蒼都になったけどバンビちゃんが死ぬほど面倒臭い(※死ぬ) 作:黒兎可
一応、白昼夢は本編につながらない流れの予定・・・
ちょうどブランチの頃合い。米国某所、北アメリカの西側のとある州、とある都市。経済区の中央を流れる大河、それにかかった有名な橋の上で、ブルーは黒いジャケット姿の両腕から爪を展開する。銀色のそれを眼前で交差させ、瞬間「周囲の霊子」を両脚の裏に収束。飛び上がるような動作と同時に、自らの座標を一気に上昇させる。
狙うは橋から見える、ガラス張りのビル。そこに張り付いている「異様に首の長い」死体。垂れた首が周囲を見回し、ひたひたと粘性の音を立ててガラスを登っている様はいっそ醜悪であるが、街ゆく誰しもがその姿を見留めることはない。
急上昇しながらブルーはその爪を使い、慣性と霊圧をもって死体の長い首を「切り裂いた」。
骨のみで繋がる首から漏れる、黒い霞あるいは靄――――。
『――――――――ッ!』
「いくら死なないからとは言ったって、バンビちゃんもジジさんもこれは嫌がるよね」
(というかジジさんの“
相も変わらずどこか平和ボケしたような感性のままに、空中に座標を固定し。ブルーはそのまま死体の腕と足を斬る。部位破壊。ズタズタになった死体は状態を維持できず、そのまま地上へと落下していく。窓に残った手足を見て「うげっ」といいながらも、ブルーは左手に形成した狼の顎のような神聖滅弓より霊圧の弾丸を放ち、それらを消し飛ばしていった。
地面に戻れば、ビクンビクンと震える死体。よく見れば「女装した男性の死体」であったらしく、見た目は中々に壮絶な有様だった。なんなら口の周りに口紅を厚ぼったく塗っており、それが耳まで裂けていると来ている。
そんな死体を前に、赤いブレザーにチェックのミニスカートな少女は「食指も動かねェな」と舌打ち一つ。
「どうすんよ。俺らで殺すと後々問題出ンだろ? 確か。現地の
せめてクソ野郎ォが死んでなきゃなァ、と呟きながら、少女は、リルトット・ランパードは手に持った蛍光色の長い棒キャンディを噛み砕いた。
空中からゆっくり降りて来るブルーは、彼女の言葉が聞こえていたのか「討伐報酬にならないからね」と苦笑い。横に並ぶよう着地すると、そのまま手を翳し「爪が這い出た傷口から」銀色の血液を大量に放出。そのまま血液は、未だ襲い掛かろうと靄をまき散らしながら二人を睨む死体、その全身を包み込み、身動きを封じた。
※ ※ ※
「おっつかれ~! 二人ともごくろ~さま♡ 外食にする? おふろにする? それともぉ……、キャ・ン・ディ・ー・ちゃん?」
「オイ、私の身体のどこ見て言ってやがるジジ? オイちゃんと目をそらさないで言え」
「ぅおぉぉっぱい!」
「上等だコラッ! 正直に言えば何でもかんでも通ると思ったら大間違いだぞコイツッ!」
「収拾つかねェなこりゃ。メシすっか」
「そうだね、リルお姉ちゃん…………」
(リルちゃんにキャンディちゃん差し出しても何もないだろうにジジさんも。それはそうとキャンディちゃんはノーブラタンクトップに超ミニスカート一丁は流石に刺激が強い……)
下から半眼で見上げて来るリルトットに苦笑いを返しつつ、とはいえ内心ではちゃっかりしているブルーは横目で何度もちらちらキャンディスの服装(横乳やら何やら)を見つつ、冷蔵庫の戸を開ける。ブルーが日本びいきなせいか少なくとも肉体的には中華系であるせいか、取り揃えられている食材や調味料も味噌だったり何だったりと比較的和食傾向。
とりあえずこれで良いかな、と肉のパックを開け、パン粉やら卵やらを準備するブルー。
私も手伝うし! とジジを追い掛け回すのに飽きたキャンディスが、ブルーの隣に並んでキッチンに入った。
「もう良いの? 結局最後まで逃げられてたけど」
「ジジの変態のことはどうでも良いしっ! いやこの女所帯の中じゃアンタと一緒で数少ない男だから、別に頼るところはちゃんと頼るからそん時に返してもらえばいいしっ」
「ジジさんは一応女の子だよ。たぶん…………、たぶん」
「全然自信ないじゃんかっ!? 結局今でも、アンタもバンビも狙ってやがるし……」
(それを言うとキャンディちゃんも結構狙われてると思うんだよなぁ……、リルちゃんすら狙ってる節もあるし、無敵かなあの人)
「って、あー、あんまり触ると肉の温度が上がって焼くとき硬くなるから。ちょっと待ってな、冷蔵庫に肉専用に冷やしてある包丁あるし――――」
(うん、キャンディちゃんの手際が尋常じゃない……、それはそうと明らかに僕の視点を見て「あえて」やってるな? 角度的にモロなんですけど……)
外見上はわずかに顔を赤くしながら視線を逸らし、実態はかなりガッツリとキャンディスの諸々を脳に焼き付けているブルーは、相変わらずと言えば相変わらずであった。。
ブレザーを脱いだリルトットは、ノースリーブのハイネックな恰好のまま「なんかアニメ以外に良い番組やってねーか?」と大型の液晶テレビを弄る。それを見てジジは「あっ! じゃあ映画見ようよチャンネルそっちのやつ、今日はゾンビ特集なんだ!」などと宣う。それで食欲湧くのはオメーくらいなもんだと注意しつつ、ジジが差し出した蛍光色なベーコンがごときガムを「口を物理的に伸ばして」食らいついた。
さて。手際よく肉を油に通すブルーとキャンディス。と、ブルーはキャンディスの方を見る。
一瞬固まったキャンディスは、何故か頬を赤らめながら視線を逸らし横髪の毛先を弄っているが、そんな彼女の乙女らしい仕草は完全に
「え? ば、バンビ? あー、まだだな。大学の方が終わってないんじゃないか?」
「ミニーちゃんは僕たちと別な方のゾンビの方に行ってるとして、バンビちゃんまだ終わってないのは不思議……? 友達できたのかな」
「バンビに限ってそりゃねーだろ。…………浮気でもしてんじゃない?」
「それこそ、まあ、一応ないかなぁ……。『現世で殺したら捕まる』って身に染みて理解しただろうし、バンビお姉ちゃんも」
5人の滅却師、バンビーズ。ブルーに加えた彼女たちは、現在現世で共同生活をしている。
尸魂界での大いなる戦いにより、世界の軛が変わった事件。必然的に滅却師はその立場を大いに悪くし、取りこぼされた命も数知れず。
そんな中、それこそ
代償としてブルーを除いた面々の、力の半分以上が削がれる結果となったが、それも些細な事。命あっての物種とは言うが、とにもかくにも現在彼女たちはその拠点を北米に移し、現地の「生と死のバランサー」たちと協力して生計を立てていた。
まあ、おおよそ中間マージンは浦原喜助によって徴収されていたり、彼からけったいな仕事を回されて日本に向かい黒崎一護たちとなんやかんやあったりもするが、それはそれ、これはこれ。
平日、唯一何故かバンビエッタのみ本人の希望で大学に通っており、そんな訳で彼女の学校が近いここが現在の拠点となっているのだった。
「さて、出来たね。味は…………、ん! 美味しい」
「よく
「個人的には中濃ソースの方が好きだけど、輸入だと今ちょっと高めだから」
「あー、私ああいうドロっとしたやつちょっと苦手だわ。全然食えるけど、もっとシャバシャバしてる奴の方が好み。ジジもリルも何でも食べるし、ミニーは間違いなくアンタに媚びるから味の好みも一緒だろうけど。
バンビは…………」
「マヨだね」
「これだけバンビ禁制で日本製なんだよなぁ……。材料的に手作りすりゃいいじゃんかっ」
いやでも絶対美味しいし、と擁護に回るブルー。こればかりは呆れるキャンディスに対してバンビエッタの肩を持つあたり、日本人の魂に刻まれたマヨネーズはあまりにも重いらしい。
現世で生活するようになり、北米に来るまでの数週間、日本の浦原商店に世話になった彼女たち。特に(前世的な意味で)日本びいきだったブルーの影響もあり、色々と食事を試した結果、見事にマヨラーの片鱗を発動し始めたのがバンビエッタであった。
マヨ丼に始まりマヨ鍋、マヨ炊き込みご飯、流石にソフトクリームの上からマヨをかけようとしたのは、ブルーが珍しくキスで黙らせて阻止したりと言った一幕もあったが……。現在多少落ち着きを見せたものの、値段などお構いなしにマヨネーズのみは日本製で高かろうと何だろうと問答無用に買い物かごに放り込むバンビエッタであった。
曰く。
『買って買って! もう最高だもの、絶対絶対よ? こんな素晴らしいものがなんで騎士団になかったのかしら、騎士団負けた理由ってこれのせいじゃない? マヨマヨ、というか食文化ようん! つまりマヨがあれば私たちは最強ってこと! 色も白っぽいし――――はむ!?』
(うんちょっと何言ってるかわからないからキスで黙らせとこう)
なお直後、嫉妬に燃えたミニーニャに引きはがされたのは言うまでもないが、そのあたりは割愛。
ともあれ、配膳された豚カツと山のように盛られた千切りキャベツを前に「わお、ブルー手作りとか戦争起きちゃうんじゃない……?」などと笑いながらも若干頬を引きつらせるジジ。問答無用で口を伸ばして一つ咥えようとするリルトットのそれを、ブルーが軽く弾いて「はい、あーん」とキャベツの芯を食べさせた。
「肉食わせろよ前髪野郎ォ」
「パンの準備くらいしてからね。というよりリルお姉ちゃん、野菜もちゃんと食べないと駄目だよ? 義骸の効果で
「そんときゃそん時だっつーの。医療費くらいはあっちで負担すンだろォが」
「それでもあんまり借りを作りすぎると、何か変な薬でも仕込まれない? あのピエロみたいな隊長さんとかがしゃしゃり出て来て、うん。
――――あんまり聞分け悪いとキスするから」
「ミ゛!?」
伸ばした口を軽く手で掴み、唇の先を人差し指で撫でるブルー。色々あったせいか最近ようやくバンビエッタやミニーニャ相手に自分から攻めることを覚えたブルーのその発言は、中々にリルトットにとって脅迫になる文言であった。なにせ何をしても死なない相手から貞操を狙われるのだ、冗談半分でも笑えない。
なおジジが「きゅぴーん☆」などと宣い目をキラキラさせながら涎を拭き、キャンディスが「は、はァ!? ちょっ、何でそっちに回るしっ!」とちらちら見ながら頬を赤くしている。前者はともかく後者は後者で果たしてどう言った感情からか。
一気に大人しくなり口を戻すリルトット。両手で口を覆いながら若干顔を赤くしつつ「生意気言いやがって色ボケ野郎ォが」と、どんな感情からかブツブツ文句を言いつつ足をじたばたさせる。見た目だけで言えば少女のようで愛らしいが、とはいえこれ以上揶揄うと頭からガブっといかれそうだと、それ以上は自重するブルーであった。
と、入り口が開錠され扉が開く。
「――――ただいま! 元気してた? 私がいなくて寂しかった? ブルー、キャンディ、ジジ、ミニー、リル! お待ちかねのあたし、バンビエッタ・バスターバインちゃんよ!」
「馬鹿言ってると三枚に下ろすぞ小鹿女ァ!!!」
「いきなりそんな冗談じゃない目でツンケンするのは禁止よリル!? バンビエッタちゃんが泣いちゃうじゃない、もっとバンビエッタちゃんみたいな優性人種は保護法で皆して護ってあげないといけないんだからねっ!」
そして登場早々にテンションの高いバンビエッタだったが、イライラしているリルトットに煽られてすぐさま涙目になった。あっという間にブルーの背後に隠れる彼女だったが「何かあったのかしら?」と聞いてくるバンビエッタ。なお服装はかつて矢胴丸リサが着用していたセーラー服と同型のものであり、色々と女子的防御力が低く女子的攻撃力が高い仕上がりである(意味不明)。
「つまみ食い妨害したから、それかな? うん。あー、ミニーちゃん用に何枚か取っておかないと…………って、バンビちゃん動きにくいから」
「えぇ~、いいじゃないそんな面倒なの。キャンディとかジジにでもさせといて、私たちは部屋行きましょ? ねぇねぇ~」
(う~ん腕周りが大変柔らかくて気持ち良いけどこのナチュラルクズ発言よ。……うん。まあ何か「その気」マンマンだなぁ)
ともあれベタベタしているバンビエッタが、ブルーの腕を胸で挟みながらぐいぐいと部屋に引っ張る姿を見て、キャンディスが「オイ性欲に支配されすぎでしょバンビさぁ……」と呆れ。
直後扉を「もぎり」ながら現れた怒髪天のミニーニャが「今日は私の番なのに何をするつもりなのかしらバンビエッタちゃんは~~~~ちゃんは~~~~(激怒)」と壮絶なオーラを漂わせていた。
「――――っ」
そして、ブルーは意識を取り戻した。
取り戻しはしたが、それだけだ。
(…………、幽体離脱? 死んでるのに幽体離脱とは、これはいかに)
場所は先ほど、日番谷冬獅郎と戦闘していたところだと予想できる。多分そうだろうとしか言いようがないのは、辺り一面全てが氷漬けにされており、それこそ原形をとどめていないからだ。
戦闘中に氷で足場を作るようなこともなく、ただひたすらに密度を高めて凍結された瀞霊廷は、むしろいっそ滅却師的な美的感覚に沿う様な状況であろう。
――――その足場と言うべき場所の底で、ブルーの肉体が氷漬けにされていなければ。
厳密に言えば「復活していない」以上、ブルーの肉体は氷漬けではないのだろう。辛うじて生きているというか、おそらく体表面、呼吸器など含めた外界とに貫通して入れう箇所まで含めて、かろうじて生きている状態になるよう「計算づくで」氷に覆われているに違いない。
周囲を構成する霊子を再収束する余裕もない――おそらく肉体がそれを為せるだけの思考を取り戻せていない。
にもかかわらず「再定義」されて復活していないのだから、改めて敵の規格外さというものをブルーは思い知った。
(とはいえ今の何だろう、白昼夢? ……、うーん、いまいち何だったのかわからないけど、そこまでご都合主義は起こらないよね。陛下が陛下だし)
足元の先、わずかに「背信の剣」らしきシルエットが伸びているのが見える自らの肉体を見下ろし、ブルーはつい先ほどに垣間見た「幸福な未来予想図」のようなものに想いを馳せる。
(バンビちゃんたちの霊圧は……、ダメだ感じ取れないや。身体の方が機能しないから、結果的にそっちの能力も抑えられてるって感じかな?
ってことは今の僕は、魂魄核みたいなものなのだろうか。……死んで魂になってるのにさらに魂が抜けるとは、これはいかに)
いまいちソウルソウルした理屈がよくわからないブルーであったが、それでも思考するのは止めない。自分の絶対性に対する自信からか、あるいはそれ以外の理由からか。どちらにせよブルーの思考は異様なまでにフラットで、クリアなままだった。
まだしも、バンビエッタから行為中に爆殺された方が動揺しているくらいである。
まだしもリルトットから「オメーの肉、美味いな」と言われる方が動揺するだろう。
(リルちゃんと言えば、ブレザー服可愛かったな。普通に似合ってたし。逆にバンビちゃんのセーラー服は、ああいう感じのだとコスプレ感が出てそのテのお店っぽいし……、妄想とは言えもうちょっとセンス拘れなかったのかな? 僕)
なおジジは浴衣姿、キャンディスはアメスクベース、ミニーニャはパーティードレス姿という訳の分からなさである。まだしも水着姿の方が公式資料(?)があるだろうしネタとしても美味しいだろうに、とセルフでツッコミを入れていた。
(バンビちゃん達の方に行きたいけど、この場から動けないっぽいし。多分これは肉体……、肉体? まあ肉体に縛られてるってことなんだろうな。まあ「死にはしていない」だろうから後々のことは大丈夫だろうけど、これは……、本格的に陛下頼みか?)
両手を合わせてあらぬ方角にナンマイダブナンマイダブと滅却師がやってはいけなさそうな挙措を見せるブルー。そんな彼に、くくく、と何かをこらえるような笑い声がかけられた。
はっとした顔で後ろを振り向いたブルー。そこには…………。
『く、くく…………、いや流石にもっと祈るにしても、ポーズというものがあるだろう? モノマネに対する陛下のリアクションからして、視られていたら笑われるじゃないか! くく……』
(なーんみょーほーれんげーきょー)
『だからっ! 君の宗教観はしっちゃかめっちゃかだな……、というより未知の相手を前に一切物おじせずふざけるか? 普通。
いやそれくらい傲慢だからこそ、あのクソ女から虐待されようと、そのまま育つことが出来たんだろうが』
(まあバンビちゃん、身体は良いから)
『限度というものがあるだろう、限度というものが』
(そう言えば前に赤ちゃんプレイしようとか言い出して、僕を抱えようとして重いから嫌って言って胸と頭だけざんばらりと切り離されたことあったなぁ……。またがってアンアン言いながら僕には「吸いなさい!」ってやってきてるし、頭バンビちゃんの思考回路は謎が多い……)
『そういう一言で済まして良いわけないだろう!? というかその身体をもっと大事にしてくれないかなぁ! 大丈夫だよな、どっか不具合起きてないよな!!?』
(たまに味覚無くなる時あるけど、リルちゃんがレバーとか持ってきてくれるから大丈夫)
『ヤりすぎだ馬鹿がァ!!? ブホッ……!!?!』
白いローブ姿の誰か――――全身が透けている彼は、苦言を呈すようにブルーに物を言い。しかし笑いまでは隠しきれず、あわれ暴走するブルーに負けて(?)絶叫しもだえ苦しみ、頭にかかっていたフードが落ちた。
そして、その顔を見てブルーは目を見開く。
(君は…………、僕!? えっどういうこと?)
『嗚呼、そうだな。こうして対面するのは初めてになるか』
驚きのあまりそれ以上のコメントが出てこないブルーを前に、彼は、ブルーと全く同じ容姿をした青年は…………、目つきだけはブルーの苛立ちが頂点に至った時のみにみられる狐のごとき鋭い視線の彼は、口元の傷をさすってから肩をすくめた。
『初めまして、“
僕は――――“
そして、眼前の相手に突き付けられた言葉に、ブルーは――――。
(―――― …………あっ、蒼都ってそうか、僕の名前か)
『………………嗚呼、
お気の毒に……』
本人は何故か知らないが、とても可哀想なものを見るような目を向けられた。