蒼都になったけどバンビちゃんが死ぬほど面倒臭い(※死ぬ) 作:黒兎可
「――――で、こっちに行くと食堂があって、あっちに行くと親衛隊の皆がいるところに繋がってるから。多分文句言われたりはしないと思うけど、話しかけるのはちょっとだけ勇気がいるね」
「勇気……?」
「うん。アスキンさんは、最近呼ばれてるからもうほぼ確定で親衛隊に選ばれそうだけど、他のジェラルドさんとかペルニダさんとかリジェさんとかは、三人同士で仲良くしてる感じだから。無視はされないと思うけど、霊圧的にも雰囲気的にも、僕はちょっと怖い」
「そう、なんだ。…………怖ッ」
思わず震える「真新しい」聖兵の上着を着用した青年に、ブルー・ビジネスシティこと蒼都は苦笑いした。両者とも同じくらいの身長で、わずかに震えている青年の方が高い。
廊下を歩きながら、ブルーは彼に色々とこの“
もっとも、ほとんどの感想が「怖……」と返されるものだから、上手い事説明できている自信はないのだが。
(外の世界の存在として一番最初に出会ったのが陛下だったもんだから、そりゃ怖いよね……。実際、ほぼ死にかけていたみたいだし、
「あれ~~? ブルーじゃん、何してんのー?」
「ブルーじゃない。どしたの?」
「あ、ジジさんにバンビちゃん」
「怖い……」
ちょっとどういうことよ人の顔見ていきなり怖いとか!? と、当然のようにブチ切れるバンビエッタ。いきなり腰の剣を抜き構えたりしないあたり、多少は社会性じみた何かが成長したというべきか何というべきか。ジジはそんな彼女を一瞥した後、ブルーの背中に隠れた彼を「ん~~~~?」と楽し気に覗き込む。否、楽し気というよりもやや喜悦に歪んでいるので、どちらかといえば「ニヤニヤ」というより「ニチャニチャ」という粘性が垣間見えるが、それはさておき。
真ん中分けの黒髪に毛先がやや広がった青年。不安げに見つめる目には光が燈っておらず、どこか陰鬱気である。
そんな彼にこれまたジジも「光の燈っていない」暗い笑みを浮かべて視線を合わせようとすると、怖がっているのかすぐそっぽを向かれてしまう。すぐさま反対側に行き、そっぽを向かれとそれをひとしきり繰り返し、
「全く、別に食べちゃったりしないよ~新入りクンさぁ。ボクゥ、これでも騎士団の中でも多少は話のわかるほうだってリルからお墨付きもらってるもーん!」
「…………怖い」
「えぇ~~~~? 全く、ブルーも何とか言ってあげてよー」
「あ、あはは……」
(いや、確かそのですね、「まともに話せっけど、それはそーとして頭ン中で自分のことしか考えちゃいねーから会話が微妙に成り立ってねェんだよあのクソ
基本的に性格は(相対的に)悪くはないが、それでもダブルスタンダードだったり色々ブルー的にも擁護できない部分が多いジゼル・ジュエルである。もはや遊び出しているのか「ダブルピース☆」とピースした両手をかまえてウインクしたりあざとさアピールに余念がないが、何一つ件の新入りには届いていない。無常!
「一応新入り? でいいのかな。うん。新人の
「怖い……」
「えっと、ノト君からよろしくって」
「えっ」
「ちょっとブルー? えーっと、今聞き間違いじゃなければ『怖い』しか言わなかったんだけど」
ちょっとだけ上機嫌にニコニコ微笑みながら新人の彼、サダ・ノトを紹介するブルーである。その一言に困惑するバンビエッタと「あれあれ~?」と苦笑いしながら聞き返すジジであったが。
「怖い」
「ずっと病院暮らしだったから、あんまり長文喋れないんだって」
「怖い…………」
「え? あー、うん。こっちに来るときに話てたバンビお姉ちゃんとジジさんだよ」
「怖い……?」
「うん、そうだね! で、ミニーちゃんとかキャンディお姉ちゃんとかも紹介したいけどいないなぁ……」
「怖い……、怖い?」
「リルお姉ちゃんは――――」
「ちょっと待って、ちょっと待って、だから何でそんなブルーは甘々なの!? もうちょっとしゃべらせないと、ブルーが専属通訳みたいになっちゃうよ?」
「いや、多分まだ慣れてないってだけだと思うから…………。これはこれで仕方ないかなって」
「怖い……」
「照れるなぁ…………」
「ちょっと待ってちょっと待ってボケ倒さないで! 懐ちょっと深すぎない!?
ボク基本はボケとツッコミならボケ側なんだから、あんまり慣れないことさせないで!?
リル~! いないのリル~! ロバートお爺さんの呼び出しとか無視してボクの代わりにツッコミしてよリル~!」
何故それでコミュニケーションが出来るのかと言う会話の応酬に謎の絶叫するジジと、特に興味なさそうにサダ・ノトを一瞥するバンビエッタ。ぼそりと呟かれた「もろそうね」の一言に震え上がったサダ・ノトは、そのままブルーを盾にするように背後に回った。
「怖い……」
「それはまあ、そうだね」
(今のは本気で怖いって言ってるよなぁ…………)
ブルーとハッシュヴァルト、ないしユーハバッハの導きによりこの滅却師の王国へと招聘された「死にかけた」少年だったサダ・ノトであるが、コミュニケーションが得意でないながらも少なからずブルーが気にかけてくれていることを理解していた。なので彼がこつこつと「(普通の人には)危険人物」と語ったその筆頭たるバンビエッタに対する、正しい怯え方でもある。
故にこそのこの頼り方なのだが、ミニーニャあたりが見たら「殺す」と無言で剛腕を振るわれるほどの身代わりの出し方であるのだが、それはさておき。
新人って普通は一発芸とかするものよね、と謎のマイルールを思いついた彼女は、しかし「多少は」精神に余裕が出来たためか、ブルーをじっと見てからサダ・ノトを見やり、その霊的なものと身体的なもろさを再確認した。
「ブルーみたいに首飛ばして『噴水!』とか出来ないし……。だったら暇だし、何か面白い話でもしなさいよ!」
「これが、パワーハラスメント……、怖い…………すごい怖い……」
「何ですって!? こんな美少女のバンビエッタちゃん相手に、しっかり言葉喋ったと思ったら何を言うのよ! ブルーちょっとあなた、どんな風にあたしのこと教えたわけ!?」
「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い」
「あはは……………………………………」
(ちょっと否定できないかなぁ)
ブルーの肩を掴んで前後に揺さぶりながら少し涙目になっているバンビエッタ、そんな彼女を見ながら光を失ったレ〇プ目でニヤニヤ意地悪く笑っているジジ、そしてそんな三者を見て口から「怖い」のフレーズが止まらないサダ・ノト。一つの地獄絵図であった。
しばらく揺さぶってから落ち着いたのか、バンビエッタがサダ・ノトを見て「で、どうなのよ」と凄む。ブルーが「まぁまぁ」と落ち着けるが、それでも少しは慣れたのか、ごほごほせき込みながら声を搾り出す。
「……じゃ、じゃあ…………、怖い話、します」
「…………面白い話しなさいよ」
「いーじゃんいーじゃん♪」
「ノト君的には面白い話なのかもしれないし」
と、バンビエッタを揶揄うモードに入ってるジジはともかく間に入って一応は壁ないしオブラート的な役割を買って出るブルーのお陰で、サダ・ノトも深呼吸を繰り返しながらだが、なんとか話を続けた。
これは僕の病室で呼吸器を付け替えてくれていた看護婦さんたちがしてた世間話と、僕に愚痴を言ったのをまとめた話。
看護婦さんは旦那さんと娘さんが家に居て、二人を養うために働いていたらしい。だから娘さんを迎えに行く時、旦那さんと代わりばんこに車で移動してる。
亜米利加だとスクールの行き来は物騒だから、そこそこ仕事とお金が安定している人はそうやって送り迎えをするらしい。そんなに珍しいことじゃない。
そんなある日、看護婦の娘さんは「友達も家に来ていい?」と言った。
看護婦さんは大丈夫だと、友達が遊びに来るのなんて珍しいなんて、そんなくらいに思ってたって言った。最近色々あって元気がなかったから。
ただ娘さんはニコニコ笑って「いいよ」と、そう言ったらしい。
そしたら、ひとりでに扉が開いて、閉まった。
いきなり目の前で起こったことがよく理解できなかった看護婦さんは、風の仕業か娘さんの友達が外で何かしたかと思ったとか。だから娘さんに「悪戯するんじゃありません」って怒ったらしい。
娘さんはしゅんとしてたけど、特に何も言い返さなかったから反省したと思って、車を走らせたとか。
普段は後部座席で帰りは寝てる娘さんは、その日は何故かよく看護婦さんに話しかけたらしい。
看護婦さんは運転が苦手で、だから運転中はあんまりお喋りできないのだけど、それでもその日の娘さんは看護婦さんにいっぱいしゃべりかけてたとか。
そして娘を自宅に預けてまた仕事に行って、僕の呼吸器とか点滴とかつけていった帰り。自宅について、看護婦さんは驚いたらしい。旦那さんはもう眠ってるっていうのに、娘さんが絵本を片手にずっと朗読してたとか。いつまで起きてるのって、お母さんらしく看護婦さんはそうやって言ったんだけど。
その日、いつもと違い娘さんは一人で自分のベッドで眠ったとか。
基本的に怖がりな娘さんは「宇宙人が来たらどうしよう」って言って看護婦さんのベッドに入り込んで一緒に寝たりすることも多かったそうだけれど。少しは大人になったかしらって、忙しかった看護婦さんはそのことを大して重要視していなかった。
その夜、何故か寝苦しかったらしい看護婦さん。異変が起きたのはその翌日。
朝に目を覚ましても、特に不思議でも何でも無くて、そのままいつも通りに僕の点滴を付け替えようとしたりした。うん、いつも通りだったと思う。だからそのまま、看護婦さんは娘さんの迎えにいこうとした。
だけど、行けなかった。
何故かわからないけど、病院の敷地から出ることが出来ない。
病院を抜けてしばらく歩くと、気が付くと病院の出入り口に帰ってきてしまっている。ノイローゼにしては妙だなって思った看護婦さん。ちょっと何かを予感したのか、流石に不可思議に思ったのか、とりあえず旦那さんの職場に電話をかけようとするんだ。
だけど、電話機の調子が悪いみたいで、こっちのスピーカーの音はあんまり向こうには聞こえない。
自宅への電話は当然繋がらなくて、やっぱり不可思議に思った看護婦さん。
もう夕方で迎えにいかないといけないのに、と。そんな風に思ってたら、どこかから声が聞こえたらしい。
娘さんの声。泣き声で、お母さんとお父さんを呼んでる声。
当然、看護婦さんは娘さんの声を探しに行く。どこにいるの? と、名前を呼んで、大声で呼んでたのが煩かったなぁ。
声は、霊安室から聞こえてきてたらしい。
どういうことって、看護婦さんは困惑して、何故か鎖でがんじがらめにされていた扉を開けたんだ。
そうすると看護婦さんの娘さんが、まるでかくれんぼしてたみたいに看護婦さんの顔を見て、ぱあって笑って駆け寄って抱き着いて。
どうしてこんな所にいるのって娘さんを叱るように言う看護婦さん。
娘さんは言ったらしいんだ。お友達が、暗いって泣いてるんだって。
ぞわっとした看護婦さんは、すぐに娘さんを連れて部屋を出ようとしたんだけれど、次の瞬間には扉が閉まって。がちゃがちゃと、外から鎖で巻かれる音が鳴って、明らかに嵌められたって思った看護婦さん。別に恨まれるようなこともなかったらしいけど、それはそうとして何がおこるかわからないって。
銃ですぐ殺さないあたりの意味もわからないから、しばらくしたら解放されるだろうって思ってた。
……開けて…………。
…………開けて……。
娘さんじゃない女の子の声が、看護婦さんに聞こえたらしい。
どん! どん! って、扉とか箱を殴るような音が聞こえる。
開けて、開けて、って。女の子の声がまた聞こえる。
――――どん! どん! どん!
開けて、開けて、お母さん。
――――どん! どん! どん!
娘さんが、看護婦さんを見上げてまた言ったんだ。お友達が、暗いって。狭いって息苦しいって。
――――どんどん! どんどん!
音は大きく、早くなっていく。看護婦さんの心音も、どんどん早くなっていく。
どんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどん――――!
ばきっ。
箱の釘が抜けるような、そんな音が聞こえて。
看護婦さんは腰を抜かして、それでも娘さんを抱きしめたまま。
霊安室の冷凍されたボックスが、ぎちぎちって音を立てて空いて。でも、何かが立ち上がったりすることはなかったんだって。
そこで、がしゃん! って音を立てて扉の向こうの鎖が落ちたのがわかったって。
ほっとしたように娘さんを背負ってから、扉を開けようとした時、右肩に痛みを感じて。
恐る恐る、自分の右側にある娘さんの顔を見て――――――――。
交通事故にでもあったみたいな、頭が半壊して脳みそとか目が垂れた女の子の死体が、看護婦さんの肉に「齧りついていた」。
「その後、右腕に鎧みたいなの付けた銀髪の男が『鎖が切れてるからもう助からない』みたいなことを言って、チェーンソーで少女の首を跳ね飛ばしたり、結局娘さんも旦那さんも無事だったらしいんだけど、その男のことも他も何一つわからないって言ってた。
…………あれ? 受けが良くない? 怖ッ」
「意外とけっこう、それっぽい話だったね」
特に声に抑揚をつけていたわけではないサダ・ノトの語りだったが、それを聞いたブルーの脳裏にはなんとなくイメージ映像が出た。直近、ハッシュヴァルトと現世にいった際に聞かされた話もあって、おおよその背景の真相には察しがついている。
おそらく、途中からその娘というのは、少女のゾンビの魂魄と入れ替わっていたのだろう。
アメリカにおいては虚に該当する存在はゾンビである的なことをハッシュヴァルトが言っていたし、言うなれば看護婦は誘い込まれたのだ。ゾンビが食事をするために。果たしてどこからどこまでがゾンビによる誘導その結果の「白昼夢」のようなものだったかは定かではないが。
そして銀髪の男とやらが、東やらで言う「死神」に該当する何かなのだろう。
そこまで事情を分解してしまえば怖いも何もあったことではないのだが。いわゆる魂魄的な事情を知らないサダ・ノトにとっては、それなりに退屈しのぎになった怖い話ということだろうか。
そして、ここに効果覿面だった相手が約二名――――。
否、それはおそらく「怖い話」だけのせいではあるまい。
「……ノト君、ひょっとして
「怖い…………、バレた、怖ッ」
サダ・ノトの聖文字は「F」。“
もっとも滅却師としての基礎が弱いため、キルゲやロバート、およびブルーを交えての基礎訓練なども今後行われることになるのだが。
それはそうと、怖い話をより怖い話とするためにか、サダ・ノトは自らの聖文字を併用していたらしい。
「僕の霊圧に触れた相手は、あらゆるものが恐怖の対象になる。……使いこなせてないから、まだ『ちょっとずつ』だけれど。今はトラウマを刺激するくらいかな」
「トラウマ、かぁ…………」
「――――――――やだ! 出して、出してよッ!? 暗いの嫌なの、息苦しいのは嫌なの、熱いのも嫌なのッ! 息が、息が続かないの…………、意識がどこかに飛んで行っちゃうの、『抜けちゃうの』ッ! 嫌っ、破裂しちゃう! 頭が破裂しちゃう!
駄目、助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて、誰か、誰かァ……」
「――――やだよ、そんなの、そんなものまで『取らないで』よ、そんなことしたら死んじゃうよボク、『男の子』なんだよ!? 止めて、止めてよ
だめ、駄目、そんな指輪『胸に埋め込んだら』絶対死ぬから! 嫌だよ、何それうねうね蠢いていて、嫌だ、嫌だ、怖い、助けてパパ…………、パパ、パパも、パパの『顔の皮』? あ、あはは、あはははっはははははははっはははははッ」
その場でうずくまり喉を押さえてジタバタと暴れまわりながら涙と鼻水と涎をまき散らすバンビエッタ。
そしてブルーの背中に抱き着きながら、目を零れ落ちる程に見開き首から上を痙攣させながら絶叫と「壊れたような」笑い声をあげるジジ。
端的に言って、二名は発狂していた。
「どうしよっか、この二人……」
「怖い……」
「一応、ノト君がやった結果だからね? でも、それにしたって、ハァ……。あー、まだ漏らしてないから大丈夫かな? バンビちゃんも」
よいしょっと、とわきの下に手を入れ抱き上げると、そのままバンビエッタを抱きしめて「よしよし」と言いながらあやすブルー。その間もジジが狂ったように笑い続けブルーの首を絞めているところだが、そこは首を
震えながらいまだ自分を抱きしめているのがブルーだと認識できないバンビエッタだが、珍しいことに爆撃などを行うことも、剣を抜くこともなくただただ怖がっていた。
否、あるいはこれが彼女の「本来の」地の部分なのかもしれないが――――。
「…………怒らない?」
「えっ? あー、二人ともこうしちゃったことについて? 一応は事故みたいなものだし、どこかで能力も鍛えないといけないだろうし………………」
(それに僕だと「完全に」無効化しちゃってるっぽいから、絶対訓練相手としちゃ不適格だからね、聖文字に関しては…………。
あっ、バンビちゃんちょっと正気に戻ってきたのかな? 抱きしめ返してくれて、柔らかい…………)
ニコニコ微笑みながらサダ・ノトにそんなことを言うブルーに、状況のあまりにアレな結果になったそれに「聖文字、怖い……」とぼそっと呟くサダ・ノトであった。
なおこの後、ふらっと立ち寄ったアスキンからドン引きされたり、「親睦深めるって意味なら映画でも見てオシャレ学ぶと良い」とアドバイスを受け、ジェイムズやベレニケと一緒に四人で映画を見たりして、バ〇トマン(1989)に何かインスピレーションを受けたりするサダ・ノトだが、それはまた別な話。