蒼都になったけどバンビちゃんが死ぬほど面倒臭い(※死ぬ) 作:黒兎可
一つの戦いが終わった。……瀞霊廷に壊滅的な被害を出しながら。
主に物理的な戦闘結果として、この領域の一角が灰燼に帰するほどの熱量と縦横無尽さと自由自在さをもってして行われた最強同士の戦闘により、もはやこの場に残るものはない。
『言ったろ? 指一本だって使わずに君を殺してみせよう、とね。
さっきの戦いも、力も、この体も、すべては僕の想像の産物。言葉どおり確かに僕は君に指一本だって使っちゃいない。まあ、死んだのは僕なんだけどさ。
……あぁ、そろそろ…………、僕の想像力も、限界だ』
そのうちの片方、やせた青年は自らより打ち上げられた「死体たる本体」を見やり、肩をすくめ、陽炎のように消えていく自らの手を握り、対戦相手たるボロボロな男へと苦笑いを浮かべた。
『寂しくなるよ。この先の何も想像できない世界を想像するとさ。……嗚呼でもこんなタイミングで思い出すんだから、やっぱりブルーが言ってた通りもう少し自省すべきだったかな』
「……あ?」
『君には関係ない話だよ、更木剣八。只済まなかったね、散々期待させておいてあんまり食い下がれなくて。
――――――――それじゃバイバイ、チビ女。どうやら僕は君の事、案外好きだったらしい』
空を見上げて微笑む彼の表情、崩れる目元のそれがわずかに涙の輪郭のように見えなくもなく。そして聖章騎士団“
その残した言葉に微妙なやるせなさを感じたのか、どこか自分の何かを重ねたのか。大男、更木剣八は刀を構えたまま無言のまま。
とはいえすぐさま足元に落ちていた、自らと共にあった少女の衣服を見て、慌てたように彼女を探させる程度には正気ではあったのだが。
「やれよビッチ」
「ビッチ言うなってさ。――――
「…………あ?」
突如として剣八へと降り注いだ電撃の雨に、色々と気が抜けていたせいか全身を焦がす剣八。不意打ちめいたその一撃に卑怯だと言う声が聞こえてくるなか、仕立人の片方たるリルトット・ランパードは瓦礫の上から無表情に見つめる。
ゆらめくマントに案外小柄ではない少女の体躯。帽子を少しだけ目深にかぶり、彼女は剣八を観察。もっとも次の瞬間には滑るような霊的歩法をもって剣八の横を通り過ぎ、その場に転がっていたグレミィの
「邪魔だァ!」「ぶっ殺すぞガキッ!」「い、いや、何かヤバイ気配ムンムンだから少し慎重にした方が――――」「荒巻テメェびびってンならすっこんでろ!」
「ウチのエース一人テキトーにぶっ殺す更木剣八相手だ、このくらい当然だろォが唐変木共。
……ガータークランチ」
自らの口を変形させてその死神たちの大半を食い散らかすリルトット。「不味ぃ」と文句を言いながらもじろりと残りの連中を見やる。
「ガキとかいってもテメェ等より年上だろォがなぁ。……小鹿女がこっち来る前に片づけンぞ。面倒くせェから全員かかってこい」
星十字騎士団 “
何だあのガキ!? と混乱する十一番隊。流石に目の前でホラー映画も真っ青なくらいあっけなく、人体が損壊し転がる仲間たちを前にすれば、いかに戦闘のスペシャリストなどと揶揄される彼等とて躊躇はする。
そのうちの何人かが気づく、自らに迫るハート型の霊圧の結晶に。輝くハートの霊圧は、リルトットとは対照的に大きなシルエットの元へと集まり、その彼女は投げキッスでもするような動きで息を「ふぅー」と吹きかけ。
「
その一息だけでも大嵐のような威力を発揮し、射程圏の全員は一直線に弾き飛ばされ、全員もれなく壁に激突しその上でめり込まされた。複雑骨折どころの騒ぎではなく、虫の息ですらない。純粋な「力の暴力」がそこに存在した。
そんな彼らを見やり、手でメガホンを作って声をかける長身の彼女。
「ムダですよ~~ぅ、皆さん死ぬんですから、隊長さんの元になんて駆けつけられないですし~~」
星十字騎士団 “
「ぐわァ!?」「な、何が起きてやがる……!」「お前等来るんじゃねェ!?」「わ、わわ……」
「フフフ……、ボクが出たら何も言わずにすぐ斬っちゃうんだもん。可愛いポーズとかとる暇ないよね~。そんなにボクの血を浴びたかったのかな?
ぶいっ」
そしてそんな彼女たちの猛攻とは別方向から、「肌が浅黒くなった」死神たちを従える少女は、両手でピースをしながらニヤリとドヤッとした雰囲気を出した。
星十字騎士団 “
そうして徐々に徐々に勢力が削られていった結果、逃げきれずこの場に残る一部の十一番隊が固まり全方位に刃を向けているのを、上空から彼女はニヤリと笑い。
「――――
バカ共一か所に集まったなら一網打尽だし、ナイスプレーじゃね!? あたし達!」
先ほどのように雷の雨を落し隊士たちを絶命させた彼女、露出度の高い服を着用した滅却師は、ニヤリと笑いながら他のメンバー三人を見回して、サムズアップを向けていた。
星十字騎士団 “
そんな彼女に「あの馬鹿女いなけりゃこんなモンだろォが瞬間湯沸かし器」などと無意味に罵倒するリルトット。いきなり口悪!? と驚きながらも、彼女はリルトットの隣へと回りその顔を覗き込んだ。
「ンだよ」
「リル、機嫌悪い? 何かいつも以上に表情死んでるけど」
「……クズ野郎ォが最後の最期に面倒クセーこと言い残しやがったせいだ。別に大したことでもねーし、深い意味も無ェ。…………問題は無ェ」
「そうなら、まあ別に良いんだけど……。アンタ、あたし等ん中じゃ一番冷静って評判なんだから、そこは大事にな」
「キャンディちゃんはすーぐプッツンするからねー。頭バンビちゃんまであと一息! ブルーからもモテモテになれるかも?」
ブルーはともかくバンビ扱いだけは止めろォ!? と絶叫するキャンディスに、顔を合わせる煽るジジである。
そんなジジの横に降りて来たミニーニャは、一度伸びをするとファイティングポーズを構える。
「ミニー、どうしたのさ」
「ブルーも言ってましたけど、そう簡単に死ぬとは思えないの。あの更木剣八」
「いくら特記戦力っつったって、あたしの電撃まともに喰らって何もない訳が――――」
「よぉ」
そしてキャンディスの発言が終わるよりも前に「霊圧を感じさせない」走法で現れた更木剣八が、キャンディスに斬りかかった。
はっとして一瞬動きが遅れた彼女は、とっさの判断で左腕に静血装を走らせる。
目論見は功を奏しなんとか切断まではいかなかったが、しかし切断されなかっただけで一撃は重症だった。
すでに骨と皮だけでつながっているような、それ程に斬撃の衝撃は強く。肉は胴体より離れかけ、激痛でキャンディスは表情をゆがめた。
「――――ァ! 何、テメェ……!」
「
そのまま殴り飛ばすミニーニャの拳を受け、しかし当然のように自らの斬魄刀で受け、もろとも傷一つつかないまま地面へと叩きつけられる。
起き上った更木剣八は、ぼんやりとしたように上空の四人を見上げた。
「全然芯に一発お見舞いできなかったと思うの……」
「うげー、死にかけの動きじゃないにゃ~~ん、誰がトドメ刺すかって話でもないし~」
「グレミィと闘り合ってなんでまだ余裕あるんだよっ、バケモノか! ジジ、再生!」
「だァから特記戦力なんだろォが。俺たち騎士団の瀞霊廷侵入最大の障害の一つだった痣城剣八を正面から叩き潰した野郎だぞ、『本気になる前に』全員で叩く」
え~~~~と面倒がるジジはともかく。リルトットはグレミィだったモノをくるんだマントを、霊子兵装で編んだ傘に乗せて適当に投げる。あれがクッションの役割を果たすことで、最低限破損は回避できるという算段なのだろう。
そんな四人はそれぞれ腰のベルトに手をかけ、弓を形成しようとし。
「――――――――あン?」
そして瀞霊廷に響いた音に、「上空から落下してくる誰かの霊圧」に、四人と剣八は上空を見上げた。
※ ※ ※
「…………何、だ?」
日番谷冬獅郎は袈裟斬りに三つの斬撃を受け、その場に倒れた。
それがあまりにも当然のようなそれであったため、彼は今の自分の状況に理解が追い付いていない。
そんな彼の背後に立つ「妙な外装を纏った」滅却師の青年、ブルーと呼ばれていた彼は、光り輝く目元の白目じみた眼球で日番谷の姿を一瞥した。
「……テメェ、何しやがった」
「…………やっぱり当然のように立ち上がってくるか。って、出血もう止まってるし。どういう絡繰りだろう」
「カラクリも何も見たままだぜ優男。『血管同士を氷で繋いだ』だけだ」
「力業なくせにまた繊細なことを…………」
見た目の容姿はどこか獣じみた印象になったとはいえ、青年の挙措には何一つ変わりがない。そんな相手だからこそ、つい軽口も出てくる。気安い関係と言う訳でもないのだが、どうにもこの青年の平和ボケした雰囲気は、苛立たせる以上に日番谷の戦意をそいできていた。
立ち上がる日番谷は、自分の傷痕をひと撫でする。以前の自らならば出来なかっただろう「分子同士の結合」そのものを狙い撃ちしたような凍結であるが、霊王宮での修行による「自らの斬魄刀」の在り方と、それを前提とした鍛え直しによる能力の扱い方の再学習により、日番谷の氷結系斬魄刀使いとしての実力は依然と雲泥の差となっていた。
例えるなら、ブルーを相手とした際の「その体表面にわずかに空間を開けた状態での凍結」など。本体たる人体を凍らせない凍結など、流石にそこまでの繊細な扱い方は、以前の自分であるならば「想像は出来ても」実践するのはかなりの集中力が必要だったことだろう。
だからこそ、それで身動きを封じられるはずの青年が変貌した今の姿を前にした後の動きが、不可解を超えたものであった。
『僕の“
『……意味がわからねぇ』
青年が先に語った能力について。変貌したことに対する驕りというよりも「フェアじゃないから」みたいな感情がにじみ出ているせいで、これもまた日番谷は微妙な表情となったのだが。そう語った彼が軽く爪を構えた次の瞬間――――。
『ちゃんと気張ってくれないと「一撃で終わる」かもしれないんで、それだけは先に断りますよ。
――――――――
そう、彼がそう言葉を発した瞬間に、日番谷は切り裂かれて倒れ伏していた。
超高速移動などではない、まるで漫画のページが丸々1ページ抜け落ちているような、次の瞬間ではなくそもそもが「0から100」としか思えない程に一変し、彼から発された尋常ならざる霊圧を感じ取った瞬間には、もう自分は倒れていた。
「何が起きた……」
(落ち着け。あの優男のことだ、もうヒントは出しきっているはず)
「
思考を再開した瞬間に、再び先ほどの傷痕に沿うように新たな斬撃。
「
そして砕かれる大紅蓮氷輪丸の翼。
「
それに驚愕する暇もなく、いつの間にか「地面に叩きつけられた自分自身」――――。
「――――
「――ッ、そういうことか」
最後の振り下ろされる爪については、目の前に氷の分厚い壁を形成することで難を逃れたが、目の前の滅却師が一体何をしていたのか、理解はできないまでも、事実ベースで説明することだけは出来るようになっていた。
再び氷輪丸の翼を身にまとい、地面を凍結。そのまま起き上りながら瞬歩を滑るようにスライドして後方へと退避し、自らの周囲と相手の周囲に何重もの氷の壁を張る。あたかも巨大な迷宮のような様相となった一帯の中で、日番谷は自らの背部、卍解の一部たる氷の花弁を見る。
残り、3枚。
「……タネも仕掛けもないとするなら、アイツの能力は……、テメェの行動から『過程を省略する』。言い方に合わせれば、行動結果が完全に達成された状態までを保証するってところか」
それは、ある意味で未来改変ともまた異なる力。
行動を始める前にそれが「終わっている」と確定することにより、因果関係が逆転し過程そのものを消し飛ばしたうえで結果そのものを現実世界へと上書きする能力。
ブルー個人の完全性を保証していたそれは、いまやブルーの行動結果を「行動を起こす前に」世界へと上書きする能力へと強化されていた。
やってられねぇ、と愚痴る日番谷だが、攻略法が見えていないわけではない。
(遠方でバカスカ、俺の氷の壁を斬りつける音が聞こえる。もしその過程の省略が何でもかんでも好き勝手にできるっていうなら、氷を砕く音は一発のみ。あるいは氷を砕かず、すぐさま俺の近くに瞬間移動とかになるはずだ)
そういったことをせず地道に攻撃しているということは、その能力もまた強すぎるが故の制限があるのだろう。
(トドメをさすようなアイツの一撃。氷の壁を手前に作った時に、俺に刺さらず壁を破壊していたっつーことは……、効果の範囲は、おそらく奴の視界か霊的な索敵範囲に入るか否か)
おそらくは前者だろうとアタリをつけた日番谷だが、同時に苦笑いが浮かぶ。
それはつまり、こちらの攻撃範囲に入った瞬間、イコールで相手もこちらを瞬殺しうる可能性を示唆している。
故にこそ、彼の脳裏には。嫌味のように妖艶に笑う、自らの新たな師匠たる彼女の姿が思い描かれていた。
「ある意味じゃ『動く』ことの究極系みたいなものだな。『止まる』俺とは対極ってことか」
――――あの性格の悪い和尚が、そちをあえて自分より先に妾の元へ差し向けたということは、そちがここで得るものは、天上の羽織物だけではないということ。
――――氷とは何なのか。物体とは何なのか。あちらの洋では四大属性などと分けられてはいるが、妾もあれは嫌いではない。物体が内包する力をどういう形として成しているか、その説明にはとくもってこいじゃ。
――――これからそちが学ぶべきは、世界の細工のこまやかさ。伊達や酔狂で山本
ゾクゾクと、嫌な寒気が走る日番谷。何やらトラウマがあるのか、両手で自分の身体を抱き目を見開いて震える。漫画的なデフォルメ描写が似合いそうな具合であるが、頭を振り我に返る日番谷であった。
立ち上がり、背後の氷輪丸の花弁を一瞥し。
「六方氷晶、積もる過程は時間がかかる。コイツが砕けるまでの時間というのも、そういうことだ。
だが生憎と、今の俺は『原理を理解している』――――」
そして斬魄刀を天上へと向け、霊圧を放ち。吹きすさぶ霊圧は、その全てが一気に水へと変化し、その場からどんどん凍結していく。
あたかも日番谷を中心として覆い隠す様に、徐々に徐々に削れる氷の迷宮を飲み込むように、嵐はドームのような形で凍結していき、その領域を急速に拡大していく。
「大天空千年氷牢――――!」
その遠方で、ひたすらに直線的に壁を「動作せず」削っていた完聖体のブルーは、「うわぁ……」と相変わらずな様子で引いていた。
「あーもう、これだから天才って苦手なんだよなぁ……。確実にこっちに対策してくるし。
というか、アレってもしかしなくても
この際、こっちのスタミナとかは一旦度外視しないと無理だよなぁ…………。ちょっと『隕石だったもの』の霊子借ります、グレミィさん」
右手をかかげるブルー。と、その右腕の爪が「背信の剣」へと形状を変え、周囲から霊子が収束していく。その霊子は漏れなくすべてが銀の血液へとその存在のあり様を変え、徐々に、徐々に巨大な銀の金属球のようなものへと姿を変える。
その大きさが5秒、10秒と経過するごとに、径を倍々に増していき、もはや先ほどのグレミィが落とした隕石に迫ろうかと言う大きさのそれへと変貌。
「
変貌したそれが、ブルーの発言と同時に「氷のドーム」と化したそれを砕き散らして――――――――。
「――――――よぉ、待たせたな優男」
いつの間にか「凍り付いた」銀の金属球の上に立つ、長身のシルエットの誰か。
身に纏っていたあのマントの下には氷のコート、あるいは氷のグローブやブーツのようなもの。身につけたそれらに着られることのない、その黒と白のシルエット。
「……ゴメンねノト君、助ける余裕なかっただけじゃなくて、僕もダメかもしれないよこれ。黒崎一護も降りてきちゃったみたいだし」
現れた