蒼都になったけどバンビちゃんが死ぬほど面倒臭い(※死ぬ) 作:黒兎可
「おっじゃましまーす。ブルー以外に先客二名……? あれ、一人だ。
というかリル? 何でブルーの部屋に。どうしたの? って、あれ? んーブルーを膝枕…………、ひざ……、えっちょっと待って、首だけ!? えっリル第一容疑者!!?」
「違ェし、あんま大声出すなゴキブリ野郎ォ。騒ぐと小鹿女に見つかンだろォが」
「あ、あはは…………」
(リルちゃん何か凄い甘ったるい匂いがする……)
何の用事があったわけでも無く遊びに来たジジが目撃したのは、ブルーこと
ブルー本人は首が切断された状態だというのに断面を銀色に輝かせ、大したことはなさそうに苦笑いを向けて来る。
そんなブルーの頭頂部に顎を乗せて、どこかつまらなそうに前髪をくるくる巻いたりして戯れているリルトット。ブルーの頭の中は後頭部に柔らかさを感じなくて悲しいなど中々失礼な感想が飛び交っているが、知らぬが仏か、予想はしているか。
だからゴキブリは止めて!!? と悲鳴に近い声を上げてから、再度事情を問うジジに、はぐらかすでもなく面倒そうなリルトットである。
「今
「えぇ~? なんか~、そろそろ戦争近いからって訓練場に人溢れて来たからエスケープ的な~? バンビちゃんもミニーも珍しくやる気になってたし。あの場にいたら、それこそ見かけなかったブルー探して来いって言われそうだったから逃げてきちゃった☆」
「二人ともやる気になってるの?」
首だけとは言え不思議そうに聞くブルーに「そだよー」と答えつつ、ジジはしゃがみ込んでブルーの顔を覗き込み、訝し気に表情を歪める。
「ねぇリルー。ブルーって普通すぐに再生すると思うんだけど……、どうしてまだ首チョンパされたままなわけ?」
「僕にもよくわからないんだよ、ジジさん」
「だァから外に運べねェんだろォが。普通に廊下歩いてて、首だけ転がったの目撃した俺の気も考えろよ? 普通にぶっ殺されるんじゃねェかってビクビクしたからな」
「その節はどうも……。うん、でもその…………、ちょっと怯えるリルお姉ちゃんは可愛かったです」
「へぇ~? ボクも見たかったな~、リルのカワイイところ」
「前髪野郎ォはともかくオメーはアウトだクソ
少しキレながらも何故かブルーの口に袋キャンディを、ちゃんと包装を剥がしてから放り込んでるリルトットであるが、そのあたりの心の機微はさておき。
実際問題何が起こったかと言えば、ブルー的には「わからない」が正解である。
朝一番に廊下を普通に歩いて訓練場へ向かっていたのは覚えているが、気が付けば首だけ残ったまま転がっていた。以上である。
首のみなので「銀の蒸着」の基点となる爪を扱うことも難しく、また何故か再生がかからない状態。この姿を見つかればバンビエッタやミニーニャが一体何をしでかすか、考えるだけでも恐ろしい。
(犯人捜しとか言いながら城全域を爆撃とか暴力で粉砕とかし始めるんじゃないかな……。恐怖しかないんだけど、僕が大事にされてるってことでもあるから、ちょっとそれはそれで嬉しい気もする。
まあどうせ僕ごと粉砕するんだろうけど。怖い……)
エス・ノトのようなことを言いながら戦々恐々としていたブルーであったが、そんな彼を見つけたのが菓子袋を持たず霊子兵装で傘を形成して、杖のようにして歩いていたリルトット。
首だけ転がっている状態。必然見上げる形でリルトットの顔と、伸びる彼女の細い脚の根本にあるミニスカートの中身を目撃しながら、頬が引きつるブルー。
『…………縞々』
『オメーその状態で随分良い根性してンじゃねェか変態野郎ォ』
照れるでもなく一度蹴り飛ばすリルトットだが、秒速で再生するので面白くも無ェと彼の頭を持ち上げ傘をさす。彼女も彼女で、バンビエッタに首だけなブルーを見られると色々問題になることはわかっているので、あえて隠したのだ。
そのまま何でこんな状況になったか記憶にないという話をすれば、とりあえず一度オメーの部屋に行って作戦会議だ、という流れとなり、現在に至る。
「それで、キャンディお姉ちゃんに御菓子とか持ってきてッて感じになって」
「頭使うと腹減ンだよ」
「事情はわかったけど、それはそうとしてどうしてリル、ブルーそんなベタベタしてんの?」
「切断面が斜めになってっから、そのまま置くと真っすぐ立たねェで転がるからな。流石にちったー可哀想じゃねェか」
「あらまぁ、リルってば優しー」
「フツーだろフツー。この状態を見つけても、前髪野郎相手にいつも通り爆撃しかねねェ奴もいるからなァ」
「……えっ? さ、流石にそこまで気が狂ってはいないんじゃないかと――――」
「だよね! バンビちゃんならブルーのことだって関係ないもん! ねっ! ね!」
「おーおー心の暗黒面出てンよ腐れ野郎ォ」
「くくくくく腐ってないもんっ!? 後、女の子だもん!」
匂わないよね? 匂ってないよね? と、慌てて唐突にくるくるその場で回りはじめ自分の腕やら服の中やら、体臭を気にするジジ。何かしらの自覚でもあるのか、妙に必死である。
「…………おし、バンビたちいないよな! 食い物とか持って来たよリル。
って、うげっジジまでいるし……」
「何ーその反応。ボクを差別するの反対ー!」
「いや、こういうのって関係者が増えれば増える程、発覚のリスク上がるやつじゃんか。そういうセオリーってやつ。
……あ、ブルーも何か食べる? これ、柿〇種とか」
「ありがとう、でも今、クリームソーダ味の飴舐めてるから……って〇の種!? うわ、ピーナッツ付きのアレだし!!?」
「ハ〇ピーターンもあンぞ」
そんな形で、しばしリルトットが「思考するのに使うエネルギー」とのことでおやつタイム。珍しく自分だけで独占せず、ブルー含め四人で分け合う流れだ。
好意を無駄にするのもアレだということで飴をかみ砕いたブルーに「あ~ん♡」と細長いライスチップを食べさせるジジや、ちゃんとストローを持ってきてコーラを飲ませてやるキャンディスやらはさておき。
「それで、僕のところまで来たと。別に僕は、レクター博士とかではないんだけれどもね」
「檻ン中でも大体城のことは全部把握済のくせに何言ってやがンだクソ野郎ォ」
そしてリルトットは、ブルーの生首を「変形させた口で咥え」隠しながら、グレミィ・トゥミューの檻まで来ていた。
キャンディスとジジはグレミィの元へと行くと言えば「パス」「怖い怖い怖い怖い!?」と拒否。特にジジの拒否っぷりが尋常ではなかったが、そのことを追求するよりも先に「見つかると拙いからとっとと行くぞ」と移動。上手い具合に上から覆いかぶさりつつも、ブルーの視界を確保させつつヨダレを垂らさないあたり、能力の扱い方を相当心得ているとみるべきか。
(まるでワニのお母さんが赤ちゃんを運ぶ時のアレみたい……)
もっともブルーの感想としては、色々失礼極まりないのだが。このあたりは平常運転として、表には出ないので問題にはならなかった。
グレミィあたりは生首状態でリルトットに抱え直されているブルーを見て、少しだけピクリと瞼が動きはしたが、今回はそれ以上の攻撃を仕掛けてくることは無かった。
「色々考えてオメーに仕事させんのが最速だって判断だ。早くしろ」
「実際菓子を食らって何も考えてないのと同義だろうに。でも、ふぅん…………。その状態っていうのは、中々僕としても色々大変そうで共感するところだけれどね、ブルー。
それで? 僕は何を想像すれば良いのかなクソ女」
「バンビとミニーに見つからねェように、コイツの胴体を探せって話だ。再生してねェっつーことは、肉体が消しとんじゃいねェってことだろ。だったら身体は身体でどっかに隠されてるって思う」
「それだと結局、首が切断されている状態に変わりはないから死んでると思うのだけれど……。そこのところ本人はどう思っているのかな? ブルー・ビジネスシティ」
「へ? あー、えっと……」
ブルーは少しだけ思案すると、乾燥した唇を一度だけ舐めて。
「僕の“
グレミィさんが言ったみたいに、本当なら『首だけの状態で生きられるはずはない』から死んでないとおかしい。でもこうしてずっと生きてるって、やっぱり何か変というか……、バグってる?」
「バグ?」
「ゲームとかの話じゃねェからなオメー。
……って、オメーは檻ン中ずっといるからゲームとかはやらねェのか」
要は想定外な不具合みてーなやつのことだ、とバグについてざっくり説明するリルトットである。悪態はつくが、こういうところで気を遣えるあたりが、騎士団内でも相当にひねくれているグレミィ相手でも交友関係を成立させている一因なのかもしれない。
リルトットの話を聞いて、少し目を閉じて押し黙るグレミィ。と、ニコリと微笑んで彼女を見返して「想像してごらん?」と問いかけた。
「想像してごらん? もし仮に犯人がいるのだとして……………………、その犯人がブルーを今の状態にしてしまった時、何を考えるか」
「何を考えるか?」
「バンビちゃん…………?」
「まァ、それだろうな」
わざとにしろ、わざとでないにしろ。ブルーをこんな有様にした相手がいるのだとすると、今のバンビエッタなら事故を装う余裕もなく大爆殺を仕掛ける可能性は十分あるだろう。
なお肝心のブルーごと巻き込んでの大爆殺なのは玉に瑕である。
「ブルー暗殺計画みたいなものはナナナ・ナジャークープあたりがシャズに持ちかけたりすることはあるが、実行に移せてないというのを教えてあげるよ。
まあ、そういうレベルの情報ならこっちで確保しているからね。まず間違いなく計画犯ではない」
「じゃあ何だよ」
「わからないかな? そんな僕ですら――――陛下が今何をしようとしているのかすら知ることができる僕が、補足できていないという事実を」
「補足できてねェだ? 何言ってんだ妄想野郎」
(捕捉できてない。確認できない。…………消失? あっ)
グレミィの言ってる言葉を反芻し、何かに気づいたブルー。リルトットは心当たりがないようだが、容疑者たる相手の能力を思えば妥当であろう。グレミィ本人も「存在までは」忘れ切っていないが、補足できないと言うことは消失しているということに違いはあるまい。
そして目ざとくブルーが気づいたという事実に気づいたグレミィは、にこりと微笑みながら「後は状況証拠をまとめようか」と笑いかける。
「ブルーも、想像してごらん? この場合、一番安全な場所はどこか。何か問題があった場合、すぐさまそれを解消できる方法があるとすれば――――――――」
「――――――――現場のすぐ近く。つまり、ずっと僕の首の後を付いてきていたってことですよね、グエナエルさん」
グエナエル? と。その名前をまるで聞き覚えが無いような顔をしてブルーの頭頂部を見たリルトットだが、次の瞬間にぞわりと嫌な霊圧を感じる。
「…………見つかってしまったか、このわしの完璧な“
「元に戻るのならね。……あー、思い出した」
目の前に現れた、妙にファンキーな髪型をした老人。視線は両目ともに前を向き、ブルーやリルトット、グレミィ三人を見つめて、少しバツが悪そうにしている。原作より微妙にまともな顔だ、とアレなことを考えるブルーはともかくとして、グレミィは肩をすくめ、リルトットは疲れたように相手を見た。
彼の名はグエナエル・リー。聖章騎士団、二人のVの文字のうち一人である。
そんな彼を見て、もうひとりのVたるグレミィは「意味の分からないことをして、消そうか?」などと物騒なことをつぶやきながら微笑み、グエナエルを震え上がらせている。
「わ、わし、未だに色々頑張っとるから勘弁……! 人の命の扱いが軽すぎるわいっ」
「悪いけれど、僕にとってこの人生っていうのは全て『想像の産物』でしかないからね。生きるのも、死ぬのも、すべては僕の認識の中でだけさ。
つまり、僕の世界において神とは僕のことを指す」
「オメーが死んでも世界は勝手に周ってるから、そりゃオメーの世界だけの話だろォが実験体野郎」
震えあがっているグエナエルであるが、彼が背中に担いでいる「首の切断面が銀に光っている」ブルーの胴体が、全てを物語っていた。
グエナエルの能力たる「
本人は然程強いわけでも無いが故に、これらの極端な隠蔽能力でバランスがとられているといったところなのだろうが、今回の彼はこの「認知消失点」までのフェーズを使い、一時的に自らと、自らが持つブルーの肉体の認識を隠蔽した。
そしてそれが解除されたことで、ブルーも記憶が戻ってくる。どうやらこの「認知消失点」というのは、ベレニケの問答強要のようなそれではなく、非攻撃能力にカテゴライズされるらしい。
(いまいち何が違うのかわからないけど…………、この第三フェーズの能力を試したいって言ったのが、バグった原因かな)
そう。ブルーとグエナエルは、訓練場で一度出会っている。
まだ人が全然いなかったタイミングの早朝、訓練場というべきか修練場というべきか、そこでたまたま遭遇したグエナエルは、ブルーに「能力の検証がしたいから付き合ってくれ」と頼んだのだ。
ブルーならば大体の傷は意味をなさないし問題はないだろうという軽い気持ちでの頼み事であり、ブルー本人もそれなりに能力を使いこなしているが故の傲慢さと油断から、これにOKを出す。
そして「存在消失点」を使用した状態でブルーの首を掻き斬った結果が、今の状態だった。
『こ、こんな…………、わしは知らんぞ!? わし、悪くないもん!』
(もん、ってさぁお爺ちゃん……。いや伊達にグレミィさん由来な人ではないってことなんだろうけど、それでも、もんってさぁ…………。
でも原作だと、フェーズを上げると自分も物理的に干渉できないとか、そういう縛りはあったと思うんだけど。何か違うのかな?)
おそらくはブルー自身に、自身の状態を上書きしている何かからすら、グエナエルが認知されなかった影響なのだろうか。とにもかくにも能力が誤作動している現状、とりあえず部屋に持って帰ってくれというブルーの言葉に従い、胴体を背負って頭を抱えて、えっさらほっさら必死で小走りしていた老人だった。
それが、廊下の向かいからリルトットが来る気配を感じ「わし悪くないもんッ!」と存在消失をした結果、廊下に転がるブルーの首だけが残り続ける状態になったというのが、真相である。
一通り話を聞き終えたリルトットは、半眼でグレミィたちを見比べてため息をついた。
「……逃げる理由とかは理解できねーでもねェが、だったら俺が来たってわかった時点で解除して話通せば済んだ話だろォが痴漢ジジィ」
「痴漢!? い、いや、わしそういう欲は色々あって無縁なんじゃが……。
それはそうとして、そこのグレミィから色々、お前のことは言われているからの。いらん悪感情は買わぬが吉じゃろうし」
「言われてるって何をだよ」
「…………これは、まぁ野暮じゃな」
「あ?」
「ん?」
(何で当事者のグレミィさんとリルちゃん両方ともが理解してない顔してるんですかね……)
年長者として完成しているせいか、グエナエルはリルトットとグレミィの両方を見てニヤニヤと笑い、対する両者は困惑しているまま。
「……とはいえ、わしが言うのもアレだが、大丈夫かあの二人?」
「二人とも色々、大変だから余裕ないんですよ」
ブルーはブルーで察しがついているものの、直接指摘をする愚を犯すことは無い。例え死なないとはいえど、馬に蹴られて死ぬ趣味はないのだ。
※ ※ ※
ちなみにブルーの身体についてだが。
「全く、ブルーはあたしがいないとやっぱりダメダメじゃない!
――――“
「あ――――――――ぅ」
(やっぱりこうなるんだよねぇ…………)
結局ハッシュヴァルトどころかユーハバッハにすら相談すれど解決策が見つからなかった結果、バンビエッタの「一度粉々に粉砕して再生させたら戻るんじゃない?」の案が採用され、今日もブルーは汚い花火となる運びであった。
ちなみにちゃんと戻ったのを確認し、ミニーニャが一息ついたのは当然であるとして。
「い……、生き残っただけでも、ラッキーと言っておこう…………」
「キモっ!? ゾンビ映画の下手なゾンビより凄いことになってるけど!!?」
そのミニーニャに思いっきりぶん殴られたせいで、グエナエルの頭蓋が損傷したり目の位置がおかしなことになったり口元が引っ張られたりして、ビジュアルが原作のそれになったことは余談である。