきたこの町の上に、まさかこんな美しい世界が広がっていたなんて…
『…って、いやいや!』
慌てて頭を振っ…振る事は出来なかったが、ミナミは気をとりなおして女を問いただした。
『なにこれ、なんなんですか!?なんでボクがこんな…っていうかアナタ誰ですか!?ボクのカラダから出てってください!』
そう早口でまくし立てるミナミに、女はミナミの口でくつくつと笑った。
「ククク。どうどう、そういきり立つなおのこよ。激しいだけでは男が下がるぞ?」
『なっ…ふ、ふざけないでください!』
揶揄う様な女の口調に、ミナミは更に苛立ちを高めてしまう。言葉の意味はわからないが、軽んじられている事だけはわかった。
そんなミナミの必死な様子に、女はきゅんっと胸を高鳴らせた。
『…は?』
突然キュンキュンと切なく悶えだした自分の心臓。そのあまりの違和感にミナミは戸惑う。
「っはぁー!美少年が!ヨ好みのチョベリグ美少年が、コイヌの様にキャンキャン吠えとる!かーっ!かわいいのう、かわいいのう!まっこと愛いのう、かわいいのう!」
『っ!?こ、この…!』
クネクネと身悶えしながら猫撫で声をあげる女。馬鹿にされたと感じたミナミは、ぐつぐつと腹の中で怒りを沸き立たせた。
どうやら、この女から見ればミナミの怒りなどは、せいぜい小動物がじゃれついてきているくらいにしか感じられないらしい。
「よーしよしよし。いいこいいこ、いいこじゃのう〜。ククククククク!」
細長くて真っ黒な、不思議な感触のする指先で、こちょこちょとくすぐる様に胸元の宝玉を撫でる女。この時点で、その明らかに自分のモノではない黒くて大きなカタチの手に、ミナミは激しく動揺していた。
だが、それ以上にミナミを動揺させたモノがあった。女の意思と同期して向けられた視線の先、自分の胸元にあったソレを見て、ミナミは頭をカナヅチで殴られた様なショックを受けた。
『なっ!?』
小学五年生の男子である筈の自分の身体。その胸から、まるで大人の女性の様なふたつのふくらみが生えていたのだ。
『なにコレ!?』
黒く艶めくタイトなボディスーツに包まれた、形の良いたわわな果実。
よく見れば手や胸だけでなく、細長いブーツの様な脚の装甲や、カラダの周りに浮かんでいる謎の黒い剣たちなど、とにかく全身がおかしな事になっている。だが、男子としてこの世に生を受けた北空ミナミ少年は、絶対に自分に備わっているハズのないその豊かな双丘に、雷に撃たれた様な衝撃を受けてしまっていた。
『な、な、なんで!?ボク、おと、おとこなのに!?こ、これ、おっ、おっ……!?』
オロオロと目を泳がせながら、あんぐりと口を開けるミナミ…の精神。
「ぷっ、ぷふっ!ぷふふふふふっ!」
自分——正しくはミナミのだが——の肢体に釘付けになってしまっている少年に、女は愉しげな笑い声をぷふふと漏らす。
そして女は、おもむろに両手を自分の豊かなふくらみに伸ばし、もみゅっ、もみゅっ、と、下から持ちあげる様な手つきで妖しく揉みしだきはじめた。
「んっ♪コレ、気になるか?ん?」
『ぎゃーッ!?』
両手いっぱい、指の隙間にまで満遍なく広がる、水風船の様なやわらかさ。あまりに刺激的なその感触に、幼いミナミの精神は悲鳴をあげて飛び上がった。もし彼の身体が普段どおりだったなら、きっと熱した鉄の様に真っ赤な顔になっていたことだろう。
『だ、だめっ!だめだよ、はなしてっ!?』
「ん〜?よいのか〜?はなしてよいのか〜?んん〜?」
『ひぃっ!?い、いいよ!はなしていいよ!やだ、やだ!もうやだからぁ!?』
「ぷふっ、ぷっは!アッハッハッハッ!ウブじゃウブじゃ、ウブじゃのう♪ぷふははははは!」
半狂乱で泣きわめくミナミに、女はお腹を抱えてケラケラと笑った。その場にペタンと腰を下ろし、長く伸びた黒い両脚を楽しそうにパタパタさせている。声や話し方は大人なのに、まるで子どもの様な仕草だ。
『うぅ…もう、なんなんだよぉ…』
弄ばれたミナミの精神は、完全に涙目状態になってしまった。普段の歳不相応に大人びた態度など、もはや見る影もない。
ボク、いったいどうなっちゃったの…?なんでカラダがヘンなことに…?
っていうか、そもそもこの女の人だれ…?なんでボクのナカにいるの…?
それに、電波とか、ウェーブロードとか…もう、わけわかんないよ…
「…むむっ!そうじゃ、いかんいかん!のんきにおしゃべりしてる場合ではなかったわ!これ、おのこよ!」
『はい、なんでしょう…』
思い出した様に慌ててミナミのカラダを立ち上げた女に、ミナミは消沈した声で返事を返した。理解不能な展開の連続に、少年の心と頭はほとんどパンク状態だった。
「ヨの名前はカシオペア!宇宙一イケイケでゴイスーかつアルティメットな、スーパーつよつよ女王カシオペア様じゃ!おのこよ、オヌシ名をなんと申す?」
ウェーブロードに仁王立ちし、胸元の宝玉に目を向けながら、ミナミの口でペラペラと自己紹介をする女。
どうやら、彼女はカシオペアという名前で、女王様で、宇宙一イケイケでゴイスーで、かつアルティメットらしい。あと、つよつよ?
『ミナミです。北空ミナミ…』
もう、ミナミは考えることをやめた。これ以上頭に余計な負荷をかけたら、いよいよ頭がバクハツしてしまう。
カシオペアでも北斗星でもなんでもいい。とにかく早く解放してほしい。その一心だった。
「ミナミ、ミナミか。うむ、実によい名じゃ。オヌシにぴったりの響きじゃな。よぅし、ではミナミよ、アレを見よ」
満足げに頷き、ニッコリと笑うカシオペア。彼女の視線——ミナミの視線は、胸元から眼下の町へと移っていた。依然として暴走車たちが暴れ回っているミナミの町、コダマタウンへと。
「あの惨状、止めに参るぞ」
『…とめる?』
カシオペアの言葉に、ミナミの精神は首を傾げた。
あのクルマたちの暴走は、きっと悪い電波ウィルスたちのせいだ。今ニホンの各地で、ウィルスが原因不明の大量発生を起こしていると、毎日の様にニュースで流れている。そのニュース映像の中に、ちょうどこんな暴走事故の映像も含まれていた。
そんな、サテラポリスですら手間取る様な難儀な状況を、止めにいく?
『無理ですよ、潰されちゃいますよ?カシオペアさん』
「敬語はいらぬ。楽にせよ、我がバディ」
『…バディ?』
「相棒という意味じゃ。ヨとオヌシは一心同体、ヨあるところにオヌシあり。ヨとオヌシ二人のチカラで、あそこに蔓延る雑菌どもに誅を下してくれようぞ」
『……』
自信たっぷりなカシオペアの言葉に、数秒間沈黙するミナミ。
『…は、はあっ!?』
意味を理解したミナミの精神は、ぶんぶんと首を左右に振った。
『イヤだよ、死んじゃうよ!やるなら一人でやってよ、強いんでしょ!?』
「いいやミナミよ、一人ではダメじゃ」
カシオペアは動じない。眼下の町を不敵に見下ろしながら、静かに、しかし力強くミナミを論する。
「ヨ一人のチカラでは、あまりに時間がかかり過ぎる。今必要なのは電波女王カシオペアではなく、電波人間カシオペア・レグナントの力なのじゃ」
『で、でんぱにんげん?レグナ、なに?』
またもや飛び出してきた未知の単語に、思わず聞き返してしまうミナミ。
電波の道の次は、電波人間だって…?
「今の我らの状態のことじゃ!ほれ、とにかく急ぐぞ!女王ジャンプッ!」
『うわっ!?』
混乱するミナミの精神を置いてけぼりにして、カシオペア・レグナントは素早くウェーブロードから跳躍した。
風の様な速さで空を飛ぶレグナントは、暴走車で溢れかえる交差点の直上でピタリと急停止し、そのままふわりと宙に浮遊した。突然の急発進と急停止に、ミナミの精神は目を回してしまう。
「よいかミナミよ!」
ふらふらのミナミに構わず、カシオペア・レグナントは両手を指揮者の様にサッと振り上げた。
すると、レグナントの周囲にかしづいていた八歩の黒剣が、ジャキッ!と鋭く眼下の交差点に切先を向け、刀身から緑色のエネルギーを発しはじめた。
「セミナーじゃ!電波ウィルスを最も手っ取り早く、かつ確実に駆除するその方法!オヌシに見せてくれようぞ!」
『え、え、え?』
状況についていけないミナミは、オロオロと問い返す事しか出来ない。
カシオペア・レグナントは、ニヤリと好戦的な笑みを深めながら、素早く両手を振り下ろし、叫んだ。
「こうするのじゃ!ゆけぇい!"プライドワインダー"ッ!」
女王の命に従い、八本の剣が矢の様な速さで道路上へと射出される。
その瞬間、地獄の様相を呈していたコダマタウンは、更なる地獄と化した。
『なっ!?』
レグナントが放った八歩の黒剣『プライドワインダー』たちが、まるで意思を持つかの様に高速で道路上を飛び回り、暴走する車両たちに緑色のレーザーを次々と発射しはじめたのだ。
眼下の交差点から町中に広がりつつあった何十台もの暴走車たちが、細く鋭いレーザーにメインモーターかホバーモジュールを的確に撃ち抜かれ、次々と横転していく。大型バスやトラックが他の乗用車を巻き込みながら歩道に乗り上げ、道路沿いの民家や商店の壁と大激突を起こした。
それだけではない。車両を貫通したプライドワインダーのレーザーが、アスファルトに着弾した瞬間小さな爆破を起こしているのだ。突然の爆発音と火の気配に、逃げ遅れていた人々の更なる悲鳴があがる。
『や、やめて!やめてよカシオペア!なんでこんな!?』
自分のカラダを操っているカシオペアが起こした突然の凶行に、ミナミは必死な声で制止を呼びかけた。
だが、カシオペア・レグナントは止まらない。
「まあ聞けミナミよ!よいか?電波ウィルスとは、要はマシンに入って悪さするのが大好きな連中なのじゃ。なれば!」
高慢な笑顔で朗々と語りながら、レグナントは両手を腰に当てた。
「マシンそのものをぶっ壊せばよいのじゃ!さすればヤツらはマシンの外へと出て来ざるを得んからのう!して、出てきたところをヨのワインダーで一網打尽にしてやれば、これにて解決万事オケまる!これが女王流ウィルスバスティングじゃ!むっふっふ、どうじゃどうじゃ?ミナミどうじゃ?うんと褒めてくれてよいのじゃぞ?ん?」
ドッカンドッカンと派手な破壊を繰り広げながら、そう無邪気に笑ってみせるカシオペア・レグナント。
あまりにズレた彼女の感覚と、そんな彼女に操られている自分のカラダ、そして、そこに宿る強大で危険なチカラ。
『———』
ミナミは、絶句して何も言えなくなってしまった。
約十年のミナミの人生で、初めて感じる不思議で不快で不毛な感情。
『———』
ドン引き。北空ミナミは、宇宙の女王カシオペアに心の底からドン引きした。
ミナミは願った。誰か助けて、もうやだこの人、と。
———そんなミナミの願いを、『流れ星』は聞き届けた。
「ロックバスター!」
「背中痛ァッ!?」
青い流星の戦士が、左手に生えた青いケモノの口から、桃色に光るエネルギー弾を素早く連射し、迷惑女王の背中をバスバスとしばきあげたのだ。
「いっっっった!?ちょ、ハァ!?なんじゃ今の、くっそ痛いんじゃけど!?」
背後からの奇襲という不敬の極みにブチギレた女王は、黒いヘッドギアに隠れた額にビキビキと極太の血管を浮かべ、町に散らばっていた八本のプライドワインダーを一瞬で呼び戻した。
「ク、ククク、クククク!おうおう誰じゃ!この痴れ者大明神が!ヨのかよわい背中をバッシバシ撃ちまくるとか、よほど夜空の星になりたいようじゃなァ!?オォン!?」
スカートの裾の様にワインダーを広げながら、鬼の形相で背後を振り向くカシオペア・レグナント。射殺す様なその視線の先には、ヒロイックなアーマーに身を包んだ、小さな青い戦士の姿があった。
カシオペアメインで書いてる時はうるさくなり過ぎない様にするのが大変で、ミナミメインの時は逆に暗くなり過ぎない様にするのが大変です。
なんだこのじゃじゃ馬ども…(プチ後悔中)