蒼都になったけどバンビちゃんが死ぬほど面倒臭い(※死ぬ) 作:黒兎可
今回もダイス荒ぶりまくった独自設定注意
少し落ち込む
ブルーがそのことを不思議に思っていると、察したのか相手は肩をすくめる。
『繰り返すが、僕は死んでいるんだ。今その身体を使っている……、使って……、あぁ使っているのは君自身なのだから、持ち主として思う所はある。あるけれど、それはそれ、これはこれだ』
『どういうこと?』
『繰り返すが、
『いつのことだっけ……?』
完全に思い出せないであるからして、おそらく幼少期の頃の記憶だろうか。もっともブルー本人とは対照的に、蒼都はその事柄は非常によく覚えているらしい。
蒼都は、労わるような優し気な目でブルーを見る。……もっとも目つきの鋭さは変らないので、気持ち優し気に見える程度であるが。
『君に僕としての記憶がほとんど無いのは当然だ。これも繰り返すが、僕には耐えられなかった。あんなこと、決して耐えられるようなことじゃなかった。だからこそ、その状態から逃げ出すために僕が身代わりを求めてしまった。身代わりとして、都合が良い存在として作り出してしまったのが君だ。きっとそれが君なんだ。
そんな君だからこそ……、最後までそれでも生き延びた心だからこそ、君はその僕の身体を使う権利があると思っている。僕が何かを為そうとして、結局何も為せず、のうのうとこうして生き延びてしまったからこそ。それは罪がない君が背負うべきことじゃない。
『えっと……? えっと、えと、身体を取り返すつもりはないってこと?』
『というより、自分が自分の身体を使っていることに何か言う様な話でもない。
僕個人は、自分の甘い考えで、家族をより酷い目に遭わせてしまった。だとするならこの先何をしたところで、状況諸々を好転させることが出来るとはとても思えない』
端的に言って生きる意味をあまり見いだせないんだ、と蒼都は語る。
そして続けようとして、その表情が引きつった。
『とはいえ……、まさかあのバンビエッタ・バスターバインのクソ女と
『つがう?』
『少なくとも肉体的に
『貢献とか言わないで』
(なんか随分古い言い回しするなぁ……。それはそうと、バンビちゃんが僕以外に自重してたのは陛下的には痛しかゆしだったんじゃないかな、って、いやそもそもバンビちゃんが本来騎士団で殺しまくる人数とか知る訳ないから、別に何とも思ってなかったかな?)
原作バンビエッタのようにサンドバッグが存在しない状態で、彼女が何一つ自重できると思っていないブルーである。実際問題、全く信用のないバンビエッタであった。否、頭バンビエッタなことに関してだけは過度過剰なまでの信頼を得ている彼女であった。
クソ女呼びを訂正していない時点で色々とお察しである。
『性格的には悪食女の方がまだマシだろうに、君もまた難儀な……』
『悪食ってリルお姉ちゃん? バンビちゃんもだけど、一体何があったのさ』
『聖文字を頂いた後での実質初対面の際に「鉄は
(目つきだいぶアレなことになってるの、気にしてるんだ……)
『クソ女に関してもだ。初対面で「あなたの
ジゼル・ジュエルの協力がなければ生き残れすらしなかった。こうして君が生まれることすらなかったろう』
『バンビちゃんはさぁ………………』
(残念でもなく当然の扱い……って、あれ?
そうするとつまり回り回って、つまりつまり、ジジさんは僕のママだった…………?)
そもそもブルー、憑依系転生者である。だいぶ錯乱が極まってきているが、実際のところ蒼都から見たブルーという観点で言うと、あながち間違いでもなさそうに聞こえなくもないような、そうでもないような、気のせいのような……。
もっともその場合、父親は蒼都となってしまうので、流石に空気を読んでそんな妄言を吐くことはしないブルーである。
『そのバンビエッタを相手に、当時の僕よりよほど過酷な生活に晒されて、本当に…………』
『心の底から同情するの止めてってば。えっとえっと、ほら! バンビちゃん可愛い所もあるし!』
『臆病で排他的で短気で攻撃的で享楽的で刹那的で悲観的で、それでいて自分が行った結果に対して正当な価値観で評価することが出来るが故に周囲からの悪感情を正しく理解し、そのせいでさらに臆病さや排他性などの性格的悪性に磨きがかかるデフレスパイラルの部分か? 自業自得というか、どういう生れ育ちをすればあそこまで七面倒くさい奈落に落ちるんだ』
『言い方、言い方』
(流石に僕をずっと見ていただけあってか分析が細かい……)
蒼都、ブルーに本気で同情しているのか物言いに容赦の「よ」の字もなかった。
『でもほら、弱々の時のバンビちゃん可愛いでしょ? 素直に甘えて来るのとかさ。
帝国来る前に何かあったみたいだし、多分本当はもっと普通におしとやかって言うか、もうちょっとナヨナヨした感じのお姉さんだったんじゃないかなって。だから素を出せるって思ってくれてるとか、嬉しいし、甘えて来るのは普通に可愛――』
『本当は君の方が誰かに甘えたいのに、甘やかす側に回らざるをえないことについて何か? それについてはまだミニーニャ・マカロンの方がふわふわしてマシだろうが』
『――あ、あはは…………』
『実際、一番懐いているのが悪食女であるのはそれが理由だろう? 何だかんだ言って面倒見が良いのは、まあ、認めなくもない』
『リルお姉ちゃん、甘えすぎると背中蹴っ飛ばして自分で立てって言ってきそうだけどね』
とはいえ悪食呼びを改めるつもりがない当たり、蒼都も蒼都で思う所は多すぎるらしい。
『そもそも自分からほとんど甘えないだろうに、君は』
『いやだって、リルお姉ちゃんはグレミィさんのだし、そういうのはちょっと……』
『…………』
『?』
『…………もっと情緒的な話のつもりで振ったんだが、何でもかんでもすぐ性的な話に結び付けてしまうように育ったのはやはりクソ女のせいか……?』
(あっ、迂闊! だったけどセーフ……? いやセーフになってる時点で、バンビちゃんェ……)
ブルーのちゃっかりしているところをいかんなく発揮した発言であったが、上手い事育ちの悪さ(?)に起因する誤解で事なきを得てしまった。もはやどうしようもないかもしれない。
実際、彼から見たブルーというのは、そもそも幼少期にバンビエッタから(性的に)虐待されかかったように見えている。この扱いの悪さも、さもありなんといったところか。
ちらりとブルーを見て、目を伏せ、頭を左右に振る蒼都。
惨い有様となった遺体を見たかのような、切なさといたましさを感じる表情である。
『……………………』
『だから本気で同情しないでってば! バンビちゃんも頭バンビちゃんでさえなければ、ね?』
『前提を完全に捨て去ることで心を守るのは止めた方が良いからな? ついでだ、その頭バンビエッタな性格せいで最終的に自分が膨大な数死んでることについてどう思ってるのか、この際だから言って見せろブルー』
『辛いけど』
『即答するのに何故庇う!? いや本気で意味が分からないッ!!?』
あっさり白状するブルーに、ずっこけるような形でツッコミを入れる蒼都。
何を当たり前のことをと言わんばかりにきょとんとしたブルーの顔が拍車をかける。
状況はある意味地獄の様相を呈していた。
なお苦笑いするブルーの内心はといえば。
(辛いのは隠してることじゃないからなぁ……。
それに、
口に出せば、蒼都が背中に宇宙を背負って呆然としかねないような爆弾であった。
その後しばらく話し合い、蒼都は匙を投げた。
いや、匙を投げたというよりもブルーがそんな精神性になってしまった原因に思い当たり、何も言えなくなってしまった。ブルー自身の物言いの端々に隠れた事実を、何度も何度もブルーとともにバンビエッタについて話し合い続けることで気付いてしまったという方が正解か。
『…………痛いということを忘れ去ることに関してだけ、特化した形になってしまったということか』
『? 何の話?』
『いや、何でもない。……もとはと言えば僕の罪か』
不思議そうにしているブルーに対して直接言及はせず、蒼都はため息をついた。あくまで彼の分析ではあるが、今日こうして直接話したことで目の前の「青年のような幼児」への理解が深まった。だからといって納得はできないが、それは自分が言っていい程に軽い事ではないのだろう。
蒼都は、ブルーに対して一つ嘘を言っている。
彼の「本当の」理解では、ブルーと強制的に名付けられた存在は自分から分裂した人格ではない。
それはつまり肉体の――――おそらく「本来肉体に宿っていた」、当時三歳から六歳までを奪われた、「本来の時系列の」蒼都自身だと思っている。
拷問のような激痛に耐えられず、肉体の支配権を手放したが故に。本来幼児であった自分自身の人格というのは、否応にでも表に引きずり出され、結果完膚なきまでにすり潰され砕かれた。
それでも、それでもなお生きたいと願ったが故にか。何かしらが魂に宿り、「銀の蒸着」のような奇妙な能力がその身に宿ったのだと考えている。
故にこそ、その人格は再構成されて育ったものだと思っていたが、なんてことはない。
再構成されていない――――抜け落ちた箇所がずっと存在しているのだ。
おそらくそれは、蒼都自身が逃げ出したあの日の、自身が解体されるかのような情景。
そこを忘却するために自分自身を壊したままにしているが故に、それに紐づくありとあらゆる痛みがそこに引きずり込まれ、結果として「本当の意味で」辛いという心を継続できない。
継続するための素地が、初めから存在していない。
それは、嗚呼、そうしてしまった自分というのは……何と罪深いことか。
『どちらにせよ、僕の振る舞いは変わりないが』
だからこそ、
彼がより酷い目に遭わせてしまった家族というのに…………、
本来なら潰えていた命が、消えてしまっていたはずの只の幼子が、辛うじてでも幸せそうに過ごしている日々の嗚呼なんと尊い事か。
そのために裏側に回れと言われるのなら、罪滅ぼしにもなるまいが喜んで手を差し伸べようではないか。
…………よくよく考えると二重三重の意味で若干
ブルー本人もうっすら気づいてはいるが、憑依した時点で彼は間違いなく、逆行した蒼都が逃げ出した「自身が解体されるような惨状」とやらを味わいつくしている。
故に前提こそ間違ってはいるが、分析そのものは正しいという奇妙な状態なのである。バグか何かで?
そして分析したからこそ、蒼都はなおのことその事実を指摘できない。自身の罪に向き合う勇気がない程度には、彼もまた人間であった。
そしてニュアンスは異なるが、ブルーもブルーで話していて気づいたことがあった。
『ねえ、ジ・アイア…………って、えっと、面倒だな。ツァンって呼んで良い?』
『構わないよ。僕もブルーって呼んでいるのだし』
『ツァンってさ……、語り口が妙に実感籠ってたから思ったんだけど、もしかして僕と肉体の感覚とかって共有されてたりする?』
ぴしり、と。ブルーの一言に、蒼都は身体を震わせて固まった。
あっ、と何かを察したブルー。そうなってくると、先ほどの発言に少々違った意味が出て来る言い回しがあったような、無かったような。
『ミニーちゃん、ふわふわ』
『…………』
『そっかー。まあ……、腕とかムキムキな感じでヤる気になってないと、フワフワして気持ち良いよね。ミニーちゃんって』
生暖かい目で見つめるブルーに、蒼都はバツが悪そうに視線を逸らす。
なるほど、それならバンビエッタに対しての当たりが強すぎる理由にも納得が上乗せされる。ブルーが味わっていた痛覚すら味わい通しなので有れば、気が狂っても彼女を好むことはあるまい。
彼女に比べればミニーニャ・マカロンのなんと献身的なことか。よく無断でスケープゴートに利用されたりもするが、少なくとも1週間で両手両足の指の数を超える程に殺してくるようなことも無い。幼少期から(?)の付き合いなこともあり、そう言う意味でも気安さはある。
そして何より。
『バンビちゃんより好みの
『…………フッ』
確認するブルーを鼻で笑い、腕を組み、蒼都はブルーを見て不敵に笑った。
『そうだとして何か問題でもあるか?』
『無いけど開き直ったね、ツァンってば……』
『君に言う事ではないのだろうが…………、これくらいの役得がなければやってられないよ、本当に』
(なんだか僕みたいなこと考えてるなあ、オリジナルっぽいこの人………………)
実の所、蒼都がブルーを自分自身だと判断してる根拠の一つにそういった「ちゃっかりした性格」があるのは、否定できない事実であった。
当然、リルトットに食指が動かないのも同様である。聞かれれば「色ボケ野郎ォ共が」と呆れられること必至な話だった。
※ ※ ※
色々と恥もかき捨てな風になった二人であったが、改めてブルーから「どうして出て来てこうして僕とおしゃべりしてるの?」と聞かれた蒼都は、苦笑いを浮かべて「あー」と困ったような声を上げた。
『出て来たというより、本当はいつもすぐ傍にいるんだ。いや、傍というか真上というか俯瞰しているというか……』
『よくわかんないよ』
『済まない、語彙に存在しない。ただ、いつもは君が僕と同じところまで出て来る前にすぐ「戻ってしまう」から、というだけの話だ。
それだけ陛下から与えられた“
『うん、それはそう』
自身の不死身性に関してはいっそ傲慢なほどの信頼があるブルーは、何度も何度も首肯した。
『だからこう、せっかく対面できたのだしちゃんと話をしてみようかと思ったんだ。曲がりなりにも、僕同士なのだから』
『リルお姉ちゃんが聞いたら「気でも違ったか?」って言われそうなフレーズだよね、僕同士なんだからって』
『事実なのがまた頭の痛い話だ。……だけど、ちゃんと話せてよかったよ。こんな機会滅多にないだろうし』
『それは、まあ、そうかも? うん。――――
『…………ッ、そうか、そうだよな』
ブルーの言葉に、どこか眩しそうに目を細める蒼都。繰り返すが目つき自体は変らないので、比較的やわらかな感じになっているだけである。
そんな彼に、ブルーは空を見上げて「陛下、中々助けてくれないよな~」とぶつぶつという。蒼都はそんな彼に、肩をすくめて言った。
『まあ、約束は守ってもらえるだろうさ。陛下は嘘をつかないお方だ――――バンビエッタ・バスターバインが死んだ場合、何が何でも生き返らせてくれという願いは』
彼の言葉に、ブルーはブルーでアハハと少し力の抜けた笑みを浮かべる。
ブルーがハッシュヴァルトおよびユーハバッハと共に、エス・ノトを現世へ回収しに行った際にした約束というのが、それだ。
『だって、ジジさんのバンビちゃんへの憎悪? 嫌悪? ん~、交じりに混じって愛情とか性欲とか色々ありそうだけど、そういうのって絶対どうにも出来ないと思うんだ。執着強すぎて、絶対バンビちゃんぶっ殺されると思う(※原作的にも)。
そしたら、もう僕たちだけじゃどうしようもないじゃん。
僕、こうやって囚われるつもりはなかったけど
『氷輪丸か。僕の時は手加減どころの話ですらなかったということだな。つくずく相性が悪い……。
…… 一応聞いておくけれどもブルー、君があのクソ女に対してジゼル・ジュエルのようなことを思わない方がどうかしているという自覚はあるか?』
『バンビちゃんの性格が終わってることと、バンビちゃんの性格が可愛いことって別に矛盾はしないから』
『懐が深い、いや、切り分けが上手すぎて『諦める』部分を容赦なく捨てているということか……』
一瞬悲痛な顔になる蒼都だったが、咳払いをして調子を戻す。
『それで、彼にゾンビにされ嬲られるのは回避できると?』
『いや、それは無理』
『何故断言できるんだ』
『陛下って割と僕たちに興味全然ないから、物のついでくらいだと思うし。たぶん何かの拍子に、ついでって感じでゾンビ化した状態から生き返らせるだけだと思う』
『…………そうやって見切っている君が、ある意味一番恐ろしいよ』
だけどね、と蒼都はブルーの顔を鋭い視線で見つめる。
それに応じて、ブルーは気の抜けた目を長い前髪越しに向ける。
両者の視線が重なり……、そして蒼都は告げる。
『だけれども…………、陛下の視野はそれこそ神のものだ。君が言った通り、なるほど僕らに興味など本当はもはやないのかもしれない。
だがそうだからこそ、君は見落としているのかもしれない』
『何を?』
『――――
『――――えっ?』
蒼都の、ブルーにこれから自身の考えの詳細を告げようとする言い回しは、しかしその場で上空に立ち上がった光の柱によって妨害を受ける。
迸る光は天上から降り注ぐ何かしらであり、それを受けたブルーは「奪われることなく」、しかし同時にその全身を完聖体へと変容させ、急激に変化した質量に氷が耐えられず崩壊。
全体にひびが入り、彼の意識は肉体へと戻り――――。
「…………あれ? ミニーちゃん……?」
感じ取ることのできない霊圧は、1つ、2つ。
その場にて感じ取ったバンビエッタの霊圧よりも、感じ取れない誰かの方へと、ブルーの意識はそちらに引っ張られることになった。