雨中紀行〜sleepless rainy days 作:お茶会おじさん
雫side
巫女のお姉ちゃんと別れてアジサイの綺麗な公園に来た。今までの道も雨は降っていたけど、ここは特にだった。
心なしかアジサイに元気がない気がする。葉っぱや花がうなだれているように見える。「これじゃあ、すぐに枯れちゃうよ!」花たちがそう言っているような気もする。
あたり一面バケツをひっくり返したかのような水浸し。これじゃあお外で遊べない。そんな歌がどこかであった気がする。どこで聴いたんだっけな。
しばらく公園の中をうろついていると、黄色いカッパを着た、私と同じくらいの女の子がいた。何だか必死にお花の世話をしているみたいで思わず声をかけてしまった。
「ねえ、あなたはなにしてるの?」
「えっ!誰っ!?」
その子は振り向きながらそう言った。アジサイの髪飾りと黄色い合羽が水色髪に綺麗な女の子だった。
「私は阿波雫っていうの。あなたは?」
「わ、わたしは恵。みつはのめ恵。ここの管理を任されてる。」
「恵はここで何をしているの?」
「ああ、わたしはさっき降らせちゃった雨の後片付けをしてるの。さっき不審者が来てね、雨を降らせて撃退したんだ!」
「…⋯不審者ってどんな人?」
「男の人で、高校生ぐらいだったかな。黒い髪で傘を差した人だった。」
それってまさかお兄ちゃん…?いやいや、そんなことはないだろう…。自分のお兄ちゃんが不審者だなんて、あんまり考えたくないな…。でも、否定しきれないんだよね…。
「へ、へぇ~」
あいまいに濁した。
公園の端のほうにあった休憩所の中に二人で入り、あたりを見回してみる。柱のところどころに腐って黒く変色している部分があった。よく見ると、近くの植物にも傷んで腐っている葉っぱがたくさんある。
去年ヒマワリを育てていた時に、水をやり過ぎて根腐れさせてしまったことがあったけれど、ここまで元気がなくなることはなかったし、色が変わることはなかった筈だ。
「ねえ、なんでここ腐ってるの?」
「うーん。それはね…⋯まあ、話せば長くなるんだけど…⋯良い?」
「うん。もちろん大丈夫だよ。」
そこから恵はこんな話を始めた。
「わたしの苗字は弥都波能売(みつはのめ)っていうんだけど、これはわたしの先生から借りてる名前なの。わたしの本当の名前は闇龗(くらおかみ)恵っていって、雨の神様なの。
先生の名前は、弥都波能売 玲名っていって、同じ雨の神様だけどもっと全般的な水の神様でもあるんだ。で、わたしみたいな力の弱い神はより力の強い先輩の神様に弟子入りして『神様としての正しさ』っていうのを勉強するんだ。
弟子入りをするときには先生の名前を貸してもらってそこのグループに属する、みたいなことをするの。そうじゃなきゃほかの神様に取り込まれてしまったりするからね。」
「へー、そういうルールが神様にはあるんだ。」
話しているうちに恵の目に涙が溜まってきているように見えた。でも今はそれを堪えている恵のために、そのまま話を聞くことにした。
「あと、このあたり…⋯いやこの町が腐りかけてしまっているのはこの雨のせいなんだ。最近、あそこのヨモヤマに悪い気がでてしまって、それをなくすために山の向こうから『牛さん』を連れてきたんだけど、逆に悪いものに取り込まれてしまって、余計に悪いものが町に散らばってしまったんだ。
それを少しでも治すためって言って私の先生が、浄化の雨を降らせ始めたの……でも、先生まだ帰ってこないんだ……うっ」
雫は、涙を流し始めた恵の背中をさすりながら、山のほうを見た。悪い気があるようには感じられない。むしろ綺麗な力が山の中腹あたりに感じられる。この状態の恵には悪いけどすこし気になったことがあるので尋ねてみる。
「『牛さん』って何なの?それってお肉なの?」
「え、う、うん?食べれるかどうかは知らないけど、その『牛さん』は昔からこのあたりの人にとって大事な存在だったの。一年に一回山の向こうから来てもらって作物を育ててもらってたらしいんだ。
それでお仕事が終わったらおいしいものをたくさんお供えしてまた山の向こうの家に帰ってもらう、っていうことをしてたんだって。そしたら次の年も『牛さん』は来てくれるって。」
「へえ、そうなんだ…⋯。そんな話初めて聞いたよ。今まで知らなかった。」
「ああ、うんまあそうだろうね。あなたみたいな小さい子はこんな話を知らなくても生きていけるしね。」
「ふーん⋯⋯。ん?あれ?それって、どういう意味?」
「ああ、要するに、便利な時代になったなってことだよ。」
「…⋯ああ、そっちじゃなくて、私とあなたってそれほど身長変わらなくない?それなのに小さい子って…」
「あはは、なんたってわたしは神様だからね!」
恵は口を大きく開いて笑った。カラカラとした軽快な笑い方だった。涙は目じりについているだけになっていた。
そのあともくだらない話をしばらくしていた。話題が二つ三つ終わったところで雨がまた、強く降り始めた。
「あ、雨。また、ぶり返してきたね。」
「こんなに降ってくるなんて…⋯そろそろあなたは次の目的地に向かったほうがいいかも。」
「どうして?」
「んー。勘かな。特に理由はないよ。」
「そっか。わかった、行ってきます。」
「うん。行ってらっしゃい。また遊びに来てね!」
「またね!絶対来るよ!」
雫は歩き出した。
恵は宙に浮かんで傘をさしながらつぶやく。
「…⋯先生、どこにいるの…⋯?」
言葉は雨音にかき消され誰にも届かなかった。ただ公園のアジサイだけが言葉を静かに受け止めていた。
~しばらくして~
今更だけれど、考えるに、雨の降っている山の中を歩く、というのは自殺行為に近いことだと思う。
ぬかるんだ土、落ち葉がカーペットのようになっている斜面、木々の葉から滴り落ちる水滴。何度も転びそうになるし、水滴は体にあたってゆっくりと着実に体温を奪っていく。奥歯がカチカチとなり始めた。
「うう、こんなに寒い思いするんだったら長袖とか着てくればよかった…⋯あ、でも湿気で汗かいてもっと大変か。」
独り言ちながら超霊子砲を展開して進んでいく。幸い、この山は一定数の登山客がいるので道が舗装されているところもある。
そこなら、この球体を持っていても全然大丈夫だ。
確かもう少し登ったら神社があるんだっけ。そんなことを思いながら歩いていくとすぐに立派な神社が見えた。
「おお〜!」
雨のおかげか石畳に光が反射してキラキラとしていた。これこそ雨の日の素晴らしいところだ。ま、虹は出てないけど。しかしよく地面を見てみると石が砕けてヒビがはいったりボコっとした穴が開いていたりした。
「なんだろうこの穴…。誰かがさっきまでここにいたのかな?それにしても神社でこんな事するなんて、とってもダメな人なんだろうな!」
「へっぶしっ」
「どうした高砂、雨にあたって風邪でも引いたか?」
「いや、きっと誰かが俺のこと噂してんのさ。」
「自意識過剰で草。お疲れさまでした。」
「お前、もう一回痛い目見とくか?」
ま、いいや。早く頂上に向かおう。で、早く家に帰ってココアと一緒におやつでも食べよう。どうせならアイスクリームでも良いかもしれない。
神社を突き抜けて再び山道に戻った。
~そして、頂上~
「ふぅぅ⋯…まだだ、まだ足りない…⋯。いくら神を喰べても黄泉を喰っても物足りない、全く足りていない…⋯。山にいるのはあと五つ…⋯。腹を満たしてくれるだけの力を持っていてくれればいいのだが…⋯良いのだが⋯⋯。」
~そして、8合目~
「おいおいおいおい!どうしてんだよ!なんで黄泉への道が一切なくなってるんだよ!」
そこには深くえぐれた地面と瓦礫―――もともとは門の形をしていたのであろうものがまるで何かに食べれたかのように粉々になっていた。腐った雨水がたまり、土がぐちゃっとしたヘドロになっている。
「こ、こんな芸当ができる奴なんて俺は知らねぇぞ!?いったい誰が!?黄泉への道を喰うなんて普通の奴には………!」
~そして、6合目~
「あと少しで私の縄張りの岩があるから、いったんそこで休もう。」
「あい、わかった」
「ふん。いいだろう。」
「なんぜ、そんなに素直じゃないかねぇ」
「神の言うことなんざ信じられるかよ。」
「高砂、その話もう三回目だ。そろそろうざい。」
「あと少しで7合目だからね」
・・・
そして、各々の目的のために、生贄が五つ自分から集まったのだよ。楽しみだ。実に楽しみだ!
ごはんがおいしいかどうかは食材の状況が大きく関わる。フライにするかエスカルゴをメインにするか、はたまた生でいくか。楽しみだ。
あと少しで頂上