蒼都になったけどバンビちゃんが死ぬほど面倒臭い(※死ぬ)   作:黒兎可

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息抜きのような、ちょっと重要な部分もあるような無いような、そんな回です
 
※大体破面編終了くらいの時系列


#026.役者は果たして誰なのか

 

 

 

 

 

 それは、エス・ノトのこんな不用意な発言から始まった。

 

「ソウイエバ……、影カラ出テノ調査トカハシナインデス? 潜入トカ」

 

 潜入? と、たまたま食堂でばったり会ったブルーとジジのコンビと一緒に昼食中。エス・ノトはふとした疑問としてそんなことを言った。

 曰く、情報(ダーテン)収集の任務といっても危険度に応じて騎士団の中でも下位から上位に割り振られるのなら、ブルーたちはそういったことに出向いたことがないのかという、そういった疑問らしい。

 

 つい先月か、BG9復活にまつわるあれこれでテンションが上がったブルーという珍しい光景があったりしたものの、その際にブルーはナナナ・ナジャークープと共に調査に出向いていたのだが、それとて影に隠れての任務である。実際に霊圧を押さえるなり何なりして、現世での長期調査といったようなことを、ブルーたちは経験したことがなかった。

 

「大体バンビちゃんのせいじゃないかなー?」

「ジジさん?」

「ソレハ、ドウイウコト? ……ッ!? 怖イッ」

 

 自分の手前の皿に盛られているサラダのトマトに、フォークを逆手に握ったまま「ガンッ!」と叩きつける様に突き刺しながら話をするジジ。その際に刺さった勢いで飛び散った液体とそれに向けるジジのほの暗い目を前に、エス・ノトは軽い悲鳴を上げた。

 なお、特に気にした様子もないブルーは平常運転と言えば平常運転である。

 

「んー、はむはむ。トマト、トマト。

 えーっと、ほらもともとバンビちゃんってさ? リルとかキャンディちゃんが二人でコンビしていたところに、後から割って入ったみたいなんだけどさ? その時、どうも無理やり聖文字使って二人ともボッコボコにして、バンビちゃん拒否できないように力見せつけてから入ったらしいし。今も昔もそーゆーとこあんまり変わってないよねー!」

「その話、僕、初耳なんですけど……」

「リルもブルーにはお姉ちゃんぶってるしー、恥ずかしいんじゃないの?

 ま、それでー、その話って当然だけどキルゲのおっさんとかロバートお爺ちゃんには伝わるし、騎士団長(グランドマスター)だってそういうのは知ってると思うんだよね。僕の性別(こと)も普通に知ってるみたいだし」

「ツマリ……、怖イ?」

「間違ってはいないかなぁ……、あはは…………」

(ここ十数年で当たり散らす対象は大体僕に固定されるようになったけど、それ以前は当然、原作のバンビちゃんな訳で……、やはり頭バンビエッタは頭バンビエッタか)

 

 つまるところ、情緒不安定のチーム編成不適合者である。なんなら実力が高いばかりに色々問題にはされていなかったが、平然と仲間を背中から撃つことに躊躇いのない精神性と、他者からは判り辛い本人の地雷を引いた瞬間の一気呵成振りから、制御できないと判断されたのだろう。

 結果としてバンビエッタを刺激しない方向に回ったのか、あるいはそういった些事にエネルギーをとられることを回避したのか、彼女が自らの周囲に置く面々の大体にそういう声がかからなくなった、というのがジジの推測だった。

 

「潜入任務とか、どう考えても長期任務になるじゃん? 協調性皆無だと色々アレだよね~ってことかなって! ね! ね!

 ――――ケッ」

「怖イ」

「ノト君大丈夫? どうどう…………、」

 

 突然荒んだ表情で心の闇が表出しかけているジジに怯えるエス・ノト。思わずそれを宥めながら、ブルーもブルーで普段のバンビエッタの言動を思い描き一言。

 

「確かに演技とか苦手そうだし、あんまり我慢強くないからねバンビちゃん。朝三暮四とか凄い苦手かな。日本風に言うと、泣かぬなら、殺してしまえ、ホトトギス」

「何で鳥?」

「ソウイウ諺デスネ」

 

 ちなみに「鳴かぬなら」なので、誤字である。

 

(それに、前に一回ポリネシア〇しようとかバンビちゃんから言い出したけど、結局初日で計画破綻したし………………、誘惑と我慢に弱いと言うか、命がかかってない案件の引き金の軽さよ)

 

 若干のシモネタ思考であるが、そんなことは表面上伝わらないので「ブルーをしてもそういう発想になるのかぁ……」と言う具合で、ジジは酷く納得していた。

 そしてエス・ノトは「怖イ」を連呼する。

 

「ノトくん? 一体どうしたのさ」

「悪魔ノ話ヲスルト、悪魔ガヤッテクル」

「何でことわざ?」

(噂をすれば影が来る、と一緒だっけ意味。…………えっ?)

 

 

 

「――――面白い話をしているじゃない、あなた達」

 

 

 

 あっ、と表情が凍り付くブルーとジジ。エスノトは白目を向いて視線を逸らす。

 ブルーの背後に現れたバンビエッタが、ハイライトを失った目でブルーの頭を抱きしめ、その首に手をかけた。

 

「食事は終わった? なら行くわよブルー。ジジもいつもの所に来るのよ。あんまり急がなくていいけど」

「う、うん…………、わかったよバンビちゃ~ん……」

「え、えっと、あの、バンビちゃん?」

「いいのよ判ってるわ、どうせあたしが悪いんでしょ。でも気に入らないからちょっと来なさいッ!」

「わわ!? あ~れ~~~ ……」

 

「怖イ……」

 

 見た目にそぐわない幼さを感じる声音で、襟首をつかまれ引っ張られていくブルー。そのままバンビは彼を自室まで連れ込み、そこから十数分後、妙にすっきりツヤツヤした顔で出て来てから。

 

 

 

「というわけで、今から皆でバンビーズ一番の演技派滅却師(クインシー)決定戦やるわよッ! あたしたちが美少女ってだけじゃないことを、騎士団の皆に知らしめてやるのよ! 特にブルー! ブルー! ブルー! 審査員は例によってブルーよ!」

 

 

 

「またこのパターンなのかよ、バンビ……」

「今回はブルー、縛らなくても良いの? バンビエッタちゃん」

「なんとなくこーゆー展開になる気はしてたんだよね~」

「知らしめるも何も、暴力的で頭ハッピートリガーのヤベェ女だってほぼ全域に広がっちまってるだろォがサイコビッチ」

 

 サイコビッチは止めなさいッ!? と絶叫してリルトットに指さすバンビエッタ。勢いで言ったせいで、今のリルトットの言い回しがバンビエッタ一人を示した悪口であることまで気が回っていない。

 そんな彼女の様子を、特に拘束はされていないものの微妙に疲れた様子で、若干内股になりながら蒼都(ブルー)は引きつった笑みを浮かべていた。そもそも全員適正ないのでは? という発想が出てこないあたり、やはり毒されているブルー・ビジネスシティこと蒼都である。

 

「とにかく、あの新入りにブルーもジジもこのあたし、バンビエッタちゃんが演技できないーみたいなこと教え込んでたから、それは違うって二人に教えてあげたいの。

 あたしだってやる時はやるのよって所、見せてあげるわ!」

「やる時はやるっつったって、()る時は()ってるし、()ることは()ってンだろ」

「後ろ半分はミニーもかな~?」

「ふえぇぇ!?」

「また微妙にギリギリなこと言うじゃんか……。

 って言っても、演技とか何やるのさバンビ。まさかとは思うけど、全員で演劇するーとか言い出さないよな。あたし達、そんな時間さすがに無いし……。陛下もあと数年で侵攻とか言ってるから、遊べるのは今のうちに遊んでるし、訓練するのは訓練してるし」

 

 ようやく完聖体も強化出来そうな感じになって来たからさぁ、と言うキャンディスに、そんな時間かかることはしないわよ、と腕を組んで胸を張るバンビエッタ。

 

「バンビちゃんは頭良いの。頭良いってのは、情報の精査と決断が早い事だってあたし思うのよ。だからもう一目見て、誰も言い訳できないくらい優劣がつく感じので良いんじゃないかしら」

「その頭の良し悪しの言い回しについては、どうなんだろうね……」

(研究職とかのタイプを完全否定している感じがするし)

「何よ、文句あるのかな? ブルー」

「文句と言うか何というか…………。まあ、それは後でね。続けて続けて」

 

 ニコニコしながら促すブルーに、一瞬大きく見開いて「そ、そう」と慌てたように視線をそらすバンビエッタ。

 

「というわけで、さっき作って来たんだけど…………、ブルー、返して?

 はい、じゃ~ん! くじ!」

「シンプルだなオイ」

 

 そしてバンビエッタが机の上に置いたのは、いかにも手作りらしい段ボールに穴の空いた箱。いわゆる抽選券でもおなじみなタイプのくじで、中には紙でお題が書かれているらしい。

 覗き込んで、1枚2枚どころか数十枚はありそうな有様のそれに「結構多いな」とリルトットは肩をすくめ、手元の小袋からグミを一粒食べた。

 

「ちょっとお試しに引いても良いですぅ?」

「いいよ」

「では…………、えっと、『お姉様の保育士さんが仕事に疲れた弟分を甘やかす』? えっと、何ですぅ、お題のシチュエーションというか、指定が濃い気が……」 

 

 お試しと言うことで引くミニーニャは、他にも2枚ほど「年上の異性に慣れていないハイスクールの引っ込み思案の子」やら「場末のネット掲示板でさらし者にされることにちょっと快感を覚え始めてる女の子」やら、微妙にシチュエーションが濃い指定。

 困惑している彼女に、バンビエッタが「それ、ブルーの書いたやつだから」と平然と宣った。

 

「演技力を試すお題でしょ? だから一見して、すぐにイメージしづらい感じのを作らせたの」

「作らせたって、オメー ……」

「多分、十分くらいしか時間なかったんじゃない?」

「無茶ぶりだと思うの」

「う、うるさいわねっ! 別にいいでしょ、じゃあ早く引きなさいよ!」

 

 何だか周囲の視線が半眼になり、なんとなく居心地が悪くなったバンビエッタだったが。そんな彼女たちを尻目に、ブルーの方へとキャンディスが近寄って、耳音でボソボソと確認した。

 

「(…………これひょっとして、ブルー、あんたの趣味入ってる? この「毒舌でツンツンしてるけど根はやさしい彼女」とか)」

「(えっと……、バンビちゃんには内緒で)」

(流石に時間がなかったから、勢いで設定とか書いたやつは僕の性癖も入ってるよなぁ……。それはそうと、覗き込まれるとおっぱいの谷間が至近距離でこう、ありがとうございますっ)

 

 あ~、と何かに納得したようなキャンディスは、ふとブルーの視線に気づいて「そういうのは一応バンビとかミニーにしときなよ」とツンツン額を小突いて苦笑いしてからバンビエッタの待ち受けるくじを引きに行った。

 

 果たして、それぞれの引き当てたお題は…………。

 

 

・1番手:ミニーニャ「年下の甲斐甲斐しい奥さん」

 

 ロングスカートタイプの私服の上からエプロンを羽織ったミニーニャが、さもブルーが今、自宅の扉を開けて帰宅した風の流れで微笑み、出迎える仕草をする。

 

「……あっ、お帰りなさい? ブルー」

「え? あ、僕が普通に旦那様設定でやるんだ……」

「いいじゃないですか。それでは、えーっと、ご飯にしますか? お風呂にしますか?」

「…………、ご飯って大丈夫? 作れる? ミニーちゃんってまだ、包丁壊しちゃう(ヽヽヽヽヽ)から持てないんじゃ……」

「何かいいました?」

「あっ可愛い……、ウインクあざとい…………」

「それではお風呂にいきますかね~。はい、これお着換え、洗濯物…………」

「……ビリビリだね」

「ここ、こんなはずでは…………、私にお嫁さんは早いっていうんですかブルー!? えいっ」

「全力でハグするのは止めないかな、首ねじ切れちゃうから!」

 

(いつものミニーちゃんだよね、うん。あっ、でも首から上は柔らかくて天国だから、多少は……、多少は……、あっリルちゃんが絶叫しながら止めに入ってる。バンビちゃんは放置してるなー、そっかー …………)

 

 

 

・2番手:バンビエッタ「照れ屋の下級生」

 

 水兵服、日本のアニメーションにでもありそうな制服姿に、前髪を整えて垂らして視線を隠し、そのままブルーの背後に回り込んだバンビエッタ。不意打ちをするでもなく、そのまま抱き着き、何も言わず何もせず。ブルーも困惑して、これには言葉が出てこなかった。

 

「…………」

「あの、バンビちゃん、どうしたの? ずっと僕の背中に隠れて」

「怖い……、です」

「それノト君のキャラと被ってるから…………。あと、照れるっていうより怖がりの方のキャラな気が……」

「うっさい、です。…………先輩は、私の肉壁になってればいい、です」

「肉壁って何か物騒なフレーズが飛んできた気がするんだけど!?」

「大体、先輩が悪いん、です。あたしだけ、一番大事にしないから、あたしがこんな、振り回されてる、です。……先輩は、ずっとあたしと一緒にいればいい、です」

 

(演技力自体は確かに思ったより高いけど、何かをはき違えてる気がするんだよなぁ……。あっでも、いつもよりストレートにぎゅーってしてるせいか、顔が真っ赤みたいだから、それは可愛いかな? 爆殺してこない分には)

 

 

 

・3番手:キャンディス「社歴十年くらいの先輩OL」

 

 わざわざ誂えたのか黒いミニスカートなスーツ姿で、ブルーと肩を組んで気楽に笑うキャンディスである。

 

「はーい、カンパーイ!」

「えっ? あ、か、かんぱーい…………、どういう設定? キャンディお姉ちゃん」

「こう、会社のプロジェクトが一つ終わった後の、二人っきりの飲み会?」

「わかった、うん。…………何か似合うね」

「何だとー? あたしが大雑把だと言いたいのかコイツめー」

「あう、あう、あう……、ほっぺた指でぐりぐりしないでくださいよー、酔ってるんですか?」

「酔わなきゃ仕事なんてやってらんないじゃんかっ。エコノミックアニマルじゃないんだから、仕事っていうのは苦役ッ! 苦役が終われば余暇(バカンス)! このバカンスのためにあたし達は働いてるんだから。最近入ったばっかでまだまだここの会社、慣れてないだろうけど、あんまり気負いすぎないでさ、な? もっと気楽に構えてなよ。

 大丈夫、仕事がなくなってもすぐには死なないしさ。……万一のときはあたし起業するから、ウチの会社入ればいいじゃん?」

 

(うん、普段のキャンディちゃんっぽくありながら、ちゃんと設定は準拠してるな。……あんまり私情も出してる感じはないし、設定も練った上でやってるから、意外と受け答えも変じゃないし)

 

 

  

・4番手:ジゼル・ジュエル「カリスマ恋愛占い師」

 

 特に着替える訳でもなく、普段通りのジジが、聖隷(スクラヴェライ)で造り出した髑髏水晶もどきを前に、いかにもな占い師風のポーズをとる。

 

「むむむ……、見えます! 視えます! あなたの運勢が」

「はい、えっと…………、どんな感じです?」

「ズバリ、ハーレムです」

「……えっ?」

(いきなり何を言ってるんだ、この(ジジさん)

「基本的に■■■がもげれば良いと思うけど、それはそれで勿体ないし~、だからといって■■■■されて■■する分の量で■■しない程度には■■なのは正直に言えば羨ましくもあるけど~、それはそうとして■■■■■■■■■■――――」(※自主規制)

 

「中止だ、中止ッ! 教育に悪いだろォがコイツ!

 オメー少しは真面目にやれこのクソ野郎(ビッチ)! 真面目にやらなくても限度考えろッ!」

「えぇ~! リル、それだとつまんないんだけど~~~~!」

 

 

 

・5番手:リルトット「アパートの心優しい大家さん」

 

「…………あー、いや、俺参加するとか言ってねェんだけど」

「ダメよ、やりなさいよリル」

 

 帽子をとって頭をかくリルトットに、バンビエッタは両腕を組んで言う。面倒くさそうに視線を逸らすリルトットの様子に、むしろ不思議そうなバンビエッタだ。

 

「何、負けるのが嫌とかそんなこと? 結構前だけど、変身ポーズ決めた時とか一位だったじゃない。そこから陥落するの、嫌なの?」

「いや、別にそんな拘りはねーけど、オメーらよォ……」

 

 ちらりとブルーの方を見て、「やりにくいったら無ぇぜ」とどこかやり辛そうなリルトット。

 そんな彼女の様子を見て、ブルーは何かを察したように頭を下げ、そしてジジも気付いた。ニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべて、リルトットに顔を近づける。

 

「あ~リルってば、さては照れてる~?」

 

「なん、えっ、何…………?」

「――――」

「いや爆撃準備すんの止めなってバンビさぁ!? いや照れるくらい普通にあるじゃんかっ! (あたしだってブルーの睨んだ顔とか凄いイケメンだからドキドキするし……)」

「何か言った? キャンディ」

「い、いや、何でもないけどさ」

 

 混乱しているミニーニャに、何故か即刻殺意をみなぎらせるバンビエッタ。それでもキャンディスの窘めで辛うじて実行を制止するくらいの冷静さを得たとみるべきか、何と言うべきか。

 いや照れるくらいフツーだろ、とリルトットは帽子をかぶり直す。

 

「別に全裸とかじゃなけりゃ、恰好には文句つけねーけどよ。審査員がブルーだから、ブルーから如何見えるかって前提で演技してンだろ?

 俺からすりゃ、コイツはガキの頃から見てる訳だし、何かこうしっくりこねーっていうか、わかるか? 別に『そういう』話じゃなくても、やり辛ぇだろーが」

「あぁ~ ……」

 

 キャンディあたりは年代が近いからか、なんとなく察する物があったらしい。気恥ずかしいことに違いは無いのだが、そのしっくり来ないような感覚は微妙な感情の機微と、関係性に依存する物だ。

 とはいえそんな「自分の裁量から外れる」部分を、バンビエッタが考慮する訳もなく、結局は押し切られることになったリルトット。以前に比べて、彼女もまたバンビエッタに対しては態度が軟化している証かもしれない。

 

 とはいえ、それが良くなかった。

 

 小さい背に合わせてニット生地の長袖ワンピース(ミニスカート)にミニーニャが着用していたエプロンを借りる形で装備したリルトット。帽子を取った上で「大家っつーなら、髪あんまりアレだと邪魔か」と言いながらリボンで適当に後ろにまとめ、軽いポニーテール風に。

 そんな恰好になった彼女は、数秒思案すると。

 

 

「――――あら、こんにちは。ブルーさん。今日も学校ですか?」

 

 

 

『だ、誰!?』

 

 ブルーすら含め、ほぼ全員が目を見開いて呆気にとられた。そこに居たのは、普段の毒舌を欠片も表に出さず、ほんのり微笑んで相手を気遣う一人の女性である。少女らしい容姿であるはずのリルトットから、少女らしからぬ包容力に加え、どこか年下の子供なら感じ得る、年上の女性らしい独特の色気すら漂っていた。

 思わずジジすらごくりと唾を飲み込む時点で、その変貌ぶりの大きさがうかがえる。

 

(もはやキャラ崩壊の域では……? いや、アニメのCV的にはそんなに違和感がある演技でもないけど。

 というか僕たちからアレなリアクションとられてるのに、毒一つ吐いてこないリルちゃん、凄い新鮮だ……)

 

「ブルーさん?」

「へ? あ、えっと、はい。……えー、はい、学校、帰りです」

「あら、そうですか。最近寒くなってきましたから、色々気を付けてくださいね?」

「は、はい……」

「そうだ。今日、ウチのペットの誕生日なんで、何かお祝いしようと思ってたんですよ。せっかくですから、ブルーさんもウチに来ませんか?」

「い、いいんですか?」

「はい! 美味しいチキンを用意しておきますね。それとも…………、日本のカレーが良いですか?」

「カレー大好きですッ!」

「フフフ、私も好きですよ。では、準備が出来たら連絡入れるので、それまでお待ちくださいね――――」

 

(普通に美人のお姉さんって感じが強すぎて、リアクションに、困る)

 

 

 

・結果発表:優勝、リルトット

 

「何でよ!? あたし、頑張ったよね!」

「流石にあそこまでキャラ変されると、勝てる気がしないと思うの……」

 

 ミニーニャの一言の通り、ブルーもそうだがバンビエッタ以外の感想もまた満場一致で、優勝はリルトットであった。

 

「メンバーの中で、全く自分の性格とか出さなかったって意味でも、優勝じゃんか」

 

 演技をしている、というよりも自然な風で、特に設定を練ったわけでもなくすんなりと納得させられる。そのあたり一連の流れをふまえて演技力と言われてしまえば、実際問題リルトットの一人勝ち状態である。

 

「リルにあんな特技があるなんて、ボク知らなかったな~」

「特技っつーか、ブルーの読んでる漫画見てだよ。大家っていって、そういうのがあったって思ってな」

「キャラクターの演技をしたってことか、なら納得かな~。

 ……って、ブルー? どうしたの、リルから顔逸らして」

 

「い、いや、その…………」

 

 そして、リルトット本人から作戦の内訳を聞き出していたジジだったが、それよりも挙動不審気味なブルーの方が気になるらしい。リルトットの肩を持って「ほいほいっと」と彼の視線の先に向かえば、リルトットと目が合うたびに緊張したように視線を逸らすブルー。

 リルトットもリルトットで、そのブルーの挙動に釣られて微妙に緊張したように、少しだけ頬が赤い。

 

「……いやオメー、しっかり成長してンだからよ。俺相手に色気づいたら犯罪だろーが前髪野郎ォ」

「そ、そういう訳じゃないんだけどさ、あ、あはは…………」

(さっきの大家さんのイメージが脳裏にこびりついて、なんか直視できないというか……)

 

 お互い微妙な空気である。

 あれあれ? あれあれ? と困惑しているジジであったが、すぐさま「ひょ!?」と声を荒げて、リルトットの肩をもったまま後退。

 

 ジジさん? と聞き返すブルーの左右に、ミニーニャとバンビエッタが、それはそれは見たこともない程の満面の笑みを浮かべて立っていた。

 

「行くわよ、ミニー」

「ええ、バンビエッタちゃん」

 

「あれ? えっと、二人とも一体どうして――――あ~れ~ ――――」

 

 そして彼女たちはブルーの腕をそれぞれ抱きしめる形でロックすると、そのまま集合部屋から外に出てブルーを何処かへと連行していく。……おそらく彼の私室か何かだろうが、それを見送りながらキャンディスは「仲良しになったじゃん」と苦笑いを浮かべた。

 

「本日二回目かぁ~。ブルー頑張れっ」

「自分で企画して自分で自爆してりゃ話にならねェンだよなぁ、あの小鹿女」

「まーそういう隙のあるところが良いんじゃない? 『殺す理由も作り易くて』」

「オメーの私怨は理解しちゃいるけど、程々にしとけよ。ブルーのアレがこっちに向くとか、悪夢でしかねェぞゴキブリ野郎」

「ゴキブリも野郎も止めてよねッ!? ぼ、ボク、普通の女の子だしー。こんなに可愛いんだから女の子だもーん!」

 

 慌てたように抗議するジジを軽く無視して、リルトットはブルーの去っていった入り口の方を見やり。「やっぱ無ェな」とニヒルに微笑んでから、再びグミ粒を取り出して齧り始めた。 

 

 

 

 


【おまけ】

 

「そういえばだけど、結局バンビちゃんとミニーって、ブルーのことどうするか決まったんだっけ。どっちかが独占するーってことでしばらく喧嘩してたし」

「知らねェけど共存してるっつーことは、何かしら落としどころが出来たっつーことじゃねェのか?」

「あれ? 二人とも知らなかったっけ。

 バンビから聞いたんだけど、共存ってよりは……、囲うことにしたらしいじゃん」

「「囲う?」」

「色々やりあって、どっちもいないとダメだって結論になったから、最終的にブルーが決めるまでノータッチにしようってことで、二人で順番とか当番とか決めてやってるって」

「えっブルーに選ばせるつもりなの?」

「選べンのかあの前髪野郎。そのあたり、全然ガキのままなんじゃねーのか」

「まあ、こういうのは野暮だし。あたしもあんまり人の事言えないから、ほら」

「ハッ」

「流石、尻軽キャンディちゃん。自分の部隊を自分の過去の男で構成するだけあるよね~」

「かか、過去の男とか言うなって!? たまに別れた相手ともまた付き合ったりしてるしッ」

「その付き合うのと別れるのの周期が早すぎンだよなぁビッチ」

 

 

 

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