蒼都になったけどバンビちゃんが死ぬほど面倒臭い(※死ぬ)   作:黒兎可

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プロットは出来上がってたんですが、書き上げる時間が全然足りなかったのです…
というわけでサービスで今回は文字多め。例によってダイスで決めてるので謎設定や謎描写についてはご容赦ください…


#010.怪物の目覚め

 

 

 

 

 

「ブルーあなた、早い所正式な聖文字(シュリフト)に馴染まないと駄目よ? まだ全然使えないのよね。無能は陛下によって粛清されちゃうと思うし、何とかしないと…………。

 ちょっと、キャンディ! ミニー! リル! ジジ! みんな協力してあげなさい!」

 

「えぇ何でぇ!?」「ブルーでしたら、喜んでぇ~!」「まぁバンビじゃそーゆーの向かないか、訓練前にバラバラにしちまいそうだし」「ふぅん、今日はどうしよっかな~?」

 

 バンビエッタのそんな一言と共に、ブルー・ビジネスシティこと蒼都の強化訓練が決定した。「助っ人呼んで来るわ! 感謝なさい!」とそこは普段のテンションだったが、飛廉脚を使いわざわざ場内を足早に移動するくらいである。何かしら彼女的な危機感でもいだいているのだろうか。

 それを受けてミニーニャが「がんばりましょぅね~!」と気合十分。ジジは「面白そう!」と気楽な雰囲気。一方キャンディスはバンビエッタの去っていった後ろ姿を見て「ひょっとしてアイツ、ガチか……?」と戦慄した顔をするとともに、リルトットは「グレミィ頼れねぇな」とボソッと一言呟いた。

 

 閑話休題。

 

「“神の独裁(ヤショリニアン)”――――いきますよぅ、ブルー!」

「う、うん……」

 

「2対1たぁ面倒くせぇなー、あぁ――――――“神の乾き(ユベシュエル)”」

 

 いつものように訓練場。幾分かつてよりも様変わりしたこの「影の中に作られた影の場所」とでもいうべき拡張空間にて、ミニーニャとブルーはリルトットと対峙していた。

 なお女子二名は完聖体の使用を躊躇しておらず、ブルーの顔が本当にブルーなのが誰にも見えていないのは内緒である。仮にジジがいても「大丈夫かなぁブルー」と心配した素振りをしつつ、バンビエッタに言われて始まったこの戦闘自体は、一切止めるつもりはないだろう。

 

 なお、彼女たちの恰好の変化は対照的だった。ミニーニャは普段の厚着風なブラウスを脱ぎ捨てタンクトップのような装いに変化し、背中の小さなハートが束になったような羽根から霊圧が延々と放射されている。対してリルトットはノースリーブのようだった腕の部分に白いやや大きめの袖口が出現しており(わざわざ着用した?)、さながらシルエットはナースのようでもある。まあその背中に生えた光輝くも良く見れば「ギザギザ歯だけが」「延々と重なってるような」ギザギザに尖った羽根も含めて、彼女らしいと言えば彼女らしいが。

 

「手加減はするから『死ぬほど痛い』だけで死ぬわけじゃねーけど、それでも気を付けろよブルー。俺もこれ、あんまりうまく制御は出来ないから」

(あ、あれが……! 髪型ヘンなベレニケの完聖体すら余裕で打ち破るっていう、リルちゃんの完聖体…………!)

 

 ベレニケの聖文字“Q-異議-(ザ・クエスチョン)”が完聖体“神の問答(インクリジア)”であるが、その能力は「相手が使用する霊子の従属を奪い取る」というものである。早い話が霊子のクラッキングに近いことをやらかす技であり、理論的には月牙天衝すら途中でその制御を奪い取って真反対へ打ち返す、どころか斬月から射出される直前に暴発させることも可能だろう。

 その霊子制御能力すら完全に置き去りにすると、当の本人から自嘲交じりに教えられたブルーである。幼い時分から特に関係性も変わらず、バズビーなど一部滅却師たちを兄貴分として、見た目以上に幼い印象のままに青年は成長していた。

 

 なので一切躊躇わず、ミニーニャの背後に回るブルー。現状聖文字が使えないのなら、防御は不能なので攻撃のみに絞ろうと言う事だろう。

 あまりのその迷いの無さに「オイオイ」と苦笑いのリルトットと、むしろ頼られて少し誇らしげなミニーニャ。こちらもこちらで元の外見年齢がブルーと同程度だったこともあってか、見た目の成熟具合よりもやや幼い印象である。

 

「いや、張り切ってるところ悪ィけどそうじゃねーだろって。ブルーお前もよォ、陛下に言われたろ? 聖文字について、多分」

「あ、う、うん。

 えっと……『疑問は、要らぬ。猜疑も、要らぬ。ただ己が魂に、その身をゆだねェ…………、奥底から浮かび上がるそれこそが、お前の聖文字となるだろぉゥ……』って」

「ちょっとブルーゥ!? ふふふッ! くッ!」「お前ッ! 不意打ち止めろ……ッ! く、くそ、意外と似てるな陛下の物まね……ッ」

 

 唐突なブルーによるユーハバッハの物まね芸(?)を前に、ミニーニャとリルトットは噴き出した。腹を抱えて笑っているが、騎士団長にでも見つかれば面倒事になるかもしれないので、一応は抑えている。

 なおサボりでこの場からいないジジやバンビ一人だと心配だと後を付いていったキャンディスがこの場にいれば、お互いに一切の躊躇なく大笑いしているくらいには案外模倣出来ているブルーのそれであった。

 

「く、くくく……、はぁ、はぁ、ま、まぁ、そういうことだ。

 要は、ちゃんと霊力使って戦えってことだろ。全力でやらないと、奥底から何も出てこねぇしな」

「リルお姉ちゃんもそうだったの?」

「…………お、ぉう(その身長とか顔でお姉ちゃん呼ばわりされるとヘンな気分になるなぁ……)」

「リルゥ? 何かしらその反応? リルちゃん、リルゥ?」

「……何だよ、何でもねぇよミニー。だから怖い顔すんなって。呼び捨ても止めろバンビじゃねーんだから。

 まあその調子じゃミニーもしっかりブルーのこと『強化してくれる』だろうから、とりあえず当たって砕けろ、で来い。胸は貸してやる」

「あ、はい」

(まぁ胸はないけどね……)

 

 一瞬だけリルトットの、彼が幼児から青年に育つくらいの期間ですら一切変わらなかった体躯になじんだ胸元の直線(ヽヽ)へ向けられるが、流石にもう口に出しては言わないブルーであった。幼児ならば許されたろうが、流石にこの年代の姿になってからは気を遣うべきであるし、その分リルトットもブルーには優しくしてくれていた。……常日頃の有様から同情も圧倒的に大きいだろうが。

 ちなみにバンビーズの中でブルーからの信頼やら好感やらが(性的なものを除いて)最初にカンストしたのがリルトットであり、リルトットの側もバンビーズの誰より、それこそバンビよりも早くブルーと打ち解けているのは完全に余談である。

 

 なお、そんな和やか(?)な話し合いをしたところで、戦闘結果が何一つ変わる訳もない。

 

 リルトット背部の空間の穴のような羽根から「幾数十もの顎」のようなものが、生物ではなく「顎だけ」そこに存在するようなもの共が這い出て、ブルーやミニーニャの神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)やら臨時で持って来た魂切矢(ゼーレシュナイダー)、果てはミニーニャの超パワーによる打撃の衝撃波すら喰らいつくし、文字通り手も脚も出ず顎たちにかみ砕かれるブルーたちであった。

 リルトットの「死にはしない」の言葉通り、その顎による噛みつきで負傷こそほぼしていないが(甘噛み?)、それはそうとして全身から猛烈に奪い取られる霊圧に、戦慄するブルーである。

 

「リルお姉ちゃん、これ、何なの…………?」

「何なのかって言われても俺だってわからねぇよ」

「毎回思いますけどぉ、私のフィニッシュブローの直撃に噛みついて威力無くすのぉ意味わかんないですもんっ」

「あー、それはアレだ。『衝撃波』と『霊圧』と『爆裂する』って概念をまとめて『喰ってる』ってだけだ」

「「喰ってる……?」」

 

 理解が及んでいないブルーとミニーであるが、リルトットのやっていることは文字通りそんなこと。つまりは「概念干渉」系の能力である。これによりベレニケに霊子操作すら、大本の霊子操作の概念ごと喰らうことで無効化しているというのが正解だ。

 なおバンビエッタ相手だと、実はそう上手くいかない。単純な現在の霊圧差により、爆撃の概念を喰らうよりも先にリルトットの身体が負うダメージが勝ってしまうためだ。なんだかんだと言われてはいるが、実際問題バンビエッタがバンビーズ最強である一幕でもある。

 

 ともあれ珍しく? 頬から出血しているブルーに治療を施しながら汚れをふいたりと、かいがいしく世話を焼いているミニー。そんな彼女を見て「ハハ~ン」とニヤニヤするリルトットだったが、一瞬目を見開いた後すぐさま眉間に皺を寄せた。

 

「バンビたちが一緒じゃねえから偶々なんだろうけど、どんな組み合わせだ……」

「えっ? ……えーっと、これは…………」

「リルお姉ちゃん? ミニーちゃん?」

 

 困惑する蒼都だったが、彼も霊絡を探ってその理由に思い至った。

 

「――――そうつまり、あのバンビエッタにもラッヴがあるとミー思うのよネ。じゃなければ、やっぱりミーのラヴに応える精神が生まれないしぃ。ブルーみたいに」

「ブルーの扱いはちょっと致命傷だからなー。致命的を通り越して、幼児の扱いにしちゃ致命傷じゃねーのよ。……というか、あー、本人たちの霊圧近づいてるのによくしゃべるなぁ。もうちょっとオシャレに優しく触れてやりなって」

 

 階段を下りてやってきたのは、“L-愛-(ザ・ラヴ)”ペペ・ワキャブラーダと、“D-致死量-(ザ・デスディーリング)”アスキン・ナックルヴァールの二人。ハイテンションにアスキンへと話しかけ続けるペペと、若干面倒がってそうながら律義に応答しているアスキンという組み合わせだ。

 なるほど確かに、彼女たちのリアクションも頷ける。バンビーズは以前訓練で、ペペによりバンビエッタが操られた際に全員もれなく彼女の完聖体による大爆撃を受けた経験や、その見た目が色々受け付けないこともあり、ペペ個人に対して全然好意的ではないのだ。

 

「おはようございます」「あぁ」「はい~、おはようございますぅ」

「よぉミニーにリルトットに、蒼都(ツァントウ)聖章騎士(ヴェルトリッヒ)の正式招聘おめでと」

「ゲッゲッゲ、…………む?」

 

 と、あいさつもそこそこに。ブルーの世話を健気に焼いているミニーニャの姿を見たペペは、ゲッゲッゲと笑い声をあげながら少し思案すると、リルトットへと耳打ちしようと近づいた。なお「臭ェ!」と背後から数多の顎を差し向けようとする彼女に「酷い! やっぱりミ―へのラヴ足りないッ!」とサングラス越しに涙目である。

 

「まぁミーへのラヴはともかくとして、ねぇねぇアレ、ラブ? ねぇアレってラヴ?」

「だーから寄るんじゃねぇ、肉達磨ァ! 息が臭ぇ! 歯ぁ洗え! 風呂入れ!」

「んもーぅ、これ一応ミーの聖文字に関係するから、あまりそう言われちゃうとその……、ネ☆」

「致命的じゃねぇの……」

 

 当然のようにアスキン、ドン引きである。騎士団の中でもオシャレさに並々ならぬこだわりがある彼からすると、ペペのその一挙手一投足は生き方として受け付け難いのだろう。

 なおリルトットとて、別に1週間くらいそういうのを適当にしているくらいならツベコベはいわないくらいにはガサツであるが。それはそうとしてペペのそれは月単位というレベルですらないので、嫌悪感も一入で合った。

 

 それはさておき。二人とも特に何かあったというわけではないらしい。道中顔を合わせて、蒼都たちの霊圧を感知して様子を見に来た、ということらしい。

 

「ブルーにはまっだラッヴを教えられていないし……」

「珍しくバンビエッタの奴がいなかったから、何やってるのかと思ってねぇ。その感じだと聖文字の訓練か」

 

 言いつつ、ガス欠とのことでリルトットの完聖体が解除され、それに合わせてミニーニャも解除する。お互いの恰好も普段通りに着込み、若干ミニーの胸元(横乳)を見て残念そうなブルーと、その視線に気づいて顔を赤くして「めっ、ですよぅ~!」とデコピン一発のミニーニャであった。なお威力は“P-力-(ザ・パワー)”準拠なので、軽い一撃でもその場に倒れるくらいの威力である。聖文字がないためそのまま背中から倒れたブルーに、大慌てで抱き起しにいくミニーニャというコントのような光景であった。

 

 と、そんな状況に、上空から強い霊圧を感じる全員。空(天井)を見上げて一歩後ずさると、猛烈な霊子の収束光と共に爆発音(天井が粉砕される音)を伴い落下してくるシルエットが一つ。まるでスーパーヒーローがごとき三転着地をしたその相手は――――。

 

「おぉ、奇跡の男じゃないの」

「ゲッ……! み、ミーちょっとお暇をもらいたいなぁナンテ……」

「ジェラルドか……」

「珍しいですぅね? 全然、私たちと絡みもないのにぃ」

奇跡(ミラクル)の人だ……!」

 

「――――フッハハハハハハハハハ! そう、よくぞ我が(めい)を呼んだ! 蒼都(ツァントゥ)

 だが正しくは! 我が名は!! ジェラルド・ヴァルキリーィイッ!!!」

 

 大声で絶叫するジェラルドの、相も変わらず北欧の雷のヒーローめいたその風貌を前に、ちょっとだけテンションが上がる蒼都であった。BLEACH原作において扱いは何とも言えないところではあったと彼は考えているが、実際問題リアルな人物としてのジェラルドのことは結構嫌いではない。絡みこそ少ないが、案外まともそうだしという理由で。

 話を聞けば、どうやらバンビエッタとキャンディスとが呼んできた助っ人とは彼のことらしい。曰く「どんなに全力で戦っても傷つかないしノリが良いから、躊躇なく殺すつもりで戦えるだろう」とのこと。なおその二人は二人でジェラルドがこちらに来る際に軽く「しごいて」倒して来たらしい。何故? という疑問が一同を支配したが、それにジェラルドは特に答えはしなかった。

 

「我が聖文字“M-奇跡-(ザ・ミラクル)”により、与えられし傷はすべて神の尺度(サイズ)へと置き換えられる!故に気にせず問題はない!」

 

「神様のサイズ……?」

 

「より正確には、民衆の願いを束ねたような力とも言える! 奇跡とは多くが願うことにより発生するもの、故に! 我の身が傷つくこととて、本質的には些事ともいえる! 我が身を使い神の力が顕現しているが故に、その尺度(サイズ)の現し方は様々な形として成り立つのだ!」

 

「み、耳がぁぁ……」「さっきから声デケーぇんだよなぁ」「ミー、耳が死んだ」「見た目の雰囲気には合ってるんだよなぁ」

 

 なおさっきからずっと大声ある。リルトットたちも各々好き勝手に言っているが、特に気にはしていないのかにこやかに大声でブルーと話し続けるジェラルドであった。

 

「つまり身体を大きくしたり、傷自体を癒したり、攻撃力とかを上げたりと……。何でもありなんですねぇ」

 

「とはいえ意外と自由度は低いがな、ウルヴァリ……、否、蒼都! 今のままでは聖文字の発露に時間がかかりすぎるのだろう? 短期決着だ、死ぬ気でかかってこい! さっきまで共に完聖体の訓練をしていた、バズビーのようにな!」

 

「バズお兄ちゃんも訓練してたんだ……」

 

「やはりあの火力が相手では、どうしても訓練相手は限られるからな! 我が奇跡の肉体でもなければ、そう簡単には受けきれまい! そのあたりに気を回す性格をしているのは知っているだろう! 本来、人が出来ているのだ! バンビエッタ・バスターバインとは違って! バンビエッタ・バスターバインとは違って!」

 

(奇跡の人にすら頭バンビちゃん扱いされててバンビちゃんはもう駄目かもしれない……、最初から駄目だったか)

 

 残念でもなく当然の評価であり、なんならユーハバッハからもそんな扱いであった。

 なおペペが端の方で「ブルー、どうしてバズビーをお兄ちゃん呼ばわりしてるのかイ?」と聞いたりして、アスキンから意外とあのあたりは仲が良いということが語られたりしていた。たまにバスケとかやって遊んでるというその話に、知らなかったのか驚いた様子のミニーニャもいたりするが、それはさておき。

 

 まずは小手調べということでブルーの矢を延々と受けるジェラルド。とはいえ練度や霊圧こそ上がってはいるが、蒼都の身体における性能はやはり能力頼りな部分が大きい。数発ほど盾で受け流し剣で弾き飛ばすと、「今度はこちらから攻めるぞ!」と丁寧に教えながら、猛烈な速度で踏み込んでくるジェラルドだった。どうやらダメージを受けた分の反動や尺度を、霊圧の上昇に使っているらしい。

 巨大化してこないことに原作読者的な意味で違和感を感じるブルーであったが、とはいえジェラルドも多少手加減しているのか、生成した籠手そのものは砕かれずに殴り合い斬り合いができていた。

 

「うぅ……、ミーこう何て言うか、子供が成長する瞬間見るの好ッキっ! あの虐待現場からよくぞこう、ちゃんと一人前の戦士として戦えるように……、ゲゲゲ、ゲッ」

「泣くんじゃねぇせめてふきんか何か持ってこい、腕で鼻水拭ってんじゃねぇよ汚ねぇな汚デブ…………」

「でもぉ、ブルーって今は“Σ-鋼鉄-(シデロ)”の金属化とかって使ってないですぅ~? こう、腕から爪は出ていないですけど~ぅ、普通あの勢いで切り付けられたら腕が折れちゃってると思うんだけれどぉ~」

「鋼鉄化は上書きされてるんじゃなかったかねぇ。

 ……まあミニーニャの“E-権力-(イクシア)”しかり、こっちの“φ-薬毒-(ファルマコ)”しかり、仮文字時代の力を部分的に引き継ぐってのは有りそうだが」

 

 とはいえ、そこまでブルーも余裕があるわけではない。ダメージが与えられないのはともかく、与えたその分が相手の霊圧に加算されてブルー本人を傷つけていく現状だ。身体の傷も増えるし、血しぶきも飛ぶ。ミニーニャが両手で口を押えて一歩出そうになるのをリルトットが止めに入ったりもしていた。なおそれでも四肢が千切れたり、胴体がバラバラになったりといった事故が起こらないのは、ひとえにジェラルドの“M-奇跡-(ザ・ミラクル)”が持つ権能のたまものといったところか。

 と、ジェラルドがここだけ彼にしては小声で、ブルーに話しかける。

 

「なるほど……! 頑丈さや再生力は聖文字に頼っていたが、そも『許容できる精神性』自体は自前だったということか! ある意味で、蒼都がバンビエッタ・バスターバインに引き取られたのは奇跡だったと言えるかもしれない!」

 

「えっ? あ、あの、それってどういう……?」

 

「無理に話さなくても良い! 我、なんとなく顔を見れば言いたいことは判る故に!

 バンビエッタを『加えた』4人組だけに留まらない、その素直さや純真さは一部の騎士団には甘い毒であったろう! だが陛下がそれを呑み下すと決断したのならば! 我が奇跡はその『チョコラテのような甘さ』を最大限尊重し――――――――」

 

 

 

「――――――――“神の癇癪(ヤルダハトケフ)”」

 

 

 

 そして、ジェラルドが何事かを言い終える前に、訓練場が絨毯爆撃された。

 何考えてんだバンビッ! というリルトットの絶叫が木霊するが、おかまいなく上空から雨あられと降り注ぐ霊子の礫、否、空中クラスター爆撃。

 それが止む頃には、晴れた煙の内側からジェラルドが能面のような顔を上空へと向けていた。

 

「何を考えているか! バンビエッタ・バスターバイン、本当に頭がどうかしているぞ!」

「どうかしてるって何よ、別に全然フツーじゃないッ!」

 

 ジェラルドどころか他四名も一様に「オイオイオイ」という顔をしている。ギリギリ聖文字でも発動したのか、黒くすすけはしているが大したダメージが入っていないアスキン。対照的にギャグ漫画のように髭がアフロのごとく爆発し、なんなら服がボロボロでだらしない全身の肉が丸見えなペペ。

 そしてそんなペペを盾としたリルトットとミニーニャは特に傷一つ負っておらず、「キミたち、いつか覚えてなよ……?」と言い残してペペは倒れた。実際盾とされて逃げなかったのはペペなりのラヴの示し方の一つではあるが、それはそうとして頭バンビーズな2人に思う所は有るらしい。

 

 そして頭バンビーズ筆頭ことバンビエッタが上空から完聖体を解除して降りてくるのを、隣で一緒に降りて来たキャンディスが「だからやり過ぎって言ったじゃんかッ! 前より訓練場頑丈になったけど、絶対怒られるじゃんッ!」と涙目で頭を押さえている。

 

「何よ、外でバズビーが生意気にもあたしの完聖体に対抗するために訓練してるのでも何も言われないのに。あっちの方がむしろ危ないでしょ? 下手したら死神たちに勘付かれちゃう位置だもの。

 それに比べたらあたしの方が億倍マシ! バンビちゃん頭良いのよ!」

「サイコーに頭悪ィこと言ってるぞバンビよぉ……。

 って、いやお前さすがにアレはブルーも死ぬだろ。今、前みたいに再生できないんだろ? ほら、ミニーなんてショックのあまり呆然自失してるし」

 

 リルトットの呆れた声と、目からハイライトが消えて微笑んだまま硬直してるミニーニャを前に、しかしバンビエッタは「大丈夫よ」と真顔を向けた。

 

「だってこのために、あの男にブルーの訓練をさせてたのよ? あたしは部外者、ブルーの訓練相手は、あの男」

「せめて名前で呼べよ、仮面越しだけどスゲー目でお前のこと見てるぞ……」

「リル、うっさいッ!

 とにかく、あの男の『奇跡』ってそういう部分っていうか、運命? みたいなのも操作できるって騎士団長から聞いてるのよ。だからあの男がブルーの訓練を付けてる、って名目状態にしておけば、あたしが全力でブルーを『壊しても』、死なないでいられるはずだって」

  

「だからお前達二人を叩きのめしてからこちらに来たというのに! グレミィ・トゥミュー、傷を治すにしても少しは前後関係を考えろ!」

 

 聞こえてはいないだろうが文句を絶叫するジェラルド。

 そして、こんな話を聞かされたジェラルドがバンビたちを叩きのめしたという話には納得の面々であった。

 

 そして実際、ブルーはといえば……、なんと生きていた。

 四肢が欠損していることもなく、しかし全身が爆撃に晒された結果、その胴体がどうなっているかは推して知るべし。ジェラルドもこれには鼻から上の仮面をずらし、目元を手で覆い空を仰ぐ。

 

「オイオイ、バンビエッタお前なぁ……。いつかイケメンを殺すだろうと思っていたけど、ここまで暴虐を働くか? 男女とかオシャレ云々以前の問題として、人間としてどうかしてるぞ」

 

 ドン引きのアスキンに、しかしバンビエッタは真顔を返す。

 こころなし、こちらのハイライトもない。その目はどこか闇で濁っており、真っ黒でドロドロした何かが見えるような、見えないような。

 

「大丈夫よ、ブルーなら」

「大丈夫ってお前――――」

「ブルーはずっと一緒にいてくれるって言ったもの、だったらこのくらいでどうにかこうにか死んじゃうわけなんてないわよね? あたしに何かあって殺されそうになったら真っ先に盾になって庇ってくれて、それでも死なないし死んでも死なないし戻って来てまた私にボロボロにされるために帰ってくるのがブルーなんだから、そうじゃないブルーなんて存在価値はないし、でもブルーがいないとあたしなんて簡単に殺されてしまう状況もこれから出てくるかもしれないからそれは大事に大事に扱わないといけないって思ってはいるけれど、大事に扱うべきだからこそあたしは全力でブルーの力を上げるために力を貸すしブルーだって――――」

「聞いた俺が悪かったよ。お前と同期のベレニケって凄いんだなぁ……」

 

 片や騎士団でもまっとうな男に、片や騎士団でもどうかしてる女だぜ、と。頭痛を覚えたように眉間を揉むアスキンに、バンビエッタは興味を無くして、ほぼ焼死体スレスレか虫の息の状態の蒼都をじっと見つめる。

 

 特に宗教的なものでも信じてはいないだろうに、わざわざバンビエッタは両手を重ねて、祈るように蒼都を見続け――――――――。

 

 

 

 そして、奇跡のような光景が起きた。

 

 

 

 蒼都の目元から霊圧が吹き荒れ、さながらそのシルエットは翼のようで。しかしその霊圧が蒼都の全身を照らすと、照らされた身体は「銀色」へと変貌。生身の肉体も、衣服も、そろって金属になる様は以前の聖文字そのものであるが、リルトットはその様を見て息をのんだ。

 

 その再生には「霊圧が存在していなかった」からだ。

 

 まるでそれは能力を使用したと言うより、生物が生物としての当たり前の機能でも使ったかのように。彼女個人と仲が良いグレミィですら、その能力の発動には霊圧を伴うにもかかわらず、いっそ不気味なくらいブルーからは何も感じ取れなかった。

 やがて銀色の身体が成形され、傷痕も見えなくなり、普段の青年蒼都の像のようになった後、金属化が解けて、目から噴き出していた霊圧も消失する。

 

「…………もしかして、聖文字、発現しましたかねぇ?」

「うわーッ! み、ミニーお前、急に我に返るなよ……」

「リル、意外とリアクション良いよな」

「うるせぇ。というか――――――――」

 

「よくぞ! よくぞ目覚めた!

 あれほど絶望的な状況からの復帰……、まさしく『奇跡』だッ!」

 

「わっ!」

 

 仮面を戻しはしたが、おんおん泣きながらブルーを抱きしめて頭を撫でるジェラルドのその様はまさに大事故に遭ったが奇跡的に生還した息子へ向ける父親の愛情のごとし。戸惑いはしたが、ブルーは拒否せず抱きしめ返す。「感動的、なのかぁ……?」と何やら自分の正気度が削れる様を目の当たりにしているアスキンはともかく、バンビエッタはそんな蒼都を見て得意げに腕を組んで胸を張った。

 

 ジェラルドはまたバズビーの方の訓練に付き合うとのことで離脱し、バンビーズ四人に囲まれるブルー。結局何の文字になったのかと問うリルトットに、蒼都は遠い目をした。

 

「…………“お前はとく、不滅であれ”、って言われた気がした。陛下に」

「ぶほッ!」「だ! か! ら! ブルーお前よォ!」「――――ッ!」

 

 唐突なユーハバッハの物まねに我慢できず大笑いするキャンディス、抑え目なリルトットに言葉を失うミニーニャ。

 ただその中で一人、バンビエッタだけは頬をヒクヒクさせるのみ。似ているが故にウケはとれているようだが、そのジョークで笑えないのは一体どんな感情に由来してるものか。

 

(……多分、陛下の心象が悪くなったら粛清されるんじゃない? 大丈夫? とか思ってビビってるんだろうなぁ)

 

「あー、気を取りなすぜ。不滅…………、Ⅰならイモータルってところか。まあブルーには一番必要な文字だな、それ」

「言えてる……、ふぎぅ! ま、まだあたしは駄目だ……!」

「キャンディちゃん、どうどう……。

 でも不滅、ですぅ? それだとあんまり、私が庇うような場面が減りそうですねぇ~」

「いや、そういうのって僕の役目ってことなんじゃないかな、多分、うん……。大丈夫、ミニーちゃんも僕が守るよ」

「ふぇ?」

 

 ブルーの不用意な発言に顔を真っ赤にするミニーと、それを見ても特に嫉妬的な感情を出す訳でもないバンビエッタ。既に頭痛を覚えてこの場を立ち去ったアスキンはともかく、かろうじて意識を取り戻したが未だ気絶したフリをしているペペは、死んだ魚のような目をバンビエッタに少しだけ向けていた。

 そして当のバンビエッタは、満面笑顔で蒼都の頭を撫でた。

 

「はい、よくできました♪ じゃあ今日はもう訓練なんて止めなさいよ。せっかくだし皆でゲームでもやらないかしら。この間、現世で買って来たやつあるじゃない? 桃〇」

「〇鉄は友情を破壊するって相場は決まってるから……」(バンビちゃんに対して他四人が友情感じてるかはわからないけどね……、あっ勢い余って抱き着いて来ておっぱい柔らか……)

 

 なお例によって蒼都の内心におけるバンビエッタの扱いも相変わらずである。

 ただ、今回に関しては蒼都としても少し頭に来ていたのか。

 

 

 

「あっバンビお姉ちゃん。今日はリルお姉ちゃんの部屋で寝るから」

 

「「「!?」」」 

「あー、まぁいいけど……、バンビの顔ちょっと見たくないのか…………(まぁ消去法なら幼児体型の俺相手なら間違いも起こらないとか考えてるんだろうなぁコイツ)」

 

 

 

 アイコンタクトで助けを求めた蒼都に面倒見の良さを発揮するリルトットの気安い返事に、「わわ、私駄目なんですぅ!?」とびっくりした様子のミニーニャ、「そういう趣味に目覚めたのか?」と変な風に訝しむキャンディス、そして「えっ…………?」と、まるでこの世の終わりのような顔をするバンビエッタという、ある種の地獄の様な状況が展開されていた。

 

 余談だが、仮にミニーニャの所へ行った場合は本当に「間違い」が起こってしまいかねないくらいには、現在の蒼都は色々精神ダメージが大きかったのだが、それは言わぬが花である。復活の目処なく本当に殺されかけたのは、それなりにトラウマものだった。

 

 

 

 

 




※作画ミス(?)でジジがいてはいけないところにいたので修正しました汗

拙作「メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)」と合流ルートに行く?(する場合はたぶんこちらで色々先行公開)

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