蒼都になったけどバンビちゃんが死ぬほど面倒臭い(※死ぬ) 作:黒兎可
バンビエッタ・バスターバインの朝はそんなに早くない。
少なくともブルー・ビジネスシティこと蒼都の部屋で寝ている時に限っては、彼女はどこか安心しながらゆっくりうとうと、朝に目を覚ます。
もっとも朝とはいえど「城の場所」が場所であるため、天に上るのは「外界の光をうっすら収束した」月のようなものばかりであるが。それでも夜間のそれよりはまだ辛うじて光が強いこともあり、朝日と言っても差支えはないだろう。
そして起き上った彼女は、ブルーの姿がないことに気づいて少し不満げである。とりあえず「霊子で」洗顔をした後、「いつものように」リルトットの私室から内緒でパクってきたミューズリー(※シリアルの一種)を手に取り、冷蔵庫のような装置からミルク瓶と皿を取り出すと、開いてぶっかけて実食する。なお恰好は全裸のままであり、特に周囲の目を気にした様子もないことからそのリラックス具合がうかがい知れた。
「ブルーこれあんまり好きじゃないんだよね……。柔らかいパンばっかり食べてるし。リルの御菓子はけっこう食べさせられてる? けど」
適当に朝食を終えて衣服を着用し、これまた「霊子」を収束させて寝癖を整える。指による五本櫛の際地味に静血装を発動し、しっかりと髪を梳いていた。
ある程度のところで満足したのか、メイクらしいメイクもなく部屋の外に出るバンビエッタ。合鍵でロックをした後、「今日こそミニーと決着つけないとね……」と暗い笑みを浮かべながら廊下を歩いていると。
「――――お願いします、ペペおじさん! なんでもしますからお願いしますよ!」
「そういうフレーズは好きな女の子相手にとっておきなさいヨ! ミー相手にそんなこと言って……、下手するとそれ聞いた誰かさんにミー爆発四散されちゃうヨネッ☆」
ブルーが土下座をして謎の椅子のような何かに座って普段通り浮いているペペ・ワキャブラーダ相手に土下座で頼み込んでいる姿が、バンビエッタの目に映った。一瞬で目のハイライトが消失するバンビエッタ。片や自分の「とにかく誰にも渡したくない」男の子が、どう見ても胡散臭くて大人な危ないビデオの
思わず衝動的に爆散させようかと脳裏に一瞬過ったが、かろうじて事情を聞こうという発想が浮かんできたのは奇跡であろう。
「出来ればミーも代わってあげたいけれど、こればっかりは上の意向だし…………。それに聖文字とかもようやく使い慣れてきたんだよネ? まだまだ安全じゃないってことでしょ、ゲッゲッゲ」
「うーん、そこを何とかなりませんか…………? あの、お金ないですけどせめてお土産とか――――」
「何よ、いじめられてるの? ブルー」
ゲゲ!? と、ケンカ腰で現れたバンビエッタに引きつった声を出すペペ。土下座している彼の背中に平然と座り椅子代わりにしながらハート型ポーチの中より、「珍しく」
と、そんな下の方からブルーの手が伸びて、バンビエッタの腕をつかむ――――既にその腕は「
「ッ!? ちょっと、何やってるのブル…………、きゃっ!」
そしてその体勢のままバンビエッタを横に倒す様にし、同時に自らの身体もぐるりと高速回転して、彼女を庇うように抱いてごろごろ廊下を転がっていった。「今のうちにー!」という彼の声に応じ、ペペは「恩に着るよ、マジでネ…………」と未だ戦々恐々としながら、椅子の足元に霊子の足場を形成して飛廉脚を使用し退散した。かなりの高速移動ぶりからその本気度が伺える。
しばらくごろごろ転がった後「いい加減長いっ!」とバンビエッタに言われて、彼女を抱きしめたまま回転を止める。状況的にはブルーが下となりバンビエッタを抱きしめているような絵面だ。
そんな状況に気づいたバンビエッタは、その気になればすぐキスできそうな距離にある「ふぅ」と一息ついた彼の表情に、身体が硬くなる。
「ち、ち、ち、ちかいわよぉ……………………っ」
「えっ、そう? 一緒に寝てる時はいつもこれくらい――――」
「不意打ちは駄目って言ってるの! こここ、こんな弱々な女の子みたいな姿見られたら『殺されちゃう』じゃないっ!!? バンビエッタちゃんは強々なイメージじゃないとダメなのッ!」
(それは普段の頭バンビちゃんな行動を前提として考えている発言なのか、それとも生前のトラウマか何かがあっての発言なのか…………。あっ、おビビり遊ばれてぎゅって抱き着いてくる力強くなっていいなぁ、柔らかい………………)
相も変わらずちゃっかりしているブルーはさておき。「あんなの見せるのなんてあなたくらいなんだから……」としおらしい声なバンビエッタの背中をポンポンしてしばらくあやした後、何事も無かったかのように二人そろって起き上った。
改めて事情を聞くバンビエッタに、ブルーは何と言うこともないように答える。
「現世の調査任務…………?」
「うん。今度はペペさんとかなんだけど、調査先がまた日本みたいだから」
「日本けっこう多いわよね……。アメリカとかロンドンとかには行かないのは知ってるけど」
「今回も情報集めがメインらしいんだけど、代わって欲しかったんだ」
何で? と首をかしげるバンビエッタ。ブルーが一応中国出身なことくらい知っているので、もし現世に行くならそっちを希望するだろうと思っていたからこその確認である。旅行や観光を「ちょっとだけ」目的とするなら間違いなく自分を一緒に連れて行ってくれると確信しているバンビエッタなので、純粋な疑問であった。
そんな彼女の考えを察しているのか、ブルーは少しだけ照れたように言う。
「えっと…………、日本のご飯が食べたくて」
「…………………………………………………………………………、えっ何で?」
(あっ、きょとんとしてて可愛い)
完全に予想外の返答であったため、口を半開きにして目を少し開いて、しばらく思考停止してからの発言であった。日本の古いアニメーションならば「ポク、ポク、ポク、ポク、チーン!」とでも音が聞こえてくるくらいの秒数である。なお頓智がひらめくわけもなく、口元が御留守だったせいで垂れた涎を思わず拭うバンビエッタ。
そんな彼女を微笑ましく見ながら、ブルーは事情説明。もとは以前にベレニケが現世調査の際に「お土産さ」と持って帰ってきたコンビニのおにぎりやカレーライス(レトルト)。それらを受け取っていたリルトットから「こういうの好きじゃねーから、食うか前髪野郎ォ」と手渡されたのが切っ掛けである。転生元の出身地が出身地であるため、帝国に来てから口にした数々の「微妙に合わない」食事――胃に重すぎたり香りが強すぎたり味が濃すぎたりバランスが全く考慮されていなかったり等々――ではない懐かしい味に、それはもう感激したものだ。なんならそのハイテンションにリルトットもちょっとドン引きしていた。
もちろん「実際の」心情までは伝えなかったが、その「懐かしい味」という部分についてはことさら思い出して、テンション高く語るブルー。珍しく子供のようなその様子に、ちょっとヘンな気分に陥ったバンビエッタは「そ、そうなの?」と素直なリアクションをしながら耳を赤くしていた。
「それはそうと、何で日本の味でそんなに感動したのよあなた。帝国生活長いけど、
「それはそうだけど、テレビとかコミックとか日本のが好きだし…………、心は
「ちょっと何言ってるかバンビちゃんわからない」
「えっ?」
そんな話が事前にされたせいか。バンビエッタは「なるほどね……」と何かを納得し、本日の予定を変更した。
「というわけで、今日は日本食? を作るよ!」
「また意味わかんねーこと言い出したなクソビッチ」「でもでも、皆で何かやるのって楽しくない?」「どうして
ブルーがバズビーやベレニケ、アスキンらに誘われバスケット(?)をしに行く姿を見送ってから、普段のバンビーズが占領している部屋にて、堂々と宣言したバンビエッタである。
案の定、唐突な思いつきそのもののような発言にうんざりしたリアクションのリルトットである。半眼でバンビエッタを見ながら「またかよ」と呆れた様子だ。
「この間も変身ポーズ作るとかモロ変身みたいなことさせやがって、俺は聖隷したところで『危険度変わらない』からやらないって言ったのに」
「でもリルお姉さん、そう言いながらブルーから一番可愛いって言ってもらっていませんでしたぁ?」
「リルはちっちゃいからねー。魔法少女? っていうの? だと一番似合ってそうだし」
「ブルーって別に『そう言う趣味』じゃないから、純粋に可愛さとかで選んだんじゃん?」
「でも納得いかないですよーぅ(・A・)」
「アレはアレでいいんじゃない? というよりそんなに『翼』から『出ちゃう』んだったら、いっそ『翼の周りを』覆っちゃえばいいんじゃないの?」
ぴくり、とバンビエッタのその一言で右側の眉が動くリルトット。まーそんなことより、とバンビエッタ本人は適当に言っただけだったが、彼女は少し思案し始める。とはいえそれもバンビエッタが続けた「ブルーが食べたいって言ってたの!」の一言を聞いて切り上げ、ため息をついて視線を向けた。
「日本の食事が食べたいってだけであのペペに土下座までして現世の調査任務代わりたいとか言っていたから、駄目よねミニー」
「はい(レ〇プ目真顔)」
「ミニーちゃん余裕がないと声、凄い重いよキャンディちゃーん」
「怖……」
そんな訳で多数決をとった訳でもないが、5人中3人がやる方向で意見がまとまった結果、そういう運びとなった。なおジジは「苦手じゃないけどねー」とのほほんとした笑い、キャンディスは「バンビはともかくミニーをそのまま料理させたら、厨房が原形も残らないじゃんか……」とやれやれといった様子であった。
そんな流れで道中遭遇した約一名を引き連れて厨房に参上し、一部エリアをリルトットが交渉して貸切らせてもらう。
五人が五人とも聖隷を用いて霊子で造り出したエプロンを着用してから、バンビエッタは胸を張って一言。
「で、日本食って何を作ったらいいのかしら」
((((何でそれを最初に決めてないんだこの頭バンビエッタ))))
『ほぼ思い付きの行動と断定。行動計画の見直しを期待する』
「…………というか何でコイツいんだよ、このロボ」
リルトットが指さした先、バンビエッタの背後でガシャガシャと鎧のこすれる音が煩いのは、大柄な体躯のBG9である。未だ全体のシルエットは細くなっておらずマッシブさが残っており、組んでいる二の腕の太さがその身体の「出来上がり具合」を現していた。
「何か良く知らないけど、現世いた時って軍人? とかで色々渡り歩いたりもしてたって言ってたし、確か。料理とかそーゆーのも詳しいと思って」
『否定はしない』
「そォいやお前とかブルーとかが帝国まで連れて来たんだったな、そのロボ」
ともあれ全員で案を出し合う流れになったが、これは案外高速で決まった。
「日本って言ったらやっぱり、アレじゃん?
「
「ラーメンでいいんじゃないかなー? ボク、日本のヌードルが一番美味しかったって、ロバートさんに聞いたことあるよ?」
『インスタントならば高速で完成できると進言する』
「ンなもんある訳ねーだろ。というか手作りするとラーメンとか面倒だろォが。
とりあえず日本食っていうなら、米炊いて味噌汁作って魚焼くとかで充分じゃねーの?」
「リル、あなた詳しいのね……?」
何で? という顔をするバンビエッタに「どーでも良いから早くやんぞ」と適当に流し、そういう運びとなった。
いっせーの! で「岩」「紙」「鋏」の3チームに分かれる編成を執り行い(要は「ぐーぱー」のアレである)、白米はバンビエッタ・リルトット・ジジのチーム、味噌汁はBG9一人、焼き魚はミニーニャとキャンディスのチームとなった。
「じゃ、やるわよ! うん」「がんばろーねー!」「おぅ」
『味噌スープは……、確か「石田宗弦」なる滅却師が残していた
「頑張りますよーぅ」「ミニーはまず『まな板を叩き斬らない』こととか『包丁を握り潰さないこと』とかから、な」「は、はいーっ……」
なお開始早々、リルトットのうろ覚えな記憶のため白米(※非日本米)を適当に洗い鍋に入れるバンビチーム、厨房班の滅却師たちからレシピ本を借り受けて「ふむふむ」と情報の入力を開始するBG9、「普通に焼くだけじゃ面白くないじゃん?」とお料理上手らしいことを言ってミニーニャを不思議がらせるキャンディスチームと、それぞれがそれぞれに個性が出ていた。
※ ※ ※
「アスキンさん、意外と上手だった……」
「こういうのは普段ダラーっとしてても、たしなむ程度にそつなく熟すのがオシャレなんだぜ? ブルー。まあ、お前さんくらいの年齢でやると嫌味にとられることもあるかもしれないが、時にオシャレは世界を救うんだ」
廊下を歩いて厨房へと向かうアスキン・ナックルヴァールとブルー。既にアスキンは汗そのものを聖隷を使用して散らしていたが、ブルーはそうもいかない。そのため「水浴びする程でもないだろ、まだ」という彼の好意により、タオルを貸されて拭き終えた後だった。
「お昼にはまだちょっと早いですよね?」
「いやいや、ブルーはまだ子供なんだから無理すんなよっ。運動したら腹、空くものだろう? こっちに来てからの時間経過と身体の成長以上に色々『アレ』なんだから」
「?」
「おっと致命的だぜ…… 自分の晒されてるアレさをそんなに自覚出来ていないのか…………?」
それこそリルトットが以前に言った「俺らの所にいてまともな男に育つ訳ねェだろ」ということである。なんならバンビエッタと仲良く出来ている時点でその人格がどういう状態になっているのか、騎士団内でも良心側のアスキンをしても確認することからは目をそらしていたりするのだが、その辺の事情はブルーには理解されていなかった。
なお「最も正しく」洞察できていたのはグレミィくらいなので、騎士団の未来はどっちだ。
「でもお昼か…………、うーんああ言った手前、カレーとか食べたいな」
「カリーならあるだろ?」
「カリーじゃなくってカレーライス? って言ったらいいのかな。日本のカレーはカレーっていう独自の食べ物ですよ。ラーメンが中国のラーメンと全然違うみたいに」
「ローカライズって奴だなぁ」
「日本のカレーはカリーであってカレーではないし、米国のちょっとアレなお店で適当に供給される泥水なんかじゃないんですよ断じてない」
「何で早口になったんだブルー……? って、お? 何だ、何か『変な霊圧が』溜まってるぞ」
ブルーも流石にこの距離なら気づいた。いわゆる、古い大学の学食もしくは世界最大の家具販売店内にありそうなレストラン風の厨房にて、その座席の一角にいるバンビーズから放たれる、微妙に重苦しい霊圧の具合。周囲を圧すると言うより、どんよりしているような感じを受ける微妙な重苦しさである。
と、ブルーを見つけたバンビエッタは所在なさげに「こっち!」と手招きする。アスキンを見れば「行ってこい、そして何か上手い事やってあげろよ?」とさわやかスマイル。それに苦笑いしながら、ブルーは「バンビエッタとミニーニャに挟まれる座席」に座った。
「で、えーっと…………? えっ? 何、どうしたのバンビお姉ちゃん?」
「……………………サプライズじゃないけど、作ろうとはしたのよ? 皆頑張ったのよ」
そんな言い訳のもとに、ブルーの前にBG9がトーキー映画の使用人ロボのようにロボットダンスめいた動きで配膳したものは。
銀の器に盛られた「おかゆ」、銀の皿に注がれた「味噌汁」、そして銀の皿にオシャレに盛りつけられた「タラのムニエル」であった。
「えっと……、もしかして日本食を作ろうとしてくれたの? …………あ、そうなんだ。うん。えっと、ありがとう?」
困ったように言うブルーだったが、直後BG9からそれぞれの担当内訳が発表された。「空気読めよポンコツロボ野郎ォ」と対面のリルトットの半眼に合わせ、壮絶な顔をするバンビエッタと爆笑しかけるジジであった。
さて、詳細に皿の内訳を語るなら。タラのムニエルは横にマッシュポテトが備え付けてあり、バジルを刻んだものがかっている。オリーブとニンニクのソースの香りが大変美味しそうだ。美味しそうだがこれだけ日本食ではないことに不思議そうにするブルーだったが、「魚焼くならこっちの方が美味しそうじゃんか?」というキャンディスの一言で「どういう流れ」でこうなったかを察した。
味噌汁については、コーンスープなどのように盛り付けられており、おそらく「ほぼ完ぺきなカット」をされたろう立方体の豆腐? が中央にクルトンのごとくおかれている。ワカメなどは存在していないが、このあたりは見栄えを重視したのだろうか。一見すると変な盛り付けではあるが、漂う匂いから想起される味付けはブルー的になじみ深いものである。
お粥については…………………………………………、お粥。以上。
「ちょっとブルー? なんであたし達の作ったのだけ見ている秒数が少ないの? 何なの、感想なんて出すまでもないって言いたいの?」
「えっ!? い、いや、その、お、お粥だなーって」
「ま、テキトーにリゾット作るノリで雑にやったらこうもなるなァ」
「味しないよねー」
まさかの素粥であった。
とはいえせっかく好意で作ってもらったろうものに直接何か言うのも無粋である(爆殺される的意味も含めて)。ここは日本人たる中の人らしく両手を合わせて「いただきます」である。
「…………お粥だ」
「ま、まあね」「コメントなし」「バンビちゃんちょっとプルプルしてて可愛いー♡」
「こっちもまあムニエルというか……? 美味しいけど、あれ? 何だろう香りがちょっと不思議」
「作る時にちょっと昆布? のブイヨンに漬けたからね。流石にムニエルそのままっていうのも味気ないし」「ブルー、マッシュポテトの感想が欲しいですぅけど?」
「味噌汁は…………、!!? あっすごいこれ、凄い…………、普通! 普通に味噌汁だ!」
『この場合は褒め言葉と解釈しよう』
ブルー個人の総評としては、1位BG9、2位キャンディスチーム、3位バンビエッタチームである。具体的には恐れ多いため言葉には出していないが(爆殺される的な意味で)、それでもブルーのリアクションの大きさで色々察しがついたらしい。
BG9は「当然」という風に微笑んだ……、はずである。声だけがわずかにくぐもった金属の反響音を伴い聞こえてくる。
キャンディスチームは「結局、私のマッシュポテトの感想が全然なさそうですぅ……」と落ち込むミニーニャに「とりあえずサンドイッチを安定して作れるようになるのが先?」と教育方針らしきものを悩むキャンディス。
バンビエッタチームは「やっぱり戦犯って、お鍋焦がすくらい大火力だしてたバンビちゃんのせいだよねー」と揶揄うジジと我関せずブツブツ何かをつぶやいては考え事をしているリルトット。バンビエッタ本人は「そもそも
だが。そんな面々が一様に固まり、ブルーを見て、目を見開いた(※BG9は良く判らない)。
いつも通り微笑んでいたブルーの目から、涙が流れたからだ。
「ぶ、ブルー、どうしたのさ? 何か魚の小骨でも喉に刺さった? 出来る限り取ったんだけど」
「…………へっ? えっと、何、キャンディお姉ちゃん?」
「ブルー大丈夫? 何か凄い泣いちゃってるけど」
「ジジさん? …………あ、本当だ」
「自覚ねーのかよ」
リルトットの指摘に「ちょっと待って」と指で拭おうとするが、それでも涙が止まらない。どんどん溢れて来る涙に、段々と苦しくなって来て、
この時、彼が考えていたことは――――ひたすらに「現代日本」での自分の生活だった。
(嗚呼、嘘でしょ……? こっちに来てから30年くらい経ってるはずのくせにさ、えぇ……? あー、ダメだこれ。
多分、完全に――――――
故郷の味。ベレニケが買って来たおにぎりやらカレーやらでテンションが上がったのは、まだ序の口だった。「本来なら仲が悪かった」人々が、自分のために料理を作ってくれたと言う事実すら、その感謝すら忘れてしまう程に。ブルーの、その転生者の人格の胸に去来したごくごく当たり前の生活。通学電車に乗って学校にいったり、友達と遊んだり、それこそバスケをしたりゲームをやったり、旅行に行ったり。それこそ「実の両親」や「少し粗暴な姉」のことも思い出し、何でも無いようなことだったそれらの「頭に残っていた記録」が、正しく「自分自身の記憶」として想起され、呼び戻され、感情の濁流に呑まれた。
いつまで経っても泣き止まず、さらに酷い症状に陥るブルー。おどおどするキャンディスやジジを尻目に、戸惑いながらも「大丈夫ですよ~?」と彼の背中を撫でながら声をかけ続けるミニーニャ。
そして、バンビエッタは腕を組みながら、そんな二人を見ていた。
「…………お前は何か慰めたりしねーのかよ、クソビッチ」
「リル、バンビちゃんをそう言うの止めなさい。
………………まあ、あたしがあんなことやっても逆効果でしょ」
「そォかよ…………、って、はっ!!?!?!?!?!?!!!?!?!?!」
コイツもしかして何か本当に色々と自分の頭バンビエッタな言動とかそういうのに自覚あったのか!? 的な驚愕に珍しく狼狽するリルトット。
そんな彼女の反応など気にした様子もなく、真剣なまなざしで泣き続けるブルーの、その「何かが剥がれた表情」とミニーニャとを見て。
「…………『どっちが上か』ははっきりさせるけど、独占はしない方がいいかしら」
「あ?」
リルトットの疑問に答えず、何事もなかったかのように立ち上がり。バンビエッタは、雑に「よくわかんないけど甘えなさい!」とブルーの頭を正面から抱きしめた。
直後、ミニーニャとの取り合いが発生したことにより、その時点で不思議とブルーの涙は収まり、またいつもの苦笑いが顔に浮かんだ。