蒼都になったけどバンビちゃんが死ぬほど面倒臭い(※死ぬ) 作:黒兎可
大体ダイスの出目が悪い…
掲げよ、我が内より。
銀の紋章。
灰色の草原。
光に埋もれた、円環の途。
瑪瑙の眼球。
黄金の舌。
頭蓋の盃。
アドナイェウスの棺。
掲げるものは――――――――。
――――
※ ※ ※
それは、黒崎一護が死神としての力を取り戻してからの、いつかの過日。
ベレニケ・ガヴリエリは当たり前のように
なお闘技場では、
なお、道中で「首、手首、足首を銀の枷と鎖で縛られた」「片目の隠れた」背の低い少女の滅却師とすれ違うベレニケ。リルトットと同じくらい低身長な彼女。見覚えがないなと思いちらりと見れば、その彼女がどこからか取り出したローブを被り、頭部を起点として見慣れた異形のシルエットへと変化したことにぎょっとする。ジェラルド同様のユーハバッハ親衛隊、謎の滅却師ことペルニダ・パルンカジャスそのものであったらしい。「女性だった……? いや、それにしてはたまに聞こえる声が……」と冷汗を流しながら、ベレニケはとある一室の戸を開け。
そして部屋のベッドに座っている彼へ向けて、大声で笑いかけた。
「やあ、ブルー!
「あっベレニケさん! はい、ありがとうございます!」
ブルー・ビジネスシティこと
両者ともに、この時点においても関係は良好。霊的には少年というより青年と言って問題ないように育ったように見えるブルーの、幼い反応にも特に何か異議を唱えることはしない。幼少期から変わらず、多少は話す面白いお兄さん(※自称)のポジションを崩すことはない彼であった。
なお、そんな彼はひとしきりブルーと笑い合い、深呼吸をしてから現実と向き合うことにしたらしい。
視線をベッドの上、というよりブルーの膝の上へと向ければ――――。
「……で、何……だい…………? 修羅場か何かかい? 僕には今にも爆発寸前のアトミックボムを解体もせずに放置して遊んでいるようにしか見えないが……ッ」
「いやこれは、ジジさんが…………」
「だってだって! バンビちゃんばっかり狡いもーん! ボクだってブルーと膝枕し合いたいし、バンビちゃんとも膝枕し合いたいもーん!」
「…………」
端的に表現すれば膝枕。ダブル膝枕とでも言うべきか。
ブルーの左ももの上に頭を乗せ仰向けになっているのは、バンビエッタ・バスターバイン。相も変わらず少女然とした愛らしい顔立ちは、その眉間に皺が寄り口の端がひくひくと引きつっている。目を閉じ、何かを考えていると言うよりはこらえて居るというようにも見えなくはないかもしれない。とはいえ腕を組み足を投げ出す彼女は、ブーツもソックスもはいておらず上着のボタンも2つ目まで外れており、完全に彼氏の部屋でくつろぐ彼女のごとき気安さを発揮している。
そして反対に、ブルーの右ももの上に頭を乗せ自身の左側をベッドに傾けるは、ジゼル・ジュエル。ブルーの太ももを甘えるように指でなぞり、ニコニコしながら少し嫌らしい目をバンビエッタに向けていた。なおこちらの恰好は特に普段と変わらず、ブーツも脱いでいない豪胆ぶりである。
なるほど、とベレニケは肩をすくめる。
「わからないなりに判った。藪蛇というやつだね!」
「そうですね~、たぶん……」
「ま、つついて出てくるのはバンビちゃんだけだもんね~」
「……うっさいわねジジ、全員爆発させるわよ?」
「うぉ~う怖い!」
「僕だけ被害が洒落にならないのだがッッッ!!!!!」
(何でジジさんこう地雷原の上でコサックダンス踊るみたいな変な遊びしてるんだろう。……タップダンス?)
表現はともかく、どちらにせよ危ないことに変わりはあるまい。
腕を組んだままバンビエッタは、睨むようにベレニケを見下ろすように見上げる。……仰向けな彼女からみて足の下の方にベレニケが立っているため位置関係的には見下ろすような形になっているだけなのだが、実際その不機嫌さが乗った剣呑な視線に、ベレニケは1歩と言わず3歩4歩引いた。
あはは、と困ったように微笑みながらバンビエッタの頭を撫でるブルー。怖いもの知らずというか、ベレニケには猛獣使いのような何かに見えたとか何とか。妥当な評価である。
さて。バンビエッタの半眼に耐えられなくなったベレニケのアイコンタクトを受けて、ブルーはバンビエッタの頬をつつく。……何故この状況のとりなしを頼んだ結果いちゃつかれるのか不明ではあったが、くすぐったそうに「やん! もぅ……」と声を上げるバンビエッタという恐怖映像を乗り越えて、多少は殺気の失せた表情になった彼女のコメントに応じることになった。
「で、何しに来たのよ。死にたいの?」
「せめて! せめてもうちょっと同期に対する親愛の情みたいなものはないのかな君はッ!?」
「ハッ」
「鼻で笑われた、だと……?」
「リルがいたら『期待する相手間違ってるだろォが』って言うよね~」
「ちょっとジジ、どういう意味! ことと次第によっては、いくらあたしでも我慢の限界ってものがあるわよ!?」
「我慢?」
「我慢……だと?」
「あー、あはは…………(ジジさんは意外と
「ブルー、聞こえてるわよ。……うん、よし」
「ちょっと待って僕が悪かったからいきなり人のベルトとチャックに手をかけるの止めてくれないかな!?」
「バンビちゃん、大・胆…………」
「なるほど、地獄とはこの場にこそあったと言う訳か……。異議のさしはさみようもないね!」
悲鳴を上げるベレニケに、愕然としたようなジジ。対してバンビエッタは真顔でブルーの
「バンビちゃんたちは――――」
「どうでも良いけどあなた、リルのより私の方がお姉ちゃんって呼ぶ回数少なくない? 私の方がしっかりお世話してるしおっぱい大きいのに何? 何なの?」
「いや、バンビちゃんどうどう……。
「そう。…………、ん、うん。そういうことなら、良いわよ?」
「(僕は一体何を見せつけられてるんだ……?)」
話が全く進まないね!
さておき。
「バンビちゃんたちって、ベレニケさんもだけど皆、配下にいる聖兵どうやって運用してるのかなって。ほら、キャンディちゃんみたいに目撃しているわけじゃないし……」
ブルーとしての本題はそれらしい。つまり、まともに部下を持ったことがないからどう運用したら良いか勝手がわからない、ということ。参考になればということで各人に意見を聞きたいのである。
聖十字騎士団でもとりわけ
とはいえ普段からきゃっきゃうふふとじゃれ合ってる(?)いつものバンビーズたちをふまえてみても、そういった部下たちなどをあまり見た覚えがないブルー。だからこその確認であったのだが、そんな彼の言葉に顔を見合わせる三人であった。
何か変なことを聞いたかと不思議そうにしていると、「あのね?」と彼を見上げながらバンビエッタが少しだけ優しげに言った。……なおその「優しげ」な雰囲気にジゼル・ジュエルが白目を剥いているが、そんなことは誰も触れない。
「リルから教わらなかったかしら。あのね? 聖章騎士ってほとんどの場合、
「えっと……、ん?」
「つまり、あたしみたいに超天才的な攻撃力持ってると危なっかしいから、こっちとは全然別に独立して動けるようにしてるってこと! ミニーでさえ『ぶん殴った余波で骨折させたことあるの』とか言ってるし」
「へ、へぇ……」
(言われてみると、キルゲさんは結構部隊率いてるイメージがあるかな? うん。つまりそういうことか……)
常日頃のバンビエッタの全体攻撃具合を鑑みればお察しではあるが、確かに彼女を除いたところでことバンビーズに限っても、聖文字の能力はそれなりに暴威を振るい、制御不能な面が散見されるだろう。つまりは巻き込みがちということである。当然、聖文字なしで戦った場合の実力が低いバンビエッタなど併用しないと言うことはあり得ず、他の面々も戦闘状況次第といったところか。
逆に言えば、キルゲ・オピーはその聖文字の関係により、滅却師としての技能を極めているタイプであるがゆえに、聖兵を率いての戦闘がやりやすいという側面が強い。
ともあれブルーの質問に対し、ベレニケは少しだけ思案してから言葉を選んだ。
「僕は……、そうだね? 僕の隊の特色と言う訳でもないだろうが、
「完聖体もリルお姉ちゃんと相性悪いって言ってましたっけ」
「ああ、そうだね。だから、文字ばかり過信せずにというところではあるよ。とはいえ、早々に僕の“
かの特記戦力、更木剣八といえど僕の問答の前では無力に等しい!」
(こういうところが慢心でもあるんだろうなあ……。出来れば死んでほしくないけど、うん……)
ブルーの脳裏に描かれるのは、それこそ「原作」におけるそろそろ訪れるだろう当該時系列。つまりはベレニケが護廷十三隊十一番隊隊長・更木剣八と相対する場面。問答を開始して早々に喉を引きちぎられ、能力の発動も何もあったものではない状況に追い詰められると言う流れこそが、彼の最期。
血装自体が弱いと言うことも無いのは、時折訓練がてらに手合わせしていたこともあって知っているブルーだからこそ、そんな彼をいともたやすく殺し得る更木の異常性を理解できる。
しかし、ブルーは一つの事実を「天秤にかけている」。
ちらりと下を見れば、ブルーの顔を見上げて口元をへの字に結んでいたバンビエッタと視線が交差する。
「な、何よ? 次、私?」
「ううん。そうじゃないけどなんとなく」
「そう? ……ん」
先ほど含めて荒れているような普段の言動が鳴りを潜め、衆人がいるとはいえ多少はリラックスしているらしいバンビエッタ。頬を赤くしてから視線を逸らす彼女に苦笑いしつつ、彼は心の内の秤をまだ、傾けない。
そしてイチャつき始めた二人に引きつった表情を浮かべたベレニケは、角度的に頭上にあたるバンビエッタへ白目のような猛烈な鋭い視線を向けてニヤリと笑うジゼル・ジュエルに話を向けた。緊急避難として正解か失敗かはともかく、である。
「えっ次ボク? ボクはそうだな~、えっとねぇ…………、基本的には死体回収部隊、かなぁ? 巻き込まれないように適度に逃げながら、かいしゅー! ってね☆」
「死体回収?」
「うん。ボクの“
「うん。僕の鉤爪も、その応用でジジさん作ってくれたよね」
「そうそう、褒めて褒めて~!」
「はいはい」
ニコニコしてパタパタ足を上下させる姿は少女のようであるが、そのニコニコとした愛らしい笑みに若干獲物を狙う様な目が潜んでいるのを、ブルーは意識的に無視して頭を撫でた。位置関係的に頭上のジジへと睨むようなバンビエッタであったが、聖文字を使わずイライラしたままの様子。
(多分この後
「だからこう、素材がないと何もできないからって、この間の遠征でお試しでそう言う感じにしたんだけど、まあまあ悪くなかったかな? 虚のパーツは流石に使えなかったけどぉ、仲間の死体ならねー。みんな、泣きながら感謝してくれてたよ~!」
(それ本当に感謝かなあ……。このノリで仲間がバラバラに分解されて自分の身体になっていくのを見て情緒壊れちゃってるんじゃないかな…………)
毎度粉微塵に粉砕されて情緒がもうどうにかなっている男の、ごく常識的な意見である。意見であるが、彼は風見鶏を決め込むことが出来る男であった。要するに微笑んだまま頭を撫で、特に何もコメントは口にしないのだった。
そして我慢が限界になったのか「ちょっと撫ですぎよ!」とブルーの手をはねのけ、なんならジジもベッドから落とし、彼の両足を占領するバンビエッタ。どさりと落ちながら首が180度回った角度に落下したジジに「ヒッ!?」と裏返った悲鳴を上げるベレニケである。
なお「痛いなぁ~」と言いながらその場で立ち上がり、両手で首を「頭が360度回転する手品」のようにぐるぐる軽く回して回転して戻そうとするジジ。……なお方向が逆だったためにねじ切れ、さらにベレニケが悲鳴を上げることになるが割愛。
「もう、次あたし! あたしよ! バンビエッタちゃんの番なんだからねブルー!」
「うー、うん。じゃあ、どうぞ」
「あたしは……、んー、ミニーよりも一応、ちゃんと男女混合部隊? みたいになってるけど、規則とかはしっかり守らせてるくらい? うん。戦闘は、逃げ足が速い子を厳選して選んでるからちゃんと、あたしの“
褒めて褒めて、と言わんばかりにブルーへと喜色満面な彼女。そんな彼女の頭を苦笑いしながら撫でるブルーと、顔を背けて苦虫をかみつぶしたようならしくない表情をとるジゼル・ジュエルはともかく。
「子ってことは、女の人だよね? 厳選してるの。男の人の方は?」
「…………」
「バンビちゃん?」
「いや、だって…………、顔も能力も良いの、というか顔良いのみんな、なんか、寄り付いてこないし。みんなキャンディの方に逃げちゃうし……」
「(あっ)」
「(これだから頭バンビちゃんはさぁ~)」
自ら進んで死地へ赴く者はいないという只々歴然とした事実に、ベレニケとジジは遠い目をした。自覚があるのかないのかいまいち不明だが、日ごろの自分が為している言動がブルーを起点に明らかにされている以上、騎士団においては新米の一部聖兵くらいしかその事実を理解していない者はいない。
今日はまだ爆発していないが、これすら「まだ」であるという事実はある意味でベレニケにとって恐怖以外の何物でもない。ジジのように「あえて」火遊び(?)している方が狂っているのは当然として、何をまかり間違ってただひたすら何かあった時の癇癪の八つ当たり先として殺されるために周囲に侍ろういうのか。彼女が自発的に選んだ「顔の良い」相手と言うのは、つまりそういった理屈から積極的にバンビエッタを避ける傾向にある。
結果として彼女の率いる聖兵の男性は、部隊の女性の紹介かもしくは適当に選んだ相手に限られるのだった。
(これでも僕が騎士団入った時に比べると、ちゃんと女性兵士もまとめて組み込まれてるっていうのだけ進歩したのかな……)
「ま、まあ…………、とりあえず僕がいるからということで、ここはひとつ、ね?」
「ブルーが何かものすごいナルシズム溢れる発言をしているのだが……!」
「ミニーもバンビちゃんもキャンディちゃんも容姿は褒め続けてるし、ま、そういう自己認識にはなるかな~」
「いや別に否定はしないのだが、謙遜なくああ言い切られるのも何かこう、もやもやするというか……」
バンビエッタの機嫌をとるためにか、色々言葉を駆使しているブルーの姿は、果たして成長したとみるべきか、鈍化したとみるべきか。
ともあれ耳元で囁いたりと色々繰り返した結果「も、もうっ! そんなんじゃ、こう仕方ないわねぇ……」などと顔を赤くしつつ胸元をもじもじ弄っているバンビエッタの姿は愛らしく、それだけに謎の悪寒が背筋を這いまわって止まないベレニケであった。
なおこれより数日後。彼等から聞いた方針をもとに破面の聖兵たる部下と持ち前の不死身さ(?)で仲良くなったブルーであったが。
ユーハバッハとハッシュヴァルトにより借り受けられた部下たちは、ごくごく当たり前のように使い潰された上で殺され。
いつかのように妙に鋭い視線のままどこか苛立っているようなピリピリしているブルーに、彼の教育方針について少しばかり話を聞いたリルトット・ランパードがため息をつき。
「心とか痛まねェように育てようったって、痛まない訳ねェだろォが剃込禿野郎ォ……。だったら部下とか言って渡すんじゃねェよな、奴隷とか言っといた方がよォ」
「……リルお姉ちゃん?」
「ほらよ。ま、俺の食べかけだけど、何か甘いモンでも腹入れときゃ少し落ち着くだろ」
愚痴りながら、先ほどまで齧りついていた大き目のシュークリームを分けて手渡すくらいには、キルゲの作戦は上手くいっていなかったようだ。