蒼都になったけどバンビちゃんが死ぬほど面倒臭い(※死ぬ) 作:黒兎可
バンビちゃんが原作以上に頭バンビちゃんである可能性があるので、そこはご注意です・・・汗
暗闇の底で僕は声を聞いた。深い、その声の主は、その影は、まだ腕も脚も短い僕にはとても大きくて。ただ、全身焼け焦げているのか、僕はその相手が何であるのかを知り得なかった。
――――そうか、間に合わなかったか。
――――ならば已むをえまい。返してもらう、我が血を。
そういって、その影は僕に手を向けた。その手が僕から「何か」を奪い去ろうとしているのは、よくわかった。だけど――――その時、どうやったかは判らなかったけど、僕は僕の「何か」を奪われることに、全力で抗った。抗えた、らしい。良く判らない。
影の主は、戸惑ったように僕を見降ろしていた。
『…………ほぅ? 何故生きているのか。
彼の言葉に、僕はかろうじて息をして、そして吐き出しながら。
「――――
ただその一言に、影は少し押し黙って、そして大声で笑い始めた。それは心底楽しそうで、大人が子供を見て可愛がるような、そんなちょっとだけ温かなものだった。
『――ハッハッハッハ。成程、それもそうか。道理だな。それ「だけで」生き延びた訳でもないだろうが、「視えなかった」のも事実か。
良いだろう、お前に――――を与えよう』
しゃがんだ影の主に、何かを飲まされた。味は、わからない。喉も、舌も、何もかもが焼け落ちて感覚がロクに残っていない。しゃべれたのだって、どうしてかわからないくらいだったのに――――。
でも、それから少しして。どういう訳か僕は「戻った」。徐々に、徐々に身体が「戻っていく」、使えるようになる感覚――――。
「名は何と言う」
身を起こして、まだ目が「戻り切ってない」僕に、影の主は名前を尋ねる。
「……
「そうか。ならば、蒼よ、共に来い。お前をこれからも生かしてやろう。生と、死と、その果てのない世界で――――――――」
――――運命を乗り越えし、我が息子よ。
ようやく「戻った」両目で彼を見て。彼の顔を見て、その言葉を聞き、ようやく僕はこの世界の真実を知った――――「思い出せた」。
※ ※ ※
バンビエッタ・バスターバインにとって、その蒼都はあまりに想定外の存在だった。
長い時を経て自らを取り戻しつつある王・ユーハバッハ。彼の率いる
そんな彼女たちに慕われている(と本人は思い込んでいる)バンビエッタにとって、既に中学生から高校生くらいに育っている彼女こそが、一番その五人組チームの中でもトップオブトップ、エリートオブエリートであると、そう考えていた。
陛下が「後継」として考えているだろうユーグラム・ハッシュヴァルト などは置いておくにしても、自らに与えられた序列階位が五本の指に入っていることも、それをより強く意識させている。
だから廊下ですれ違った丸サングラスの男、変な風に切りそろえられた髪型のキルゲ・オピーから聞いた話が、なんだかとても嫌なものだった。嫌というより、ムシャクシャした。
「は? 聖文字の序列って強さの階位じゃない? 本当? 正気で言ってるワケ、アンタ? あたしより5つも6つも下だからって嘘ついてるんじゃないわよねぇ。声が良いからって調子こいてんじゃないわよねぇ。はァ?」
「何度も詰め寄らずとも、そのようなことをする必要がありますかね……? 私にはありません。
現に、私たちの能力には相性というものがあるでしょう。個々人の人格に対し、陛下が力を与えるからこそ、ということになりますから。それに、
「だからって基礎ばっか鍛えろとか言われても、あたし全然やる気ないわよ。あんた、私相手に手も脚も出ないじゃない。完聖体すら使う必要もないわ、文句があるならあたしを倒してから言いなさい!」
「む、年頃の子供を相手にするのは中々骨が折れますねぇ。特にまだ経験値が浅いからこそ、『最低限の』基礎と言う訳でもなく、より強靭に練らねばならないというのに…………。
……おや? 噂をすれば、いらっしゃられますね」
「っ!」
黒い外套を纏った美しい金の髪を持つ男が一人、こちらに向かってくる。背も自分よりはるかに高く、そして身にまとう風格が目の前のキルゲなど比較にならない程に威圧的で、冷たい男。ユーグラム・ハッシュヴァルト。規則的に、ゆったりと響くブーツの音。その一歩一歩に、バンビエッタは何故か、「なんとなく」怖い感情を抱き、頭を垂れる。
そんな自分とは異なり、キルゲは揚々と当たり前のように胸に手を当て、彼を迎えた。
ハッシュヴァルトはキルゲの前で歩みを止め、彼に向き直る。
「ハァイ、ご無沙汰しております
「ここに居たか。……陛下より直々の推薦だ」
「推薦でございますか?」
「あぁ。先に紹介しよう。陛下が
ハッシュヴァルトの話に、バンビエッタは興味がない。だからこそ、少年の姿を見て驚かされた。年頃はミニーニャか、それよりも幼い。5歳くらいだろうか。黒い髪が長く目が隠れており、表情が見えない。唇の嘴にはうっすら切り傷のようなものが残り、よく見ればその「適当に見繕った」ような半端なデザインの半袖半ズボンから見える身体にも傷痕が多く見える。
(なんでこんな小さすぎるガキ、連れて来てるのよ……)
そんな男の子……、幼児かちょっと少しその域を出たくらいの男の子は、バンビエッタの顔を見て、少し視線を下に落とした。照れてるのだろうか、まぁあたし可愛いからねー、と。そんなことを思っている彼女だったが、男の子の視線が自分の胸をじっと見ているのに気付いて肩を竦めた。「外」から来てこの幼さだ、おそらくミニーニャと違い見た目通りの年齢だろう。性欲を抱くほどには情緒が育ってはいないだろうと思う。
(ママでも恋しいんでちゅか~? なぁんて……)
それに揶揄おうと少し思ったり思わなかったりはしたが、泣かれても面倒だとバンビエッタはあえて額を小突く程度で済ませた。
……それこそもう少し自分も「育って」いたら、色々と発散のために「見てくれの良い」男を
ただ、丁度そんなタイミングで、ハッシュヴァルトの口から聞き捨てならない言葉が出て来る。
「――――既に
「これはこれは……、大変恐縮! 謹んでお受けいたしますとも」
「……ッ!?」
その一言は、バンビエッタの外見年齢や性格相応に低い沸点のプライドを刺激した。
自分たちですら「最低限の基礎」を覚えた後に陛下に見いだされたのだ。いかに自分たちが
意地の悪い「遊び」が思い浮かび、バンビエッタは悪い笑顔を浮かべそうになる。キルゲはハッシュヴァルトとの話し合いに集中しており、こちらを見ていない。ハッシュヴァルトもハッシュヴァルトで自分など眼中にも入っておらず。
そんな状況で、彼女は男の子の、マントを掴んでいる方と反対側の手をとった。
小声で囁く。
「(おいで?)」
「……?」
何もわかってない顔のまま、男の子はハッシュヴァルトの外套から手を放しバンビエッタの手を握る。温かい、というより熱い。子供らしい体温は器子が存在している滅却師である証だろうか…………。
と、その視線がやはり自分を見て、しかしすぐに下を向く。
(照れてるのかしらねー。ま、ちょっとだけ可愛いんじゃない……?)
ちらり、と長い前髪の隙間から見えた顔立ちは悪くない。若干目元が半眼だったが、それを差し引いて小さい子供としてもかなり可愛らしい部類に入る。
ただそれはそうと、男の子を見て思いついた「自分が思いついた最高に頭良い遊び」の実行を躊躇わないのが、バンビエッタがバンビエッタである所以である。同じ年代くらいのジジ(ジゼル・ジュエル)など「そんなだから、バンビちゃんは頭バンビちゃんなんだよ……」と時々呆れたような顔をすることがあるが、そんな程度でくじける精神性をしていたらバンビエッタは頭バンビエッタなどと呼ばれてはいなかった。
二人が不思議に思わない程度に
またぞろ変な遊びでも始めるのか? と、そういう扱いを受けているが、特に気付くわけでもなくむしろ「皆、あたしの言うことに文句言わないわね! やっぱりあたし、皆のリーダー!」と思っているのだから、彼女と周囲の溝は深かった。
さて、そんなバンビエッタは銃を抜き、構える。男の子はそれを不思議そうに見て、頭を傾げていた。
「か、可愛い…………! っていうより、バンビちゃん流石にそのくらい幼い子相手に何やるのさ……」
「大人げなすぎるだろ、何かイライラしてんの?」
「別にぃ? ただ、ちょっと実力が気になったから、このあたしが直々にオテアワセしてあげるってだけよ」
自分だけ把握してる情報を適当に言うだけ言って片手剣を構えるバンビエッタに、男の子はやはり一切の戦闘態勢をとっていない。男の子は状況が呑み込めていないらしく、逃げる素振りもない。その状態のまま数秒見つめ合い、最初に折れたのはバンビエッタだった。
「…………あなた、今からあたしと戦うの! あたしも『聖文字』は使わないであげるから、どれくらい今のあなたが出来るか確認してあげるって言ってんのよ」
「……………………」
「何かしゃべりなさいよ! ちびっ子!」
男の子はやはり困っている様子である。彼の視線が四人にふられるが「実力みるとか言っても」「説得力ないですよねぇ~」「俺でさえ大人げないって思うわ」「流石バンビちゃん、いつも通り頭バンビちゃん」と、次々に感想を言うだけ。特に助けてくれる訳でもないとわかり、男の子は両手を構える。……「ある種の」知識がある人間が見ると、気功波でも放つような、そんなポーズだ。それと同時に、手元に霊子兵装が形成される。なんとなくオオカミの頭というか顎と言うか、そんなものを連想させる形だ。
とはいえまだまだ未熟。構成が乱暴なことは、その見た目の形成状況がちぐはぐ、所々不必要な穴など開いていることで十分察しが付く。
ニヤニヤ笑いながら、バンビエッタはそんな男の子を煽ろうとする。大人げないし性格が悪い。
「へぇ~? 陛下直々に将来、推薦されるってくらいだから、どんなもんかと思ったけど……。大した事なさそうじゃない」
「………………………………」
「…………いや、何か言いなさいよ」
「……………………お
「何?」
だが彼もさるもの引っ掻くものか、はたまた天然か。
「さっき、
瞬間、噴き出すジジとキャンディス。リルトットは舐めていた飴を思わずかみ砕き、ミニーニャは一見上品な風に微笑んでバンビエッタを見ていた。
バンビエッタはバンビエッタで、怒りなのか羞恥なのか顔が真っ赤である。……言葉には別に「そのテの」感情は無かったと思うが、馬鹿にされたというより普通に忠告されたという風な言いぶりで、自らのミニスカート装束に文句がつけられた。しかも年端も行かない子供に。
上等じゃない、と。他のバンビーズの前で恥をかかされたバンビエッタは、割と自業自得でありながらその怒りを攻撃に転嫁することにした――――。
だが、当初の思惑と違って事は思ったように進まない。
「ちょっ、ガキ! アンタなんでそんな硬いのよッ!」
「…………?」
無意識か、あるいは生存本能か。男の子の
自分はこれだけ散々動き回ってるのに、男の子は先ほどからその場でほぼ動いていない。これではいずれ、先に集中力や体力が切れるのは自分が先のはず。…………そもそも自分勝手にケンカをふっかけたのはバンビエッタの方だし、散々動き回ってるのも攻撃してるのも彼女自身なので自業自得以外の何物でもないのだが、そこを顧みる神経があったらバンビエッタはバンビエッタではなかった。
いいわ褒めてあげる、と。バンビエッタは肩で息をしながら、体勢を整える。
「このあたしをここまで疲弊させたちびっ子はアンタが初めてよ。褒めてあげる」
そもそもちびっ子相手に勝手に自爆しただけじゃ、とジジのツッコミは完全に聞かなかったことにし、ここからは少し本気で行くわと。霊子を周囲に収束させ始め、「本気で殺そうと」聖文字を使う準備を始めた。
なおこの場のバンビーズ、男の子が陛下直々の推薦で云々の話はさっぱり知らないため、どれだけバンビエッタが綱渡りをしているかについては察しがついていない。よって止める間もなく、バンビエッタの剣に収束した霊子の塊を、彼女は雑に男の子へ向けて放出した。
それを受けた男の子は、何か行動を起こす前にバンビエッタの「爆撃」に巻き込まれ――――。
「“
「――――ハァイ! 彼女いきなり何をやってるんですかねえ!!?」
と、いつの間にやら駆けつけていたキルゲの絶叫に仰天する他バンビーズ。とはいえ止めに行くわけでもなく、その後ろからハッシュヴァルトが現れて更にぎょっとしてしまう彼女たち。
「落ち着け。あの子供もそう簡単には倒されまい。武装はともかく、静血装については陛下も驚いておられた。その上で――――」
――――そして、煙が晴れた時。男の子の全身は、まるで「銀のような」色に変質していた。
流石に予想外だったのか、あんぐりと女の子がしてはいけないような間の抜けた顔をする。ジジたちもツッコミを入れる暇もなく、その姿に声が出なかった。
ずずず、と。その銀が引いていくのを見ながら、ハッシュヴァルトは解説を続ける。
「陛下がお与えになった
それに静血装を併せれば、簡単には殺されまいと。
幼子のその、やはりちょっと困ったような顔に、キルゲはどういったものかと困惑した様子となり。
一方のバンビエッタはといえば、ハッシュヴァルトの姿が視界に入っていないせいか。テンションをいきなり上げて、男の子へと駆けより抱き上げ、くるくるその場で楽しそうに回り始めた。
「ちょっと待って、ちょっと待って、スゴイじゃないあなた! まだ五歳? 六歳? よね。それでそんな硬さとか、嫉妬しなくはないけど超すごいじゃない!
――――あなたなら、あたしが何発能力ぶつけようが死なないわよね? 超、爽快じゃないのそれって! こんなサンドバッグ欲しかったわっ!」
「 」(※絶句)
あんまりにもバンビエッタの頭バンビエッタすぎる発言に、キルゲは言葉を失った。こころなしか全身が真っ白に燃え尽きている。ハッシュヴァルトもハッシュヴァルトで色々と面倒になったのか「後は任せた」とキルゲの肩を叩き、その場から立ち去る。
バンビーズはバンビーズで「オイオイ……」「死にはしないから良い、のか……?」と視線を向けながら。中でもジジが「君、苦労するねぇ……、ちょっと助けてあげないと可哀想だなぁ……」などと決意を新たにしているところで。
(やっぱバンビちゃんってトップクラスにクズだなぁ……。性的な遊びをまだ覚えてないかもしれないけど、それ差し引いてもクズだよ、この娘。バンビちゃんのバスター(意味深)がバインバイン(意味深)してなかったら、許されないぞこの美少女の皮被った生存本能の塊ドグサレビッチサイコが。……いや言いすぎだね、ごめんよ、頭バンビちゃんだから仕方ないよね)
肝心の本人は。抱きしめられ、ついでに首を絞められ始めた男の子、
案外、ちゃっかり者であった。