蒼都になったけどバンビちゃんが死ぬほど面倒臭い(※死ぬ) 作:黒兎可
例によって独自設定?みたいな描写が多いのもご留意ください……ついにやらかした汗
とある一室に、三人の滅却師がたむろしていた。
一人は独特な色をした髪を撫で付けながら手元の大判コミックを見開き「うん、悪くない」など楽しみながら他二人の様子を見守っている。すなわち、一人は小型のテレビにビデオデッキを繋いで映画を見ている、幼少の頃から面倒を見ていたブルー・ビジネスシティこと蒼都。そしてもう一人は、ややぽっちゃりとした体躯にスキンヘッドな小柄な男。眼鏡の位置を調整して「むむむ……!」と食い入るようにアメコミに視線が固定されている男、ジェイムズ。
「…………何やってるの、あなた達?」
そんな平和な空間に、目を見開いて口を歪めて名状しがたい顔をした彼女が現れた。
ベレニケとジェイムズの視線がさっと蒼都へと向き、しかし彼は特に嫌がらずに「にぱっ」と微笑んだ。見た目の年代にはそぐうまいが、彼の幼い頃を知る面々には納得の表情である。なお彼本人は「僕って大人になったらこんなお目目くりくりだったかな……? もっとヒ〇リさんみたいな面白フェイスになるんじゃ……」などと自問自答したりもしているが、それはともかく。
「あっ、バンビちゃん。どうしたの? 今日は僕がバンビちゃん付きじゃなくなるから、新しい部下を集めようってなったんだよね」
「い、いえ、別に……、新人皆誰も集まらなくて、リルのところから誰か融通してもらおうとしても蜘蛛の子散らしたわけじゃないのよ? うん。あたし、別にフツーだし」
(自分で自分に言い聞かせて納得してる時点で自覚あるんだよなぁこの頭バンビエッタちゃん)
平常運転だなーと遠い目をして乾いた微笑みの蒼都。
まあそんなこと良いのよと露骨に話題をそらすバンビエッタが近づいてくるのを察知してすっと立ち上がり、彼女の前に立ちはだかった。
「邪魔、何のつもりよ。…………ちょ、ちょっと近いっ」
「えっ?」
「な、何でもないわよ。で、何をやってるのよ、あなた達。図書館の手前に勝手に
(あのバンビエッタがまともなことを言っている、だと……?)
(アババ、“
(
三者三様の感想はともかく、ブルーと呼ばれた蒼都は「まあその時でも一緒にいるし」と軽くなんでもない事のように答え、「ん」と少し唸った彼女は、帽子を深くかぶり目元を覆い隠した。
「まあ何やってるかって言われても遊んでるだけなんだけど……。ほら、ベレニケさんと、えっと、名前知らないんだけれど……」
「グレミィだよ、ブルー」
「あ、あの人がグレミィさんか。リルお姉ちゃんと仲良しの人。……それで、二人で現世に
何か陛下いわく『現世で5つの星が燈る道筋が確定した』とか。で、死神と虚の強大な霊圧がビシバシしてたのを、その残滓というか規模というか、どの程度の脅威の戦いだったのかを調査しに行ったらしいんだけど――――」
「…………どーでも良いけど『頭ヘンな
「君に頭ヘンと呼ばれるといささか異議を唱えたいことが山のようにあるのだがね! いや、まあどうせ
それにブルーは幼少期からの付き合いだ、つい甘やかしてしまう」
「ふぅん、せいぜいそうやって足すべらせて死なないようにね」
「!?」
バンビエッタに自らの身の心配をされたようなことを言われて衝撃を受けた顔をしているベレニケと、彼の隣で同じくバンビエッタの正気を疑っている顔をしてるジェイムズ。
なおブルーはブルーで「どうせ肉壁が減るからとか思ってるんだろうけどね」と内心を察していたりしており、ますます彼女の前から動くつもりが無くなった。ちょっと機嫌が悪くなったら爆裂必至である。
そんなわけでスっとアイコンタクトする蒼都に、ベレニケとジェイムズは顔を見合わせてから頷いた。そそくさとバンビエッタの手を引くブルーに「な、何よだからさっきから! ちょっと、そんなに積極的になっても爆破しかしないわよ!」と精神異常者がごとき発言。当然のようにスルーしつつ、彼は説明の続きを行う。
「ま、まあまあ……。で、アレはジェイムズ君がベレニケさんに現世のアイテムをコレクションしたやつ。今回最新号買って来たって言って、せっかくだからって僕も御呼ばれして一緒に読んだり見たりしてた」
「あたしも呼びなさいよ、そんな面白そうなの!」
「いやでも……、趣味に合わないとか詰まらないって飽きたら投げ捨てるか燃やすかするでしょ」
「あなた、あたしのこと何だと思ってる訳?」
(そりゃ頭バンビエッタなバンビエッタ・バスターバインちゃんですともねぇ……、あ、柔らかい)
元の場所に戻ろうと手を引く蒼都の腕を抱きしめ、反対側に引っ張ろうとするバンビエッタ。くしくもブルー本人も異性を意識していないはずだからこその、その躊躇のない抱き着きに、少しだけ下心をもって癒され、そのままつい引っ張られる。
もっとも元の場所、彼女いわくの図書館へと通じる軒先公道の一角……と形容していいか分からないが、ともあれ西洋風建築のその場所の一角は、もはやもぬけの殻であった。
「何でよ! 何で逃げるのよ! いくらあたしが美少女だからってその対応どーかしてるわよね、ブルーちょっとそこに直りなさい!」
「ハイハイ……」
そしてとくに何事かある前に、ブルー本日一回目の爆散であった。
適当に距離を取って離れた後、彼目掛けて礫の様な霊圧の塊を叩きつけて、そのまま爆破するバンビエッタのそのストレス耐性のなさこそが、蒼都がベレニケたちととったアイコンタクトによるジェイムズのコレクション回収と撤収に通じるものである。
要するに危険人物への適正な対応というやつだ。
なおその爆散した死体を見て少しすっきりしたのか「ふぅ」と胸元を少し開けて汗を拭い微笑むバンビエッタ。そういうことを幼少期から彼相手にずっとやってるからイケメンが寄り付かないんだぞ、少しは自重しろ。
もっともその蒼都とて、いつの間にやら倒れ伏した下半身の上部に「銀色の物体」が集まり蛹のごとく固まり、人型となった後は何事もなく復活しているのだが。
「あなたのソレも相変わらず大概ね。まあ“
「…………………………………………」
「何? 何か言いたことでもあるの? いいじゃないブルーってば、あなたちょとくらい死んでも死なないんだから、少しくらいならあたしが殺したって」
「狂人の発げ……、何でもないからまた霊子の塊向けてこないで、ほら」
「ふーんだっ。そんなに嫌ならリルの所にでも泣きつきにいけばいいじゃないっ」
「じゃあミニーちゃんの所に――――」
「――――それは駄目よ。キャンディもダメ。絶対に駄目」
すっと手を差し出し抱き起した蒼都の発言に、突然目からハイライトを失って彼を抱きしめる、否締めあげるバンビエッタ。以前リルトットの部屋で寝た際に「何もなかった」ことがわかったせいもあってか、彼女に対しては警戒心がゼロになったようだが、他についてはまた別であるらしい。歪んだ独占欲の発露である。
なまじ、これでも本当は自分の性格が色々終わっていることに自覚的なバンビエッタのバンビエッタたる所以であった。
しばらくして機嫌を直した彼女が「せっかくだしバズビーの世紀末頭でも揶揄いに行こうか!」と色々アレなことを言い出して、ストッパーもしくはサンドバッグの覚悟を決めて彼女の後ろにつきそう蒼都であったが、その道中での遭遇。
「…………おや? 君は
「あ、シャズさん。おはようございます」
「嗚呼おはよう」
「ちょっと、何でバンビエッタちゃんのこと無視する訳? バンビエッタちゃんが可哀想じゃないの!」
「それを正気で言っているのだとするならばリルトット・ランパードが毎度頭を抱えているのもうなずけるところであるねぇ」
シャズ・ドミノ。仮聖文字“
バンビエッタが「知り合い?」と確認すると、蒼都とシャズ・ドミノは顔を見合わせて頷いた。
「仮聖文字、実は同じ文字だったから」
「ああ。もっとも蒼都は大文字の
まあそんな縁もあり、俺から話しかけてぽつぽつと。能力が少し似通っていたから相談に乗ったこともあるし、グレミィ、俺の上官がリルトット・ランパードの零す愚痴を聞いて苦笑いしているのを見ていたのもあってねぇ」
「愚痴? なんでリル、愚痴なんて零すのよ。せっかく栄えあるバンビーズの一員で、このあたしとずっと一緒に遊んでるのに、そんなの発生する訳がないわよね? よね? ……ブルー、あたしの顔見てよ、どうしたのかしら?」
蒼都は顔を逸らし、シャズ・ドミノはサングラス越しに白けた目を向けた。
なおバンビエッタ本人は「きょとん」とした無垢な顔であり、それがますます二人の感想に拍車をかけていることだろう。
「まあ、あなた達の話はわかったからもうどうだって良いわ。
行くわよ、ブルー」
「あ、うん。じゃあまた――――」
「――――おお、ここにいたかシャズ。探したぞ」
「ああ、すまないねぇジェロームくん」
(えええッ!!?!?!?!?!?)
興味を無くしたバンビエッタが立ち去ろうとしたその時、シャズ・ドミノの後方から霊子で編まれた大量の紙束を抱えて歩いてくる大男。見た目で言えば蝙蝠顔のゴリラとかそういった怪獣の類のものであるが、そんな恵まれた筋肉質な体躯を持つ男が、よっちよっちと大事そうに大量に積まれた書類を落さないように運ぶさまは、どこかコミカルにすら見えた。
ただそんなことよりも、蒼都の内心を支配している動揺はそのコミカルさだけが原因ではない。
(デカい的の人じゃん、何かすごい理性的な声してる……!)
蒼都の魂の大本に有る誰か、あるいは混じった誰かの前世の記憶とでも言うべきものが、その男、ジェローム・ギズバットのことを教えくれるため、そのイメージと現在の本人との間のギャップに衝撃を受けていた。
彼は聖文字“
だが実際の彼はというと……。
「すまないねぇ、俺がグレミィから受けた仕事だというのに手伝わせてしまって」
「問題はないさ。一応、『聖文字を頂いた』時期は同期だろう。それにこれは俗人的な作業でもない。馬力が増えればその分作業が終わるのも早くなるはずだ」
「そう言ってもらえると助かるよ。……後で何か差し入れを持って行こうかねぇ」
(すごい同期の会社員同士みたいな会話してる…………! なんか凄い仕事できそうな雰囲気してる……!)
その見た目に反して、騎士団内での挙措が明らかに理知的で思慮深いタイプの人間のそれであった。バンビエッタもあまり知らなかったのか、似たような仰天の表情でジェロームを見ている。
「ム? 貴女はバンビエッタ・バスターバインと……、そっちはブルー・ビジネスシティか。正式招聘おめでとう」
「あ、ありがとうございます…………」
「それで、これはどういう状況なのだろう?」
そうは言ってもあまり語ることはない。適当にたまたま三人で話したということを説明すると、今度はバンビエッタが何の仕事をやっているのかを確認した。
ジェロームが質問を受けたが、答えたのはシャズ・ドミノ。いわく、先日グレミィが現世で大量に蒐集してきた
それはともかく、彼らの仕事を聞いたバンビエッタは、「ブルーあなた、そういえば死神たちの
「あたし、バンビちゃんは最強だからそういうの特に読まなくても全然大丈夫だと思うけれど、あなたはちゃんと仕事としてやった方がいいわ。せっかくだから手伝ってきなさい」
「いや、
アニメにおいて一部セリフの改変はあったが「斬魄刀に人格がある」という根幹設定すら滅却師側の集めた情報網があるくせに知らなかった原作蒼都の
そしてある意味驚異的なことに、はぐらかすでもなく文句を言うでもなく「ん、そうね」と軽く応じるバンビエッタだった。否定も言い訳もしないので、後日本当にちゃんと情報を読み込むと考えられる。
「じゃあ、バズさんとあんまりケンカしないでね、バンビお姉ちゃん。
…………えっと、よ、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。グエナエル・リーよりは性格が良いと陛下からもお墨付きを頂いている、しっかり手引きしてあげよう」
「その仰々しい言い方では、かえって身構えてしまうのではないか? シャズ。レットビィフランク、気楽に構えておくといいぞ? ブルー」
(やっぱり脳がバグりそうなんだよねジェロームさん………………)
そんな流れでケラケラ軽く笑うシャズ・ドミノと、見た目の恐ろしさから想像もつかないくらい優し気にブルーの肩にポンと手を置いて微笑むジェロームに、困惑するブルーであった。
そして資料室に入ってからおおよそ3時間後。バズビーを揶揄い終わって散々爆裂事件を引き起こし、いつ以来かキルゲ・オピーから二人そろって説教を受けた後。「流石にそろそろ終わってるわよね」と気楽に図書館こと「
「…………何、アレ?」
視線の先では。霊子で編まれた紙を分類してバインダーがごとき器子のバインダーのようなものに挟んでいる蒼都の周りで、女滅却師の集団。十人にも満たないが、
バンビエッタ、内心の何かが癇癪玉のごとく爆裂しそうな感覚に襲われ、実際に霊子を癇癪玉のごとく爆裂させるため編もうとしかけたが、しかしまだ今よりは幼かった彼のいつかの夜の言葉が脳裏を過り、一旦深呼吸。大丈夫、あたしは普通、あたしは普通。
自己催眠のように繰り返してから書棚の陰に隠れ、彼女はブルーと周囲の彼女たちのやり取りを見る。そもそも連中、バンビエッタが自分の部下を欲した際に逃げ出した女性滅却師であるのに、どうして蒼都にああもハイエナのように群がっているのか。
「あー、僕がどうして聖文字をもらったかといわれても……。そもそもそれがなかったらバンビお姉ちゃんが僕に目を付けはしなかったと思うけど、多分、陛下の気まぐれかなっていう…………」
「本当にそうでございます?」「でもバンビエッタ様の、あの仕打ちに毎度よく耐えてますよね、尊敬します……」「アレやってください! アレ! ウルヴァリ〇!」
「そこまで直接的に言っちゃって大丈夫かな……(※メタ)。まあ、いいけど。はい」
『おぉ~!』
しれっと請われるまま、腕の仕込み鉄爪なども見せたりして、その気安さじみたものに何故かイライラするバンビエッタ。
「……そんなところで何をしているんだ、バンビエッタ」
「!?」
そんなタイミングで、控えめに声をかけてきたのはベレニケであった。ブルーを見てそれはそれは恐ろしい顔をしていた彼女を、せめて少しでも抑えられればという兄貴心めいた何かが働いたのかもしれない。
とはいえ、ぐりん、と振り返った光の消え失せた目のバンビエッタを前に「選択を誤ったかな……?」と冷汗が垂れる彼だったが、それでもまあ「同期」ではあるせいか、意外と当たられ方は強くなかったと思い直し、彼女とコミュニケーションを試みた。
「(で、アレ何なの? 何であんなことになってるわけ?)」
「(あんなこととは……、ブルーのことか? いや、そりゃあそうもなるだろう。女性滅却師は数少ないが、ブルーは割とモテる方だぞ?)」
「(えっ?)」
やはりこの世の終わりを目の当たりに絶望したような顔をするバンビエッタに、メッシュを変えた前髪をいじっていたからそんな顔など見ていなかったと内心言い訳をしつつ、ベレニケは説明を続ける。
そもそも幼少期から過酷な生活を送っていた(誰のせいかは言及せず)にもかかわらず特にグレることもなく、騎士団内の滅却師としては異例なほど誰とでも仲良くなろうと接触する。まだ全員とはいっていないが、特に聖章騎士の間でも彼の評判はそう悪くない。
あの犬猿の仲のように囁かれるバズビーとハッシュヴァルトですら、その姿勢の前には結託して彼の生育環境の改善を相談し合ったりする光景が目撃されたりもしており、その「子育てセラピー」的な何かにより、騎士団内部の空気から若干だが棘が折られているのだ。
その基点となっている彼本人はしかし驕らず、成長してからは一般兵たちの相談も聞いたり、訓練をしたり仕事をこなしたり、あるいはバンビエッタの知らないところで率先して雑務を引き受けることもあったりと、その顔は意外と広い。
そしてブルーのメタ的視点も加えてもっと言えば、おそらく原作の蒼都よりも早くに“
つまりは、特徴のないイケメンの完成である。
一般社会的には特徴のないイケメンだが、しかし滅却師の界隈においては「性格に難がない」というのが(一部良識的な面々には)恐ろしくプラスに働く。
……なおベレニケ本人もその観点から言えばモテそうなものだが、彼自身はまた別な性格的理由から女性と長続きしないのだが、そのあたりは割愛。
「(同情票も多くはあるだろうけれど、希少価値というのは何事においても重要なものだ。うん、異論はないだろうバンビエッタ。…………バンビエッタ?)」
そして一通り説明が終わる頃には、バンビエッタの目には光が戻っていた。光が戻ってはいたが、しかしその表情は妙に見慣れないものであった。
帽子を目深にかぶり直すと、半眼で、しかし何かを決心した目をし。
「………………まあ、あの子に『選ぶ権利』なんて当然ないけど、でも本当はそうじゃないってことくらい、あたしだって分かってるし。だったらあたしも、ちょっとは考えないといけないってことよね」
「……バンビエッタ、どうしたんだ今日は本当に?」
「別に、何もないわよ。あたし普通だから。
でも参考になったわ。ありがとう、頭ヘンなニケ」
「だからその呼び方を…………、ん? ん!!?!?!?!?!?!」
突然感謝の言葉が飛んできて脳が理解を拒んたベレニケはさておき。資料整理中のブルーの元へといくと、「後これだけだからちょっと待ってて」と言われ、そのまま素直に彼の隣でじっと作業を見つめ続けるバンビエッタ。彼女の登場と共に女性滅却師たちはそそくさと姿を消したが、彼女からすればそれは丁度よかった。
ジェロームたちに挨拶もそこそこに、彼女はブルーの手を引いて空中を舞う。
「バンビちゃん? …………えっと、どこに行くの?」
「うち」
「うち?」
「そ、あたしンち」
「……………………?」
「……あ、そっか。ブルーってばお城からほとんど出ないから、知らないのよね。一応城下に家があるのよ。まあほとんど誰も使ってない隅っこの家をあたしが勝手に使ってるんだけど」
「バンビちゃん駄目じゃないのそれ……?」
思わずなツッコミを入れるブルーのそれを無視して、バンビエッタは彼の手を引き、本殿を出た後の区画を行ったり来たり。実際彼女が言った通り、人気のないエリアにて「バンビエッタちゃん参上!」とドイツ語で殴り書きされた門のあるこぢんまりとした家へ。白い壁によってつくられたシンプルなそこは、中に入るとベッドと簡単な机だけのシンプルな部屋に、ボロボロの衣服……、器子と霊子の境界があいまいなそれだが、おそらく現世から持ち込まれたろうその衣服だけが、適当に散らかっていた。
どれも年代を感じさせるもので、さすがにそれを見たブルーも困惑する。
「…………えっと、生前のお洋服?」
「まだ死んでないわよっ。まあここって『境界が曖昧』だし、あんまり意味ないかもしれないけど」
(いや死んじゃったらゾンビエッタちゃん不可避だから、流石にそういう訳にもいかないんじゃないだろうか…………)
「それで、一体何で僕を――――むっ?」
そしてバンビエッタの方を向こうとしたブルーの唇が、塞がれた。
何ら脈絡なく、目を開けたままバンビエッタは、彼の襟首を引き自らに引き寄せ、その唇を奪っていた。
ディープではない、意外な程初心な、ただ触れるだけというそれは、今までの蓄積で一切「そのテの経験」を積めなかった弊害か。
硬直したままの彼に、唇を離したバンビエッタは言う。
「…………あなたがリルのところで寝た時に、何もなかったけど、ちょっと思ったのよ。ずっと一緒にいてくれるって言ってはくれたけど、あたし、あなたに対してそれを信じられる根拠がないって。
根拠って言うより、メリットっていうのかしら。あなたがあたしと一緒にいるからって、別に得してるわけじゃないじゃない? なのにあたしにばっかり都合良いこと言われても、それじゃ駄目だよ」
(あっ、まともなこと言い出してるってことはおビビリモードになっておられる……?)
「でも正直、どうしたら良いかわかんなかったけど、でもさっきのアレ見て気付いたの」
「さっきのって、ミニーちゃんの所の人たちとか? ……って、何に気付いたの?」
「勢いで『スッキリする』ような関係になったら、お互いメリットしかないじゃない? うん。結婚とかそういうのは考えてないけど、そういう欲求って魂魄でもしっかりあるし。
うん、やっぱりバンビちゃんってば天っ才!」
(典型的な依存症彼女みたいなこと言い出したぞ頭バンビエッタちゃん!? というか至る結論がそれでいいのか頭バンビエッタちゃん!!?)
まあ原作でもスッキリすることには余念がなかったバンビちゃんなので残念でもなく当然の帰結ではあるのかもしれないが(そして死ぬ)。
ただブルー視点では、本当に何の脈絡もなくその話が出てきたため、脳と感情が状況に追いついていなかった。元々求めてはいなかったとはいえセンチメンタルさやロマンチックさの欠片もないその急展開である。面食らったのも無理はない。
そんな彼を軽く押し、ベッドに倒す。
「ただ、上手く出来るとは思っちゃ駄目だよ? あたしだって経験ないんだし」
「あ、うん…………って、えっと、その、えっ?」
「意味は解ってるでしょ? そういう目で見るなって言った時、毎回あなた
「いや、そんな十二歳くらいまで一緒にお風呂に入ってた話をされてもさ、えっと……」
なお肝心のブルーは、色々と恐怖で震えがっていた。ガクブルというやつである。なまじ中の人にこういう経験が有った無かったという問題ですらなく、相手がバンビエッタであるからこその恐怖だ。それこそ今では殊勝な態度だが、何切っ掛けに機嫌が切り替わり凄惨な状況へと早変わりするかわかったものではない。それこそロマンチックさの代わりにスプラッタな光景がセットでお届けされるくらいに、彼女に対する信用がなく、また彼女に対する信頼があった。
「大丈夫よ。今日
「あっ、……………………」
ただそんな彼の理性も、上着を脱ぎ捨てたバンビエッタが彼の頭を「挟んだ」時点で、ゆるく、ゆるく、そして素早く溶かされ――――――――。
翌日、何故かリルトットがスタミナの付きそうなガッツリした肉とニンニクソースのハンバーガーを持ってきて「食え!」と投げつけられたブルーと、それに何かを察したミニーニャが彼をバンビよろしく自分の家へと連れ込むようなことが、あったとか無かったとか。
拙作「メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)」と合流ルートに行く?(する場合はたぶんこちらで色々先行公開)
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する
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