蒼都になったけどバンビちゃんが死ぬほど面倒臭い(※死ぬ) 作:黒兎可
ということで、アイツが帰ってくる話…ちょっとグロ注意
「限定解除、だと!? 何だそれは――――――――くっ、グリムジョー!」
「砕け散れ――――ッ!」
夜のとある街。霊なるものを目視できる人間にとっては、まだまだ序盤ではあるが大いなる戦いの、その先触れ。
とある仮面を砕きし虚に斬りかかるのは、全身に氷の竜をまとった少年。護廷十三隊十番隊現隊長、日番谷冬獅郎。
先ほどまで封じられていた霊圧を解放したその能力は、実に元の5倍。
現世への影響を加味することすらないその一撃一閃は、間違いなくその破面シャウロン・クーファンを仕留め、粉々に砕いた。
砕いた、はずであった。
『
「相手、虚だけれど大丈夫?
『問題はない。もとより我が力は、現在の形に至る以前からそういった仕様で構築されているものである。
――――――――拡散せよ、“
かくして日番谷冬獅郎が凍結した虚は、その全身が氷の内から砕けて無くなる寸前に「闇色に染まり」、間一髪のところでこの空座町から存在を消したのだった。
※ ※ ※
「ふふ。…………ふふっ」
らしくないほどに喜色を露わにして、スキップをする青年。挙動は幼児のようだが、当然のように見た目の年齢にはそぐっていない。ただ、意外な事にその顔立ちの穏やかさを基準として考えれば、違和感は少ないのかもしれない。
少なくともバンビエッタ・バスターバインやミニーニャ・マカロンを相手にした場合は。
滅却師の“
そんなブルーの隣に、特にスキップを踏まず覗き込みながら飛行する、桃色の髪の女性が一人。
「ご機嫌ですね~~、ブルー?」
「ミニーちゃん! 今日も可愛いね!」
「きゃあ!? だだ、大胆なの…………」
長身の彼女はミニーニャ・マカロンであるが、満面の笑みで自分を可愛いと言いながら、普段なら「自分からは」絶対にしないだろうハグまでかましてくるブルーを相手に、さながら小さな女の子のように顔を赤くして空中で固まってしまう。
そのままお人形さんのごとく、漫符ならば頭から煙でも上げそうな様子のまま、ブルーに手を引かれ移動するミニーニャ。一見すると青春の1ページのようであるが、二人そろって魂魄年齢はともかく実年齢はそれなりに良い年だったりするのはご愛敬。
それはそうとして、自分の「恋人」であるはずの彼の見たこともないようなテンションの高さに、ミニーニャは大きく困惑し、そして照れていた。
「ほん、当に、テンションが高いと思うの………………。何か良いことでもあったんですぅ?」
「うん!」
「無垢な笑顔…………ッ、こ、コホン。
出来れば理由を教えてもらえると嬉しいの。現世でナジャークープと任務だったのは知っていますけどぉ」
「へ? あ、うん。いいよ、別にサプライズとかでもないし」
(後多分、テンションが勝手に上がってるのは僕だけだろうしね)
少しだけ冷静になったブルーだが、それでも表情はいつもの6割増しでニコニコとしており、その見慣れない表情をミニーニャは直視できなかった。ブルーから手を放すと「あう~~~~/ ω \」と自分の顔を両手で覆い、しかし指の間からチラリと見てはまた「あう~~~……」と照れに照れていた。
「何、現世でもちょっと古めのラブコメみてェなことしてんだよ、ガキ共」
「あっ、リルお姉ちゃん」
「リルちゃんです~~?」
下の方から声をかけられたブルーとミニーニャは、そちらの方を振り向く。相も変わらず身体的な成長が見込まれないリルトット・ランパードが、建物の瓦礫めいた塀と塀の間から、二人を呆れたように見上げていた。
なお、ミニーニャから呼ばれた「リルちゃん」という呼び名に半眼となり「オメーにちゃん付けだけで呼ばれる筋合いは無ェぞ
(まあ、アレでリルちゃんって僕やミニーちゃんよりはるかに年上だから、何かそういうのは嫌なのかな。…………むしろ子供っぽくて可愛い気がするけど)
「前髪野郎ォ、オメー今なんか失礼なこと考えたろ。殺す」
「ちょ!? 待って待って、お土産買って来たからちょっと勘弁してよリルお姉ちゃんッ!」
「お土産ですぅ?」
うん、と言いながら、ブルーは菓子折りの小箱を一つ取り出して、下まで降りてリルトットに手渡す。「気が利くじゃねェか」と言うとリルトットは少し「浮かんで」ブルーの頭をひと撫ですると、そのまま後方の
「…………ブルー、何か顔が赤いけれども。どうかしました?」
「へ? あ、いや、うん、何でもないよ」
(リルお姉ちゃんに頭撫でられたのとか、何か久々すぎてくすぐったいや)
付き合いが長くなってきたからこその照れはともかく。
「よう、かん?」
「うん。
「それも日本のなんですぅね~~。……やっぱりブルー、変な所で日本贔屓?」
「否定はあんまりしないかな」
じゃあ戻ろうか、と話しながら、ブルーたちもリルトットに遅れて銀架城へと飛行して向かった。
道中、ミニーニャから「どういう任務だったんですぅ?」と聞かれるも、ブルーは微妙にはぐらかす。というより、上手く説明できないといったところか。
「
「一応、
「でも、あっちもあっちで情報収集って言うのも、『新しい王様』になった人が色々アレすぎて、僕とかナナナさんくらいじゃないと上手く行かなそうって話で」
「それがどうして現世に行った話になるんですぅ?」
「若干説明が難しいかなぁ――――っと、
ミニーニャとお喋りをしていた途中、ブルーはミニーニャを抱きかかえ急停止しながら、高速で右腕から鉤爪を生やすと、その先端から「銀の血」を放出し、瞬間的に大きなドームを形成。
次の瞬間には、そのドームの周囲で轟音と爆撃音のようなものが鳴り響き、密かにミニーニャはブルーの腕の中で震えていた。
概ね両者ともに仕立人については想像がついているが、あえてゆっくりとドームを解きながら、抱き合ったまま上空を見上げる。
「――――――――帰ってきて早々、あたしを除け者にしてイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャしてるなんて良い度胸ね、二人とも」
「バンビエッタ、ちゃん……!?」
「あっ、バンビちゃんただいま!」
「こっちも凄い度胸してると思うの……ッ!!?」
目からハイライトを失ったバンビエッタ・バスターバインだ。自らの周囲に複数の弓を展開し、爆弾のような球体がついた霊子の矢を大量につがえて射撃したらしい。空中には弓だけがプカプカと浮かび上がっており、更にそれらの弓へとまた霊子が収束して矢を形成しかけている。
そんなバンビエッタに、なんら気負いもなく緊張感もなく帰宅(?)の挨拶をかますブルーである。それを受けたバンビエッタは表情を変えず「ええ、お帰り」と言いながら霊子兵装の剣を抜き放ち。
「でも気に入らないから、とりあえず7回くらい死になさい!」
「もう、バンビちゃんは…………。いつもながら仕方ないなぁ」
「……いつもより懐が深すぎる気がするの。本当に機嫌は良いのかしら」
ミニーニャを庇うように彼女の前に出たブルーは両手を広げてバンビエッタを満面の笑みで迎え入れ。バンビエッタもバンビエッタで、光を失った目のまま暗い笑顔でブルーの心臓に剣を突き立て、そのまま何度も彼を「体内から」爆殺した。
閑話休題。……休題できなそうなほどの致命傷を負っているのが一人いるが、どうせ直るので休題。
「
わざわざ持っていってたの?」
「うん。というより、情報収集よりそっちの方が本題だったみたいでさ。僕、知らされてなかったんだけど」
「バンビエッタちゃん、しっかり
ミニーニャとバンビエッタに挟まれる形で(特に物理的には挟まれていない)、ブルーは二人に顔を行ったり来たりと向けながら話をする。既に城の廊下であり、人の気配はない。
そもそもナナナ・ナジャークープがメインで引き受けていた任務は、かつて「
「普通の霊子は十分溜まったから、敵対種族の霊子を溜めることで、その『生存本能を呼び覚ます』、っていうことらしい」
「どういうことよ」
「ナナナさんもよくわかってなかったし、あんまり深く突っ込むとアレかなって」
「使えないわねぇあの白黒出っ歯」
「それ、リルトット先輩が使ってた罵倒だと思うの」
「いいじゃない分かり易いし。それで? 何でわざわざ現世にまで行くことに――――」
『――――その続きは、私の口から説明しよう。相も変わらずブルーを爆殺しているようだな、バンビエッタ・バスターバイン』
は? と。背後からかけられた声に、バンビエッタは一瞬思考が止まる。
何処か聞き覚えのある物言いと、その霊圧の感覚。まさか、と冷汗をかきながら振り返るバンビエッタとミニーニャ。
そこに居たのは痩身の男。身長はミニーニャに迫らんと言う程に高く、白い死覇装を纏い、頭の後ろには黒く短い三つ編み。そして顔面には、「どこかで見覚えのある」騎士の頭部鎧をデフォルメしたような、あるいは
その仮面めいたものの奥から、鈍い光が三人を見つめていた。
「う、そ…………!? ロボ、あなた生きてたの……?」
『その質問には、否と答える。以前「BG9」を名乗っていた個体としての私は、完膚なきまでに死んでいる』
かつて虚に殺されたはずの滅却師、BG9は感情もなく、淡々と言葉を続けた。
嘘でしょ、と。有り得ないものを見たような光景を前に、バンビエッタは自分の身体を抱きしめて震える。
一方のミニーニャはブルーの笑顔の理由に合点がいったらしく、それなら納得ですかねぇとこちらも微笑んだ。
「このロボの人、頼りになるお兄さんみたいなものでしたしね、ブルー。
……それはそうと、見た目とか全然違うのに声は一緒なんですぅ?」
『たまたまだ。声紋の一致率は驚異の89%だが、特に狙ったという訳ではない』
「その話し方、本当にロボの人ですね~~~~」
「――――――そんなの、有り得ないじゃないッ! あたし見たのよそのロボ野郎の死体ッ! ちゃんと、落ち込んだブルーと一緒にッ!」
「バンビちゃん?」
ガタガタと震えながら、バンビエッタは震えた手で霊子兵装の剣を握り、BG9へと突き付ける。わずかに涙目になっているそんな彼女に、やはりというべきかBG9は振る舞いを変えない。
『繰り返すが、かつてBG9を名乗っていた滅却師は死んでいる』
「じゃあ、あなたは何なのよッ!? 幽霊の世界で幽霊が出るとか馬鹿みたいなこと言うんじゃないでしょうねェ!」
『その理屈を言えばこの城の滅却師は「霊子」と「器子」との境界が曖昧故に、生者も死者も同時に存在していると記憶しているが。
そこのブルーとて、「器子」換算で言えば生存率は――――』
「うわあああああああっ!」
バンビちゃん!? と、ブルーが止めに入るよりも先に、その剣はBG9の胴体を凪いで、上半身と下半身を真っ二つに分離させた。
これにはミニーニャも一瞬絶句。追撃で爆破させようとするバンビエッタを、ブルーは背後から羽交い絞めにして「
ドーム越しに息絶え絶えなブルーの声と、連続した爆撃が聞こえており、ミニーニャは少しだけ「逃げちゃいましょうか」と呟いた。
「…………いや逃げンなよ、どう見ても犯人バンビだろォが同罪にされるぞオメー」
「りり、リルお姉さんッ!?」
「お、動揺しすぎだぜ。呼び方、だいぶ昔に戻ってんよ」
そして背後からぬっとあらわれたリルトット。ブルーのお土産だろう羊羹をガジガジと「口を変形させながら」齧りつつ、半眼で銀のドームとミニーニャ、胴体からぶった切られたBG9らしきものを見る。
「……現行犯だなあのサイコビッチ。いや、つーかロボ野郎ォの霊圧するぞコレ? 何がどうなってんだ」
「私も事情は知らないっていうか。……あっ! 今ならまだジジさんが居れば治せるんじゃ――――」
『――――それには及ばない。全体の破損度50パーセント、このレベルならまだ“
はァ!? と声を荒げて一歩後退するリルトットと、死体のようになっている上半身の方から「電子音めいた声が」聞こえたことで、ミニーニャも思わず腰を抜かした。
次の瞬間、「血の出ていなかった」上半身の断面からウネウネと、虚の髄を思わせる触手めいた何かが這い出る。それら複数の触手は倒れたままの下半身へと延び、断面へと入り込み、ぐちゅぐちゅと「肉を裂くような」音を立てながら上半身の方へと引きずり、そして接合した。
何事もなかったかのように立ち上がるBG9。その、いっそエス・ノトが得意そうなホラーめいた光景に、リルトットは「エイリアン野郎にでも改名すっか?」などと世迷言を呟く。彼女も彼女で混乱しているのだろうが、さておき。
その光景を「解除されかかった」ドームの内側から目撃したバンビエッタは、むしろ冷静さを取り戻した顔でBG9のことを見ていた。
「…………そういうこと。だったらむしろ納得したわ、安心安心。
それ、あなたの完聖体ってことよね」
『肯定する。我が“
――――この身は既に
つまり、こういうことである。
聖櫃……、かつて死亡したBG9の聖文字“
覚醒早々に「我が肉体の適合率が高い個体を捕捉。追跡を依頼する」と言われれば、ブルーがそれに応じない訳はない。現世へと向かう数体の破面たちの後を「影」伝いで追ったブルーとBG9(の本体)。
その結果、現世にてとある破面を自らの肉体として決定し、それを「奪い取る形で」復活したのが、今のBG9ということだ。
(滅却師としての霊的な弱点は、すでに肉体がないことで無理やりクリア。虚だろうと何だろうと強制的に寄生できるっていう形みたいだけど、絵面は完全にアレなんだよなぁ……、シャウロンェ……。まあ復活してくれたことの方が何倍も嬉しいんだけどさ)
「というわけで、BGお帰りなさい! ってことなんだけど……、もう殺さないよね、バンビちゃん」
「あなた、あたしを何だと思ってるの?
(やっぱり怖がるポイントが変なんだよなぁこの子…………)
「もっと気にするところが一杯あると思うの……」
相も変わらずなやり取りをするブルーたちを見て、そして呆れた様子のリルトットを一瞥すると。新生したBG9は自らの身体を見て「今後を踏まえればバンビエッタ・バスターバインの攻撃に巻き込まれて破損する確率、百パーセント。改造が必須と考える」と、ぼそりと呟いた。
【おまけ】
「そういやオメーの技、名前なんて付けてたか? チャンファリングとか」
「キャンディお姉ちゃんから『溶接系のネーミングとか使ったら恰好良いんじゃないか』って。せっかく蒸着ってつけたんだし」
「キャンディがなぁ…………、なんか色々理由着けてベタベタする回数増やしてやがるし、やっぱり狙われてンのか? オメー」
「流石にそれは……、ないよね?」
「オレに聞くなよ前髪野郎」
「いや、そこはまぁ、一番お姉ちゃんだし、人生経験積んでそうだし」
「おだてたって安っぽい味したキャンディくらいしか出さねェからな。……年だって『死んでから』重ねた方が長いとかいう次元じゃねェし。無駄な年月だよ大体なぁ。
ま、それはそうと俺は別に『オトされ無い』から、気楽なモンだけどな」
「僕もそういうつもりは無いというか……。まあ、可愛いですけど」
「何で敬語になってンだよガキが、はっ」
(いや、性格的にはリルちゃんが一番安心できるけど、リルちゃんはグレミィさんのだと思うし。……カップリングなのかコンビなのかは、突っ込むのは野暮だと思うけど)
なおこの後、本当に合成着色料ごってりの蛍光ブルーな色をしたペロペロキャンディ―をもらったとか何とか。