蒼都になったけどバンビちゃんが死ぬほど面倒臭い(※死ぬ)   作:黒兎可

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今回も例によってダイス結果が大きく作用しているので、色々謎設定注意…
 
遂に後輩が出来るよ!


#021.果たされ得る約束

 

 

 

 

 

 いつも通り、僕の呼吸が聞こえる。

 呼吸は安定してなくって、僕は僕にできる一生懸命で息をしてるけど、それでも苦しくって苦しくってどうにかなってしまいそうなんだ。

 呼吸っていうのは苦しいものだ。こんな苦しいことをしないと生きられないなんて、生きるって言うのは何て不便なんだろう。

 白い病室。無機質な部屋。高い天井。遠い景色。

 こんな場所で、苦しくてもそれでも生きて居なきゃいけないなんて、僕は一体どうして生きているんだろう。

 

 天国って、苦しくないところかな。

 地獄っていうのは、今よりもっと苦しい所なのかな。

 

 そうだとしたら、怖い…………、怖いなぁ。

 

 誰かに声をかけられることも、それに答えることも出来ないことも。

 僕の命が何一つ僕の自由にできないことも。

 

 生きることも。死ぬことも。

 

 怖い、怖いな…………。

 

 

 

『――――生き残りし者よ。我が聖別(アウスヴェーレン)を超えた魂よ。肉の枷がその命を繋いだことが、結果として今のお前をここにつなぎ留めているか』

 

 

 

 誰かが僕に声をかけて、僕はそっちの方を見る。

 その人は、見たこともない恰好をしていて、見たこともないくらい「真っ黒な人」で。

 

『お前に力を、生きる術を与えよう…………、未だ遠くに眠りし、我が息子よ』

 

 そう言って僕に手を翳したその人の隣で。

 僕より少し幼いくらいの青年が、何だか居心地が悪そうな顔をしていた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「――――――――ちょっとリルー!? ブルーの完聖体(フォルシュテンディッヒ)ってば反則なんだけどぉ! ボクの“神の死(アザルビオラ)”の霊体操作すら弾くようになってるしっ!」

 

「オメーそもそも俺に“神の眠り(ゲヘノエル)”弱体化させといて何言ってんだクソ野郎ォ(ビッチ)

「自業自得だと思うの……」

「むしろ元々ジジのに限らず、霊体操作は弾いてたと思うんだけどブルーの“Ⅰ-不滅-(ジ・イモータル)”。えっ? というか今まで通じてたの? ジジ、アンタのアレとか」

「ま! これくらい出来て当然ってやつだよ! バンビちゃんの目に狂いはなかったの!」

 

 半泣きで「青白い光に」包まれたブルーから放たれる銀色の「鞭のような何か」から、必死で逃げまどうジゼル・ジュエル。その悲鳴に適当な受け答えをするバンビーズであるが、そこにブルーの声は聞こえない。

 普段ならば苦笑いの一つくらいは聞こえそうであるが、修練場はひたすらに斬撃打撃といった音ばかり。

 

 やがてジジが完聖体の翼を維持できなくなったのを見て終了と判断したのか、ブルーもまたその青白い光を解く。

 顔立ちは特に何か変わったわけではない。ただその目の下には隈が出来ており、目は据わって陰鬱であった。こころなし瞳孔も小さくなっており、ハイライトがない。何かしら精神にダメージを負ったような、そんな雰囲気だ。

 

 倒れて五体をバタバタしながら「こうさーん!」と全力で自己主張していたジジだったが、完聖体を解除したブルーを見ると、ヘッドスプリングで起き上り駆け寄る。

 

「ブルー、ほんと大丈夫? 訓練したいって言ってた時も無理してる感じだったけど」

「…………ま、まあ、うん、大丈夫」

 

 頑張って苦笑いしようとしているようであるが、目に燈る感情は乾いたまま。据わったままの視線に「べー、重症だァ」とリルトットへと視線を送るジジであった。

 とはいえそれを受けたリルトットもリルトットで「珍しいことじゃねェが慣れるしかねーだろォが前髪野郎」とボソっと呟くが、彼本人には言葉をかけられないでいる。

 

 こんな空気感を無視するのは、バンビエッタくらいなものである。

 愉し気に飛び上がって抱き着くと、そのまま彼の頭を背後から撫でる。身長的には既に追い越しているものの、こういった振る舞いは「それ以上の関係になっても」弟扱いめいたものが抜けていない。

 

「やったじゃないブルー! これであなたも粛清リストからは抜けたわ!

 あの『ロボのことは残念だった』かもしれないけど、逆に考えればすぐにメンバー補填とか出来ないみたいだし、あたし達みんな安泰ね!」

「あっ馬鹿」「バンビちゃーん!?」「おいおいおいおい…………(やっぱりちょっとドキッとする)」「少し共感性を磨いた方が良いと思うの」

 

 えっどうして? とバンビーズほぼ全員からの微妙なリアクションにたじろぐバンビエッタと、そんな彼女に気づかれないよう鋭く細めた目で睨みつけるブルーこと蒼都。キャンディスが密かに顔を赤らめていたりするのはともかく、ため息をついて眉間のあたりを揉むブルーであった。

 

 端的に言えば、BG9(ベーゲーノイン)が死んだ。騎士団に搬送されてきたものは遺体のみであり、破損した騎士めいた仮面の下からおそらく初めてその素顔が見えた。顎髭や髪は適当に切っていたと思われる風に無精。意外と痩せている顔立ちは、モンゴロイド系と東スラブ系が混じったようなもの。かけている眼鏡はひび割れており、そんな彼は「目を見開いたまま」「袈裟斬りにされたように」残った半身で死後硬直していた。

 現世にてとある滅却師の一族の痕跡を負っている最中、虚に襲われたらしい。通常戦闘ではまず負けることはないだろうが、何かしら相手の能力かあるいは作戦か。死後その情報が尸魂界へと流れぬよう、騎士団長たるハッシュヴァルト自らがその遺体を回収しに行ったらしい。

 

『陛下の手で導かれた俺達「帝国の」滅却師は、特に原種(ヽヽ)の滅却師へと近づくってロバートの爺さんが言ってたなァ、前髪野郎ォは聞かなかったか?』

『原種?』

『あァ。詳しくは話されなかったが、どーも「器子と霊子の境界」があいまいになるらしい。人間なら魂魄=霊子と肉体=器子に分離できっけど、こっちに居る滅却師は霊子でもあって器子でもあるみてーな話? だったなァ。

 だから「死んでる」俺とかジジの野郎ォも、現世いったってフツーに不都合なく活動できっからな』

 

 リルトットが雑談交じりに以前話したそのセリフが、BG9の死体を、どこかに助けを求めていた男性のその表情と伸ばした手とのそれにが、強く彼の脳にこびりついた。こびり付いて離れず、そして数日たった今ですら影響が出ている。

 例え一度肉体が死んでも、その後に帝国入りすれば特に問題はなかったろうメリットが。そのままデメリットとなって――――すなわち現世だろうと霊界だろうと「死んだら終わり」というその事実が。

 

 ひたすらに、仲の良かった方だったBG9の死が、彼の頭から離れないでいた。

 

(こればっかりはバンビちゃんやミニーちゃんでも、どうしようもないというか……。そもそもBG9死んじゃったけど、原作的にどうなのこれ? もしかして襲名制みたいになるの? 確かにCVの感じがちょっと違ったけどさ……)

 

 様々な面から喰らっているダメージのせいで、心ここにあらずといった状態。回復の見込みは甚だ遠い。

 当然のようにバンビーズの面々は、こういったコミュニケーションには「慣れていない」のもあって、普段のように雑に励ますのすらはばかられている有様だった。

 

 

 

 そんな彼に、ハッシュヴァルトから呼び出しがかかる。

 謁見の間についたブルーは、やはり「誰も座っていない」王座の横に立つハッシュヴァルトから、新たな指令を受けた。

 

蒼都(ツァントゥ)、陛下より直々に現世への派遣任務だ。場所は――――」

「――――日本ですか!?」

「――――フッ、残念だが違うな」

「そんなぁ……」

 

 目の下の隈もとれてはいなかったが、何故かこの時ばかりはテンションが跳ね上がったブルーである。ただ結果的に気落ちすることになったが、そんな彼を見てハッシュヴァルトは少しだけ微笑ましく目を細める。BG9の死体を見た直後の状態に比べれば、多少は持ち直してきていると判断したらしい。

 

 かくして数日後、帝国の出入り口たる四方を柱で囲まれた建物の手前に、ブルーは来ていた。ニット帽に柄の付いたダボダボの長袖シャツに短パンと今時? の若者風な恰好である。以前現世で祝い事をした際にバンビエッタプロデュースで購入した代物だが、若干丈が短くなっているものの着ることは出来たのでそのままの恰好だった。

 そんな彼に、黒いスーツで身を包んだオールバックのハッシュヴァルトが声をかけた。

 

「では、行こう。…………少しファンキーだな」

「あっはい」

(ポテトの口からファンキーとかいう言葉が出た、だと……?)

「…………って、そうじゃなくって、ハッシュヴァルトさん!? えっ何で?」

「今回は私も同行する。陛下から直々の指名だ」

「えっと、もしかしてそんなに凄い何かがあったりするんです? 今回の任務というか。詳細、全然教えてくれてませんでしたけど」

「行けば判る。機密性は少ないが、BG9の事があった上での任務だ。事は慎重に執り行う」

(あってことはもしかして騎士団の団員補充系の任務?)

 

 前髪で隠れているものの疲れような目をしているブルーだが、ハッシュヴァルトの言葉におおよそ任務のアタリをつけた。

 建物から登る光の柱――――「表では」影の柱たるこの流れに包まれ、二人は現世へと転送される。この際さらに「帝国の影の力」で、所属滅却師についてはその霊子が現世と“見えざる帝国”との境界を曖昧にさせ、尸魂界からの感知を困難とするのだが。ブルーからすると体感的に、その「影の力」のかかり方が少し薄く感じた。

 思わずハッシュヴァルトに確認するブルーだったが、彼は肩をすくめて返した

 

「以前、バズビーやバンビエッタ、キャンディス・キャットニップやシャズ・ドミノらと現世に行ったことがあったろう。同じ北米に向かう以上、その時とそう違いはないはずだが」

「でも、何だろう? 多分『無効化してる』訳じゃないんだけれど……。現世、3回くらい行ってますけど、アメリカ一回だけだからわからないってのもあります」

「…………だとするならば、おそらく原因はお前が成長したことだな」

「僕が?」

「違いがわかるくらい感知能力が育った、ということだ」

 

 ポンポン、とやはり頭を軽く撫でると、ハッシュヴァルトは少しだけ微笑む。

 

「米国、もとより北米は1890年代以降『死者の指輪(リング・オブ・ライヴ)』の影響が強い。極東(東アジア圏)泰西(ヨーロッパ圏)のように『尸魂界の管轄局』が存在ないのも、その一端だろう」

「リング・オブ…………、えっと、何?」

「死者の指輪、あるいは生者の()だ。

 お前達で言えばジゼル・ジュエル、リルトット・ランパード、キャンディス・キャットニップの順で詳しいだろう。―――― 簡単な違いで言えば、あちらの虚は『ゾンビ』と同義語だ」

「ぞ、ゾンビ…………って、ジジさんの?」

「おおむねその認識で合っている。……ジゼル・ジュエルが“神の眠り(ゲヘノエル)”を聖隷(スクラヴェライ)した状態で発動した場合に、あれは似たようなことが起こったな」

「えぇ………………?」

 

 根耳に水な発言を聞いて頬が引きつり目は怪訝なものを見るような、変な顔をするブルーであった。以前の話から「アメリカは実は何かヤバい」と適当に覚えていたブルーだったが、その説明でさらに意味不明になる。意味不明ながらも、しかし危険度が高いということだけは理解したブルーだった。

 ハッシュヴァルトはハッシュヴァルトで疲れたように遠い目をする。

 

「現在は尸魂界(ソウルソサエティ)西梢局(ウェストブランチ)が代行を送って管理しているらしいが、とても管理しきれるようなものではないからな。一部、専業の狩人や斬術師が生き残っていると聞いてはいるが…………、ゆめゆめ注意するように。お前は大丈夫だろうが、念には念を入れる」

「了解です」

 

 素直に応答したブルーに「よし」と目を閉じて頷くハッシュヴァルト。なんとなくオーケストラとかの指揮者みたいだ、みたいな感想を抱いたブルーだが、全然関係ないのでその感想は口に出なかった。

 たどり着いた場所はニューヨーク。ここから何かしらの道具を手に取り(小型の羅針盤?)、方向を探りながら「こっちだ」とブルーを誘導するハッシュヴァルト。

 基本的に移動ばかりで、途中途中現世らしく食事をすることは有れど目的地は判然としていない。

 

 そして日が暮れ、深夜を超えて徹夜でたどり着いた先は、とある病院だった。「ジェミニ大学付属病院」と書かれたそこに「器子を曖昧にしながら」進むハッシュヴァルト。見よう見まねで「なんとなく」まねたブルーは、彼に続いて病院の壁を貫通して室内に入り。

 

「この病室は『死』に満ちている。ゆえにこの場所は『夜と言える』だろう」

「ハッシュヴァルトさん?」

「後は、直接聞くと良い。ブルー、ではあちらでまた会おう。

 後はお願いします――――――――陛下」

 

 ――――――――嗚呼。

 

 その声と共に、立っていたハッシュヴァルトの全身が「黒い影に覆われた」。ぎょっとするブルーの前に、そのまま身長もやや変化し、現れ出たのはハッシュヴァルトが着用していたものと同様にスーツ姿の、これまた現世の装いだった彼同様にオールバック姿だったユーハバッハである。

  

「驚いたか、蒼都(ツァントウ)

「えっ? それは、まあ、はい、うん。……こ、こんばんはです、陛下」

「ぬ? フ、ハッハッハ。そうだな、今晩は、だ。

 …………私と全ての滅却師とは『血と影で繋がっている』。とりわけハッシュヴァルトは、その中でも特別な一人だ」

「えっと、だから陛下が出て来ても大丈夫って感じの話なんです? いえあの、いくら何でも陛下が現世に普通に出てきたら、尸魂界に捕捉されないかなって」

「嗚呼、その通りだ。だから『ハッシュヴァルトを経由して』現世に出たのだ。こうすることで、今私を構成する霊子は『ハッシュヴァルト』と共用している形になる。故にある程度の弱体化と引き換えに、私のことを外部から認識するのは困難となっている」

(そういえば原作でこんなシーンあったっけ、記憶がちょっと曖昧だけど。

 ん? ということはつまり今なら「相打ち覚悟」すれば僕でも陛下を殺せる、と……)

「どうした、蒼都」

「へ? あー、いや、何でもないです。オールバック似合わないなーとか思ってないです」

「ハッハッハ! 存外、容赦がないな。ふむ。眉毛がほぼなくなってしまったせいか……?」

 

 一笑した後、眉間が寄っている額および目の上あたりを軽く撫でるユーハバッハ。済みません、と軽く謝るブルーに、再び一笑すると「気にすることもない」と続けた。

 

「ハッシュヴァルトでも、親衛隊でもこうは行かぬ。適度に懐き、適度に倦厭するくらいが丁度良い距離感だろう」

「丁度良い?」

「過激に傾倒するのも、過激に反発するのも、あるいは興味が全くないのも、どれも関係性としてはいずれ危険になるということだ。…………生きるというのは、呆れかえる程に難しく、困難である」

 

 故にこそ「死を祓う」価値がある――――。

 

「さて、気付いているやもしれぬが。これから我々は、おそらく最後になるだろう聖章騎士を出迎えに行く」

「えっと……、Fの字?」

「嗚呼。そして、ある意味でお前とやや近い所に居る子供だ」

 

 近い所? という意味がわからず不思議がるブルーに、ユーハバッハ手を上げ、まるで「何かを掴むように」動かし、数秒そのまま動かず。

 

 

 

 ――――次の瞬間、膨大な霊子がユーハバッハ目掛けて集まってきた。

 

 

 

 いわゆる聖隷による霊子の収束などではない。ここではない何処か、ありとあらゆる場所から飛んできているような、そんな感覚を覚えるブルー。その「霊的な」衝撃に飛ばされそうになるのを、両手から鉤爪を出して床に突き刺し、必死でこらえる。

 やがてしばらくして収まった状況。ユーハバッハは「やはり視えた通りか」と満足げに頷いた。

 

「へ、陛下? 今のは…………」

「――――“聖別(アウスヴェーレン)”。我がこの手と意志により、我が子らが持つ力と命とを徴収し振り分ける、そういった儀だ。

 今『この大陸から』『純血滅却師(エヒトクインシー)足り得ぬ者たち』に限定し、その力の大半を献上させた」

「――――――――――――――――ッ!?」

(えっ? っていうことは、これって――――六年前が近い!? ちょっと待って、今、西暦でいうと何年だっけ!? 黒崎一護(原作主人公)って生まれてる!!? あーもう、現世日本の空座町の調査に一度も行かせてもらってないから全然わかんないやッ)

 

 驚いたり衝撃を受けたりしているブルーであるが、ユーハバッハには当然通じない。

 そもそもBLEACH原作における“聖別”は、ユーハバッハの説明した通りのものであるが、それにより黒崎一護の母を間接的に殺す原因となり、石田雨竜の母親などの直接の死因でもある。おそらく今の言いぶりから、一度に徴収できる範囲というのは限られているのだろうが。こういったことを実行するようになったということは、つまり「そうする必要が出て来た」ということであろう。

 未だ認識が浅かったが、「原作」の足音が聞こえてくる――――武者震いではないが、謎の震えにブルーは自分自身へ困惑した。

 

「さて…………、この場ならば二人きりだ。今の力を見せた上で、お前には一つ教えておこう」

 

 ユーハバッハは額にやっていた手で髪を適当に流し、普段通りのものへ。ネクタイを解き、同時に「影」を纏い、全身が黒く見慣れた服装。ただ着用している元が異なるため、いわゆる「斬月のおっさん」を加齢させたような姿になったというべきか。

 そんなユーハバッハは、ブルーを見てニヤリと笑う。

 

「――――私は何が有ろうと、お前からは“聖別”を使い、その力を徴収はすまい」

「えっ?」

 

 今までのその動きからして、どういう意図があるのか不明慮だったブルーだが。彼のその言葉には、流石に意表を突かれた。BLEACH原作からしてユーハバッハは「必要があるなら」一切の躊躇なく、どんなに親しい相手でもどんなに大事な相手でもその命と力を奪うくらいはやってのける。だからこそ、わざわざ自分に限定してそう言う理由がわからなかったブルーであるが。

 

(……そんなこと言って黒崎一護に殺されそうになったらやったりするんじゃないかな、この人は)

 

 口で言ったことはともかく、いまいち信用が無かった。

 基本的にユーハバッハはその性質上「絶対に嘘が着けない」が、この場合の真実とは彼が真実と認識していることに限られるため、状況次第である程度のファジーさが存在している。なので状況一つでまた何か変わる可能性は否定できないのだ。

 

 ブルーの感想を知らずにか、ユーハバッハはその理由を続ける。

 

「私に徴収された力は、そのまま滅却師の基本能力たる『霊子の絶対隷属』を基礎としたエネルギーへと変換され、我が身にその魂や経験ごと還る。とはいえ、それで『元の持ち主が持っていた』記憶や経験そのものを、この私が扱えるようになるかとはまた別であるが」

「……? えっと、仮に騎士団全員から力を徴収しても、全員の力を使用無敵モードみたいになれるわけじゃないってことです?」

「もしそれが可能ならば、真っ先にぺぺ・ワキャブラーダの命と力を徴収しておるわッ!」

「えぇ…………?」

(い、いや、確かに陛下の霊圧であの(ヽヽ)能力を使えるなら向かう所敵なしというか、零番隊以外はほぼ全員味方みたいに出来るんだろうけれど、なんで名指しで、しかもそんなテンション上げて断言されたんだこの陛下…………?)

 

 困惑するブルーだが、その理由に思い至らないあたり流石に騎士団での生活が長くなったと言うべきか。すぐさま原作における「斬月のおっさん」を思い出せれば、その正解にはいずれたどり着けるだろうが。

 

 ただ全くのゼロとは言えない、と。ユーハバッハはブルーの目を見る――――その奥の「何かを」捉えようとするかのように、強く見る。

 

「徴収の際に、間違いなくその魂の一部は私の魂に刻まれ、その『元来持っていた』文字もまた私の身へと還元される。知識も、経験も、私の力であるならば、そこに溶け込み、私が私足りうる形のものとして補填される」

 

 故に――――。歩きながら「とある病室を目指しつつ」、ユーハバッハは続ける。

 

「取り込んだ魂の性質は、私に必ず影響を与える。元の私自身に反したものなら大きく目立ちはしないだろう。

 だがお前は違う」

「………………」

「お前の滅却師(クインシー)完聖体(フォルシュテンディッヒ)――――“神の完全(メタハエル)”は、“Ⅰ-不滅-(ジ・イモータル)”共々、その使用者たる存在の『完全性を保証する』。幾度傷を受けど、幾度その身体を別なものに変えられど、保証されている完全性に従いお前の存在は必ず蒼都(ツァントウ)と定義されていた形へと回帰する。

 つまり私がお前の力を取り込めば、その性質に従い、私がこうして蘇るまでに『切り捨てた』叡智――――――――他者への深い愛や優しさの根幹すら、取り戻すだろう」

 

 あっ、と。わずかに声に出そうになったが、ブルーはそれを押さえた。

 そうなのだ。少なくとも初代護廷十三隊と戦った当時のユーハバッハは、その大本は「斬月のおっさん」と揶揄されるあの姿のそれと同様なのだ。ユーハバッハの語った理屈は良く判らなかったが、最後の部分を理由とするならそれだけは納得が出来る。

 護廷十三隊により蹂躙された最初の滅却師の国“光の帝国(リヒトライヒ)”。現在の“見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)”の原形たるその国と騎士団とを、尸魂界の戦争で失ったことが。

 

「優しさで戦争には勝てぬ。理解で戦争には勝てぬ。敵たる死神たちからそう教わった――――故にこそ『完全なる我が人格』という贅沢(ヽヽ)は、余暇たる戦後の楽しみにとっておくべきであろう」

 

 その時に仲間の多くを殺され、それでもなお自らすら勝てなかったというその事実こそが、ユーハバッハが現在の人格へと至る大きなトリガーであったのだから。

 

 ただ、そんなことを聞かされ安心できるブルーではない。それが示すことは、つまり。

 

「…………バンビちゃんたちや、他の人からは徴収するのに躊躇いはないってことですよね」

「無論、積極的にはしないが」

 

 つまり今の言葉は、ブルーに関してすら「徴収するなら最後」だという宣言にしかならない。結局のところ、彼自身は安心させる目的で話したのかもしれないが、明確にブルーにとってリスクが大きくなったということになる。

 

 故にこそ、足を止めたその時。彼はユーハバッハに一つだけ願い出て。

 

「………………良いだろう。受理した」

 

 その願いを確約させた上で、「S.N.」とだけ書かれたネームプレートの病室の扉を開いた。

 

 

 

 

 

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